小児心電図
開業するまで小児の心電図を読むような状況に遭遇したことはありませんでしたが、今では小児の心電図を年間200近く判読しております。平成17年のたつの市合併に伴い、医師会内に学校心臓検診委員会を設置され、小学1年生、中学1年生の入学時にとる心電図の判定を担当するようになったからです。学校心臓検診は昭和48年の学校保健法施行規則の一部改正によって義務化されました。その目的は心臓病の発見、治療という医療的検診を重視したものでしたが、現在では心臓手術後例の管理や不整脈、心筋疾患の発見とその生活指導が主眼となってきています。また、最近ではQT延長症候群やブルガダ症候群など新たな疾患も加わってきました。突然死の危険のある心疾患児に対しては適切な運動制限を含む管理を行い、突然死を予防することは最も重要ですが、同時に学童期に健やかな心身の発育、発達を遂げるためには身体運動は必要欠くべからざるものであり、過度の運動制限を課することには慎重でなければなりません。
さて、小児の心電図は年齢とともに変化するため、年齢や性別を考慮して判読する必要があります。小児の心電図といっても乳児から中学生まであり、一番大きく変化するのは、出生直後の胎児循環から成人循環への血行動態の変化による心臓自身の変化や発育によるもので、1歳までに大きく変化し、その後はゆっくりした変化となる。今回は、乳幼児の心電図の変化は清書におまかせして、自分に降り掛かった小中学生レベルの心電図について勉強したことをお話しすることにします。
小児の心電図の意義は、先天性心疾患や後天性の心疾患の合併症、重症度、術後の状態による変化、不整脈の診断などです。正常心電図の変化としても、右室優位から年齢とともに成人の心電図へと変化していくわけですが、胸部誘導のT波が年齢によって変化すること、新生時期は低電位差であるが、学童になると成人より高電位になること、心拍数、PQ時間、QRS時間、QT時間の変化などがあります。
心拍数
心拍数は年齢とともに減少します。学校心臓検診では、小学生は心拍数45未満、中学生は40未満を洞性徐脈としている。また、小学生、中学生の心拍数180以上を洞性頻脈として2次以降の検診に抽出すべき所見としている。
新生児 130〜140/分
乳児 110〜120/分
幼児 90〜110/分
小学生(低学年) 80〜90/分
小学生(高学年) 65〜80/分
中学生 65〜80/分
高校生 60〜75/分
P波
右房肥大(肺性P)では、ⅠⅡまたはⅢaVF、右側胸部誘導でP波が先鋭で波高が0.25mV以上になる。肺動脈弁狭窄症、純型肺動脈閉鎖症、ファロー四徴症、エプスタイン奇形などでみられる。
左房肥大(僧帽P)では、ⅠⅡでP波の後半が広くなるので、P幅が0.1秒を越えることが多い。V1でP波の後半の陰転化し幅広くなる。左右短絡の多い先天性心疾患や僧帽弁逆流、僧帽弁狭窄、肥大型心筋症、拡張型心筋症
などで見られる。
学校心臓検診では、漏斗胸の小児でQRS波がr’srとなり、僧帽Pに類似した形態が見られる。
PQ時間、QRS時間(QRS波)
PQ時間もQRS時間も年齢とともに延長する。
PQ時間
乳児 0.08〜0.12秒
幼児 0.08〜0.14秒
小学生(低学年) 0.10〜0.16秒
小学生(高学年以上) 0.10〜0.18秒
QRS時間
新生児 0.06秒
10歳以下 0.10秒以内
10歳以上 0.12秒以内
電気軸(前額面平均QRS電気軸)
出生直後は、強い右軸偏位を呈するが、新生児は、+90〜180° 乳児で+30〜110° 学童以降で0〜90°と年齢とともに成人に近づく。
Q波
思春期では、正常でもしばしば、ⅡⅢaVF、左側胸部誘導に深いQ波を認めるため、学校心臓検診でも、Q波の深さではなく広さで2次検診以降への抽出所見としている。(QV5<QV6でかつQV6>0.5mVのみ)また、右側胸部誘導のQS型もしばしば見られ、V1V2のQS型は正常範囲とされている。
R波
年齢、性別での変化が認められます。右側胸部誘導のR波は、年齢とともに低くなり、左側胸部誘導のR波は、年齢とともに高くなります。左側胸部誘導のR波高は、小学生高学年〜中学生では成人値を上回る。10歳以上で性差が明瞭となり、男子では10〜11歳でR波が最大となり、その後減高する。女子では6〜9歳ででR波が最大となる。(小児心電図では、心室肥大の判定基準が男女で異なる)V1誘導では、rSr’、rSr’s’、Rsr’、Rsr’s’などの分裂が起こることが多く、呼吸や体位、心拍数等で容易に変化し得る。
ST
小児の心電図でST部分は、健常児でも左側胸部誘導では0.2mV(四肢誘導では0.1mV)までの低下、上昇は正常範囲と考えられる。健康女子はSTTの平低、やや低下が見られることも多い。(ただし、ST低下が水平または下り坂の場合は、学校心臓検診で2次以降の検診に抽出すべき所見としている)ST上昇は、小児では稀であり、Brugada型心電図で見られる。
T波
新生児から1歳ぐらいまで大きく変化する。胸部誘導のT波は、出生直後は陽性であるが、数時間で左側胸部誘導のT波が陰性化、数日で右側胸部誘導のT波が陰性化、左側胸部誘導のT波が陽性化した後は、1歳までにV3〜V4まで陽性となる。(学校心臓検診では、V4の陰性T波は、2次以降の検診に抽出すべき所見としている)
QT時間
QT時間は、一般的に目視にてT波の下降脚の変曲点に接線を引き、基線との交点とされているが、接線に引き方で、あまりにも誤差が大きくなってしまいます。その為、自動計測でのQT時間で判定されることが多いが、それぞれの心電図器機メーカーにて測定理論が異なっています。
QT時間は、年齢とともに延長します。(新生児0.20〜0.34秒、幼児0.24〜0.35秒、学童0.30〜0.39秒)また、QT時間は、心拍数に依存する(心拍数が多くければ、短くなる)ので補正(QTc)する必要があります。いろいろな補正式がありますが、最も汎用されているBazett式では、心拍数が多い場合には、QTcが長めに計算される欠点があります。そのため、心拍数が多い小児の心電図では、QT延長と診断されることが多い。たつの市の学校心臓検診委員会では、心拍数の影響を受けにくいFridericia式を採用している。