Coffee bean sign

結腸には全体にガスが停滞し拡張している。特にS状結腸が拡張している。S状結腸がclosed loopを形成しているcoffeebean signです。結腸が捻転を起こして虚血となり。口側腸管は空気が停滞し、イレウスになっている。

診断:S状結腸軸捻転

大腸はおよそ120㎝~170㎝くらいの長い管状の臓器です。上行結腸や下行結腸、直腸はお腹の中で背中側に固定された状態となっていますが、横行結腸やS状結腸は腸間膜という膜につながっており、お腹の中を自由に動くことができます。S状結腸軸捻転とは、可動性のあるS状結腸が何らかの要因によって腸間膜を中心にS状結腸がねじれて便が通過できなくなってお腹が張ったり、血行が障害されたりして出血、壊死穿孔などにつながるおそれがあり、緊急処置が必要な疾患の一つです。

原因として、S状結腸過長症や高齢男性、長期臥床、慢性便秘、パーキンソン病や認知症など精神神経疾患の合併、下剤や鎮静薬、抗コリン薬など薬剤性薬物の連用、術後癒着、妊娠などがあります。結腸軸捻転は、腸閉塞の原因となり、大腸閉塞の原因として、悪性腫瘍、憩室炎の次に多い。腸捻転の部位としてはS状結腸が80%を占める。

症状は、S状結腸が捻れて閉塞することで、腹痛、腹部膨満感や腹痛、排便の停止、吐き気や嘔吐などの腸閉塞の症状を引き起こします。視診で左下腹部が虚脱、拡張した大腸を触診できることがあり、腸蠕動は亢進、減弱いずれも起こりえます。腹膜炎を起こしていなければ圧痛はない。直腸診では通常、便塊は触れません。

ねじれの箇所を探すために腹部レントゲン検査、CT検査、造影検査などにより腸の形状や状態の変化を確認します。腹部レントゲンで典型的なcoffee bean signが見られるのは60%以下で、腹部CTが推奨されています。

S状結腸軸捻転の治療は大きく分けて、内視鏡を用いて捻転を解除する内視鏡的整復術と外科的な手術治療があります。全身状態が保たれていて、腹部の診察で腹膜刺激症状がなく、CT画像でも腸管の壊死や穿孔を疑う様子がない場合には、まず始めに内視鏡的な整復術を試みます。腸管の壊死が疑われた場合などには、原則的に緊急手術の適応となります。手術は全身状態が保たれており、手術に耐えうると判断した場合に行います。手術では、捻転し拡張したS状結腸の切除を行います。全身状態などの条件により、一期的吻合術(人工肛門は造設せずに1回の手術で腸をつなぎ合わせる手術)やハルトマン手術(人工肛門を造設する手術)が選択されます。内視鏡による整復治療は、大腸カメラを肛門から挿入していき、腸管内に溜まったガスと内容物を吸引して減圧しながらX線透視下で捻れの整復をしていきます。内視鏡が通過できない場合や拡張した腸管粘膜に色の変化や潰瘍やだたれ、出血など循環障害や壊死を疑うような所見が認められる場合は穿孔の危険があるため、内視鏡による整復を中止し、緊急的に開腹手術で捻転の整復またはS状結腸の切除が行われます。内視鏡的整復の成功率は75~90%と高い治療法ですが、約60%の患者で再発が認められるため、内視鏡的整復に成功した場合でも待機的なS状結腸切除術が望ましい。S状結腸軸捻転は、小児、若年者でも起こり得るので注意が必要です。

 

 

「イレウス」と「腸閉塞」を混同している人が多いようである。厳密には、「イレウス」とは「腸管麻痺」によって腸管蠕動が低下する状態のことで、「腸閉塞」は腸管内腔が閉塞する状態のこと。PubMedの定義を見てみよう。
「イレウス」は、「機械的閉塞がない状態(without any mechanical obstruction)」とされ、機械的/物理的に閉塞がある場合には使用されない1。『エキスパートナース』2017年6月号で、その鑑別の重要性について特集している2

先に出された『急性腹症診療ガイドライン』でも、「腸閉塞」と「イレウス」を使い分けることが提案され、腸管が機械的/物理的に閉塞した場合を「腸閉塞」とし、麻痺性のものを「イレウス」と呼ぶことになった。そのため、従来は「絞扼性イレウス」と言われていたものは「絞扼性腸閉塞」と呼ぶことになる。

「腸閉塞」の最も多い原因は、「開腹術後の癒着」である。腹腔内の癒着によって“紐状のバンド”ができ、腸管が閉塞する、あるいは、腸管が腹壁などに癒着することによって腸管にねじれが生じ、腸管閉塞をきたす。
「腸閉塞」になると腸管内腔が閉塞し、腸管内容が流れにくくなるため、腹満、腹痛、嘔気・嘔吐などの症状が出る。そして、内腔が閉塞するために「便が出なくなる」ことが多い。

「イレウス」の最も多い原因は、汎発性腹膜炎などの「腹腔内の炎症」である。炎症によって腸管蠕動が低下し、炎症が軽快するまで継続する。上腸間膜動脈閉塞症や腸管壊死など腸管に血流障害を生じた場合にも腸管蠕動は低下し、「イレウス」となる。「イレウス」の症状は、腹満、嘔気・嘔吐が主体で、腹痛はある場合もない場合もある。腸管蠕動が低下・消失し、蠕動音は減弱する。

「腸閉塞」では、壊死腸管の有無を迅速に鑑別し、必要な場合は、緊急手術を行う必要がある。腹痛、腹部膨満、嘔気・嘔吐を訴える場合には、すみやかに医師に連絡することが重要だ。

わが国では腸閉塞のことを「イレウス」と表現すること,もう 1 つ X 線(もしくは CT) でびまん性の腸管拡張を認めるものを「イレウス」と言うため, 以下のように幅の広 い意味を持つ言葉になってしまった。 これでは「お腹の調子が悪い=イレウス」と言 っているようなもので,イレウスと診断する意義がない。

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• 術後の癒着性腸閉塞➡「イレウス」
• 手術後の腸管麻痺➡「イレウス」
• 穿孔性虫垂炎でびまん性に小腸拡張している➡「イレウス」 • 膵 炎 ➡「 イ レ ウ ス 」
• 腸 管 虚 血 ➡「 イ レ ウ ス 」
• 大腸癌の閉塞で大腸が拡張している➡「イレウス」

一方で,欧米での疾患概念はだいぶ異なる。腸閉塞(bowel obstruction)は,機械 的に閉塞している部位がある場合を言い, 閉塞部位がなくびまん性に腸管拡張して いるものをイレウスあるいは麻痺性イレウス(ileus=adynamic ileus=paralytic ileus)と呼ぶ 1)。 つまり,イレウスとは疾患を指すのではなく,何らかの疾患の結果二次的に生じた状 態(condition)を言っているので, これ自体は診断にはならない。 胸部 X 線を撮っ たら「肺野に浸潤影がある」と言っているのと同じだ。

日本と欧米の概念の違いを図 2 に示す 2)。欧米の分類では,まず大腸と小腸の疾患を

分ける。その上で,閉塞のあるものを「小腸閉塞」も しくは「大腸閉塞」とし,小腸のびまん性拡張のある ものを「イレウス」と呼んでいる。ただ単に「腸閉塞」 というときは,主に「小腸閉塞」を指して言っている ことが多い。 これに対して,わが国の分類では「イレウス」の一語 ですべてを包括する。そのため,「イレウス」と診断 したら, 一体何の疾患によって小腸がびまん性拡張 しているのかがわからない。

「機械的イレウス」「機能的イレウス」などの記載も見
かけるが, こうなるとさらに厄介で, 考えるほどに
分類すらわからなくなる。
したがって, イレウスと診断しないために図 3 のよ いためのアプローチ うなアプローチを毎回行う必要がある。

ここでは「腸閉塞」=「小腸閉塞」として考えることにする。

病歴

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腸閉塞の 3 症状は「腹痛」「嘔吐」「排便・排ガスの停止」である。特に排便・排ガスの停 止は腸閉塞であるための必要条件であり,下痢が続いているならば画像所見がどうあ れ腸閉塞ではない。 嘔吐は通常水様の大量嘔吐であり,食物残渣を吐いただけなら典型的な腸閉塞とは言 えない。 癒着性腸閉塞であれば手術歴を確認しよう。手術歴がないのなら癒着性腸閉塞ではな い。

身体所見

腸閉塞における聴診所見は感度が低いとされているが,原則的には腸雑音が亢進して いるもの(特に痛みが強い場合)は閉塞を疑い, いつ聴取しても腸雑音が聞こえない ものは麻痺と考える。 腸閉塞単独では,圧痛はあっても反跳痛や筋性防御は出ないため,これらがある場合

は他の疾患を考える。もしくは,絞扼性腸閉塞を考える。

画像所見

冒頭の問答にも出たニボー(鏡面形成:air fluid level)という言葉がまた曲者だ。「ニ ボー=イレウス」と 1 対 1 で対応してしまう傾向があるが, 腸閉塞とニボーは 1 対 1 では対応しない。
小腸のニボーは,びまん性拡張がある場合に立位の腹部 X 線を撮影すれば高率に出現 するので,閉塞の有無とは関係ない。 小腸が閉塞した場合,その先に液体やガスが流れないため,「小腸にはガスがあるが, 大腸にガスがない」ことが腹部 X 線での腸閉塞(小腸閉塞)らしい所見となる。

さらに CT では,閉塞部位が特定でき,その部位より口側は拡張しているが肛門側は 拡張していないことが腸閉塞の所見となる。

症例 1(図 4)
図 4 の X 線像を示す症例で腸雑音が低下しているならばイレウスであり,同時にイレ ウスがなぜ発生したかを考えなくてはならない。

本書ではいわゆる「イレウス」という語を汎用せずに疾患を説明することとしている。

つまり,腸閉塞は腸閉塞と明記し,閉塞はないがびまん性に腸管拡張している病態を 「麻痺性イレウス」=「イレウス」としている(疾患ではなく病態であるので,必ずそう なる原因疾患があるという認識に立っている)。そのほうが病状が理解しやすく,診

断や治療方針の面でも実践的と考えている。
本章では, こうした「イレウス」という語彙にまつわる実診療のネガティブな面をク ローズアップし,症例を取り上げて解説する。

もともと健康であったが,3 日前からの腹痛で来院。はじめは痛みの部位がはっきり しなかったがその後下腹部の痛みが顕著となり,今は腹部全体が痛い。昨日が最も痛 かった。
一昨日 2 度嘔吐があったが,今はおさまっている。軟便が数回あったが水様下痢では ない。食欲はないが水分摂取は可能である。

月経周期は整,最終月経は 2 週間前,異常は自覚していない。

既往歴

腹痛で婦人科に入院したことがあるが病名は覚えていない。 手術歴なし。アレルギー歴なし,常用薬なし。

喫煙 10 本/日 ×20 年。アルコールは機会飲酒程度。

身体所見

バイタルサインは下記の通り。 • 心拍数:112 回/分
• 血 圧:1 0 8 /6 2 m m H g
• 呼吸数:24 回/分

• 体 温:3 8 . 7 °C
• 腸雑音低下。触診では腹部全体に硬い感じあり。圧痛は下腹部全体にあり限局して

いない。腹部全般に叩打痛がある。

検査所見

血液検査では炎症反応の上昇を認めるほか有意な所見はない(表 1)。 腹部単純 X 線で腸管のびまん性拡張を認める(図 1)。

腹部超音波検査(図 2)のレポートは下記の通り。 【所見】

• 肝・胆囊・総胆管・膵・脾・腎に異常を認めず。
• 小腸はびまん性に拡張あり,内容液の貯留を認める。 •小腸内で「to and fro*」を認める。
• 虫垂は指摘できず。
• 骨盤に腹水を少量認める。

【診断】

イレウスの疑い

*「to and fro」=「行ったり来たり」という意味。通常の小腸の内腔はエアがあり観察はほぼ不能だが,拡 張した小腸内腔が内容液で充満すると腸管内腔がよく観察できる状態となる。 この状態で観察を続ける と,腸管内容物が波のように一方に流れたと思えば逆に戻ってくるという動作を繰り返している様を示す。

図2▶ 腹部超音波像 拡張した小腸の長軸断を示す。 内腔の液貯留と肥

厚した小腸襞を認める。

続いて腹部 CT 検査を行った。

腹部 CT(図 3)検査のレポートは下記の通り。 【所見】

• 小腸にびまん性の拡張と浮腫を認める。
• 右下腹部は腸管が一塊となって構造がはっきりしない。 • 骨盤内に小量の腹水を認める。

【診断】

小腸イレウスの疑い

以上の診察および検査結果を受けて,1 2 のどちらの治療方針を選択するか? 1 直ちに手術する
2 入院して経過観察する

図3▶ 腹部CT像

入院後の経過

担当医は2 の治療方針とした。
担当医のカルテ内容は以下の通り。
• 診断:イレウス
• 治療:絶飲食・補液・経鼻胃管によるドレナージ・抗菌薬(ロセフィン ®) • 翌日も症状(腹痛および発熱)が続いていたので再度超音波検査を施行。

担当医の治療内容をみると「絶飲食・補液・経鼻胃管によるドレナージ・抗菌薬(ロセ フ ィ ン ® )」と あ る の で , イ レ ウ ス = 腸 閉 塞 と し て の 治 療 と 理 解 で き る 。
翌朝, 胃管からの排液はほとんどなかったが症状(腹痛および発熱)が続いていたの で再度超音波検査を施行したところ,骨盤内に 14mm に腫大した虫垂と,その根部 に糞石がある様子が観察された。周囲には液貯留を認めているため,穿孔性虫垂炎の 診断となった。