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体質性黄疸
体質性黄疸とは、肝臓でおこなわれるビリルビンという物質の分解に先天的な障害があることを指します。ビリルビンは黄色の色素を持ち、何らかの原因で体内に溜まると皮膚や眼球の黄染などさまざま症状が現れます。血液中には、酸素を運搬する重要な働きをする赤血球という細胞があります。赤血球にはヘモグロビンという物質があり、酸素と結合して体中の組織に酸素を運搬しています。赤血球は骨髄で作られ寿命は約120日です。古くなったり傷ついたりした赤血球は、脾臓のマクロファージという貪食細胞によって分解されます。脾臓では赤血球の分解によって間接ビリルビンという物質を生成して、これは肝臓へ運ばれます。肝臓内ではいくつかのグルクロン酸抱合酵素の働きで間接ビリルビンがグルクロン酸に抱合されて直接ビリルビンとなり、胆汁の成分として十二指腸に排出されます。十二指腸内に排出された直接ビリルビンは、小腸の常在菌の作用によって再び間接ビリルビンになり、それがさらに還元されウロビリノーゲンという物質になり、尿や便と共に体外へ排出されます。原因不明の黄疸が続き、肝機能や胆道系酵素の異常は見られず、各種肝炎ウイルスも陰性であり、その他の血液疾患や胆道閉塞疾患などが見られない場合に体質性黄疸が疑われます。クリグラー・ナジャー症候群以外は原則的には治療は必要ありませんが、自分が体質性黄疸であることを認識しておくことは大切です。
体質性黄疸には4つの種類があり、肝臓でのビリルビン分解のどの段階に障害があるかで分類されています。
Gilbert症候群(ジルベール>ギルバート)
肝細胞におけるビリルビンのグルクロン酸抱合の障害で間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を認めます。全人口の5%に見られ、体質性黄疸の中で最も多く、健診などで偶然見つかることが多い。常染色体優性遺伝による家族性発生が多いといわれています。10~30歳で発症する慢性の黄疸で消長がある。女性よりも男性に多く見られます。
大部分の患者さんは無症状ですが、倦怠感や腹部不快感を訴えることもあります。過労時や絶食時に軽度な黄疸が見られるのみです。増悪因子として、ストレス、絶食、過労、月経、感染症、手術、寝不足、運動時に血清ビリルビン値<6mg/dlまでで増悪するが、原因の除去により軽快。寛解因子として、ステロイド、フェノバルビタール、クロフィブラートなどでビリルビン値は低下する。
検査では間接ビリルビン優位の総ビリルビン値の上昇し、通常2〜5mg/dlを変動し,絶食やその他のストレスによって上昇する傾向にある。他の肝機能検査はすべて正常、溶血を疑う所見はない(血算。網状赤血球数、GOT、LDHなど)
診断には、ニコチン酸負荷試験、低カロリー試験(1日あたり400kcalの食事制限を2日間行うと、間接ビリルビン値が2倍以上に上昇しますが、体質性黄疸のない健常者でも、絶食後高ビリルビン血症があります。)で陽性となりますが、本疾患に特異的というわけではなく、臨床で必要とされることはほとんどありません。1年ほど経過をみてビリルビン値以外に異常が見られなければ、Gilbert症候群と診断可能です。予後は良好で、特に治療は必要ありません。肝疾患があるわけではないと伝えて、患者さんを安心さてあげましょう。皮膚の掻痒感や外見上の黄疸が気になる場合は、フェノバルビタールの投与によって改善します。
Crigler-Najjar症候群(クリグラーナジャ)
Ⅰ型:グルクロン酸抱合酵素が産生されないことで、ビリルビン代謝が完全に行われず、間接ビリルビンが上昇します。常染色体劣性遺伝によるものです。Ⅱ型:グルクロン酸抱合酵素の活性が低下することで生じます。1型の軽症型で、大半は常染色体劣性遺伝様式を取ります。Ⅰ型は非常に予後が悪く、生後数日で重症核黄疸に至ります。一方、Ⅱ型は生後数日で中等度~高度な黄疸が出現してしばらく続きますが、その後は軽快し、日常生活が可能になります。
Dubin-Johnson症候群(デュビン・ジョンソン)
肝臓でグルクロン酸抱合を受けて生成した直接ビリルビンの排出が障害されることによって直接ビリルビンが上昇します。直接ビリルビンを胆汁へ排出するために必要な特定のタンパク質が欠損していることで発症します。多くの場合は黄疸以外症状がないものの、慢性的な全身倦怠感を訴えて発見されることもあります。また軽度の肝腫大が見られることがあります。Dubin-Johnson症候群では、腹腔鏡検査で肝臓が黒く変色した状態が観察され、肝生検では、肝細胞内に褐色色素顆粒の存在が確認できます。
Rotor症候群(ローター)
非常にまれな病気ですが、日本では沖縄県での発生が多く報告されています。原因は正確に解明されていませんが、直接ビリルビンの胆のうへの排出や肝臓への間接ビリルビンの取り込みに障害があると考えられています。中等度の黄疸を指摘されることがありますが、ほとんどは無症状です。Rotor症候群は直接ビリルビンが上昇します。