臍ヘルニアは、乳児期に比較的よく見られる小児外科領域の疾患の1つです。臍は出生後、臍帯が脱落した後に臍輪が瘢痕収縮して形成されます。臍輪の閉鎖が遅延したり不完全で小孔が残ってしまったりすると、その臍輪がヘルニア門となって腸管が脱出し、臍ヘルニア(俗称「出べそ」)が生じます。発生頻度は5%程度とされていますが、低出生体重児では発生頻度が高い傾向があります。臍ヘルニアは臍帯の脱落後、生後2~3週以降に生じます。表面は皮膚で覆われ、大きさは1cm程度のものから4~5cmに達するものまで様々です。啼泣や排便時には著しく膨隆し、安静時には縮小するなど、ほとんどの例で腹圧に応じてその大きさが変化します。腹圧低下時に臍ヘルニアを指で圧迫すると容易に脱出していた腸管が還納され、その際にグル音(腸雑音・腸蠕動音)が生じます。腸管が還納されると臍輪(ヘルニア門)が触知できます。ほとんどの例で処置の緊急性はなく、臍ヘルニアの大きさは生後2~4カ月時に最大となり、それ以後は縮小します。

臍ヘルニアを切らずに治す

臍輪の収縮は乳児期以降も進み、臍ヘルニアを生じている患児の90%は2歳ごろまでに自然治癒します。そのため、2歳までは何も処置をせずに経過観察を行います。コインや絆創膏による圧迫固定はかぶれや皮膚炎の原因となります。また、患部の管理が容易ではないという理由から推奨されないケースも多いです。最近では早期からスポンジとハイドロコロイドドレッシング剤(カテリープやテガダームなど)を用いた圧迫法を推奨する意見があります。これは、テープ類の進化によるものです。ただし、腹圧の強い大きな臍ヘルニアにはこれらの単純に圧迫する方法は無効です。無理にテープ固定で治療をしようとすると、テープによって接触皮膚炎が生じ、治療が継続できなくなるケースもあります。

圧迫するだけでなくヘルニア門の閉鎖を補助する方法で、さらに左右から腹壁の皮膚を寄せてハイドロコロイドドレッシング剤で固定をすれば小さい臍ヘルニアなら約10日で、今回のような大きな臍ヘルニアでも20日前後で治癒します。処置のポイントは“テープで左右から寄せて固定したら、何もしないで待っている”ことです。臍ヘルニアの固定に使用するのは、綿球とテープです。綿球は100円玉より少し大きいくらいのサイズのもの、テープは10Mの「カテリープFSロール」(ニチバン)を使っています。(1ロールで2520円なので、1回分は約110円)カテリープはカテーテル固定や創傷治療における被膜固定などに使われている薄くて透明な粘着フィルム剤です。この製品はその中でも低刺激性を特徴としているものです。

固定後は何もせず、固定のテープが外れかかる8~10日後まで待つことです。テープを剥がすとテープの接着面の皮膚が真っ赤に発赤し、ときに出血してしまうため、もし貼ったテープが“出べそ”の中央を通らなかった場合でも、テープを剥がさずに残りのテープで上下に補強をしてください。処置時に局所の消毒は不要で、入浴も許可しています。

 

固定した8日後には臍ヘルニアが小さくなっています。再固定は数日間、皮膚の回復を待ってから実施します。すぐに再固定をすると、患部に接触皮膚炎や感染を起こすリスクが高まります。皮膚が回復したら、再度前回と同じ方法で、周囲から皮膚を寄せてテープで固定します。2回目の固定から9日後には臍ヘルニアは治癒しています。その後も臍ヘルニアの再発も認められず、完全治癒となりました。(横井茂夫先生)