心尖部肥大型心筋症

肥大型心筋症のうち巨大陰性T波を認めるのは、左室心尖部に肥大が限局する心尖部肥大型心筋症です。家族性の非対称性中隔肥大型とは成因が異なり、家族内発症は稀で、中高年男性に多く、軽症高血圧の合併が多いことなど、後天性因子との関連が報告されています。心電図胸部誘導での巨大陰性T波を伴う左室高電位が典型的所見です。心尖部肥大が高度になると高頻度に心筋灌流が障害され、長期の観察によると特徴的な心電図所見が消失することはまれでなく、心尖部の心筋変位を示唆する所見と考えられ、ときに心尖部心室瘤を合併することが報告されています。心尖部肥大型心筋症はわが国の肥大型心筋症の20-30%を占め、診断時の年齢は50歳代にピークがあり、無症状の患者も多く、医療機関受診の契機は心電図異常が53%と報告されています。加齢に伴い心房細動や徐脈性不整脈が生じることがありますが、概ね予後良好です。しかし、注意すべき病態は心尖部心室瘤の発生です。小さなものも含めると15%に心尖部心室瘤の合併を認めます。瘤の発生過程は胸痛を伴う急性心筋梗塞様の経過はまれで、多くは無症状のうちに形成され、致死性心室性不整脈や壁在血栓に伴う全身塞栓症を契機に診断されたケースも散見されます。瘤のサイズが比較的大きい症例では特徴的心電図所見は消失して胸部誘導でのST上昇や異常Q波がみられることがあります。

特徴的な心電図変化は、ST-T異常でST低下やT波の陰転化が見られる。特にV3〜V5に見られるー10mm(1.0m V)以上の巨大陰性T波は心尖部に肥大の著しい心尖部肥大型心筋症に見られる。後、左室高電位、QRS時間の延長、異常Q波(心室中隔の肥大を反映)