標準予防策(スタンダードプリコーション)

標準予防策とは感染症の有無にかかわらず、患者と医療従事者双方における医療関連感染の危険性を減少させるために標準的に適応される感染対策である。その基本のガイドラインとして米国のCDCが1996年に作成したのが標準予防策とされています。それ以前は、特定の感染症を持っている患者さん(B型肝炎、C型肝炎、HIV)をどう扱うかということだったのですが、エイズがアウトブレイクし、医療従事者への感染が確認されてからは、診療所などでの患者さんへの対応も感染症の有無にかかわらず(患者さん全員のあらゆる感染症を明らかにしてから診察すること自体が不可能なことであり、すべての人は伝播する病原体を保有していると考える)適用される感染対策です。

たとえば、介護施設の利用、入所前に感染症(肝炎ウイルスやMRSAなど)のチェックを求められることがあるのですが、これって必要ですか?ということです。(数年前まで、大きな病院でも、胃カメラをする度に、肝炎ウイルスや梅毒などの検査が繰り返しされていました。)原則は、生活の場(病院ではないところ)で生活できている方に対して、特別扱いは必要ないと言うことです。もし、施設側として対応する場合は、この人はB型肝炎の感染予防、この人はMRSAの感染予防を・・・ではなく、未知の病原体も含めて「この人はどんな感染症をもっているかわからない」と考えて対処している姿勢が必要です。

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すべての患者に対して、
湿性物質である

  1. 血液
  2. 汗以外の体液(唾液、鼻汁、喀痰、尿、便、腹水、胸水、涙、母乳など)
  3. 傷のある皮膚(褥瘡など)
  4. 粘膜(気管、 口腔、鼻腔、消化管、眼球、膣等)

などに触れる可能性のあるときは、患者に接触する前後には手指衛生を行い、想定される危険度により、個人防護具(personal protective equipment:PPE)を着用することが推奨されています。湿性物質に触るときは手袋を、口・鼻の粘膜が汚染されそうなときはマスクを、衣服が汚れそうなときは、エプロンやガウンを、飛沫が目に入りそうなときは、アイシールド・ゴーグルを、顔、目、口、鼻の粘膜全体が汚染されそうなときは、フェイスシールドを着用します。
感染経路は、医療従事者の手と医療器機のふたつあります。

標準予防策で、最も大切なのが、手指衛生です。「手に泥がついて手を洗う」「手に便がついて手を洗う」というのは誰が見ても手が汚れているというのがわかりますよね。しかし、細菌やウイルスは目に見えません。よくしっかり洗ったつもりでもこんなにばい菌がって、見た目も気持ち悪くなる洗剤のCMが流行っていますよね。では、ヒトの手はどれくらい汚れているのでしょうか?ブラックライトで、光って見えるところが洗い残しのところなので、手洗いの啓発に利用します。

手洗いチェックで チェック用の手洗いローションを付けて

目に見える汚れがなければ、速鑑識アルコール擦式でもOKですが、目に見える汚れがあれば、石鹸と流水でしっかり洗浄しなければいけません。

この中で、手指衛生の5つのタイミングとしてWHOが勧奨しています。

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まず、手の皮膚の表皮上には、一過性菌(一時的に載っているばい菌=通過菌)と呼ばれている黄色ブドウ球菌、化膿性連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌(水回りに多い)カンジダ属菌、ウイルスなどがあります。これらの菌は、しっかり手洗い(30秒かけて)をすることで、1/100ぐらいまで減らすことが出来ます。一方、常在菌と呼ばれる表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウム属菌、プロピオニパクテリア属菌、アシネトバクター属菌などは、表皮だけではなく、毛穴の中にいるので、いくらしっかり手洗いをしても完全に取り除くことはできません。つまり、手を洗って30分もすれば、毛穴から表面に出てくるので、どこに触らなくても手はばい菌だらけになっているわけです。

MRSAの保菌状態の患者さんがたくさんいます。鼻腔から検出されるだけで、なにも悪さはしていない健康保菌者ですが、今後もどんどん増えると考えられています。自然界、いわゆるそこいら机回りなどにも黄色ブドウ球菌の約6割はMRSAになっています。自然環境に普通にいるので(特に医療機関には特に多い)市中感染、二次感染はゼロではないリスクはあります。

手指衛生は、標準予防策の中でも最も大事な工程です。適切な手洗いは、まず、手を濡らすことから始めます。水が使えないときは、ワンプッシュでアルコールよる
花王のビオレが、ネットで公開している「あわあわ手あらいのうた」というのがあります。全部で50秒あります。これでやると、洗い残し易い、爪のところ、親指回り、手首も完璧です。参考にしてみて下さい。

 

スタンダードプリコーションの具体策としては、

1.一患者、一処置ごとの手洗いの励行
2.患者の体液に触れる可能性がある場合は、手袋・マスク・ゴーグル、必要に応じてフェイスシールドや防水ガウンなどを着用する
3.鋭利な器材などは適切に取り扱う
4.使用したリネンや器材を適切に処理する
5.環境の整備
6.必要な場合は患者の隔離

などがあるだろう。

1.一患者一処置ごとの手洗い
現在明らかな感染症が無い場合でも、未知の感染症への対策として他の患者への感染経路を断つ意味で有効であり、同じ患者でも他の部位への交差感染を予防するためには必要だ。

2.患者の体液に触れる可能性がある場合は、手袋・マスク・ゴーグル、必要に応じてフェイスシールドや防水ガウンなどを着用する
これも同様に、患者から看護師(医療者)への感染経路を断つ効果がある。眼の涙腺からの感染で劇症肝炎を起こすという事故もあるくらい、医療者側のほんの小さな入口からも感染は起こり得るのだ。

3.鋭利な器材などは適切に取り扱う
これはいわゆる針刺し事故やメスなどの鋭利な刃物での負傷による感染を防ぐために必要。スタンダードプリコーションの中には、リキャップの禁止も含まれている。

4.使用したリネンや器材を適切に処理する
リネンや使用器材の適切な廃棄や消毒・滅菌のこと。
患者の血液や体液・排泄物などで汚染されたリネンが、自分の皮膚や衣類、あるいは他の患者に付着することで感染するのを防ぐための具体策だ。汚染されたリネンは水溶性のランドリーバックなどに密封して80℃以上の温水で10分以上洗浄する必要がある。
しかし手間や人件費、リネン類の消耗などを考慮してか、最近ではディスポーザブルに置き換わってきている。
器材についても一部のものは使用後に適切な洗浄・消毒・滅菌処理がなされるが、可能な限りディスポーザブルを使用しているところが多いだろう。

5.環境の整備
病室・洗面所・トイレ・浴室・処置室・汚物処理室などの清掃だけではなく、清掃しやすいように整頓すること、患者のベッドサイドで使用する機器やコード類も常に整理し使用後は清掃することを意味する。
また床は汚染環境として捉え、清潔な物品等は床から20㎝以上高い場所へ置く、床や壁に触れた手で患者の処置を行わない、なども具体策となる。

6.必要な場合は患者の隔離
明らかな感染症は無いが感染防止に対して協力が望めない患者への対応として考えられる。
例えば認知症により排泄がコントロールできず、排泄物で部屋全体を汚染してしまう場合などは、他の患者への感染予防の意味で個室を考慮しても良い。

 

HIVについては、感染のリスクは少ないですが、どの患者さんがHIVを持っているか自体を把握することが困難なため、HIVを予防するためには、全ての患者さんがあらゆる感染症を持っているかもしれないと想定して対応することが求められています。さらに言えば、HIVに限らず、まだまだ未知の感染症もどんどん出てきますし、ほとんどの感染症は未検査の状態ですし、ウインドウ期(感染が判明するまで数週間かかる)の問題もあり、標準予防策で対応することが重要なのです。この患者さんに感染症があるか、ないかという議論すること自体、標準予防策がわかっていないということなのです。

(5)洗浄、消毒、滅菌

洗浄が一番大事です。

目で見える汚染があるものは、消毒する前に洗浄することが大事です。浸漬洗浄、用手洗浄、機械洗浄などで汚れを除去しておきます。

消毒とは、細菌芽胞を除く、すべての病原微生物を殺滅する、病原体を減らすこと

細菌芽胞とは、病原微生物の中で最も強い細菌で、高温、乾燥に強い。クロストリジウム属(ディフィシル菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウエルシュ菌)バシルス菌(炭疽菌、枯草菌、セレウス菌)アルコールに耐性
接触感染予防策

消毒は、濃度、時間を正しく 20分ぐらい
Spauldingの分類クリティカル:無菌の組織、血管系に入れる 滅菌〜高レベル
セミクリティカル:粘膜、傷のある皮膚 高〜中レベル
ノンクリティカル:低レベル消毒、洗浄 体温計、血圧計 聴診器

一般細菌
イソジン、アルコール

結核菌ウイルスまで効く

(6)周囲環境対策 ベット周囲、ドアノブ、ミキシング台などの日常清掃

(7)感染性廃棄物 血液、体液の付いた物(ガーゼや針など)は、汗のついた物は、通常の洗濯でOKです。

血圧計、体温計、聴診器は、通常は、アルコール等でOKです。