横紋筋融解症

横紋筋融解症は、骨格筋の細胞が壊死や融解に陥ることにより筋肉 の痛み、脱力などを生じる病態です。 それに伴いまして筋肉から大量の筋肉成分が流出し、手足、肩、腰などの筋肉の痛み、手足がしびれ る、手足に力が入らないようなことも訴えられることがあります。 また、こわばり、全身倦怠感、さらには、ミ オグロビンが尿中に漏れることによって尿の色が赤褐色になるようなこともあります。ミオグロビンが尿中に出てきますけれども、ミオグロビン尿そのものを評価することは簡単ではないので、赤褐色の尿を見た ときに、尿沈渣に赤血球を認めない場合にはミオグロビン尿といったものを 疑っていただきたいと思います。流出したミオグロビンにより尿細管が傷害を受ける結果、急 性腎不全を生じたり、さらには、多臓器不全を併発し、生命に危険を及ぼすこともあります。2011年ではわが国において約130名発生したという報告があります。

原因として、最も多いのは脂質改善薬のスタチンですが、スタチンとフィブラー トやエリスロマイシン、免疫抑制剤のシクロスポ リンなどの併用で頻度が増えることが報告されています。そのほかの薬剤としては、ニューキノロン系などの抗菌剤では直接筋傷害を起こすことや抗精神病薬や抗不安薬での筋肉の崩壊が起こりますが、意識障害に伴う同じ体位でずっと過ごすことによる筋肉の圧挫によるものも経験します。その他、外傷性であったり、糖尿病性もしくはアルコール中毒、そして脱水(特に夏場など脱水に陥りやす いときには薬物の血中濃度が上がって きますので、注意を要します)熱中症ということによっても横紋筋融解症が生じることが報告されてい ます。また、横紋筋融解症を起こしやすい患者 さんの背景としては、高齢者、腎機能 障害や肝機能障害をお持ちの方、また は甲状腺機能低下症や多くの薬をのま れている、いわゆる多剤併用患者、ま た周術期など、いわゆるストレスがか かるような場合にも引き起こしやすい といったことが報告されています。スタチンによる骨格筋障害の機序としては、形質膜のコレステロール成分の減 少による直接作用といったものや内因性のコレステロールの合成をブロックする結果として減少してくるコレステロール合成の中間代謝産物であるゲラニルゲラノイド誘導体の減 少に伴う蛋白質の修飾障害によって、またミトコンド リアの電子伝達系の機能に重要なコエ ンザイムQ10の減少によって横紋筋融解症が起こると推測されています。

鑑別診断としては、大きな範疇の中では筋肉に関連する病気全般を示 すミオパチ ーという分類があります。myalgiaは、 いわゆる筋肉痛と申しますのは、CK の上昇を伴わない筋肉の痛み、そして myositisといったものはCKの上昇を伴 った筋症状、横紋筋融解症は筋症状を伴って(症状がないことも多い)著明なCKの上昇(典型的には正常上限の10倍以上) ただ、運動を行った場合に も筋肉痛とCKの上昇が正常範囲の5 倍までは上がリます。横紋筋融解症であれば、原因薬剤を中止すると大体2〜3週間ぐらいで正常値に戻ってくることがほとんどです。ミオパ チーの頻度は10人に1人程度はいるかもしれません。

早期発見、早期治療が原則で 薬剤が疑われた場合にはまずは原因薬 剤を速やかに中止し、そして腎機能が正常な場合には補液を積極的に行って、1時間尿量を100cc以上に保つことが 重要です。さらに、急性腎不全を生じ た場合には血液透析を行って回復を待 つことになります。