間質性肺炎
新型コロナウイルス感染症のおかげで、間質性肺炎がメジャーな疾患になりましたね。間質性肺炎ってどんなイメージ?重症化して死ぬって感じでしょうか?実は間質性肺炎ってのは病名ではありません。間質性肺炎とは、肺胞の間の組織(間質)に炎症が起きた状態を指します。つまり、どこで肺炎(炎症)を起こしているかで分類している病態を表している疾患の分類名です。間質性肺炎を引き起こす原因や疾患は多岐にわたり、そのなかには軽症にとどまるものもあれば重症化するものも含まれます。間質で炎症を起こす一つの原因として感染症(新型コロナウイルスの他に、インフルエンザ、サイトメガロ、麻疹、水痘など)もあります。一方で、一般の細菌(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌など)が起こす肺炎は、肺胞で炎症を起こします。
「間質性肺炎」?かかりつけ医のレベルでは、臨床像、病理も入り乱れて、なかなか難しい概念ですね。間質性肺炎と肺線維症の違いはどうでしょう。間質性肺炎の炎症があってから繊維化が起こるものだと理解されていましたが、一番予後の悪い特発性肺線維症(IPF)は線維化そのものが自ら進行している病気とちょっと疾患概念が変わってきているようです。胸部CTを依頼して、コメント欄に間質性肺炎の疑いがありますと書いてあるととほうにくれるわけです。なにせ原因がわからないからです。「呼吸」とは、吸った空気が、肺の奥にある肺胞と呼ばれる部屋で、肺胞の薄い壁の中(間質)を流れる毛細血管内の赤血球に酸素を与えると同時に二酸化炭素を取り出すガス交換が行われているわけですが、間質性肺炎は、さまざまな原因からこの薄い肺胞壁に炎症や損傷がおこり、壁が厚く硬くなり(線維化)ガス交換がうまくできなくなる病気です。
間質性肺炎が存在していても病初期には多くは無症状ですが、少し進んでくると痰を伴わない空咳がでたり、安静時には感じない呼吸困難感が、坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになります。また、風邪様症状の後、急激に呼吸困難が出現し病院に救急受診することもあり「急性増悪」と呼ばれています。
呼吸困難で来院された患者さんの聴診所見がまずは大事です。背中の下部で捻髪音(パリパリ)というベルクロラ音という乾いた音が聞こえます。SpO2を測定しても安静時では正常のことも多いので、運動時のSpO2を測定するために、SAS(睡眠時無呼吸)の時に行う24時間のサチュレーションモニターを行います。
間質性肺炎を治療するためには、原因を見つけて除去しなければならない訳ですが、その原因を見つける事が容易ではありません。間質性肺炎の原因には、関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)病院で処方される薬剤・漢方薬・サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)特殊な感染症など様々あることが知られています。ただ膠原病likeでも診断基準は満たさない、吸入抗原が同定できない、お薬も沢山飲んでてどれが原因かわからないということも多いわけです。また、原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。
間質性肺炎の診断は、診断フローに準拠して鑑別診断を行いますが、常に特発性肺線維症(IPF)を意識しながら行います。既往歴・職業歴・家族歴・喫煙歴などを含む詳細な問診、肺機能検査、血液検査からなる臨床情報、高分解能コンピューター断層画像(HRCT)やいままでの検診時の胸部X線画像の変化からなる画像情報、そして外科的な肺生検からえられる病理組織情報から総合的に行います。検査としては、血清マーカーとしてはKL-6(SP-A、SP-D)が重要で、関節痛や皮膚症状がないかを調べて怪しければ、リウマチ因子や抗核抗体を出しておきます。
胸部X線写真や胸部CT画像上において、病変が両側の肺に広範に散布したびまん性陰影を認める疾患を「びまん性肺疾患(DPLD)」と言います。また、主に肺の間質を炎症や線維化病変の場とする疾患を「間質性肺炎(IP)」と言います。まずは、びまん性肺疾患は、原因がはっきりわかっているものと、原因がはっきりとわからないものに分けます。原因がはっきりわかっているものとしては、感染によるもの(新型コロナウイルス、サイトメガロウイルス、インフルエンザ、麻疹、水痘などのウイルスや、マイコプラズマなどの一部)薬剤の副作用による「薬剤性肺炎」膠原病によって起こる「膠原病肺」特定のアレルゲンを吸い込むことで起こる「過敏性肺炎」粉塵などを吸い込んで起こる肺炎(例としては職業性肺疾患)癌が間質にあるリンパ管を進んで起こる「癌性リンパ管症」肺を始めとして全身に「肉芽腫」という組織が出来てしまう「サルコイドーシス」などが挙げられます。一方原因がはっきりとはわからないものは、「特発性」間質性肺炎といわれます。
IPの病理像は多彩であり、2013年に報告されたアメリカ胸部医学会(ATS)/ヨーロッパ呼吸器学会(ERS)の特発性間質性肺炎の臨床/病理学分類(国際分類2013)では、特発性間質性肺炎(IIPs)を病理組織パターンに基づいて、「主要なIIPs」「分類不能のIIPs」「頻度の低いIIPs」の3つの臨床病理学的疾患単位に分類、さらに「主要なIIPs」には、特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(特発性NSIP)、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸器細気管支炎関連性間質性肺疾患(RB-ILD)、特発性器質化肺炎(COP)、急性間質性肺炎(AIP)があります。全部で9つの亜系に分類されています。全てを憶えるつもりもありませんが、この中には肺胞の破壊が年単位で進み、肺が強く線維に置き換わってしまうために治療が難しい「特発性肺線維症」が最も多く、肺胞に慢性的な炎症が起こりフィブリンという物質が肺胞にたまりつつ、隣り合う間質にも炎症を引き起こす「特発性器質化肺炎」、原因不明ながらも急速に間質に炎症が起こり多くは救命困難な「急性間質性肺炎」などがあります。
当然のことながら「間質性肺疾患」にはいろいろとあるため、これらの予後というのも原因や病型によって様々です。原因がわかる間質性肺疾患では、例外はあるにせよその原因が取り除かれることで改善できることも多いものです。膠原病肺であれば膠原病の治療により小康状態となるケースは多いですし、急性過敏性肺炎はそのアレルゲンから離れるだけで改善するとされています。「特発性器質化肺炎」は治療(内服や点滴のステロイド薬)の効果が高く、致命的になることはあまりありません。また、新型コロナウイルスによる間質性肺炎も軽症の場合は自然に改善する場合が多いと報告されています。一方、原因不明の特発性間質性肺炎の中で、特発性肺線維症(IPF)は最も多くて、最も治療が難しく、5年生存率は30%と低く、急性増悪、慢性呼吸不全、肺がんの合併で亡くなっています。特発性肺線維症は、50才以上の男性に多く、患者さんのほとんどが喫煙者です。やはり喫煙者に多い肺気腫と肺線維症が合併した「気腫合併肺線維症」という病態が、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに多く認められます。肺胞の線維化が進んで肺が硬く縮むと、蜂巣肺といわれ、胸部CTで確認できます。特発性肺線維症(IPF)には、蜂巣肺がほぼ必須ですが、蜂巣肺があれば、すべてが特発性肺線維症(IPF)かというとそうではありません。膠原病肺や慢性型過敏性肺炎では、蜂巣肺所見を伴うことがしばしば認められます。
治療
間質性肺炎の治療の考え方です。まずは、間質に炎症性細胞が浸潤し、TNF-αによって炎症が拡大します。炎症が進行するとTGF-βによって線維化が促進し、蜂巣肺になっていきます。炎症を抑える薬と線維化を抑える薬は別物です。炎症と線維化という病態が一人の患者さんの中に混在しているので、どちらが主体の病態かによって治療法が異なってくる訳です。
特発性肺線維症(IPF)以外の場合には、通常確定診断がついた時点から治療を開始します。多くの場合ステロイドを中心とした抗炎症・免疫抑制療法がよく効いて、肺の陰影を含めて呼吸病態が改善するからです。しかし、特発性肺線維症(IPF)はほとんど線維化が主体で炎症の要素は少ないため、ステロイドや免疫抑制剤は使わないで新しい抗線維化療法で治療することが勧められています。日本では、2008年からピルフェニドンが使えるようになって、2015年からはニンテダニブという薬が使えるようになっています。いずれも線維芽細胞の増殖やコラーゲン産生を抑え、臨床的には肺活量が減少していくのを抑制することがが証明されています。胸部画像や肺機能、6分間の歩行試験などの検査結果を総合的に判断し、病気の進行を認めるようであれば、病勢に応じて段階的な治療を行います。咳を抑える薬剤や痰を出しやすくする薬剤による対症療法も日常生活を改善することがありますが、間質性肺炎本体の治療ではありません。最近では抗線維化剤(ピルフェニドン)や抗酸化作用をもつ薬剤(N-アセチルシステイン)の吸入療法など、我国で開発されてきた新たな治療法があります。
病気が進行し呼吸で酸素を十分取り組めない場合には、在宅酸素療法といって日常生活で酸素を吸入する治療法が行われ、必要であれば呼吸リハビリテーションも行われます。さらに肺病変の影響で心臓の負担が増加している場合(肺高血圧症)にはその治療もあわせて行います。また、若いながら呼吸機能の改善が期待できない場合には、一定の厳しい基準を満たすことを確認されたうえで、肺移植の適応も検討されます。
発性肺線維症の経過は個々の患者さんにより様々であるといわれています。一般的には慢性経過で肺の線維化が進行する疾患で、平均生存期間は、欧米の報告では診断確定から28〜52ヶ月、わが国の報告では初診時から61〜69ヶ月と報告されていますが、患者さんごとにその差は大きく、経過の予測は困難です。また、風邪の様な症状のあと数日内に急激に呼吸困難となる急性増悪が経過を悪化させることがあります。喫煙歴のある間質性肺炎の患者さん、特に肺気腫を合併した肺線維症の患者さんには肺がんができやすいことが知られていますので、間質性肺炎の病状が安定していても定期的な検査を受けることをお勧めします。