動物咬傷 〜ペットに咬まれたら〜


このページは、ヘビや寄生虫などの画像があり、気持ち悪くなるかもしれないので注意して下さい。
(僕もヘビは大の苦手、画像を選ぶのにかなり精神的ダメージを受けました)

 

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人畜共通感染症(以前は人畜共通感染症)というのは、その名の通り 「人と動物との間に共通する感染症」 のことを言います。WHO (世界保健機構)の定義によれば「脊椎動物と人との間で自然に移行するすべての病気または感染」と定義されています。脊椎動物ですから、その対象となるのは犬だけでなく、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれます。その原因となる病原体として、ウイルス、細菌、寄生虫などがいる。

 

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病原体(びょうげんたい)とは、病気を引き起こす微生物などを指す。ウイルスのようなものも含む。病原体によって起こされる病気のことを感染症という。

動物との接触、共生による感染

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病原体を持つ動物に噛まれたり触れたり、糞や体に触れることによって感染します。主なものに狂犬病(保菌動物に咬まれる)、サルモネラ症(サルモネラ菌に汚染されたカメとの接触)などがあります。

 
 

 

犬、猫、鳥、ヒト?・・・ペット様様、犬が服を着ている時代です。ペットってどんな病気を持っているのでしょうか?ペットに咬まれた時に対処法についてお話します。

犬(イヌ)

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ひさびさの登場、今は亡き三太君です。ちなみに三太は咬みません?が・・・小さい頃に犬に咬まれて、犬がトラウマになっている大人の人もいます。子供は頭や首などを咬まれ、恐怖心が頭から離れなくなるようです。大人は、主に手や足など四肢を咬まれます。動物咬傷8割は犬です。(13%ネコ 4%ネズミなど)犬の口腔内には、Capncocytophaga canimosus、Pasteurella multocidaというグラム陰性桿菌がいます。(ネコと共通)咬まれて、感染が成立すると(手は感染しやすく、30%ぐらい)12時間以内に腫脹します。脾臓摘出患者(液性免疫の親玉)は、敗血症になって重症化することがあり、注意が必要です。また、Toxocala canis(トキソカラ症)という寄生虫を持っています。犬といっしょに寝ているだけで移ります。(犬の糞で汚染された砂場などで卵を食べて感染)眼球感染で、眼底をみるとポツポツ瘢痕があって、自然に治っている場合も多いのですが、最悪、失明もあります。

犬の咬傷は、ネコに比べれば、感染は少ないとされていますが、傷が挫滅創になっているような場合は、念入りな洗浄とデブリ、破傷風予防が必要です。症例報告のレベルではありますが、犬やネコは汚い土を舐めているため、破傷風のリスクが報告されています。破傷風予防接種歴があれば、1回の予防接種でブースター効果がありますが、破傷風予防接種歴がなければ(50〜60歳代以上)破傷風グロブリン+予防接種をプライマリーシリーズ(3回接種)から始めなければなりません。動物園職員、消防士、ガーデニング 農夫などリスクの高い人は、10年に1回は予防接種をしておいたほうがいいでしょう。

もうひとつの問題は、狂犬病(ウイルス)です。日本国内では、人は1956年を最後に発生がありません。また、動物(猫)でも1957年を最後に発生がありません。現在、日本は狂犬病の発生のない国になっています。しかし、狂犬病は日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドなどの一部の国々を除いて、全世界に分布しまています。

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海外旅行をする場合、パッケージの観光地ツアーなどは心配ないと思いますが、個人でインドの僻地に旅行するような場合は、狂犬病の予防接種をしておいたほうがいいかもしれません。(効果は、3年ぐらい)狂犬病は、犬だけでなく、すべての哺乳類に感染することが知られており、外国では、あらいぐまや狐、コウモリなどにも気をつけなければなりません。海外、特に東南アジア等の流行国で狂犬病が疑われるイヌ、ネコおよび野生動物に咬まれたりした場合、まず傷口を石鹸と水でよく洗い流し、できるだけ早期に医療機関を受診して下さい。狂犬病は、人も動物も一旦発症すれば治療法はなく、ほぼ100%の方が亡くなります。感染動物に咬まれるなど感染した疑いがある場合には、その直後から連続したワクチンを接種(計6回皮下注)することで発症を抑えることができます。咬んだ犬が特定でき、犬を観察できる場合、受傷してから2週間以上、その犬が狂犬病の症状を示さない場合には、咬まれたときに狂犬病に感染した可能性を否定できます。(患者さんの検査により感染しているかどうかを調べることはできません)

輸入感染事例として、狂犬病流行国で犬に咬まれ帰国後に発症した事例が1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例あります。フィリピンから帰国後、京都で発生した症例は、2ヶ月半前に犬に咬まれていました。(潜伏期は1〜3ヶ月)狂犬病は、狂騒型(80%)と麻痺型(20%)と言われるタイプがあり、狂騒型では、極度に興奮し攻撃的な行動を示します。また、麻痺型では後半身から前半身に麻痺が拡がり、食物や水が飲み込めなくなります。恐水症、人格変化、高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんが起こります。その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。

 

 

猫(ネコ)

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ネコで有名なのは、Bartonella henselaeという細菌(バルトネラ症)による猫引っ掻き病です。発症パターンとしては、猫に引っ掻かれて、潜伏期3〜10日後に、所属リンパ節が腫脹することが多いが、その後、診断がつかなくても、筋肉痛などを伴いながら、数ヶ月で自然治癒します。稀に、だらだら微熱が続き、感染性心内膜炎になることもあるので注意が必要です。ネコに咬まれたり、引っ掻かれたりしなくても、猫蚤に咬まれて感染することもあります。

また、犬と共通して、口腔内には、Capncocytophaga canimosus、Pasteurella multocidaというグラム陰性桿菌がいます。咬まれると、犬よりも歯が鋭く、深い傷になり、歯も折れやすく、感染する危険性が高いと言われており(猫は傷があれば、舐められてもダメ)12時間以内に腫脹します。処置は、オープン創にして、3日間抗生剤(サワシリン1500mg)しています。黄色ブ菌や溶連菌の混合感染で2〜3日後に腫れてきます。(30〜80%)肝硬変、無脾症、アルコール中毒 ステロイド内服、リウマチ、糖尿病などの患者さんは、敗血症になって重症化することがあり、注意が必要です。予防は、手洗いと猫蚤の駆除ぐらいです。

また、Toxoplasma gondiiという寄生虫を持っており、伝染性単核球症の症状(発熱、咽頭痛、頚部リンパ節腫脹、肝機能異常)などで発症します。生ハムなども感染源となり、妊婦の初感染(Toxoplasma IgG陽性なら大丈夫)で先天性障害あり、妊婦のネコといっしょに生活しているだけで危険があります。

 

 

また、蜂毒と蛇毒は病院で治療される頻度の高い疾患です。

蛇(へび)

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ヘビに咬まれた場合、まずは、ヘビの同定が重要です。日本で見られる毒ヘビは、マムシ、ハブ(沖縄)ヤマカガシ(九州)の3種類です。最近は、ペットなどで飼育されている外国産のヘビもいますが、この辺りで出くわすのは、マムシです。見てマムシとわかる人はいいのですが(マムシってどんな虫?というような人もいます)

マムシの見分け方は、頭は三角形で、縦に細長い瞳孔、眼と鼻孔の間にピット(赤外線を感知して(温熱センサー)暗闇でも獲物を捉えることが出来る)折りたたみ可能なキバを持っているなど。毒のないヘビは、頭部は丸みがあり、瞳孔は円形(つぶらな瞳)です。

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ヘビの種類がわからない時は、咬まれた痕をみると、毒ヘビは、通常一つか二つの牙痕を残すのに対し、毒のないヘビの歯は複数の小さな並んだ傷痕を残します。マムシに咬まれても(牙痕がある)必ずしも毒液が注入されたとは決まったわけではありません。マムシに咬まれても、約25%の場合は毒液は注入されていません。(dry bite 毒液は、歯の先端ではなく、数mm手前の側溝から)

かまれた腕や脚は動かさないように軽く固定し、心臓より低くします。最近は、止血帯(毒は、リンパ管を流れるので、静脈圧(駆血帯ぐらいで十分))や傷口をカットするのは有害となる可能性があるので勧められていないようです。

もし、毒液が注入されていると、1〜2時間以内に、かまれた部位が、赤く腫れてきて、しばしば血が混じった水疱が生じ、皮膚はひきつってどす黒く変色してきます。数時間以内に脚や腕全体に影響を及ぼします。一般的に6~8時間は、医療機関に留まって症状の発現がないかを観察します。

治療には、解毒薬(馬の血清で中和します)の使用されます。解毒薬はなるべく早く静脈投与すると有効です。(6時間以内)しかし、高い頻度で血清病(皮内反応70%、アナフィラキシー20〜25% 事前にボスミン0.25ml皮下注 42%→11%に低減)を起こすので、日本の投与量では、その効果を疑問視する意見も多いが、裁判で判例もあり、どす黒く腫れてきた症例には、解毒剤の投与はしておいたほうが無難です。最近の解毒薬はヒツジの抗体断片を精製したもので、血清病は少なくなっています。マムシ毒は、血液が凝固するのを妨げ、血管を傷つけて血液を漏出させるため内出血(血小板減少)心不全、呼吸不全、そして腎不全(ミオグロビン尿)が引き起こされます。重症の場合、集中治療室での治療が必要となります。毒物や馬の血清による合併症の治療が行われます。血圧が下がっている場合は静脈から点滴を行います。血液凝固の問題が生じた際は、新鮮凍結血漿や濃縮凝固因子(クリオプレシピテート)、血小板輸血が行われます。

血清病とは、血液中に大量に入りこんだ異物のタンパク質に対する免疫系の反応です。ウマの血清は、解毒薬の多くに含まれる成分であり、毒ヘビや毒グモ、サソリに刺されたときに使用します。血清病の症状には発熱、湿疹、関節痛があります。まれに腎臓の損傷から死に至ることがあります。血清病は、ステロイド薬で治療します。

は虫類(イグアナ、亀、蛇など)は、自分の糞にまみれて、Salmonella属(非チフスSalmonella症 胃腸炎なしで発熱がメイン、敗血症で感染性大動脈炎を起こす)保菌しています。細胞性免疫不全患者(血液悪性腫瘍、HIV、ステロイド内服)は、ハイリスクです。

 

 

蜂(ハチ)

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ハチやムカデ、ダニなどの虫刺されの場合、多くはステロイド軟膏、NSAIDsなどの対症療法で事足りるのですが、ハチに刺された場合に、一番気をつけなければならないのが、アナフィラキシーです。日本でアナフィラキシーショックが原因で亡くなるのは、ダントツで、蜂です。アレルギーのある人は、1回目より、2回目、3回目と重症になることが多いようです。山へ行くときは、化粧は薄め、白い服にしましょう。(黒い服、花柄は控えましょう)

 

アナフィラキシーによる年間死亡者数

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                      (厚生労働省 人口動態統計)

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アナフィラキシーショック

まずは、ボスミン(エピネフリン)0.3mg 筋注(なるべく大きな筋肉 臀部か大腿外側)です。
10分様子をみて、良くならないようなら、再度 0.3mg 筋注します。

◎酸素投与     必要に応じて
◎輸液       リンゲル液(500〜1500ml)
◎ステロイド    ソル・コーテフ 500mg点注
◎抗ヒスタミン薬  アタP 筋注

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たまに、高血圧でβ遮断薬、α遮断薬、ACE阻害薬などを服用しており、ボスミン筋注が効きにくい人がいます。そういう場合は、グルカゴンの筋注(クリニックにはおいていない)が効果あります。ステロイドや抗ヒスタミン薬は、効果発現まで4時間以上かかります。一旦よくなったとしても、二峰性で症状がぶり返す場合(5〜33%)もあり、 最低でも4時間は経過を見て、原則は入院して経過観察です。(特に子供は、24時間)

 

外来に、蜂に刺されてから30分以上して来院され、局部の腫れと痛みだけだと、冷やして、ステロイド軟膏ぐらいでOKでしょうか。じんま疹ぐらいなら抗ヒスタミンで様子もみれます。しかし、アナフィラキシーを起こしているようなら注意が必要です。アナフィラキシーショックで、死ぬのはなぜでしょうか。ひとつは、喉頭浮腫です。喉の奥が腫れて、ゼロゼロ言っているようなら危険です。挿管の用意をしておきましょう。次に、喘息発作です。呼吸がしにくい、咳などの症状があれば、危険です。聴診するとヒューヒュー言ってませんか?。最後に、末梢血管が広がって、ショック状態です。顔や末梢が真っ赤になって、血圧が55/触診 脈120なんて言えば、緊急事態ですね。

緊急時の備え

疑わしい症状が見られた場合には、早めに処置を開始します。息苦しさや繰り返す嘔吐が、咳や腹痛、じんま疹よりも先に出現することもあり、それをアレルギー症状と気づくことが大切です。

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嘔吐を繰り返す、息苦しい、だるさ、眠気、顔面蒼白、冷や汗、意識レベルの低下が見られるときは、エピペンを注射し、直ちに救急車で病院に搬送しましょう。

 
 

 

アナフィラキシーの既往のある人又はアナフィラキシーを発現する危険性の高い人は、野外活動するときなどは、エピペンを携帯することをお勧めします。

効能/効果 蜂毒、食物及び薬物等に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療

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人(ヒト)

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右手中指MP関節に小さい外傷を診た時に気をつけなければないないのが、喧嘩によるものです。「転んだ」「壁にぶつけた」などと言い訳する場合が多いようですが、来院の遅れがヒントになります。怪我をしてもすぐには受診せず、平均3〜4日以後に傷の治りが悪くなってから来ます。拳を握った状態で、診察し、腱などが露出していないかよく観察することが重要です。頻度的には、30〜50%が人の歯が原因となったFight biteです。放っておくと、1週間して膿んでくる(臭い)ことがあり、原因菌は、Eikenella corrodens(歯周病菌)が多く、ブ菌や溶連菌、嫌気性菌などの混合感染を想定して、抗生剤を選らびましょう。

 
 

 

節足動物によって媒介・感染

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ノミ・ダニ・蚊などの節足動物が、病原体を持つ動物の血を吸うことによって体内に病原体を取り込み、次に他の動物や人の血を吸う時に病原体を媒介します。主なものにマラリア(ハマダラ蚊)ペスト(ノミ)、日本脳炎(蚊)などがあります。

 
 

 

マダニ

重症熱性血小板減少症(SFTS:Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus)

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SFTSウイルスは、2011年に初めて中国で分離、同定されました。今回、日本でも発見された患者さんもゲノム解析の結果、かなり以前から日本でも生息して患者さんもいただろうが、診断がつかなっただけだったようです。(平成25年12月現在、29名の感染者がいて、13名が亡くなっている)日本脳炎ウイルス(節足動物媒介感染症)などから推計すると1万人ぐらいの不顕性感染者が存在するかも知れません。マダニは家ダニや表皮ダニとは異なり、通常は野生動物(アライグマや狸など)の血を栄養源として野外で生息しています。患者さんの発生時期は、4月〜11月で、野外で咬まれて発症するケースがほとんどです。しかし、咬まれても痛みやかゆみがほどんどないため発熱や血小板減少、白血球減少といった臨床所見でしか見つからず、発熱者全員を疑えということも困難ですし、効果的な治療法もなく、お手上げ状態です。できることは予防ぐらいですが、昔のように野山を駆け巡って・・・というわけにはいかないようで、なるべく肌を露出しない、マダニは咬むまでは(腋の下や耳の裏、髪の毛の中、足の指など)体表面を数時間かけて動き回りますので、自宅に戻ったら、服を着替える、入浴することで咬まれるリスクを減らすことができます。マダニに咬まれた時にも無理矢理に取ることは避けて、皮膚科で局所麻酔で皮膚切開しきれいに取り除くことが重要です。(不適切な方法で取った場合は、発症率が挙がると言われています)