在宅医療にとって、訪問看護は医療面はもちろん、生活面も含めて関わってくれる最も重要な職種です。24 時間 365 日の対応で訪問看護のない在宅医療は考えられません。訪問看護は、「介護保険」での提供が「医療保険」での提供より優先されますが、「医療保険」での訪問看護は「介護保険」ではカバーしきれないケースにおいて補完する役割もあります。「医療保険」での訪問看護は、主治医に大きな裁量権を持たせる仕組みとなっており、自宅などの療養において、看護師の関わりが「継続的」に必要であると主治医が判断すれば、年齢制限は特にありませんし、要介護認定を受けていなくても、往診に行ってなくても、通院困難でなくても訪問看護を提供できるようになっています。例えば、インスリンなどの自己注射の導入に当 たって在宅で指導を行なったり、熱傷・外傷や術後の創処置、独居高齢者の内服管理などにも訪問看護で対応できます。

訪問看護は、「介護保険」と「医療保険」の両保険制度で使え、なおかつ利用者の条件によって使える保険制度が異なるなど、その利用にあたって制度が複雑になっているので説明していきましょう。

 

訪問看護指示書(介護保険・医療保険共通)

●通常使用されるいわゆる”指示書”です。
●指示期間は1ヶ月~最長6ヶ月(未記載の場合は1ヶ月)
●交付の際、月1回迄、主治医が300点を算定可能。
●2ヶ所からの訪問看護ステーションから訪問看護が提供される場合は各ステーションへの交付となります(算定は1回分のみ)

主治医からの訪問看護指示書の交付を受けて「介護保険」で訪問看護を提供する場合、前提として利用者が要支援あるいは要介護の「介護認定」を受けている必要があります。訪問看護は、介護保険と医療保険、両方の制度を利用する事が可能ですが、介護保険の給付が医療保険の給付より優先されるため、65歳以上の方(介護保険第1号被保険者)で要支援・要介護の認定を受けている方、40歳以上65歳未満の方(介護保険第2号被保険者)の16特定疾病の対象者で、要支援・要介護の認定を受けた方は、原則として介護保険で提供されます。(一番右側)

特定疾病

ケアプランに組み込める範囲内であれば、原則利用制限はありません。1日に複数回の利用、毎日の利用、2か所以上の訪問看護ステーションを利用すること(看護師は1人対応が基本)も可能です。ただし「介護保険」では、介護度(要支援1~2または要介護1~5)によって支給限度基準額が設定されていますから、限度内であれば1ヵ月に利用した訪問看護サービスの1割から3割が利用者の負担となりますが、支給限度基準額を超えた分は全額利用者負担となります

訪問看護の利用形態が「医療保険」と「介護保 険」のどちらになるのかは、要介護認定を受けていれば「介護保険」の訪問看護利用、 要介護認定を受けていなければ「医療保険」の訪問看護利用になります。しかし、これでは要介護認定を受けている方が、 連日の点滴など医療処置が必要な場合、吸痰や経管栄養など医療処置が必要な場合、訪問介護やデ イサービスなどの利用も考えるとケアプランに訪問看護を必要なだけ組めないことが出てきます。しかし、訪問看護は必要な方には必要なだけ利用できるようにできており、要介護認定を受けている方でも「医療保険」での訪問看護が利用できる2つの特別な場合を設定しています。(1)主治 医から「特別訪問看護指示書」が発行された場合(2)厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)」に該当する場合です。ただし、「厚生労働大臣が定める状態等(別表第8)」 に該当するのみでは、要介護認定を受けている方が「医療保険」の訪問看護を利用することはできません。

厚生労働大臣が定める疾病等
厚生労働省介護保険Q&Aにも、「利用者が末期がん患者や難病患者等の場合は、訪問看護は全て医療保険で行い、介護保険の訪問看護費は算定できない。」と、明記されています。介護保険【訪問看護】の受給中、末期の悪性腫瘍(末期がん)難病患者、急性増悪 などによって、主治医が指示したときに限っては、医療保険の【訪問看護】に移行しなければなりません。

医療保険での訪問看護には利用する場合、1 日1回(90 分程度)まで、週 3 日まで、1箇 所の訪問看護ステーションから看護師は 1 人対応の制限があります。しかし、この基本的な利用制限が外れる3つの特別な場合として (1)厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)に該当する場合。(2)厚生労働大臣が定める状態等」に該当する場合(3))特別訪問看護指示書が発行された場合(指示期間)です。

「厚生労働大臣が定める状態等(別表第8)」には膀胱留置カテーテル、在宅酸素療法、人工肛門/人工膀胱などがあります。

医療保険の訪問看護を制限なく利用できる疾病(厚生労働大臣が定める疾病等)のひとつとして、「悪性腫瘍末期」がありますが、この「末期」であるかの判断は、主治医が「予後6ヶ月程度」という目安で判断して、訪問看護指示書の主たる傷病名のところに「悪性腫瘍末期」や「○○癌の終末期」などの記載があれば、動けている方でも化学療法などで 通院している方でも、医療保険の訪問看護を制限なく利用できる対象となります。

 

特別訪問看護指示書(医療保険)

●状態が悪くなり(急性憎悪期)、病状が不安定で、頻繁に訪問看護が必要な方、終末期や退院直後に訪問看護が必要な方に交付されます。
●週4日以上の訪問が可能になりますが、逆に言えば、最低4日以上訪問しなければなりません。
●介護保険対象の利用者の場合、医療保険による訪問看護に切り替わります。
●特別訪問看護指示書のみの交付はありません(「訪問看護指示書」の交付が前提となります)。
●指示期間は14日間までで、月をまたいでも構いません。
●交付は原則として月1回で、主治医が「100点」を算定できます。
●ただし、以下の場合は例外的に月2回まで交付でき、以下の状態が継続している間は毎月交付が可能です。
・気管カニューレを使用している状態にある者
・真皮を超える褥瘡の状態にある者
※月をまたいだ場合、翌月に持ち越した指示期間に加えて、改めて2回交付できます。

特別訪問看護指示書を発行する ことで 14 日間に渡り、基本的な制限に縛られず 「医療保険」の訪問看護が利用できるようになり ます。特別訪問看護指示書を発行できる正当な理由は 以下の3つです。(1)肺炎や心不全などの急性増 悪(2)疾病に関わらず終末期であること(3)退院直後であること。「退院直後」に特別訪問看護指示書が出せることを上手く使って在宅移行時の点滴や処置などの医療的ケア、ポジショニングやおむつ交換など含めた介護支援まで訪問看護で集中的にサポートできることです。注意しないといけない点は、「頻回な訪問看護」 を「一時的」に利用できるようにするための制度 であり、数ヶ月に渡るなど「恒常的」に頻回な訪 問看護を利用できるようにするための制度ではな いことです。なお、気管切開がある方や、真皮を 越える褥瘡がある方は、月 2 回まで特別訪問看護 指示書を出すことができます。

悪性腫瘍や 重症心不全など様々な病気の末期で外泊を行う場合です。外泊中は介護保険サービス が一切利用できないことです。外泊中の緊急時対応や複数回対応は訪問看護事業者のボランティア対応になることです。 そのため、外泊中の緊急時対応は救急搬送となることが多いです。また、病状の急変により心肺停 止の状態で見つかった場合、送り出した病院から 死亡確認に医師が訪問する体制がなければ検視対応になることもあります。外泊を「退院」扱いとすると、同じ病棟に戻れ ない場合も確かにありますが、上記のことを考慮 して、外泊ではなく「お試し退院」で対応を考えましょう。

退院当日から訪問看護が利用可能です。最後の時間を数日でも過ごしたい方、医療依存度が高い方に退院直後の心配を減らすことができます。自宅に訪問看護に待機してもらうこともできますし、自宅で引き継いですぐに処置や点滴も開始することができます。特に、退院直後は病棟で実施していた退院指導や介護指導や内服管理などが、きちんと行われるか心配は尽きないかもしれませんが、訪問看護で退院当日からフォローアップに入ることができます。電子機器は若い人でも苦手な方がいると思い ますが、在宅酸素をはじめとする医療機器の新規導入では、医療従事者側が思っている以上に本人 /家族の苦手意識や不安は大きいものです。そこに訪問看護が関わらせてもらうことで、在宅導入 時期の不安や負担を減らし、再入院を予防することができます。できれば、退院直後の 1-2 週間は 多めの訪問看護の利用を提案してみましょう。

◎「医療保険」での訪問看護の利用上の原則があります。
  • 1回あたりの訪問看護は30分以上90分未満
  • 1日1回
  • 週3回まで
  • 1か所の訪問看護ステーションから
  • 看護師は1人対応

◎別表第7と別表第8で訪問看護の利用上の原則から外れて可能なこと

別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)
  • 週に4回以上の訪問看護
  • 1日に複数回の訪問看護
  • 2箇所以上のステーションの併用
  • 複数名の訪問看護
  • 退院時・外泊時の訪問看護
  • 医療保険対応になるグループホーム、特定施設への訪問看護
別表8(厚生労働大臣が定める状態等)
  • 週に4回以上の訪問看護
  • 1日に複数回の訪問看護
  • 2箇所以上のステーションの併用
  • 複数名の訪問看護
  • 退院時・外泊時の訪問看護
  • 長時間の訪問看護

◎特別訪問看護指示書の交付により訪問看護の利用上の原則から外れて可能なこと

  • 1日に複数回の訪問
  • 週4日以上の訪問
  • 複数の指定訪問看護事業所からの訪問
  • 複数名の看護師による対応
  • 90分を超える訪問が週1回可能
  • 退院直後から2週間(14日間)、毎日でも訪問可能

 

在宅患者訪問点滴注射指示書(介護保険・医療保険共通)

●週3日以上の点滴注射を行う必要を認め、訪問看護ステーションに対して指示を行う場合に交付されます。
●患者1人につき週1回(指示期間7日以内)に限り、月に何回でも交付できます。
●週3日以上の点滴を実施した場合、在宅患者訪問点滴注射管理料として、主治医が「60点」を算定できます。
●IVH(中心静脈栄養)は対象外です。

在宅療養において点滴・注射を実施することは、 訪問看護の存在なしでは考えられません。医師が訪問して点滴・注射をする場合、病院で 使っている薬剤はほとんどのものが在宅で使用で きます。しかし、訪問看護で使用できる薬剤には制限があります。これをよく理解していないと、医療機関側から薬剤を渡して点滴・注射を訪問看護で実施してもらっても、医療機関側が薬剤請求できないという事態に なります。高額な薬剤の場合には特に気をつけた いですね。なお、最近では訪問看護で点滴・注射できる薬剤、院外処方で出せる薬剤も増えてきて おり、通常の電解質輸液や抗生剤点滴は問題なく院外処方できます。点滴・注射を実施する場合で、連日の点滴など週 3 回以上の実施が予定される場合には、訪問看護指示書に加えて、在宅患者訪問点滴注射指示書、特別訪問看護指示書も多くの場合必要になります。 もう 1 つ気をつけたい点は、輸液セットやサーフロー針などの医療材料も、酒精綿や固定テープなどの衛生材料も、全ての物品は医療機関側で準備して訪問看護に渡さなければならないことです。訪問看護での点滴・注射に備えて、医療機関側で 必要物品のセットを準備しておくことをお勧めし ます。なお、在宅中心静脈栄養を行なっている場 合のみは特別で、輸液セットやヒューバー針も院 外処方できます(中心静脈カテーテルやポートか ら高カロリー輸液をしていない場合は含まれません)

その他、医療保険による訪問看護

(1)長時間訪問看護

1回の訪問看護時間は、基本的に30分以上90分未満ですが、90分を超えた訪問を長時間訪問看護加算として、医療保険で対応できる場合があります。「医療 的ケア児」と呼ばれたり、「重症心身障がい」に該 当する多くの方は、長時間の訪問看護を利用することが可能です。要介護認定を受けていない方で、医療的ケアが必要であったり、重度な障がいのある方は、多く の方が「厚生労働大臣が定める状態等」に該当するため、週 1 回に限り長時間訪問看護を利用でき るようになっています。また、特例として 15 歳未 満の超重症児または準超重症児は、週 3 回まで長時間訪問看護を利用できます。例えば、長時間の訪問看護を利用することで、 四六時中付きっきりの介護者が買い物や役所・銀行などの所用に出かけることもできます。また、 医療的ケアが必要であったり、重度な障がいのあ る方の通所サービスは、まだまだ地域で十分に整備されていない状況ですし、本人・家族も通所サービスにケアを委ねることには、最初は心配や不 安も大きいものです。長期間の介護を見据えて、 本人・家族が「医療的ケアを誰かに委ねられる」ようになるために、まずはこの長時間訪問看護を利用してみることをお勧めしています。一方で、要介護認定を受けている方でも、退院直後や急性増悪や終末期で特別訪問看護指示書が 発行された時には、大事なタイミングで長時間訪 問看護を利用して、点滴や吸引などの医療処置に加えて、本人・家族の思いを十分に聞き取ってサポートすることもできます。

  • 15歳未満の超重症児または準重症児(週3回、加算で対応可能)
    ※超重症児または準重症児とは、「超重症児(者)判定基準」によるスコアが10以上の利用者
  • 別表第8に該当する利用者(週1回)
  • 特別訪問看護指示書に係る訪問看護を受けている者(週1回)

この加算を算定した日以外の日には、「その他の利用料」で適応されます。ただし、その他の利用料は、利用者の選定(希望)する特別な訪問看護に対する差額費用としての利用料で、各事業所によって料金が異なります。

(2)複数名の訪問看護

訪問看護を提供するにあたって、同時に複数名でケアを行う必要性があるときに、複数名訪問看護加算として、医療保険で対応できる場合があります。
  • 別表第7別表第8に該当する利用者
  • 特別訪問看護指示書に係る訪問看護を受けている者
  • 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる者
  • その他利用者の状況等から判断して、上記のいずれかに準ずると認められる者(看護補助者の場合に限る)

    ※看護職員と看護等(理学療法士、作業療法士等を含む)との同行 ⇒ 週1回限り

    ※看護職員と看護補助者との同行 ⇒ 週3回まで

(3)入院中の訪問看護

入院中に退院に向けた一時的な外泊支援を、医療保険で対応できる場合があります。

  • 別表第7別表第8に該当する利用者(2回まで)
  • 在宅療養に備えた一時的な外泊にあたり、訪問看護が必要であると認められた者(1回限り)

 

保険外の訪問看護サービス

訪問看護は、介護保険や医療保険を適用し、安価で利用することも可能です。しかし、保険適用だと回数や時間などで細かい制限があります。保険外の自費による訪問看護サービスを提供している事業所もあります。公的な保険サービスとは異なり、ご利用回数・滞在時間・サービス内容に制限がなく、24時間対応で、通院や買い物の付き添い、趣味や外出の同行など、ご利用者様が自分らしく充実した生活を送れるようサポートも可能です。