悪性リンパ腫

血液のがんと言えば、白血病が有名ですが、血液のがんの中では悪性リンパ腫が一番多いがんです。一般的にリンパ種とも呼ばれます。「リンパ腫です」と言われれば、基本的には、悪性です。良性のリンパ種はありません。簡単に説明すれば、リンパ球のがんということになります。リンパ球は、白血球の一つの種類です。リンパ球はさらにB細胞、T細胞、NK細胞に分けられます。血液中に流れているものと思っている人が多いでしょうが、一番たくさん集まっているのはリンパ組織(リンパ節、脾臓、扁桃腺など)にいます。それだけじゃなくて頭のてっぺんから足の先までいたるところにいていて監視しています。そして、体内に侵入した病原体や異物を認識して、攻撃して排除するお巡りさんのような働きをしています。このリンパ球ががん化し塊を形成したものをリンパ種です。

年間(2014年)男15733人 女13635人の人が悪性リンパ腫に罹って、男7003人 女5470人の人が悪性リンパ腫で亡くなっています。この差が、悪性リンパ種になっても治っている人または治らなくても悪くはなっていない方でになります。患者さんの数としては血液のがんで一番多くなります。

がん統計

 
がん統計
 
 
悪性リンパ腫になるのは男性が多く男女比は2:1です。年齢別では、60歳以降、高齢者に増えてきます。

 
 
 
 
 

 

悪性リンパ腫の症状は、無症状のことも多く、診断されたときには既にかなり進行している症例も見られますが、症状で一番多いのは、頸のリンパ節が腫れて治らないという主訴で来院されます。原因不明の発熱、体重減少、寝汗などを伴う場合は、悪性リンパ腫を疑います。悪性リンパ腫の診断のためには、必ず病変の一部を取ってくる生検が必要です。生検の方法としては、喉や首筋、脇の下など皮膚のすぐ下に腫れがある場合は、皮膚を切開してリンパ節を取ってきます。胃や腸に病変がある場合は、内視鏡で組織を取ってきたり、大きな臓器でやや皮膚より深い場合は、エコーや CTで見ながらやや太めの針で生検します。

 

悪性リンパ腫の診断は、現在、WHO分類によって53病型にも細分化され、病気の進行の仕方や治療法などが異なります。それぞれT細胞由来、B細胞由来、NK細胞由来なんかがあるのですが、素人にこんなたくさん憶えられるわけがありません。この中で顕微鏡で見たときに特徴的な大きな細胞が見られるリンパ腫で、昔はホジキン病(現在は、B細胞由来とわかっている)と言われており、経験的に治療法が確立しているので、あえてホジキンリンパ腫をB細胞由来の中に入れないで、大きく「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分けています。つまり、ホジキンリンパ腫でないものをすべて、T細胞由来、B細胞由来、NK細胞由来なんかをひとまとめにして、非ホジキンリンパ腫として分類しています。我が国の悪性リンパ腫では、約9割が非ホジキンリンパ腫となっています。(白血病は、主座が骨髄である 重なっている部分もあります)

 

悪性リンパ腫の分類

53病型の内で国内で非ホジキンリンパ腫は非常に種類が多いのですが、日本ではB細胞型が約65%を占めます。最も多いのがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫というタイプで、2番目に多いのが濾胞性リンパ腫で、3番目にMALTリンパ腫と続きます。この代表的に3つの病型について説明していきましょう。

悪性度分類は,腫瘍細胞の増殖速度により低悪性度(indolent:年単位),中悪性度(aggressive:月単位)高悪性度(highly aggressive:週単位)に分類しています。

09_19_非ホジキンリンパ腫

病気の診断がついたら病変が何処にあるかと言うことを調べます。これを病期のステージングと言います。診察で何処のリンパ節が腫れているか、CTやPET検査で肝臓や脾臓など体の中の臓器について調べます。さらに、骨髄検査や胃カメラ、大腸カメラなどを行います。リンパ腫の治療を始める前にどこに病変があったかを調べておかないと治療後に治療判定を行うCTをとって病変が見つかった時にいつからあったかがわからなくなってしまいます。またリンパ腫の広がり具合を示す病期などに応じて治療法を選択します。

 

悪性リンパ腫の症状は、無症状のことも多く、UICC(TNM分類・ステージ分類は、UICCーTNM悪性腫瘍の分類を使用)治療前ステージの割合を見ますと、ステージⅣ期が最も多く約30%を占めています。悪性リンパ腫の治療法の主なもの抗体療法を含む薬物治療ですが、ステージのみで治療法が決まるのではなく、悪性リンパ腫の種類、年齢、全身の状態、血液検査、患者さんの希望をよく聞いて治療方針が検討がされます。悪性リンパ腫の治療は、基本的には全身の病気なので、手術で一部分を取って終わりという訳にはいかず、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が中心です。胃がんや肺がんなどの固形がんに比べて化学療法が効きやすく、80%の患者に効果があり、60%は完全寛解といってがんが治癒します。悪性リンパ腫の種類や発生場所によって、注意深い経過観察や手術が行われることもあります。また、薬物治療後に造血幹細胞移植が行われる場合もあります。ただし、他のがんと違って健康診断や人間ドックで分かるものではなく、痛みも無いため、実際には早期発見が難しいので、普段から体の変化に注意し、頚部などのリンパ節が痛みはなくてリンパ節の腫れが1cm以上で徐々に大きくなるようであれば病院を受診することが大切です。

UICC治療前ステージ別割合(悪性リンパ腫)

UICC治療前ステージ別 治療方法別割合(悪性リンパ腫)

悪性リンパ腫の血清腫瘍マーカーとしては、LDHやβ2MG、可溶性IL2受容体などが測定されますが、特異度が低く、感染症などいろいろな原因で動くので、リンパ腫自体が良くなった悪くなったとは関係ないことが多く、ひとつの目安ぐらいの感じでこの値にあまり一喜一憂しないほうが無難です。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

悪性度は、中悪性度とされ、未治療の場合、主に月単位で病気が進行します。以前は、CHOP療法が行われていましたが、現在の標準的な治療は、リツキシマブという分子標的薬と抗がん剤を用いた「R―CHOP(アール チョップ)療法」が標準的治療となっています。この治療で半数以上で治癒が期待できます。

R-CHOP療法で使用する薬剤

R-CHOP療法で使用する薬剤

リツキサン

R-CHOP療法が標準治療です。リツキシマブの登場によって、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が治る可能性が高くなりました。実際、どれくらいの人を治せるかですが、高齢者やPSが低い人、LDHが高い人、ステージ3,4の人などの予後因子のある人は50%、これらのない人だと90%は治るようになりました。治癒(寛解)となった場合は、フォローは普通のがんと同じ5年を目途に一旦終了としています。

リツキサン(リツキシマブ)は分子標的薬で抗体薬の走りです。B細胞の細胞膜にCD20というタンパク質があってそれに対する抗体を薬にしたものです。

リツキシマブ

初回治療の標準治療としてR-CHOP療法があまり効いていない場合や一旦寛解するもその後再発した場合は、二次治療としてサルベージ化学療法が行われます。基本的には、初回の標準治療では使われていないお薬を使います。一般的にR-CHOP療法よりは骨髄抑制の強いものが多くなります。サルベージ化学療法が効果があるような場合で、65歳以下、他に臓器障害がないような場合は、地固め療法として大量化学療法+末梢血幹細胞移植(自家移植)を行います。

 

ろほう性リンパ腫

悪性度は、低悪性度で、未治療の場合、年単位でゆっくり進行するタイプです。年単位なので自然に縮小したり、消えてしまったりすることもあります。R―CHOP療法などの治療もよく効き、リンパ腫が小さくなったり、消えたりすることが期待できますが、数年~十数年後に再発するケースが一般的な経過なので、治療を終えた後も、血液検査やCTなどによる画像検査を定期的に行います。患者さんが診断されるきっかけも様々で腹部の大きな腫瘤が触れて見つかる場合もあれば、たまたま撮った腹部CTでリンパ節が少し腫れているから調べてみるとリンパ腫であったり、胸水が溜まって息苦しくて検査の結果、リンパ腫だったというケースもあります。よって、ろほう性リンパ腫と診断されても、症状がなく、腫瘍が小さいなどの場合には、治療せずに定期的に診察を受ける「経過観察」という選択肢もあり得ます。また、途中から組織学的形質転換(トランスフォーメーション)が起こりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に変化する場合もあり、こうなった場合は、早期に治療が必要になります。

治療効果判定は、PET/CTで行います。

PET

 

MALTリンパ腫

悪性リンパ腫はリンパ節にできることが多いのですが、非ホジキンリンパ腫である場合には、約30%でリンパ節以外の臓器や組織でがんが見つかります。日本では、リンパ腫は胃で見つかることが多いのですが、原因としては、ヘリコバクター・ピロリという胃潰瘍の原因菌が胃のリンパ腫に対して影響しているためと考えられています。胃潰瘍は日本人に比較的多い病気です。

リンパ球のなかにはT細胞とB細胞がありますが、T細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫に比べて治りにくく、再発もしやすいがんです。なかなかいいお薬もなかったんですが、新しい薬がどんどん出てきているようです。PET-CT リンパ種の広がり(病期)を調べます。