抗生剤の投与は長くても2週間以内というのが一般的な投与方法です。慢性副鼻腔炎に対してマクロライドという抗生物質を少量で、長期間(3~6か月)内服する治療方法があります。
この治療法は長期間抗生剤を内服しても重篤な副作用が少ないといわれております。マクロライドは主に気管支炎や肺炎等に効果のある抗生物質で、呼吸器科ではびまん性汎細気管支炎などにマクロライド少量長期投与療法が行われております。エリスロマイシン(EM14員環マクロライド)に比べて、ニューマクロライドといわれるクラリスロマイシン(CAM14員環マクロライド)の方が、効果があるといわれております。
慢性副鼻腔炎は主に細菌感染がきっかけで起こり、炎症産物により鼻粘膜が障害されて、粘液の分泌が亢進し、鼻汁の排泄の通路が妨げられたりします。マクロライドはこれらの炎症産物を減少させたり、鼻汁の分泌を抑制するのに有効です。少量のマクロライドは本来の抗菌作用を期待するのではなく、抗炎症作用、免疫系への作用、細菌のバイオフォルム形成や付着抑制作用などを期待して投与されます。マクロライド少量長期投与療法は滲出性中耳炎の治療に応用される場合もあります。しかし、鼻ポリープがある方や鼻中隔弯曲症などの骨格異常のある方、アレルギー性鼻炎を併発している方、気管支喘息などを合併している方に対しての有効性は低くなるといわれております。
小さいお子さんに対してもマクロライド少量長期投与療法は大人の方と同じぐらいの有効率があるといわれております。しかし、小さいお子さんはマクロライド投与期間中でも急性増悪を起こす場合が多く、完全な症状の消失を目標とすると投薬終了が難しくなってしまうことがあります。したがって、症状経過をみて、お薬の投与期間を判断させていただくことになります。急性増悪時には他の適切な抗生剤を使用することもあります。
お薬は、通常の内服量の半分の量を3か月から6か月間、毎日内服していただきます。小さいお子さんはできるだけお薬の内服期間を短くできるようにします。有効な場合は途中でマクロライドを一度打ち切り、症状がまた出てきたときに再びマクロライドを飲んでいただくことがあります。再投与してマクロライド少量長期投与療法は効果が期待できるといわれております。
慢性副鼻腔炎に対するマクロライド療法のガイドラインでは、成人は1日エリスロマイシン400~600mg、またはクラリスロマイシン200mg、またはロキシスロマイシン150mg、小児は1日エリスロマイシン10mg/kg、またはクラリスロマイシン5mg/kgを基準として症例により適宜増減する。3ヶ月投与で全く無効な症例は速やかに他の治療法に変更し、有効症例でも連続で3~6ヶ月で一度中止し、症状再燃時に再投与する。小児にはできるだけ投与期間を短縮し、2ヶ月で有効性を認めなければ中止する。
気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の適正使用のお願い 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会
2025 年 4 月 24 日
1.はじめに 気管支拡張症は、気道の不可逆的な拡張と慢性的な炎症を特徴とする疾患であり、慢性の
咳嗽、喀痰の貯留、頻回の急性増悪を主症状とする。近年の疫学調査により、本疾患の有病 率は増加傾向にあり 1,2)、高齢化の進行とともにさらなる患者数の増加が予測されている。 特に急性増悪の頻度は患者の予後に大きく影響を与えるため、その管理が重要な課題とな る。
マクロライド系抗菌薬は、本来は細菌感染症に対する抗菌薬として開発されたが、その後、 抗炎症作用や免疫調節作用を有することが明らかとなり、気管支拡張症を含む慢性気道疾 患の管理に応用されるようになった。過去のランダム化比較試験(RCT)およびメタアナリ シスの結果 3~7)から、少量長期投与が気管支拡張症の急性増悪頻度を低減することが示さ れており、一定の条件下での投与が推奨されている。しかしながら、長期使用に伴うマクロ ライド耐性菌の増加 5)や、副作用のリスク 3~5)が指摘されており、その適応については慎 重な検討が必要である。
2.マクロライドの作用機序と臨床的有効性
マクロライド系抗菌薬は、細菌のリボソーム 50S サブユニットに結合し、タンパク質合
成を阻害することで抗菌作用を発揮する。これに加え、抗炎症作用として好中球の遊走抑制、 サイトカイン産生抑制、粘液分泌調整などが報告されている 6,8)。さらに、気道上皮細胞に 対する免疫調節作用を通じて、慢性炎症の進行を抑制する可能性が指摘されている 9)。
臨床的には、複数の研究結果がマクロライド長期投与の有効性を示し、海外からガイドラ インが発出されている 10~12)。最近のシステマティック・レビューに依れば、マクロライド 系抗菌薬の投与は増悪の頻度の減少、初回増悪までの期間の延長が期待できる 13)。エリス ロマイシンに特化すると、エリスロマイシンを 12 か月間投与した群において、プラセボ群 と比較して急性増悪の発生率が有意に低下したこと、また、特に Pseudomonas aeruginosa 感染例において急性増悪に対して低減効果が高いとされることが報告されている 5)。
3.適正使用のための推奨事項 気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の適正使用を考える上で、現時点では適応
外使用であることを熟慮した適応の明確化が重要である 10)。現在のエビデンスに基づくと、 急性増悪を認めた既往のある患者に対して、他の治療法(気道クリアランス療法、理学療法 など)で十分な管理が困難な場合に適応を考慮すべきである。また、投与期間については、 6 か月以上の継続が有効と示されている論文 12)もあるが、不必要な長期使用を避けるため、
定期的な評価を行いながら治療の継続を判断することが求められる 9)。 一方で、マクロライド耐性菌の出現を防ぐため、不適切な投与は厳に慎む必要がある。特 に、Pseudomonas aeruginosa 感染例や明確な適応のない症例において他療法の検討が望ま しい。さらに、副作用として消化器症状、肝機能障害、QT 延長による心血管リスク、聴覚 障害などが報告されており 13-15)、これらのモニタリングも適正使用の観点から不可欠であ
る。 また、本邦では非結核性抗酸菌症患者数が増加し、診断未確定の患者が気管支拡張症ある
いは慢性下気道疾患患者に潜在している可能性が高い。欧米のガイドラインではアジスロ マイシンの投与について記載されているが、精査を十分に行わず、安易にクラリスロマイシ ン、アジスロマイシンをエリスロマイシン・エリスロシンの代替薬剤として用いる事は、 患者の予後を悪化させる可能性がある。
4.エリスロマイシン、エリスロシン供給状況 現在、エリスロマイシンおよびエリスロシンの供給に関し、一部の医療機関において
処方が困難となる事例が報告されている。本学会では、この状況を踏まえ、製薬企業への調 査を実施した。
A 社は電話での聞き取りであるが、昨年比 120%程度の流通量に回復しているものの、1 月は 12 月の出荷増加の反動で出荷量が減少。公式には「出荷調整中」として報告している ことが説明された。
B 社は対面で以下を聴取した。2022 年の減産以降増産は行っていないが一定の生産量を 維持している。しかし、現状は出荷調整を実施している。なお、原薬はブルガリアで生産さ れており、今後の供給が不安定であり、他の感染症関連学会とともに打開策を検討中である。
いずれの製薬会社も在庫は保持せず、生産と販売を同期させている。この結果から、エリ スロマイシンおよびエリスロシンの供給量は今後増加する見込みは少なく、むしろ減産 の方向に動く可能性もある。
5.学会としての今後推進すべき対応方針
1. 適正使用の啓発 気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬長期投与の適応を明確にし、適正な投 与が行われるよう啓発を行う。
2. AMR(抗菌薬耐性)対策の推進 不適切な抗菌薬投与を防ぎマクロライド系抗菌薬の消費量を減らすため、日本呼吸 器学会感染症・結核学術部会を中心に、他の感染症関連学会と協調し、手引きの見 直しを行う。
3. 供給安定化に向けた関係機関との連携 行政および製薬企業と連携し、安定供給に向けた働きかけを強化する。
6.おわりに
マクロライド系抗菌薬の少量長期投与は、気管支拡張症の急性増悪抑制に有効な治療法 であり、特定の患者群においては予後改善が期待される。しかし、その使用は慎重に適応 を判断し、耐性菌リスクや副作用管理を考慮した適正使用が求められる。今後、さらなる 研究による長期的な安全性評価や、新たな治療選択肢の確立が期待される。
注)本学会としては、引き続き最新の情報を収集し、会員の皆様へ適宜ご報告してまいりま す。何かご不明な点がございましたら、事務局までお問い合わせください。

