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「世界糖尿病デー」11月14日
糖尿病の予防と治療に対する啓発するために、姫路城がシンボルカラーである青にライトアップされました。姫路城も平成の大修理に入り(平成22年4月12日~平成27年3月末)しばらく見れなくなりました。

 
 
 
 ちなみに、11月14日は、糖尿病の治療に使用されるインシュリンの発見者フレデリック・バンティングさんの誕生日です。ちなみに、糖尿病は英語で、 Diabetes Mellitusと言いますが、これはギリシャ語が語源で「蜜のように甘い尿が常に出る」という意味です。



インスリンの構造

 
 
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藤原道長(966~1027)と、インスリンの結晶がデザインされています。藤原道長は、 源氏物語の主人公光源氏のモデルとしても有名ですが、日本の歴史において最初の糖尿病患者さんだそうです。「小右記」には彼が昼夜の別なく多量の水を飲んでいたこと、背中のおできがなかなか治らなかったこと、足の感覚が低下していたことが記載されています。

 

インスリンは血糖を下げる唯一のホルモンです。人類の長い歴史の中で飢餓を生き残ってきたDNAには、血糖を上げるホルモンが必須でありました。現代のような、糖質をたくさん摂る飽食の時代を迎えて、血糖を下げるホルモンが、インスリンしかなくて、困るような事態は想定外でした。

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インスリンは血糖値を下げる役割を担っています。インスリンは膵臓の中にある「ランゲルハンス島」という細胞の集まりから分泌されます。膵臓の中に点々と島が浮いているように見えるためこう呼ばれています。ランゲルハンス島の中にはB細胞といわれるインスリンをつくり、貯蔵している細胞があります。
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糖尿病は年々、増加の一途をたどっています。平成19年の厚生労働省の実態調査によると、糖尿病患者が約890万人、糖尿病予備軍が約1320万人と、合わせて2200万人を突破したことが分かりました。10年間で約1.6倍も増加しており、国民病として問題視されています。今や日本人の6人に1人、40歳以上では3人に1人が糖尿病とその予備軍ということになります。

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外食産業の隆盛、自動車社会の繁栄、外食産業の隆盛、社会構造の変化に伴う食べすぎ、アルコールの飲みすぎ、運動不足などの生活習慣の変化やそれらによって引き起こされる肥満の増加、ストレスなど、現代社会そのものが糖尿病を増やす生活習慣を生みやすい構造にあるからです。

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2型糖尿病

 

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発病の仕組み

もともと糖尿病になりやすい体質を持っている人に肥満、過食、運動不足、ストレスなどの環境因子が加わって発症します。 インスリンの分泌が足りなかったり、 分泌のタイミングが遅いために起こります。また、インスリンの量は十分なのに、効き方が弱い場合もあります。(インスリン抵抗性といいます)中高年で太った人に多いというのがまさにこのタイプの糖尿病ですが、最近は甘い清涼飲料水の摂りすぎで子供の糖尿病も増えてきており、問題となっています。

 

症状

血糖値が高くても、最初のうちは、ほとんど症状を感じることはありません。しかし、血糖の高い状態が続くと、のどが渇いたり、疲れやすくなったり、尿の量や回数が増えたりすることがあります。

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多尿
血糖値が高くなると、腎臓が血液中のブドウ糖を水分と共に尿として排泄しようと働くために、尿の量が多くなり、昼夜を問わずトイレに行く回数が増えるのです。は糖尿病でよくみられる症状です。

 

 

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のどの渇き
血糖値が高くなり、腎臓からブドウ糖と水分が尿として排泄されると(多尿)、体内の水分が足りなくなり、のどの渇きを強く感じるようになります。のどが渇くために水分をたくさんとり(多飲)、その結果、さらにトイレの回数が増えるという悪循環が生じます。

 

 

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だるい・疲れやすい
インスリンの働きが悪くなり、食事の糖質(炭水化物)をエネルギーに変換できなくなって、細胞がエネルギー不足になるために、疲れ・だるさを感じると考えられています。

 

診断

2010年に糖尿病の診断基準が新しく変更されました。HbA1c値が、血糖値と同等の扱いとなり、同時に測定が推奨され、その基準も6.5から6.1に下がっています。初回検査として、HbA1cと血糖(空腹時血糖、随時血糖、75gOGTT2時間値)を測定し、血糖値のいずれかとHbA1cの異常値があれば、初診の1回の検査で糖尿病を診断できるようになりました。つまり、より早く診断し、より早期での治療をとのメッセージの様です。(従来のように日を変えて、高血糖が慢性的に持続していることを証明するような診断基準は、確実ではあるが、再受診しない患者さんがたくさんいて、治療できていない糖尿病患者さんを増やす結果となっていたことも否めません。)

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75gOGTT
対象になるのは、糖尿病が疑われ、HbA1cが5.6~6.0%、空腹時血糖110〜125mg/dl、随時血糖140〜199mg/dlの方です。75gのブドウ糖が溶けた水を飲んでもらい、その後の血糖値や血中インスリン濃度の変動を調べます。この目的の一つとして、正常型、境界型、糖尿病型を診断することと、もう一つは、血糖が著しく高くない2型糖尿病の方で、インスリン抵抗性の評価とインスリン分泌能の推定を行うことです。

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明らかに糖尿病型である場合は、75gOGTTは不要です。
(1)空腹時血糖126mg/dl以上 または 随時血糖mg/dl以上
(2)HbA1c 6.1%以上
(3)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)
(4)糖尿病網膜症

境界型糖尿病

境界型と診断された人のうち、1/3の人はⅡ型糖尿病になり、1/3は境界型のまま、1/3は正常値に戻るという報告があります。ですから境界型糖尿病の人は、急に体重が増えたり、運動不足により糖尿病へと進行しないように、半年毎程度は定期的に血糖の経過を見た方がいいでしょう。また、動脈硬化に関しては、糖尿病に準じる状態と考えられているので、高血圧、高脂血症を含め、食事に加えて運動など、生活習慣を改善する必要があります。

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糖尿病は、血糖値、HbA1cの値、症状を調べて、その結果から診断されます。空腹時に測定した血糖値(空腹時血糖値)が126mg/dL以上、ブドウ糖を飲んだ2時間後に測定した血糖値(ブドウ糖負荷試験2時間値)または食事の時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上のいずれかに当てはまる場合、これを「糖尿病型」といいます。

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HbA1c(エイチビーエーワンシー)

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HbA1cは、血液中の赤血球にある酸素を運ぶヘモグロビンにブドウ糖が結合したものです。これらは一度結合すると、120日間はそのままの状態であるため、過去1~2カ月間の血糖値の平均を反映します。たとえば受診した日の血糖値が正常でも、HbA1cの値が高ければ、過去1~2カ月間の血糖コントロールは良くなかったことになります。血糖値とともに血糖コントロールの状態を知ることができる、代表的で大切な指標です。

 



HbA1cのJDS値(Japan Diabetes Society)と国際基準NGSP値(National Glycohemoglobin Standardization Program)
HbA1cの値は、世界の中で日本だけ違った基準を使用していました。したがって、国際間のデータ比較時に数値の補正が行われないままに使われたり、数値が違いが基で日本抜きで国際共同研究が進んだりする可能性があるため、国際的に整合性を図る必要から国際標準化に向けて変更されることになりました。

 
新しいHbA1cの値への換算(2010年7月1日から)

HbA1c(国際基準値)= HbA1c(JDS値)+0.4

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冬は血糖コントロールが難しい季節です。年末年始は生活リズムが崩れやすく、会食の機会が増えたり、寒さのため運動不足にもなりがちです。年末年始の血糖状況が反映される2〜3月のHbA1cが最も高くなります。

2型糖尿病の病態

図の左側に示すように「インスリン分泌能低下」と「インスリン抵抗性増大」のいずれかまたは両方によって「インスリン作用不足」が惹起され、初期にはまず「食後高血糖」、進行すると「空腹時高血糖」が起こってくる。
持続する高血糖による「糖毒性」により、さらにインスリン分泌能低下とインスリン抵抗性が進行・悪化する「悪循環」を呈することになる。



合併症

糖尿病は、万病のもとと言われるのは、高血糖がもたらす合併症が怖い病気を起こすからです。合併症の種類はいろいろありますが、大きく二つのグル-プに分けることができます。一つは 糖尿病でなければ発症しない、「糖尿病の特徴」ともいえる合併症で、高血糖によって体内の細い血管が傷めつけられて(細小血管障害)起こります。もう一つのグル-プは糖尿病があると発病頻度が高くなり、進行も早くなる病気で大血管障害(動脈硬化症)です。糖尿病の治療目的はこれらの合併症の発病を防ぐことです。

SU剤とインスリンの治療の時代の大規模臨床試験で、血糖降下に伴い細小血管障害の抑制が得られることが明らかにされています。わが国の熊本スタディでは,HbA1C値6.5%を境に細小血管障害が増加することが、今日の治療目標値設定の根拠となっています。

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また、英国のUKPDS33、34スタディでも、同様の結果が得られています。また、最小血管障害が予防には、血圧のコントロールも大事であることもわかりました。しかし、10年の観察期間では、大血管障害(心筋梗塞脳卒中など)は予防できないことが課題として残りました。(UKPDS80 20年後には強化療法群で有意に全死亡、心筋梗塞を抑制した。(legacy effect))
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その後、チアゾリシン系、グリニド系、超速効型インスリン、持続型インスリンなどの製剤が出てきて、厳格に血糖をコントロールすることで大血管障害が予防できるか検討されましが、ACCORD試験、ADVANCE試験、VADT試験では、大血管障害が予防できなかっただけでなく、ACCORD試験では、強化療法群で有意に死亡率が高く、試験が中止されてしまいました。その原因は、十分解明されていませんが、重症低血糖が多かったためではないかと言われています。

ACCORD試験 糖尿病の長期予後 全死亡が22%増加
米国およびカナダの77施設が参加した大規模ランダム化比較試験。

P:2型糖尿病患者(HbA1c中央値8.1%、1万251例(平均年齢62.2歳)35%は心血管疾患の既往
E:血糖,血圧,脂質の厳格な管理
C:血糖,血圧,脂質の通常管理
O:心血管イベントを予防しうるか

試験開始から1年後のHbA1c中央値は厳格群6.4%,通常群7.5%で,その後もこのレベルは維持された。試験途中で厳格血糖管理群(以下、厳格群)の死亡率が通常血糖管理群(以下、通常群)のそれよりも有意に高値であることが明らかになったことから、血糖管理に関する検討は当初の予定よりも17か月早く中止された。

中止までの平均3.5年間の経過観察中に,一次エンドポイント(非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,および心血管死亡)は厳格群の352例(6.9%),通常群の371例(7.2%)に発生し,厳格群のほうが少ない傾向にあったが有意差は認められなかった〔ハザード比(HR)0.90,95%信頼区間(CI)0.78~1.04,P=0.16〕。全死亡は厳格群257例(5.0%),通常群203例(4.0%)で,厳格群のほうが有意に多かった(HR 1.22,95%CI 1.01~1.46,P=0.04。心血管死亡も厳格群のほうが有意に多かった(HR 1.35,95%CI 1.04~1.76,P=0.02)

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患者背景,低血糖,使用薬剤などについて解析が行われているが,これまでのところ厳格群での全死亡の増加を説明できる因子は見出されていない。低血糖については,治療を要する重篤な低血糖は,厳格群10.5%,通常群3.5%で,厳格群で有意に高頻度に発生し(P<0.001)いずれの治療群でも重篤な低血糖が発生した患者は死亡リスクがより高い傾向にあったが、重篤な低血糖が発生しなかった患者の死亡率は厳格群が高かったが,発生した患者では通常群が高かった。

ADVANCE試験 大規模ランダム化比較試験。

P:2型糖尿病患者(大血管障害または細小血管障害の既往,もしくは血管危険因子を有する高リスク)1万1,140例
E:厳格血糖管理 平均HbA1cは、厳格群6.5%
C:通常血糖管理 平均HbA1cは、通常群7.3%
O:大血管障害および細小血管障害を予防しうるかどうか

一次エンドポイントは,おもな大血管障害(心血管死亡,非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中)および細小血管障害(腎症あるいは網膜症の新規発症または悪化)から成る複合エンドポイントとした。一次エンドポイントの発生率は厳格群18.1%,通常群20.0%で,厳格群が有意に低値であった〔ハザード比(HR)0.90,95%信頼区間(CI)0.82~0.98,P=0.01。おもな大血管障害および細小血管障害から成る複合エンドポイントを10%減少させ,この減少には腎症を21%減少させた。

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ACCORD試験とADVANCE試験の結果の差は何に由来するのか?異なっていた血糖降下薬レジメンと血糖降下パターン、体重増加だった。ADVANCE試験では、グリクラジド徐放剤をベースとした治療で、ACCORD試験では、インスリンの使用が多かった。厳格管理群の血糖降下(HbA1c低下)のペースは、ACCORD試験では割り付けから4カ月で絶対減少が1.4%と大きかった。一方、ADVANCE試験では、割り付けから12カ月までで0.6%減少と、血糖降下は緩やかだった。厳格管理群の体重増加は、ACCORD試験が3.5kg、ADVANCEでは0kgで、ACCORD試験では10kg 超の体重増加が27%に見られた。一方、ADVANCE試験の厳格管理群の平均体重は、標準管理群に比べ0.7kg多かっただけだった。今後、薬剤の組み合わせ、血糖降下パターン、体重など併存する危険因子などに基づいて、検討が必要であろう。

 

ACCORD試験の教訓を受けて、2012年、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)は、厳格血糖管理一辺倒から患者の病態や背景に応じて、治療を個別化することが重要であると、かつてのEBM重視とは180度の方針転換したわけであるが、プライマリケアレベルの実臨床では、低血糖の対応に限らず、すべての疾患について、患者を社会的な存在と考えて、医学的な判断だけでなく、患者の好みや価値観、認容性をに確認し、患者と一緒に治療法を決定していくことが当たり前にやられています。

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患者の治療に対する態度、意欲が高ければ厳格、低ければ緩やかに。
低血糖のリスクが大きければ緩く、低ければ厳格。
罹病期間が短ければ厳格に、長ければ緩やかに。
予想される余命が長ければ厳格、短ければ緩やかに。
重大な併存疾患が少なければ厳格、多ければ緩やかに。
すでに診断された血管合併症がなければ厳格に、あれば緩やかに。
社会的な支援に恵まれていれば厳格に、乏しければ緩やかに。

 

糖尿病治療の良し悪しを評価するのに従来、空腹時の血糖値が重視されてきました。ところが、近年の研究で動脈硬化の進行のしやすさは食前の血糖値よりも食後の血糖値と密接な関係があることがわかってきました。同様のことは日本での調査(舟形町研究)でも確かめられています。動脈硬化は糖尿病が軽い段階から進んでいるのです。

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糖尿病網膜症

目が見えなくなると言うことは大変なことで、仕事内容を変えざる得ないどころか日常生活を普通に暮らすためにも避けなければならない合併症です。我が国における後天性の視覚障害の原因の第1位を占め、毎年3000人以上が糖尿病網膜症で失明の危険にさらされています。糖尿病網膜症は、5~10年で全糖尿病の方の50%程度に、20年で80%以上の方に発症が見られます。画像の説明

 

網膜は眼底にある薄い神経の膜で、光や色を感じる神経細胞が敷きつめられ、ものを見るために重要な役割をしています。

糖尿病網膜症の分類

糖尿病網膜症は、進行の程度により大きく三段階「単純網膜症」「増殖前網膜症」「増殖網膜症」に分類されます。単純網膜症が発現するまでは、糖尿病発症から1~20年(平均5〜10年)かかりますが、単純網膜症から前増殖網膜症へは2~3年で進行し、前増殖網膜症から増殖網膜症へは1~2年で進行するとされています。

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(1) 単純網膜症

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最初に出現する異常は、脆くなった細い血管の壁が破れて小さな出血をおこしたり(点状・斑状出血)部分的にふくれたり(毛細血管瘤)蛋白質や脂肪が血管から漏れ出て網膜にシミ(硬性白斑)ができたりします。これらは血糖値のコントロールが良くなれば改善することもあります。この時期には自覚症状はほとんどありません。

 



(2) 前増殖網膜症
単純網膜症より、一歩進行した状態です。細い網膜血管が閉塞すると、網膜に十分な酸素が行き渡らなくなり、足りなくなった酸素を供給するために新しい血管(新生血管)ができてきます。この時期になるとかすみなどの症状を自覚することが多いのですが、全く自覚症状がないこともあります。前増殖糖尿病網膜症では、レーザー光線を当てる網膜光凝固術を行う必要があります。

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光凝固(レーザー治療)

(3) 増殖網膜症
進行した糖尿病網膜症で重症な段階です。新生血管が網膜や硝子体に向かって伸びてきます。新生血管はもろいために容易に出血を起こします。硝子体に出血すると、視野に黒い影やゴミの様なものが見える飛蚊症と呼ばれる症状を自覚したり、出血量が多いと急な視力低下を自覚したりします。また、かさぶたのような線維性の膜(増殖組織)が、網膜を引っ張って網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こすことがあります。張ってきて、これが原因で網膜剥離を起こすことがあります。この段階になると、手術を必要とすることが多くなりますが、手術がうまくいっても日常生活に必要な視力の回復が得られないこともあります。この時期になると血糖の状態にかかわらず、網膜症は進行してゆきます。特に年齢が若いほど進行は早く、注意が必要です。

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硝子体出血

画像の説明 画像の説明               牽引性網膜剥離

 

さらに増殖網膜症が進むと、新生血管が、眼球の前方にある毛様体や虹彩にまで伸び、そこでも増殖膜を作り、これが隅角をふさぐと、眼圧が上昇し、「血管新生緑内障」を引き起こし、手術のかいなく、失明してしまう人がいるのが現状で、治療に難渋することは必至です。

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糖尿病黄斑症

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網膜の中で視力に直接関わっているのは黄斑部という網膜の中心部で、黄斑部に網膜症が発症するか(糖尿病黄斑症)または網膜症が重症化して硝子体出血や牽引性網膜剥離が発症しない限り、患者は原則として視力低下などの自覚症状を生じません。よって、初期には全く症状がない場合が多く、気づかないうちに進行していきます。ある日突然、「目の中に黒い影やゴミの様なものが見える」「真っ赤なカーテンがかすんで見える」などといった訴えで眼科を受診した時点では、かなり進行していることが多く、初めて糖尿病であることがわかるという人もよくあります。

 

糖尿病眼手帳

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糖尿病診療においては内科と眼科の連携がとても重要ですが、実際の診療ではなかなか難しいのが現状です。たつの市では、糖尿病と診断された患者さんのうちで、眼科に紹介されているのは30%に過ぎません。そこで、当院では「糖尿病眼手帳」を活用しています。糖尿病の診断時に眼科に紹介しても、眼科の先生に「異常なし」と言われると、ああ大丈夫なんだと勘違いして継続して受診が出来ていない患者さんもおられます。この手帳には、視力や網膜症の進行具合とともに次回受診の時期も記載されますので、受診忘れの予防にもなります。

 

糖尿病性腎症(蛋白尿)

1個の腎臓に100万個の糸球体があり、血液から体に不要な老廃物を濾しとって尿を作っています。(実際は、簡単には説明するのが難しいのですが、とても精密に出来ていて、150Lの原尿が濾過されて、その後尿細管にて体に必要な水分、アミノ酸、ブドウ糖、電解質、 ビタミンなど99%が再吸収され、尿として体外に捨てられるのは1.5Lになります)

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尿に糖が出るのとアルブミンが出てくるのでは、雲泥の差があるのです。糖(ブドウ糖)は、 分子量180、大きさ約500pm、 アルブミンは、 分子量66000、大きさ約3〜8nmです。つまり、パチンコ玉とソフトボールぐらいの大きさに違いがあります。 糖(ブドウ糖)は、腎臓(糸球体)の網目より小さいので、尿に出ても当然ですが(実際に、糖は一旦、濾過された後に尿細管で再吸収されていますが、糖尿になるとたくさん出過ぎて、再吸収が間に合わない)アルブミンが尿に出てくるということは、糖尿病性腎症と言われる病態で、腎臓の網目(糸球体)が壊れてきていることを表します。

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シックデイ・ルール

糖尿病の患者さん(特に高齢者)が他の病気(かぜ、嘔吐下痢など)で食事がとれなくなった時にどうするか?
一番、注意することは「脱水」です。無理して食べる必要はありません。水分や塩分のあるみそ汁やスープ、カリウムの多い果汁などがよく、それらをあまり冷たくない状態にして、ゆっくりと少しずつ飲みます。食べたいものやできれば、炭水化物を主体にした消化吸収のよいものを食べましょう。飲み薬は、食べた分だけ飲みます。半分食べれば、半分の量です。しかし、高齢者で薬の管理の難しい場合は、食べれなかったら飲み薬はすべて中止してもらっています。但し、インスリンは突然中止するとケトアシドーシスを起こす場合があり、食事が全く取れなくてもいつもの半分は打つべきだと言われています。(速効型、超速効型は異なる)

 

どこまで自分でみるか?

専門医の先生への紹介のタイミング、自分でどこまで見るかという見極めは大切です。まず、1型糖尿病と高浸透圧高血糖症候群、糖尿病ケトアシドーシスは紹介が原則です。また、糖尿病の患者さんが妊娠する可能性が高い女性の場合も前もって専門医の先生にお願いして老いた方が無難ではないでしょうか。最後に血糖のコントロール不良が続く場合(HbA1c>8.0が6ヶ月以上続く)については、患者さん背景からどこまでひっぱっているねんという患者さんがたくさんいることは否めません。

1型糖尿病


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子供(3歳〜10歳頃)に多く、突然に発症し、急速に悪化するのが特徴。インスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島のB細胞がなんらのの理由(自己免疫反応と言われている)で突然に破壊されるのが原因です。かぜに似た症状で始まり、喉が渇いて飲み物を何度も欲しがったり、トイレに頻繁に行ったり(小さい子どもの場合はおもらしの回数が増えたり)、疲れてゴロゴロしているといったことです。また、急にやせてきたり、著しい高血糖とケトアシドーシス※のために昏睡に陥ることもあります。糖尿病全体の数%程度です。

 
 
 
 
 
 
 著しい高血糖、尿ケトン体陽性、脱水
 


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糖尿病とがん

2006年の厚生労働省の研究から、糖尿病患者さんは、一般の人に比べ20~30%ガンになりやすいことがわかりました。男性は肝臓ガン、腎臓ガン、すい臓ガン、結腸ガン、胃ガンの順に多く、女性は卵巣ガン、肝臓ガン、胃ガンの順に多く、卵巣ガンは2.4倍とリスクが高いこともわかりました。

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糖尿病とがんとの関連が報告される中、2013年に日本糖尿病学会と日本癌がん学会の合同による「糖尿病と癌に関する委員会」が、日本で行われた8研究を解析し、糖尿病患者ががんにかかるリスクは、糖尿病でない人の1.2倍だったと報告しています。がんの種類別で見ると,肝臓がん(1.97倍)膵臓がん(1.85倍)大腸がん(1.40倍)の順に高いことなどが分りました。一方,乳がんや前立腺がんでは、リスクの増減は示されませんでした。また、糖尿病とがんに共通する危険因子として,加齢,男性,肥満,低身体活動量(運動不足)不適切な食事,喫煙・過剰飲酒が挙げられた。特定の糖尿病治療薬によるがんリスクとの関連は限定的として、良好な血糖管理による利益を優先した治療が望ましいとしている。

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治療

糖尿病が強く疑われる人のうち、「治療を受けている人」の割合は、男性 65.9%、女性 64.3%であり、年齢別の検討では、特に40代の男女で糖尿病が強く疑われる人が半分しか治療を受けいていない、働き盛り、子育て世代で自分の健康は二の次になっている現状が見て取れます。

治療 男

治療 女

 

いつから経口血糖降下薬を始めるかは結構難しい問題です学会のガイドラインにおいてもどのくらいから薬を始めるかというようなことははっきり記載がありません。以前は、SU薬中心の時代は低血糖リスクもあったので、3ヶ月間は食事と運動で経過をみようとか2型糖尿病の80%は食事と運動でよくなると言われていたので、最初から薬を使わないことが推奨されていましたが、最近は、低血糖が起こりにくい新しい薬が出てきたので、比較的早い段階から開始しても構いませんという風潮になってきました。特にHbA1cが8.0以上の場合は、食事、運動指導と同時に薬物治療も開始している場合が多いと思います。

では、最初になにを処方するかですが、日本糖尿病学会の基準では、どの薬も第一選択薬になっていてどの薬を最初に使ったらいいのかわれわれ非専門医にはわかりません。

糖尿病治療薬

ADA/EASD(米国糖尿病学会/欧州糖尿病学会)のPosition Statementでは、禁忌でない限りはメトホルミンとなっています。わかりやすいですよね。血糖降下作用が強く、低血糖のリスクがほとんどない、体重も減少する、コストも安価、そして、経口血糖降下薬の中で初回治療2型糖尿病患者に対する総死亡率減少のエビデンスがあるのはメトホルミンだけです。昔からあったにも関わらず、副作用で乳酸アシドーシスが多いとされてほとんど使われてなかったのですが、実際の頻度は、年間10万人に3症例程度で、禁忌な人に使わなければぼとんどゼロで心配ありません。(乳酸アシドーシスがおこった報告はすべて禁忌症例)です。SU薬による低血糖昏睡の危険性の方がよっぽど怖いんです。

メトホルミン

臨床の現場で、メトホルミンの副作用で問題となるのは、乳酸アシドーシスではなくて消化器症状です。悪心、嘔吐、食欲低下、下痢、腹部膨満感などが起こりやすいので、投与開始時は少量(500mg分2朝夕)から投与することがポイントです。消化器症状がないのを確認しながら増量、シックデイの時は中止します。

このガイドラインではαGI製薬は、効果が弱く、消化器症状の副作用があり、1日3回食前との理由から除外されてしまっていますが、日本ではまだまだ炭水化物の摂取も多いこと、低血糖を起こさない、体重を増やさないなどの利点もあり、使える薬だと思います。グリニド製剤もSU薬と同じくくりに入れられていますが、SU薬よりも低血糖リスクは低いし、夕食前だけ飲むなど第2選択、第3選択薬になり得る薬と思います。