僕が漢方薬を使うきっかけになったのは、開業して父から処方された漢方薬がどうしても必要だと言い張った数人患者さんがいたことと外来中心の開業医の診療体制において「かぜ」をいかに楽しく診るかという迷題?に突きつけられた故の苦肉の策として必然的な結果でありました。
漢方とは、もともとは中国で試行錯誤され、中国4000年の歴史(漢方については2000年)といわれてきた中医学が、5世紀頃に日本に伝わった後は、独自に発展した医学であり、本場の中医学とは全く別物であり、蘭方(西洋医学)に対して漢方と呼ばれました。「黄帝内経」「神農本草経」「傷寒論」などほとんど読んでいない、にわか漢方医ではありますが、私なりに勉強した範囲で処方し、劇的に効いて、喜んで頂ける患者もおられ、非常に重宝しています。
西洋医学と東洋医学の違い
あくまでも僕のイメージですが、PCのOSの違いのように、計算など情報処理の得意なWindows(西洋医学)とファジーでお絵かきの得意なMacって感じでしょうか。わかったような、わからない・・・。
西洋医学では、体を臓器別に分解し、さらに細胞レベルや受容体、遺伝子まで、徹底的に研究されて、単一有効成分としてのお薬が、ピンポイントで処方されます。しかし、どれくらい人間の体、病気が解明されたでしょうか。実際は、1%もわかっていない?わからないことだらけですよね。西洋医学を勉強してきた立場から薬物治療をすることが多いわけですが、どちらが優れているかというよりは、いいとこ取りができないか試行錯誤しているわけです。病態を十分に把握できない場合は、西洋薬と漢方薬を併用することもよくあります。抗生物質しかり、ステロイドしかり、エキス剤は効果はマイルドです。発熱や自覚症状改善に役に立ったり、胃薬として、副作用の予防として、縁の下の力持ち的な補填としての使い方も臨床としてはありかなと思っています。
それに対して、漢方では、人間は心身一如(心と身体は一体である)であり、分解できないひとつのものとしてとらえて、 投与するお薬に対する反応もひとりひとり異なるブラックボックスとし、投与した体の反応(結果)を予想して処方します。漢方薬は、生薬(植物、動物、鉱物などの様々な作用をもつ天然物を厳選したもの)を長い時間をかけて、大勢の人々に処方し、その経験から安全性と有効性が認められた特定の配合比率で生薬をブレンド(組み合わせ)したお薬のことです。
松阪(松阪牛で有名)へ旅行したときに、松阪城に行って本居宣長(もとおりのりなが1730〜1801)記念館に立ち寄りました。日本史の教科書では、国学者で古事記伝を書いた人として習いましたが、生計を立てるために医者でもあったようです。いろいろやってみたが、なにもうまくいかん。まあ、医者でもやってみるかという時代で(断っておきますが、本居宣長は医者をするのはもったいない方です)当時、松阪町の人口は9878人で医者は35名いたそうです。後世方の漢方医でよく流行っていたようで、本職である学問が出来なかったとありました。車はおろか、自転車も電話もない時代ですから、医者を呼びにくる家族も大変ですが、医者も大変で遠く伊勢まで歩いて往診していたようです。飴薬の効能書き残っていました。現在でいう小建中湯に近い方剤でしょうか、六味丸や気剤などを好んで処方していたようです。

「医者は最初の3年で医学に驚愕、畏敬の念を持ち、次の3年で医学に夢を持ち、次の3年で自分の能力と医学に絶望する」これは、小説家に転身した渡辺淳一の自戒の言葉です。(彼の感性には共感するとところが多く、ほとんどの作品を読んでいます。訃報を聞いた時は(平成26年4月)とても残念でした)僕も医者になりたてのころは、内視鏡も冠動脈カテーテル治療もとてもおもしろく、なんでも来い、やったるでという感じで意気揚々としておりました。病院に勤めていた時代は、胃潰瘍や肝臓がんを見つけたり、心筋梗塞の治療をしたり、自己満足の世界にどっぷりと浸かっておりました。しかし、開業して思うことは、本当に患者さんを助けたと言えるのは、救急現場での一部の命だけで、治る患者さんは自分で治って行くし、治らない患者さんは治らないということです。局所の病態を正確にとらえる診断学としては、東洋医学よりも明らかに西洋医学が優れています。しかし、病態が解明され、治療法が確立されている疾患はわずかです。慢性疾患の8割に対してはほぼ対症療法に終始しているのが現実です。ただ、診断がつけば疾患の経過を予想できるし、治ろうとしている力を邪魔はしないようにすることはできるでしょう。CTやMRI、粒子線治療、遺伝子治療などの最新の医学を用いれば、全てが解決するということはありません。いろいろ調べてもよくわからないなあという患者さんに毎日遭遇します。診断がつかなかったら、薬も出せませんよね。そういった時に「異常ないですね」「様子みましょう」ではなくて、患者さんの訴えに素直に向き合って、漢方的な診察をすることで、その「証」からとりあえずは、治療を始めることができるので、どこかに落としどころの糸口を見つけられるのです。漢方は、一歩退いて、もう一つの眼を与えてくれたような存在です。
目次
八網(はっこう)(寒熱 表裏 虚実 陰陽)
僕の漢方治療は、開業してから目覚めたので、誰か偉い先生に師事したことはなく、全くの独学のなんちゃって漢方医なので、ちょっとした思い違い、曲解などがあるかもしれませんが、そのあたりはあしからず。
さて、漢方における患者の診断(「証」を決める)において、漢方特有の語句の説明は避けて通れません。みなさんが漢方の参考書を開いた瞬間に、見なかったことにして、漢方の勉強をあきらめてしまう最も大きな壁でもあります。僕の場合は、八網(はっこう)の表裏、寒熱、虚実と気血水(きけつすい)の概念は頑張ってくらいつきました。ここまで我慢すれば、なんとかなるものです。また、四診のうちの脈診、舌診、腹診をちょっとかじった程度で、六病位の概念は、西洋医学でもなんとなくわかるし、五臓などは、あまり理解してなくても大丈夫なものなのです。
八網や六病位、四診などの概念は、急性疾患であるかぜ症候群での処方(方剤)がわかり易いと思います。漢方でいう「証」とは、西洋医学でいう診断ですが、体の状態を見たままに表します。たとえば、正月に温泉旅行に行って、屋外のちょっと離れた露天風呂で雪見酒などを飲んで、体の表面がぽっかぽかに暖まった状態は「表熱」ですが、宿への帰り道に湯冷めなどしてしまって体の表面が冷えている状態は、「表寒」と表現します。それで、冷たいビールを飲み過ぎて、下痢をすると体の中が冷えている状態は裏寒となります。簡単ですよね。とりあえずは、一つの具体例を提示しながら、説明していきましょう。
今朝から悪寒戦慄あり、39.5度の発熱。全身の関節痛、筋肉痛あり、発汗無し。まさにインフルエンザ様症状です。
さて、この患者さんの診断は、西洋医学では、まさに「インフルエンザ」の典型ですよね。では、漢方での診断は、どうでしょうか?診たまま、聞いたままの状態を「証」で表すのが漢方流です。
八網(表裏、寒熱、陰陽、虚実)で、患者さんの状態を二項分類します。
◎寒熱(冷えているか熱しているか)
◎表裏(病態が体表に近いか否か)
◎虚実(闘病反応が劣勢か優勢か)
◎陰陽(プラスかマイナスか)
陰陽については、六病位で、少し出てきますが、実は、もっと大きな概念です。難しければ理解しなくてもOKです。
2x4で八綱です。
寒熱 患者さんの自覚症状を優先して診断します。39.5度の熱があっても37度であっても数字は関係ありません。「悪寒戦慄」つまり寒気を訴えられているので「寒」です。37.0度でも熱い、体が火照っていて氷枕をして気持ちがいいようであれば「熱」です。
寒証(赤みが弱い) 熱症(赤味が強い)
表裏 患者さんの症状がどこで起きているか、体の表面に近いところか(表=皮膚や関節など)もう少し奥か(裏=胃、腸、肺)というわけです。(ちょっと???でしょうか)悪寒戦慄は皮膚であり、関節痛、筋肉痛などと同じく「表」です。咳、痰、食欲不振などの症状が出てくれば「裏」と診断します。ちなみに、口腔が苦いなどという場合に「表」でもいいんですが、胃が悪い時に起こりますよね。「半表半裏」と診断したりします。
虚実 病原体に対する闘病反応が劣勢か優勢かで診断します。汗をかかず、高熱が出ている場合は「実」です。乳幼児は、よく高熱を出しますよね。肌をさわってもサラッとしています。まさに「実」ですよね。僕ら中年になってくるとあまり高熱はでないで、すぐにじわっと汗ばんでしまいますよね。「虚」です。また、その人の中庸(ベストコンディション)から今の体の病態がどうなっているかの方向をみます。風船が膨らんで破裂しそう(過剰)は、実で排除する方剤を、風船がしぼんでしまった(不足)は、虚で、補充する方剤を処方します。
実証(有り余っている)← ← 丁度いい → → 虚証(足りない)
陰陽
日本には四季があります。「春」という季節は、陰から陽に入れ替わる季節なのです。陰陽の概念は、あまりにも大きすぎてわかりにくいのですが、世の中には、陽があたるところがあれば、必ず影もできるわけです。昼と夜、男と女、明るい人と暗い人、硬いと柔らかいなど、世の中のすべての事象が、プラス/マイナス=ゼロになっているという考え?です。体の中も交感神経と副交感神経があるように、お互いがバランスを保って恒常性(ホメオスターシス)を保っているわけです。自然界で陽気が増えてくると、体も陽気が増えて、活発化していくわけですが、そのバランスが崩れると「気」の異常がおこりやすいわけです。五月病とかホームシックとかありますよね。
六病位
六病位は、病気のステージ分類です。一般に急性疾患(かぜ症候群など)は陽証から始まり,陰証へと移行する傾向があるので、時間経過で判断しています。この症例は、悪寒戦慄があり、まだまだこれから熱が上がる前で、かぜの超急性期であり、皮膚、関節、筋肉などの体表の症状(頭痛、発熱、悪寒)であれば太陽病期(表)です。
胸から上腹部の症状(咳、痰、食欲不振、嘔吐)なら少陽病期で,かぜをこじらせてしまったような状態に一致します。次に熱が身体にこもり,熱を発する時期は陽明病期と呼ばれ、小腸から大腸の症状(強い口渇や発汗,便秘)などがみられます。病気が長引き抵抗力(元気)が落ちてくる太陰病期では、温熱産生が低下しお腹が冷えて(裏寒)腹痛,腹満,下痢などの腹部症状を呈するようになります。次の少陰病期になると冷えは全身に及び、すぐにでも横になりたいような全身倦怠感を訴えて手足は冷たく脈も細くて弱いものになります。さらに病状が悪化し、死期が迫っていったん良くなったかにみえて急変するような時期を厥陰病期といいます。かぜではここまでは行きませんが、いずれも内臓の冷えが原因でおこる症状です。ちなみに慢性疾患では既に陰証の状態と判断しますが、慢性疾患の急性増悪の場合は、陰陽が入り混じって判別しにくい場合があります。
四診
四診は、(望→聞→問→切)の順で行いますが、西洋医学と似ています。普通は、望→聞→問までで、診断できるので(証を確定できる)切までは、必ずしもする必要はありません。望聞問で、表裏や寒熱がよくわからなければ、確認の意味も含め切診を行います。四診は、望→聞→問→切の順番で優先順位があることは気をつけなければなりません。だから、見た目が一番重要なんです。たとえば、問診で胸が苦しい感じがあると胸協苦満を訴えていたら、腹診で胸協苦満が見られなくても胸協苦満ありと判定して、柴胡剤の証とします。つまり、切(腹診)より聞→問診が優先されるわけです。反対に問診で胸協苦満がなくても腹診で胸協苦満を認めれば、胸協苦満ありと判定しても差し支えありません。但し、禁忌の所見がないことが条件ですので注意が必要です。もし望診(舌診)で赤くて乾燥した舌が見られたら、柴胡は乾いた人には禁忌なので問診や腹診で胸協苦満を認めても柴胡は使えません。西洋医学でも、見た目の印象って、大事ですよね。特に小児などは、見た目の重症感を敏感にキャッチする能力が試されますよね。
漢方での診察を「四診」と言います。まずは、「望診」体格や態度、舌の状態を診ます。次に「聞診」声や咳など(正直にお話しすると、
はこれはあまりやっていません)「問診」西洋医学といっしょですね。いろいろと症状などお話しを聞かしてもらうことです。最後に「切診」脈をとったり、お腹をさわったりして診察することです。
望(ぼう)は「視診」(舌診も含む)
聞(ぶん)は「聴診」
問(もん)は「問診」
切(せつ)は「触診」(脈診、腹診を含む)
僕のレベルで診れる所見は、四つです。
正常です。
舌は、綺麗な淡赤色で、なにもついていません。
風邪の初期(太陽病期)だと「表証」に近いです。
舌に、苔がついています。
すでに風邪が表から裏に入ったという証拠です。
風邪は、咳、痰が出て、食欲も減退(陽明病期)「裏証」です。
「舌苔」=裏熱
舌に歯形がついています。
「歯痕」=水毒
「口渇」を訴える場合には、原因が2種類あります。
ひとつは、上に書いた「歯痕」=水毒(水の偏在)によるもので、生薬としては利水薬を使います。
もうひとつは、「熱」「燥」で、脱水による口渇です。
舌の裏の紫色の静脈が太くなっています。
「舌下静脈の怒張」=瘀血(おけつ)
お手を拝借! 一本締め。手相は?ではありませんが、じっと脈などをとっていると患者さんは怪訝な表情をされ、舌を診て(お腹まで触ると)風邪ごときでここまでしっかり診てもらったと感激されてしまうこともあります。でも、これで方剤が絞れれば、かぜも楽しいものなんですね(自己満足ですが・・・)
手首の脈は、寸関尺脈に分けられ、それぞれが五臓に対応しています。例えば、右手首、中指に触れるのは「脾」であり、六君子湯などが頭に浮かぶということらしいですが、私には全くわかりません。僕の場合は、片手で、せいぜい表裏、寒熱の判定使うのが関の山でしょうか。
脈が浮いている(触れるだけでわかる) 表
脈が沈んでいる(ぐっと押さえないと触れない)裏
脈の緊張感がなく、押してすぐつぶれる 虚
脈の緊張感があり、押してもつぶれない 実
腹診
お腹を見る時は、腹部の緊張をとるために膝を曲げてみることが多いですが、東洋医学では、腹直筋の緊張もひとつの所見なので、足を伸ばして腹診を行います。腹診にはリラックスが大切です。
まずは、見た目の虚実(前述の八網のひとつ)の判定として、肋骨角が広い=実、肋骨角が狭い=虚と考えます。腹診は、望→聞→問だけでは診断出来なかった場合(「証」がわからなかったり、迷ったり)漢方特有の所見があるかどうかを確認することが目的です。主な所見としては、胃内停水、正中芯、腹直筋緊張、少腹急結、胸脇苦満、臍傍悸などがあります。詳細については、後述の処方に交えて説明します。
気血水(きけつすい)
漢方では、気血水という3つの循環要素が身体を巡って調和を得ていると考えられています。その流れが滞ったり逆流したり、量が足りなくなったりすると病気になると考えます。「水毒」は、水が偏在している状態で、浮腫とは少し違うのですが、足に普段はないはずに水分が偏在しているとも捉えられるので、西洋医学でもなんとか理解可能は範囲にある概念ではないでしょうか。「気」も目には見えないエネルギー的な感じで、ドラゴンボールのカメハメ波は気の塊ってイメージでしょうか。最も分かりにくいのは「瘀血」です。一部、血の道などという言葉でも表現されますが、治療的診断で判定することが多いでしょうか。
「気」
患者さんがいろいろ訴えられて、血液検査や胃カメラやCTなどの検査をしても所見がないと、患者さんはつらい症状がとれていなくても「異常ないですね」と簡単に言ってしまうと、気のせいでしょうか?と嫌な雰囲気になります。病気は気からともいいますが、その気とはちょっと違います。「気」という概念ですが、西洋医学にはない考え方なので(最も漢方らしい)わかりにくいですが、強いて言えば、元気、やる気、気力、気合いって感じでしょうか。気は身体を維持するエネルギーのようなもので目に見えませんが、全身にまんべんなく均等に分布していればいいのですが、気の異常には「気逆」「気鬱」「気虚」があります。これらが単独である場合は少なく、大抵の人はこれらを併せ持っています。
- 「気逆」気が頭の方に上がる状態を言います。いわゆる「カッとなる」という感じで、頭痛、顔面紅潮、動悸発作、イライラ 怒りっぽい、冷えのぼせ、嘔吐、激しい咳嗽などを呈すると考えられています。腹診で臍傍悸を認めます。
- 「気鬱」気が滞る、塞いでいる状態で、気滞とも呼ばれます。を言います。 喉の閉塞感(食道神経症、ヒステリー球)心下痞硬 抑うつ傾向、情緒不安、胸満感、腹満感などを訴えます。
- 「気虚」気が足りない、失せいている状態を言います。消化吸収から起こるので食欲不振があり、体がだるい、疲れやすい、気力がない、下痢 音声無力、かぜをひきやすい、日中から眠くなるなどの症状がでます。「血」
機能的な「気」中腔臓器の攣縮 口から胃、大腸、気管支、
精神的な「気」
「血」
血液というよりは、栄養分(女性の血の道)を指します。
- 「瘀血」 血の巡りが悪くて血のうっ帯している状態で、眼輪部の色素沈着 口唇紫色 頭痛 のぼせ、月経障害などの他、さまざまな精神神経症状を呈します。腹診で、小腹急結を認めます。しかし、瘀血の診断は難しく、駆瘀血薬を使って治るのが瘀血と考えます。臨床的には、難治性疾患、慢性疾患に多く、また産後などに起こってくる疾患では必発です。ただ、瘀血だけ単独でということは少ないので、気鬱や水毒、寒熱に絡んで存在することがポイントです。
- 「血虚」 貧血ではありません。血の巡りが悪くて栄養が体の隅々までいきわたっていない(栄養障害) 褥瘡、爪の菲薄化 赤切れ 皮膚につやがない(透析中など)などを呈します。
「水」
水はH2Oではありませんが、血液以外の水分(体液)を指します。水も、全身にまんべんなく均等に分布していればいいのですが、水毒は、水が余っている水中毒だけではなく、水の分布がうまくいってなくて、水の偏在している状態です。例えば、二日酔いの場合、顔とか手がパンパンにむくんでいますが、喉が渇きます。つまり西洋学的には、サードスペースには浮腫があり、血管内は脱水ありとなります。水は尿・汗・唾液・胃液・関節液・胸腹水など血以外のさまざまな水性成分を指し、その失調によりいろいろな症状を呈します。内耳性のめまいなどは水毒症状と考えられています。
これらの「気血水」の「気虚」「瘀血」「水毒」なども「表裏」「寒熱」と同じように、東洋医学の診断です。状態を表している「証」です。
西洋医学での診断は「かぜ」「慢性肝炎」「胃炎」などの病名をつけますが、漢方での診断は「証」といいます。「証」は診断といいましたが、病名という意味ではなく、患者さんの状態であり、体のバランスのゆがみを表すもの、方剤(薬)を選択する指標となるものであります。ここが、漢方で一番わかりにくいところでもあり、一番大事な概念でもあります。
五臓
五臓六腑は、中国最古の医学書とされる「黄帝内経」の五行説に書かれいます。「五臓」とは、肝・心・脾・肺・腎、「六腑」とは、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦を指します。これらの臓器の意味は、西洋医学の解剖学とは全く異なります。東洋医学は、人体の五臓六腑を五行に配し、人体の各部分の相互関係や生理学的、病理学的な概念をも含めて表しているそうです。
心:エネルギーを配る 意識レベルと関係 舌に開く(経絡)
肺:呼吸(気)を取り込んで、気を巡らせる 皮膚の維持と関係 鼻に開く
肝:精神活動 自律神経 循環制御と関係 目に開く
脾:消化吸収機能 食べることでエネルギーを補充する(後天の精)口に開く
腎:先天の精(持って生まれてくる) 成長、生殖、思考 判断。耳に開く
書いている自分自身がよくわかっていませんが、持って生まれてきた腎の先天の精は、無尽蔵にあるわけではないので、いずれなくなってしまいます。脾は、食べることで消化吸収してエネルギーを体に取り込んで、心や肺、肝で全身に分配して、また腎に蓄えるというイメージで憶えましょう。
望聞問とこれら四診などから得られる所見を統合して、患者さん体の状態、すなわち「証」を割り出すのです。診断はつきましたか?
さて、この患者さんの脈はよく触れて、若いせいもあり緊張感もありました。舌も赤く、白苔はついていませんでした。外からの攻撃に対し、四つに組んで対抗しています。「証」は、「実」「表寒」と診断します。実証、表寒証、太陽病期の方剤は、麻黄湯となります。
麻黄(マオウ)
麻黄 マオウ科麻黄の地上茎
辛 微苦 温 瀉 散
発汗解表 表を温める(発汗 利水消腫 解表)平喘止咳 気管支痙攣の解除
守備範囲 表の水を瀉する(強制排水)
発熱、悪寒、関節痛を伴う感冒で無汗のもの 麻黄は、湿家(体表に水が溜まっている人)に用います。表を暖めて汗をかかせる生薬(解表)ですが、多彩に作用を持っており、桂枝と組み合わすと発汗作用(表に水を捨てる)附子と組み合わせるとさらに発汗し、石膏と組み合わすと全く反対の止汗作用(表の水を裏に引き入れて捨てる)として働きます。杏仁と組み合わせると鎮咳作用、薏苡仁と組み合わせると止痛作用となります。摩訶不思議なのが、漢方であります。
漢方では「証」がきまると方剤(薬)が決まります。これを方証相対といいます。なんちゃって漢方医の私が実践している、この「証」があったらこの「生薬」「処方」という手掛かりを赤枠で惜しげもなく?披露していきます。
「腹直筋緊張」があれば「芍薬」
「胃内停水」があれば「六君子湯」
「正中芯(臍上)」があれば「人参」
「臍下不仁」「正中芯(臍下)」があれば、腎虚→「補腎薬」
黄耆=寝汗
「胸脇苦満」があれば「柴胡」
「往来寒熱」があれば「柴胡」
一方で禁忌も重要です。
柴胡 乾いている人 舌診で見ます。赤く乾いていたら柴胡は禁忌です。ただ、シェーグレン症候群は唾液がでなくて乾いているわけで例外です。体が乾いているかが問題です。
生薬について
ツムラさんの下敷きを見ていると、なんでこんなにたくさんの漢方処方があるんだろうと思ってしまいますが、これらは、保険適応になっているものだけで148種類あります。明の時代には7万処方もあったようなので、僕の知らない漢方処方は山のようにあるわけです。現代まで長い年月をかけても淘汰され、必要最小限として残っているんでしょうね。漢方薬の本場、中国、韓国などでは、西洋医師と漢方医師は、医師免許が異なるようですが、日本では、医師免許さえあれば、漢方薬を処方することは可能(実際に9割の医師が、なんらかの漢方薬を処方したことがある)ですし、鍼治療もできるようです。しかし、風邪だから「葛根湯」腰痛だから「牛車腎気丸」という病名漢方のような処方の仕方では、当たるも八卦当たらぬも八卦で、なぜ効いたのか、なぜ効かないのかもわからず、加持祈祷のたぐいと変わりませんね。
もともと漢方薬は、長い年月をかけて現場で培われてきたわけで、昔々、多くの人が桂枝をかじっていると体が温まってきて、悪寒が取れて、頭痛もとれて風邪が早く治ったという経験が積み重なっていきました。かぜを引いた時には、体のあちこちが痛かったり、胃の調子もおかしくなったりしていたので、さらに芍薬や胃を守る生薬(生姜、大棗、甘草)を追加したほうがより体の調子がよいということで、桂枝湯という方剤ができあがっていったわけです。傷寒論という教科書の一番最初に紹介される処方です。桂枝湯は、最も頻用される生薬のベスト5で構成されており、漢方薬の基礎中の基礎と言われる処方です。ちなみに、漢方エキス製剤のなかで一番構成生薬が多いのは、防風通聖散と五積散で18生薬のブレンドです。
虎の巻?(漢方をいかに勉強するか)
西洋医学を勉強して来た者にとって、漢方的な概念(八網や気血水など)を理解することは大きな障壁となります。たとえ、頑張ってある程度理解できるようになったとしても、いつまで経っても門前の小僧のごとく、実際の臨床に役に立っているとは思えません。確かに、西洋医学では太刀打ちできない病態に対して、漢方的な診断(八網の表裏、寒熱、虚実や気血水や脈診、舌診、腹診など)をちょっとかじっていういるとなんとなく時間稼ぎはできますが、試行錯誤の上でもがくことは、患者さんには迷惑なことですよね。特に慢性疾患で、長期に患っているような症例は難しく、3〜4処方あたりをつけてみて自分の引き出しがなくなったら、相生の萩野晴彦先生(はぎの内科クリニック)に紹介して答えを教えていただいています。
漢方薬を上手に使いこなすために、最小限の努力で最大限の効果をあげる近道は、生薬の主な働きを理解して、患者さんの症状(証)から、それに効く漢方薬(生薬を組み合わせ)を生薬から思い浮かれるべようになることです。いくらツムラの手帳に書いてある漢方薬名と保険病名を丸暗記したとしても何時まで経っても下敷き処方の域から先の上達は望めません。さらにその上の東洋医学の認定医程度のレベルを目指す(現在の僕のレベル)には、生薬の薬能、薬性、守備範囲を理解しなてはなりません。漢方薬を処方する病態「証」を保険病名ではなくて、原著(日本語訳でOK)からイメージできれば、黙って座れば、ピタリと当たるという域の先生方のように、漢方での”一発診断”ができるようになっていくようです。(まだまだ修行が足りませんが・・・)
ツムラエキス剤
〜湯 味も香りも効果のうち、吸収が早い。熱湯で溶かす。
〜丸 吸収が遅く、徐放効果ある
〜散 吸収が遅く、湯で抽出されにくい成分あり。
子供に投与する時は、砂糖やハチミツなどを混ぜてもOKです。
よく出てくる重要な生薬については、別途処方に交えて紹介しております。
茵蔯蒿(インチンコウ) 寒 利胆
黄耆(オウギ)マメ科キバナオオギの根 甘 微温
気が衰えた時に使う(元気な人には使わない)
補気 止汗 止血 排膿消腫 寝汗
守備範囲 表の水(気を補うことで、水を去る)
黄芩(オウゴン) シソ科コガネバナの根 苦 寒 燥 瀉
清熱瀉火(裏熱をとる)煩熱して出血 心煩 心下痞
主治 腹痛 嘔吐 下痢 鼻血
守備範囲 胸(気鬱=熱が篭もった) 手足の先の煩熱を治す
黄柏(オウバク) ミカン科キハダの樹皮 苦 寒 燥 瀉 降
皇帝が着ている服を染める。(虫に食われない)
黄疸が出て、発熱して下痢
守備範囲は、胸部〜腹部
黄連(オウレン) キンポウゲのオウレン科の根 苦 寒 燥 瀉
心中煩して、心下痞
胸騒ぎがする 鳩尾が詰まった感じ清熱瀉火(裏熱をとる)
主治 腹痛 嘔吐 下痢 鼻血 不眠
守備範囲 お腹、心下部(気鬱=熱が篭もった)
何首烏(カシュウ)
葛根(カッコン)
栝楼仁(カロニン)
甘草(カンゾウ)マメ科カンゾウの根 裏 清熱排膿 鎮痛 補脾和胃 緩和薬性 主治 脱水(水の保持)
乾姜(カンキョウ)ショウガ科ショウガの乾燥根 熱 補 辛 散
生姜を干したもの(生姜に比べ、発散性は減じるが、温熱作用増強)
お腹を温める 嘔吐に使う
寒を去る 守備範囲は裏(胸部〜腹部)
桔梗(キキョウ)桔梗 キキョウ科キキョウの根 苦 辛 平
虚痰 排膿消腫 清熱
枳実(キジツ)ミカン科ダイダイの未熟果実 苦 酸 微寒
気を巡らせて通す 破気消痞(鳩尾のつかえ、痛みをとる)
守備範囲 心下部
杏仁(キョウニン)バラ科ホンアンズの種子 苦 温
気が上がって咳が出る 胸中の水をとる 平喘止咳 潤腸通便
荊芥(ケイガイ)シソ科ケイガイの花穂 辛 微温
外的要因のぬぐって解表(表を開く)
桂皮(ケイヒ)
膠飴(コウイ)イネ科イネ、コムギ、オオムギの種皮を除いた種子麦芽汁で糖化し濃縮したもの カンロ飴?のような
紅花(コウカ)キク科ベニバナの花弁 「血」の「散」
最も強力な駆瘀血剤 血腫につかう。腫痛
守備範囲は、全身
香附子(コウブシ)カヤツリグサ科ハマスゲの根茎 辛 平
気を巡らせる
粳米(コウベイ) 滋潤
厚朴(コウボク)モクレン科ホウノキの樹皮 苦 辛 温
気を巡らせる、逆上したものを元にもどす降気除満 燥湿
守備範囲は心下部
牛膝(ゴシツ)湿を去る 下腿部
呉茱萸(ゴシュウユ)ミカン科ゴシュユの未成熟果実 辛 苦
お腹を温め、気を下げて、湿を除く。
五味子(ゴミシ)収斂(散る水を収める)
守備範囲は、表、鼻、管
柴胡(サイコ)セリ科サイコの根 苦 微寒
胸脇の清熱(裏熱をとる)ストレス緩和 往来寒熱 胸脇苦満 鬱々としている 鳩尾から鎖骨ぐらいまで。抗炎症剤
守備範囲は、裏(胸部〜気道の気鬱)
細辛(サイシン)ウマノスズクサ科ケイリンサイシンの全草 辛 熱 散
裏(肺)を温める 乾かす
山梔子(サンシシ)アカネ科クチナシの果実 苦 寒 瀉 降
熱くなっているものを冷やす 清熱瀉火 昇った「気」を降ろす
心中煩熱 充血 黄疸
守備範囲は、胸部〜腹部(気逆は、首から上も)
山椒(サンショウ)熱 散 お腹の動きを活発にする
守備範囲は、腹部
酸棗仁(サンソウニン)クロウメモドキ科サネブトナツメの種子 甘
虚労虚煩、眠るを得ず(不安感があり寝られない)
山薬(サンヤク)
地黄(ジオウ)ゴマノハグサカ科ジオウ根茎 甘 温
補血 滋陰清熱 乾きを去る 守備範囲は全身
芍薬(シャクヤク)ボタン科シャクヤクの根 裏 血虚(補血)脚の痙攣(抗痙攣)腹中急痛(止痛)
車前子(シャゼンシ)
生姜(ショウキョウ) 散 温める(発汗、制吐、鎮咳)裏 香り
水の動揺を鎮める(胃の水を発散させる) 守備範囲(心下部 腹部)
小麦(ショウバク)イネ科コムギの種 喉の渇きを止める 潤す
升麻(ショウマ)キンポウゲのサラシナショウマの根茎 甘 辛 微寒
発疹を促して表に出す
辛夷 モクレン科タムシバの蕾 辛 温
筒状(鼻)の中に詰まっている取り除く
石膏(セッコウ)硫酸カルシウム 甘 辛 大寒
清熱専門 潤す
守備範囲 表の水
川芎(センキュウ)セリ科センキュウの根茎 辛 温 散 補血(血虚)
主治 血虚による腹痛 頭痛(守備範囲 少腹、頭)
血や気を巡らせる 外的要因のぬぐって痛みをとる 血行
蒼朮(ソウジュツ)キク科ホソバオケラの根茎 発汗 水湿を除去
口渇して小便不利 四肢疼痛 心下逆満 浮腫(水の偏在→利水)
守備範囲 裏 四肢の利水薬
蘇木(ソボク)駆瘀血剤
蘇葉(ソヨウ)シソかのシソの葉 辛 温
発汗解表 気を巡らせる お刺身のつま
大黄(ダイオウ) タデ科ダイオウの根茎 燥(乾かす方向へ)
主治 実 瀉下(便通) 鎮静 駆瘀血(血行) 清熱
裏にこもった熱を捨てる
大棗(タイソウ) クロウメモドキ科ナツメの果実の果肉 甘 裏
補気(胃を守る)安神(精神安定)緩和薬性(処方をまとめる)滋潤
沢瀉(タクシャ)利水清熱 利水薬
眩冒(頭がボ〜とする)小便不利
釣藤鈎(チョウトウコウ)アカネ科カギカズラの茎 甘
猪苓(チョレイ) サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核 利水薬
下痢、膀胱炎(守備範囲は下)
陳皮(チンピ) 理気化痰
冬瓜子(トウガシ) 排膿 瀉下
蘇木 駆瘀血剤
当帰(トウキ) セリ科トウキの根 辛 温 散
主治 血虚による腹痛 不正出血(瘀血の解除) 皮膚炎(かゆみ、膿みなど皮膚病)
補血(血虚) 気滞 守備範囲は、少腹 皮膚
桃仁(トウニン)バラ科モモの種子 駆瘀血剤 「血」の「散」
少腹痛(生理も含め原因を問わない)
人参(ニンジン)
麦門冬(バクモントウ)ユリ科ジャノヒゲの塊根 微苦 微寒
袪痰止咳 清心 除煩
咽喉不利(喉があたりに痰が絡んで調子が悪いところに潤して治す)
薄荷(ハッカ) シソ科ハッカの地上部 辛 涼
発散させる。すっきりさせる。
半夏(ハンゲ)サトイモ科カラスビシャクの根茎
痰を除去 制吐
守備範囲 鼻から気道 食道 胃などの水を捌く(喉が渇いていないことを確認)
茯苓(ブクリョウ) 利水 補脾建中 安神寧心
口渇して小便不利(守備範囲 上半身の水) めまい 動悸
附子(ブシ)附子キンポウゲ科トリカブトの塊根 熱 散
水をさばく 痛みを止める とても冷えている &color(,yellow){裏};を強く温める 止痛(四肢痛)
守備範囲は、四肢
脈が沈の時に使います。
防已(ボウイ)ツヅラフジ科オオツヅラフジの根茎
水の偏在 止痛 皮膚の表面の水(守備範囲 表の水)皮膚の表面が締まりが悪く、じっとりと湿っている感じ。
芒硝 硫酸マグネシウム 硫酸ナトリウム
主治 瀉下 清熱 駆瘀血 潤(潤す方向へ)
腹部の気鬱をとる
防風(ボウフウ)セリ科ボウフウの根茎 辛 甘 微温
外的要因のぬぐって解表(表を開く)
守備範囲 表の水
牡丹皮(ボタンピ)キンポウゲ科ボタンの根皮 清熱涼血 活血化瘀「血」の「散」
駆瘀血剤 少腹痛(生理も含め原因を問わない)
牡蛎(ボレイ) 精神安定 補陰 止汗
少腹痛(生理も含め原因を問わない)
麻黄(マオウ)マオウ科マオウの地上茎
木香(モッコウ)
薏苡仁 イネ科ハトムギの種子 甘 微寒
利水排膿(水いぼ)
竜骨(リュウコツ)
連翹(レンギョウ)モクセイ科のレンギョウの果実 苦 微寒
清熱解毒
(五十音順)
神農本草経において、生薬を上品(じょうほん)中品(ちゅうほん)下品(げほん)に分けられています。上品は、作用が穏やかで、毎日食べても副作用がほとんどない食品に近い命を育むようなもの(ニンジン、カンゾウ、ヨクイニンなど)中品は、病気に対する抵抗力をつける薬で、上品よりは作用が強く、続けて服用すると、時に副作用がでます。(カッコン、シャクヤクなど)下品は、作用の強く、切れ味の良い生薬で、急病で、症状が強いときに使います。毒性があるため、長く飲み続けると、体に害をおよぼします。(ブシ、ハンゲ、ダイオウ、ボウショウ、マオウ、セッコウなど)上品と組み合わせて使うと、副作用を軽減します。漢方を当たるも八卦当たらぬも八卦で使っていると、証が外れて効かないというのはまだいいんですが、下品は、適応でなくても効いてしまうので恐いのです。下品を使う場合は、よく見極めて使いましょう。
薬性
また、漢方薬を選ぶ上で、禁忌を踏まないコツとして、その生薬の薬性を頭にいれておくことも大切です。八網のように二項分類して、補(人参など)・瀉(麻黄など)/熱(乾姜など)・寒(柴胡など)/潤(地黄など)・燥(牛膝など)/昇(升麻など)・降(山梔子など)/散(辛夷など)・収(五味子など)と表現されています。虚の人にさらに瀉する生薬を使わない、乾いている人にさらに乾かすような生薬を選ばないなどです。
表を暖めて汗をかかせる生薬(解表) 桂枝 麻黄 蘇葉
裏を温める 附子 細辛
胃を守る 生姜 大棗 甘草
利水剤 猪苓 沢瀉 白朮 蒼朮
滋潤作用 粳米 大棗 甘草
排便作用 大黄 山椒 地黄
清熱薬 黄連 黄芩 黄柏 山梔子 石膏 知母 麦門冬
気逆 竜骨 牡蛎 山梔子
気虚 人参、黄耆、甘草、大棗
気鬱 厚朴、紫蘇葉、香附子
血虚(補血) 当帰 川芎 芍薬 地黄
瘀血(駆瘀血)牡丹皮 桃仁 紅花 大黄
補血 川芎 当帰
◎生薬の五味
酸(すっぱい) ものを収斂する 五味子など
苦(にがい) 熱をとる 固める 黄連など
甘(あまい) 緊張を緩める 潤す 甘草 酸棗仁 大棗など
辛(からい) 温める、発散する 細辛など
鹹(かん:しょっぱい) 和らげる 牡蛎など
よくある症状と生薬の組み合わせ(約束処方)
桂枝&茯苓 気の上衝(のぼせ、ふらつき めまい 動悸)
苓桂朮甘湯 桂枝茯苓丸 柴胡加竜骨牡蛎湯 牛車腎気丸 八味地黄丸 十全大補湯 五苓散
半夏&細辛 咳 痰 鼻水
小青龍湯 苓甘姜味辛夏仁湯
柴胡&黄芩 胸脇苦満
小柴胡湯 大柴胡湯 柴胡桂枝乾姜湯 柴胡加竜骨牡蛎湯 柴胡桂枝湯 五淋散 慈陰降火湯 慈陰至宝湯
黄連&黄芩 下痢 心煩 不眠 吐血 鼻血
三黄瀉心湯 黄連解毒湯 半夏瀉心湯
半夏&生姜 嘔気 嘔吐(口渇がないことを確認)
小半夏湯 小半夏加茯苓湯 半夏厚朴湯 小柴胡湯 大柴胡湯 柴胡加竜骨牡蛎湯 柴胡桂枝湯 竹如温胆湯 六君子湯 釣藤散 苓甘姜味辛夏仁湯 半夏白朮天麻湯
枳実&厚朴 心下部の痞え
大承気湯 小承気湯 麻子仁丸 潤腸湯 通導散
大黄&芒硝
大承気湯 調胃承気湯 大黄牡丹皮湯 桃核承気湯 通導散 防風通聖散
桃仁&牡丹皮 少腹痛
桂枝茯苓丸 大黄牡丹皮湯
当帰&川芎 血虚による少腹痛 補血
当帰芍薬散 四物湯 温経湯 女神散 当帰飲子 疎血活血湯 十全大補湯 温清飲 大防風湯 抑肝散陳皮半夏
蒼朮&附子 四肢痛
桂枝加朮附湯 真武湯 大防風湯
桂枝&麻黄 解表(発汗) 「表」の確認は浮脈
麻黄湯 葛根湯 小青龍湯 よくい仁湯
芍薬&甘草 脚の痙攣
芍薬甘草湯 葛根湯 小青龍湯 桂枝湯 桂枝加朮附湯 四逆散 柴胡桂枝湯 加味逍遙散 五淋散 桂枝加芍薬湯 小建中湯 黄耆建中湯 桂枝加芍薬大黄湯 十全大補湯 疎経活血湯 大防風湯 慈陰降火湯 慈陰至宝湯 よくい仁湯
素人でも使える漢方薬
漢方薬は、基本的には「証」→「方剤」です。だから「証」がわからないで処方していると「漢方なんか効かない」ということになってしまいがちです。「風邪に葛根湯」が効かないのはこのためです。しかし漢方薬の中にも証に関係なく(気にせず)使える処方もいくつかあります。とりあえずは、この処方から漢方アレルギーを払拭するきっかけにするのはどうでしょうか?
こむら返り →「芍薬甘草湯」
こむら返りとは、ふくらはぎ の筋肉がけいれんを起こしてひきつり、痛みを伴う症状を指します。寒い日 の歩行や夏でも冷たい海に急に飛び込んだ時、長時間の歩行等の運動の後、 就寝中、急に体の向きを変えたり、伸びをした時、多量の汗をかいた時、激 しい下痢の時などによく起こります。明確な機序は不明ですが、肝疾患のこ むら返りの原因としては、ナトリウム、カリウムやカルシウムなどの電解質の 代謝異常、タウリンやビタミン B1 の欠乏、過度の運動などにより、神経や 筋肉が興奮しやすくなることによると言われています。予防する方法として は、運動前後や就寝前にストレッチ体操を行う、適度な運動で筋肉の委縮を 防ぐ、水分補給・バランスの良い食事を摂る、就寝時には膝の下に枕などを 入れ、少し膝を曲げた状態にする、分岐鎖アミノ酸を補給することなどです。
★芍薬甘草湯(芍薬 甘草)
芍薬 筋肉の痙攣を止める
甘草 脱水
◎其の脚即ち伸ぶ。脱水のため(熱中症、運動後、透析など)痙攣したものに効を奏す。
★安中散(桂枝 延胡索 牡蛎 茴香 甘草 縮砂 良姜)
胃が痛い時、効かない時は芍薬甘草湯を合方する。
延胡索 胃の痛みをとる
★川芎茶調散(川芎 防風 荊芥 薄荷 香附子 白芷 独活 細茶 甘草)
川芎 頭の瘀血をとる。
漢方医学の歴史
ここは、読み飛ばしてもらってもかまいません。漢方の認定医の試験に結構出るんですね。仕方なく勉強していました。
「黄帝内経」(こうていだいけい)は、BC1000頃(春秋戦国時代〜漢の時代)に黄帝と岐伯、雷公との問答形式で書かれた医学書。陰陽五行説(五蔵六腑)経絡、病態生理、脈診、治療(鍼、按摩、湯液)などが説明され、後世派など理論的。
「神農本草経」(しんのうほうぞうきょう)365種の生薬を上品、中品、下品に分類して説明。
「傷寒論・金匱要略」(しょうかんろん・きんきようりゃく)AD200に、張仲景が編纂した。陰陽(八網)など現象を重んじ、古方派など実用的。急性の熱性疾患、慢性疾患を扱った書物。この3つを三大古典という。日本では、傷寒論があまりにも有名です。傷寒論はもともと熱病の治療法ですから、なんでもかんでも傷寒論(八網)で治そうとすると無理があります。
宋時代 和剤局方(得効方)
金時代 脾胃論(李東垣) 補中益気湯を創方。
明時代 万病回春
平安時代「医心方」は丹波康頼の書いた日本最古の医書。
明に渡って、李朱医学を修めた田代三喜の弟子、真直瀬道三は、後世派と呼ばれ、啓迪集をまとめた。
江戸時代に起こった漢方医術の一派である古方派の後藤艮山は、一気留滞説を提唱し、傷寒論・金匱要略に基づく治療を行った。香川修庵、山脇東洋(日本最初の人体解剖を行う)「外台秘要方」吉益東洞は、万病一毒説を唱え、「類聚方」「方極」「薬微」などを表したが、その処方は、発汗・吐瀉・下痢などの激しい反応「めんげん(瞑眩反応」を歓迎したが、息子の吉益南涯は、これを修正し、気血水学説を提唱した。
処方事例集
高血圧、高脂血症、糖尿病などの疾患は、漢方薬はちょっと苦手かも知れませんが、西洋医学が、すべての病気を治せるわけでもありません。上手くいかない疾患もたくさんあります。それらの中で漢方の方が得意な分野があります。
◎「風邪ぎみなんです」
冒頭でも書きましたが、僕が漢方を始めるきっかけになったのは、心筋梗塞しか興味のなかった勤務医から、よろず診療所の大将になったことで、否応なしに、かぜを上手に診ることが仕事になりました。救急外来では、かぜは勝手に治る病気であり、PL顆粒と鎮痛解熱剤を処方せておいて、上手に治す必要性も感じておりませんでした。かぜに対して漢方薬を処方するためには(証を決める)寒熱、表裏、虚実を判定し、六病位等を考慮しながら、脈を診て、舌を診て、お腹まで診ることもあります。患者さんも高が風邪でこんなに丁寧に診てもらったと喜んでくれ、僕の方も然れどかぜで「かぜ」を楽しく診て両方にハッピーな時間となるのです。漢方は、僕にとっては、かぜ診療のモチベーションを上げるアイテムなのです。
このお二人が同じようなかぜを引いたとします。「O」君は、咳、鼻水、39.5℃の高熱を出していますが、食欲はあります。「S」君は、咳、鼻水、37.8℃と熱はそう高くありませんが、食欲がありません。西洋医学で処方すると対症療法なので同じようなお薬が処方されるでしょう。漢方では、同じ人間ですが、まったく違う生物として扱います。つまり「証」が全く違うからです。
患者さんの状態を測る漢方的なものさしとしては「寒熱」「表裏」「虚実」が重要です。
漢方は体温計を使いません。寒気がして39度の発熱があると、体を触ると熱いですよね。熱くても悪寒があれば「寒」と診断するのが漢方なんですます。体温は関係なく、自覚症状で「寒」「熱」を診断します。熱いのに「寒」とはどうしてでしょう。寒気ってどういう時に感じるでしょうか?インフルエンザに罹って、熱が上がって来るときに寒気を感じますよね。つまり確かに体の表面を触ると熱いのですが、体の中(深部体温)はもっと熱くなっているわけです。体表面の温度は体の中の温度より低いわけで、体表では寒気として感じてもおかしくありませんよね。よって手で触ると熱い「表寒」と冷たい「裏寒」とがあるわけです。
「表寒」太陽病期
「悪寒」「節々が痛い」「関節痛」を訴え、脈診では「脈が浮いている」舌診では「舌が赤い」
◎表寒証向けの処方は、温めるお薬ですからできれば熱いお湯に溶かして服用するように指導しましょう。
「裏熱」少陽病期(半表半裏)〜陽明病期
「口が苦い」「胃腸の調子が悪い」「咳、痰が出る」と訴え、脈診では「脈が沈んでいる」舌診では「舌苔」
「裏寒」太陰/少陽/蕨陰病期
病気が進むと、患者さんの訴えは「食欲がない」「下痢、腹痛」「全身倦怠感」となり、裏も表も冷えている状態になる。「寒気」も訴えるので、表寒と早合点せずに脈を診て、沈んでいると裏寒(触れるだけでわかれば表、ぐっと押さえないと触れなければ裏)と診断し、裏も表も温める処方(麻黄附子細辛湯)を選択しなければいけません。
「虚実」の判定は、意外と難しい。エネルギッシュで声が大きく、顔の色ツヤがよいのが「実証」タイプ、青白い顔色をして、すぐにカゼを引いてしまうような虚弱体質の人は「虚証」タイプと言いますが、見た目だけでは、外れてしまうことも多いようです。しかし、いつも風邪を漢方薬で治療している人は、自分がなにを飲むと調子がよくなるかよくしっているので、ちょっと鼻水が出かけたら、早めに香蘇散をのむとか、寒気がして首筋が張ってくると葛根湯をちょっと多めに飲むとか、上手に風邪を治す術を知っているものですね。
汗をかかないで高い熱が出る人は「実証」熱はそう高くならずに、すぐにジワ〜と汗をかく人が「虚証」というように汗のかき方(病原菌に対する反応)を見る方法もあります。脈診では、脈の緊張感があり、押してもつぶれないのが「実証」実脈の緊張感がなく、押してすぐつぶれるのが「虚証」腹診で、肋骨角が広い=「実証」肋骨角が狭い=「虚証」と考えます。
同じ病気(かぜ)としても、人それぞれの体力、体質と病原体の強さとの相互関係によりその反応が異なりますし、また、病期によっても反応は異なっており、「寒熱」「表裏」「虚実」それぞれの病態像にあった方剤を選びます。かぜ症候群に対して漢方薬は20処方以上の選択肢が存在するのがおもしろいところです。
寒気。頭痛・・・風邪かな?(表寒証)
★桂枝湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草)
桂皮 のぼせ 動悸 自汗 悪風
◎太陽病で、頭痛、発熱があって、しかも汗がでて、暖かくしていると寒くはないが、風にあたると寒気を感じる。
◎虚証 脈診が弱、汗をじと〜とかいている。意外と処方の機会はありません。
★葛根湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 麻黄 葛根)
葛根 首筋が縦に凝る。(首から肩甲骨にかけて横に凝るのは柴胡剤)
◎太陽病で、首筋から背中にかけて強ばり、鳥が飛び立つ時に首を突き出しような状態(シュシュ)汗をかかず、風にあたると寒気がする。
◎麻黄は桂枝との組み合わせで、非常に強く体表を温めて、発汗を促す。
◎三叉神経痛、鼻炎、鼻閉、鼻漏
◎大腸炎の初期、下痢、子供の風邪に伴う下痢
◎口の周りが乾燥し、舌でなめ回す子供
◎受験生の風邪、眠くならない。
★麻黄湯(麻黄 桂枝 杏仁 甘草)
麻黄+桂枝 表に水を捨てる(杏仁は相乗作用)
甘草 脱水予防
◎実証 脈診が緊、四肢に関節痛あり、汗をかいていない。
◎太陽病で、頭痛し、熱が出て、筋肉痛、腰痛、関節痛あり、風にあたると寒気がし、汗がなくて、呼吸が苦しい者
◎桂枝湯 葛根湯 麻黄湯は、表(浮脈、苔のない舌)寒(悪寒)で使用
◎インフルエンザ、関節リウマチ、喘息
◎乳児の鼻閉、哺乳困難、夜寝られない(エキス剤1/4包を御湯で練って軟口蓋にこすりつける)
桂枝湯、葛根湯、麻黄湯などを感冒に処方するときは、初回に多く服用した方がよく効きます。半日に3回ほどを続けて服用します。体を温める必要があるので、必ず温服しましょう。
漢方薬の風邪薬を出します。湯飲みに漢方薬を入れて、沸騰したお湯を注いでください。インスタントコーヒーを作る要領です。しばらくすると溶けてきます。完全にとけなくてもかまいません。少し冷めるのを待つか、水を足して温かい状態で飲んでください。その後は、布団を被って休んでください。体が温まって、じわっと汗がでてくれば、薬が効いてきた証拠です。できれば、最初の数回は時間を詰めて続けて飲んでください。熱が高くても、つらくなければなるべく解熱剤は使わないようにしてください。その方が早く治ります。(北村嘉章先生)
★桂麻各半湯(麻黄 桂枝 芍薬 生姜 大棗 杏仁 甘草)
◎桂枝湯と麻黄湯のとの中間証。足して2で割っている。
★香蘇散(香附子 蘇葉 陳皮 生姜 甘草)
生姜 気を散らす
◎表を暖めて汗をかかせる生薬(解表)の力 蘇葉<桂皮<麻黄+桂皮
◎虚証
◎妊婦のかぜ薬には、過度の発汗、利尿、瀉下はしない(麻黄、桂枝、大黄は除く)処方を選びます。桂枝湯や香蘇散が最適ですね
鼻水が出る
★小青龍湯(麻黄 桂枝 細辛 乾姜 半夏 五味子 芍薬 甘草)
五味子 収斂(しゅうれん)
◎表寒証に使います。
◎主に温める生薬が入っており、クシャミ、鼻水、よだれが出て、粘稠度の薄い水の多い痰が出る場合に用います。
◎半夏(中枢性)麻黄(抹消性)の咳を止めます。
◎喘息様気管支炎 体に湿の多い太った小児で、夏はそうでもないんですけど、冬になって冷えると、熱が出るわけでもなく、咳が激しいわけでもないが、「ゴロゴロ、ゼイゼイ」いう滲出性体質の喘鳴に効果的メンです。
◎水分の多い喘息には効くが、乾いた喘息には余り効かない。
◎痩せ細っている(水分の少ない)子供には、麻黄は合わないことあり。(子供は麻黄に強いですが、100人に1人ぐらいダメな子がいます)
◎麻黄+桂枝は、必ず悪寒があって、脈が浮(表寒)の時期=太陽期に使いましょう。表証がないのに処方しても汗は出ませんよ。
◎アレルギー性鼻炎 水っぽい鼻炎に効果あります。甘いものを食べすぎると湿が溜まり、鼻水が出ます。麻黄附子細辛湯と合法します。附子は温薬で冷えに使いますが、利水薬です。麻黄も細辛も利水薬。
五味子(ゴミシ)
マツブサ科チョウセンゴミシの果実
酸 温
収斂(しゅうれん)
肺虚による喘咳。口中乾燥口渇、自汗、寝汗を止め、腎の機能不全によるインポテンツ、慢性の下痢
ここまでの薬は、表を暖めて汗をかかせる生薬(解表) 桂枝 麻黄 蘇葉の症状で使用する薬剤です。すべての風邪が太陽病期→少陽病期→陽明病期→厥陰病期と進むわけではありません。それではとだくさんの人がかぜで死んでしまいます。太陽病期から発汗療法だけでうまく治る人もいるし、こじらせて少陽病期に移行する人もいるし、少陽病期ははっきりせず、陽明病期になる人もいるわけです。
一方「発汗療法」がそもそもできない人もいます。虚証の人ですね。老人、心不全、低血圧、循環無力症などの患者さんは、麻黄湯を飲んで布団蒸しなど苦しくて我慢できません。桂枝、麻黄の使えない人は参蘇飲、苓甘姜味辛夏仁湯などを用います。
咳、痰が出る。お腹の調子が悪い。下痢気味、便秘気味(裏熱証)
かぜをこじらせた少陽病期です。「口が苦い」「胃腸の調子が悪い」「咳、痰が出る」と訴え、脈診では「浮沈中間」舌診では「舌苔」あるが、悪寒や節々が痛い、頭痛など表証の症状も残っている〜半表半裏。消炎解熱作用のある「柴胡」「黄芩」を配合された小柴胡湯を中心に処方を考えます。
また、熱病の原因が胆嚢炎とか膀胱炎、腎盂腎炎、敗血症など深部に化膿菌が感染したときは、往来感熱がでます。こういった病態に発汗療法は使えません。小柴胡湯など和解法が適応となります。
そもそも、太陽病期 → 少陽病期 → 陽明病期と教科書通りに進むとは限りません。熱病を起こす起因菌のよって違いますし、その人の体力や反応の仕方によっても変わってきます。太陽病期(悪寒があって、脈が浮)から始まれば、発汗療法でOKですが、悪寒を伴わず、徐々に熱が上がってきて、頭痛や関節痛など表証がなくて口が苦い、咳がでるなどあれば、少陽病期として和解法から用います。さらに、汗をどんどんかいて、いくら水を飲んでも口が渇くような場合は、陽明期として清熱療法から開始することになります。
★柴胡桂枝湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 柴胡 黄芩 半夏 人参)
柴胡 裏の熱を冷まして、湿を取り去る
生姜 大棗 甘草 人参 胃を和す
半夏 鎮咳薬です
◎桂枝湯と小柴胡湯の組み合わせ
★小柴胡湯(柴胡 黄芩 半夏 人参 生姜 大棗 甘草)
柴胡 裏の熱を冷まして、湿を取り去る
生姜 大棗 甘草 人参 胃を和す
半夏 鎮咳薬です
柴胡+黄芩 清熱
半夏+人参 心下の水をさばく
半夏+生姜 嘔気、嘔吐を抑える
生姜 大棗 甘草 胃を和す
◎胸脇苦満、往来寒熱、嘔吐 気鬱
◎小柴胡湯は、別名、三禁湯とも呼ぼれます。熱病の治療は「汗、吐、下」といって、発汗療法、嘔吐させる治療法、瀉下させる治療法がありますが、その3つともできない時期に処方する和解法として用いられます。
◎ウイルス性疾患で炎症が一旦治って治ったと思ったらまた熱が出たときなど、長いことだらだらとかぜを引いて治ったような治っていないような、熱感があるようなないような症状に使います。
◎月経中に風邪をひいて、熱が出たときにもよく効きます。
◎慢性の病気はたいていは少陽病とし、小柴胡湯を汎用する傷寒論の信者もいますが、傷寒論はもともと熱病の治療法ですから、慢性疾患や雑病に使用するときは傷寒論の条文ではなくて、生薬から理論を組み立てる姿勢が大事です。
★大柴胡湯(柴胡 黄芩 半夏 人参 生姜 大棗 枳実 芍薬)
柴胡 裏の熱を冷まして、湿を取り去る
生姜 大棗 人参 胃を和す
柴胡+黄芩 清熱
半夏+人参 心下の水をさばく
半夏+生姜 嘔気、嘔吐を抑える
◎小柴胡湯よりさらに心窩部が膨満して圧迫すると痛むものに用いる。
乾いて熱を持っているかぜ
太陽病期に発汗療法をしたがうまくいかないで熱が上がって高熱が続き(稽留熱)発汗過多で脱水をともなう陽明期に入った風邪です。悪寒がなくなり、発汗が始まって「熱い熱い」と言って体が熱く感じられる時期で静熱剤(消炎解熱剤)を用いて冷やす時期であり、石膏、知母が配合された白虎湯が代表処方です。次に熱が身体にこもり,熱を発する時期は陽明病期と呼ばれ、小腸から大腸の症状(強い口渇や発汗,便秘)などがみられます。脈診では「脈が沈んでいる」舌診では舌苔は乾燥して紅くなってきます。
★白虎加人参湯(石膏 粳米 知母 甘草 人参)
石膏 清熱、滋潤
知母 消喝、熱中を治す。清熱、滋潤
◎石膏、知母は漢方の消炎解熱剤として用います。
風邪など急性症では、発熱(悪寒なし)、発汗、口渇を伴う。(口渇には、発熱を繰り返し、汗をかいて脱水で本当に水が足りなくなって、乾燥した赤い舌の場合と水毒で水の分布異常で舌痕のある五苓散タイプの二種類あります)
◎麻黄湯、葛根湯、桂枝湯は、解表(発汗させる)薬です。麻黄は湿家につかいます。柴胡は、乾かす薬です。乾燥している人(脱水症)には禁忌です。
◎桂枝湯を服し、大いに汗出た後、乾きが止まらず、脈洪大な者(傷寒論)
◎傷寒、嘔吐下痢した後、舌が乾燥して、水を大いに飲む者(傷寒論)
◎点滴するのと同じぐらいのスピードで回復します。熱中症にもOKです。
★大承気湯(大黄 芒硝 厚朴 枳実)
大黄 芒硝 消炎解熱作用 瀉下作用(両方入っている方剤を承気湯類(気剤)という)
厚朴 枳実 腸蠕動運動亢進 鎮痙作用
◎高熱が続き、腸内の水分も乾燥し、大便が硬くなる。腸管麻痺が起きて便秘しガスにより腹が膨張する。この時期が陽明期の極期で消炎解熱作用のある大黄、芒硝に腸の運動をよくする厚朴、枳実を配して下法(瀉下)を行う。
★麻杏甘石湯(麻黄 石膏 杏仁 甘草)
麻黄+石膏 裏に水を捨てる(杏仁は相乗作用)
甘草 脱水予防
◎風邪から肺炎様の症状になった時に使います。麻黄湯から桂枝を除いてあまり発汗させないようにしたもので、麻黄と杏仁で鎮咳と呼吸困難を改善して石膏で炎症を抑える白虎湯と麻黄湯を合わせたような方剤です。
◎気管支喘息の発作の初発は痰が粘稠(熱証)でほとんど無痰です。温肺利水の小青竜湯より、清肺平喘の麻杏甘石湯を用いる。最も多いのは、熱喘(口が渇いて、痰は少なく、ヒューヒュー言う喘)と寒喘(ゴロゴロ、ゼイゼイと言う水っぽい喘)の合わさって中間で小青竜湯と合法する。
食欲不振、全身倦怠感あり(裏寒証)
病気が長引き抵抗力(元気)が落ちてくる太陰病期では、温熱産生が低下しお腹が冷えて(裏寒)腹痛,腹満,下痢などの腹部症状を呈するようになります。次の少陰病期になると冷えは全身に及び、すぐにでも横になりたいような全身倦怠感を訴えて手足は冷たく脈も細くて弱いものになります。さらに病状が悪化し、死期が迫っていったん良くなったかにみえて急変するような時期を厥陰病期といいます。かぜではここまでは行きませんが、いずれも内臓の冷えが原因でおこる症状です。ちなみに慢性疾患では既に陰証の状態と判断しますが、慢性疾患の急性増悪の場合は、陰陽が入り混じって判別しにくい場合があります。
「裏寒」太陰/少陽/蕨陰病期
病気が進むと、患者さんの訴えは「食欲がない」「下痢、腹痛」「全身倦怠感」となり、裏も表も冷えている状態になる。「寒気」も訴えるので、表寒と早合点せずに脈を診て、沈んでいると裏寒(触れるだけでわかれば表、ぐっと押さえないと触れなければ裏)と診断し、裏も表も温める処方(麻黄附子細辛湯)を選択しなければいけません。
★麻黄附子細辛湯(麻黄 附子 細辛)
麻黄 表を温める(裏が冷えて、最終的に表も冷えてしまった)
附子 細辛 裏を温める 沈脈(裏の確認)
◎鼻水(薄い)クシャミ型に(鼻閉、熱証型には麻杏甘石湯)
◎表も裏も冷えている 本格的に冷えている人が対象なので、若い人はそこまで冷えていない事が多いので、よく証を確認して。
◎寒い所やクーラーでと鼻水が出る人。寒がり、寒いところで仕事をする。
◎無気力でただ横になって寝ていることを好む
◎帯状疱疹の神経性疼痛に用いる
咳がでる
★柴朴湯(柴胡 黄芩 半夏 人参 生姜 大棗 甘草 茯苓 半夏 厚朴 蘇葉)
小柴胡湯(柴胡 黄芩 半夏 人参 生姜 大棗 甘草)+半夏厚朴湯(茯苓 半夏 生姜 厚朴 紫蘇葉)
柴胡+黄芩 胸脇の清熱
半夏+人参 鳩尾の周囲の湿をとる(嘔吐の時)
生姜+大棗+甘草 胃を和す
半夏+生姜 鳩尾の周囲の湿をとる
厚朴+紫蘇葉 胸骨部の「気鬱」をとる
◎喘息の咳には、小青龍湯(麻黄 桂枝 細辛 乾姜 半夏 五味子 芍薬 甘草)または、麻杏甘石湯(麻黄 石膏 杏仁 甘草)などと適当に処方していると、いつまでたっても50%の確率にしかなりません。麻黄 甘草は、気管支の攣縮を取る薬、痰が多くて、ゼロゼロいっている場合は、小青龍湯が効果的、もっと痰が多い場合は、麻黄附子細辛湯(麻黄 附子 細辛)が適応。痰が少なく乾いた咳でヒューヒューという場合は、石膏(清熱薬)を加えた 麻杏甘石湯が効く。しかし、実臨床で最も多いのは、両方の病態を混在したものが多いので、小青龍湯と麻杏甘石湯を合方することが多い。
◎喘息の人は、心下痞硬あることが多く、小柴胡湯だけより半夏厚朴湯を加えた柴朴湯の方が効果がある。
★麦門冬湯(半夏 麦門湯 こう米 人参 大棗 甘草)
粳米 大棗 甘草 滋潤 乾いている人に使う(半夏は乾かす薬です。半夏が入っているので、胃の周りには痰飲がある)
◎のぼせ気味で、激しく咳き込み、最後に嘔吐しそうな痙攣性の咳。喉が乾燥していがいがして、声が嗄れたりする。(痰が水っぽいときはダメ)
★麦門冬湯(半夏 麦門湯 こう米 人参 大棗 甘草)
◎咳の原因から治療を考える
「湿」と「熱」 乾燥して清熱 小柴胡湯(柴胡 半夏)
柴朴湯(柴胡 半夏 厚朴)
麻杏甘石湯(麻黄 石膏 杏仁)
神秘湯(柴胡 杏仁)
「燥」と「熱」 潤して清熱 麦門冬湯(麦門冬 半夏)
滋陰降火湯(麦門冬 地黄)
「湿」と「寒」 乾燥して温める 小青龍湯(半夏 細辛)
麻黄湯(麻黄 杏仁)
麻黄附子細辛湯(麻黄 細辛)
「気逆」 降気 桂枝茯苓丸(桂枝 茯苓)
熱証 黄色や緑色の濃い鼻水や痰がでる
舌診で、赤みが強く、湿った苔が付くことが多い
寒証 白っぽい水様の鼻水や痰がでる
舌診で、赤みが弱く、苔の付くことは少ない
燥 乾燥している
湿 潤わす
鼻がつまる
★辛夷清肺湯(石膏 知母 山梔子 百合 麦門湯 黄芩 批把葉 升麻 辛夷)
辛夷 筒状の中に詰まっている取り除く
◎石膏 知母 山梔子 百合 麦門湯 黄芩 批把葉 全て清熱
◎もっと熱証で、鼻づまりの人に処方
◎清熱+排膿
★麻黄湯(麻黄 桂枝 杏仁 甘草)
麻黄+桂枝 表に水を捨てる(杏仁は相乗作用)
甘草 脱水予防
◎乳児の鼻閉、哺乳困難、夜寝られない(エキス剤1/4包を御湯で練って軟口蓋にこすりつける)
★荊芥連翹湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子 当帰 川芎 芍薬 地黄 桔梗、枳実 荊芥 連翹 柴胡 薄荷 百止 防風 甘草)
◎やたら生薬がたくさんはいってますよね。因数分解すると黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)+四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)+α(外に出す、発散する生薬)となります。
◎+αは、桔梗(去痰排膿)枳実(気を巡らせて通す)荊芥、防風(外的要因のぬぐって解表(表を開く))薏苡仁(利水排膿)川芎(血や気を巡らせる)升麻(発疹を促して表に出す)連翹(清熱解毒)など
◎清熱+排膿+補血(血虚のある人に)
扁桃腺が腫れている
★清上防風湯(石膏 知母 山梔子 百合 麦門湯 黄芩 批把葉 升麻 辛夷)
◎扁桃腺炎に有効(適応はにきび)
★人参栄養湯(地黄 当帰 白朮 茯苓 人参 桂皮 遠志 芍薬 陳皮 黄耆 甘草 五味子)
◎慢性気管支炎
かぜの引き始めに葛根湯
「風」は、隙間があるとどこからでも入ってきますね。「風邪(ふうじゃ)」も同じで、「風(ふう)」は、人間にも隙間があれば(寝不足、疲れ、ストレスなどで体が虚ろになっている状態)入ってくるわけです。その風が入ってくるところを「風門」と言います。(首を前に曲げると首のつけ根あたりに飛び出る椎骨がありますが、それが第七頸椎の棘突起です。これを目印に、第二胸椎と第三胸椎の棘突起の間から左右に3〜4cm)風は、汗腺から入り、皮膚の表面に入った状態を感冒と言います。これが悪化すると風は絡脈に入り(傷風)さらに進行すると内臓(中風)に入り、様々な病をもたらすと言われています。つまり、風邪は万病の元というわけです。
では、「かぜの引き始めに葛根湯」と言いますが、引き始めとはいつまででしょうか?つまり、風が皮膚の表面にいる表寒証の間がかぜの引き始めです。だから、一概に何日間とは言えません。個人差、ウイルスの種類によって毎回違うわけで、5分ぐらいと短い場合もあれば、1〜3日間ぐらいのことも、また1週間のこともあるわけです。この時点で葛根湯を飲んで発汗すると、汗とともに風を体内から出すことで風邪は治るわけです。
葛根湯の添付文書をみると感冒以外にこいろいろな病名が書いてありますが、ここに書いてある病気がみんな、葛根湯で治ると言っているわけではありません。本当は葛根湯の適応症は、「表寒」と書きたいところですが、表寒と書いても、西洋医学しか学んだことのない医師には、わけもわからないので、苦渋の選択で(漢方医としては)表寒になりやすい疾患が並べてあるわけです。だから、感冒だったとしても、引き始めの表寒の時期を過ぎてしまったら全く効かないわけです。
反対に、西洋医学では異なった疾患と診断された病気(胃炎、慢性肝炎、感冒)と診断されても、漢方で同じ「証」と診断されれば、同じお薬(小柴胡湯)が処方されることもあります。
「先生、頭が痛てえんで」
「ああ、頭痛だな。葛根湯をおあがり」
「先生、おなかが痛いんでございます」
「ああ、腹痛だな、葛根湯をおあがり」
「先生、目が痛くて」
「ああ、葛根湯をおあがり。はい、次の方」
「いや、私はつきそいに来ただけで・・・」
「まあ、いいから葛根湯をおあがり」
「夏の医者」でのくだりです。やぶ医者のお話として出てきますが、異病同治と考えれば、「名医」なのかもしれません。
風邪の治りかけで食欲がない
★桂枝人参湯(桂枝 人参 白朮 乾姜 甘草)
冷え性で下痢しやすい
裏寒虚証
石膏(セッコウ)
硫酸カルシウム
口乾舌焦(舌がカラカラに乾いている)
主治は、大量の発汗、舌面乾燥、浮大脈 洪大脈(適応外は、舌苔が湿潤で、厚膩であるもの)
◎石膏は、黄芩 黄連 黄柏 山梔子と同じ清熱薬ですが、脱水の時に使用します。黄芩 黄連 黄柏 山梔子は、乾かす生薬(熱と湿)ですが、石膏は潤す生薬(熱と燥)です。
◎「お腹が痛い、便秘/下痢」
お腹が痛くなる病気っていっぱいあります。西洋医学的なアプローチとして内視鏡や腹部エコーで検査をすることは大切なのですが、いろいろ検査してもどこも異常がないと言われてしまう患者さんも多いですよね。またまた漢方の出番です。漢方の場合、西洋学的な病名は関係ないので、診断がついていない?のも大歓迎です。原因が過敏性腸症候群であれ、便秘であれ、潰瘍性大腸炎であれ、お腹(中)の状態がどうかを腹診をして診てみましょう。胃内停水があれば六君子湯(補気)腹直筋の緊張があれば芍薬などの方剤が選択されます。漢方では、お腹の中は裏であり、寒熱で「裏寒」「裏熱」に分類されます。冷たいかき氷を食べ過ぎて、下痢をしたら=「寒」食中毒のように激しい下痢があれば、当然「熱」ですよね。また、便秘と下痢を繰り返したりしたら、結構迷うこともよくあります。この辺の「証」を正確に判定出来るような引き出しが増えたら漢方の腕が上がったなって感じなんでしょうね。
裏熱 | 裏寒 | |
---|---|---|
便秘 | 大黄甘草湯 調胃承気湯 大黄牡丹皮湯 |
桂枝芍薬湯 (桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草) 小建中湯 (桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)膠飴 黄耆建中湯 (桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)膠飴 黄耆 当帰建中湯 (桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)膠飴 当帰 桂枝芍薬大黄湯 (桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)大黄 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)膠飴 当帰、木通、細辛、呉茱萸) 大建中湯 (山椒、人参、乾姜、膠飴) |
下痢 | 柴苓湯 猪苓湯 |
六君子湯 真武湯 |
「裏熱」証の便秘
最もポピュラーな便秘です。一般的には便秘は「裏熱」と書いてあるものが多いようです。寒熱の判定は、問診では、冷たいものが好き=熱であり、温かいものが好き=寒です。また、腹診では、緊張感や充実感あり、肋骨角が広い、実証=熱であり、緊張感や充実感なし、肋骨角が狭い、虚証=寒です。「裏熱」証の便秘は、冷やして出す薬を使うわけで「大黄」「芒硝」などを使います。西洋薬でいう下剤(センノシド)と同じ考え方です。
★大黄甘草湯(大黄 甘草)
大黄 清熱薬
甘草 大黄は、乾かす生薬なので、甘草で潤す。
大黄(大黄)
ダテ科ダイオウの根茎
主治は「実」をしゃする。
余った「食(便秘)気 熱 血」を捨てる(水が余っているときは麻黄などを使う)
守備範囲は、下腹部です。
乾かす生薬(芒硝は潤す生薬)
★調胃承気湯(大黄 芒硝 甘草)
大黄、芒硝(両方入っている方剤を承気湯類(気剤)という)
◎便の性状がコロコロ便なら、大黄(乾かす生薬)と芒硝(潤す生薬)を上手に使う
◎気を出す(お腹がはっている)譫言 下剤
◎余った熱も捨てる
★大黄牡丹皮湯(大黄 芒硝 牡丹皮 桃仁 冬瓜子)
冬瓜子 排膿
◎虫垂炎 憩室炎
◎余った「熱」を捨てる
甘草(カンゾウ)
マメ科カンゾウの根および走茎
滋潤作用
咽の痛みを治す
気の不足、液の不足を治す
雑病の躁、急、痛、逆を治す
急迫(切羽つまった状態)を治す。閉塞を開き、毒を解し、気を寛除ならしめ、疼痛をさる
発汗、嘔吐、下痢による体液喪失に処方する。
体液喪失する生薬(麻黄など)と併せて使う。(副作用防止)
裏の水を保持する(麻黄は体表の水を捨てる=乾かす)
最もたくさんの方剤に使用されている生薬です。
グリチルリチンのため、低カリウム血症、浮腫、血圧上昇(偽アルドステロン症)の可能性あり。五苓散の併用で解決。
「裏寒」証の便秘
便秘は「裏熱証」と書いてあることが多いため(裏を冷やす薬=下剤)センノサイドや大黄(清熱薬)を使われますが、みんながみんなそうではなく「裏寒」の場合もあり、建中湯類(「脾」の働きを高め、補気剤にもなります)を使います。
建中湯類の仲間たちを紹介します。生薬の中には、下剤として瀉する生薬は入っていません。温めたり、痛みを取ったりする生薬です。だから決して便秘だけというわけではなく、腸を整えて下痢を含めた不定愁訴的な調子の悪さを直すイメージです。
★桂枝加芍薬湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)
◎建中湯類の基本骨格になっています。これは桂枝湯と同じ生薬の組み合わせでできています。漢方処方の基本中の基本、最もたくさん使われる生薬のベスト5で構成されています。ただ、名前の如く桂枝湯に加えること、芍薬の量を2倍に増やした処方です。患者さんに合わせて、膠飴や黄耆、当帰などを加えた処方を検討します。
◎辛い
★小建中湯(桂枝加芍薬湯+膠飴)
膠飴 気分を安らかにする、乾いたものを潤してくれる。
◎子供の腹痛に効く。学校でよくお腹が痛くなる。
◎虚弱なやせ型の人 手足のほてり 唇が渇く
★黄耆建中湯(小建中湯+黄耆)寝汗
黄耆=寝汗が出る
◎虚労裏急、諸不足 腹痛と気虚
★当帰建中湯(小建中湯+当帰)
当帰 血のトラブル(血虚など)
★桂枝芍薬大黄湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草 大黄)
◎少し便秘がつよければ、これ。
★当帰四逆加呉茱萸生姜湯(桂枝加芍薬湯+当帰、木通、細辛、呉茱萸)
◎しもやけ 冷え性
◎冷えが強い。冬場に待合室で冷えてお腹が痛くなる人に熱湯で溶かして飲んでもらうと2〜3分で治ります。
★大建中湯(山椒、人参、乾姜、膠飴)
山椒 お腹の動きを活発にする
乾姜 お腹を温める
◎建中湯と言う名前がついていますが、ちょっと毛色が違いますね。芍薬も入っていません。当然、腹直筋緊張はありません。腹壁が薄くて、腸を触れるような感じのお腹です。腸管にガスが貯まって、お腹が張っているイレウスがいい適応になるのも想像できますよね。
★桂枝加芍薬湯大黄湯
◎腹直筋緊張があって「裏寒」の便秘に使います。ちょっとだけ大黄が入っている。大黄の量を調節するには、桂枝加芍薬湯と合方します。
患者さんのもっとも調子にいいバランスのとれた状態を中庸=Best conditionとします。病気になるとこのバランスが崩れてしまい、図で星印のところが、患者さんの「証」ということになります。このバランスの変調をきたしている体を、証から中庸の状態に戻す方剤(ずれた方向と逆のベクトルをもった薬)を処方して、中庸に戻そうとするのが、漢方治療の基本概念です。建中湯類らは、同じ方向のベクトルを持った方剤の仲間なので、どの漢方薬を選んだとしても(少々間違っても)良くなっていきます。
腹直筋緊張(ふくちょくきんきんちょう)
腹直筋緊張 誰でも腹直筋はあります。筋骨隆々のボクサーなんて、腹直筋が八つに割れて、カッチカチ!なんて人もいますよね。側腹部の部位が他の部位に比べて緊張感が強いかどうかで判断します。ここだけ棒が入っているように固い場合は、腹直筋緊張ありとします。
「腹直筋緊張」があれば「芍薬」
芍薬(シャクヤク)
キンポウゲカ科のシャクヤクの根
酸 苦 微寒(涼)
補血 緩急止痛 鎮痙
裏を治す生薬(人参も裏)
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。主治は、ぴくぴく痙攣しているのを除いたり、血虚を治します。四肢、腹部の緊張緩和をはかり腹痛を治す
「裏熱」証の下痢
熱証の下痢は激しいものが多いわけです。食中毒の下痢が典型ですが、一般的な感染性胃腸炎と言われる胃腸風邪に使います。裏熱を冷ます生薬を使います。
★柴苓湯(柴胡 半夏 黄芩 生姜 大棗 甘草 人参 茯苓 蒼朮 猪苓 沢瀉 桂枝)
(柴胡、半夏、黄芩、生姜、大棗、甘草、人参=小柴胡湯)+(茯苓、蒼朮、猪苓、沢瀉、桂枝=五苓散)の合方
柴胡 裏熱を冷ます
生姜 お腹の「水」「気」を散らす
◎風邪が裏に入ってきて下痢になった場合
◎夏の食あたりに
潰瘍性大腸炎の下痢、風邪の下痢、二日酔いの下痢)
★猪苓湯(茯苓、沢瀉、猪苓、阿膠、滑石)
激しい下痢(水瀉性)で、出血を伴う様な場合に使います。
滑石 強力な清熱薬
阿膠 止血剤(出血性膀胱炎に)
◎膀胱炎 水をさばく生薬と炎症を冷ます生薬、止血剤、下痢でも膀胱炎でも同じですね。
◎食中毒のような激しい水瀉性の下痢。(口渇があって、熱性の下痢)
「裏寒」証の下痢
寒証の下痢というのは、熱証のようにバーと出る様な激しくなく、泥状便とかすっきりしない下痢に使います。夏に冷たいものを取りすぎて下痢になるってこともありますよね。冷たいものは苦手=寒です。また、腹診で緊張感や充実感なし、肋骨角が狭い、虚証=寒です。これで、下痢をしていたら、「裏熱」の下痢で使う冷やして瀉する生薬は使えません。温めて水をさばく生薬でお腹を整えます。
★六君子湯(茯苓 白朮 人参 甘草 生姜 大棗 半夏 陳皮)
茯苓 白朮 水を捌く
甘草 生姜 大棗 胃の働きを助ける
半夏 胃(鳩尾あたり)の水を捌く
陳皮 胃腸を温める
◎胃内停水(裏寒証、脾=消化吸収機能が弱い)があること
◎普段からお腹が弱く、慢性的に下痢しやすい方に。
★真武湯(茯苓、蒼朮、芍薬、生姜、附子)
茯苓、蒼朮 水をさばく(利水剤)
生姜、附子 温熱薬
◎すっきり出ない、泥状便の下痢
◎寝冷えの下痢 冷たいものを食べ過ぎた時の下痢
★人参湯(乾姜、蒼朮、甘草、人参)
◎すっきり出ない、ベタベタしてシャーと出ない。泥状便の下痢
普通の下痢(小腸性)
★五苓散(茯苓 猪苓 白朮 沢瀉 桂枝)
茯苓 めまい 動悸
白朮 胃内停水など脾虚 四肢痛
沢瀉 頭冒感
猪苓 下痢 熱淋
◎「喉が渇きますか」「五苓散」の治療目標は「口渇」です。
◎尿不利(尿量減少)浮腫、自汗
◎ 大腸性の下痢には効きません。大腸性カタルは細菌性のもので痛くてチビチビ出るものです。
◎「何となくしんどい 食欲もない」
こういった訴えの時、いろいろ調べても原因が見つからないこともよくあり、○○病ですと診断できない時に、気のせいですね。と言って気分を害されてしまうことがあります。こういう表現は、漢方的にはありなんです。「気虚」といって「気」の異常のひとつで「脾」の機能、消化吸収の低下によってもたらされる病態で、方剤としては「補気剤」を使います。漢方では、体を循環しているものを気血水で表しますが、お互いに連動しており、食べれないということは、エネルギーである「気」を取り込めないということで、見かけ上で「水毒」「お血」と診断され、利水剤や駆お血剤等を処方しても全く効かない症例に、ちょっと気を巡らせてあげる(理気剤)と、水や血も巡ってよくなるといったことがあります。
「気」とは、目に見えない生命活動を維持する機能のことです。「気虚」は、「気」の不足であり、機能不全を起こしています。代謝の低下で疲れやすく、だるい、力が入らない、すぐ眠たくなる、大きな声がでない、息が続かない、脈は弱く、顔色も悪い。エネルギー不足で消化管の運動低下、肛門筋、膀胱括約筋、子宮支持組織の弛緩などが起こります。
「気虚」「気」を補う(補気) 人参 甘草 黄耆
「気虚」に用いる生薬は、人参、黄耆、甘草、大棗など
「気鬱」に用いる生薬は、厚朴、紫蘇葉、香附子など
胃内停水(いないていすい)
心窩部に手を当てて、くっつけたまま腹壁を揺さぶるとポチャポチャと音がする。音がするのは、胃の中に水分の量とは関係がありません。胃の周囲の支持組織が緩いのが原因と考えられています。(胃下垂等)
◎肋骨角の狭い人(虚証)の人に出やすい
◎消化機能の低下した人、冷え「水」の停滞=水毒 「気」の低下=気虚
「胃内停水」があれば「六君子湯」
「気」を補う、冷えたら温める「水」を去る
正中芯(せいちゅうしん)
臍のすぐ上下に指を立てて、左右に探ると鉛筆の芯ぐらいの溝(凹み)を触ることができます。臍の上部にこの溝を触れたら、消化機能の低下 「気」の低下 冷え を示します。
「正中芯(臍上)」があれば「人参」
舌乳頭の消失=「人参」
★六君子湯(茯苓 白朮 人参 甘草 生姜 大棗 半夏 陳皮)
茯苓 白朮 水を捌く
甘草 生姜 大棗 胃の働きを助ける
半夏 胃(鳩尾あたり)の水を捌く
陳皮 胃腸を温める
◎胃内停水(裏寒証、脾=消化吸収機能が弱い)があること
◎「気虚」の処方(脾の働きを助けるることで補気剤)
★人参湯(蒼朮 人参 甘草 乾姜)
乾姜 お腹を温める
◎「正中芯(臍上)」があれば「人参」
◎茯苓が入っていないので水をさばく力はちょっと弱いので、胃内停水があれば、六君子湯のほうがいいかも。
★茯苓飲(茯苓 蒼朮 人参 生姜 枳実 陳皮)
枳実 鳩尾のつかえをとる。
◎めまい、動悸などの水毒の傾向がたくさんあれば。
★補中益気湯(黄耆 蒼朮 人参 当帰 柴胡 大棗 陳皮 甘草 升麻 生姜)
升麻 垂れ下がったものを持ち上げる(子宮下垂、脱肛)
◎手足倦怠 手足が落ちるようにだるい
◎声に力がなく、弱々しい。聞こえにくい。まぶたに力がない。なにを食べても味がない。
◎しゃべっていて、口のなかに小さい白い泡がたまる。
半夏厚朴湯
女神散
香蘇散
半夏(ハンゲ)
サトイモ科カラスビシャクの塊茎
辛 温
嘔吐して喉の渇きがない
心下悸
咽頭痛 咳 嗄声
湿を除き(乾かす生薬)去痰を促す。突き上げるような嘔吐、咳を止める。
痰飲(体の中に水が溜まっているのを周りに散らす) 使用目標は、「苔」豆腐の糟のようなもこもこした苔が生えている。鳩尾部(守備範囲)に水が多く、上がってくる(嘔吐)を防ぐ
半夏はまずい(生姜といっしょに飲むとえぐみが消える)
◎「腰が痛い」「足がだるい」
「腰が痛い」「膝が痛い」なんて愁訴で受診される患者さんもたくさんおられますよね。痛みをとるということは、治療で最も優先されることで、西洋医学としては、「痛み」というキーワードに対しては、対症療法として、アラキドン酸カスケードを頭に浮かべながら?プロスタグランジンをブロックするために「NSAIDs」が用いられるような状況です。しかし、関節リウマチなどの日常生活のADLに強く関与するような場合は、やむを得ず処方されていることはありますが、やはり内科医としては、漫然とNSAIDsを処方するようなことはなるべくはしたくないというのが本音であります。そこで漢方ではどう捉えるかですが、日常生活の中で「寒くなったら痛くなった」「台風が近づいてきたら痛くなった」など訴えられることはよくありますよね。だから「寒熱」「乾湿」などの影響が関節痛を増悪していることに対して、温めたり、乾かしたりして痛みに対応するわけです。一方で「腎」の概念は、前述した五臓のひとつですが、先天の精と言われ、生まれてくる時にお母さんからもらった栄養分(エネルギー)を貯めておくところです。生まれてからは、ごはんを食べて脾から栄養分を補充されて、生きていきます。しかし、大きな病気などをして貯蓄しているエネルギーが不足した状態を「腎虚」と言います。腎虚でも、下半身の症状のひとつとして「冷え」から足のしびれ、痛みを訴えることがあるのです。
「腰痛」「関節痛」に用いられる生薬として、
温める生薬 附子
冷やす生薬 石膏
湿を取り除く生薬 麻黄 防已 薏苡仁
などがあります。
痛みを訴える患者さんがいたら、兎にも角にも、痛い所に手を当てる(手当て)ことは、最も大切なことで診察の基本中の基本です。触ってみて熱を持っていれば、冷やす生薬を 冷たかったら温める生薬を使います。
★桂枝加朮附湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 蒼朮 附子)
附子 蕨冷 四肢の疼痛 水の偏在
◎表寒の関節痛
◎芍薬は、関節痛+周囲の筋肉痛、腱痛に対して使用
★防已黄耆湯(防已 黄耆 白朮 生姜 大棗 甘草)
防已 黄耆 白朮 湿気をとる(燥の生薬)利尿作用あり、重力で足に溜まる水を除く(下腿浮腫)
◎水太り 汗っかき
◎虚証の変形性膝関節症 寝汗 だるさ 「湿」「冷え」「むくみやすいですか?」皮膚が柔らかくて、湿っぽい皮膚で、「冷え」を伴うことが多い。(カサカサ乾いていない。熱証ではない)
★薏苡仁湯(麻黄 桂皮 甘草 薏苡仁 蒼朮 当帰)
薏苡仁 ハトムギ 浮腫 化膿 疼痛
麻黄+薏苡仁 痛みを取る
麻黄+桂皮 表に水を出して湿気をさばく
◎体の表面に水がある 水いぼ ニキビ
★越脾加朮湯(石膏 麻黄 蒼朮 大棗 甘草 生姜)
麻黄+石膏 清熱利水薬 熱感、口渇 裏に水を引き入れて乾かす作用(麻黄+桂枝は、表に水を出して乾かす)ネフローゼ症候群
◎痛風発作様に腫れて熱感がある
◎変形性膝関節症 発赤があって、熱感が強くて、触ると熱い場合はこちら(慢性で冷えて痛い時は、防已黄耆湯)
★八味地黄丸(地黄 山薬 三週湯 茯苓 沢瀉 牡丹皮 桂枝 附子)
附子 熱 必ず冷えを確認して使うこと(冷えがなければ、六味丸)
★疎経活血湯(当帰 川芎 芍薬 地黄 茯苓 白朮 防風 姜活 牛膝 威霊仙 百止 防已 竜胆 牡丹皮 生姜 陳皮 甘草)
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄) 血虚あり
茯苓 白朮 防風 姜活 牛膝 威霊仙 百止 防已 竜胆 水をさばく
牡丹皮 瘀血
生姜 陳皮 甘草 胃を守る
◎血虚があって、慢性の経過で関節が痛くなった病態
★大防風湯(当帰 川芎 芍薬 地黄 人参 白朮 生姜 大棗 甘草 黄耆 防風 姜活 牛膝 附子 杜仲)
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄) 血虚に使う
人参 白朮 生姜 大棗 甘草 胃腸を守る生薬(六君子湯の一部)
黄耆 防風 姜活 牛膝 水をさばく(浮腫あり)
附子 杜仲 温めて痛みをとる
◎鶴膝風 鶴の膝のような(ねたきりの人で筋肉が落ちてしまった。関節リウマチの末期の膝)
腎虚の症状
「腎」のエネルギーが不足するとどんな症状が出るでしょうか?
尿が近い、出にくいや腰痛、足腰に力が入らない、精力減退、耳鳴り、めまい 難聴などの症状があります。下半身の症状はなんとなくイメージできそうですが、最後の耳の症状は、どうでしょうか。これは、漢方的な考え方のひとつとして経絡というソフトがあります。これは体中を巡っている連携しているインターネットのようなもので、腎は耳と繋がっているされています。
少腹不仁、臍下不仁(しょうふくふじん、さいかふじん)
下腹部を、触っていくとおへその下の部分が、他の部分(両側)よりへにょっと柔らかくなっています。その周囲は土手のように固くなっていて、その部分を押さえると不愉快で痛い。
「臍下不仁」があれば、腎虚→「補腎薬」
正中芯(せいちゅうしん)
臍のすぐ上下に指を立てて、左右に探ると鉛筆の芯ぐらいの溝(凹み)を触ることができます。
「正中芯(臍下)」があれば、腎虚→「補腎薬」
腎に蓄えられたエネルギーが無くなってしまったら死んでしまいます。「腎虚」というのは、死ぬ前ぐらいに衰弱した状態を意味します。「腎虚」になれば、つまり根本のエネルギーが枯渇しているので、「気」「血」「水」のいずれも巡らない状況に陥っています。「補腎」すれば治るというものではないので、水をさばいたり、気を巡らしたり、血の生薬もいっしょに入っているのです。
★六味丸(茯苓 山薬 山茱萸 沢瀉 地黄)
山薬 山茱萸 地黄 補腎薬
沢瀉 茯苓 利水を助ける
牡丹皮 血の巡りをよくする
◎足腰のだるさ、尿量異常 めまい、耳鳴り+ほてり
◎手足(体)のほてり(ほてりの原因は乾燥なので、冷やすのではなく、地黄、山薬による滋潤作用で改善)
★八味地黄丸(茯苓 山薬 山主逾 沢瀉 地黄 桂枝 附子)
桂枝 辛くて甘い 温
附子 辛くて 熱
◎足腰のだるさ、尿量異常 めまい、耳鳴り+冷え
◎赤ら顔の人に著効例あり
★牛車腎気丸(茯苓 山薬 山茱萸 沢瀉 地黄 桂枝 附子 牛膝 車前子)
牛膝と車前子は下肢専門薬
牛膝 下肢の痛み、しびれをとる
車前子 オオバコ むくみをとる
◎足腰のだるさ、尿量異常 めまい、耳鳴り+下肢の痛み、しびれ
六味丸 (茯苓 山薬 山茱萸 沢瀉 地黄)
八味地黄丸(茯苓 山薬 山茱萸 沢瀉 地黄)+(桂枝 附子)
牛車腎気丸(茯苓 山薬 山茱萸 沢瀉 地黄)+(桂枝 附子)+(牛膝 車前子)
附子(ブシ)
キンポウゲ科トリカブトの塊根
辛 甘 熱
温補薬
陽虚(気虚が進んで重症化したもの、冷えが加わったもの)で悪寒があり、発汗過多による陽気の不足、下半身の冷え、吐瀉するもの 冷えによる下痢
◎温補、回陽作用
◎鎮痛作用
◎足が腫れる
★苓姜朮甘湯(茯苓 白朮、乾姜、甘草)
◎冷えと一緒に湿(水)が溜まる人は、温陽利水の方法で治療します。
◎目標は、腰から下が水の中に座っている様に冷たい。おしっこはよく出るのに水が腰から下に溜まって冷えて痛みがあって重たい。下半身が重たくて立つ時に「よっこらしょ」となる人に用います。
◎西洋医学では腰痛の原因の8割はわからないと言います。腰から下が痛くて、変形性脊椎症や坐骨神経痛、脊椎分離症などの診断名でいろいろな治療をしているが、一向によくならなくて、接骨院に通っている患者さんがたくさんいます。腰が冷たい、重くて動かしにくい、俊敏な動作ができない、苓姜朮甘湯の効くひとは聞いたみると案外いるものです。
◎「おしっこが近い」
漢方でいう「淋症」です。これを西洋医学の概念で「膀胱炎」と置き換えてしまうと失敗します。同じ膀胱炎と診断しても病態によって使う方剤は異なります。
★五苓散(茯苓 猪苓 白朮 沢瀉 桂枝)
桂枝 温めたり発汗作用のある生薬。腎盂腎炎でも熱があっても悪寒のある初期の時期に使います。
◎舌もあまり紅みが強くなく、舌苔もあっても白い。
★猪苓湯(茯苓 沢瀉 黄芩 当帰 滑石 木通 甘草 山梔子 地黄 芍薬 車前子)
◎腎盂腎炎で熱が持続し、発汗が続き、脱水して不眠とかイライラが起きて来る場合に用いる。
◎舌は紅色で舌苔は黄色い。つまり熱証が明らかで脱水の程度も強くなっている
★五淋散(茯苓 沢瀉 黄芩 当帰 滑石 木通 甘草 山梔子 地黄 芍薬 車前子)
山梔子 黄芩 地黄は清熱薬
茯苓 沢瀉 木通 滑石 車前子は尿を出す薬
当帰 芍薬 甘草は尿道括約筋の攣縮を取る薬
★清心蓮子飲(麦門冬 茯苓 蓮肉 黄芩 車前子 人参 黄耆 地骨皮 甘草)
脱水が原因で、尿が濃くなって尿道を刺激することで膀胱炎のような症状を表す病態に対して使う方剤です。蓮肉 人参 麦門冬は脱水の補正 尿が濃くなって粘膜を刺激するのを熱症と捉えて、地骨皮 黄芩が入っている こういった脱水による炎症があって、元気のない人(気虚)用に人参 黄耆が入っています。また、気剤としても、精神的な頻尿にも効果ある。
「頭が痛い」
「腰が痛い」のところでもお話ししましたが、痛いから、とりあえずは「NSAIDs」とはいかないのが漢方薬で、なぜ、頭痛が起こっているのかを漢方の頭で考えなければなりません。漢方的に頭痛の原因を考えると「寒熱」「瘀血」「水毒」「気逆」など多彩で、また、気、血、水は連動しており、どのソフトを立ち上げて診断するか(証を決めるか)は、ちょっとコツがいったりします。頭痛に用いられる生薬は、桂枝、呉茱萸、山梔子、釣藤散、川芎などです。
★葛根湯(桂枝 麻黄 葛根 芍薬 生姜 大棗 甘草)
桂枝 のぼせ 動悸 自汗 悪風
桂枝湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草)+(麻黄 葛根)
【実】
◎「気逆」でのぼせによるもので、発散して頭痛に用いる。
★五苓散(茯苓 猪苓 白朮 沢瀉 桂枝)
【太陽】
◎口渇、不利、自汗、浮腫、頭痛
◎水の偏在が原因の頭痛 → 利水剤
◎桂枝は、気の巡らせて、利水剤のアクセル役(相乗効果あり、気血水は連動している)
★呉茱萸湯(呉茱萸 人参 生姜 大棗)
呉茱萸 お腹を温め、気を下げて、湿を除く。
【実 陰】
◎頭痛、吐き気(気逆)足の冷え(冷えのぼせ)の3つのトリアスで使用
◎重症の頭痛、冷えがあって、心下痞硬
◎「証」があっていれば、苦い呉茱萸湯でも楽に服用できます。
★桂枝茯苓丸(桃仁 牡丹皮 芍薬 茯苓 桂枝)
茯苓 めまい 動悸
瘀血(充血)→駆瘀血剤
◎「気逆」でのぼせによるもので、発散して頭痛に用いる。気の巡らせて、駆瘀血剤のアクセル役(相乗効果あり、気血水は連動している)
★加味逍遙散(牡丹皮 当帰 芍薬 白朮 茯苓 薄荷 柴胡 山梔子 乾姜、甘草)
薄荷 柴胡 山梔子 清熱剤
冷えのぼせ(気逆により頭が熱くなって、足がひえる)
★川芎茶調散(川芎 防風 荊芥 薄荷 香附子 白芷 独活 細茶 甘草)
川芎 頭の瘀血をとる。
◎瘀血による頭痛に使う
◎感冒の頭痛
★半夏白朮天麻湯(茯苓 白朮 半夏 人参 陳皮 生姜 沢瀉 天麻)
茯苓 白朮 半夏 人参 陳皮 生姜(六君子湯に似る)
沢瀉(利水剤)
天麻(めまいを治す)
【陰虚】胃腸が弱く、天候の変わり目に増悪する。
◎軽度の持続性の頭痛 めまいを伴う(水滞)
◎気鬱、気虚 冷え
★鈎藤散(石膏 釣藤鈎 陳皮 半夏 麦門冬 茯苓 人参 菊花 防風 甘草 生姜)
【少陽 中間】
◎高血圧に伴う慢性頭痛
◎朝方に起こる頭痛、耳鳴り、肩こりを伴う
◎とにかく、イライラするんです
イライラって、漢方的には、「肝気が盛んになりすぎるとイライラする」とあります。つまり肝の気が鬱屈し溜まってくるとイライラしてきます。そういう時には苦い生薬を用いよとされています。苦味の生薬は、清熱薬を使います。肝気と言えば「柴胡」が浮かびますが、鳩尾あたりの肝気が上がってきて胸胸苦満や往来寒熱の症状が出て来れば、柴胡で対応しますが、嘔吐、下痢、鼻血などの症状で現れれば、瀉心湯類(黄連+黄芩の入っている方剤)を処方します。
★三黄瀉心湯(黄連 黄芩 大黄)
黄連 黄芩 裏を清熱(裏熱)裏熱の原因は、ストレスもあるんですね。
★半夏瀉心湯(黄連 黄芩 半夏 乾姜 大棗 甘草 人参)
黄連 黄芩 裏を清熱(裏熱)
半夏 乾姜 嘔吐を治す(五苓散のように利水の生薬は入っていない)
★黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)
◎黄連 黄芩 黄柏 山梔子 裏の清熱薬がすべて入っている(裏熱)
◎顔面紅潮 「気」「血」の上衝を伴うイライラ、不眠
◎イライラのファーストチョイス
ところで、石膏も清熱の生薬ですよね。瀉心湯類(黄連+黄芩の入っている方剤)との使い分けはどうしたらいいでしょうか?
黄芩、黄連などの生薬は「燥」です。つまり、乾かす生薬なので、処方を決める前に、必ず舌診をして乾燥していないことをチェックしなくてはいけません。石膏は「潤」です。つまり、潤す生薬なので(汗出て)乾いている時に用います。
湿気が多いところには苔が生えますよね。人間の舌の表面にも、舌苔がつきますが、舌の色が見えないくらいの分厚いベトベトした汚い苔を膩苔(じたい)といいます。舌苔などがあって、湿っていたら瀉心湯類(黄連+黄芩)の適応となります。
◎「めまい、耳鳴りがする」
漢方的には、めまい、耳鳴りは「水毒」が原因のことが多いとされています。だから、春先(2〜4月)や梅雨の時期などに患者さんが増えるんですね。水毒というと、西洋医学では「水中毒」をイメージされ、水が余っている「浮腫」ということで、利尿剤の適応と考えます。しかし、漢方では、浮腫に限らず、めまい、耳鳴り、頭痛、嘔吐、嘔気、下痢、むくみ、口渇、発汗、痰など水に関係するトラブル(水の偏在=分布の異常)をすべて水毒と言います。例えば、二日酔いの場合、顔とか手がパンパンにむくんでいますが、喉が渇きます。(西洋学的には、サードスペースには浮腫があり、血管内は脱水あり)水が偏在しているわけです。漢方では、これらの水のトラブルに対応する代表的な生薬(茯苓、猪苓、沢瀉、白朮、蒼朮など)を組み合わせた方剤を利水剤といいます。利水剤は、体の中に偏在した水を適切なバランスに戻す薬なので、水が余っていれば、利尿剤と同じように体外へ尿として出しますが、だた偏在しているだけなら、余っているところから足りていないところへ水を誘導します。よって、利水剤は、浮腫(水が余っている)にも脱水や下痢(水が足りない)どちらの疾患にも対応できる不思議な力を持っている訳です。
「水毒」の問診としては、むくみ易い、汗かき、めまい、耳鳴り 冷え症の人が多い。舌診では、歯痕が見られます。腹診では、胃内停水が、水毒のサインです。
★苓桂朮甘湯(茯苓 桂枝 蒼朮 甘草)
蒼朮 主治は、口渇とめまい
気逆+水滞
めまいの処方の代表です。あまり激しくない眩暈に使われる
◎熱病で嘔吐、下痢して心窩部が膨隆(胃内停水)して下から上の方に突き上げ、胸がドキドキして頭がフラフラするものに用いる。
◎うっ血性心不全があって、階段を上ると息切れ、たちくらみ
◎めまい、ふらつきがあり、動悸あり、尿量が減少するもの
◎めまい+神経症状(掻痒感、頭痛、不眠など)30分で効く。のぼせているようなめまい
茯苓(ブクリョウ)
サルノコシカケ科のマツホド(上品)
甘 平
利水剤
主治は、眩悸(頭がボーとして目眩がする)口渇 小便不利(おしっこがでにくい)健胃作用
安神(落ち着かせて)利水す。神農本草経によると「逆気、うつ、恨み、驚邪恐悸など」なんとなく脅脅しい字面が並んでいます。神経質やノイローゼ、動悸などの適応もあり。
動悸とめまいには茯苓
サルノコシカケ科のキノコ類には抗ガン作用のあることは古くから知られており、茸類に含まれている多糖体によると言われています。
★五苓散(茯苓 猪苓 白朮 沢瀉 桂枝)
◎茯苓、猪苓、白朮、沢瀉と4つも利水の生薬がはいっています。これに桂枝が加わっています。気血水は連動しているので、ただ、水だけ調節する生薬をたくさん入れるだけでなく、「気」を巡らせる桂枝を配置することで、利水効果がより相乗的に働きます。
茯苓 めまい 動悸
白朮 胃内停水など脾虚 四肢痛
沢瀉 頭冒感
猪苓 下痢 熱淋
◎「喉が渇きますか」「五苓散」の治療目標は「口渇」です。
◎尿不利(尿量減少)浮腫、自汗
★半夏白朮天麻湯(茯苓 白朮 半夏 人参 陳皮 生姜 沢瀉 天麻)
茯苓 白朮 半夏 人参 陳皮 生姜(六君子湯に似る)
沢瀉(利水剤)
天麻(めまいを治す)
【脾胃論】
◎軽い持続性のめまい
★小半夏加茯苓湯(茯苓 半夏 生姜)
半夏+生姜=嘔気に用いる処方
◎妊娠悪阻に
◎嘔気は強いが、嘔吐はそれほどでもなく、粘液のようなものを少量づつ吐く。
◎半夏厚朴湯(茯苓 半夏 生姜 厚朴 紫蘇葉)で代用可能です。
◎吐気がある時は、冷まして(氷でもOK)からチビチビ服用する。
◎「二日酔い」「嘔吐」
気持ちが悪いというのを治すのも漢方は得意ですね。いろいろありますが、どちらの方剤を選ぶ時のキーワードは「喉がかわきますか?」というわけです。
★五苓散(茯苓 猪苓 白朮 沢瀉 桂枝)
茯苓、猪苓、白朮、沢瀉 利水の生薬(水毒に使用する。水が多いところと少ないところが偏在している)
桂枝 気を巡らす 利水効果に相乗的(気血水は連動している)
◎二日酔いで、気持ちが悪くてゲッーと吐いているのに、喉が渇く時(水毒)に使います。
◎太陽病で発汗療法をして大量に汗が出たが、まだ太陽期(脈が浮)で口渇があって水を飲むがいくら飲んでも口渇がおさまらず尿は少ししか出ない、脱水症状で五苓散を用いる。
◎嘔吐下痢症(ロタウイルス) 「水逆」の嘔吐、口渇があり、水を飲むが、その水が吸収されずにそのまま嘔吐します。嘔気がなく、大量の水を吐き出すようにゴボーっと出る感じです。血管内は脱水しており、口渇は感じますが、胃腸には大量の水がある(胃内停水)
◎五苓散の飲ませ方は、水で飲ませると嘔吐して効きません。片栗粉や重湯など粘り気のあるものを盃に入れて、そこに溶かして練り込み、砂糖を入れてもOKです。少しずつスプーンで口に入れるとチュチュと吸います。服用して15分嘔吐しなければ効きます。(15分以内に吐けば、もう一度飲ませる)
★半夏瀉心湯(黄連 黄芩 半夏 乾姜 大棗 甘草 人参)
黄連 黄芩 裏を清熱(裏熱)
半夏 乾姜 嘔吐を治す(五苓散のように利水の生薬は入っていない)
◎二日酔いで、気持ちが悪くてゲッーと吐いていても、喉が渇くのではなく、生唾が上がってくるような水が余っているような時に使います。
◎これって更年期かしら?」
更年期障害の調査票として有名なKupperman指数でも、ほてり、発汗、しびれ、不眠、イライラ、気分障害、めまい、疲れやすい、肩こり、関節痛、頭痛、動悸、皮膚の異常などの項目があり、本当に症状が多彩ですよね。いわゆる不定愁訴(訴えが多彩でいろいろと変わる)とか言われるように、多くの症状に対応しなくてはなりません。西洋薬で対応しようとすると、HRT(ホルモン補充療法)になりますが、女性ホルモンの投与だけで解決できるほど甘くないのが更年期障害です。その背景には、仕事の問題や家庭問題(子離れ、親離れ、夫婦間、親の世話など)などが複雑に絡み合う年代特有のストレスがあります。漢方薬でも更年期障害の場合は、「血」の異常を治療するのは当然ですが、プラス「気」の異常も考えて多くの生薬が含まれた方剤を選ぶことになります。
更年期障害の治療には、この「気」の異常をいかに取り扱うかが大切です。
「気」とは、目に見えない生命活動を維持する根源的なエネルギー(生気)です。「気逆」「気鬱」「気虚」があります。
「気逆」 逆上した「気」を発散させる。降気させる。冷やす。(鎮静) 山梔子 薄荷 桂枝 竜骨 牡蛎
「気鬱」 胸のあたりに滞った「気」を発散させる。(理気) 厚朴 蘇葉 香附子
「気虚」「気」を補う(補気) 人参 甘草 黄耆
「気逆」
気が頭の方に上がる状態を言います。いわゆる「カッとなる」という感じで、頭痛、顔面紅潮しのぼせたような顔、動悸発作、イライラ 怒りっぽい、冷えのぼせ、嘔吐、激しい咳嗽などを呈すると考えられています。
★桂枝加桂湯(桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草)
【陽明 実】
◎瘀血+気逆 上衝、精神不安、易怒性、便秘
◎桂枝湯に桂枝を追加する。(ちなみに、桂枝湯に芍薬を追加すると桂枝加芍薬湯)
◎奔豚の病は少腹より起こりて、上がって咽喉を衝き、発作すれば死せんと欲して復還り止む。皆驚恐より之を得。
このようにブワーと不安感が突き上げてきて心臓がドキドキするようの病態を「気逆」「気の昇逆」=奔豚気病と呼ばれ、金匱要略の八章にまとめられています。治療としては、苓桂甘棗湯が紹介されていますが、市販薬にはないので、苓桂朮甘湯+甘麦大棗湯の合方で対応することになる。
臍の周囲に手をそっと置いて、大動脈の拍動を触れれば、臍傍悸ありとなります。(強く押さえれば、誰でも触れます)気逆は、上半身から下半身にいくはずの気が逆流してしまった状態です。頭痛、顔面紅潮、動悸発作、イライラ 怒りっぽい、冷えのぼせ、嘔吐、激しい咳嗽(急に起こることも特徴)などを呈すると考えられています。
「臍傍悸」があれば、「気逆」
★桂枝加竜骨牡蛎湯(桂皮 芍薬 生姜 大棗 甘草 竜骨 牡蛎)
◎桂枝湯+竜骨 牡蛎
温薬 表を暖めて汗をかかせる生薬(発汗解表)
汗して腫せず(汗して腫の黄耆との違いです)
降気作用(気の上衝による精神不安、不眠、めまいを治す)
駆瘀血作用
鎮痛作用
上気を治す
上気咳逆(気が上がって咳が出る)
「のぼせはありますか」
「長風呂は苦手ですか」
「八ツ橋は好きですか」
ちょっと赤らんだ顔(のぼせ)
★桂枝茯苓丸(桂枝 芍薬 桃仁 牡丹皮 茯苓)
桂枝 のぼせ
茯苓 動悸 頭帽感 めまい
【少陽 中間〜実】
◎気逆+瘀血
◎気鬱の生薬は入っていません。
◎発作的なのぼせ
★大承気湯(大黄 芒硝 枳実 厚朴)
大黄、芒硝(両方入っている方剤を承気湯類(気剤)という)
◎余った「気」を捨てる
★桃核承気湯(桂枝 桃仁 大黄 芒硝 甘草)
大黄 芒硝 お腹がぱ〜んと張っている
桃仁 少腹痛
桂枝 気の上衝
◎ヒステリー(其の人狂の如く)で、下腹部が痛い人に使用する。気逆+少腹急結
◎余った「気」と「血」を捨てる
漢方の処方を決める時には、直接の訴えとは関係のない「のぼせはありますか」「便秘はありますか」「食欲はありますか」「寝汗はありますか」「夜は寝られますか」「おしっこが近いですか」「むくみやすいですか」などいろいろな事を聞きますよね。これは、漢方薬を選ぶ上でのキーワードを探しているわけです。
「気鬱」
気が滞る、塞いでいる状態です。 喉の閉塞感(食道神経症、ヒステリー球)心下痞硬 抑うつ傾向、情緒不安、胸満感、腹満感などを訴えます。
★半夏厚朴湯(半夏 生姜 茯苓 厚朴 蘇葉 生姜)
半夏+生姜 嘔気に使用
◎婦人、咽中に炙れんあるがごとき(食道閉塞感 食道神経症)「気鬱」
◎逆流性食道炎の様に、胃から水や気が上がってきて(心下部の気鬱)喉がおかしいような場合に使います。だから適応症に、咽痛、咳、さ声などあります。
★女神散(桂枝 香附子 丁子 木香 黄連 黄芩 当帰 川芎 人参 蒼朮 甘草)
香附子 気を巡らせる
木香 気を巡らせる
黄連 胸騒ぎがする 鳩尾が詰まった感じ
【陽 中間】
◎更年期で「気鬱」が主体(気逆も)同じことを何回も言う
◎「気鬱」だけで、「血」の異常がなければ、半夏厚朴湯でOK
◎軽い「気鬱」だけならば、香蘇散でOK
胸脇苦満(きょうきょうくまん)
気鬱の所見
季肋部の下に指を差し込もうすると苦痛感や抵抗感あれば、「胸脇苦満」ありとします。しし
「胸脇苦満」があれば「柴胡」
気鬱は、気の流れが停滞して、どんよりとして、胸部から喉のあたりに詰まった、塞いでいる状態が気鬱(気滞)と言います。喉の閉塞感(食道神経症、ヒステリー球)抑うつ傾向、情緒不安、胸満感、腹満感などを訴えます。下痢の時に「裏熱」と診断しましたが、ストレスで「気」が心窩部が詰まった感じがする「心下痞硬」も「裏熱」であり、それが上に上がってくると「胸脇苦満」になります。
四診の項で説明済みですが、望→聞→問→切の順番で優先順位があることは気をつけなければなりません。問診で胸が苦しい感じがあると胸協苦満を訴えていたら、腹診で胸協苦満が見られなくても胸協苦満ありと判定して、柴胡剤の証とします。つまり、切(腹診)より聞→問診が優先されるわけです。反対に問診で胸協苦満がなくても腹診で胸協苦満を認めれば、胸協苦満ありと判定しても差し支えありません。但し、禁忌の所見がないことが条件ですので注意が必要です。もし望診(舌診)で赤くて乾燥した舌が見られたら、柴胡は乾いた人には禁忌なので問診や腹診で胸協苦満を認めても柴胡は使えません。
腹診での胸脇苦満を言い出したのは湯本求心先生(明治時代)で最近のお話ですね。あまり、関係ないと言われる先生もおられて、胸脇苦満については、問診の方が大事な様な気がします。
「胸脇苦満」は「気」の異常では出やすいのですが 胸部の嫌な感じ、詰まった感じ、締め付けられる感じがするとか狭心症様の症状に似ています。胸部全体の広い範囲では「柴胡」、胸骨部の狭い範囲(心窩部)なら「黄連」を使います。
「柴胡」小柴胡湯(柴胡と黄芩) 「黄連」半夏瀉心湯(黄連と黄芩)
心下痞硬(しんかひこう)は他覚症状
気鬱の所見。
心下部に硬い塊が触れる。(肝気の亢進)
ちなみに「心下痞」は、自覚症状
「実」なら生姜、瀉心湯
「虚」なら人参
重要 漢方の診断の優先順位は、望聞門切です。問診で「心下痞」の訴えがあれば、あえて切診(腹診)で「心下痞硬」の確認をする必要はありません。腹診をして「心下痞硬」を認めなくても気鬱の診断は変わりません。
ちなみに、気鬱がどこにあるかで使用する生薬が違います。
胸部 柴胡とか黄芩で、
心下部 厚朴とか枳実で、
腹部 芒硝とか大黄で、
応用編ですが、心下部と腹部なら、大承気湯
胸部と心下部 柴朴湯や四逆散
胸部、心下部、腹部全部だったら大柴胡湯
瀉心湯類(黄連+黄芩の入っている方剤)
鳩尾が詰まった感じで、嘔吐、下痢、肝気の亢進(イライラする)などの症状で使用します。黄芩 黄連などの生薬は、清熱薬に分類されますが、乾かす生薬でもあるので、方剤を選ぶ前に、必ず舌診をして乾燥していないことをチェックしなくてはいけません。
湿気が多いところには苔が生えますよね。人間の舌の表面にも、舌苔がつきますが、舌の色が見えないくらいの分厚いベトベトした汚い苔を膩苔(じたい)といいます。舌苔などがあって、湿っていたら瀉心湯類(黄連+黄芩)の適応となります。
★半夏瀉心湯(黄連 黄芩 半夏 乾姜 大棗 甘草 人参)
黄連 黄芩 裏を清熱(裏熱)
半夏 乾姜 嘔吐
◎裏熱の原因には、下痢や二日酔いもありましたが、ストレスもあるんですね。
★黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)
【少陽 実】
◎黄連 黄芩 黄柏 山梔子 裏の清熱薬がすべて入っている(裏熱)
◎顔面紅潮 「気」「血」の上衝を伴うイライラ、不眠
◎イライラのファーストチョイス
◎実証 熱証に使う
「気虚」
気が足りない、失せいている状態を言います。消化吸収から起こるので食欲不振があり、体がだるい、疲れやすい、気力がない、音声無力、かぜをひきやすい、日中から眠くなるなどの症状がでます。
「気虚」の所見は、「何となくしんどい 食欲もない」のところを参考にして下さい。
興奮(イライラ) 柴胡 黄芩 黄拍 山梔子
不安感 甘草、酸棗仁
焦燥感(あせり) 竜骨 牡蛎
更年期障害と言えば、加味逍遙散という有名な処方があります。
★加味逍遙散(山梔子 薄荷 柴胡 牡丹皮 当帰 芍薬 蒼朮 茯苓 生姜 甘草)
竜骨 大型哺乳類の骨 鎮静
薄荷 発散させる。すっきりさせる。
山梔子 熱くなっているものを冷やす
柴胡 気鬱をはらす
茯苓 動悸、めまい
【少陽 虚 万病回春】
◎気の生薬(山梔子 薄荷 柴胡)血の生薬(牡丹皮 当帰 芍薬)水の生薬(蒼朮 茯苓)が入っている。
◎「気逆」「気鬱」がメイン(冷えのぼせ、易興奮性、肩こり)
◎軽度の胸脇苦満、臍上悸
★柴胡加竜骨牡蛎湯(柴胡 黄芩 半夏 人参 大棗 生姜 桂皮 茯苓 竜骨 牡蛎 大黄)
【陽 実 傷寒論「煩驚」】
◎気鬱 便秘
◎ストレスで神経過敏 動悸 息苦しさ 不眠
◎小柴胡湯+竜骨 牡蛎 桂皮 茯苓 甘草
牡蛎 驚きやすい時に使う。神経過敏(竜骨をいっしょが多い)
◎小柴胡湯(胸脇苦満)めまい、動悸、精神的に不安定=気の異常のフルコース
★柴胡桂枝乾姜湯(柴胡 黄芩 栝楼仁 桂皮 牡蛎 甘草 乾姜)
柴胡 黄芩 胸脇苦満(鬱っぽい)心煩の者(心臓の辺りが煩わしい)
◎虚労口乾(疲れ切って、口の中がパサパサに乾燥)
◎「生理痛、冷え症で・・・」
女性の生理に関する疾患のことを「血の道症」と言ったりします。漢方で言う「血」の概念は、血液というよりは、その栄養分というイメージでしょうか。「血」のトラブルには、「瘀血(おけつ)」と「血虚」があります。「瘀血(おけつ)」は血の巡りが悪いということで、「血虚」は、西洋医学の貧血をイメージしがちですが、それだけではなく、栄養分が全身の隅々にまで行き届いていないということのようです。
まずは、望診で当たりをつけますが、そういう目で見ていると、患者さんが診察室へ入ってきた瞬間に、”あっ瘀血が来た!”とわかるようになるようです。何事も反復トレーニングですよね。肌がくすんだ感じで、目の下のくまや口唇が紫色になっているなど・・・。聞いてみると、頭痛、生理痛、冷え性、痔核などがあるようです。
瘀血(おけつ)のサイン
瘀点 瘀斑 舌下静脈の怒張
細絡(膝や大腿、腰、肩のあたりに毛細血管の拡張)
少腹急結(少腹硬満)(しょうふくきゅうけつ(こうまん))
臍から下の下腹部に、ピンポン球〜オレンジぐらいの圧痛を伴う固まりあり。
「少腹急結(少腹硬満)」があれば「駆瘀血剤」
生薬でいうと、牡丹皮、桃仁、紅花、大黄。
重要 漢方の診断の優先順位は、望聞門切です。望診(舌診)で瘀血を認めたら、あえて切診(腹診)までする必要はありません。腹診をして確かめることはやぶさかではありませんが、少腹急結を認めなくても瘀血の診断に揺るぎはありません。
駆瘀血剤の代表選手を紹介しましょう。
★桂枝茯苓丸(桂皮 芍薬 茯苓 桃仁 牡丹皮)
【少陽 中間】
◎下腹部圧痛
★桃核承気湯(大黄 芒硝 桃仁 桂皮 甘草)
承気湯 大黄と芒硝がセットになっていて、お腹が張って仕方がない時に使う処方です。便秘などがある
桃仁 仁は種を表している。仁は潤す作用あり、皮膚がカサカサした患者さんに使用する。
大黄 強い瘀血があり、駆瘀血剤だけでは難しそうなら、大黄を合法する。経
大黄 瀉下 鎮静 清熱 破血
【実】
◎少腹急結、のぼせ イライラ 便秘 瘀血 気逆 肩こり
★大黄牡丹皮湯(桃仁 牡丹皮 甘草 冬瓜子 大黄 芒硝)
牡丹皮 下腹部痛が強いとき。
冬瓜子 排膿 瀉下
虫垂炎 憩室炎
【実】
★通導散(紅花 蘇木 当帰 大黄 芒硝 厚朴 枳実 陳皮 木通 甘草)
紅花 最も強力な駆瘀血剤 血腫につかう。
蘇木 駆瘀血剤
【少陽 実】
牡丹皮(ボタンピ)
ボタン科のボタンの根の皮(中品)
苦 辛
駆瘀血剤 清熱剤
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。春から夏へかけて華麗に咲く。東洋の女帝とも呼ばれる。
清熱し、血熱を鎮める。瘀血を除き、生理を調える。
下腹部に圧痛がある時に使う生薬。守備範囲は、下腹部の圧痛。
血虚のサイン(抗がん剤を使うときの患者さんをイメージしましょう)
舌が肌色(赤みが乏しい)
◎「血虚」を主治する生薬は、当帰 川芎 芍薬 地黄
血虚を主治する代表選手を紹介します。いろいろな「証」の中で、血虚が一番治りにくい、時間のかかる病態です。瘀血から血虚までのスペクトラムを考えて、処方を選ぶようにしましょう。
四物湯(血虚を主治)の仲間たち
四物湯 (当帰 川芎 芍薬 地黄)
温清飲 (当帰 川芎 芍薬 地黄)黄連 黄芩 黄拍 山梔子
当帰芍薬散(当帰 川芎 芍薬 )沢瀉 茯苓 蒼朮
温経湯 (当帰 川芎 芍薬 )人参 麦門湯 甘草 阿膠 牡丹皮 呉茱萸 半夏 生姜
当帰飲子 (当帰 川芎 芍薬 地黄)荊芥 防風 疾梨子 何首烏 黄耆)
★四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)
地黄 潤す作用 酒服すると胃が痛くない
◎不正出血
★十全大補湯(当帰 川芎 芍薬 地黄 人参 茯苓 蒼朮 甘草 桂皮 黄耆
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)=血虚への処方と四君子湯(人参 茯苓 蒼朮 甘草)=気虚への処方の組み合わせ
★温清飲(当帰 川芎 芍薬 地黄 黄連 黄芩 黄拍 山梔子)
温(温める)清(冷やす)生薬の組み合わせ。
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)と黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)の組み合わせ。
赤切れやアトピー性皮膚炎などになると血虚の状況と局所の炎症を冷ます薬を汲みあせる必要があります。
★当帰芍薬散(当帰 川芎 芍薬 沢瀉 茯苓 蒼朮)
【陰 虚】瘀血 水滞 冷え
◎血虚と水のトラブル
◎冷え性でブチャとして水膨れ、表面の皮膚はカサカサしていて、中が水膨れになっています。
★温経湯(当帰 川芎 芍薬 人参 麦門湯 甘草 阿膠 牡丹皮 呉茱萸 半夏 生姜)
◎当帰芍薬散の兄弟分ですが、血虚と体を潤す生薬(人参 麦門湯 甘草)の組み合わせ(水が余っているようなら当帰芍薬散、水が足りない(乾いている)なら補う処方を)
◎冷えのぼせ(足冷 上衝傾向 口唇の乾燥)
★当帰飲子(当帰 川芎 芍薬 地黄 荊芥 防風 疾梨子 何首烏 黄耆)
◎血虚の肌で慢性に皮膚がかゆい。乾燥肌(老人性皮膚掻痒症)
冷え性
子供の頃に冬に自転車通学していると耳がシモヤケになって瘡蓋ができて黄色い液が出て、痛痒かったのを覚えています。寒い中、手足が冷たくなるのは程度が超えれば、誰でも当然と言えば当然ですが、同じ様に自転車通学していてもなんともない子もいました。そうなりやすい体質(冷え性)はあるんでしょうね。冷えは膠原病や甲状腺機能低下症、低血圧症や貧血などの原因があれば治療を行えば良くなることもあるでしょうが、冷え性の多くは検査を受けても明らかな異常が見つけれないことが多く、西洋医学では対応が難しい。
どういった処方を出すか決めるためには、なぜ冷えているのかその原因を考えることが大切です。瘀血は血の巡りが悪くて鬱血が起こっている所見があれば、駆瘀血剤(桃仁、牡丹皮・・)を使います。血虚は貧血ではありません。血の巡りが悪くて、末端まで血が十分に行かないことで、シモヤケができやすい、爪の色が悪い、アカギレになったり、皮膚がカサカサ、毛が抜けたりがあれば、四物湯類(当帰、川芎・・)を用います。「血」の巡りが悪いと冷えがきます。しかし(冷え症)=「血」の異常だけはありません。「水」が溜まっても冷えますし、浮腫とかがあれば、利水薬(茯苓、白朮、沢瀉・・)を用います。「気」が足りなくても冷えますよね。気は血や水を巡らせる根本的なエネルギーですから気虚や気鬱があれば、血や水も動かない、冷えも出てくるわけです。エネルギー(熱源)不足を補うために、補気剤である補中益気湯、六君子湯などを処方することで冷えが解決することもあります。
しかしながら、いろいろと問診しても、現在の日本の快適生活自体に原因があり、自分では気づけない冷えの場合もあります。運動不足(汗をかかない)冷たい水をたくさん飲んでいる、甘い物とたくさん食べる(むくみやすい)クーラー漬け(肌の露出も多い)などに対する養生も大切です。治療方針は、冷えの原因を診断しながら、治療するわけですが、最近の20代のお嬢様方は、本当に冷え方が尋常でなく、ただ、駆瘀血剤や四物湯類を処方するだけではびくともしない症例も多く、まず、附子などで温めて巡りもよくして(もともと熱がない場合は、気を補いながら)対応しなければ良くなりません。
冷え性を温める生薬から考えると、附子、乾姜、細辛などがありますが、それぞれ得意分野が違います。附子は手足、乾姜はお腹、細辛は、咳、鼻水です。
★当帰四逆加呉茱萸生姜湯(大棗 桂皮 芍薬 当帰 木通 甘草 呉茱萸 細辛 生姜)
【太陰 虚】
当帰 木通 呉茱萸 細辛
桂皮 芍薬 生姜 大棗 甘草 桂枝加芍薬湯が入っている。冷えるとお腹が痛いと建中湯類です。
◎手足が冷えていて、脈が小さく途絶えそうな人で、しもやけ(凍傷)が適応と書いてありますが(四肢蕨冷)その前にお腹が冷えて痛がっている人という条件づけがされています。
★温清飲(当帰 川芎 芍薬 地黄 黄連 黄芩 黄拍 山梔子)
温(温める)清(冷やす)生薬の組み合わせ。
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)と黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)の組み合わせ。
赤切れやアトピー性皮膚炎などで紹介されましたが、しもやけも冷えとかゆみで同じ様な状況です。
★真武湯(茯苓 芍薬 蒼朮 生姜 附子)
◎お腹が冷えて(慢性の下痢)足が冷える。
★大建中湯(乾姜 人参 山椒 膠飴)
乾姜 お腹を温める
山椒 お腹の動きを活発にする
◎お腹が冷えて、腹部は軟弱無力で、腸の蠕動運動がみえるくらいで、ガスが溜まっている。冷え性である。
★八味地黄丸(茯苓 山薬 山主逾 沢瀉 地黄 桂枝 附子)
桂枝 辛くて甘い 温
附子 辛くて 熱
◎足腰のだるさ、尿量異常 めまい、耳鳴り+冷え
◎赤ら顔の人に著効例あり(のぼせるとこで相対的に足が冷えているような場合は、一人の体の中で寒と熱が錯綜していると考えれば四逆散)
★苓姜朮甘湯(茯苓 白朮、乾姜、甘草)
◎冷えと一緒に湿(水)が溜まる人は、温陽利水の方法で治療します。
◎目標は、腰から下が水の中に座っている様に冷たい。おしっこはよく出るのに水が腰から下に溜まって冷えて痛みがあって重たい。下半身が重たくて立つ時に「よっこらしょ」となる人に用います。
◎西洋医学では腰痛の原因の8割はわからないと言います。腰から下が痛くて、変形性脊椎症や坐骨神経痛、脊椎分離症などの診断名でいろいろな治療をしているが、一向によくならなくて、接骨院に通っている患者さんがたくさんいます。腰が冷たい、重くて動かしにくい、俊敏な動作ができない、苓姜朮甘湯の効くひとは聞いたみると案外いるものです。
手足の先が寒気がする場合って、インフルエンザに罹って、熱が上がって来るときにも寒気を感じますよね。風邪のページでも説明しましたが、体表で熱があっても体の中はもっと熱くなっているので、体表では寒気を感じてもおかしくありません。熱が作った「寒」は実際はどこもが熱いわけで、相対的にできた「表寒」を麻黄や桂枝で解表することで汗をかいて熱を外に捨てることによって悪寒が治ります。よって、冷え性も患者さん自身が、手足が冷たいと言ったとしても、実際に触ってみると本当に冷たい冷え性と、全く冷たくない冷え性があるわけです。触ると冷たい冷え性は、長い時間、寒いところにいて手足が凍傷になったような本当の冷え性ですが、触っても冷たくない冷え性は、体表面の温度は平熱で冷たくはないんですが、体の中が相対的に熱くなっていることで手足が冷たいと感じていると考えられます。
★四逆散(柴胡 枳実 芍薬 甘草)
柴胡 内なる熱を醒ます
枳実 心窩部に詰まったものを捨てる
芍薬 筋肉の緊張をとるリラックスさせる
甘草 安心させる
◎四逆散は、四肢が冷えるという意味です。冷えを自覚するけれども実際に触ると冷たくありません。体の中(裏)が熱くて、相対的に冷えているということです。(ストレスが溜まってイライラすると気が過剰に鬱屈すると熱を持って肝気鬱結→胸脇苦満)
◎柴胡 往来寒熱 ひとりの体の中で寒熱が錯綜している病態(自覚は冷え、他覚は温。ある時は冷え症、ある時はなんともない)
◎冷えのぼせ
◎「肥満症」に効く薬がありますか?
何時の時代もサプリメントの売れ筋上位には、ダイエット関連の商品がずらりとならんでいます。小林製薬の「ナイシトール」と呼ばれるやせ薬がヒットしたこともありましたね。実は「ナイシトール」は、防風通聖散という漢方薬なんですね。漢方薬には「肥満症」という保険病名のついているものがいくつかあります。ええ加減な病名ですね。なんのエビデンスもないサプリメントと変わらない病名が保険診療の医薬品についているので厄介ですね。漢方外来をしていると、必ず「漢方のダイエットの薬をください」って、薬局かのようにしらっと言う輩がきます。しかし、これを飲んだだけで、理想の体型になるような魔法の薬ではありません。余分の水が出て2〜3kgだけ減るでしょうけど、決して痩せているわけではありません。やはり、食事療法が一番大事ということは変わりないです。
★防已黄耆湯(防已 黄耆 白朮 生姜 大棗 甘草)
防已 黄耆 白朮 湿気をとる(燥の生薬)
◎「気虚」で脾が弱っているので、生姜 大棗 甘草が入っている。
◎主治 汗出で腫 浮腫あり(桂枝 汗出で、腫せず)
◎水太り 汗っかき(元気な汗と違って、元気がなくて水が保持できない)つまり、もりもり食べてむくんでいる人は適応ではありません。
◎浮腫んで、関節が動きにくくて痛い人に使う(関節痛)
★防風通聖散(大黄 芒硝 麻黄 石膏 黄芩 山梔子 滑石 防風 桔梗 連翹 荊芥 薄荷 芍薬 当帰 川芎 白朮 生姜 甘草
大黄 芒硝 清熱作用(便秘にも効く)
麻黄 石膏 裏に水をさばく
黄芩 山梔子 裏熱を冷やす
滑石 清熱
防風 桔梗 連翹 荊芥 薄荷 表にある熱、膿を発散する生薬
芍薬 当帰 川芎 補血
【実】
◎18個の生薬 内も外も冷やす、気も水も熱も食もすべて捨てる
◎やせ薬といいながら、実は浮腫がとれているだけ。(利尿剤の作用)2〜3kgの減少を認める事が多いが、それ以上は減りません。
◎肥満 高血圧 便秘
★越脾加朮湯(石膏 麻黄 蒼朮 大棗 甘草 生姜)
麻黄+石膏 表の水を裏に水を引き入れて乾かす作用
◎運動不足、食事(甘いものが好き)などで浮腫んでいる場合。
◎浮腫んでいる人は、体表が冷たかったり、冷え性の人も多い印象ですが、見た目の冷えで本当の冷え性ではありません。(中まで冷えていません)
◎「かゆい 湿疹で・・・」
湿疹の見分け方
皮膚に皮疹(発疹の総称)ができたとき、それが湿疹かどうかの判断が難しいのですが、かゆみを伴うことが手がかりになります。皮疹をよく見てみましょう。少なくとも数日から1週間以上、この症状が続きます。
まず炎症がおこると毛細血管が拡張し、血流が亢進して赤くなった状態を紅斑と言います。
→ 細静脈から滲出液がしみ出してくて、皮膚が少し膨らんできた状態を滲出性丘疹と言います。
→ さらに滲出液が貯まってくると小水泡となります。
→ 水泡内に炎症細胞の量が増えて濁りを認める状態を膿疱となと言います。(感染しているかどうか、つまり細菌がいるかいないかは関係ありません)
→ やがて大きくなった水泡や膿疱は破れて湿潤となります。
→ 滲出した滲出液が固まれば結痂と呼ばれます。
→ 最後に障害をうけた表皮細胞が脱落した状態を落屑と言い、治癒に向かいます。通常は、このような経過で進んで行きます。しかし、実際の臨床では、経過は多様で様々なパターンをとり、皮膚が赤く腫れたり、ぶつぶつ、水ぶくれ、かさぶたができたり、カサカサになったりと、さまざまの病変が集まっているのが湿疹です。どれか1つだけというのは珍しいわけです。また、治癒に至らず、炎症が繰り返されて、表皮が反応性に肥厚した状態を苔癬化と言います。湿疹は、いったん慢性化してしまうと、なかなか治らなくなります。慢性化させないためにも、適切な治療が大切です。
(湿疹三角)
滲出性丘疹 小水泡 膿疱 湿潤 結痂
★温清飲(当帰 川芎 芍薬 地黄 黄連 黄芩 黄拍 山梔子)
温(温める)清(冷やす)生薬の組み合わせ。
四物湯(当帰 川芎 芍薬 地黄)と黄連解毒湯(黄連 黄芩 黄拍 山梔子)の組み合わせ。
赤切れやアトピー性皮膚炎などで紹介されましたが、しもやけも冷えとかゆみで同じ様な状況です。
◎「不眠、寝られない・・・」
★酸棗仁湯(酸棗仁 甘草 知母 川芎 茯苓)
【虚】
◎眠剤ではなく、落ち着きがない、心配事があってドキドキして寝られない時(デパス=安定剤)
◎「肩が痛い・・・」
瀉血療法
黄帝内経 「経脈を通せば、気血が調う」
「奇跡のリンゴ」という本があります。「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介された、絶対不可能を覆したりんご農家・木村秋則さんのことを書いた本です。リンゴというとアダムとイブがエデンの園で食べたと言われ、旧約聖書の時代からあったようですが、その頃は木の実のようなものであったらしい。 現在、われわれが食べているリンゴは、ペリー来航後に日本に伝えられ、品種改良を重ねて「果物」となった現代農業の象徴的存在であり、農薬なしでは収穫量は90%以下になると言われています。前置きはこれくらいにします。ここで出てくる品種改良や農薬の発明により、リンゴという果物を創造してきた、きれいな美しい整然としたリンゴ畑がまさに西洋医学であって、一方で木村さんのリンゴ畑は、伸び放題に伸びた雑草、我が物顔にバッタが跳ね、蜂が飛び、カエルが卵を産み、野ねずみやウサギまでが走り回り、畑と言うよりは人の手の入らない野山の眺めである。自然を細切れに分解して理解しようとする自然科学の限界を悟って、りんごを土壌をも含めた無数の命がつながり合い、絡み合って存在している自然そのものとしてとらえること。リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。周りの自然の中で、生かされている生き物であり、人間も同じである。 病原体に絨毯爆撃を食らわすのではなくて、うまく折り合いをつける、これが漢方ではないかと思っています。