虫垂炎の典型的な経過は、心窩部痛 → 悪心/嘔吐 → 右下腹部痛 → 発熱 → 白血球増加です。この最初の心窩部痛 → 悪心/嘔吐 の順番が大事です。Murphy(胆嚢炎の人?)が、1904年に2000例の急性虫垂炎を分析して報告しているようです。すごいですね。昔、赤穂中央病院の朝のカンファレンスで、腹痛で来院され、虫垂炎と診断し手術をしたら「アペンディチテス ノルマーリス」でしたとい入院報告を聞いて、指導医の先生が、ろくな問診や所見もとらずに手術したことについて「おまえは魚屋か?(さばくのはうまい)」と一喝されたことがありました。しかし、30〜45%の症例は、典型的な経過ではないことは留意しておく必要があります。
(蜂窩織炎性虫垂炎:appendicitis phlegmonosa)は腫大した虫垂は虫垂の形状をとどめ、層構造も保たれていることが多い。ガングレノーザ(壊疽性虫垂炎:appendicitis gangrenosa)は虫垂壁全層の炎症により出血・壊死部分を認め、層構造はみられなくなります。
疫学的には、0~20代の来院が多いが、発症する年代は高齢者まで幅広い。まつもと医療センター(長野県松本市)によると、同病院の虫垂炎の年代別症例数(1998~2013年)は10~39歳が半数以上を占めているが、高齢者の発症も珍しくありませんでした。
症状
「深夜に発症して腹痛で目を覚ます」のが典型例です。虫垂はリンパ節が豊富な組織です。虫垂に炎症が起こるとリンパ節がはれたり、糞石などで虫垂の閉塞が起こります。管腔臓器が閉塞するとそれを解除しようとして蠕動運動が亢進することにより内蔵神経(無髄性のC線維)が刺激を受け、まずは内臓痛として自律神経を介して感じる疼痛で、局在不明瞭で体の中央付近で範囲が広くて漠然とした痛みで鈍痛として感じます。膨満感、不快感として感じます。歩行や体動による悪化(増悪)はありません。
胎生期の腸管は、一本の頭尾側方向に走る原腸から発達します。この時点で既に両側の交感神経から支配を受けており、内臓痛、関連痛は発生学上、体の正中部に感じるようにできています。原腸は、それぞれ前腸(腹部食道から十二指腸Vater乳頭まで)は腹腔動脈、中腸(十二指腸Vater乳頭から横行結腸の脾弯曲まで)は上腸間膜動脈、後腸(横行結腸の脾弯曲から肛門まで)は下腸間膜動脈によって栄養されています。中腸は発生の過程で一旦臍帯内に出て、また腹腔内に戻って来ています。上腸間膜動脈を軸として反時計回りに270°回転します。原則、血管と神経は並走しています。
脊髄の両側に交感神経幹があります。Th5〜Th9から出てきた交感神経が合わさって大内臓神経ができます。Th10〜Th12が合わさって小内臓神経になります。L1〜L3が合わさって腰内臓神経ができます。大内臓神経は腹腔神経節に入ります。小内臓神経は、上腸間膜神経節、腰内臓神経は、下腸間膜神経節に入ります。
関連痛は、内臓から生じた疼痛がその本来の場所でなく、体壁の部位から生じているように感じられる痛みのことです。皮膚からの痛覚刺激として誤認識するために生じるため、内臓痛よりも限局した部位で感じる痛みみになります。脊髄の後根に入ってくる皮膚と内臓の知覚神経が相乗りして内臓の痛みを皮膚の痛みとして感じるのではないかという説が一般的です。虫垂の内臓知覚神経は、上腸間膜動脈神経叢に入るので、小内臓神経を通ってTh10に入るので、通常は臍周囲の痛みとして感じるのが教科書的ですが、上腸間膜動脈神経叢と腹腔動脈神経叢は、すぐ近くに存在しているのでお互いが連絡があるとすると腹腔神経節から大大内臓神経を通って、Th5〜Th9の心窩部痛として感じてもおかしくないのかもしれません。
診断 検査
虫垂炎は、初期には心窩部痛から始まってくるので、ファーストタッチでの診断は困難です。お臍の周りか心窩部痛で始まり、数時間で吐気、食欲低下が起こり、数時間で右の下腹部に痛みが移動します。そこで穿孔して炎症が壁側腹膜に及んでくると体性痛(神経鞘に覆われたAδ線維)が刺激され、痛みの局在が明瞭でかつ強い持続性の痛み(限局性の腹膜炎)になります。穿孔すると痛みが軽くなることもあるので注意が必要です。そして、熱が出てきて、WBCが上昇します。最初から熱が出ているのはおかしいし、痛みと同じ時期に吐き気や食欲低下があるのも虫垂炎としてはおかしいことになります。虫垂は右下腹部の盲腸の後面に位置し、先端は左上腹部を向いた状態にあるとされるが必ずしもこの位置にあるとは限らないのである。これは盲腸がどの程度回旋しているかで虫垂の位置は変化し、右側腹部や骨盤などに位置する可能性もある。急性虫垂炎にはマックバーニー点、ランツ点、キュンメル点、モンロー点という特徴的な圧痛点がある。虫垂炎は全年齢に見られ、その圧痛点は、指1本ぐらいの大きさで、数日でヘロヘロになって、食欲もありません。(憩室炎は、若い男性に多く、500円球ぐらいの丸い圧痛点、5日痛くても比較的元気、食欲もあります)
典型的な経過を辿る症例が多く認めますが、ただ、虫垂の内腔が閉塞しないで進行する場合や、虫垂の位置によって、その経過には多くのバリエーションがあります。
CTと照らし合わせると以下の通り(A-Hが1-8に対応)Type 7(盲腸後)では腹膜刺激兆候が出にくかったり、Type 3・4・5・7ではObturator sign、Type3・4・6ではPsoas signが出やすかったりするのですかね。
Alvarado score 10点満点で7点以上 感度81% 特異度74% 外科的介入が推奨
RL(右左)が2点と覚えると良いです。これが7点以上でかなり虫垂炎らしい、4点未満で虫垂炎らしくないとなります。このAlvarado scoreですが、残念ながらこれだけで虫垂炎の確定診断も除外もできないというのが実際のところです。感度・特異度が十分では無いのですが、もう少し考えてみます。例えば、痛みの移動があって嘔吐していて右下腹部に圧痛があるような場合点数としては3点になります。やはり最終的にはCTを取らなければ診断は確定できません。Alvarado scoreはあくまでも虫垂炎らしさを判断するための一つの情報にすぎないということです。
マックバニー 反対側を押さえて ロブジング 閉鎖筋兆候 骨盤の方に垂れ込んでいるとわからない 内閉鎖筋をし 腸腰筋兆候
ちなみに腸腰筋は股関節の屈曲に関与するので、Psoas signを取るのに左側臥位にして足を後ろに引っ張るのが面倒なら、力に逆らって足を挙上させて痛みが誘発できれば陽性です。 自然に膝を曲げて寝ているのも腸腰筋の緊張を解いていることになるので陽性みたいなもんですね。
Heel drop test 感度:93% バリエーションに対応できる簡易な検査です。
鑑別診断としては憩室炎とエルシニア腸炎(回盲部炎症型)
正常虫垂の短軸径は4~5mm 糞石 周囲脂肪織は高エコー
経過観察するときもただ「様子を見て下さい」ではなくて、「腹痛が強くなってきた」「熱がでてきた」「歩いたら響く」「血便あり」など具体的な症状を挙げて、こういった症状がでてきたら再診するように指示しましょう。実際の救急外来では腹痛で診断がつかない原因不明は20%ぐらいあります。
治療
虫垂炎の診断で手術を行ったが、正常虫垂であった割合をnegative appendectomy rate(NAR)と呼ばれています。問診や身体診察、血液検査のみでの診断ではNARは20%と報告されています。虫垂炎の正診率を上げるためには超音波検査や腹部CT検査が必須です。
Interval appendectomy 限局性膿瘍形成虫垂炎の緊急手術は回復創も大きくなり、術後の創部感染などの合併症の頻度も高くなります。最近では、まず抗菌薬による保存的治療を行い炎症が消退した3ヶ月後くらいに待機手術として虫垂切除をおこなうことがあります。