過敏性腸症候群 IBS(Irritable bowel syndrome)


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  通勤途中の電車で      試験の前に      大事な会議の前に   
  おなかが痛くなる     おなかが痛くなる    おなかが痛くなる                   
こんなのって、病気?ってかんじですよね。ひと昔前なら、お腹が弱いで終わりです。



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生活の質をそこなっています

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消化器愁訴に関連した欧米の調査で消化器愁訴を日常的に感じている人は心理的指標をもとにした健康関連QOLの評価で、すべてのサブスケールでQOLの低下が認められ(うつ病よりはましでしたが、腎不全と変わらないQOL)健康関連QOLに障害があることがわかっています。

 

 

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日本人の5~10人に1人が「IBS」に当てはまると推定されるほど、誰もがなり得る疾患です。10~30代の若い年代に比較的多くみられる傾向があります。症状がひどい場合は、電車や車の中で急にトイレに行きたくなるため、学校や会社に行けなくなったり外出を控えるようになったりなど、生活の質(Quality Of Life: QOL)を低下させてしまうケースがあり問題となっています。

 

 

定義

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、通常の臨床検査で器質的疾患が認められないにもかかわらず、腹部症状(腹痛や腹部膨満感など)と便通異常(下痢・便秘)が慢性的に出没する疾患です。

成因
IBSの成因は不明ですが、周囲の環境やライフ・イベントからのストレス、不安、食事などの生活習慣の乱れ、幼少期の虐待歴、家族歴、消化管の感染や炎症、腸内環境などが発症や症状増悪に関与するとされています。特に、ストレスによる症状悪化は顕著にみられます。



診断基準

IBSの診断基準は、ROME Ⅲ基準に示されています。

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さらに便の形状の違いから、次の4つに分類されます。便秘型、下痢型、混合型、分類不能型で、優勢症状をもとに判定します。下痢型は男性に、便秘型は女性に多くみられます。

RomeⅢによるIBSの病型分類

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ブリストル便形状尺度概念図

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実際の診断は、持続する腹痛と便通異常を訴える患者に対して、器質的疾患の除外から始めます。まず、尿一般検査、血液生化学検査、便潜血検査、腹部単純X線などの検査をを行います。発熱、関節痛、粘血便、6ヵ月以内の理由が同定できない3kg以上の体重減少または異常な身体所見(腹部腫瘤の触知、腹部の波動、直腸診による腫瘤の触知、血液の付着など)といった器質的疾患を疑う警告症状・徴候、もしくは50歳以上の発症、大腸器質的疾患の既往歴または家族歴を有するといった危険因子がないかどうか問診し、優位な所見があれば、上部、下部内視鏡検査や腹部超音波、腹部CT検査などを施行することもあります。以上の結果を踏まえて、器質的疾患の可能性が除外できれば、機能性腸疾患(Functional bowel disease:FBD)と特定され、ROME ⅢによるIBS診断基準に基づいてIBSの診断を確定します。

過敏性腸症候群の診断_図1_700

また、IBS患者は下部消化器症状の他に、心窩部痛、季肋部痛、悪心、嘔吐、食欲不振などの上部消化管症状、その他頭痛などの多彩な身体症状や抑うつ感といった精神症状を持つことが多く認められます。

こころとお腹

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脳(こころ)と胃腸(お腹)には密接な関係があることは、昔から知られています。中国の故事で「断腸の思い」とは、究極の辛い思いを表す言葉で、晋の武将の従者が猿の子を捕らえて船に乗せて連れ去った。母猿は泣き悲しみ、子猿の後を百余里あまりも追いかけてきたが、そのまま息絶えてしまった。母猿のはらわたを割いてみると、腸がずたずたにちぎれていたとされています。日本でも切腹は、許されて自らの腹を切って見せることで二心のないことを証明する機会を与えられるという意味もあり、だたの斬首よりは、武士の面目を保つとされています。欧米でも「stomach」は「胃」と「我慢」と言う意味もあったり、奴にはガッツがあるといいますが「Gut=胃」の複数形「Guts=根性」となります。脳と胃腸この2つの器官は神経によってつながっていて、脳が不安やストレスを感じると、その信号が腸に伝わって 腸の粘膜からセロトニンが分泌され、腸のぜん動運動が異常をきたし、下痢や腹部症状を引き起こすのです。「IBS」の患者さんは、この信号が伝わりやすくなっているため、ストレスによって腸が過剰に反応してしまい、痛みを感じやすくなっています。ストレスは、必ずしも自覚できるとは限りません。

 




下痢や便秘はどうして起こるのでしょうか?

私たちは通常、胃から腸にきた消化物には多量の水分が含まれていますが、約20時間以上かけてゆっくりと腸内を通過していくうちに水分が腸に吸収され、適度な硬さの便となります。 一日に約150~200gの便を排泄しています。

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下痢は・・・

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腸の運動が過剰になり、消化物が速く通過したり、食中毒などで腸粘膜からの分泌が増えたりすると、腸が水分を十分に吸収できなくなります。その結果、泥状や液状の便となってしまい、下痢を引き起こします。

 

 

便秘は・・・

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腸の運動がにぶくなったり、大腸がんやポリープといった病気のために腸が狭くなって通りにくくなったりすると、消化物が腸内に長時間留まってしまいます。その結果、消化物の水分が腸に吸収されすぎてしまい、硬い便ができ、便秘になります。

 

 

治療

IBSは生命予後に影響するものではありませんが、患者の生活の質(Quality of Life:QOL)が低下するため、社会生活に少なからぬ支障をきたします。単純な下痢、便秘の治療とは異なり、患者のストレスや心理的異常が症状に大きく影響することから、医師は患者の不安を受容し、軽減することが重要となります。プライマリーケア医の手に余るような場合には、心療内科の専門医などへの早期の紹介が必要です。

プライマリケア医による治療では、下痢、腹痛、便秘の中の優勢症状に基づいて、食事指導・生活習慣改善について指導します。下痢優位のIBSの場合は、乳糖を含有する食品を控えること、便秘優位の場合は、食物繊維の摂取、腹部膨満の強い場合、喫煙やガムを控えることなど、その他多量のカプサイシンを含む香辛料や大量のアルコールは控えることが必要です。食事内容以外に、夜食、間食、偏食、睡眠不足、心理社会的ストレスは症状の悪化につながるので、改善する必要があります。優勢症状と患者の生活状況を把握した上で、改善すべき点を指摘することが大切です。薬剤治療を4~8週間継続して、改善がなければ総合病院の消化器科、内科、心療内科による治療が必要です。

過敏性腸症候群の治療_図1_700

ストレスや心理的異常の関与が大きい場合、不安が優勢か、うつが優勢か判断します。不安が優勢であれば抗不安薬、うつが優勢であれば抗うつ薬を用います。一方で、器質的疾患の可能性を再度確認します。複数の薬物の併用や簡易精神療法などを4~8週間継続して、改善がなければ消化管機能専門医・心身医学領域による治療の治療が必要です。

過敏性腸症候群の治療_図2_700

幻覚・妄想・パーソナリティ障害が認められる場合は、精神科に紹介します。症状が心理的異常による影響を受けていないとされた場合は、バロスタット検査や消化管内圧検査などの消化管機能検査を施行して、colonic inertia(結腸無力症)慢性偽性腸閉塞などのIBS以外の消化管運動異常の可能性を検討します。

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IBSの薬物療法一覧

過敏性腸症候群の治療_表1_700

慢性胃炎がなくなる

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1983年のヘリコバクター・ピロリ菌の発見は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃炎などの疾患の概念を根底から変えました。今まで、病理組織学的な診断であるはずの慢性胃炎という診断を漠然と行い、H2ブロッカーや粘膜保護剤の投与が漫然と行われてきました。その中から消化管に由来の症状が慢性的にあってもその症状を説明できるような器質的所見や生化学的異常が認められないという病態は日常診療では極めて頻繁に遭遇します。そのような疾患全体を機能性消化管疾患とし、上部消化管症状(胸焼け、吞酸、悪心、嘔吐、胃もたれ、胃痛など)が主なものが機能性胃腸症、下部消化管症状(下腹部痛、下痢、便秘など)が主なものが過敏性腸症候群なのです。(このような経緯から粘膜保護剤は淘汰されてた)



ダンピング症候群

胃切除手術を受けた人の15〜30%にみられる胃切除後症候群で、炭水化物が急速に 小腸に流入するために起こるものです。食事中や食後の直後に症状が現れる早期ダンピング症候群と、食後2~3時間たってから 現れる後期ダンピング症候群に分けられます。

早期ダンピング症候群は、胃切除による胃液の分泌量が低下、貯留機能の喪失のため、食べ物が直接、腸内に入るために起こります。主な症状は、冷や汗、動悸、めまい、顔面紅潮、全身倦怠感、全身脱力感などです。

後期ダンピング症候群は、腸管からの炭水化物の吸収が増大すると、高血糖になります。 そこでインスリンが過剰分泌され、逆に低血糖になってしまうことで起こるものです。食後2~3時間たって頭痛や倦怠感、発汗、めまいなどが現れるもので、 多くは早期ダンピング症候群に引き続いて起こります。低血糖が大きな原因で起こることから、 後発性低血糖症候群ともよばれています。

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治療は、食事療法を主体として、必要に応じて薬を用います。まれに、再手術を行う場合もあります。早期ダンピング症候群の場合、低糖質、高たんぱく、適度な脂肪の食事で、 なるべく水分を少なくし、1日5~6回に分ける少量頻回食が理想とされます。また、刺激の強い食べ物、熱い物、冷たい物は避けて、食後は20~30分ほど横になることも必要です。薬物療法としては、血管作動性物質に対する抗ヒスタミン薬、粘膜刺激に対する粘膜保護剤、 自律神経系に対する抗不安薬、腸管運動亢進に対する鎮痙薬などの薬が必要に応じて投薬します。後期ダンピング症候群の場合は、1回の食事量を少なくし、ゆっくりと時間をかけてとるようにします。症状が現れたときには、飴など少量の糖分を摂取すると治まることが多い。症状の現れ方は 個人差がでます。自分にはいつどうような症状がでやすいのか、何を食べた時、何を飲んだ時に 起こるのかきちんと把握し、それに合わせた食習慣をつくることが大切です。また、ダンピング症候群は精神的な要素も大きく、自律神経とのかかわりも深いために、 精神面でのコントロールがとても重要になります。

 




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機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorders: FGIDs)とは消化管粘膜などに器質的(構造的・形状的)な異常を認めないにも関わらず、蠕動運動など本来備わっているはずの消化管としての機能が損なわれる疾患の総称です。大腸の機能性消化管障害の代表的な疾患が過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome: IBS)です。現在IBSの罹患率は日本人の約10-15%と見積もられており、20-40歳代に好発し、加齢とともに低下する傾向にあります。生命に影響のない良性疾患ですが生活の質(Quality Of Life:QOL)に影響するため、適切な治療を必要とする疾患です。

IBSの原因は明らかとなっていませんが、脳腸相関、消化管運動異常、知覚過敏等が原因の一つと考えられています。最近では細菌やウイルスによる感染性腸炎からの治癒後にIBSが発症していることも報告されています。

 

主な症状は腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連した便通異常(便秘・下痢)です。症状は排便によって軽快もしくは軽減し、社会心理的ストレスで増悪します。いずれの場合も一時的ですが、長期的には慢性あるいは再発性に持続します。

 

IBSの国際的な診断基準としてRomeⅣが用いられています(表1)。

表1 IBSのRomeⅣ診断基準

最近3ヶ月間、月に4日以上腹痛が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上があること。

  1. 排便と症状が関連する
  2. 排便頻度の変化を伴う
  3. 便性状の変化を伴う

期間としては6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記基準をみたすこと

便形状により便秘便と下痢便の頻度の割合から便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類されます(表2)。

表2 IBSの分類(RomeⅣ)

1.便秘型IBS(IBS-C):

硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの

2.下痢型IBS(IBS-D):

軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり、硬便または兎糞状便が25%未満のもの

3.混合型IBS(IBS-M):

硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの

4.分類不能型IBS:

便性状異常の基準がIBS-C,D,Mのいずれも満たさないもの

男性より女性に多く、男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向にあります。診断を行う際には血液検査、腹部単純X線写真、便潜血検査、下部消化管内視鏡など必要に応じて各種検査を施行して大腸がんや炎症性腸疾患など他の病気ではないことを確認しておくことが重要です。

 

IBSの治療は生活様式の調整、食事療法、薬物療法を主に行います。

IBSの患者さんは規則正しい生活と十分な睡眠が推奨されます。刺激物摂取や、夜間の大量の食物摂取は避けることが望ましいです。さらに、特定食物で症状が起こりやすい患者さんはその回避により症状が改善する場合がありますので、食生活を振り返ることが解決の鍵となることがあります。

IBSの薬物療法として、ポリカルボフィルムカルシウム、プロバイオティクス、酸化マグネシウムなど腸管の内容物を調整する薬物やトリメブチンや臭化ブチルスコポラミンのような腸管の機能を調節する薬物が用いられています。

a. 高分子重合体
ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®)に代表される高分子重合体は胃ではほとんど膨張せずカルシウムが遊離します。一方で小腸・大腸のような中性~弱アルカリ性条件下では大量の水分を吸収して膨潤・ゲル化することで水分吸収を抑制して保水作用を示すようになり、便は適度の水分を含み便の容積も増すようになります。安全性も高く、IBS患者さんの基本的な治療薬と位置づけられています。投与量は1.5-3gですが、下痢型では1.5gまでとなります。数週間投与しても症状が改善されない場合は増量ないし中止を検討します。また、本剤は酸性条件下でカルシウムが遊離して薬効を示しますので、胃切後や酸分泌抑制剤を服用している患者さんでは十分に薬効が発揮されない場合があります。投与中に腹部膨満感・腹痛などの自覚症状や、高カルシウム血症を認めることがありますが、重篤な副作用はありません。

b. セロトニン受容体(5-HT3受容体)拮抗薬
ラモセトロン塩酸塩(イリボー®)に代表される5-HT3受容体拮抗薬は腸管蠕動運動の活発化や腸管水分輸送異常の改善を促し、下痢を抑制し、便形状や便意切迫感を改善させます。さらに腹痛や腹部不快感など内臓知覚過敏を改善する効果もあります。

IBSの下痢症状は、朝の通勤通学途中で便意が切迫することが多いので、男性では朝1回5μg、女性では2.5μgから投与を開始します。投与後比較的早期から効果があります。投与開始4週間後に評価し、効果十分の場合は男性では10μg、女性では5μg迄増量します。薬物動態は食事の影響を受けないので、朝10μg内服ないし、朝夕5μgずつ内服する、などと症状の出現にあわせて調整します。 副作用として、便秘や硬便があります。

c. 抗コリン薬
メペンゾラート臭化物(トランコロン®)、チキジウム臭化物(チアトン®)など抗コリン薬は腸管運動の活発化を抑制します。下痢型IBSの場合に他剤と併用することも可能です。副作用として便秘、排尿障害、視調節障害、眼圧上昇、口渇、眠気、めまい、心悸亢進などがあるため、前立腺肥大や眼圧の高い緑内障に患者さんに対する投与は禁忌となります。また高齢者や自動車の運転をなさる方に投与する際は慎重な判断が求められます。さらに、抗コリン作用を有する三環系抗うつ薬、MAO阻害薬、抗ヒスタミン薬と併用すると本剤の作用が増強されるため注意が必要です。

d. 便秘治療薬
従来、便秘に対しては浸透圧性下剤である酸化マグネシウム、刺激性下剤であるセンノシド製剤やピコスルファートが使用されてきました。近年、便秘に対して上皮機能変容薬と呼ばれるこれまでの便秘治療薬とは異なる作用機序の便秘治療薬が利用可能になっています。クロライドチャネルアクチベーター(アミティーザ®)やグアニル酸シクラーゼC受容体作動薬(リナクロチド®)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス®)が上皮機能変容薬にあたります。これらの薬剤はいずれも便秘型IBSに対する投与が可能です。

 

IBSの患者さんは規則正しい生活、十分な睡眠が推奨されます。社会的ストレスが発症・増悪因子となることは前述の通りであり、ストレスを貯めないことが肝要です。また、食事にも留意が必要であり、具体的には炭水化物もしくは脂質の多い食事、香辛料、アルコール、コーヒーにより悪化するといわれています。これらを大量に摂取したり夜間に摂取したりすることは避けることが望ましいです。