年単位、月単位で、慢性的なずっと続いているお腹の痛み。血液検査も内視鏡検査、CT検査などをしても何の異常もありません。そのお腹の痛み、原因は腹壁、腹筋(腹直筋)を貫いている神経が原因かもしれません。疾患の名前は、ACNES(前皮神経絞扼症候群)anterior  cutaneous  nerve entrapment syndrome :アクネス)と言います。命に別条はないのでしょうけど、患者さんとしては「分かってもらえない、本当にこんなに痛いのに。」と落ち込んでしまいます。慢性腹痛の原因の10〜30%は腹壁由来です。腹壁由来の慢性腹痛の中で最も多いのが前皮神経絞扼症候群です。30〜50歳代(平均年齢は47±17歳, 13-87歳まで幅広い)の女性に多く(女性が77%, 男性が23%)発症しますが、小児にも見られます。(小児の慢性腹痛の8人に1人がACNES)腹痛の持続期間は様々で 数カ月~数年である。オランダの教育病院のERの統計では、急性腹痛で受診した1.9%で、推測されるACNESの有病率は1/1800程度です。原因は特発性(54%)と多く、肥満、きつい衣服による圧迫、妊娠、スポーツ、外傷などです。

肋間神経から分岐した前皮神経は腹直筋の外縁のあたりで筋肉を貫いて皮膚に到達し、皮膚表面の感覚に関係してます。緑の線が神経でACBが前皮神経です。第7〜12胸髄神経の枝(前皮枝)が筋鞘を貫く部位(腹直筋の外縁付近)で絞扼されて疼痛を来します。症状は「鋭い焼けるような痛み」「服が擦れている感覚がきになる」「眠る時に、そこに何か当たると違和感があり眠れない」「服が擦れるのが気になってゆったりした服しか着れない」などで、咳嗽、前傾姿勢での仕事、重いものを持ち上げた時に増悪し、アロディニアを認めることもあります。好発部位は右下腹部(62%)です。( 左腹部(37%)右下腹部(47%))

 

診断は、身体診察になります。前皮神経が腹直筋を貫いているところ(腹直筋の外縁)に圧痛点があります。この❌印の点をピンポイント(圧痛部位は<2cm2程度, 最強点は指一本分)に押さえると痛みが出ます。また、圧痛点周囲の触覚, 温痛覚の低下や圧痛点周囲の皮膚をつまむと疼痛が倍増する所見が見られる。

 

カーネット徴候

カーネット(Carnett)徴候は、腹壁の痛みか、腹腔内の痛みかを判別する方法です。仰臥位で、腹部の触診をし圧痛がある場所を確認します。そして、患者の頭を少し起こさせて腹部の筋肉を緊張させた際に、痛みが持続、あるいは痛みが強くなる場合は、腹壁(筋肉、骨、神経)の痛みが考えられます。一方、痛みが軽減すれば腹腔内疾患を考えます。これは腹筋が分厚くなることで手の圧迫が腹腔内まで伝わらなくなって、痛みが軽減するとされています。つまり、疼痛部位を圧迫しながら腹筋に力を入れてもらうと疼痛が悪化する場合は、カーネット徴候が陽性で、前皮神経絞扼症候群では9割で陽性になります。但し、精神的な腹痛の場合もカーネット徴候が陽性になるので注意が必要です。

治療は、トリガーポイント注射が1st choiceで注射すると疼痛が消失することで診断が確定します。圧痛の最強点に1%リドカイン 10mlを皮下注すると、9割の患者さんで10〜15分で疼痛は軽快、8割の患者さんは数回の注射により疼痛が消失します。改善がない場合は、前腹直筋鞘切開術、神経切除術を施行します。