高血圧症
子曰、由誨女知之乎。知之為知之。不知為不知。是知也。(論語)

「知らざるを知らずと為す是知るなり」知っていることを知っていることとし、知らないことを知らないとするのが、知っていることである。自分が知っていることと知らないことを、きちんと認識しているのが「知っている」ということ。つまり、まずは自分がなにもわかっていないということを知ることが、わかっているということなのです。

私は平成2年にセカンドローテーション(後期の研修)として、香川県立中央病院の循環器科に赴任しました。 医師になって3年目でしたが、血圧を下げると心筋梗塞は減らせるんだとなんの疑いもなく信じこんでいました。 ある医学雑誌に「ニフェジピンバッシング」が特集され、高血圧症にカルシウム拮抗剤(当時、一番多く処方されている降圧薬)を投与すると心筋梗塞が増えるというショッキングに記事でした。 高血圧症の治療をしても、心筋梗塞の死亡率が減ることがまだわかっていないという事実を知ったことは、カルチャーショックでした。 現在は、否定されていますが、そういった論争が起こるほど、高血圧の治療は微妙なものなのです。
血圧が高いと、心筋梗塞や脳梗塞などの病気を起こすことが多いということは、多くの疫学調査で明らかにされています。だからといって##血圧を下げると心筋梗塞が減るかといえば、全く別の問題なのです。(逆は真では
ない)##
その道で偉いと言われていた人が、そう考えていて、みんなも漠然とそう思っていただけなのです。高血圧治療について知っているとは、どういったことが明らかにされていて、どういったことがまだわかっていないのかを知っていることが大事なことなのです。(思い込みで知っていると勘違いしていることが、結構あるのです。ちょっと回りくどかった?)
さて、高血圧の治療はなんのためにするのでしょうか?
医者が患者さんに薬を出す時は多くはふたつの理由しかありません。ひとつは、痛みを取ったりすること、つまり患者さんの苦痛を和らげて、生活の質を上げることです。もうひとつは生命予後をよくすること、つまり長生きできるようにするということです。高血圧自体は基本的に痛くもかゆくもありませんから、後者の心筋梗塞や脳卒中を予防して長生きさせることができなければ、薬を飲む意味もないわけです。
日本では、麻疹や破傷風などで亡くなる人は少ないですが、世界の多くの国、特に発展途上国と呼ばれる国ではまだまだ、そういった予防接種で予防可能な病気を含む感染症で亡くなる人が大勢いるのです。
たとえば、麻疹。麻疹の予防接種をした人10人、していない人10人を麻疹の流行っている幼稚園に通わせると1週間もしないうちに、結果は歴然としたものです。また、肺炎球菌による肺炎に対して、抗生剤を投与した100人、投与せずに治療した100人、1ヶ月もすれば結果は明らかなのです。難しい臨床試験などは全く必要ありません。
高血圧はどうでしょうか。 ABCD ALLHAT BEST CAPRICORNCHARM CIBIS COMET CONSENSUSCOPERNICUS ELITE HOPE HOT LIFE MERIT OPTIMAAL PRAISE PREVENT PROGRESS RALES RENAALSAVE SCOPE SHEP SOLVDSTOP-Hypertension Syst-Eur Val-HeFTMeta analysis etc・・・・・・。数え切れないぐらいの大規模な臨床試験が行われています。だいたい5000〜10000人ぐらいの規模で5〜8年ぐらい見なければ結果がわかりません。しかも、結果はばらばらです。それぐらい、高血圧の治療というのは微妙なのです。200人ぐらいの高血圧の患者さんに血圧をさげる薬を飲んでもらうと1人ぐらいは飲まないよりはましかなという程度なのです。医療者は、血圧の治療というのがどういったものかを理解した上で、全人的な介入を行う必要があるのです。
日本は、世界一の長寿国になりました。戦後まで人生が50年の時代は、高血圧やがんの治療は必要ありませんでした。長生きをするようになって、亡くなる病気の種類が違ってきたのです。だから、高血圧症という病気自体が、最近生まれてきた病気で、人類はどうやって治療したらいいのかいろいろ試行錯誤しながら、考え中なのです。
血圧とは?

血圧とは、心臓から拍出された血液が血管内壁を押す力のことで、一般的には動脈の圧力を指します。1733年、イギリスの牧師ハーレスが世界で初めてウマの頚動脈にガラス管を挿入して その高さにより血圧を測定しました。ちなみに、血液は、直立させたガラス管を2.7mの高さまで上がったと記録されています。こんなに大がかりな装置で血圧を測定するのも大変なので、1896年にイタリアのリバロッチが、現在の血圧計と同じ原理で上腕カフを用いた水銀圧力計による血圧測定法を考案しました。血圧の単位はmmHg(水銀柱)が使用されるようになりました。
たとえば、公園の噴水が1.5mの高さまで吹き上がっていたとすると、どれくらいの圧でしょうか?Hg=水銀 13.6g/cm3なので、水銀柱を110mmHg押し上げる、つまり人の血圧はこれくらいの圧というわけです。血液を2.7m押し上げたということは、ウマの血圧は、200mmHg近くあるわけです。
コロトコフ音
カフで上腕部を圧迫して動脈を閉塞したあと、カフを減圧していくと、動脈が少し開いて遮断されていた血流(血液)が流れ出すと、遮断された時に末梢側の血液とぶつかることによって発生する「トントン」というタップ音がコロトコフ音です。1905年にロシアの軍医が、聴診器で聞き取りながら血圧を測定する方法を発見しました。さらにカフ圧を減圧していくと、ある時点で音が聞えなくなります。コロトコフ音が聞え始めたときのカフの圧力を最高血圧(収縮期血圧)音が消えたときの圧力を最低血圧(拡張期血圧)とします。
オシロメトリック法
家庭で普及している自動血圧計は、オシロメトリック法を使用して血圧測定を行う方法です。カフで圧迫して動脈を閉塞するところまではコロトコフ法と同じですが、そのあとカフを減圧していく過程で血管壁に生じる振動(脈波)を用いて血圧を測定します。カフを減圧していくと、ある時点で脈波が徐々に大きくなり、その後小さくなり、ある時点からあまり変化しなくなります。その脈波が変化率(昔、微分とかいいましたよね)から、収縮期血圧と拡張期血圧をはじき出します。
血圧とは?
血圧は、心拍出量と末梢血管抵抗のどちらかが大きくなれば上昇します。心拍出量とは、心臓から押し出される血液の量です。末梢血管抵抗は、血管のしなやかさが低下したり、血管が強く収縮していたり、血液がドロドロになっていたりといった状態です。
心拍出量が増加すると
甲状腺機能亢進症がその典型例ですが、収縮期血圧だけが高い
大動脈のstiffness 収縮期血圧だけが高い 拡張期血圧を下げる
全身血管抵抗 抵抗細動脈200μ 拡張期血圧を挙げる
塩分感受性 塩分の撮り過ぎ 糖尿病、肥満
糖尿病では、インスリン抵抗性でインスリン濃度が上昇すると腎臓でのナトリウム再吸収が増えている
肥満例
循環血液量が増えている 相対的に 拡張期血圧が増える
持続的、夜間高血圧 早朝高血圧
圧受容体反射(血圧の値を一定の範囲に保持するためのシステム)の源弱により、モーニングサージを起こしやすいさらに拡張期圧高値
塩分を控えて、やせなさいということが前提
高齢者 大動脈のstiffness 心拍出量の変化に影響され、収縮期血圧だけが高い 拡張期血圧を下げるちょっと労作で収縮期血圧が上がる、ちょっと脱水や長時間の座位で、血圧が下がる
測るポイントが多いほど正確になります
外来血圧 ガイドラインは
家庭血圧
24時間血圧
夜間血圧が夜間に上がる
夜間に10〜20%下がる
夜間に10%以上低下がない non-dipper
血圧の測定方法に3種類あります。一般的には診察室血圧で判定されています。最近は自動血圧計の進歩で家庭でも正確に血圧が測定できるようになり家庭血圧も高血圧の診断基準になりました。しかし測定機器は上腕測定機器であることや正確な測定方法が守られていることが重要です。
血圧は1日中一定ではなく、刻々と変化しています。 健康な人の血圧は、夜寝ている間は低く、朝方にかけて上昇しはじめ、昼間起きている時間帯は高くなります。 ところが最近、降圧薬を服用して昼間の血圧が正常でも、朝の血圧が特に高くなる「早朝高血圧」の人が多いことがわかってきました。 「早朝高血圧」の血圧の動きには、2パターンあります。1つは、夜の血圧は低く、朝目が覚めると同時に血圧が急上昇する 「モーニングサージ」とよばれるタイプです。もう1つは、夜の血圧が下がらないまま、 なだらかに上昇して朝方にピークを迎えるタイプです。 心疾患だけでなく、脳卒中なども早朝から午前中に多く起こることから、早朝高血圧と関係があると考えられています。 早朝高血圧のなかでも、朝の血圧が急激に上がる「モーニングサージ」タイプの人では脳卒中の発症率が19%であったのに対し、 モーニングサージがない人では7.3%であったことから、モーニングサージがあると 脳卒中の危険性が約3倍も高くなることがわかりました。
1日のなかで血圧が変動するのは、血圧に影響を与える神経などの活性が変化するからです。 なかでも、心臓の動きを活発にしたり、血管を収縮させる交感神経は、早朝の血圧上昇に影響を与えます。 普通、夜になると交感神経の動きが弱まり、血圧は低くなります。早朝、交感神経が活性化しはじめ、血圧が上昇し、 昼間になると血圧が1日中で最も高くなります。このことから、早朝に血圧が急に上がるのは、 起床時間に交感神経の活性が特に強くなっていることが原因と考えられています。 また、交感神経の活性が高まると、血圧上昇だけでなく、血管の収縮により血液が流れにくくなり、血液が固まりやすくなります。 このことから、早朝高血圧は、脳卒中や心筋梗塞といった生命にかかわる病気の引き金になる可能性がありますので、 注意が必要と考えられています。
1911年、アメリカの生命保険会社が加入時に血圧測定を推奨し、予後を調査し始めた。(心筋梗塞や脳卒中との関連が推測されたため)