熱性けいれん

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38℃ 以上の高熱に伴って乳幼児期に生ずるけいれん(ひきつけ)で、脳炎や髄膜炎(約1割が伴う)や脳炎など中枢神経感染症、代謝異常(低血糖)や電解質異常、てんなんなど、その他明らかなけいれんの原因となる病気のないものをいう。小児科へ救急車で運ばれることが最も多い病気である。

病態は、はっきりわかっていませんが、もともと熱に弱い体質、脳の未熟性があるのではないか、遺伝性があるのではないかなどで、けいれんの閾値が下がっていると考えられています。

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両親とも既往歴あり 40~80%発症
片親に既往歴あり  20~30%発症
両親とも既往歴なし 20%発症
兄弟に既往歴あり  50%以上

我が国では、有病率が高く、乳幼児の7〜11ぐらいにみられる。生後6ヶ月〜60ヶ月の乳幼児に起こり、平均年齢は、2歳3ヶ月だが、ほとんどは3歳までに起こります。(初発は3歳までが80%)男女比=2:1で、男児に多く、平均体温は、39℃前後、持続時間は10分以内が80%とほとんどです。5歳以降で熱性けいれんが起こる場合は日赤に紹介します。

 

ひきつけを起こしてしまったら(家庭で)

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(1)あわてない〜 あわてない〜 と言いたいところですが、みなさん、なかなか一休さんのようにはいきませんよね。とりあえずは、安全な処に運んで、衣服を緩めて、吐いたらいけないので顔を横向きにして寝せましょう。

(2)なにもする必要はありませんと言いたいところですが、することは2つ。ひとつは、時計を見て、ひきつけの持続時間を計ります。もうひとつは、どんなひきつけか?病院で説明出来るように良〜く観察しましょう。(左右差など、観察するポイントは後で説明します)

◎おばあちゃんの知恵袋にもちょっと注意。割りばしやスプーン(口腔内を傷つける)タオル(窒息の原因)などを口の中に詰め込まないようにしましょう。けいれんで舌を噛むことは稀と言われています。

(3)ひきつけが、5分以上続く時は(実際に、我が子がひきつけを起こしているのをじっと見ているのは大変です。1分でも5分以上に、5分と言えば、1時間にも感じます)救急車を呼びましょう。
(4)5分以内で止まるようなら、夜中に子供を連れてうろうろするよりは、そのまま眠らせてあげましょう。30分〜1時間ぐらい経ってから、呼びかけにきちんと反応するか(目があって、かかわりができるか)お母さん、お父さんがわかるか、普段どおりのしゃべり方をしているか 片手だけ動かさないようなことがなければ、まず大丈夫です。家で様子を見て、翌日、かかりつけ医を受診して下さい。

さて、けいれんの小児が外来に来たら

(1)既にけいれんが止まっているパターン

ほとんどのけいれん発作は、医院に着いた時には止まっています。熱が出ていて、けいれんを起こしている状況なので、まず、けいれん発作が単純型なのか複雑型なのかの鑑別が重要です。それを確かめるために、質問は2つ

(1)けいれんの持続時間が15分以内か?
「救急車が来た時には、けいれんはとまっていましたか」
(2)けいれん発作の様子は?
身振り手振りを交えて、けいれんの様子を再現しながら
「こんな感じのけいれんでしたか(左右対称の間代性けいれん)」


熱性けいれんのタイプの鑑別

単純型けいれん 複合型けいれん
体温 38℃以上 38℃未満
発病年齢 6ヵ月~6才未満 6ヵ月以下、6才以上
発作の持続時間 15分以内 15分以上
けいれんの性状 強直間代性けいれん
全身性、左右対称性
部分的、左右非対称性
弛緩発作
1回のけいれんでのけいれん回数 1回のみ 2回以上
発作終了後の意識障害、片麻痺 なし あり
明らかな神経症状、発達障害 なし あり
てんかんの家族歴 なし あり
分娩外傷、その他の脳障害 なし あり


お母さんの質問に「うちの子供は熱性けいれんがあるんですけど、熱が出た時に、解熱剤使った方がいいですか?」と聞かれます。解熱剤を使っても使わなくても、color(,yellow){熱性けいれんの再発率に変わりない};と言われています。熱性けいれんのひきがねは、熱が急に上がることです。 解熱剤で一旦は熱を下げることができても、その効果(3~4時間持続)がなくなれば、再度発熱し、その時に再びけいれんが起こしてしまいます。 お母さんの不安が強いようなら「しんどそうだったら使ってもいいですよ」とお答えしています。

単純型熱性けいれんには、ダイアップの坐薬は、原則必要ないとされています。こういった良性のものに、予防的にダイアップ坐薬を使うと、医療機関を受診した時に、意識がボーとなって、臨床的な判断が難しくなってしまいます。

 

帰宅する基準
けいれん時間が30分未満で一発熱機会内(通常は24時間以内)に再度けいれんしておらず、けいれん頓挫後30分での意識状態がほぼ晴明(JCS2以下で保護さとは目が合い、普段の不機嫌として保護者が違和感を持たない)でジアゼパム坐薬以外の抗けいれん薬を使用していない。けいれん時間が30分以上、一発熱機会内(通常は24時間以内)の再けいれんの場合、けいれん頓挫後30分での意識障害(JCS3以上またはJCS1〜2であっても保護者から見て普段の不機嫌と比較して違和感がある)がある場合、ジアゼパム坐薬以外の抗けいれん薬を使用した場合、発熱の重症度項目を満たす場合は入院とする。単純型の熱性けいれんは、良性の疾患です。すぐにけいれんも止まって、意識も戻っていれば、問診以上の検査は必要ないし、特別な治療もいらないとされています。しかし、初めてのけいれんの場合は、保護者が心配そうなら小児科医に紹介してあげると安心されます。

 

(2)まだ、けいれんが止まっていないパターン

もし、医院に着いてもけいれんが続いている場合は、持続時間から考えても明らかに複雑型です。僕ら医師でも、目の前で子供がけいれんが起こしていたら、気持ちがいいものではありません。お母さん、お父さんなら尚更でしょう。表面上は医療従事者として落ち着いて対応しなければなりませんが、ハラハラ、ドキドキです。けいれん発作中に、血管確保するのは、小児科医でも難しいので、当院では、無理せず、ジアゼパム坐剤(ダイアップ)を使います。すぐにそのまま姫路日赤小児科に紹介です

◎専門医は、即効性があり、ミタゾラム(ドルミカム)筋注、点鼻することもあるようですが、保険適応なし。

その他、紹介した方が良いかなと思われる状態として
(1)発作が繰り返し起こしている。(意識障害が続く)
(2)半身けいれん、あるいは部分優位性のある発作(部分発作)
(3)初回発作、特に1才未満の場合。
(4)発熱と発作に加え、麻痺など他の神経症状をともなうときなど

 

発熱時の再発予防 ジアゼパム投与の適応基準

熱性けいれんの2/3は1回だけで終わりです。再発(2回)するのは約30%、3回起こすのは9%とされています。再発の時期は、初回発作から2年以内が90%。5歳までに2回目の発作を起こす確率は32%。

(1)15分以上の発作があった場合。
(2)1才未満の発症(発症年齢が低い 特に6ヶ月前後)
(3)両親または片親の熱性けいれんの既往
(4)短期間に発作が繰り返す場合(1日で2回以上、1年で4回以上など)
(5)けいれんが、片側性(部分性)のもの左右差あり
(6)見かけ上けいれんが止まっているように見えても、一点凝視、眼球偏位、瞳孔散大、体温に不釣り合いな頻脈、呼吸不整は非けいれん性発作を示唆する。

ジアゼパム坐薬 6mg 37.5℃の発熱時に1個使用し、8時間後に38℃以上ならさらに1個使用 以降はいしっかり解熱するまで使用しない。通常、2回投与で終了とする。

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◎ジアゼパム坐剤に解熱剤を併用するときは、解熱剤を経口剤にするか、坐剤を用いる場合にはジアゼパム座剤投与後少なくとも30分以上間隔をあけることが望ましい。ジアゼパム坐剤に解熱剤坐剤を併用すると、ジアゼパムの初期の吸収が阻害される可能性がある。
◎実施期間は通常2年間、もしくは4~5才までを目標とする。ジアゼパムをいつまで使うかについては1年間熱性けいれんがなければ終了としている。
◎副作用として、しばしば一過性に軽度のふらつき、興奮、嗜眠(眠り込む)などがみられるが、呼吸抑制のような重大な副作用はない。
◎発熱時応急投与によって、再発率は約1/3に低下する。保護者が家庭や外出先で再発予防に自らができる、あるいは緊急時にも保護者は安心感を得ることができる。

◎けいれん重積

まずは気道確保と酸素投与である。熱性けいれんは一般的には5分以内で自然に止まる 一方で5分以内に止まらないけいれんは、その後30分以上けいれんすることが多い 30分以上けいれんすることをけいれん重積という けいれん重積では薬物治療が必要です。けいれん重積後はたとえその後の意識状態が回復したとしても3〜4日後にけいれん重積型急性脳症(AESD)を発症することがある。

 

◎ウイルス性胃腸炎関連けいれん

胃腸炎症状が先行する。特にロタ(2〜5%)やノロ(8%程度)に多い。無熱〜低熱性けいれん(少なくとも1回は38℃未満)重度の脱水や低血糖、電解質異常、髄膜炎、脳炎、脳症、てんかんがない。通常、胃腸炎発症2〜5日後のけいれんを生じる 胃腸炎関連けいれんは短時間で通常30秒〜3分で頓挫する。全身性、左右対称のけいれんだが、時々部分発作の例もある 発作間欠期は意識晴明で神経学的異常を認めない。けいれんの合間は、ケロッとして比較的元気。通常生後6ヶ月〜3歳で発症する。てんかんに至ることはなく、予後良好である 発症すると70〜80%で24時間以内にけいれんを繰り返す。胃腸炎関連けいれんはミタゾラムやジアゼパムを投与しても無効、けいれん群発の予防にはカルバマゼピンやフェノバルビタールが有用。痛みや帝泣でけいれんが誘発されることあり。けいれんが重積はしないが、群発(数時間から数日)するので入院が基本となる。コンサルト前に血糖のチェックをしましょう。

 

◎無熱性けいれん

38℃未満で胃腸炎症状がないけいれんとしては、低血糖、電解質異常、代謝異常、高血圧性脳症、不整脈、細菌性髄膜炎、銀杏中毒やベンゾジアゼピンの離脱など

 

抗けいれん剤の持続投与の適応

低熱性(37℃台)発作を繰り返し起こし、発熱に気づかず、ジアゼパム投与のタイミングを失する可能性がある場合や、発熱時ジアゼパム応急投与に拘わらず、遷延性発作を生じた場合などは、発作再発の予防法として、抗けいれん剤(バルプロ酸ナトリウムなど)の持続投与が望ましいと思われるが、(後年の無熱性発作(てんかん)の出現に対する予防効果は認められない)
副作用(フェノバルビタールでは嗜眠、注意力散漫、多動など。バルプロ酸ナトリウムでは血小板減少、とくに乳児では肝機能障害、高アンモニア血症、ライ様症候)もあり、小児科医に任せています。


てんかん発作との関連

大部分の熱性けんれいは、小学校入学までに治りますが、7%程度がてんかんに移行すると云われています。複雑型熱性けいれんが、みんな、てんかんになるわけではありませんが、てんかんを持っている場合は、ほとんどのてんかんの子供が、複雑性の熱性けいれんを起こしていることが多いので、複雑性の熱性けいれんを起こす中にてんかんの子供が紛れ込んでいるので注意が必要という訳です。つまり、てんかんに移行する可能性があるものは複合型熱性けいれん、そうでないものは単純型熱性けいれんと呼ばれているとも言えるわけで、その後の転帰を予想したり、再発予防のための抗けいれん薬の長期投薬の目安となっていました。

てんかん発症の可能性が高くなる因子(複雑型熱性けいれん)があるときは、脳波などの検査を行った上で慎重な経過観察を要します。

(1)熱性けいれん発症前の明らかな神経学的異常(脳性マヒ、精神遅滞)発達遅滞
(2)部分発作
(3)発作の持続が15分以上
(4)24時間以内のけいれん発作の繰り返し
(5)発作後の麻痺
(6)両親、同胞におけるてんかんの家族歴

7才までにてんかんを発症する確率は、上記の因子が無い場合は1%、1因子のみ陽性の場合は2%、2~3因子陽性の場合は10%である。けいれんが「一発熱機会内(通常は24時間以内)に2回起きた場合」「15分以上続いた場合」「明らかな左右差がある場合」は複雑型熱性けいれんという 複雑型熱性けいれんはてんかん発症予測因子の一つとされ、他にけいれん発作前の神経学的異常、てんかんの家族歴、発熱後1時間以内のけいれんの合計4因子である。2〜3因子認める場合のてんかん発症率は10%とされるが、むしろ90%はてんかんを発症しないという方が大切である。

予防接種については、初回の熱性けいれんは、3ヶ月ぐらい間を空けて行っていますが、複数回、熱性けいれんを起こしていれば、1ヶ月後でも施行しています。