慢性咳嗽の定義は、8週間以上ですが、咳はかなり体力を使う辛い症状なのでここまで我慢させる理由はどこにもありません。臨床上は数週間で治療を開始することが多いでしょうか。

3週間以上咳が続く。原因として考えられる疾患は、①後鼻漏 ②咳喘息/気管支喘息 ③感染症後の咳 ④GERD ⑤COPD ⑥心不全  ⑦ACE阻害薬 ⑧成人百日咳 ⑨肺がん ⑩結核 その他として、過敏性肺臓炎や心因性などが挙がります。慢性咳嗽の患者さんで、抗菌薬が必要な疾患はほとんどありません。強いて言えば、成人百日咳では、早期であればマクロライドが有効とされていますが、慢性咳嗽という時点で適応はありません。

鑑別診断では、 まずはとりあえずレントゲン写真、可能であればCTを撮って、少なくともがんやCOPD は否定しておくことが大事です。診断には、しっかりお話を聞くことが第一で、まずは好発時間が日中なのか夜間なのか?咳喘息は喘息ですので、日中より夜間、夜間の中でも副交感の緊張が高まってコルチゾールの分泌が下がってくるといわれている寝入りばなよりも、夜中から明け方に咳で目が覚めるのが特徴です。一方、風邪など感染関係は夜寝ようと思うと、寝入りばなに 咳で眠りにくいなどの特徴がありますし、痰を伴う場合は寝ている間にたま ってしまうので、明け方に痰がらみの 咳で起きる場合が多いと思います。また、COPDは息切れですが、咳とか痰が絡む人もいます。これは喫煙歴を聞いて、肺機能検査をすればある程度診断 がつく病気です。逆流性食道炎は、典型的には食後の胸やけ、それに合わせて咳が出て、制酸剤で改善するような咳であればあまり難しくありませんが、咳喘息に合併 しやすいという報告もあり、咳喘息の治療をしても昼間に咳が残っていたら胃食道逆流が合併していることを考えないといけません。有名なACE阻害薬、β遮断薬、 一部の糖尿病の薬が薬剤性の咳嗽の原因ともいわれていますので、やめれば治ります。

夜中から明け方の咳嗽や鼻炎などいろいろなアレルギー疾患の合併、家族歴があるかなどを積み上げていって、どうやら咳喘息っぽいということになったら、最初からステロイドと気管支拡張薬の合剤を使う機会が多いかと思います。私はそれは仕方がないと思います。症状が強くて、患者さんを何とかしてあげたいと思うのは医師の本分というか、気持ちとしては間違いないと思います。感染性のものでしたら気管支 拡張薬はまず効かないと見てよいので しょうか。 松瀬 気管支拡張薬自体に咳反射を 抑える薬理作用はないといわれていま す。気管支拡張薬で改善する咳は収縮に関係して起こる咳反射なので、喘息もしくは咳喘息とほぼ考えていいと思います。

一つは風邪のウイルスが感染すると、 咳の受容体のスイッチが非常に入りやすくなる。そうすると、ウイルス がいなくなっても、しばらくこの入りやすい状態が続いてしまうので、急性期を過ぎても咳が出続ける。あるいは咳は反射なのですが、ある程度長く続くと脳とつながってしまって咳が出たらどうしようとか、何となくのどがもぞもぞするといって、少し気持ちの問題で咳が出る。こういういろいろなものが相まって、ウイルスもおらず、炎症もなくなっているのに咳だけが続くという現象が起きてしまうのが、感染後の咳の原因ではないかといわれています。

 

 

① 後鼻漏 <(上気道咳嗽症候群)

主に「後鼻漏(鼻水がのどに流れ落ちること)」による上気道由来の咳です。のどの奥に液体が垂れる感覚・イガイガ感、鼻汁・鼻閉がみられる場合はわかりやすいですが、これらがはっきりしないこともあります。のどの奥が敷石状にみえる所見や鼻水が流れる様子がみられれば診断に有用です。痰がらみの咳が夜間や早朝にみとめることが多く、季節性がある場合もあります。治療は原因となる鼻炎・副鼻腔炎の治療になります。難治性の咳喘息に、アレルギー性鼻炎によるこの疾患が紛れ込んでいることもあります。

後鼻漏(鼻汁が喉の奥に流れ落ちること)や上気道の咳受容体への刺激などが原因で咳が続くもので
上気道の異常に関連して生じる咳の総称で、主には副鼻腔炎による後鼻漏やウイルス感染症やアレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎などの炎症により咳受容体が刺激されるために咳が出現しやすくなると言われています。後鼻漏による咳嗽患者さんの20%は後鼻漏に気づいていないとされており、慢性咳嗽の原因の中で最も多いとされているので、鼻症状がなくても上気道咳嗽症候群として治療を開始しましょう。

治療は、鎮咳薬は効果がありません。第一世代の抗ヒスタミン薬しか効きません。少なくとも1週間は続ける必要があります。

慢性咳嗽の原因は一つとは限りません。原因が2つある場合が18〜62%、原因が3つが42%と言われています。このため、最初に処方した薬で効果が十分でない倍も中止せずに他の病態も考慮して薬を追加処方することがポイントです。

[症状]
ハナ、長引く湿性の咳。後鼻漏症候群での診断基準は次のとおりです。『8週間以上持続する、とくに夜間に多い湿性咳嗽で、プロトンポンプ阻害薬や気管支拡張薬が無効である。』

[診断]
症状、身体所見、X線所見、治療に対する反応などの組み合わせにより行いますが、特異的な診断法はありません (症候群)。後咽頭への後鼻漏、咽頭クリーニング、鼻漏、後咽頭の敷石状変化、治療的診断(第一世代の抗ヒスタミン・充血改善薬)などがあります。

[鑑別診断]
アレルギー性鼻炎、非アレルギー性鼻炎(血管運動性鼻炎、好酸球性非アレルギー性鼻炎NARES)、感染症後鼻炎、細菌性副鼻腔炎、アレルギー性真菌副鼻腔炎、解剖学的異常による鼻炎、刺激物による鼻炎、職業的鼻炎、医原性鼻炎、妊娠鼻炎

[小児の特徴]

[1] 気道の免疫機能がまだ未熟である
[2] 鼻腔や気管支が体格的に狭い
[3] 鼻腔や気管支粘膜の異物排出機構である線毛運動が弱い
[4] 特に2才以下の乳幼児では、自分で鼻をかんだり痰を排出したり出来ず、副鼻腔がまだ成長段階で小さく十分機能しない
[5] 2才から7才頃は、アレルギー素因のある子どもはダニやホコリのアレルギーが目立ち始め、アデノイド、扁桃腺などのリンパ組織が過剰に反応しやすい

こういったところより鼻炎、副鼻腔炎による膿性鼻汁がのどに落ち、鼻閉により本来の鼻の大切な機能である異物のフィルター作用が減弱したり口呼吸が誘発されることにより、直接気管支に刺激が加わりやすくなって咳がでやすくなります。

[治療]
鼻かみ:鼻が通り鼻呼吸が出来る状態が持続すれば、副鼻腔への換気が良くなり、気管支への悪影響が軽減されます。神経質に1日に何回もする必要はありませんが、膿を含んだ鼻汁は適宜かんで下さい。鼻づまり用の点鼻薬や鼻粘膜の炎症を取る点鼻薬で鼻が通った状態にした後で、軽く片方づつかんで下さい。両方の鼻を押さえて強くかみ過ぎると中耳炎などの耳に悪影響を及ぼす恐れもありますので注意して下さい。なお、花粉症で帰宅時や極端な膿性鼻汁が続く場合には生理食塩水による鼻の洗浄も効果的です。
薬剤:抗ヒスタミン剤、去痰剤等。

 

耳鼻科の先生方は、殆どの咳にハナが落ちて痰になって咳がでる、という言い方をされます。確かに夜眠ってからのみでるひどい咳、という場合にはこのことが当てはまっている、と感じることも多いです。家で、寝る前にハナの吸引ができれば、これで咳が出なくなることがありますので・・・。ただ、全てこの状態が当てはまるわけではありません。湿性の咳が出ている場合は気管支炎があると考えたほうが良い、といわれる小児科の先生もあります。日中起きている時にでる湿性の咳は、ハナが落ちているからとは考えがたいことも多々あります。このあたりは小児科と耳鼻科の考え方の違いですね。副鼻腔炎を治すために、マクロライド系の抗生物質を長期間飲ませられる耳鼻科の先生はありますが、効果のほどははっきり判らないようにも思います。長引く咳は日常本当に多く遭遇しますし、治療に難渋することも多いので、難しい問題ですね。

②咳喘息/気管支喘息

③感染症後の咳

④GERD

⑤COPD

⑥心不全

⑦ACE阻害薬

⑧成人百日咳

⑨肺がん

⑩結核