耳鳴り

耳鳴りのメカニズムはまだ完全にわかっているわけではありませんが、難聴と耳鳴りには非常に深い関係が あって、聞こえの悪い方の約7割に耳 鳴りが伴うとされています。 蝸牛からの聴力の信号が中枢に伝わる。 それがかなり小さくなる、あるいは途絶すると、中枢聴覚部の抑制系の活動がかえって低下して、それによって中枢の神経に過剰な興奮が生じるといわれています。これが耳鳴りのメカニズムです。つまり、耳鳴りは耳ではなくて、むしろ脳に起源があると考えられています。難聴あるいは環境的な因子で、外から音が十分に入ってきていないような状態では「聴こえの 脳」が過敏になってしまい、その結果、 音が入らない部分を逆に耳鳴りとして感じてしまうとされています。耳鳴りは、患者さん自身にしかわからない音の感覚で、患者さんの 訴えも非常に千差万別になります。患者さんは、ジーッ、キーン、あるいはセミの鳴くような音とか、いろいろな表現をされます。患者さんにとって耳鳴りは非常に辛い症状になります。患者さんは 自分の耳鳴りがどういう原 因で生じているのか、これからこの耳鳴りはどのようになっていくのかがわからないのがとても不安でさらにそれが苦痛になってしまう状態になっています。「耳鳴りは治りませんよ」などと安易に言ってしまうと、患者さんは絶望感を持ってさらに悪化したり、ドクターショッピング(医療機関を渡り歩く)することになってしまいます。 耳鳴りについてしっかりと説明 をして、患者さんに正しく理解してもらうことだけで耳鳴りが改善することも少なくありません。こいういったカウンセリングが耳鳴りに有効であることが示されています。

薬物療法については、耳 鳴りそのものを消失させるというエビ デンスはありません。内耳の機能の改善を期待して、ビタミン剤とか血流改善薬を投与したりすることは あります。 また、メンタル系の薬として、抗不安薬とか抗うつ薬が耳鳴り による苦痛を改善させる可能性はある と思います。耳鼻科の治療としては、音響療法が行われています。これは耳鳴りを消失させるのが目的ではなくて、耳鳴りに対する順応が起きることで耳鳴りに対する苦痛を軽減させる治療法になります。聴覚には、その感度を環境信号のレベルに応じて 調整する機能があります。例えば、聴力検査をするような防音室に入ると、 健康な方でも耳鳴り、キーンというよ うな耳鳴りを感じるのです。 これは聞こえの感度が極度に増幅さ れた状態になったからです。耳鳴りを軽減させる基本は静寂を避けることだと思います。外から音が入っていない分だけ敏感になるというスタンスからすると、逆にいえば、単純に音を入れてあげればいいわけで、例えば好きな音楽を聴いて、静寂を避けることにしてもよいと思います。この際の音は耳鳴りを消すよう な大きさである必要はなくて、本当に小さな音でいいのです。それだけで十分に効果がある場合もあります。現実的には外から 音が入ることで注意が耳鳴りのほうに向かなくなるというのが大きな要素かと思います。

もうちょっ としっかりとしたものであれば、耳鳴り治療器というものが出ています。耳 にかけて音を入れっぱなしにするとい う器械です。ただ、難聴がある方の場合には、補聴器の使用を開始し、しっかりと調整したうえで常用していただく。長い期間ずっとつけっぱなしにしていただく。これによってかなり耳鳴りに対する苦 痛度は和らぐといわれていて、報告に もよりますけれども、8割ぐらいの方に効果があるといわれています。補聴器というのは、なかなか 個々人の方に勧めても、ギブアップし てしまう方が多いようです。これは患者さんは、長い期間ある難 聴ですと、音が入ってこないことに「聴こえの脳」が慣れているので、そうするとちょっとした音でも響きます。補聴器を出すときによく言う ことは、これはリハビリなのだと。ち ょっとうるさいと思うかもしれないけ れども、「聴こえの脳」が忘れてしま っている音だから、それを取り戻すた めに、ちょっとたいへんだけれども、 しばらくの間はつけっぱなしにしてく ださいとご説明します。 面白いもので補聴器が合ってくると、 耳鳴りの話を患者さんがいつの間にか しなくなります。1週間、2週 間で、何となく煩わしいからといって 諦めずに、半年ぐらい使い続けていただくということです。

逆に、騒音もよくありません。大きな 音を連続的に聴いていると、内耳に大 きなダメージが加わります。そうすると、それをきっかけにして耳鳴りが生 じることは十分に考えられます。