食べることは生きること 

食べることは大好きです。特別グルメというわけでもありませんが、旅行でいろいろなところに食べに行くのが楽しみです。おいしいものを食べていると幸せって感覚は、みなさん共通でしょうか?僕の場合、高級レストランや料亭で、マナーがどうこうとういのは、食べた気がしなくて苦手です。高松にいた頃は、週に3回はうどんの食べ歩きしていました。(今のように行列ができることはありませんでした。たかがうどんですよ、以前は普通に食べれました)岡山では、昼休みは、自転車で市内のラーメン店を巡っていました。学会に行く前には、B級グルメではありませんが、カレー、オムライス、ハンバーグ、そば、焼き鳥、居酒屋などをネットで探すのが慣例となっております。

老人ホームの嘱託医をしていますが、ほとんど寝たきり状態で、車椅子に乗せてもボ〜として意思の疎通をとるのも難しく、移乗も着替えもトイレも身の回りのことはほとんど全介助であったとしても、食事だけは独りで食べることできる方がたくさんいるのには、びっくりします。人間、いくら年をとっても食べることが一番楽しいようです。

白紙

食べることは、生きていくために必要不可欠であるばかりでなく、人間らしい生活の質に直接かかわってくるので、出来るだけ口から食べることを目指すわけです。脳卒中での急性期〜回復期における摂食嚥下障害への対応は理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などリハビリスタッフを中心に取り組まれていますが(回復期は、文字通り自然経過として放っておいても良くなることも多い)維持期である在宅、施設においては医師を含めた介護スタッフの摂食嚥下障害に対する関心や認識の乏しさからくる知識不足のため、十分な対応が出来ていないのが現状です。確かに慢性期、症状も固定化していて、良くなることは難しくても、現状を再評価し共通認識のもとに、廃用性を改善しケアすることで食事支援できることもたくさんあります。

さて、摂食嚥下障害のケアをするために、最も重要なことは、この症状(摂食嚥下障害)を起こしている原因がなにかということを診断することです。摂食嚥下障害をおこす主な原因は、廃用性と脳卒中と認知症、パーキンソン症候群です。脳卒中はその重症度によりかなり障害の度合いが異なりますが、認知症では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症脳卒中)それぞれの初期の段階においては、疾患毎に障害されやすい行程期が異なり、どの行程に問題があって、食べられないのか?ということを理解すれば、それぞれの病態にあった食事支援を考えることができます。パーキンソン症候群は、パーキンソン病及び薬剤性パーキンソニズムの治療が必要です。しかし、病気が進行してくるとどんなに一生懸命支援してもちょっと難しいなあという感じになってくるのは否めません。

 

摂食嚥下の5期

嚥下のメカニズムを解説しましょう。

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先行期
認知期ともいわれ、これから摂食する食物の性状を認知することにより、食べ方・唾液分泌・姿勢といった摂食に必要な準備を整える時期で、お箸をもって口に入れるまで。元気な人でも、いびきをかいて大きな口を開けて寝ている時に、突然口にお茶を入れられるとむせますよね。

準備期:食物を口腔に取り込み、歯で咀嚼して噛み砕いて、唾液をまぶして飲み込みやすい大きさの塊を形成する時期。(食塊形成期とも言います)ここは、意外と重要です。むせるのは喉ですが、ベビースターラーメンを袋の上から粉々に砕いて小さくしてもそのまま飲み込もうとすると(うまく食塊形成が出来ていない)健常者でも簡単にむせます。反対に食塊がドロドロになっていなくても、唾液でうまくまとめられると飲めるので、薬(錠剤やカプセル)を上手に飲めない人は、ゼリー状のものでくるめばすんなり喉を越えるわけです。誤嚥性肺炎は、咽頭期の嚥下運動障害が原因で起こると考えがちですが、実際は、この準備期の食塊形成が最も重要なのです。

口腔期:食塊を舌によって咽頭へ送り込む時期。随意運動(意識して行う運動)です。

咽頭期:食塊が咽頭に達すると嚥下反射が生じて、極めて短時間の間に一連の動きがおこり、食塊は勝手に食道入り口まで送られる。(不随意運動(意識しても止められない運動)となる。 実際に誤嚥が窒息が起こる現場です。しかし、本当に怖い誤嚥は、不顕性誤嚥と言って、咳やむせなどの症状がない嚥下障害が、誤嚥性肺炎を起こします。

食道期:食道壁の蠕動運動が誘発され、食塊が食道入口部から胃へと送り込まれる。食塊が逆流しないように食道入口部が閉鎖される。この時期での障害では、食事が咽頭に逆流してそれを誤嚥します。円背、胃瘻の人(栄養剤を半固形にしましょう)食道裂孔ヘルニア、パーキンソン病などがリスクになります。食後に、すぐに横にさせないことも大事です。薬剤では、消化管運動促進剤、下剤、制酸剤、六君子湯などが使われます。

 

先行期の障害を起こす疾患としては、認知症とせん妄、意識障害です。認知症の病態によって対応も変わります。せん妄は、薬剤が原因になることが多いようです。要するに、ボーとしていて食事として認識できていないことが問題です。

それぞれの疾患について考えていきましょう。

(1)アルツハイマー型認知症
摂食嚥下障害は、先行期のみの問題です。食事が認識できないのです。だからまず大事な対応は、「○○さん、食事、食べましょうか」と声かけすることです。お箸の使い方がわからないので持たせてあげると食事を始めたりします。途中で止まってしまっても「次、味噌汁飲みましょうか」とか「お芋、おいしいですよ」と声かけします。食事を食べるモードへ意識を上げるためにも声かけは重要です。また、アルツハイマー型認知症は、食事の情報量が多いと混乱してしまうので、食器の模様など絵柄がついていると気をとられて食事に気がつかず、食事を始められません。食器は無地なもので、食事が目立ち易い色を選び、たくさんのお皿じゃなくて、ひとつのお皿に盛りつけて出すような工夫をしてあげましょう。また、他人の食事を食べたり、異食、ハンガーストライキなどを起こしたりします。食事量が減った時には、アルツハイマー型認知症には、よくあることなので、気長に様子をみながら、味覚は甘いもの(エンシュア・リキッド)などを試してみましょう。

(2)レビー小体型認知症
姿勢の傾きがあり、食べこぼしなどが見られます。パーキンソン様の患者さんは、外的制御により動きやすいため、ごはんが目立つように、黒っぽい食器に白いご飯が入っている方が、箸を動かしやすくなります。また、ほとんどの患者さんに嗅覚障害があるので、味のしっかりしたもの(お酢、山椒など)暖かい、冷たいなどはっきりしたものを好みます。食欲もよく食べたり、あまり食べなくなったりと食欲が変動することもあります。稀に、液体を咽頭へ送り込めない口腔期の障害をが見られることもあります。(固形物と水分を交互に食事支援)

(3)前頭側頭型認知症
偏食、大食などが目立ちます。また、決まった経路を通ってこないと食事をしないとか、同じ場所でないと食事しないなど常動行動があり、介護に対する抵抗も見られ、結構手がかかりますが、そこはぐっと我慢が大事です。甘いもの(エンシュア・リキッド)を好みます。時々、固形物を咽頭へ送り込めない口腔期の障害が見られます。(固形物と水分を交互に食事支援)

(4)血管性認知症

認知機能は、ある程度保たれている事が多く、脳卒中の部位や重症度によっておこる麻痺による食事困難なので、持ちやすい食器の工夫なども大事です。

以上、認知症に伴う嚥下障害ですが、治療可能な認知症を見逃さないように気をつけなければなりません。それは、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症などです。

(5)脳卒中
脳卒中の急性期に嚥下障害を伴うことはよく見られますが、咽頭は両側支配なので、回復期には、ほとんどの症例で嚥下障害はよくなります。だから、初回の脳卒中で急性期に胃瘻などが増設されて、そのまま何の嚥下リハビリもされないままに、頭からこの人は食べられないと決めつけられて放置されているかわいそうな患者さんがいるので注意しましょう。しかし、何回も脳卒中を繰り返して、固定化した嚥下障害はよくなりません。

入院中にメジャーやマイナートランキライザーが投与されていて、そのまま退院となっているケースが散見されます。嚥下障害を起こしやすい薬剤のリストですが、ダントツのトップはリスペリドンです。その他としては、ハロペリドール(セレネース)クエチアピン(セロクエル)チアプリド(グラマリール)アルプラゾラム(ソラナックス)ジアゼパム(セルシン)などがあります。薬剤中止後も嚥下機能が回復するまで2週間以上かかる場合も報告されています。

 

準備期の障害は、食塊形成がうまくできるがどうかにかかっています。食塊形成がうまくできない原因としては、唾液が出なくなって(高齢者はもともと少ない)口腔内がカラカラになっていないかチェックしてみましょう。唾液の分泌が減るということは、食塊形成に多大な影響を与えます。年を取るということだけで、多くの人が、口腔内乾燥を自覚しています。

 

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やはり一番は、服薬しているお薬の副作用です。添付文書で、お薬はたくさんあります。薬の添付文書を見ると、700種類以上のお薬が副作用に口渇と書かれてあります。その中でも特に口渇の頻度が高いと思われる薬剤を挙げてみました。

合成抗ムスカリン作用薬 アトロピン、ガストロゼピン(胃酸分泌抑制)セルベックス、ムコスタ(胃薬)トランコロン(過敏性大腸症)ブスコパン(鎮痙薬)アーテン(抗パーキンソン薬)
抗うつ薬 トリプタノール(三環系)テトラミド(四環系)パキシル(SSRI)
抗精神病薬 セレネース、ドグマチール
抗ヒスタミン薬 ポララミン、アタラックス、アレグラ、タリオン等
尿失禁薬 ポラキス、バップフォー、ブラダロン
気管収縮抑制薬(抗コリン薬)アトロベント、テルシガン
利尿剤 フルイトラン、ラシックス、ダイアート
α2受容体刺激薬 アルドメット ワイテンス
ACE阻害薬 ARB阻害薬 レニベース ニューロタン、ブロプレス
不整脈薬 リスモダン
α1遮断薬 カルデナリン
Ca拮抗薬 ノルバスク、アダラート
スタチン系 メバロチン リピトール
筋弛緩薬 ミオナール、テルネリン
糖尿病薬 ベイスン
骨粗鬆症薬 アルファロール
H2受容体拮抗薬 ガスター、ザンタック、タガメット
プロトンポンプ阻害薬 オメプラール、タケプロン
制吐薬 プリンペラン、ノバミン
麻薬鎮痛薬 モルヒネ、オピオイド
ベンゾジアゼピン系 セルシン、ソラナックス、ドラール、ユーロジン、デパス
てんかん薬 テグレトール
抗パーキンソン薬 メネシット、マドパー、シンメトレル、ドバストン
抗がん剤 5−フルオロウラシル、テガフール

この薬、本当に必要? いらない薬を整理するだけで、食事が食べられるようになることもよくあります。

 

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食塊形成

「誤嚥」と言うと、咽頭期の嚥下反射ばかり注目されますが、実は、摂食嚥下障害の肝は、食塊形成をいかに上手にできるようにするかです。食塊形成がうまくするには、歯がどれくらい残っているか、入れ歯があっているか、舌や頬の筋肉がちゃんと動くか、唾は出るかなど、口腔機能全体の問題です。それぞれの問題についてできることをやってみましょう。

8020運動、日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」いつまでもおいしいものを食べ続けるためには大事なことです。老人ホームでは、義歯の方がほとんどですが、80歳で20本の歯が残っている人は25%もおられるようです。(平成19年)しかし、既に歯がない人にいまさら8020運動と言っても始まりませんね。

義歯の調整で、すべて解決というわけにはいきませんが、3割ぐらいの咀嚼機能の改善を期待出来ます。義歯は、押しつぶすという機能ができないので、苦手な食事として、硬いもの(イカ、タコ)弾力のあるもの(かまぼこ、こんにゃく)つぶのあるもの(イチゴ、ごま)粘着性のあるもの(もち、キャラメル)繊維の多いもの(海苔、葉野菜)などが挙げられます。また、義歯を調整しても、うまく食塊形成のできない人は、義歯を外しておかゆやペースト食にした方が、口蓋の感覚が向上し、舌と口蓋の距離が短縮することで、嚥下がうまくいく場合もあります。

舌や頬の筋肉は、口腔ケアが大切です。お口の中のお掃除といっしょに、機能的口腔ケアといって、お口のリハビリで、口腔機能を回復、改善させるケアです。適切な口腔ケアをすることで、唾液の分泌も増え、発熱予防、誤嚥性肺炎も予防出来ると言われています。認知症、心臓病、糖尿病も減らせるかも?

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口腔ケアと肺炎に関する研究(11施設の利用者500余名を対象)によると口腔ケアを受けた方のほうが、誤嚥性肺炎を起こす割合を40%下げることが報告されています。日々の口腔ケアが大切であることが示唆されました。

唾液は、唾液腺のマッサージを含めた口腔ケアなども効果的です。

 

口内環境が手に負えそうにない時は、歯科医師、歯科衛生士との連携が大切になります。生きるためには、食べることが大切です。在宅の高齢者のケアにおいて、摂食嚥下機能の維持は、人としてよりよく生きるために大切なことです。「食べたい」「食べさせてあげたい」 食べることで患者さんと家族はつながっています。
僕が嘱託医をしている特別養護老人ホームしらさぎの里では、つだ歯科の先生方に、義歯の調整、口腔ケアや嚥下の評価などしてもらっています。在宅でも歯科の先生方とうまく連携がとれれば、最後まで食べること対してできる支援はたくさんあるのです。これらの対応で、患者さんが持つ口腔機能で、食塊形成がどれくらいできるかを評価した上で、普通食、刻み食、おかゆ、ペースト食、餡をかけるなどその患者さんに合った食事形態を検討しましょう。

 

 

薬剤性パーキンソン症候群

嚥下障害は、病態のアセスメントがとても大切です。僕は、老人ホームの嘱託医をやっていますが、そこに入所されてくる高齢者は、脳卒中認知症だけでなく、いろいろな疾患との戦歴をお持ちの方が多く、山のようなお薬を飲んでおられる事もよくあります。そこで僕の最初の仕事は、必要だと思われるお薬以外はすべて中止します。(案外、全部止めても大丈夫なこともありますよね)cureはそろそろいいんではないでしょうか?人生の最後、美味しく食べる方が大事だとは思いませんか。

代表的な薬剤性嚥下障害(薬剤性パーキンソン症候群)原因薬剤を挙げてみましょう。

抗精神病薬 セレネースリスパダール セロクエル ドグマチール グラマリール
抗うつ薬 トフラニール トリプタノール テトラミド
降圧薬 ワソラン ヘルベッサー ノルバスク
制吐薬 プリンペラン ナウゼリン ガナトン ノバミン
β刺激薬 メチエフ
認知症 アリセプト
てんかん デパケン アレビアチン
不整脈 アンカロン アスペノン
抗がん剤 メソトレキセート 5−FU
漢方薬 麻黄湯 麻黄附子細辛湯
鎮咳薬 コデイン

 

嚥下造影検査(VF)嚥下内視鏡(VE)

嚥下造影検査(VF)は、誤嚥の有無がはっきりを視認できるのが、最大のメリットですが、病院(レントゲン装置)へ患者さんを連れて行かないとできません。嚥下内視鏡(VE)は、嚥下の瞬間は見えないことが欠点とされますが、在宅でも簡単にできる(家族もいっしょに見える)最大のメリットを生かして、実際にリアルタイムでいつも食べている食事が、気管に入らないで上手に嚥下出来ているかどうかを確認できるわけですが、それ以上に大事な事は、喉に送り込まれてくる食事がちゃんと食塊形成(歯で咀嚼して噛み砕いて、唾液をまぶして飲み込みやすい大きさの塊になっているか)できているかどうかをチェックすることなんです。大きな食塊がそのまま流れてきたら、窒息の危険性もあります。

 

誤嚥性肺炎/窒息

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食べる、飲み込む機能が障害されると食べ物を喉に詰めたり(窒息)食事中にむせたり(誤嚥性肺炎)を起こしたりします。食品が原因の窒息で死亡する人は年間4,000人以上と言われています。窒息事故が多く起こる年齢は、65歳以上の高齢者と4歳までの幼児に多く起こっています。原因となる食品には、餅や米飯、パンなどが報告されています。また、肺炎は現在、死亡原因の3位にまで上がってきていますが、そのうちの3/4は、誤嚥性肺炎と言われています。

誤嚥には、顕性誤嚥と不顕性誤嚥があります。健常人でも、真上を向いて水の飲んだら誤嚥しますよね。食べ物が気管に入ってもゲホッゲホッと咳やむせをしてなんとか出せて、セーフってことですよね。高齢者で咳が弱くて、少々入って、熱が出たとしても化学性肺臓炎と言って、数日で自然に治る場合がほとんどです。一方、不顕性誤嚥では気管に入っても、本人は誤嚥している自覚が全くありません。こっちが本当に怖い誤嚥性肺炎を起こします。

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不顕性誤嚥は、気管に食事(実際は口腔内の汚れによる細菌の増殖)が入っても咳が出ないために起こります。これは、嚥下機能の最も高位中枢である大脳基底核に血管障害や変性が生じてドーパミンが出なくなると、ドーパミンに誘導されて迷走神経知覚枝や舌咽神経知覚枝から咽頭に放出される神経伝達物質であるサブスタンスPの分泌が低下し、咳反射が低下するために誤嚥が起こります。つまり、不顕性肺炎が起こりやすいドーパミンが減少する疾患を憶えて、十分に注意する必要があります。

パーキンソン病
パーキンソン病関連疾患(進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症)
◎線条体黒質変性症(他系統萎縮症)
◎大脳基底核の脳卒中(ラクナ梗塞など)
◎レビー小体型認知症

食事介助

あなたにできること、まだまだあります。高い食事介助技術は、安全に効率よく食べられ、セルフケア拡大につながります。まずは、食べる環境づくりから始めます。食事時間が近づけば、体を起こして食事の時間を意識付けしながら食べる場所へ移動します。食事の場所もみんなでワイワイ食べるのが好きな方もいるし、端っこの他人の目が気にならない静かなところを好む方もおられるし、様々な環境を試して患者さんにとって最適な食環境を探りましょう。どうしても食事拒否が続く場合は、もともと住んでいた居住先に帰るとうまくいくこともあります。食べる姿勢も大事です。健常な人でも横になって食事を食べたり、上を向いて水を飲んだりすると食べにくくむせたりするものです。車椅子に座ることができる患者さんは、極力座位の姿勢で食事をするようにします。背もたれのリクライニングが必要かどうかは咽頭機能次第です。食事でどのようなポジショニングの調節は、左右のバランス、両足裏の接地させ軽く顎を引く姿勢などが重要です。脇を軽く開き、肘を食卓の高さまで上げて、胸郭を広く自由にすることで呼吸もしやすく咳ばらいもしやすい姿勢をとります。(誤嚥した時に十分な強さのむせを起こさせる)

食器やトレーを患者さんの正面下方に配置して食物認知を確保しましょう。食物認知、食塊が口の中に入ってくること食事中であることも認識させるためには、食具の操作も重要で、食器に手を添えさせて、スプーンは下方から上げていって、正面から口の中へ挿入する。スプーンを舌背中央に置いて、上口唇に沿わせるように上前方にスプーンを引き抜くようにします。こうすることで口唇でスプーンの動きを感知でき、口唇閉鎖動作は咀嚼と安全な嚥下の運動のきっかけになります。

セルフケア支援の視点も大切で、なるべく患者さんができることは自分でやってもらって、維持、向上を目指しましょう。食事をする時はできるだけ自分でスプーンを持ってもらいます。

 

嚥下訓練 先行期 準備期 口腔期 咽頭期 食道期
口腔ケア ×
摂食器官の運動 ×
顔面のアイスマッサージ × ×
口腔内のアイスマッサージ
喉のアイスマッサージ
空嚥下
頭部挙上訓練
構音訓練 × ×