コントロール不良な甲状腺機能中毒症では, 感染,手術,ストレスを誘因として高熱,循環 不全,ショック,意識障害、下痢・黄疸など多臓器におけ る非代償性状態を来たし,生命 の危険(致死率 10%以上)を伴う場合があります。このような生命を脅かすような甲状腺中毒状態 は甲状腺クリーゼと呼ばれています。甲状腺機能検査では通常の甲状腺中毒症と 区別できず、甲状腺ホルモンレベルが著明に高くな い場合でも発症する。

我が国において,年間約150件発生してい る。甲 状 腺 基 礎 疾 患 と し て は B a s e d o w 病 が 最も多いが,機能性甲状腺腫瘍や破壊性甲状腺 中毒症に伴って発症した報告もある.抗甲状腺薬の不規則な服薬や中断症例が非常に多く,未 治療例が約20%を占める。誘因としては感染が 最も多く,特に上気道炎・肺炎が多数を占める。 致死率は 10%を超え,死因は多臓器不全,心不 全,腎不全,呼吸不全,不整脈の順に多い.

甲状腺クリーゼをどういった時に疑うかですが、まずは、甲状腺疾患の既往があるもしくは甲状腺腫がある人が、意識変容があって、頻脈(>130回/分)がある、消化器症状や黄疸を伴った場合に疑います。

臨床症状

全身性症候は,高体温,高度の頻脈や多汗,ショックなどである。臓器症候として,意識障害を中心とし た中枢神経症状,下痢・嘔吐・黄疸などの消化 器症状,心不全を中心とした循環器症状がある。臓器症状では 中枢神経症状の合併が最も多い。

診断基準

2)重症度判定

全国疫学調査の結果,致死率10%以上であっ た2).死因は,多臓器不全,心不全,腎不全, 呼吸不全,不整脈の順に多かった.また,後遺 症として,不可逆的な神経学的障害(低酸素性 脳症,廃用性萎縮,脳血管障害,精神症)が少 なからず認められた.予後規定因子として ショック,DIC(disseminated intravascular coag- ulation),多臓器不全が挙げられ,治療前の入院 病棟の重症度に応じて予後不良であった.例え ば,一般病棟とICU(intensive care unit)を比較 すると,ICUのオッズ比は 5.57(P=0.0003)で

 

 

4.治療

甲状腺中毒クリーゼは救急疾患であり,放置すれば致死的である。甲状腺クリー ゼの可能性があるときは,疑診の段階でも治療 を始めることが肝要である。Basedow病による甲状腺クリーゼの場合,以下の4本柱で治療を行います。

1)甲状腺ホルモン産生・分泌の減弱
2)甲状腺ホルモン作用の減弱
3)全身管理
4)誘因除去

抗甲状腺薬投与は大量に行う(例:メチマゾール 3~4 錠(15~20 mg)またはPTU(プロピルチ オウラシル)4~5 錠(200~250 mg)を 6 時間 ご と に 投与する。抗甲状腺薬投与とともに,無機ヨードを投与 する(例:ルゴール 6 滴またはヨー化カリウム 50 mgを 6 時間ごとに投与)なお,PTU,副腎 皮質ホルモン,βブロッカーにはT4 からT3 への 変換抑制作用がある. 全身管理としては,一般的緊急処置,十分な 輸液と電解質補正,徹底した身体の冷却と解熱 薬投与を行う.解熱薬としては,遊離型甲状腺 ホルモンの上昇を来たす可能性のあるNSAID

(non-steroidal anti-inflammatory drug)より,そ の作用が少ないアセトアミノフェン(例:アン ヒバ座薬[1回500 mg,1日1,500 mg],カロ ナール,ピリナジン)の使用が勧められる.頻 脈に対してはβブロッカーで心拍数をコント

 

 

ロールするが,心不全を伴う場合は,厳格な心 血行動態モニターとそれに応じた治療を行う. できるだけβ1 選択性かつ短時間作用型遮断薬 を用いる.βブロッカーの過剰投与には注意が 必要である.循環器症状による死因が最多であ ることを鑑み,重症例では専門家による集学的 治療を図ることが重要である.最重症例には人 工心肺も考慮する.ストレス下および相対的副 腎不全の状態にあると考えられるので,副腎皮 質ステロイドを投与する.中枢神経症状(せん 妄,痙攣など)があるときは鎮静薬や抗痙攣薬 を使用する.黄疸を伴う重症肝不全や心不全を 含む多臓器不全では血漿交換(+[高流量]血液 濾過透析)も考慮する.具体的な適応基準とし て,日本アフェレシス学会の重症急性肝不全に 対するアフェレシス療法9)が提唱されている. 甲状腺クリーゼの誘因で対応可能な場合は適 切な処置を施す.例えば,感染による場合は抗 生物質の投与などを行う.