心電図

心電図は ElectrocardiogramでECGと略号を使います。

心電図は1903年にオランダのウィレム・アイントホーフェンによって発明されました。
ちなみに、この1903年には、ライト兄弟が人類初の飛行に成功した年でもあります。

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心臓は、生まれてから死ぬまで1日24時間、約10万回の収縮、拡張を繰り返し、80年間でなんと約30億回の心拍動を自律的に行っています。本当に生命とは驚くべきものですね。この規則正しく素早く心臓が動いているはどのようなシステムが考えられるか?これほど機敏に動けるためには、電気活動以外に説明が出来ないと19世紀ころから考えられたわけです。心筋は、電気を発生し止めてを繰り返しています。それが心筋全体に伝わって、心臓が動いています。心臓の筋肉が全身に血液を循環させるために収縮と拡張を繰り返すとき、微弱な活動電流が発生します。なぜそうなのか、電気活動の不思議さは僕にもわかりませんが、その微弱な電流を両手と両足に四つの電極、胸に六つの電極で体表面でキャッチしたのが心電図なのです。

12誘導心電図

「12誘導心電図 」は、それぞれの電極から心臓を取り囲みいろいろな方向から計12種の波形を記録します。左側のⅠⅡⅢaVRaVLaVFは、手足の電極から6つ=肢誘導(双極誘導3つと単極誘導3つ)と右側のV1〜V6までの胸部の電極から6つ=胸部誘導(単極誘導)からなります。

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肢誘導と胸部誘導の違いは、心臓を見ている方向が違います。肢誘導と胸部誘導の違いは、心臓を見ている方向が違います。肢誘導は、心臓を上下左右から見ています。つまり前額面でとらえているわけで、Ⅰ誘導は右から、Ⅱ誘導は右下から、aVR誘導は左上から、aVF誘導は真下から見上げているという具合です。肢誘導と胸部誘導の違いは、心臓を見ている方向が違います。肢誘導は上下左右から

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胸部誘導は、心臓を前後から見ています。つまり、横断面でとらえているわけで、V1は右前から横方向に水平方向に取り囲んでV5付近が心尖部当たりで左室に一番近く、V6になると少し後方へ外れます。

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意外と難しい肋間の数え方

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心電図の電極を付けるとき、V1は、第4肋間胸骨右縁 V2は、第4肋間胸骨右縁となっていますが、すでに最初から間違っている場合も多く見られます。これは、肋間の数え方が難しいからです。鎖骨と胸骨付着部のすぐ下に第1肋骨がありますが、そこには肋間がありません。第1肋間は第1肋骨と第2肋骨の間になります。胸骨角(胸骨柄と胸骨体の間のでっぱり)に第2肋骨が付着しているので、その下を第2肋間として数える方法が間違いにくいとされていますが、胸骨柄自体がよくわからない人もいますし、太っていて肋間さえ定かでない場合もあります。乳首の高さが第4肋間の目安としても、胸が大きいグラマーな女性では当てになりません。右の写真をみてもわかるように、V2V3V4は結構くっついていますが(塗ったペーストが連続してつかないように注意)V4とV5は離れているのがわかりますよね。そしてV4V5V6は、一直線に並んでいるのが正解です。ぱっぱっと付けているように見えても、電極ひとつ付けるのも熟練した技があるのです。

ちなみに、胸部誘導の色の覚え方、いろいろ教えてもらいました。今では、自然に憶えていますが、
関口君(せきぐちくん(む))(赤 黄 グリーン 茶 黒 紫)
秋に緑茶汲む(あきに緑茶くむ)(赤 黄 緑 茶 黒 紫)
秋美ちゃん国試(あきみちゃんこくし)(赤 黄 緑 茶 黒 紫)

 

心電図の記録は、縦軸は電位(mV)を、横軸は時間()表しています。紙送り速度は、通常は25mm/秒です。大きい升目は、5mm=0.5mV、5mm=0.2秒です。最小升目が、1mm=0.1mV、1mm=0.04秒となっています。

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心電図のどこかに校正波が記録されています。通常(標準感度)は、10mm/1.0mVですが、波形が高過ぎる場合には、5mm/1.0mVに調節されます。


心電図波形の名称(憶えなくては、しかたありません)
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P波は心房脱分極を示します。Ⅱ誘導およびV1誘導では二相性のことがあり,最初の成分は右房、2番目の成分は左房の活動電位を示しています。この成分の振幅の増加は、右房拡大(肺性P)左房拡大(僧帽性P)などと呼ばれる。

PR間隔は心房脱分極の開始と心室脱分極の開始の間の時間です。正常値は、0.10〜0.20秒です。

QRS波は心室脱分極を示します。最初の上向きの波(陽性波)をR波と言います。R波を挟んで、その前にある下向きの波(陰性波)をQ波、その後の陰性波をS波と言います。QRS波における2つ目の上向きの波はR’(3つめはR)2つ目の下向きの波はS’(3つめはS)と示されます。ちなみに小さい波は小文字でr波s波(r’波、s’波)と示します。ちなみに、下向きの波だけの波形は、QS波(R波なし)といいます。QRS幅の正常値は、0.07〜0.10秒です。QRS波の形態により脚ブロック、心室内伝導遅延と診断されます。

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QT間隔は心室脱分極が始まってから心室再分極が終わるまでの時間です。QT間隔は心拍数による補正を行う必要がありますが、T波の終了が不明瞭なことが多いためQTcの計算は難しい(QTcは補正されたQT間隔である)

ST部分は心室筋の脱分極を示しています。正常な場合,PR(またはTP)間隔の基線に沿って計測されます。

T波は心室再分極を示しています。T波は通常,QRS波と同じ方向をとります。

U波はT波の後の小さな陽性波でまれに見られます。

脱分極?、再分極?は、とりあえず、心筋細胞が電気を放電したのが脱分極、充電したのが再分極と憶えておきましょう。

 

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ABCDE波でもよかったのに?


心電図は、心臓の収縮(電気的活動)を体表面から捉えたもので、P波は心房の収縮、QRS波は心室の収縮、T波は心室の弛緩を表しています。

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実は、その昔、いろいろなアルファベットが様々な記号として使われていたようですが、P〜Tがあまり使われていなかったというのがその理由のようです。T波のTは、terminalのTから来ています。つまり終着駅、終点、終わりという意味です。心電図の終わりの波をT波として、逆行してS波R波Q波P波となったという方がそれっぽくていいでしょう。ちなみに、なぜ12誘導か?これもおもしろい話で、一番最初に心電図を発見したアイントホーフェンが心臓を囲むように6個の電極をつけた訳ですが、後世において、胸中にたくさんの電極をつけた方が、心臓の病気を発見するのに有利だと考えた人もたくさんいたわけで、いくつつかたらいいか?どこにつけるのがいいのかなど、いろいろと検討が行われましたが、アイントホーフェンが最初に付けたところが総合的にみて一番優れていたんですね。不思議なものですよね。


心臓が動くしくみ

洞結節というペースメーカーの細胞から命令がでて・・・なんてお話しをしてもなかなかわかりにくいのが心電図です。内科医でも(循環器をかじったことがなければ)読めない人がたくさんいます。心臓は、ポンプとして、全身にくまなく血液を送るために、規則正しく拍動しています。そのリズムをコントロールしているのが、洞結節です。右心房の上部にある洞結節は、生まれ持ったペースメーカで(刺激伝導系と呼ばれる特殊心筋細胞は、外部から指令や刺激を受けなくとも働き続ける能力=自動能を持っている)ここから発せられた電気信号は、心房から房室結節、ヒス束、左脚・右脚、プルキンエ線維へと伝わり、心臓の筋肉を収縮させます。

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心拍数(HR:heart rate)
正常の心拍数は、60〜100/分です。1分間に60回未満を徐脈、100回以上を頻脈と言います。心電図は、5mm=0.2秒毎に濃い線になっているので、5mm毎の300、150、100、75、60、50・・・と数えれば、大まかな心拍数を知ることができます。

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心臓はまるでナースステーション

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洞結節は、内科病棟の師長さんです。
房室結節は、主任さんです。
心室の細胞が看護スタッフです。

 

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まずは、師長さんが仕事の指示を出します。

心臓のリズム(心拍数)は、すべて師長さんの腹づもりで決まります。

 

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師長さんの指示を主任さんが、スタッフに伝えます。

ここで、タイムラグがあるのが、大事なのです。心房の収縮と心室の収縮が少しずれていることで、心房から心室へ、心室から大動脈(全身)へと血液がスムースに循環できるのです。

 

洞調律4


スタッフ全体に指示が伝わります。

右側の心臓と左側の心臓に連絡していき、みんなで「がんばろう〜」とシュプレヒコールを挙げます。

 

洞調律5-1


スタッフ全員が一所懸命仕事をしています。やる気満々です。

心臓が収縮しています。

 

洞調律6


仕事の終わった人から休憩してください。

心臓が徐々に拡張していきます。

 

洞調律7-1


小休止です。

この繰り返しで心臓は動いているのです。

 

さっそく心電図を読んで見ましょう。

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心電図検査は、心臓を診るために最も頻回に用いられる、最も重要な検査です。その変化の乱れから病気の兆候を読み取っています。

心電図で分かる状態には、左室肥大、心房負荷、不整脈心筋梗塞、狭心症、電解質異常などがあります。心臓全体のはたらきを調べることもでき、心臓病の発見や診断、病状の把握、治療効果の確認、薬の副作用の発見などにも欠かせない検査です。

2005年にたつの市が合併した時に、医師会で学校心臓検診委員会を立ち上げました。そして小学生中学生の大量の心電図をなるべくすばやくしかも正確に判定するスキルを身につけることが必要になりました。さて、山下流、心電図の読み方編です。

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心電図の基本はこの形です。12誘導ではいろいろな形の心電図を見て診断しなければなりませんが、みなさんもこの形が一番、安心しますよね。つまり心臓を流れる電気の興奮が近づいてくる方向から見るのが重要なんです。どの誘導でこの形の心電図が表現される可能性が高いでしょうか?心臓では刺激伝導系を興奮が流れてくるので、右上(洞結節)から左下(心尖部)に向かって電気が流れます。つまり心電図の誘導では、ⅠⅡV5の方向から心臓を見ている誘導でこの形の心電図になりやすいと言うことなんです。よって心電図は、まずは、この誘導だけみましょう。

心電図
どうでしょうか?ⅠⅡV5はみんな基本の形ですね。安心しますよね。

ここでⅠⅡがこの基本の形ということは、どういうことかというと、Ⅰ誘導、Ⅱ誘導の方向に向かって電気の軸が向いているということです。他の誘導はどうでしょうか?aVFは比較的この形になりやすいと思いますが、aVLは電気軸が少し真下方向に傾くと反対(下向き)方向のQRS波となりますし、Ⅲも少しⅠ誘導方向に傾くと反対(下向き)方向のQRS波となってしまいます。微妙なんですね。aVRでは、右手方向から見ているのでほぼ必ずと言っていいほど反対(下向き)方向のQRS波となります。

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次に胸部誘導ですが、心臓の刺激伝導系を流れてくる興奮がV5方向へ向かってくることが多い(V5が一番大きなQRS波になる)ので、V5誘導は、基本の形になることが多いわけです。胸部誘導を診る時に一番大切なことは、下図のように水平方向に少しずつずらして誘導がついているので、となり同士の心電図は似たような形をしていてゆるやかな連続性を保っているということです。

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水平方向の電気の軸も時計方向回転とか、反時計方向回転などと表現されるように移行帯はいろいろずれているので実際の心電図ではV1はこういう形、V2はこういう形、V5はこういう形ということはきまっていませんが、この連続性が保たれているかどうかを見るのに、一番大きな可能性が高いV5誘導を中心に連続的に変化しているか眺めるのが一番見やすいかなと思います。

移行帯

さて、心電図をみるときに、一番大切な心電図所見はST上昇です。実際の臨床現場でこの変化を見落とす心配はほぼありません。ST上昇や下降は、ST部分が上がっている下がっているという所見なので、初心者でも一定の数をみれば、比較的簡単にマスター可能な心電図変化です。それに、冷や汗とかいて胸が痛いと言って来られているので、問診だけで既に診断はついていてST上昇がないかの確認に心電図をとりにいっている状況なので、集中して判断しやすいわけです。どこかの誘導でST上昇を見つければ、対側にST低下があれば、心筋梗塞はほぼ確定です。これについては、当然のことながら緊急の対応が必要です。命に関わることなので、見逃しは許されませんが、ここは、ほとんどの人は見つけられます。

つぎに重要なのは異常Q波です。異常Q波とはなにか?その場所の心筋がなんらかの原因で死んでいる、興奮していない(一番多いのは心筋梗塞)ということを表している所見なのでたいへんなことです。これは既にある程度時間が経っていることが多いので、緊急性はST上昇ほどではありませんが、なるべく早く対応する必要はあります。この異常Q波が結構苦手な人が多いようです。異常なQ波と思いきや、上級医に聞くとそのQ波は正常なQ波と言われてしまうとよけわからなくなってしまうわけです。清書で読むと異常Q波の定義自体は、誘導毎にどうこうとややこしすぎて心電図学者以外は憶えきれません。それは正常なQ波だと言われた上級医の先生もつきつめて質問すると結構あやふやな漢字で適当にかわしていることも多いようです。Q波らしきものを見つけたら、それが異常Q波なのか正常なのかの判断は形だけで判断するのではなく、そこに正常でないQRS波があれば、異常Q波としましょう。

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まずは、異常Q波の基本的な形は憶えておかなければいけません。

QRS波形の最初の上向きの波(陽性波)をR波と言います。R波を挟んで、その前にある下向きの波(陰性波)をQ波と呼びますが、異常Q波とは、幅が0.04秒以上、深さはR波の1/4以上というのが一般的であり、両方、満たせばよりいいのですが、深さよりも幅が重要です。また、異常Q波の出ている誘導がどこかということが大事です。aVRは、異常Q波が出るのが正常ですし、ⅠⅡaVLV5V6に見られる小さなQ波(異常Q波ではない)は、心室中隔の興奮で起こる正常なQ波で、中隔性Q波と呼ばれ正常なQ波です。健康者を主たる対象とした集団健診において、異常Q波と診断される大多数は健常者で、実臨床で最も多いのは、コンピューターの過剰診断で本当に異常Q波ですか?というこです。

まず、ⅠⅡ誘導に異常Q波がないかどうかをみます。つまりⅠⅡ誘導は、心臓を流れる電気の興奮が近づいてくる方向から見ているので、原則、遠ざかるQ波は限りなくないはずなのです。しかも異常Q波のように幅が0.04秒以上あるような長い時間、反対方向に向かう電気が発生すること自体がおかしいわけです。そこでⅠ誘導に異常Q波らしいものを見つけたら、似た誘導であるaVL誘導で異常Q波がないか確かめる、Ⅱ誘導で異常Q波らしいものを見つけたら、似た誘導であるⅢaVF誘導で確かめる、ST変化やT波にも注目するなどで証拠集めをするわけです。つまり、心臓を流れる電気が近づいてくる方向から見て、あったらおかしい誘導に異常Q波があるかどうかがポイントです。次に胸部誘導で異常Q波をみつけるためには、先ほど述べたV5からの連続性を観察して、QRS波がゆるやかに変化していれば、だいたいは正常です。

心電図
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左右電極の付け間違い

I誘導でP波、QRS波、T波が全てが陰性になっています。aVRでQRS波が上向き、aVLでQRS波が下向きになることは通常ありません。II誘導とⅢ誘導、aVR誘導とaVL誘導が入れ替わっている。その他には大きな右心負荷などの所見もなく、左右電極の付け間違いが疑われます。

不整脈については、期外収縮と心房細動がわかれば、9割はクリアです。いつも看護師さんには、とりあえずは、診断名としては、この3つだけ知っていれば、何処へ行っても大きな顔ができますと言ってます。ただ、実際の臨床現場では、不整脈の診断はあまり役に立ちません。不整脈の心電図をみたら脈が速いか遅いかが重要で、脈の不整があっても全体的に60〜100ぐらいの間にあれば、その場では放置可です。ただ、脈の数が40以下(特にp波がある場合は危険です)とか150以上(特にQRS幅が0.12秒(3mm)以上の場合は危険です)の場合は、人を集めてベットサイドに駆けつけなければなりません。危ない状態なので、バイタルと取って、意識レベルや症状を確認することが重要です。

 

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所見は、医学用語なので意味不明ですよね。簡単に説明しています。
詳しくは、かかりつけの先生に聞いて下さいね。

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付)小児心電図 心電図は、年齢によって変化します。