心房細動
ドキドキする人はどうしましょう?ドキドキって恋ですか?脈が速い?脈がとぶ?心機亢進?どう表現するか難しいですよね。患者さんには、自分の心臓の動悸を、指でタップしてもらっています。
ドキドキする原因は、なんでしょうか? 不整脈でしょうか? 心電図で診断できればいいのですが、ほとんどの患者さんは、外来に来たときは脈は正常で、症状がありません。1週間に1回以上、症状があれば、ホルター心電図(24時間心電図)をオーダーしますが、時々しか症状のない患者さんはどうしたらいいでしょう。こんな時に威力を発揮する秘密兵器が、携帯型心電計です。
ホルター心電図で診断できなかった不整脈でも、携帯型心電計を2週間ほど貸し出すと大体わかります。 実は、ドキドキすると言っていたほとんどの人は正常なんです。期外収縮が30%、洞頻脈が10%程です。治療は「大丈夫です」「心配ありません」自信を持って断言することが重要です。患者さんを安心させる話術がなかったら、安定剤の処方もいいでしょう。ほとんどの不整脈は、あっても期外収縮です。何も不利益もありません。つまり、不整脈を放っておいて大丈夫なんです。期外収縮に対しては、原則として、抗不整脈薬は使いませんが(治療しても有効であったかどうかの判定が困難)使うとすれば、β遮断薬です。症状のつらさは、本人にしかわかりません。
最近、スマートウォッチで測定した心電図では、無症候性の心房細動も捕まえることができるようになってきました。Apple watchでは、指を添えるだけで心電図を記録することができます。心電図波形もノイズが少なく綺麗な波形で診断にもとても役に立ちます。心房細動を感知すると警告メッセージが表示されます。心房細動検知機能の精度については、2019年にNEJMに高い診断率であることが報告されています。
稀に、WPW症候群や発作性上室性頻拍、発作性心房細動などには、抗不整脈を使うこともあります。しかし、動悸が治まらない場合は、アブレーションなどのオプションを含め、専門医に紹介します。その前に、甲状腺機能亢進症、貧血なども気をつけましょう。
日本に心房細動の人はどれくらいいるのでしょうか?ある報告では、2000年で70万人、2020年には100万人になるとされています。しかし、これは慢性心房細動(心房細動が固定した人)の統計です。実際は、慢性心房細動になる前に、洞調律(規則正しい脈)と心房細動を行ったり来たりする(発作性心房細動)と言われる時期があり、さらに多くの心房細動の患者さん(おそらく150万人以上)がいて、日本の高齢化に従いどんどん増えているわけです。
聖路加国際病院心血管センターの人間ドック受診者9万127例を対象とした心房細動有病率について報告(2004年)では、全体の心房細動の有所見者は291人(0.32%)で、35~44歳の有所見率は男女とも0.1%未満であるが,男性では65〜74歳では2.1%,75〜84歳では、3.3%,85歳以上では8.8%と加齢により有所見率が上昇することが示されています。
ミスターGの長島さん、元サッカー日本代表監督オシムさん、元首相の小渕さん、みんな心房細動からの脳塞栓症に倒れました。
脳塞栓症は、心房細動という不整脈を持っている人に発症します。心臓の中で血の塊ができ、それが心臓から剥がれて脳の血管の中に流れ込んで、太い血管の根元に詰まることで、とても大きな脳梗塞を起こします。
心房細動治療において、生命予後に大きな影響を与える脳塞栓症予防は重要です。脳梗塞の病型の内訳では、以前は、高血圧を原因とするラクナ梗塞が多くを占めていましたが、近年、食生活の欧米化とライフスタイルの変化によって、アテローム血栓性脳梗塞や高齢化を原因とする脳塞栓症の比率が増加しています。(久山町研究)
また、脳塞栓症は、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞と比べて最も重症で、亡くなることも多く(1年生存率は、50%以上で、どんなタチの悪いがんよりも予後が悪い)重篤な機能障害を残しやす、寝たきりの要介護状態になる原因第1位であり、大きな社会問題でもあります。
さて、本題の心房細動についてのお話しをしましょう。唯一、介入によって、生命予後を改善できる不整脈です。
心房細動の患者さんの死亡率は、正常洞調律の人よりも悪いことは明らかです。特に心房細動発症後数ヶ月に死亡率が高く、注意が必要なことがわかります。
心房細動が見つかったら
まず、その心房細動患者さんの特徴づけを行います。
(1)脳塞栓症のリスク
(2)症状の重症度
(3)心房細動の頻度や持続時間
(4)年齢や心房のリモデリング、基礎疾患などの器質の評価
その昔、孤立性心房細動と呼ばれる患者さんが存在し、特に治療は必要ないとされています。つまり、若くて背景の基礎疾患がない心房細動患者さんです。一般的に「60歳未満で臨床所見と心エコー所見で高血圧を含めて心肺疾患のない心房細動」と定義されることが多くみられましたが、日本循環器学会の「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」から「孤立性心房細動」の呼称は使用されなくなり,「臨床上明らかな器質的心疾患(肥大心,不全心,虚血心)のない心房細動」(文献1)と表現されています。 みんながみんな脳塞栓症を起こすわけではないのです。では、どういった心房細動患者さんが、脳塞栓症を合併しやすいのでしょうか?
それを見分けるための多くの論文が出ており、脳梗塞のリスク評価を行った上で適切な抗凝固療法を行うことが必要です。脳卒中または一過性脳虚血発作の既往がある人、うっ血性心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病などの背景因子を持っている人がリスクが高いとされています。
これらの背景因子に点数を付けて、非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞発症リスクを層別化して評価したものがCHADS2スコアです。(CHADS2は、その頭文字をとっています。)心不全,高血圧,75歳以上,糖尿病をそれぞれ1点,脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)の既往を2点とした6点満点のスコアです。
では、このCHADS2スコアと脳梗塞の発症率は、どれくらい相関しているのでしょうか。2点以上で年間脳梗塞発症率が4%以上(5年で20%) 2点以上の患者では,抗凝固療法による塞栓症の予防効果が出血性合併症のリスクを上回るため,抗凝固療法が推奨されます。1点では,出血性合併症のリスクを加味して抗凝固療法の施行を考慮します。逆に0点の患者では,出血性合併症のリスクが塞栓症の予防効果を上回るため,抗凝固療法は不要と考えられます。 「孤立性心房細動」の患者つまり、年齢が若くて、他に心臓の病気もない、血圧もないような,CHADS2スコアは0点なので抗凝固療法は不要と思われます。また1点の場合でも,若年で器質的心疾患のないことから塞栓症のリスクは比較的低いと考えられます。
いずれにしても,抗凝固療法のメリット,デメリットを十分に患者に説明した上で治療方針を決定すること,経過とともに高血圧,心機能低下などを発症するケースがみられるため定期的なフォローを行い,常に塞栓症のリスク評価を行うことが重要です。
発作性心房細動の患者さんも結構多いようです。
発作性心房細動の人は抗凝固療法をしていないことも多いようですが、持続性(慢性)心房細動と同じように脳塞栓を起こすので、発作性心房細動の人も重症度や頻度、時間に関係なく、脳を護るためには抗凝固療法は必要です。
治療
(1)何を置いてもまずは脳を護る
(2)QOLや予後を検討して、心拍コントロールを行うのか、リズムコントロール(薬剤、アブレーション)を行うのか
(3)併発疾患の管理と治療を進めていくこと
脳を護る
治療の心房細動を侮ってはいけない最大の理由は、脳塞栓症の合併です。
心房細動患者さんの脳塞栓症を予防して、予後を改善するのは、唯一、ワーファリンのみでした。(DOACが出てくるまでは)ワーファリンは、脳塞栓症の一次予防の臨床試験で連戦連勝(抗血小板薬に対して)裏切ったことがありません。ワーファリンを投与することで、脳梗塞の発症を64%減少させることが証明されています。
ワーファリンとCHADS2スコアを考えて見ましょう。ワーファリンは、脳塞栓症を減らし、心房細動患者さんの予後を良くしますが、それは、脳塞栓症のリスクが高い患者さんの場合でした。ワーファリンは、脳梗塞を減らしますが、脳出血を増やします。つまり、諸刃の剣なのです。ワルファリンの治療域は、PT-INR(プロトロンビン時間・国際標準化比)で2.0~3.0です。PT-INRがその治療域を下回れば、脳梗塞を防ぐことができませんし、治療域を上回れば頭蓋内出血が増加することが報告されています。
臨床的な有用性(クリニカルベネフィット)は、副作用である脳出血(脳梗塞よりもより重症になりやすいため、1.5倍の重しをかけて計算)をその差し引きを考えるとCHADS2スコア2点以上と言うことになります。
では、CHADS2スコアが1点や2点の患者さんは、放っておいてもいいのでしょうか。実際は、CHADS2スコア1点の患者が33.8%、0~1点の患者で全体の約50%を占めています。さらに脳卒中の年間発症率はCHADS2スコア0点で1.9%、1点で2.8%発症していますから、CHADS2スコアは低い心房細動患者さんから、多くの脳梗塞発症者(約3割)を発症しています。
また、CHADS2スコアが0~1点の患者はリスクが少ないので、脳梗塞を発症しても軽症ですむというわけにはいかず、CHADS2スコアの点数に関係なく、脳梗塞を発症してしまうと、やはり社会復帰が可能な症例の割合は50%以下と予後不良です。
よって、CHADS2スコアが0~1点の患者さんも脳塞栓の発症予防は不可欠といことになります。しかし、CHADS2スコアが0~1点の患者さんには、ワーファリンはどちらともいえないとなると、この問題を解決するためには、CHADS2スコアが0~1点の患者さんの中でも、より脳塞栓症を起こしやすい患者さんを抽出することと新しい抗凝固薬DOAC(direct oral anticoagulant)をいかに使うかということです。
CHADS2スコアが0~1点の患者さんの中でも、より脳塞栓症を起こしやすい人と本当に極めてリスクの低い人(真の低リスク群)を見分けるために、考案されたのがCHADS2-VASスコアです。CHADS2スコアの中で、特にリスクの高かった75歳以上を2点と格上げし、心不全、高血圧、糖尿病と同じくらいリスクのあった65〜74歳を1点、血管疾患(心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患など)を1点、女性を1点を追加して、最大スコア9点としました。
これらの臨床試験の知見を踏まえ、我が国でのガイドライン(2013年)では、概ね、CHADS2スコアに準じて、1点には、DOAC(ダビガトランとアビキサバン)を推奨、リバーロキサンとエドキサバンは臨床試験の対照が2点以上だったため、ワルファリンと同等の結果として考慮可とされています。CHADS2-VASスコアはその他のリスクとして組み込まれ、日本に多い心筋症についても凝固能が亢進することから追加されました。
では、我が国でのリアルワールド(地域における実地診療の実態)として、心房細動の患者さんにどの程度、適切な治療(抗凝固療法)が行われているかを検証したのが、Fushimi AF registry研究です。京都市伏見区(人口28万4085人)において2011年3月に登録を開始したAF患者の前向き観察研究です。登録基準は心電図にてAFが記録されていることのみです。登録患者総数は2014年7月現在4115例。有病率は1.4%(男性1.7%,女性1.1%)となり(日本人の健康診断データから推定した有病率は0.6%)年齢別では70歳代で6.0%(男性7.1%,女性3.4%)80歳以上で7.6%(男性10.5%,女性6.4%)登録患者の平均年齢は73.7歳で、60歳以上が91.5%と大半を占め、80歳以上は30.9%と高齢者が多数を占めていた。AFのタイプは発作性AF 48.1%、持続性AF 7.8%、慢性AF 44.1%と,発作性がほぼ半数であった。平均体重は59.1kgで,50 kg未満の低体重患者が26.7%を占めている。平均BMIは23であった。また,平均収縮期血圧は125 mmHgで、血圧のコントロールが非常に良好であった。登録時で脳卒中・TIAの既往のある患者が20%、高血圧61%、心不全27%、糖尿病23%、冠動脈疾患15%、末梢動脈疾患4%、慢性腎臓病35%であった。CHADS2スコアの平均値は2.03であり、リスク層別分布としては低リスクの0点が11.6%、中間リスク1点が27.3%、高リスクの2点以上が61.1%であった。伏見AFレジストリーの患者は、心不全と慢性腎臓病など高齢と関連する疾患の合併多く低体重であることが特徴である。
伏見AFレジストリーは、2011年3月より登録を開始しされたため心房細動の脳卒中予防として抗凝固療法はワルファリンが投与されています。ワーファリンは、全体として53%の患者にしか投与されておらず(3点以上の高リスク群には64%)CHADS2スコア0〜1点の患者さんにも40%に処方される一方で、抗血小板薬との併用は全体の13%でみられ、抗血小板薬単独療法も17%と多く用いられていました。
欧米の大規模臨床試験で、脳梗塞の予防にアスピリンを飲まないよりは、飲んだ方がいいかもしれないとの報告もありましたが、非弁膜症性心房細動患者にアスピリンとクロピドグレルを併用投与してもワルファリンの脳梗塞予防効果には及ばないことが示され(ACTIVE W Trial)我が国の非弁膜症性心房細動患者を対象に実施されたJAST試験でも、アスピリン投与群で返って脳梗塞の発症率は増加し(有用性は示されず)出血性の合併症も4倍多くなり、2008年のガイドラインからは、脳梗塞の予防にアスピリンは推奨されなくなりました。アスピリンは、循環器分野にとっては、コストパーフォーマンス的にも最も優れた薬剤としての地位を確立していましたが、脳外科分野では、クロピドグレルへの変更が進み、消化器内科(出血性合併症はもとより、内視鏡の生検等による不都合さ)からの風当たりも強くなり、心筋梗塞の一次予防も有用性は否定されるなど、その存在感は小さくなりつつあります。
伏見AFレジストリーで、ワーファリンを投与されている患者のPT-INRが適正にコントロールされているかどうかを調べたところ、目標治療域(70歳未満:2.0~3.0、70歳以上:1.6~2.6)に維持されている患者は53.9%でした。大部分の患者さんは、PT-INRが治療域下限値を下回っていました。(出血に留意するあまりにワルファリンのコントロールが甘めの患者が多い)よって、抗凝固療法が必要であるにもかかわらず、実際には治療が行われている患者さんは50%であり、さらに、ワルファリンが使用されていても、投与量が不十分であることから、脳卒中の予防が不十分となっている状況が推察された。このデータは、リアルワールドにおいて,ワーファリン時代の抗凝固療法がいかに困難で限界があるかを示すものでもあるのです。これがDOACの普及でどのように変化していくかに注目したい。
さらに、日本人は、ワーファリンで脳出血を起こしやすい人種だと言われています。ワルファリン療法中の頭蓋内出血の発現頻度には人種差があり、特にアジア人で高いことが明らかになっています。
また、脳内出血に関する疫学調査を対象としたメタアナリシスの報告でも、アジア系人種における脳内出血の頻度は白人に比べて約2倍も高いことが明らかになっています。アジア系人種では脳内出血を起こしやすいことが影響していると思われます。
わが国の前向き研究でも高齢者の低用量ワルファリン療法による安全性や有効性が報告されています。非弁膜症性心房細動による脳塞栓症の再発予防を目的にワルファリン内服中の患者203 例を対象にした観察研究によると、PT-INR が2.6 を超えると重篤な出血頻度が急激に上昇し,PT-INR が1.6 を切ると重篤な脳梗塞や全身性塞栓症が観察され、その多くが70 歳以上の高齢者でした。一方、70 歳未満では、若い人が脳卒中を起こすと社会的損失も大きいこともあり、わが国でもPT-INR 2.0~3.0 を目標とすることが望ましいと考えられています。わが国の循環器医が7937例の心房細動症例を登録して抗血栓療法の実態や虚血イベント(脳梗塞や末梢動脈塞栓症)重大な出血イベントの関連を観察したJ-RHYTHM Registry 研究においても、70 歳以上ではPT-INR 1.6~2.6 で虚血イベントがワルファリン非服用群に比べて低く,重大な出血も低頻度に抑えられることが示されました。(70 歳未満でもガイドラインで推奨されているPT-INR 2.0~3.0 の占める割合37.0 %よりも1.6~2.6 の占める割合が65.8 %と高く、わが国では70歳未満でもPTINRを低めでコントロールしている実態が示されている)
血液のサラサラ度が、問題で、サラサラしすぎても、脳出血などの重篤な副作用が起こると大変だし、反対に、作用が弱くて血管内で血液が固まっては、元 も子もありません。1ヶ月に1回、血液検査をして、INRという指標で、ワーファリンの内服量を調節するのですが、ちょうどいい塩梅にコントロールするのが、結構、大変なのです。アジア人は、脳出血が多い民族で、日本人での至適INRは、70歳以上では、1.6〜2.6とされています。
さらに、ワルファリンによるINRの良好なコントロールの指標としてTTR(Time in Therapeutic Range;PT-INRが治療域にある期間の割合)が使われています。これは、全投与日数に占めるINR目標達成期間の割合を示すもので、横軸に投与経過日、縦軸にINRをプロットして線で結びます。1例を挙げると、INR 2.0~3.0を目標としている患者では、273日のうち194日がその範囲内に入っておりTTRは71%と計算されます。
臨床現場でPT-INRを目標治療域に長期間維持するのは難しいのが現状で、日本では欧米と異なり、外来を受診する頻度が高いので、ワルファリンのコントロールは比較的うまくいっているのではないか言われていましたが、実際は50%台と考えられています。(出血に対する恐れが強すぎて、PT-INRを低目に設定しているのかも知れません)TTRが50%程度であればワーファリンを処方されていない患者と比べて優位性はなく、最低でも60%以上の管理が必要とされています。たとえ、ワーファリンを投与していても40%を切ってしまうと、ワーファリンを飲んでいない人よりも脳卒中のリスクが高くなるという結果が出ています。これは、上がりすぎたり、下がりすぎたりする不安定なPT-INRで、脳梗塞や脳出血を増やしてしまったり、飲み方が不定期で、休薬後の飲み始めは、プロテインS(半減期が短い)が抑制されて、脳梗塞を増やしてしまったことが考えられます。
ワルファリン療法には、定期的なモニタリングが必要で、治療域が狭く、頻繁な用量調節が必要以外にも、効果発現・消失が遅い、効果予測が難しい(個人差がある)多くの薬剤や食品との相互作用があるなどからくる医師、患者の心理面の問題(これはまともな人間なら避けがたい)などさまざまな問題山積みです。(リアルワールドで処方率50%そこそこの原因です)
こういった状況下で、ワーファリン発売から50年、2011年に新しい抗凝固薬として新発売されたのが、プラザキサです。この時、発売記念講演会が大阪で開かれたので、薬屋さんのお招きで、興味津々で拝聴して来ました。演者は、飛ぶ鳥を落とす勢いの山下武志先生でした。NOACの登場は、心房細動治療が、循環器専門医から一般内科医へのイノベーションと山下先生らしいクリアカットなプレゼンテーションでした。心房細動の患者さんみんなにプラザキサを投与すべきという勢いでしたが、元阪大の堀先生から新発売のお薬なのでそこは慎重にという警鐘のお言葉も頂きました。
日本ベーリンガーインゲルハイムから、本剤との因果関係が否定できないとされる死亡例が5例(70歳代1名、80歳以上4名。性別は、男性1名、女性4名)報告され、安全性速報(ブルーレター)が出ました。やはり、腎機能には注意が必要なようです。
新しい抗凝固薬は、血液凝固系カスケードの一点だけを直接抑える薬です。ワーファリンは、凝固因子(ⅡⅦⅨⅩ)をビタミンKを介して間接的に抑えます。この4つの因子が絡んでくることがワーファリンの弱点の根源だったわけです。それぞれの凝固因子をどれくらい抑制するかで、抗凝固の効き具合が変化する不確実性を生み、ビタミンKの摂取量、他の薬剤との相互作用なども相まって、ワーファリンの使いづらい薬にしているわけです。
新しい薬は、ワーファリンとの直接比較で、脳梗塞を同等かそれ以上に減らし、脳出血の発現率は、ワーファリンの半分に減らします。
CHADS2スコア0-1点の群では、頭蓋内出血の頻度は、プラザキサ群では、ワルファリン非投与群とほぼ同等です。つまり、プラザキサはCHADS2スコアが低い患者でも頭蓋内出血を増やすことなく、脳卒中発症を抑制できるということになります。CHADS2スコア0~1点の脳梗塞リスクが低い患者に対しても適切な抗凝固療法を行い、脳梗塞を予防する時代がくるかも知れません。いずれにしろ、ワーファリン VS DOAC の勝負は明らかに DOACに分がありそうです。DOACが使用可能は心房細動の脳梗塞予防を新規に開始する際には、ワーファリンよりもDOACを用いる。(推奨クラス1)
しかし、RE-LY試験の消化管出血のリスクは75歳以上ではダビガトラン両群で高いことが示されています。アスピリン併用例が約40%含まれていたことも影響しているかもしれません。ダビガドランは「ワルファリンでは必要な血液検査によるモニターが不要」という利点が先行して宣伝されていますが、体重が80kg以上ある欧米人を対象にした臨床試験の量じたいが、そもそも日本人には多すぎるのかもしれません。一部でダビガトランの出血リスクを評価する凝固パラメータとしてaPTTの測定が行われているようですが(大出血の症例は80秒を超えていた)あまり科学的な根拠はないようです。
ブルーレターでも消化管出血で2症例失っており無視できません。ヨーロッパのガイドラインでは、CHA2DS2-VAScと併せて、出血リスクの評価にHAS-BLEDスコアが提唱されています。ワルファリンによる抗凝固療法中の心房細動患者における出血リスクの評価法。合計0~9点で評価する。1年後の大出血発現リスクは、スコア0点(低リスク)で1%前後、1~2点(中等度リスク)で2~4%、3点以上で4~6%以上。CHADS2スコア1点であっても、CHADS2スコアに含まれていない「腎機能・肝機能障害」「出血歴・出血傾向」「薬剤、アルコール」「65歳から75歳未満」で、HAS‐BLEDスコアが3点以上の出血リスクが高い症例になる可能性もあり、血栓リスクの低い患者に抗凝固を考えるときは、この点を丁寧に見極めるべきと思われる。
ワーファリンや抗血小板薬を飲んでいるとどれくらい脳出血が起こるのでしょうか。ワーファリンを飲んでいると年間0.62%脳出血を起こします。心筋梗塞でステント留置してプラビックス+アスピリンの2剤併用しているのと変わりません。
心拍コントロール VS リズムコントロール
心房細動も患者は、脳を護る抗凝固療法は必須ですが、心房細動は、どうしたらいいでしょうか。1990年代、心房細動の治療は、不整脈の専門医が、いろいろな抗不整脈薬を駆使して洞調律を維持させる治療をしていました。
一所懸命、心房細動を洞調律に戻そうとした方が2000人、心房細動は放ったらかしにして、心拍数だけコントロールした2000人を比べたAFFIRM試験で、生命予後、心血管イベントは全く変わりませんでした。なぜ、このような結果になったのでしょうか?。つまり、洞調律に維持するという姿勢は正しいことは確かですが、実際の臨床では、洞調律に維持すること自体が困難で、無症候性の発作性心房細動も起こっているかもしれないし、抗不整脈薬の副作用もあるし、抗凝固療法がおろそかになっているなど、洞調律維持が絵に描いた餅になっているのです。洞調律を維持する必要ない、心房細動のままでレートコントロールだけでいいことがわかったということは、抗不整脈薬は必要ないということです。つまり、抗不整脈薬を分類しているイオンチャンネルやイオンポンプなどの作用機序は、専門医にまかせて、臨床医は抗菌スペクトラムのようなややこしい高尚な理屈を勉強する必要がなくなったというわけです。
心不全患者において心房細動が合併する割合は10~50%とされ、心不全と心房細動が合併すると心血管死のリスクが高まるといわれている。心房細動の治療には、心房細動の停止および再発予防を目的とした洞調律維持(リズムコントロール)治療と、心房細動はそのままに心拍数だけを調節する心拍数調節(レートコントロール)治療がある。リズム群には、アミオダロンを中心としたクラスIII群抗不整脈薬が投与され、必要に応じて電気的除細動が行われた。レート群では、β遮断薬を投与し、必要に応じて房室結節アブレーションとペースメーカー治療を行った。心房細動を合併する心不全患者において、洞調律維持治療と心拍数調節治療を比較した多施設無作為化比較試験「AF-CHF試験」で、洞調律維持治療は心血管死の抑制効果において、心拍数調節治療を上回らないことが明らかになった。つまり、心不全の患者さんでも症状がコントロールできていれば、洞調律に戻すメリットはないと言えます。
現在では心不全の有無にかかわらず心房細動患者の予後改善のためにはリズムコントロールにこだわる必要はなく,レートコントロールで問題ないと考えられている。今日では,特にカテーテルアブレーションの対象とならない高齢者などにおいてレートコントロールで経過を見る症例が増えている。レートコントロールに用いられる薬剤はジギタリス,β遮断薬,Ca拮抗薬に大別される。その中でβ遮断薬が最も継続率が良く,今日のレートコントロールの中心を占める。過去にはジギタリスが多く用いられてきたが,各種臨床試験でジギタリスは生命予後を悪化させる可能性が示されており,今日では第一選択として用いられる頻度は減っている。心房細動患者の心拍数管理も洞調律患者と同様に安静時心拍数で60~80bpm程度になるように,目標心拍数が設定されてきた。もちろん一般に安静時に130bpmを超えるような頻拍は,心房細動による心房収縮の欠如に加えて,頻拍に伴う拡張期の短縮が生じて,心拍出量を減少させ心不全に至ると考えられている。心房細動患者の安静時心拍数を対象にして行われた大規模臨床試験が2010年に発表されたRACEⅡ試験である。目標心拍数60~80bpmの厳格群と110bpmの緩徐群にわけられた同試験では,心血管死や心不全,脳卒中などの複合エンドポイントにおいて両群には差を認めなかった。この試験によって心房細動患者における安静時の目標心拍数は厳格に管理する必要がなく,ゆるめ(110ぐらい)でも十分であることが示された。
カテーテルアブレーション
症状が落ちいている方で心房細動を元の状態に戻す治療は行われていません。しかし、症状がコントロールされていない方はどうでしょう。症状が頻繁に起きて、ドキドキして日常生活に支障がある方、また心房細動が速すぎてショック状態になったり、心不全の急性増悪が起こる方などは、薬で洞調律に戻したり、カテーテルアブレーションが考慮されています。心房細動の8割は左上肺静脈の基部から発生するとされています。そこの部分をカテーテルを使って焼いてしまえば(焼くというと怖い感じがしますが)洞調律に戻ります。(持続性、慢性で60%、薬も60%ほど、発作性は90%ぐらい治ります)しかし1〜2%の合併症(心タンポナーデ、脳梗塞、肺炎等)1000人に1人死亡例も報告されています。
最後に併発疾患の管理と治療を進めていくことも重要です。心房細動の危険因子としては、心不全、弁膜症、心筋梗塞、高血圧、糖尿病、左室肥大の心電図所見などがFramingham研究で明らかになっています。心房細動の長期的なよりよいコントロールをするためには、これらの背景因子の発見、是正に心がけることが重要です。
また、AFFIRM試験から、心房細動患者の生命予後を規定する因子が分かっています。つまり、心房細動患者さんが持つ様々な背景因子が生命予後を規定しているわけで、心不全、糖尿病、虚血性心疾患、喫煙等、基礎疾患を治療することが、大切なのです。ワーファリンは、脳塞栓の予防のみならず、生命予後も改善することが証明されています。
納豆禁止
併用薬
胃潰瘍 内視鏡学会 ヘパリンブリッジ(チャドスコア 3点以上)
眼科、
中止すると1%発症
ワーファリン投与時
60% ワーファリン
ⅡⅦⅨⅩ 微調節 毎回採血
プラザキサ
RE-LY
頭蓋内出血 半分 チャズ1点でも
チャズ0点1点 30%が起こる
チャズVascスコア
プラザキサ 腎排泄 80% Cr1.0 eGFR40以下は使わない
85歳以上は入っていない
抗血小板薬は出さない方が良い
消化管出血は増える(下部消化管)
aPTT 70sec以上はダメ(40〜50sec)
ピルニジン 腎排泄
心臓病がない ⅠaⅠbⅠc差がない
心臓病あり アミオダロン
カテーテルアブレーションは、根治治療ではない。毎年再発する。5年で6割
脳梗塞 8倍