周術期における抗血栓薬休薬の目安![]()
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抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン
患者さんが内視鏡検査や手術をする前に抗血小板薬あるいは抗凝固薬をどうするか。この問題は、僕ら循環器の立場から心筋梗塞の予防のことしか考えていないと、吐血して消化器内科の先生にご迷惑をおかけしたことを知らないということもあるということです。実際に消化器内視鏡学会、神経学会、脳卒中学会、循環器学会の各学会でガイドラインが違うことは、患者さんにとっても不利益なことでもあります。2012年に日本消化器内視鏡学会だけでなく日本循環器学会や日本神経学会などの専門医の先生が各学会の立場を踏まえて6学会が合同で統一した新たな基準が出された。
新しいガイドラインでは、内視鏡処置の内容を出血リスクによって「観察」「生検」「出血低危険度」「出血高危険度」の4段階に分類。処置ごとの抗血栓薬の休薬の必要性や、再開時期などを12項目の文章でまとめ、それぞれの推奨度を示した。ガイドラインのポイントは、服用する抗血栓薬が1剤の場合、生検や出血低危険度の処置(バルーン内視鏡、消化管ステント留置など)は抗血栓薬を休薬せずに施行してもよいとしたことだ。

表1 新しいガイドラインにおける抗血小板薬、抗凝固薬の休薬の判断(1剤投与の場合)
抗血栓薬を2剤以上併用している場合の出血高危険度の処置は、「休薬可能となるまで内視鏡の延期が好ましい」としたものの、延期が困難な場合は抗血栓薬のうち少なくとも1剤を継続して施行することとした
血栓塞栓症のリスクを重視
内視鏡下生検などでは、後出血により緊急内視鏡が必要になるケースがあり、従来は抗血栓薬を休薬するのが基本だった。しかし、アスピリンの中止により心血管イベントや脳梗塞が約3倍に増えたという報告や、ワルファリンの休薬により約1%に血栓塞栓症が生じたとの報告もあり、抗血栓薬服用者が増えるにつれて休薬のリスクが問題視されるようになってきた。患者さんの重篤度という面で見ますと、出血のリスクよりも血栓塞栓症のリスクのほうが患者さんにとって重要だという背景があります。 出血よりも血栓塞栓症を防ぐという意味では、 休薬の必要性は以前よりも少し小さく 評価して、血栓イベントを抑えることを大きく評価するようになってきた背景があるようです。そこで新しいガイドラインでは血栓塞栓症のリスクを重視し、抗血栓薬を継続したままできる処置を増やした。また、アテローム血栓性のバックグ ラウンドを持つ患者さんが増えてきたこともあるかもしれません。具体的には、 内視鏡検査も以前よりも止血手技の技術が高まった(アルコール止血やクリップなども含め可視的に止血)ということもあり、今回のガイドラインでは生検までは、基本的には休薬しないで施行することが可能という大きな流れだと思います。近年は歯科でも、適切な止血処置によって出血リスクを抑え、血栓塞栓症リスクに配慮する方針を明確にしている。
ワーファリンに関しては、PT-INRが3.0未満であれば生検は可能といわれています。一方、3.0以上であれば出血のリスクが高いので禁忌になっています。またポリペクトミーやEMRが必要であれば、入院のうえ、ヘパリン置換して施行することになります。考え方としましては、休薬の期間をできるだけ短くするのが重要なので、ヘパリンに置換してすぐにリバースできる状況で手術をして止血をしっかり確認した上でできるだけ早く薬を再開するようにします。
抜歯時も抗血栓薬は継続
ワルファリン、抗血小板薬ともに、継続したまま抜歯を行うと答えた歯科医師の割合が増えている。従来は抗血栓薬を休薬していた抜歯も、最近は抗血栓薬を継続したまま行うようになっている。国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管内科長の矢坂正弘氏が行った国立病院機構の歯科医師への調査では、ワルファリンや抗血小板薬を継続したまま抜歯すると答えた割合は2009年には70%を超えた(図A)。「抗血栓薬を継続して抜歯できるという認識が浸透してきた」と矢坂氏は話す。10年には日本有病者歯科医療学会などが「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」を公表。PT-INRが3以下ならワルファリンを継続しても重篤な出血性合併症なく抜歯できることや、ワルファリンと抗血小板薬を併用していても両薬剤を継続したまま抜歯できるといった内容が盛り込まれた。「適切な止血処置が可能であれば基本的に抗血栓薬は継続するという考え方が、今後広がっていくだろう」と矢坂氏は話している。