ベーカー嚢腫とは膝の裏にある関節液(滑液)という液体を含んだ滑液包(膝は身体の中でも最も負担がかかりやすい関節で、衝撃を吸収し摩擦を軽減する為に膝や関節の周囲には複数の滑液包という袋があり、内部には少量の液体(滑液)を含んでいます)が炎症を起こし膨らむことです。膝の裏側にある小さい滑液包が過剰な摩擦や圧迫が加わって炎症が起こり、関節液の分泌量が多くなって、滑液包に過剰な関節液が溜り、膝関節内の関節液が後方に押し出されて腫瘍になっている状態です。痛みはあったり、なかったりです。関節液がたまる原因には、関節リウマチ、痛風、加齢による変形性膝関節症、ランニングなどによる膝の使い過ぎや、体重増加などがあります。関節に問題がある患者の5〜32%で見られます。悪性の腫瘤ではありませんが、中年の女性に多く発症します。

MRI検査(T2矢状断像)

症状としては、膝裏の腫れ、違和感、不快感などで、痛みはあまり強くなりにくい特徴があります。膝裏の腫れがゴルフボールくらいに大きくなると膝を曲げてしゃがむ、正座をする時に痛みを感じるなど可動域制限が生じます。腫れは自然に消えていきますが何らかの理由により関節液が急増し、嚢胞が破裂することがあります。破裂すると、深部静脈血栓症と類似(偽性血栓性静脈炎:pseudothrombophlebitis)した症状(発熱、熱感、疼痛、腫脹)を認めます。深部静脈血栓症が疑われた患者の2〜6%を占めます。

身体所見として膝窩から足首にかけて斑状出血を認め、特に内果の下に見られる場合を三日月サインと言います。下肢深部静脈血栓症の際に見られるHomans’ sign(ホーマンズ徴候)仰臥位で足を伸ばし、足関節を背屈させると腓腹筋に痛みを感じる徴候が陽性になることもあります。

治療として、一般的に保存療法と手術療法に分けられます。保存的療法は基本的に症状が出ていなければ治療の必要はありません。痛みや腫れなどが強くなり日常生活に支障をきたすようなら、安静、下肢挙上、湿布、消炎鎮痛剤などを投与し、経過観察を行っていきます。効果が乏しい場合は、嚢腫摘出術、滑膜切除術などの手術を行います。膝の裏側には重要な神経や血管が多数走っているため、また完全に取り除くことは難しく、摘出しても再発することがあるため手術には慎重な判断が必要です。