貧血

貧血ってこんなイメージですか?

貧血のイメージ

朝礼で立っていていたら、目の前がスーッと暗くなって倒れてしまう。しゃがんだり座った状態から立ち上がると、くらくらと立ちくらみがする。こういった症状が出たら「貧血だ!」と思っていませんか? 実はこれ、貧血とは違うのです。一般的にはいわゆる脳貧血と言われているものでしょうか。医学的には、「熱失神」「血管迷走神経反射性失神」「起立性低血圧」などが考えらます。原因は、暑さや自律神経などの反応で脳へ送られる血液の流れが一時的に阻害されることで起こります。貧血は血の量が減る(ヘモグロビン)によっておこる病態です。

 

 

 

血液も、りっぱな臓器のひとつです。血液は血管の中を流れていますが、いろいろな細胞が集まっています。血液は骨髄というところで作られます。骨髄は骨の中心にあるやわらかい部分です。 ここで、造血幹細胞から赤血球・白血球(好中球やリンパ球など)・血小板 が造られています。 骨髄は言わば「血液の工場」なのです。

骨髄血液細胞



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採血して試験管に入れておくと、沈殿物と上澄み液にわかれます。半分は血漿といわれる水です。下に沈んでいるのが、血液の細胞です。その中で一番多いのが赤血球なのです。

 

 

 

血液を顕微鏡(400〜1000倍)で見てみるとたくさんある赤い円盤(中央部は薄いので明るく見える)が赤血球(7〜8μm)です。淡青紫色の小さなゴミのように見えるのが、血小板です。赤血球よりちょっと大きめの青紫色(分葉したり丸い塊)細胞が白血球です。

血液の顕微鏡像

(あいち小児保健医療総合センターHPより)


ヘモグロビン(Hb)

ヘモグロビン

ヘモグロビンは、色素のヘムとタンパク質のグロビンからできており、ヘムを構成しているのがポルフィリンという有機化合物と鉄です。この鉄が酸化(酸素と結びつく)することによって ヘモグロビンは鮮やかな赤色を帯びます。(鉄は錆びると赤くなります)ヘモグロビンは、私たちの体の隅々まで酸素を届ける酸素宅配便のようなものです。

 

 

 

鉄の体内動態

 

五寸釘

体内の総鉄量はおよそ4gです。つまり、五寸釘(ワラ人形に打つやつです。約15cm)が身体の中にある勘定です。

(みんカラより)

 

 

鉄は大別してヘモグロビンに70%、ミオグロビンに5%、ヘモジデリン・フェリチンとして組織(貯蔵鉄)に25%存在します。実際に鉄が大量に吸収されて、大量に排泄されているわけではなくて、尿や粘膜の脱落、汗など微量な鉄が喪失されてそれを補う分だけの鉄が食事から吸収されています。 健康な人が食事で摂る鉄の量は1日に10〜20mg程度ですが、体に吸収されるのは、せいぜい1mg余り( 1割前後)です。しかも、毎日1mg前後の鉄が排出されます。女性は1回の月経で月平均45mlの失血がありますから(赤血球1mlにつき鉄1mgなので、ヘマトクリット50%とすると20mgの鉄を失います)常に鉄の吸収・排泄のバランスが負になり易い状態にあるのです。

鉄の体内動態

 

では、赤血球を作るための大量の鉄がどこから供給されているかというと、基本的には赤血球が老廃化してマクロファージに取り込まれて再利用されるのが鉄のメインの動態です。この鉄の動態のゲートとなっているのがフォロポーチンというトランスポーターです。これは、マクロファージに取り込まれた鉄を血液中に放出するポンプであり、かつ十二指腸の上皮細胞から血液中に鉄を排泄するポンプも共通です。このゲートが開けば腸から鉄が入ってきて、この鉄産生のサイクルが回るわけです。このフェロポーチンというゲートの開け閉めをしているのが肝臓から分泌されるヘプシジンというペプチドホルモンです。このペプシジンの量が増えるとゲートが閉じられて鉄が利用されなくなる、ヘプシジンが下がるとゲートが開いて鉄が利用されて、赤血球がたくさん作られるわけです。ヘプシジンの分泌はいろいろな因子によって制御されています。例えば、感染症など炎症があれば、ヘプシジンの産生が増えてこのゲートが閉じられることになりますし、SpO2が下がったりするとヘプシジンの量が下がって、鉄が利用されるようになります。

ヘプシジン

血液中に入ってきた鉄は、トランスフェリンにくっ付いて(血清鉄)骨髄に運搬されてきて、トランスフェリン受容体を介して赤血球に取り込まれます。ミトコンドリアではアミノレブリン酸の合成からポルフィリン→プロトポルフィリンに鉄が入ってヘムになります。細胞質でグロブリンとくっ付いてヘモグロビンがどんどん作られて充満していきます。

 

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1日に必要な鉄の摂取量は、男性10mg、女性は12mgです。 食品に含まれる鉄分には、体内で吸収されやすい「へム鉄」と吸収されにくい「非ヘム鉄」 の2種類があります。ヘム鉄は牛肉、豚肉、鶏肉、魚類など肉や魚に含まれ、そのままの形で腸管粘膜上皮に取り込まれてヘムの分解を受け、鉄を放出するため吸収率は15〜25%です。非ヘム鉄はほうれんそう、貝類、卵黄、ひじきなど野菜や穀類に多く含まれています。非ヘム鉄は、胃内で胃酸による還元作用を受ける必要があり、また、胃内内容物にも影響を受けるため、吸収率が悪く2〜5%です。(ただし、鉄欠乏時の吸収率はもっと高くなっていると予想されています)鉄の吸収をよくするためには、鉄と一緒にいろいろな栄養素(ビタミンCやビタミンB2、B6、B12とマグネシウム、銅、葉酸など)をまんべんなく摂ることが大切です。 また、ヘモグロビンを造るために欠かせない良質のタンパク質や、ポルフィリンを合成するのに必要な亜鉛も不足しないようにしなくてはなりません。つまり、これらを十分にとるには、ただヘム鉄の多い食品(=肉類など)ばかりを摂ればよいわけではなく、野菜など非ヘム鉄の多い食品も、鉄分の吸収を高める食品と一緒に摂ることで効率よく鉄を摂ることができます。いろいろなものを偏りなくバランスのよい食事を食べることが大切なのです。

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貧血の症状

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身体に必要な酸素が十分に行きわたらなくなり、動悸、息切れ、頭痛、顔色が悪くなるなど様々な症状が表れますが、最も多い主訴は「疲れやすい」「労作時の息切れ」です。しかし、臨床的に 貧血の程度と症状の強さは一致しない場合も少なくありません。慢性に経過した人は、びっくりするくらい貧血が高度でも歩いて来院されます。急性に進行した場合は、軽い貧血でも動けません。つまり、貧血の症状の強さを決めるのは、貧血の進み具合なのです。

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貧血の診断

貧血とは血液中のヘモグロビン濃度が減少している状態と定義されています。貧血の基準では、成人男子は13g/dl未満、成人女子や小児は12g/dl未満、妊婦や幼児は11g/dl未満と定められています。

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眼瞼結膜を見てみましょう
重度の貧血、Hbは6g/dlです。普通は赤い編み目のような毛細血管が見えます。このように白ろっぽかったら貧血が疑われます。

 血液検査をして、Hb 10g/dlまでは、症状がなければ緊急性はないでしょう。それでもいつも15g/dlある人が急に11g/dlに下がったらちょっと慌てた方がいいかもしれませんし、15g/dlある人が13g/dlに11g/dlにと徐々に減ってくるとちょっとおかしいかなと思います。また、Hb 7g/dl以下は早めに対応した方が無難でしょう。

 

最も大事なことは、犯人をつきとめることです(原因究明)

貧血にもいろいろあります。赤血球ができる過程でそれがうまくいってないと言う事ですよね。造血幹細胞が何らの理由でうまく働かなくなった場合は再生不良性貧血となります。造血幹細胞から赤芽球前駆細胞、前赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球と正常に分化していくためにはエリスロポエチンが必要です。エリスロポエチンは腎臓で作られます。腎臓からエリスロポエチンがうまく出てこなくて貧血になるのが腎性貧血です。そしてビタミンB12や葉酸の欠乏でDNA合成がうまく働かなくなると巨赤芽球性貧血が起こってきます。鉄がうまく利用できないと鉄欠乏性貧血、ヘモグロビン合成がうまくいかない(ビタミンB6が必要)と鉄芽球性貧血が起こります。最後に出来上がった赤血球が壊されると溶血性貧血になります。

 

しかし、貧血という診断は症候名(症状をあつめたもの)で病名ではないので、どこが悪いかはわかっていないのです。ここからが大事なのです。貧血の原因を調べるために、どのようなアプローチがいいでしょうか。自分の場合は、赤血球の大きさと網状赤血球で鑑別診断をするフローチャートが優れているのではないかと考えています。

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MCV(平均赤血球容積)がその指標です。MCV=Ht(ヘマトクリット%)x10/RBC(百万/μl)で求めます。MCV<80が、小球性。MCV81〜100が正球性。MCV>101が、大球性となります。赤血球の大きさを見れば、原因がわかります。赤血球が小さければ、ヘモグロビンの合成障害による貧血、大球性の場合は、DNAの合成障害による貧血ということになります。

 

◎小球性貧血 MCV<80

赤血球が小さければ、ヘモグロビンの合成障害による貧血ということでした。一般外来を受診する貧血の患者さんの約7割は「鉄欠乏性貧血」です。 体内の鉄が不足したために、ヘモグロビンを順調に造ることができません。ヘモグロビンがうまくできないということは、成熟した赤血球ができずに、大きさも小さくて、赤色も薄い出来損ないの赤血球(小球性低色素性)になってしまいます。小球性貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血(フェリチンが低下、血清鉄低下)で、次いでサラセミアと二次性貧血(フェリチンが正常〜増加、血清鉄低下)になります。

 

鉄欠乏性貧血


(1)出血(ジワジワ出た場合です)で鉄が排出されて不足するケース

症例1 75歳 男性

RBC 389万
Hb  6.5
Ht  22.4
MCV 67.9
Fe  10
フェリチン 3

まず、貧血と診断するときに、用いられるのはHb(ヘモグロビン)です。Hb値が、男性13g/dl未満、女性11g/dl未満であれば、貧血です。次に、MCV(平均赤血球容積)が最も大事は指標です。26.4×10/3.89=67.9<80 と高度な小球性貧血です。小球性貧血の代表疾患は、鉄欠乏性貧血と二次性貧血です。高齢者の慢性に消化管出血(がん)となります。(二次性貧血では、フェリチンは、高〜正常値になります)高齢者の貧血で、一般的な原因は、二次性が30〜40%、鉄欠乏性が15〜30%とされています。

注)鉄欠乏性貧血を確定するために、最も特異度が高い検査は、フェリチン低値(<15ng/ml)です。反対に、フェリチン高値>100ng/mlでは、鉄欠乏性貧血は考えにくくなります。フェリチン値が、15〜100ng/mlの時は、鉄欠乏性貧血か二次性貧血か双方が考えられます。しかし、フェリチンは、急性期反応蛋白であり、急性の炎症が存在する場合には、鉄欠乏性貧血でも高値になる症例があります。

 

鉄欠乏性貧血の最も多い原因は消化管からの慢性的な出血です。血液1ml中には約0.5mgの鉄が含まれており、2ml/日以上の出血があると1日の鉄吸収量1mgを上回り、生体内の鉄バランスは負に傾くことになる。高齢者の貧血の原因には、消化管出血が多い。消化管出血の原因は若年者では胃潰瘍、高齢者では癌が相対的に多い。

 

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食生活の欧米化に伴い、日本でも大腸がんが非常に増えています。 大腸がんの死亡者数はこの20年で2倍以上に増え続け、現在、日本の女性のがん死亡原因の1位、また男性では胃がん、肺がん、肝臓がんについで4位となっています 。自分では「痔」だと思っていたら検査の結果は「がん」だったということはよくあります。大腸がんは便潜血検査や、下部消化管内視鏡検査で早期に発見できれば、100%完治も望めるがんです。

 

 

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胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは 自分の胃液で粘膜を自己消化してしまい、組織を損傷し発症します。ヘリコバクターピロリ菌感染と鎮痛解熱剤(非ステロイド性抗炎症剤)による副作用が2大原因です。診断は胃X線検査(バリウム検査)あるいは胃内視鏡検査で行います。ここで注意が必要なのは、鉄欠乏性貧血の原因で消化管出血を考えないといけないわけですが、それはあくまでも慢性に進んだ場合です。これは主にはがんを考えます。(高齢者で鉄欠乏貧血を見たらピンポンです。)胃潰瘍・十二指腸潰瘍の急性出血で真っ赤な便、タール便などが見られる場合は、小球性にはなりません。直後なら、貧血さえないこともあります。(血液が減るだけではショックなるだけです。血液が薄まらないと貧血にはなりません)急性出血では、網状赤血球が増えて、正〜大球性貧血になります

 

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痔の診断は、「肛門科」で診てもらうのが、確実で、「気後れ」が「手遅れ」にならないように姫路大手前の岡崎外科消化器肛門クリニック を紹介しております。

 

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子宮筋腫は、成人女性の20%の割合で発生する頻度の高い疾患で、自覚症状のない症例も多いが、、粘膜下筋腫、一部の筋層内筋腫では、過多月経や不正出血、月経痛を訴える。生理の出血が「多い・少ない」というのは、本人もなかな客観的に判断するのは難しいようです。具体的には、月経時に鎮痛剤を使用しなければならないとか、月経が10日以上長期間にわたって続くかどうかなどを問診します。診断は超音波検査(一般に子宮筋腫は周囲筋層との境界が明瞭なhypoechoicな腫瘤)やMRI(最も有用)で行います。

 

(2)鉄の摂取量が足りないケース

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女子の場合、思春期は成長と生理の開始により鉄分の需要が増え、鉄欠乏性貧血になりやすい時期。女子高校生の約10%が鉄欠乏性貧血、約60%が鉄欠乏状態。正常者は約30%しかいないともいわれます。さらに美容のためのダイエットや偏食が貧血に拍車をかけます。激しい運動をするスポーツマンは汗と尿に鉄喪失が多く,時に鉄欠乏性貧血の遠因となることもあります。

 

(3)鉄の需要が多いケース

妊娠期も赤ちゃんの赤血球を造るためにたくさんの鉄が必要で、鉄不足が起こりやすくなります。

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血清鉄とフェリチン

鉄欠乏性貧血と言うと、血清鉄が低下している貧血を思いがちですが、二次性貧血でも血清鉄は低下します鉄欠乏貧血の診断に一番特異性が高いのはフェリチンです。間違わないようにしましょう。

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鉄は体内に4000mg程度あり、60〜70%はヘモグロビン中に、20〜30%、約1000mgが貯蔵鉄です。体内の鉄が不足してくると、まず貯蔵鉄(フェリチン)が減少し、次に血清鉄が、次いで血色素(ヘモグロビン(赤血球))が減少する。更に鉄が欠乏すると組織鉄の欠乏をきたす。つまり、血液検査をして、貧血と診断された軽症の鉄欠乏性貧血であっても、貯蔵鉄は枯渇し、血清鉄も減少してきた段階で見つかるわけです。

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貧血がが進行すると、全身の倦怠感やめまい、耳鳴り、動悸、息切れなどといった症状が現れます。実際に貧血以外にも鉄というのはわれわれの体のすべての細胞に必要なものであり、特にターンオーバーがあるような細胞には影響が出てきます。(爪が割れやすくなる、唇の端や舌に炎症が起こる、氷などを無性に食べたくなる、髪が抜ける、肌が荒れるなどの症状)はっきりとした理由が見当たらないにもかかわらず、いらついたり倦怠感を感じるときは、鉄欠乏性貧血を疑うと良いかもしれません。

① 骨・皮膚・粘膜の障害(あざ、コラーゲン低下による骨・肌異常、爪・毛髪・舌異常)
② 知能・情動への影響(不眠・集中力低下・学習障害・うつ・パニック障害)
③ ホルモンへの影響(甲状腺ホルモンの成熟障害、不妊症)
④ 白血球・免疫への影響(抵抗力の減少)
⑤ 消化系に及ぼす影響(嚥下障害、食欲不振、下痢、便秘、氷を好んで食べる)
⑥ いわゆる不定愁訴:頭痛、イライラ、耳鳴り、肩こり、寝坊癖、疲労、むずむず脚など

例えば貧血治療経験のある45歳の有経女性が特にわけもなく気が滅入ってきたとします。更年期の始まりかななどと軽く済まさず鉄欠乏再発を疑ってください。なぜ鉄が不足するとメンタルが不安定になるかというと、やる気を高めるノルアドレナリン・ドーパミン、興奮と抑制のバランスを調整するセロトニンといった脳内神経伝達物質が、タンパク質を原料として造られる際に鉄が必要だからです。

貧血の治療で、最も大事なことは、原因疾患を治療することです。つまり胃潰瘍が原因なら、胃潰瘍の治療を、子宮筋腫が原因なら子宮筋腫の治療をします。それに並行して、貧血そのものの治療を行いますが、臨床上最も症例の多い血色素8-10g/dl程度の軽症の鉄欠乏性質血例でも組織鉄不足分と合わせ約1500mgの鉄不足があることになります。食事で1日に摂る鉄の量は10〜20mg程度で(レバー一食分50gで鉄6.5g)鉄の吸収率は10%程度なので、せいぜい1〜2mgしか取り込めません。だから、いったん鉄欠乏状態に陥ると食事だけの鉄分で充足させるのは難しいと考えなければなりません。(単純計算で、1kgのレバーを毎日2ヶ月間食べ続けなければなりません。)従って鉄欠乏性貧血の治療には食事療法を指導しつつ、鉄剤が投与することが必要です。経口鉄を投与する際に、鉄の吸収率を上げるために一定時間コーヒーや緑茶を禁じたり、ビタミンCを併用することが推奨されていますが、今日の鉄剤は殆ど徐放剤になっており、数時間程度の制限はさほどの意味が無いと思われます。鉄欠乏性貧血は、鉄剤の静注や輸血等の治療の適応となる症例を除けば、こまやかな配慮をして時間を争って治療する必要性もなく、就寝前服用で十分なのです。鉄欠乏性貧血の治療は、3〜6ヶ月にわたり、脱落なく確実な服薬が最も重要で、吸収効率を問題にし、わざわざ副作用を増す様な用法や日常生活上不便な制限を行なうのは本末転倒となりかねません。

◎鉄剤の副作用は?

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鉄が胃腸の粘膜を刺激するため、鉄剤を服用する患者さんの約10パーセントに、吐き気やむかつき、下痢などの副作用が出るケースがあります。本来、空腹時に飲む鉄剤を、胃の刺激を和らげるため食後や就寝前の服用に変えるたり、鉄剤の服用量を減らしてみましょう。

◎鉄剤服用中は、お茶を飲んではいけないの?

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この質問は患者さんからよく受けます。かつて、鉄剤と緑茶(お茶)を一緒に飲むのはもちろんのこと、鉄剤服用の30分から1時間前後は緑茶を飲むべきではないといわれていました。これは、緑茶やコーヒー、紅茶に含まれるタンニン酸と鉄とが結合して水に溶けにくい物質が生じ、鉄がうまく吸収されなくなると考えられていたからです。しかし、現在ではそのような問題はないといわれています。確かに、タンニン酸は鉄の吸収に影響を及ぼしますが、鉄剤に含まれる鉄の量は100mg。そのため、これだけ多くの鉄が含まれていれば、タンニン酸によって吸収が阻害される鉄の量はごくわずかで、あとの大部分はそのまま吸収されると考えられているのです。現に、ある調査で、鉄欠乏性貧血にかかっている女性に、水もしくは緑茶と一緒に鉄剤を飲んでもらったところ、どちらも貧血が治った割合が9割以上で、重い副作用も起きなかったことが確認されています。こうしたことからも、鉄剤とお茶を一緒に飲むことは問題がないといえます。

鉄剤の服用量は、1日に大体100〜200mgが一般的。2週間以上鉄剤を投与しても不応性の場合(まず血清鉄が上昇、7〜10日後に網状赤血球数の増加する)治療を中断し、診断を見直す必要がある。いろんな原因が考えられますが、実臨床の現場で一番多いのは、患者さんが薬を飲んでいない可能性を疑いましょう。鉄剤は、吐き気、便秘、下痢、便の色が気持ち悪いなど消化器症状の副作用の頻度が高く、必要とわかっていてもどうしても飲めない患者さんが一定数おられます。

 

 

サラセミア

そして、以外に多いのが「サラセミア」です。血算をよく見ると赤血球数が増加していることがあります。小球性低色素性貧血でよく間違われますが、型によってHbA2やHbFが異常値を示すことが確認できます。(確定診断は、遺伝子検査によるため一般病院では難しい)サラセミアの有病率は、1000人に1人なので、WPW症候群ぐらいなので、結構いますよね。漫然と鉄剤を処方して、医原性のヘモクロマトーシスを作らないように気をつけましょう。

症例2 15歳 男性

RBC 610万
Hb  11.8
Ht  38%
MCV 64.3
フェリチン 48

学校健診で軽度の貧血を指摘され,精査目的で来院。自覚症状はなし。MCV(平均赤血球容積)が64.3とかなり高度な小球性貧血です。フェリチンは48と正常値になります。小球性貧血でフェリチンが下がっていれば、鉄欠乏性貧血ですが、フェリチンが下がっていない小球性貧血で多いのはサラセミアです。子どもでは、サラセミアに鉄欠乏性貧血を合併している場合があります。サラセミアはしばしば「鉄剤に反応しない鉄欠乏性貧血」として発見されます。(サラセミアindex 64.3/6.1=10.5)

 

サラセミアは先天的な疾患です。ヘモグロビン(Hb)はα、βグロビン鎖2分子ずつからなる四量体(α2β2)ですが、α鎖をコードする遺伝子の異常によって発症するのがαサラセミア、 β鎖をコードする遺伝子の異常によって発症するのがβサラセミアで ある。βサラセミアでは遺伝的にβグロビンの産生に欠陥があり、Hbの形成が少なくなり、血球中のHbの量が減って小球性赤血球となります。αサラセミアでも同様です。異常ヘモグロビンはその遺伝子型によって、ほぼ正常な機能から重篤な機能障害までいくつかの表現型をとります。

我が国ではβサラセミアは1000人に1人、αサラセミアは2500人に1人程度でみられます。特に,東南アジアではこの頻度が高く(βサラセミア:地中海、中東、中央アジア、南アジア、東南アジア、中国南部。保因者は5% αサラセミア:東南アジア、アフリカ、インド。保因者は1.5%と推測される)

サラセミアの場合、通常MCV<75と小さい。(通常の鉄欠乏性貧血の場合、Hct<30になるまでにMCV<80となることはまれ)サラセミアでは,血球が小さい分を赤血球増多で補い、貧血は比較的軽度にとどまります。血球が小さく(低MCV)赤血球数が多い(高RBC)というサラセミアの特徴を利用してMentzer index:サラセミアindex(MCV(fl)/RBC(x1000000/μl)を計算するとサラセミアでは13以下、鉄欠乏性貧血では13以上を示すことが多いようです。

サラセミアの場合、鉄はむしろ過剰気味となる点が鉄欠乏性貧血との鑑別点である。鉄過剰になる理由は、貧血を補正しようとし て消化管からの吸収が亢進するからで、フェリチンがもっともよい指標です。αβのグロビンの産生量が極端に減ると溶血性貧血を呈します。溶血を呈さない程度の場合は,貧血はないかあっても軽度にとどまります。これを軽症型サラセミアと言っており、わが国でみられるサラセミアの多くがこのタイプです。標的赤血球がみられるが、鉄欠乏性貧血や閉塞性黄疸などでも出現する。

血色素異常の遺伝子検査は、保険適用がありませんし、一般の病院では検査できません。(福山臨床検査センター 一次検査 15000円、結果報告まで3週間 二次検査 プラス20000円、結果報告まで1か月)電気泳動法によるヘモグロビン分画検査ではβサラセミアの評価はある程度可能だが、αサラセミアマイナーの評価ができません。 (αサラセミアの評価は遺伝子検査)

治療は、輸血、鉄キレート剤、脾摘 ・造血幹細胞移植(唯一の根治療法)などがある。遺伝カウンセリング外来のある施設は限られている。サラセミアの予後は、サラセミアマイナーは健常者と同等です。サラセミア中間型は様々 、αサラセミアメジャーは周産期に死亡 、βサラセミアメジャーは、通常30歳までに心合併症で死亡するようです。

 

◎正球性貧血 81<MCV<100

正球性貧血の多くは出血性貧血と二次性貧血です。二次性貧血は、慢性疾患に伴う貧血(ACD:anemia of chronic disoeders)と腎性貧血ということになります。慢性疾患は悪性腫瘍、感染症、膠原病、肝疾患、腎疾患、内分泌疾患(甲状腺機能低下, 副腎機能不全, アンドロゲン欠乏, 下垂体機能低下, 副甲状腺機能亢進)低栄養、妊娠等いろいろな疾患があり、原因を調べるのも大変です。その他には、溶血性貧血や造血器疾患(MDSや白血病、再生不良性貧血など)も鑑別に挙がります。

 

慢性疾患に伴う貧血(ACD:anemia of chronic disease)

症例3 74歳 女性 甲状腺機能低下症(二次性貧血+鉄欠乏性貧血)

RBC 400万
Hb  10.8
Ht  34.2
MCV 85.5
Fe  12
フェリチン 64
Ret 1.8
TSH 104

下肢の浮腫を主訴に来院。81<MCV(平均赤血球容積)<100 正球性貧血です。胃がんや大腸癌などからの出血による鉄欠乏貧血があっても、慢性疾患があれば(悪性腫瘍、感染症、膠原病、肝疾患、腎疾患、内分泌疾患、低栄養、妊娠など)MCVやフェリチンがマスクされてしまいます。

慢性疾患(慢性感染症、炎症性疾患、悪性腫瘍など)に伴う貧血(ACD)は、慢性疾患が1〜2か月続くと貧血を発症、Hb7-11g/dl程度で貧血症状は出にくい。鉄欠乏性貧血に次いで多い貧血で、ややこしいことに鉄欠乏性貧血との鑑別が困難です。両者とも血清鉄が低下します。血清鉄が低いから鉄剤でも出しとこかと安易に考えてはいけません。ほとんどは、軽い貧血の症例が多いのですが、慢性炎症が長期に及んでいるとこは、Hb8前後まで低下することもあります。ひとつの鑑別点はフェリチン値です。フェリチンが低ければ(<15ng/ml)鉄欠乏性貧血の診断が有力になります。一方でフェリチン値が100を超えていると慢性疾患に伴う貧血ではないかと推測できます。フェリチン値が、15〜100ng/mlの時は、鉄欠乏性貧血か慢性疾患に伴う貧血か、またはその合併する場合も考えられます。病態的には、鉄代謝に関与する肝臓で産生されるヘプシジンというペプチドホルモンがあります。ヘプシジンは慢性炎症、感染症があれば、炎症によりIL-6が産生され、肝細胞でのヘプシジン産生が増加します。ヘプシジンの量が増えるフェロポーチンというゲートが閉じられて鉄の吸収やリサイクルが止まってしまうのですが、生体にとっては細菌感染などがあった時に鉄を細菌に渡さないためにの生態防御機構ですが、これが長期に続くと鉄が利用できなくなって貧血が進みます。また、ヘプシジンはマクロファージと肝細胞からの鉄放出を阻害したり、マクロファージ活性亢進により、赤血球破壊も促進されます。IL-1、TNF、IFNなどの炎症性サイトカインは、EPO産生を減少さ せ、EPOによる赤血球系前駆細胞の活性化も障害します。これらが慢性疾患における貧血の実態ということになります。つまり、ヘプシジンの量が増加していれば慢性疾患に伴う貧血であり、低下していれば鉄欠乏性貧血と判断できるのですが、残念ながらヘプシジンというペプチドホルモンが臨床検査では測れない現状では鑑別することは難しいわけです。現実的には、2週間ぐらい鉄剤を投与して反応をみるようにしています。(治療的診断)

 

腎性貧血

これもなかなか診断がはっきりしません。慢性腎不全があり、貧血もあります。これで腎性貧血?かどうかは難しい。

症例4 56歳 男性

RBC 244万
Hb  7.0
Ht  21.4
MCV 87.7
EPO 144mIU/ml

81<MCV(平均赤血球容積)<100 正球性貧血です。GFR<30なら、腎性貧血を疑います。Hb7.0ならEPOは、通常100mIU/ml 以上になります。

 

通常は、GFR<30になると腎性貧血である確率がぐっと増えるとされており腎性貧血の可能性は高いと思いますが、腎臓の間質障害が高度であれば、GFRがそれほど低下していなくても腎性貧血になっている場合もあります。エリスロポエチンを測れば解決?するかどうかはさておき、大まかに目安として、Hb10を切るような慢性腎不全患者さんで、エリスロポエチンが50以上になっていたら、腎性貧血を疑ってよいとされています。

エリスロポエチン(EPO)が赤血球造血を促すと赤芽球が刺激されてエリスロフェロンというシグナルが肝臓に伝わって、ヘプシジンが抑制されて鉄のゲートが開いて必要な鉄が骨髄に供給されて赤血球が作られます。ちなみにエリスロポエチンは、低酸素分圧をエリスロポエチンの遺伝子の発現に導くヒフによって制御されています。ヒフとは低酸素誘導性因子(hypoxia-inducible factor:HIF)という転写因子で、酸素が足りなくなる(貧血)と活性化してエリスロポエチンの遺伝子の発現を誘導して赤血球をたくさん作ろうとしますが、通常の場合(酸素分圧が正常で貧血がない)は、HIFはPHDという酵素によって水酸基が付加されて目印がつけられると分解されてしまいます。つまり、酸素分圧が正常で貧血がない状態では、HIFは存在せず、エリスロポエチンが活性化されることはありません。この水酸基の目印をつけるの過程に鉄が必要であり、鉄がなければ目印をつけられなくて、HIFが上がってきてエリスロポエチンを誘導して赤血球造血が促される。同時にHIFは、DMT1やDuodenum cytochrome b(Dcytb)など十二指腸から非ヘム鉄を吸収するための遺伝子の発現も増やすということで鉄の吸収も亢進します。つまり低酸素、貧血、赤血球造血、血清鉄のレベルは密接に関連しています。

貧血がない酸素が充分にあるとヒフ PHD状態細胞が反応するためのす。遺伝子の転写領域に結合してさまざまなタンパク質の合成を促しますが、その中の一つがエリスロポエチン(EPO)です。HIFは、酸素が足りなくなると、活性化してエリスロポエチンの遺伝子の発現を誘導貧血の主因はEPO産生の減少

 

銅欠乏性貧血

正〜大球性貧血、鉄芽球性貧血、好中球減少を呈し、銅とセルロプラスミンが低下します。長時間のTPNや経管栄養の患者さんに起こりやすい。胃切除、小腸切除の既往や腹膜透析も危険。亜鉛は銅の吸収を競合して阻害するため、慢性的な亜鉛過剰摂 取者などで銅が欠乏する。蛋白漏出性胃腸症、ネフローゼなどによる低蛋白血症でも起こる。運動失調、認知機能低下、痙性歩行、皮膚角化異常、低体温など が起こりうる。

 


「錆びたネジ」と「錆びた10円玉」蛸の血液は青い?

鉄はサビると赤くなります。つまり、酸素とくっつくと(酸化される=錆びる)赤くなるのです。ヘモグロビンには「鉄」が含まれており、この鉄が酸化することによって、血液は赤くなるのです。銅がサビると青くなります。タコや貝などの軟体動物、エビやカニなどの節足動物には、このヘモグロビンの代わりになるのが、「ヘモシアニン」です。ヘモシアニンは「銅」で酸素と結びつきます。つまりタコやイカ、カニなどは動物の血液は青色・・・ということになります。

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◎大球性貧血 MCV>101

大球性貧血はMCV>101の貧血を言いますが、大きく分けて、巨赤芽球を伴うものと伴わないものがあります。MCV>120ならまず巨赤芽球性貧血(VB12、葉酸欠乏)を疑います。101<MCV<120の大球性貧血は、いろいろな原因で起こります。アルコール性や肝疾患や甲状腺機能低下症、白血病、骨髄異形成症候群、抗腫瘍薬の投与、網状赤血球が増加する溶血性貧血や急性出血による貧血でも大球性になります

 

巨赤芽球性貧血

大球性の場合は、DNAの合成障害による貧血ということでした。巨赤芽球は骨髄中の大きな赤芽球のことですが、これは骨髄穿刺をしてみなければわからないのですが、臨床上では、MCV>120を超えるかなり大きな大球性貧血の場合は、ビタミンB12や葉酸の不足が原因のことが多いです。ビタミンB12や葉酸が欠乏すると、骨髄で赤血球の産生が上手くいかず、通常の赤血球よりずっと大きな巨赤芽球が出てきて、正常な赤血球ができず、貧血になります。=巨赤芽球性貧血とも呼ばれます。

症例5 79歳 男性

RBC 226万
Hb  9.1
Ht  28.9
MCV 127.8
抗内因子抗体 陽性
LDH 302

MCV(平均赤血球容積)>101 大球性貧血です。大球性貧血の原因としては、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、肝疾患や甲状腺機能低下症などがありますが、MCV>120とすごく大きい場合は、ほぼ、ビタミンB12欠乏による貧血です。この方は、胃切除の既往がないので、自己免疫性(高内因子抗体陽性)によるものです。LDHは、無効造血を反映して少し高くなります。ビタミンB12欠乏すると、ハンター舌炎といって、舌乳頭が萎縮し、表面がテカテカ、のっぺりして味覚障害あり(高齢者であまり自覚していない人も多い)食欲低下があり、体重減少が著明で、がんと間違われることもあります。胃切除後の場合は、鉄欠乏性貧血も合併すると、一見正球性貧血になることもあります。

ビタミンB12や葉酸が不足すると大きな赤血球ができます。ビタミンB12の欠乏は、悪性貧血(抗内因子抗体陽性)と胃切除後に起こります。葉酸の欠乏は、アルコール依存症、妊娠や授乳などで起こります。アルコール依存症患者の82〜96%でMCV100〜110の大赤血球症を認める。一般的には葉酸欠乏が原因になることが多く、葉酸の少ないワインやウイスキーの方がビールより貧血に罹患しやすい。また、DNAの合成障害する薬物としては、メソトレキセート、ST合剤、サラゾスルファピリジン • 6-MP、アシクロビル、5-FU、ジドブジン、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピンピル、PPIなどがあります。

 

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ビタミンB12は、胃壁がら分泌される内因子と結合して、回腸末端から吸収されます。胃切除した人( 切除後5年ほどの経過で発症します )や胃壁の細胞が萎縮してしまい内因子を生成できなくなり、ビタミンB12を吸収できずに貧血を起こします。胃切除後のビタミンB12の欠乏が原因で起こる貧血を悪性貧血と呼びます。ビタミンB12の欠乏は、中高年者に多く、記憶障害などの精神症状が現れます。胃切除菜食主義者(ビタミンB12は、動物性タンパクにしか含まれません)、抗内因子抗体による内因子欠乏などで起こります。葉酸やビタミンB12の欠乏症では、一般的には、MCV>120の大球性貧血を呈しますが、吸収不良や低栄養では、鉄分と葉酸、ビタミンB12の欠乏が重なり、正球性〜低球性の貧血になることもあります。

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網状赤血球

成熟した正染性赤芽球が脱核した直後の赤血球であり、細胞内にはRNAが含まれているギムザ染色またはライト染色標本では、この残存RNA量に比例した青みの強い多染性赤血球として観察される 循環血液中に入って24〜48時間でHb含量をさらに増加させ、網状構造を失い、成熟した赤血球となる。約1%(30000-80000/μl)が正常値。増加は、絶対数10万/μl以上で、 網状赤血球が増加しているということは、末梢での赤血球の破壊(溶血)が起こっているか、出血として対外に喪失(出血源の治療)しているかを疑って検索します。

 

出血性胃潰瘍

症例6 40歳 男性

RBC 389万
Hb  8.2
Ht  40.2
MCV 103.3
Fe  144
フェリチン 44
Ret  34

Hb(ヘモグロビン)が8.2で貧血を認めます。MCV(平均赤血球容積)は103.3と少し大球性ぎみです。ここでのポイントは、Ret(網赤血球)34です。(普通は1〜2%ぐらい、絶対数で>10万/μL)網状赤血球は成熟赤血球の前段階のものですから、これが増加しているということは、骨髄での赤血球造血は正常に行われていることが示唆されます。骨髄でものすごい勢いで赤血球を作っているのに、貧血だということは、どこかで赤血球が大量に壊されているか失われているかということで、急性の出血か溶血を考えます。昨日から黒色便が出ているということです。急性出血の場合は、超急性期は、ただ血液量が減るので、血圧低下、頻脈等が起こり、貧血は認めません。また、貧血も小球性にはなりません、網赤血球が増える分、大球性に傾きます。

 

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胃角部から血が噴水のように出ています。動脈性の出血です。昔は、出血性の胃潰瘍は、外科で緊急手術が行われていましたが、今では、内視鏡的な止血が可能となり、ほとんど手術に回ることはなくなりました。ちなみに、胃から出血した場合は、血液は胃酸で酸化され、真っ黒け(墨のような)になります。黒色便(tarry stool)と呼ばれます。大量に出血した場合は、赤い血が混ざることもあります。大腸から出血したばあいは、鮮紅色の真っ赤な血がでるので下血の色をみて、出血部位がある程度推測できます。

つまり、消化管出血による貧血は、小球性、正球性、大球性なんでもありなんですね。吐血、下血しているような急性期では、網赤血球が増えて大球性貧血になります。その後、経時的なMCVの低下し徐々に正球性貧血になって、慢性的な貧血では、網状赤血球の増加はなく、小球性貧血(鉄欠乏性貧血)になる。

 

溶血性貧血

症例7 72歳 男性

RBC 185万
Hb  6.2
Ht  20.2
MCV 109.2
Ret  20
T.Bil 4.2
D.Bil 0.2
LDH 422

黄疸を主訴に来院。MCV(平均赤血球容積)>100 軽度の大球性貧血(網赤血球が増えると、MCVは大きくなります)ですが、網赤血球の増加(Ret20 普通は1〜2%ぐらい、絶対数で>10万/μL)しています。網状赤血球は成熟赤血球の前段階のものですから、これが増加しているということは、骨髄での赤血球造血は正常に行われていることが示唆されます。骨髄でものすごい勢いで赤血球を作っているのに、貧血だということは、どこかで赤血球が大量に壊されているか失われているかということで、急性の出血か溶血を考えます。しかし、急性に出血しているような症状はありません。間接ビリルビン増加、LDH高値などで溶血を疑い、ハプトグロブリン低値(<10)が最も感度の高い検査です。溶血性貧血でクームステストが陽性であれば、AIHA(自己免疫性溶血性貧血)を考えます。(陰性なら遺伝性球状赤血球症や癌の骨髄転移に伴う微小血管病性溶血性貧血)

高齢者においては約8.5%、85歳以上では約20%に貧血が認められる。高齢者の貧血では、悪性腫瘍、感染症、膠原病など重篤な疾患が背景に存在することが多く、栄養障害による貧血が3割ぐらいあるとされています。薬剤起因性造血障害の可能性も考慮する必要がある。高齢者施設などでは、慢性貧血については、精査はせずに、経過観察という対応も十分にありえます。Hb 6g/dl以下が持続すると心不全症状を呈することが多くなるため、状況に応 じて輸血を考慮します。