ヘリコバクター・ピロリ菌

ピロリ菌の発見

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ピロリ菌は、オーストラリアのロイヤル・パース病院のウォーレンとマーシャルという2人の医師によって発見され、2005年にノーベル医学生理学賞を授賞しました。実は、100年以上前から胃の中にラセン菌がいる?という報告されていましたが、さすがに、pH1〜2の強い酸性の胃の中(小学校の理科の実験を思い出して下さい。塩酸の瓶の中でバイ菌が生きていけるでしょうか)に細菌は生息できなだろうと思うのが普通の凡人で、誰もが一時的な通過菌と考えらていたわけですが、世の中にはへそ曲がりな人はいるもので、ウォーレンは、元気な人に胃にはたしかになにもいないようだが、胃炎や胃潰瘍などの荒れた胃にはやっぱりなにかいそうだと思って、当時、研修医だったマーシャルを引き込んで、いっしょに研究を始めたわけです。毎日毎日、シャーレにバイ菌を塗っては暖かいところで48時間培養するともしバイ菌がいれば、コロニー(バイ菌の塊)ができてくるんですが、なかなかうまくいきませんでした。3年後にある日、イースター祭で遊びにでかけて、2日間放っておいたのが幸いしてピロリ菌発見につながりました。ピロリ菌は弱い菌で、増殖するのに倍の時間がかかったわけです。そしてマーシャルは、暴挙にでます。若気に至りでしょうか、自らピロリ菌を飲むんですね。数日で胃が痛くなって、10日後に胃カメラをすると急性胃炎がおこっていて、そこを生検してピロリ菌を証明したわけです。(コッホの原理が再現)ちなみにピロリ菌を飲んでも、慢性胃炎にはならないわけです。大人になってピロリ菌に感染するかというとほぼしません。健康な胃には一時的にくっついて胃炎は起こしますが、すぐに流れていってしまいます。1983年、Lancetにピロリ菌を報告したわけです。思い込みはダメですね。宇宙人もいるかもしれませんね。

 

どうしてへっちゃらなの?

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胃の中は強い酸性(pH1~2)のため、通常の菌は生息できないはずなのに、なぜピロリ菌は胃の中で生きていけるのでしょうか?この秘密は、ピロリ菌がだしている「ウレアーゼ」という酵素にあります。この酵素は胃の中の尿素を分解してアンモニアを作りだします。アンモニアはアルカリ性なので、ピロリ菌のまわりが中和され、胃の中でも生き延びることができるというわけです。このとき産生されたアンモニアによって胃粘膜が障害され、胃炎が起こることもわかってきました。

 

ピロリ菌は、どうやって移るの?

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若い人は、感染率が低く、高齢者ほど高くなっています。わが国では、上下水道が十分完備されていなかった戦後の時代に生まれ育った団塊の世代以前の人のピロリ感染率は約80%前後と高くなり、環境衛生が整備された若い世代の感染率は年々低くなっているわけです。

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ピロリ菌の感染は、主に小児期(5歳以下)で成立するため、加齢に伴い感染する人が多くなるわけではありません。小児期の感染率がそのまま年齢とともに右方に移動しているわけで、今後は、現在の若者の感染率が右方に移動し、全人口において、欧米並みの低値となると予想されています。

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ピロリ菌の成人への初感染は稀で、感染したとしても一過性で持続感染はしないことが多いとされています。すなわち、ピロリ除菌に成功した場合は、再感染の可能性は低くなるわけです。また、夫婦間や恋人間でのキスでも、大人ではピロリ菌は感染しないと考えられています。小児の場合は、胃酸分泌や胃の粘膜の防御機能が未熟であるために感染が成立すると考えられています。昔は、衛生環境が悪かったため、糞−口感染だったわけですが、現在では、家族内感染、特に母親が咀嚼した食べ物を乳幼児に与えることによる伝搬が原因と考えられており注意が必要です。

Q.いきなり内視鏡検査を実施するのは患者に負担がかかるので、尿素呼気試験等を最初に実施してスクリーニングしたい。その際、尿素呼気試験を実施したがピロリ菌陰性だった場合に、診療報酬明細書にどのように記載すればいいのですか?
A.厚生労働省保険局より「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて」の通達には以下のように記載されています。ヘリコバクター・ピロリ感染症に係る検査については、以下に掲げる患者のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われる患者に限り算定できる。① 内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者② 胃MALTリンパ腫の患者③ 特発性血小板減少性紫斑病の患者④ 早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者⑤ 内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者です。従って、内視鏡検査を行っていない患者に対して尿素呼気試験等を最初に実施してスクリーニングをすることはできません。


ピロリ菌感染の診断

我が国のピロリ菌の感染率が50%であることを考慮すると、ピロリ菌感染の診断は、除菌療法を前提として行うべきです。ピロリ菌感染の検査は6種類あり、それぞれに長所や短所があるので、その特徴を理解した上で選択しなくてはなりません。ピロリ菌乾癬診断では、2種類の検査を同時に行う事が保険でも認められました。(2010年4月)PPIは、ピロリ菌に対し、静菌作用があり、内服による偽陰性化を防ぐためには、少なくとも2週間休薬する必要があります。厚労省の通知には、検査方法別の記載はなく査定対象になっています。学会より申し立てを行っているようで、しばらくは2週間の縛りがあるようです。

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内視鏡検査による診断法では、生検材料を採取する場所によるサンプリングエラーは免れません。

(1)培養法
ゴールデンスタンダード(特異度が高い)で、感受性検査に有用ですが、手間と時間(数日)がかかります。PPI内服で偽陰性になるがあります。

(2)迅速ウレアーゼ法
簡便で迅速性に優れています。ピロリ菌に感染するとピンク色になります。(2時間)PPI内服で偽陰性になるがあり、除菌後の判定では、感度(61〜100%)に限界があり推奨出来ません。

ウレアーゼ

(3)組織検鏡法
実際に、HE染色やギムザ染色等で菌を見るわけですから、背景粘膜の様子もわかり、学術的には有用です。しかし、技師さんの技量に左右される可能性がありますし、PPI内服で偽陰性になるがあります。

 

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(1)尿素呼気試験法
迅速ウレアーゼ試験と同様にピロリ菌のウレアーゼ活性を利用した検査法です。非侵襲的かつ簡便で、最も信頼性の高い迅速検査法ですが、検査料金が一番高くなります。PPI内服で偽陰性になるがあります。除菌後の判定は、1ヶ月はあけましょう。

(2)抗体測定法
血清と尿で検査でき、スクリーンング検査として有用です。手軽に行えますが、除菌成功後も抗体の陰性化には1年以上かかる場合もあり(最低でも半年)除菌判定には不向きです。PPIなど薬剤の影響は受けません

(3)抗原測定法
便中ピロリ菌抗原検査は、簡便で精度も高いので、小児科領域で使用されています。非侵襲性、簡便、感度、特異度も高く、感染診断、除菌判定にも有用です。PPIなど薬剤の影響は受けにくいと言われています。除菌後の判定は、1ヶ月はあけましょう。

結果が陰性の場合は、異なる方法でさらにもう1回診断を行うことが出来ます。

Q.ヘリコバクター感染胃炎の感染診断法には、迅速ウレアーゼ試験、 鏡検法、培養法、抗体測定、 尿素呼気試験、便中抗原測定があるが、学会として推奨している検査法を教えて欲しい。
A.ピロリ菌感染診断法には6つの方法が保険適用となっていますが、総合的に尿素呼気試験が最も信頼度が高いといわれています。また、便中抗原測定もこれと同等の信頼性の高い検査法です。これらは、面の診断法で、除菌判定にも有用です。面の診断法である抗体測定には、日本人の菌株から作られたキットが使用されるようになり、感度,特異度も高くなっています。ただし、小児や感染直後には陽性化しないことがあり、除菌成功後もすぐには陰性化せず陽性状態が長期間続きます。一方,内視鏡検査のときに同時に行える迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法は点の診断法といわれており、ピロリ菌が胃粘膜に一様に生息している訳ではないので、ピロリ菌陽性者でも、菌のいない部分から組織を採取すると偽陰性となることがあるので注意が必要です。以上のような長所、短所を理解した上で感染診断を行うことになりますが、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用している場合は偽陰性を防ぐために2週間の休薬後に行うことになっています。とにかく、ピロリ菌陽性、陰性を示す特徴的な内視鏡所見を十分に理解しておくことが何よりも重要です。

 

レセプト記載は、病名には、胃潰瘍が十二指腸潰瘍、胃炎の診断(疑い病名はダメ)とヘリコバクター・ピロリ菌(疑)の記載が必要です。PPIを投与していると偽陰性になりやすいので、PPI中止後(PPI内服終了日の記載)4週間以上経過してから、ピロリ菌感染診断(ヘリコバクター・ピロリ菌(疑)の診療開始日)をしなくてはなりません。


除菌治療後のピロリ菌感染診断(除菌判定)

除菌判定は、除菌治療終了後(除菌治療終了日の記載)4週間以上経過した患者さんが対象になりますが除菌判定は、なるべく遅くした方がその精度が高くなるので、患者さんはなるべく早く除菌の結果を知りたがるものですが、よく説明して除菌治療終了後8週間は我慢してもらうようにしています。

除菌判定を抗体測定法で行う場合は、抗体価低下に時間がかかりますので、除菌後6ヶ月〜1年はあけて検査をすべきです。また、除菌前の抗体測定結果と定量的な比較(除菌前後での抗体測定日を記載)できることが条件となっているので、除菌前のピロリ菌感染診断も抗体測定法で行った患者さんに限られることになります。

除菌判定で、結果が陰性であった場合、除菌成功と判定されますが、さらに診断の精度を上げるために、1回に限り異なる検査法で再検することが出来ます。(初回と2回目の検査方法と結果を記載)

ピロリ菌関連疾患

ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌が発するアンモニアや毒素などによって、胃の粘膜が炎症を起こします。この状態が長く続くことで、胃を中心に様々な障害が引き起こされると考えられています。ピロリ菌が引き起こす主な疾患を挙げてみましょう。

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◎胃潰瘍・十二指腸潰瘍 胃や十二指腸の粘膜がただれて傷ついた状態で、再発を繰り返す。

◎萎縮性胃炎 慢性胃炎が進行した結果、胃粘膜が萎縮してしまい、薄くもろくなった状態。粘膜の抵抗力が落ち、消化能力も低下する。

◎胃がん 胃壁にできる悪性腫瘍。ピロリ菌感染者は非感染者に比べ胃がんになりやすい。

その他、ピロリ菌が深くかかわっている胃の病気には、胃MALTリンパ腫(胃の中にあるリンパ球が腫瘍化したもの)胃過形成性ポリープなどがあります。胃以外の病気では特発性血小板減少性紫斑病などがあります。これらの病気はピロリ菌の除去により、高い確率で病気の改善が見られます。

ピロリ菌感染と胃がん

以前から、疫学調査からH.pyloriが胃がんの発癌因子と考えられていましたが、呉総合病院の上村直実先生が、7.8年の前向き観察研究で証明しました。H.pylori陽性群1246例中36例(2.9%)に胃癌が認められたが、H.pylori陰性群からは胃癌の発症を全く認めなかった(p<0.001)H.pylori 陽性群の胃癌発症リスクは5%/10年になります。この発表は、世界に大きなインパクトを与えました。ピロリ菌が、胃潰瘍と関係するだけなら、ノーベル賞までは貰えなかったかもしれません。胃がんとの関係が証明した上村先生の呉共済病院(広島)まで、マーシャル先生がわざわざお礼に来たという逸話もあるようです。

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(NEJM 2000)

この結果を受け、90年代に世界中で、除菌によって胃がんの発生を抑制出来るのかという臨床試験が行われましたが、いずれも頓挫。香港のグループからは除菌群と非除菌群で胃がんの発生率に有意差がでなかったとの報告がありました。日本では、JAPANGAST Study Groupは、H.pylori陽性で内視鏡的切除された胃癌患者さん(EMR後の胃粘膜は、胃癌の高リスク群)を対象に、無作為にH.pylori除菌群と非除菌群に割り付け、3年間の観察期間中における胃癌の再発は、H.pylori除菌により1/3に抑制されることが明らかにしました。早期胃がんのEMR後の二次胃がんの発生率は3年で4〜10%(通常は1年で0.3%)で、前癌状態である粘膜を対象にしたことで、ゴールを決めて見せたわけです。これほどの胃がん高危険群が抑制出来るならば、他の症例でも抑制出来るはずという理屈ですが、除菌で二次発癌の予防の有効性が明らかになったとの意見もあります。また、欧米の臨床試験がうまく行かなかったのは、欧州は胃がんが少ないこと、早期胃がんの診断能力が低いことが原因としていますが、そもそも胃がんはいつ頃できているのでしょうか?40歳代にはすでに、胃がんの芽がでており、20〜30年かけて肉眼にも見える早期胃がんに育ってくるって、誰かが見て来たような説を信じていたんですが・・・。

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(Lancet 2008)

血液検査で、胃がんがわかる?

胃がんの原因のほとんどがピロリ菌感染であることがわかってきました。ピロリ菌感染の有無を調べる検査(血中ピロリ抗体)と萎縮性胃炎の有無を調べる検査(血液ペプシノーゲン検査)を組み合わせて、胃がんになりやすいかどうかのリスク(危険度)分類をする検診が、ABC検診です。

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ABC分類のメリットとして、血液検査の結果をみれば、誰が判定しても胃粘膜の状態の把握が可能で、胃がんのリスクを層別化できることです。日本では、1950年代後半から胃癌検診が導入され、胃癌の罹患率が低下している現状で今後どのような形で続けていくべきどうか、検討すべき岐路にあります。先進国の多くが科学的根拠に基づき医療を提供しているのに、日本だけ慣例に従いとは、いかにも官僚的でした。X線検診は、死亡率減少のエビデンスがある?とは言われていますが、受診率が伸び悩み読影医の精度管理などに問題があります。しかし、間違ってはいけないのは、ABC検診は胃の健康度を評価するもので(胃癌リスク診断)胃癌そのものを診断する方法ではありません。胃癌の診断には内視鏡検査あるいは胃X線検査による画像診断が必須です。検診率を上げるためには(検診を推進しない場合はどうでもいいことですが・・・)血液検査で胃がん発生のリスクの高い人を絞り込んで、精密検査をする(ピロリ菌未感染の場合は、胃X線検査や内視鏡が必要ない)と言う考え方です。ただ、ABC検診でピロリ菌陽性となっても全員が除菌治療を受けなければならないわけではありません。除菌しても胃癌ができることは少なからずあり、除菌成功後も検査は必要です。

ABC検診の導入を提唱されている川崎医大の井上和彦先生の2800症例のデータでは、ピロリ感染もなく、萎縮もない正常粘膜のA群からの胃がん発生は0%、ピロリ菌に感染しているが、ペプシノーゲン陰性の萎縮のないB群は0.21%、ペプシノーゲン陽性の萎縮の進んだC群は1.87%と胃がんのリスクが上がってくるとしています。

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胃腺には噴門腺、胃底腺、幽門腺があり最も重要なのは胃底腺で、ペプシノーゲンを分泌する主細胞、塩酸を分泌する壁細胞、粘液を分泌する副細胞があります。ペプシノーゲンは、胃液の中に含まれる分子量が約42500の蛋白質です。酸性の環境でその一部分が切り離され、ペプシンになります。このペプシンは蛋白を分解する酵素として、胃酸と共同して食べ物を消化するのです。このペプシノーゲンには、ペプシノーゲンⅠ(PGI)とペプシノーゲンⅡ(PGII)があります。ペプシノーゲンⅠは胃酸の分泌する胃底腺の主細胞(胃底腺領域)より限局して分泌されるのに対して、ペプシノゲンⅡは、主細胞以外に噴門腺(胃の入り口付近の細胞)幽門腺(胃の出口付近の細胞、ガストリン分泌領域)十二指腸腺など胃全体にまたがって広く分泌され、胃の炎症を表しています。ペプシノーゲンは、胃の中以外には殆ど存在しないのですが、その約1%の量が血中に移行し、測定できるようになります。

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血清ペプシノーゲン値は胃粘膜の炎症と萎縮を反映し,胃粘膜の状態が推定でき,胃粘膜の健康度を示す指標と考えられています。さて、健常な胃にピロリ菌が感染すると胃粘膜の炎症を起こし、血中PGI,PGIIとも増加し、PGI/II比は低下します。さらに慢性に経過すると,胃粘膜の萎縮の進行に伴って胃底腺が縮小します。血中PGIがより低下し、PGI/II比も低下します。大雑把な目安として、Ⅰ/Ⅱの値が、3以下になると萎縮の存在が疑われ、2を切るとかなり高度の萎縮がありそうだと判断します。PGIが70以下で,かつ,PGI/PGII比が3以下(これを基準値とよぶ)を陽性とし、萎縮ありとしています。

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さて、ABC検診の最も注意すべき点は、A群の取り扱いです。A群は、ピロリ菌感染は陰性かつペプシノーゲン陰性の萎縮のない正常な胃で、胃がんの発生率はほぼゼロとされています。臨床現場にゼロと言うことはありませんが、主な原因は、ピロリ菌を除菌した症例が紛れ込んでいることです。(除菌治療を行った75%がA群に入ってきます)原則、ピロリ菌除菌治療を受けた人はABC検診は受けないように説明しなければなりませんが、本人は知らなくても、高度萎縮によりピロリ
菌が住めなくなった場合、偶然にクラリスなどが処方された場合、ピロリ菌抗体の偽陰性なども考えられます。
(1)ペプシノーゲンⅠが30未満(萎縮を反映)
(2)ペプシノーゲンⅡが12以上(炎症あり)
(3)PGI/II比が4以上(萎縮あり)
(4)ピロリ菌IgG抗体 3〜10(陰性高値は、偽陰性の可能性あり)
よって、偽A群が疑われる症例は、精密検査も必要かも知れません。

また、B群は、ピロリ菌の感染がありますが、ペプシノゲン値が基準値以上(陰性)で、胃粘膜の萎縮が進んでいない群であり、萎縮の進んだC群に比べて、胃がん発生率は低率ですが、予後の悪い未分化がんが見つかることがあるので注意が必要です。

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胃炎を診断する

慢性萎縮性胃炎は、胃がん発生と密接な関係を持っており、萎縮性胃炎は胃がんの高危険群です。しかし、萎縮性胃炎は特有な症状がなく、その診断は容易ではありません。胃内視鏡で、萎縮性胃炎を的確に診断することが、胃がんの早期発見に有効となります。

胃炎を正しく診断するためには、正常な胃粘膜を診られることが前提です。ピロリ菌未感染の正常胃体部 (胃底腺領域)には、鳥の足様微細血管所見RAC(regular arrangement of collecting venules)と呼ばれる所見が観察されます。(図1a)RACのある粘膜は炎症も萎縮もない正常粘膜です。集合細静脈(collecting venules)の規則的配列像という意味で、胃底腺粘膜を貫いてる集合細静脈が点状に規則的に配列している所見で、近接すると鳥の足(ヒトデ)のような形に見えます(図1b)。

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慢性胃炎の診断には①内視鏡検査所見に基づいてなされる診断(内視鏡的慢性胃炎)と、胃粘膜生検組織の病理組織所見に基づいてなされる診断(組織学的慢性胃炎)があります。後者がより厳密な慢性胃炎の診断と考えられますが、日常診療における「内視鏡検査による慢性胃炎の診断の確定には、胃生検による組織学的慢性胃炎の診断は必要とされていません。

 

ピロリ菌 Q & A(日本消化器病学会)

Q.他の施設において内視鏡(検診・健診を含めて)で胃炎と診断された患者さんに対して感染検査や除菌治療ができるのですか?
A.他施設で、6か月以内に通常診療および健康診断として内視鏡検査が行われ、胃炎と確定診断がなされていた場合には、内視鏡検査を省略して感染検査を行うことができます。その際には、診療録および診療報酬明細書の摘要欄に内視鏡の施行日および胃炎所見を記載しておくべきです。(注意: 6か月以内という期間は学会の見解であります)
Q.内視鏡検査でなくX線検査で胃炎、胃潰瘍の診断をされる先生がいます。 胃炎の確定診断はX線検査で可能ですか?
A.今回のピロリ菌検査・治療の保険適用追加では”内視鏡検査によって胃炎の確定診断がなされた患者”が対象となります。残念ながら、胃潰瘍とは異なりX線検査のみで胃炎と診断することはできません。
Q.胃炎の確定診断時は内視鏡検査が必須で、胃潰瘍の時は内視鏡検査は必須でないと理解してよいか?
A.その通りです。今回の保険適用追加の際にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断は「内視鏡検査にて胃炎と診断した患者」となっていますが、消化性潰瘍については、以前と同様で、「内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者」となっています。
Q.ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が適応追加になりましたが、ピロリ菌感染を確認するための内視鏡検査は保険適用にならないのではないのか?
A.ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に関する内視鏡検査は「胃炎の存在を確認するための検査」であり、内視鏡でピロリ菌感染を確認するものではありません。ただし、健康診断等でピロリ菌抗体陽性が指摘されて、「胃癌の疑い」で内視鏡検査を受けることがあります。その際には、感染診断の実施施設および施行日と結果を診療録および診療報酬明細書の摘要欄に記載しておけば、内視鏡検査はもちろん保険適用となります。
Q.今回、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が追加適用になりましたが、効能効果に関連する使用上の注意に「内視鏡検査によりヘリコバクター・ピロリ感染性胃炎であることを確認すること」とありますが、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍における除菌療法」では内視鏡は必須になるのですか?
A.胃潰瘍または十二指腸潰瘍に対するピロリ菌感染診断の保険適用は、内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者となっています。必ずしも内視鏡検査は必要ではありませんが、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の場合も内視鏡検査は必要と考えます。それはその潰瘍性病変が癌性潰瘍であることを否定すること、または他に癌病変が併発していることを否定するためです。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎であること自体が胃癌の発生リスクであることを強く認識することが必要です。
Q.厚労省の通達通りに、全ての症例で内視鏡検査等を実施したことを診療報酬明細書に記載しなくてはならないのか?
A.全ての症例で内視鏡検査の実施日を診療報酬明細書の摘要欄に記載する必要があります。当初は内視鏡検査等で確定診断した際の所見・結果を診療報酬明細書の摘要欄に記載することになっていました。H25年6月14日の厚生労働省保険局医療課通知では「傷病名」欄から胃炎と判断できる場合には、胃炎と確定診断した内視鏡検査の実施日を記載することでもよいことになり、「ヘリコバクターピロリ胃炎」の診断があれば、胃炎の所見の記載は不要となります。
Q.ヘリコバクターピロリ感染胃炎を確認する場合に内視鏡検査をするときの病名はどうしたらよいですか?
A.内視鏡検査については従来と同様で、患者さんの症状等によって内視鏡が必要な場合の病名(胃がんの疑いなど)の記載が妥当です。H.pylori感染慢性胃炎を確認する内視鏡の場合は、「ヘリコバクターピロリ感染胃炎の疑い」が望ましいと考えます。
Q.萎縮性胃炎を認めなくても除菌治療ができますか?
A.内視鏡的に萎縮性胃炎の所見がなくともピロリ菌感染が陽性の場合は胃粘膜の炎症を伴っていることがほとんどです。特に若年者では萎縮の乏しい慢性胃炎のことが多いです。将来的には萎縮性胃炎に発展し、胃癌の発生母地になりますので、除菌治療の適応です。
Q.ヘリコバクターピロリ感染胃炎を疑う内視鏡所見を教えてください。
A.萎縮粘膜を意味する血管透見像が胃体部に存在すること、ピロリ未感染正常胃に観察されるRACが体下部や胃角部で観察されないことがヘリコバクターピロリ感染胃炎を考える所見です。除菌治療でピロリ菌感染が現在ない既感染胃と現在も活動性のピロリ菌感染胃炎であるかの鑑別は、白いべったりとした粘液付着、体部大弯の襞の腫大、萎縮粘膜に比較して非萎縮粘膜の発赤が強い、などでピロリ菌感染胃炎の診断を行います。
Q.追加効能取得前に自費で除菌治療をされた患者に対して、除菌判定や二次除菌は保険適用とすることができるのでしょうか?
A.診断時の内視鏡検査の所見および除菌治療施行日等を診療録および診療報酬明細書の摘要欄に記載した上で、除菌判定や2次除菌を行うことは保険診療の適用となります。これらの証拠が不明確の場合には再度の内視鏡検査が必要です。
Q.内視鏡検査とピロリ菌感染診断検査の期間が空いたことで何か影響があるのですか?
A.保険診療では、内視鏡検査によりヘリコバクターピロリ感染胃炎が疑われた際、ピロリ菌感染を診断することになっています。日本消化器病学会としての見解では、内視鏡検査とピロリ菌感染の確認の間は6か月以内とされています。それ以上期間が空いている場合は,再度内視鏡検査を行い、胃癌のスクリーニングとピロリ菌感染診断を行うべきです。ピロリ菌が胃癌の原因菌であることを考慮すると,内視鏡的にピロリ菌感染が疑われた場合、感染診断までに年余にわたる空白が出来ることは望ましくありません。
Q.除菌判定のためには、PPIを4週以上休薬しなければならないのですか?
A.日本ヘリコバクター学会ガイドライン2009によると、除菌判定は除菌治療薬中止後4週以降に行うことになっています。しかし、偽陰性例を少なくするため、除菌治療終了3か月以降に行うことが望ましいとの報告もあり参考にすべきと思います。除菌判定前にPPIが使用されていると、30-40%に偽陰性になることが知られています。そこで、除菌判定前には一定期間のPPI休薬が必要です。保険適用上は、当初はPPIを4週間以上休薬が必要とされていましたが、現在では2週間の休薬が求められています。
Q.ABC分類のD判定でピロリ陰性と出ている場合でも除菌してもいいのですか?
A.ABC分類のD群は、ペプシノーゲン法が陽性かつピロリ菌の血清抗体法が陰性である群です。通常は胃粘膜の萎縮が強く、ピロリ菌が生存できない状態が多く、D判定は胃癌のリスクが最も高い群であり、注意深い観察を要します。血清抗体法で陰性であっても、同検査の感度は91-100%であり、抗体産生能の低下などが要因で偽陰性になっている可能性もあります。保険診療では、血清抗体法、尿素呼気試験、便中抗原、の非侵襲的検査については除菌前後のいずれにおいても2つの検査の同時算定が可能です。したがって、D群に関しては血清抗体法のみでなく他の感染検査法を追加し、陽性が確認された場合には除菌を行なうのが良いと思われます。
Q.胃炎の診断は内視鏡検査による診断で良いのですか?あるいは生検組織によるシドニー分類による病理学的な診断が必要ですか?
A.日常診療におけるヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の評価は内視鏡診断で十分であり、組織学的な慢性胃炎の診断は求められていません。組織学的胃炎の客観的評価には、アップデートシドニー分類(Updated Sydney System)にもとづいた病理所見の評価が推奨されます。胃炎の世界統一基準であるシドニー分類(The Sydney System)は,1990年にシドニーで開催された世界消化器病学会で提唱され、内視鏡部門と病理組織部門から構成されています。病理組織部門につきましては、1996年に改訂分類としてアップデートシドニー分類が報告されています。アップデートシドニー分類における胃炎の組織学的評価は、胃体部、前庭部の小・大彎、そして胃角部小彎の計5点生検をおこない、それぞれの生検組織について炎症(単核細胞浸潤)、活動性(好中球浸潤)、萎縮、腸上皮化生、H.pyloriの5項目の定量化によりおこなわれます。
除菌治療を開始する前には上部消化管内視鏡検査を行うことが必須となっています。まずは内視鏡検査による胃炎の診断(内視鏡所見)と、胃癌の除外が必要です。その後、ピロリ菌感染の検査を行い、陽性であれば除菌治療を行うことが可能です。
Q.若年者では萎縮性胃炎まで進展している症例は少ないが、表層性胃炎の場合でも除菌は可能ですか?
A.はい、可能です。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、急性炎症と慢性炎症が混在した慢性活動性胃炎と呼ばれる慢性胃炎状態です。若年者のピロリ菌感染胃炎の典型として鳥肌胃炎があります。これはリンパ球やリンパ濾胞による慢性炎症が主体となり、萎縮をほとんど認めませんが、除菌治療の良い適応疾患となります。
Q.胃癌撲滅が目的であるならば、内視鏡検査を必須とせず、もっと手軽に若年者でも除菌できるようにすべきではないですか?
A.はい、その通りです。現在、除菌治療を開始する前には上部消化管内視鏡検査を行い、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断と、胃癌の除外が必要となっています。若年者では胃癌の発生頻度は低いため、今後は「test&treat」、すなわち保険診療でまずピロリ菌感染の検査をして、その後除菌治療を行うのが理想です。現在、公費を使用したこのような試みが市町村レベルで行われつつあります。
Q.診断名は「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」と「慢性胃炎+ヘリコバクター感染症」どちらでもよいですか?
A.正しい保険適応疾患名である「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」を使用すべきです。なお、胃潰瘍、十二指腸潰瘍で除菌治療を行う場合などは、「ヘリコバクターピロリ感染症」の記載が別途必要です。
Q.「慢性胃炎」の効能では、医学管理料225点を取っていたが、今後、慢性胃炎の患者さんに除菌治療をする際、病名を「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」に変更しなければならないと思いますが、この点について保険上どのように対応すればよいでしょうか?
A.診療期間が1ヶ月以上の場合、病床数200未満の医療機関においては、病床数に応じて慢性疾患療養管理料が算定可能です。対象疾患には「胃炎および十二指腸炎」が指定されています。したがって、慢性疾患療養管理料を継続する場合には「慢性胃炎」および「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」のうち後者は治癒となりますが、症状などによる「慢性胃炎」に対する治療が必要であれば、保険上は「慢性胃炎」に対する治療の継続と管理料の対象となります。

治療

Q.1次除菌、2次除菌の順番は変更できるのでしょうか?また、クラリスロマイシン耐性菌であることが判明している場合にはどうするのでしょうか?
A.保険診療では1次除菌と2次除菌の順番の変更はできません。ただし、クラリスロマイシン耐性菌であることが判明している場合は、医療費削減の面からも診療録および診療報酬明細書の摘要欄にクラリスロマイシン耐性である証拠(感受性検査の実施施設および施行日と結果)を記載して2次除菌を使用すべきです。
Q.1次除菌に失敗後に長い期間が空いても2次除菌を実施できるのでしょうか?また、以前に他施設で除菌治療を受けたとの自己申告がある場合に、2次除菌を行ってよいのでしょうか?
A.1次除菌に失敗した場合のクラリスロマイシンの耐性率は高いので、1次除菌を再び施行しても成功率は低くなります。従って、1次除菌の既往がある場合には、内視鏡検査によって胃炎の確定診断とピロリ感染陽性が判明すれば2次除菌は可能です。その際に、1次除菌失敗である事項を診療録および診療報酬明細書の摘要欄に記載しておくべきです。
Q.小児は何歳から除菌可能ですか?
A.小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断,治療,および管理指針(加藤ら.日本小児科学会雑誌109:1297-1300,2005)では、除菌後の再感染のリスクを考慮して除菌対象年齢を5歳以上としています。しかし、蛋白漏出性胃症や消化性潰瘍を反復するなど除菌治療が必要と判断された場合では5歳未満でも除菌治療が行われています。ただし、除菌治療に関する添付文書では「小児等への投与:小児等に対する安全性は確立されていない(使用経験が少ない)」となっており、治療が必要な場合には保護者に充分な説明を行う必要があります。
Q.3次除菌の抗生物質は、どんな種類の抗生剤を用いるのが良いのですか?
A.本邦の多施設無作為割付試験の3次除菌の論文が発表されています(Murakami K, et al.Multi-center randomized controlled study to establish the standard third-lineregimen for Helicobacter pylori eradication in Japan.J Gastroenterol 2013; 48:1128-35.)。PPI2倍量+アモキシシリン1500mg+シタフロキサシン200mgの1週間投与が最も高い除菌率でしたが、ITTで70.0%と十分ではありませんでした。現在さらなる試験が進行しています。ただし、3次除菌は保険診療では適応外となっています。
Q.クラリスロマイシンの耐性化が問題です。2次除菌のレジメから始めたいのですが可能ですか?
A.メトロニダゾールを用いる2次除菌のレジメは、公知申請の手続きにより保険適用が認可されました。このため、同治療を1次除菌に用いることは出来ません。ただし、クラリスロマイシン耐性が判明している場合には、2次除菌から開始することができます。その際には、診療録および診療報酬明細書の摘要欄にクラリスロマイシン耐性である証拠(感受性検査の実施施設および施行日と結果)を記載します。
Q.1次除菌実施後、除菌失敗したと判明後、どのくらいの期間があくと2次除菌を実施できなくなるのですか?例えば10年前に除菌を行った患者様が来院され、除菌したことがあると自己申告しか情報がない場合でも、2次除菌のレジメを使ってよいですか?正確な実施状況が明確で無い場合は、1次除菌から始めなくてはならないのですか?
A.1次除菌実施後、除菌失敗したと判明したことがはっきりしていれば、クラリスロマイシン耐性の可能性が高く、何年たっていても2次除菌を施行するのがよいです。保険手続き上、除菌治療がなされ除菌不成功であったことの記載が必要です。除菌治療の実施状況が明確でない場合には、1次除菌から始めるのがよいです。
Q.高度の萎縮性胃炎で、ピロリ菌の菌量が少量と考えられる場合も除菌した方がよいですか?
A.呼気試験、便中抗原などが陽性であれば、胃粘膜にはある程度のピロリ菌が感染していると考えて除菌治療するべきです。ただし、抗体法のみが陽性の場合、とくに抗体価がカットオフに近い場合は菌量が僅かか、すでに感染が消失していることもあるので、除菌治療を行わず抗体価を経過観察することも考えます。
Q.除菌としてではなく逆流性食道炎で長期間PPIを飲んでいる患者さんが、肺炎でクラリスロマイシンとアモキシシリンをのんだ場合、除菌されますか?
A.過去の論文ではPPIとクラリスロマイシンだけでも10%程度の感染者で除菌されることが報告されています。逆流性食道炎で使われるPPIの量は除菌治療には十分とは言えませんが、質問のようなケースで7日を超えてPPIと抗菌薬が使用されれば除菌されることがあると考えられます。しかし、耐性菌となっている場合には除菌成功率が低いと思われます。
Q.除菌治療を行う場合、胃潰瘍・十二指腸潰瘍での使用とヘリコバクター・ピロリ感染胃炎での使用で除菌薬に違いがありますか?
A.消化性潰瘍の患者であってもヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の患者であっても除菌治療に使用する薬剤の種類・量・投与方法・期間に違いはありません。
Q.過去に除菌治療が成功していて、数年後、再度ピロリ菌が見つかった場合、また一次除菌からしなければならないのですか?
A.除菌治療が不成功であった場合、胃内環境によっては感染検査の再陽性化に数か月以上かかることもあります。最後の陰性検査が除菌治療終了から1年以内であれば、残っていたピロリ菌が増えた可能性が高いです。除菌終了から1年以上たった検査で陰性であったものが数年後に陽性になった場合は再感染を考えます。ただし再感染は稀ですので、基本的に除菌不成功者として2次除菌を行うのがよいと考えます。
Q.一次除菌と二次除菌の間の期間について教えてください。
A.一次除菌と二次除菌の期間の違いによる除菌成功率の違いは報告されていません。早く二次除菌を行おうとして一次除菌の結果判定を急ぐと、偽陰性や偽要請陽性が多くなり、不成功者を成功者と、成功者を不成功者などと判断してしまいます。確実な除菌判定を心がけましょう。
Q.除菌治療の適応年齢について、高齢者(たとえば80歳代)は除菌治療を行なう必要性があるのですか?
A.年齢のみで適応の有無を判断することはできません。MALTリンパ腫であれば年齢に関わらず感染者は除菌治療するべきです。胃癌予防の観点からであれば、80歳以上で腸上皮化生も伴う高度な胃粘膜萎縮がある場合は予防効果が少なく、さらに腎機能が悪い場合などは積極的に除菌を行う必要はないでしょう。基礎疾患がなく、本人の希望がある場合には高齢であっても除菌治療を行ってよいでしょう。また、お孫さんなどと接することが多い高齢者では感染源となりうるので、除菌治療を考慮した方がよいでしょう。

除菌後

Q.ピロリ感染胃炎の除菌成功後に注意しなければならないことを教えてください。
A.除菌成功後にも胃癌が発見されることがあるので、除菌に成功した後も定期的な胃癌のスクリーニング検査は必要となります。また、萎縮の強い症例や食道裂孔ヘルニアを合併している症例では除菌後に胃食道逆流症(GERD)が出現することがあります。
Q.除菌治療後、PPI又はH2受容体拮抗薬を続ける必要がありますか?
A.消化性潰瘍を除菌する場合には、除菌後も潰瘍治癒目的でPPI又はH2受容体拮抗薬を一定期間継続する必要があります。しかしながら、ピロリ感染胃炎を除菌した際には基本的にはその必要はありません。
Q.除菌治療による慢性胃炎の内視鏡的な改善効果はどの程度の期間で判断しますか?
A.内視鏡的にピロリ菌の現感染を疑う所見とは、胃体部~穹窿部の点状・びまん性発赤、ひだの腫大・蛇行、RACの消失、粘調な粘液、結節性変化などです。除菌治療によるこれら内視鏡所見の改善効果の確認は、まずは除菌1年後に内視鏡検査を行うことをお勧めします。その後も除菌施行医は内視鏡によるfollow upを責任を持って継続することをお勧めします。
Q.除菌治療終了後、再感染に気をつけるために観察期間は何年ほどとった方がよいのでしょうか?
A.本邦の成人においては、除菌治療成功後の再感染率は年間1%未満と報告されています。除菌成功後の再感染は極めて稀で、再感染が起こる場合でも除菌後1年以上経過したからです。除菌成功が正しく診断できれば、特別な除菌判定のための観察期間の設定は不要です。なお、胃癌の早期発見のためには除菌成功1年後の内視鏡検査が推奨されています。
Q.除菌成功患者が安易に胃癌にならないと思い込み、健診受診の件数が減る可能性もある。学会として何かしらの啓蒙は考えているのですか?
A.除菌成功後にも定期的な内視鏡検査や胃がん検診を継続して実施することは極めて重要です。このことは、除菌施行医が必ず患者に説明すべき事項です。学会でも、消化器内科専門医のみならず、除菌治療を行う一般内科医に正しい知識を啓蒙するよう活動をしています。また一般市民にも、新聞報道や市民公開講座を通じて、正しい知識の普及に努めています。