「ポリファーマシー」って知ってますか?また、聞き慣れないややこしそうなカタカナ英語が出てきましたが、つまりは、あなたの飲んでいるお薬について考えて見ましょうという企画です。

ポリファーマシーと飲んでいるお薬の種類とはどういった関係なんでしょうか?

ポリファーマシーとは、「複数」を意味する「poly」と「調剤(薬局)」を意味する「pharmacy」からなる「多剤服用ないし多剤処方」を意味する造語です。つまり、多くの薬を飲んでいることを飲んでいることをポリファーマシーと呼んでいます。

では、飲んでいる薬が多いだけでポリファーマシーというのでしょうか?

「今日、先生にお薬お願いしたのに出してくれなかったなあ」とか「熱さましだけ?抗生剤、出してくれなかった」とか「他の病院にもかかっているが、先生には言っていない」「本当は、お薬飲みたくないので捨てているんですけど、先生には言えない」「お薬を飲んだか飲まなかったか忘れてしまう」などの経験はないでしょうか? こういったことがきっかけでどんどん薬が増えて、ポリファーマシーになっていくのではないかと言われています。

また、高齢化が進むと、持っている病気も増える(Multimobidity:多疾患依存)ので、当然飲む薬も増えるというのは必要悪でないかというご指摘もあります。

 

厚労省のデータでは、現在、1日あたり使用している薬(年齢階級別、定期的に医療機関に行って処方してもらっている薬がある患者)は高齢であるほど、定期的に内服する薬の種類が多くなる傾向がみられた。65歳以上では約4割、80歳以上では 6割の患者で「7種類以上」内服しているとの結果でした。

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では、飲んでいる薬の数が多いだけで「ポリファーマシー」なのかなという事なんですが、実際は、ただ単に薬の数だけではないですよというところの重要性を説明していきましょう。

「何種類の薬を併用していたらポリファーマシーに該当するのか」という厳密な定義は存在していません。大切なのは、必要以上に薬が処方されている状態かどうかという事です。つまり、ポリファーマシーの一番は、必要でない薬を飲んでいることが問題なんです。最初に、あなたの飲んでいるお薬について考えて見ましょうと言いましたが、皆さん、いろいろお薬を飲んでいらっしゃると思うのですが、では、このお薬はこのために飲んでいる、この薬はこのために飲んでいるというふうに理解して飲まれていますかということろです。厚労省の指針においても、ポリファーマシーとは、単に服用する薬剤数が多いだけでなく、それに関連して薬物有害事象が増えたり、服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下つながる状態とされています。例えば、10種類の薬を飲んでいたとしても、全て必要なお薬であって、副作用も起きていなくて、きちんと飲めていれば、ポリファーマシーとは言わないわけです。重要なのは「害のある多剤服用」ということであり、単純に「服用する薬の数が多い」ということではありません。必要とする以上の薬や不要な薬が処方されていることによって、有害事象のリスク増加や、誤った方法での服薬(服薬過誤)、服薬アドヒアランス低下などの問題に繋がる状態を指します。よって、ポリファーマシーには、適切なポリファーマシーと不適切なポリファーマシーがあるということです。

それでは、不適切なポリファーマシーについてお話を続けましょう。

(1)複数の医療機関、複数の調剤薬局による服用

とあるかかりつけの医療機関Aで診てもらって、お薬が出るとその近くの薬局Aで3種類のお薬をもらいました。次の日、近くの整形外科の医療機関Bに行って、その近くの薬局Bでお薬を2種類もらいました。1週間後、近くの大きな病院の医療機関Cで診てもらってその近くの薬局Cでお薬を3種類もらいました。この場合、全部で薬が10種類になります。この中には似たような効果のお薬が重複して含まれる場合があります。だから実際は8種類でよかったのに10種類になってしまったわけです。また、お薬の数がだんだん増えていくと副作用も増える可能性があります。お薬の相互作用と言って2種類、3種類のお薬で起こる副作用というのはわかっていても、8種類とかになると起こり得る副作用は未知数と言われています。つまり、どれとどれが絡み合って副作用が出ているのかがわからなくなってしまいます。

(2)処方カスケード

たとえば、かかりつけ医F医院で、高血圧の治療薬でACE阻害薬がもらっていると、ACE阻害薬の副作用で咳が続いて、近くのG病院の呼吸器科を受診して鎮咳薬を出したもらいます。そして鎮咳薬の副作用で便秘になってG病院の消化器内科で、便秘薬がでてと、治療薬の副作用に対してまたお薬が処方される、連鎖式に処方が増えていくというのを処方のカスケードと言います。カスケードとは、滝という意味なんですけど、適切なカスケードもあるんですが、10種類以上のお薬をじっと見ていると不適切な処方カスケードに気がつくこともしばしばです。

(3)アドヒアランスの低下

お薬の数が増えると、お薬をきちんと飲めていないという状況に陥りやすいということです。いつ飲むの?いくつ飲むの?どうやって飲むの?お薬の数が増えると飲み方が複雑になる、つまり、1種類だと朝食後で終わりですが、5種類だと、朝食後、毎食後、朝夕食後、食間、朝食前など、飲み方が複雑になると飲み忘れが多くなって、薬と飲んでいないと症状が改善しない、お薬が十分効かない状況で受診を重ねていくうちに、お薬がさらに追加されて、負のサイクルで悪循環になります。だから、飲めてない時は、正直にお薬を飲めていませんと言いましょう。

 

 

ポリファーマシーの問題点

(1)薬による副作用の増加

薬による有害事象(薬物有害事象)は処方された薬の数に比例するとされ、薬の数が6種類を超えると発生頻度が大きく増加というデータを、日本老年医学会が「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」で発表しました。(海外では一般的に5剤以上で、副作用、フレイル、ADL低下、転倒、死亡などが増えると報告されています)副作用の中でも特に転倒の発症頻度を調べた研究でも5剤以上でそれ以下に比べて2倍以上のリスクがあるとされています。

厚労省研究班(2013年)の報告では、在宅医療を受ける65歳以上の患者4243 人の処方薬を米国で高齢者の処方指針とされるビアーズ基準の日本版に基づき分類すると、2053人(48・4%)に「不適切」とされる薬が処方されていた。このうち165人(8%)に副作用が認められた。複数の薬の副作用が出ている例もあった。最も多かったのはベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬で、ふらつき、眠気、転倒、記憶障害の 他、妄想や幻覚などの副作用が出た患者もいた。心不全に使うジゴキシンは食欲不振や中毒、胃潰瘍や精神症状の改善に使われるスルピリドでは振えやこわばりなどの副作用があります。

それでは、なぜ副作用が増えるのでしょうか?

お薬を飲むと吸収されて、お薬の効果が現れます。その後、お薬はどうなるか、外に出ていきます。つまり、代謝(分解)され、排泄されます。しかし、だんだん歳がいくに連れて、機能が落ちていく、処理をする機能が落ちていくとお薬が溜まってきて、副作用が出やすくなります。若い人でもお薬をたくさん飲んでいるとお薬を代謝するのに同じ酵素で分解するような場合は、どうしても処理速度が遅くなってしまいがちです。

 

(2)薬の飲み間違い

(3)医療費の増加

ポリファーマシー による医療費の問題でもあります。日本の人口は世界の約2%ですが、日本の薬剤費は世界の何%ですしょうか?答えは10%です。つまり、日本人は薬好きが多い?世界有数の薬漬けの国民でありますが、平成27年度の国民医療費は42兆円です。日本の国家予算の半分ぐらいは医療に使われているわけです。そのうちで薬代は8兆円、約1/5を占めています。

お薬をたくさん出しても、飲んでいない、破棄されている残薬が年間500億円と言われています。どうしたら残薬が減るでしょうか?「家にあるお薬を全部持って来て下さい」とお願いして、薬局の方でお薬を数えて、「この薬は何錠残っているから今回はいらないね」と言って整理していくことが大切です。また、昼や夜に飲み忘れが多いようなら、できたら朝に一緒に飲めるようにするとか、朝夕のお薬に変更するとか工夫も効果的です。

 

ポリファーマーシーを改善するためには

(1)自分の飲んでいる薬を理解すること

この薬何で飲んでいるんだっけ?わからないことは、医師や薬剤師に相談することが大切です。薬を飲むことで効果はありますが、副作用もつきものです。当然、メリットがデメリットより大きいからお薬を飲むわけですが、副作用がとても重い場合は、これを我慢して飲んでも何もいいことはありません。

お薬手帳の活用

 

 

 

超高齢化社会的の日本で、日本の皆保険制度の恩恵で、内科と整形外科と泌尿器科と眼科と・・・にかかっているとあっという間に10剤を超えてしまいますよね。医療費削減の観点からも必要でないお薬は整理していかなければなりません。

飲んでいる薬が多い=悪いと言うとこではありません。その人によって必要な薬、必要な数は違います。今飲んでいる薬がなんの薬なのかを自分で理解しておくことが必要です。また、かかりつけ医に薬を減らせないか聞いてみたり、気軽に薬剤師に相談してみることが大切です。



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事例検討 症例

今回、特養に入所した88歳、男性です。高血圧症、脂質代謝異常症で佐野内科に通院中、不安神経症、不眠症でT病院にも通院されている患者。今年7月と9月に誤嚥性肺炎で繰り返し入院されている。10月の診察では、数週間前から尿が出にくくなり、B泌尿器科で前立腺肥大、急性前立腺炎と診断され、お薬をもらっているとのこと。最近、数ヶ月前から徐々にご飯が食べられなくなっており、歳かな・・・と家族のお話

当院でのお薬は、アムロジピン、ロサルタン、メバロチン、酸化マグネシウム、ランソプラゾール、メキシレチン
T病院では、ブロチゾラム、エチゾタム、スルピリド ウルソデオキシコール
A整形外科 セレコックス ノイロトロピン アフファカシドール アスパラCA ボンヒバ オパルモン
B泌尿器科 シロドシン、デュタステリド、パントテン酸

さて、解答は、 今年の6月にT病院でスリピリドが処方されています。さて、振り返って患者さんを診なおしてみますと、最近、元気がなくて食欲も低下、家族に付き添われて来院、動作は緩慢、表情が乏しく、発語が少なく小声、構語障害、嚥下障害、軽度歯車現象、両手の振戦あり。スルピリドによる薬剤性パーキンソニズムと抗コリン作用による排尿障害をきたしたものと一元的に説明ができるようです。スルピリドは、元気のない、食欲のない高齢者に比較的よく使われているお薬です。ドパミンD2受容体阻害作用を持ち、抗うつ作用や食欲不振には少量投与でよい。添付文書の記載では、スルピリド150mgを3回に分けて服用とあるが(統合失調症は300〜600mg)実臨床では、せいぜい50mgまでにしておきましょうと言われています。副作用としてパーキンソニズムや抗コリン作用などがあります。

 

薬剤性パーキンソニズム

お薬をたくさん飲まれている高齢者が、急性〜亜急性に調子が悪くなった場合、常にポリファーマシーを「プロブレムリスト」に入れておくことが大事です。そのタイミングで処方されたお薬を探すことで(Ca拮抗薬は12ヶ月後のことが多い)調子が悪くなったと漠然と聞いているだけではよくわからないことが、具体的に「動作が遅くなった」「声が小さくなった」「表情が少なくなっ た」「歩き方がふらふらする」「歩幅がせまくなった(小刻み歩行)」 「一歩目が出ない」「手が震える」「止まれず走り出すことがある」 「手足が固い」などが見えてくるがわかります。急性発症の排尿困難などは抗コリン作用をもっている薬の服用とのタイミングも気にすることができます。

 

薬剤性パーキンソニズム

薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病との鑑別は、進行が早いこと、振戦が左右対称、突進現象が少ない、姿勢時、動作時振戦(パーキンソン病は安政時)ジスキネジア(口をもぐもぐなど)やアカシジア(落ち着きがない)、抗パーキンソン薬(Lドーパ)は効かないので抗アレルギー薬で治療し、原因薬を中止、変更する必要があります。

薬剤性パーキンソニズムを比較的簡単に早期発見するために「Liverpool University Neuroleptic Side-Effect Rating Scale(LUMSERS)」が、介護施設などで使用されています。この表は、パーキンソニズムに関係する評価項目を抜き出したもので、症状の程度で 0 点(全くない)1 点(ほとんどない)2 点 (時々ある)3 点(良くある)4 点(頻繁にある)で評価し、合計点が 6 点を超えたら、薬剤性パーキンソニズムを疑います。

薬剤性パーキンソニズム

おまけですが、老人ホームで入所時のお薬をそのまま飲ませていると2/3に患者さんで副作用があると言われています。当院の処方で、メキシレチンは心室性期外収縮で患者さんの自覚症状が強いため処方したもので、現在は落ち着いており、漫然と処方せず、中止できるお薬です。T病院のウルソデオキシコールは、なんで出たかはわかりませんが、軽度肝機能異常ありましたが、お薬の減薬で肝機能の正常化し、薬剤性肝機能障害だったようです。今すぐというわけではありませんが、食事量もどんどん減って、ほぼベット上で寝ている時間が増えてきた段階では、血圧もほとんど正常に近く、降圧薬のアムロジピン、ロサルタンや高脂血症のメバロチンなどの予防薬は中止してもいいのかもしれません。老人ホームに入所したり、病院へ入院するだけで、食事を管理されるので血圧が正常になっていることも多いし、そもそも90歳を越えた高血圧症、高脂血症に薬物治療をして予後を良くするというエビデンスはないでしょう。ほぼベッド上の生活になって転倒のリスクもなければ、骨粗鬆症の薬も必要ないでしょう。セレコックスやブロチゾラム、シロドシン、酸化マグネシウムなどの症状に対する治療薬は、まず本当に病気があるのかを吟味しながら、患者さんとの話し合って、継続、中止、フォローすることが大事です。

反対にたくさんの薬を処方されているが、ほとんど飲んでいない場合もあります。訪問看護さんのブラックジョークで「真面目に飲んでいない だから調子がいい」自分で調整している患者さんって案外多いんですよね。医者が出してもちゃんと飲んでいないんですね。真面目なお医者さん達は、なかなか血圧が下がらない、血糖値が良くならないって、どんどんお薬を増やして、ポリファーマシー状態になってしまうわけです。施設に入所された時点で、いらないと思われる薬剤はできるだけ減らしていますが、入所前から自己中断されているような場合は、施設に入ってから急にきちんと内服されられることで、返って薬が効きすぎてしまうこともあります。入所前の内服状況を確認しておくことも大事です。

 

事例検討 症例2

高齢になると持っている病気が増え、それぞれの疾患で日本人が大好きな大病院の専門医に診てもらうとガイドライン通りにお薬が出ます。お互いの専門医が連携をとっていなければ、処方カスケードが起こって薬がどんどん増えていくことになります。

たとえば、高血圧で〇〇病院を受診、ACE阻害薬が出て、ACE阻害薬の副作用で咳が出て□□病院を受診、鎮咳薬が出て、鎮咳薬の副作用で便秘になって△△病院を受診、便秘薬がでてと、治療薬の副作用に対してまたお薬が処方される、連鎖式に処方が増えていくというのを処方のカスケードと言います。この概念を知っていると10以上の多剤併用をじっくり見ていると処方カスケードに気がつくこともしばしばです。

処方カスケード

抗コリン作用

高齢者は薬の代謝機能が衰えるため副作用が出やすい。近年、欧米では高齢化に伴って社会問題になり、学会などが高齢者には避けるべき薬のリストを作っている。高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015では、中止を考慮すべき処方リストや強く推奨される処方リスト、中止の優先順位などが掲載されている。厚労省研究班は2013年、在宅医療を受ける65歳以上の患者4243 人の処方を米国で高齢者の処方指針とされるビアーズ 基準の日本版に基づき分類すると、2053人(48.4%)に「不適切」とされる薬(PIMs(Potentially Inappropriate Medications:潜在的に不適切な処方:問題はあるが副作用はでていない)が処方されていた。このうち165人(8%)の患者に薬の副作用(ADEs(Adverse Drug Events)薬物有害事象:すでに副作用がでている)が出ていました。論文をみると、不適切な処方数と薬剤有害事象の数が圧倒的に多いのはベンゾジアゼピン系(認知機能低下、せん妄誘発、筋弛緩作用により転倒→骨折)で、薬剤有害事象の比率が高いのは抗ヒスタミン薬(抗コリン薬:認知機能低下、せん妄、口腔乾燥、便秘)です。特に日本では、ベンゾジアゼピン系の処方数が諸外国に比べて多いと言われています。他には、ジゴキシン(ジギタリス中毒(嘔吐、食欲不振など)の原因となります。高齢者に使う場合は0.125mg/日以下にし、血中濃度は0.5~0.8ng/mLの低めで維持)スルピリド(ドグマチール:薬剤性パーキンソニズム)刺激性下剤の慢性使用、H2ブロッカー(せん妄)にも注意が必要です。

 

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高齢者は動けてなんぼ

転倒の予防は、高齢者のQOLを維持するのに最も重要な命題です。ある研究によると転倒には、3つ大事な要素があって、ひとつめはバランスが悪い、二つ目に筋力低下(特に下肢)によるもの、三つ目に薬を4剤以上飲んでいる。この三つの要素が揃うと1年後の転倒のリスクは100%、そのうちの20%は寝たきりになると言われています。年齢だけではないのですが、この患者さんが、転倒してもおかしくないなと思ったら、なるべく薬は減らしたいですよね。しかし、生活習慣病のある方は、すぐに増えてしまいがちで、専門の先生の言いなりになって、ガイドラインの推奨ばかり気にしている10剤を超えることもしばしばです。「10剤も薬を出していると重罪だ」80歳の認知症のおばあちゃんになにが必要か?かかりつけ医として総合的に判断して、ズバッと切り捨てることもありかなと思います。指導医が「4剤も薬を出していると死罪だ」研修医が「6剤出すと無罪ですか」という小噺もあります。(南郷語録より)

名古屋市在住の85歳以上の高齢者は、1年間で1000人当たり221人が救急搬送されている、つまり4〜5人は1年に一度救急搬送されているとのことです。高齢者救急搬送理由は、転びました、熱が出ました、身体が痛い、呼びかけに反応が悪い、ハアハア息苦しい、身体の力が抜けて動けません。何科の疾患かはっきりしないこの6つの症状で高齢者救急の75%を占めています。岩永先生(藤田衛生)の経験では、高齢者は重症でも症状が非典型的な場合も多く、昨日まで元気で散歩に行ってたのに、今日から起きて来ない、今日から食事が食べられない、急に不穏になったなど、はっきりした疾患が確定できなくても、とりあえずは入院して精査が必要とされています。また、高齢者の転倒も整形外科へ送る前に、「なぜ転倒したのか?」を考える習慣をつけましょう。施設で転倒して救急外来を受診した超高齢者の4割に何らかの急性疾患(感染症、脱水、薬剤性、不整脈など)があったという報告もあります。転倒事故と関連が強い薬剤として抗うつ薬(SSRI、三環系)ベンゾジアゼピン系、抗てんかん薬、抗不整脈薬、ジゴキシン、利尿薬、α1遮断薬(前立腺肥大)などが挙げられます。また、高齢者は、5剤以上飲んでいるとオッズ比4.5で転倒しやすくなります。また、転倒して1日寝ると筋肉は1〜3%減少します。(若い人でもインフルエンザでの1週間寝込むと起き上がる時フラフラしますよね)高齢者が、2週間も入院すると元に戻るのに3倍1ヶ月半ぐらいリハビリかかります。1ヶ月も寝込んだらもう寝たきりになってしまいそうですね。

薬局は、薬を処方するごとに調剤料が入るため、積極的に薬を減らそうという動きが起きにくい面があります。減処方を実行する時に、エビデンスやガイドラインで機械的に行うとろくなことにはなりません。患者さんの背景や思いを尊重して行います。方法としては、それぞれの薬について、PIMs<ADEsなのかが大事になりますが、そもそもなんのために飲んでいるのか、その薬の適応があるのか、効果はあるのかを丹念に調べていくしかありません。中止の優先順位は、医学的には最も害があって、利益の少ないものは一番に中止します。毒にも薬にもならないようなお薬はゆっくりでも構いませんが、医者にとってはそうであっても、患者さんにとってはそのお薬が大好きなkey drugと思っている場合もあるので信頼関係を壊さないためにも取り扱いには注意が必要です。

 

微妙な処方ついては、処方糸のコミュニケーションツールとして、薬局がトレーシングレポート(三重大学附属病院薬剤部HPを雛形)の活用して、疑義紹介を行うことで、危険な処方を未然に防ぐことが可能です。

トレーシングペーパー

PPIの副作用

全骨折(大腿骨頸部骨折 椎体骨折)低Mg血症 鉄欠乏性貧血 ビタミンB12欠乏症 骨粗鬆症 マイクスコーピック 感染性腸炎(偽膜性腸炎:C.difficile感染症)肝性脳症、誤嚥性肺炎 慢性腎不全 間質性腎炎 認知機能低下 キノロンはPPIを飲んでいると効かない

薬の副作用

抗コリン作用のあるお薬(不整脈リスモダン、パーキンソン病アーテン、過活動性膀胱ベシケア、感冒PL)緑内障や前立腺肥大の症状悪化
関節リウマチや変形性膝関節症に対してNSAIDsを処方 高血圧症悪化、心不全や腎機能障害が悪化
潜在的なCKD患者さんに骨粗鬆症の活性型ビタミンD3製剤で高カルシウム血症 意識障害
酸化マグネシウム 高マグネシウム血症 意識障害
抗血小板薬、ワーファリン、DOAC 消化管出血
β遮断薬 気管支喘息や肺気腫の悪化
β受容体刺激薬 心不全患者の不整脈誘発

抗コリン薬 便秘、口渇、ふらつき、尿閉、腹部膨満、眼圧上昇、高血圧、視野障害、せん妄等

CYP450で代謝される
CYP1A2 テオフィリン プロプラノロール
CYP2C9  フェニトイン ワーファリン ジクロフェナク
CYP2C19 ジアゼパム
CYP2D6 イミプラミン フレカイニド ハロペリドール
CYP3A4  ベラパミル アミオダロン カルマバゼピン

CYP450を阻害する
CYP1A2 キノロン系抗生剤
CYP2C9  ST合剤 シメチジン アゾール系抗真菌薬
CYP2C19 オメプラゾール ランソプラゾール
CYP2D6 キニジン
CYP3A4  マクロライド

抗真菌薬と抗アレルギー薬、マクロライド系と抗アレルギー薬の併用でQT延長で突然死など