副甲状腺は、甲状腺の裏側にある小さな米粒大のホルモンを出す臓器です。通常は、左右に上下2つずつ合計4つあります。そこから、副甲状腺ホルモン(Parathyroid hormone、略してPTH)というホルモンを出します。PTHは、体の中のカルシウムのバランスを整えるホルモンです。
原発性副甲状腺機能亢進症とは、何らかの原因により副甲状腺が腫大してPTHが過剰に分泌されることにより、必要以上にそのホルモンの作用が出てしまうので、血液中のカルシウムは増加します。また、副甲状腺そのものに病気の原因があることから「原発性」副甲状腺機能亢進症と言います。PTHは、血液中のカルシウムを調節する最も大切なホルモンで、ほかの原因で低カルシウム血症になった場合には、それを是正しようとするためにPTHの分泌が高まります。この場合は、副甲状腺以外に病気の根源があり、二次的にPTHの量が増えた病態であり上記の原発性とは区別しています。
原発性副甲状腺機能亢進症の原因には、副甲状腺の腺腫、過形成、がんがあります。このうち8割以上は良性の腺腫で、この場合は4つある副甲状腺のうちひとつが腫大します。過形成は4つの副甲状腺のすべてが異常になるもので、多発性内分泌腺腫症(英語名multiple endocrine neoplasia :MEN)という遺伝的な病気に合併して起こることがほとんどです。MENは、原因となる遺伝子異常が分かっています。副甲状腺以外に、内分泌腺の腫瘍が見られた場合には、MENの遺伝子検査をすることを勧めます。がんの場合には副甲状腺が大きく腫大し、高カルシウム血症も高度であることが多く、予後は不良です。
原発性副甲状腺機能亢進症の症状は、高カルシウム血症によるものが中心になります。従って、多くの場合は、あまりはっきりした症状はみられません。最近は、健康診断などで血中カルシウム濃度を測定する機会が増えたため、偶然、高カルシウム血症を発見されて診断に至る例が増えています。初期症状としては、倦怠感、食欲不振、吐き気などの消化器症状がみられますが、カルシウム濃度の上昇が軽度の時にはほとんど自覚症状が無いことが多いです。しかし、高カルシウム血症の程度が進むと、多尿、口の渇きが出現し脱水になり、腎臓の機能も低下します。さらに、急速に病気が進行して高度のカルシウム血症(15mgdl以上)を来すと、意識障害などを伴った生命に関わる状態(高カルシウムクリーゼ)になり、緊急を要することもあります。
症状に乏しい場合でも、原発性副甲状腺機能亢進症が長い間続くと、PTHは高カルシウム血症を招くだけでなく、骨からカルシウムを奪い骨の破壊が進みます。その結果、骨密度が低下し骨粗鬆症となり、骨折する危険性が高くなります。また、骨から放出されたカルシウムは腎臓に沈着するために尿路結石や腎障害を生じることが珍しくありません。実際に、腎結石としてこの病気が発見されることも多いです。
血液検査で、高カルシウム血症と血中PTH濃度の高値があれば診断できます。次に、副甲状腺の腫れとか、腫瘍があるかどうかの検査を行います。まずは、簡単で検査侵襲が少なく、有益な情報が得られる頚部の超音波検査を行います。さらに、CTやシンチグラムなどの画像検査でも確認します。シンチグラムでは、ホルモンを過剰に作っている場所に強い集積がみられます。腫瘍が小さすぎて超音波検査などで見つからない場合や腫瘍は見られているが、それがPTHを作っている腫瘍かどうか知りたい場合に役立ちます。また、副甲状腺以外の場所にある腫瘍を探すには、シンチグラムが有効です。しかし、腫大が軽度の場合には見つからないこともあります。
原発性副甲状腺機能亢進症での治療の原則は、腫大した副甲状腺を摘除する手術です。腺腫の場合には、通常ひとつの腺だけの異常なのでこれを摘出します。最近では、以前に比べてより体への負担が少なく、傷跡が目立たない新しい手術方法が行われるようになりつつあります。過形成の場合には、4腺すべてが腫れているので、3腺+1腺の一部または4腺切除+1腺の前腕筋肉内へ自家移植します。高カルシウム血症が軽度で何らかの理由で手術を行わない場合には、カルシウム値、腎臓、骨の状態などの経過を注意深く追いながら、それぞれの症状に対する治療を行っていくという形になります。
副甲状腺
「副」甲状腺という名前がついていますが、甲状腺とはまったく関係ない臓器で「上皮小体」とも呼ばれています。副甲状腺は、通常、甲状腺の左右両葉の裏面の上下に2対、合計4個(3つ、5つ以上ある人も稀ではありません)ある米粒の半分くらいの大きさの副甲状腺ホルモン(Parathyroid hormone、略してPTH)というホルモンを出す臓器です。副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を一定の範囲内に調節しています。健康な人では、血液中のカルシウムが減ると、副甲状腺ホルモンが増加します。そうすると、骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶かし出されてカルシウムが正常な濃度にもどります。カルシウムの貯蔵場所は骨ですが、副甲状腺ホルモンはビタミンDと共に、カルシウムを骨から血液中に送り出したり、腎臓や腸から吸収したりして、血液中のカルシウム濃度を上昇させる働きをします。カルシウムは骨の材料であるだけでなく、心臓も含め全身の筋肉を収縮させたり、血液を固まらせたりするのにも欠かせません。
副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能亢進症は約4000~5000人に1人の割合(そのなかで副甲状腺がんの割合は約5%と稀)であり、このがんと遭遇することはまれと言えます。
副甲状腺機能亢進症は、腎不全など副甲状腺以外の原因で起こることがあります。そこで副甲状腺そのものに原因がある人を「原発性」副甲状腺機能亢進症、その他を「二次性(続発性)」副甲状腺機能亢進症とよび、区別していいます。
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺にできた腺腫やがん等の腫瘍や過形成などが、副甲状腺ホルモンを過剰に分泌し、血液中のカルシウム濃度を必要以上に高くするために、さまざまな症状を引き起こす病気です。
症状は、以下の3つです。
(1)骨病変(骨がもろくなって骨折しやすい)
(2)尿路結石(腎結石)
(3)高カルシウム血症(のどが乾く、胸焼け、吐き気、食欲低下、便秘などの消化器症状、精神的にイライラする、疲れやすい、筋力低下など)
最近では、典型的な症状はなく、検診などで高カルシウム血症が偶然発見される機会も多くなりました。この病気では、血液中のカルシウム濃度がわずかに高いだけで、しかもその期間が短い時はほとんどの場合で何も症状がないことが多いのですが、カルシウム濃度が非常に高い場合は、上記の症状が強くなります。
また副甲状腺がんの場合は、非常に高いカルシウム濃度になることが多く、とくに上記の3つの症状を起こしやすくなっています。
検査
長い間診断がつかない人もいます。血液中のカルシウム濃度と副甲状腺ホルモンを測る検査を受けられるため、この病気を見つけることができるようになっています。
■病気を診断するための検査:血液検査/尿検査
血清カルシウム濃度(Ca)の上昇、副甲状腺ホルモン値(i-PTH、whole PTHなど)の上昇
■副甲状腺の腫瘍がどこにあるか探す検査
(超音波検査(エコー)、副甲状腺シンチグラフィ(MIBIシンチ)、頚部CT検査など)
副甲状腺がんについては、治療前に診断をつけることが難しい病気です。
治療
検査の結果、高カルシウム血症と、高副甲状腺ホルモン血症があり、副甲状腺腫大の部位がはっきり診断できれば、治療の対象となります。治療法としては、超音波ガイド下エタノール注入療法、内科的治療がありますが、根本的な治療法は、手術による副甲状腺病変の摘出です。
手術方法 (術式)
腺腫 腫大した副甲状腺を摘出
過形成 副甲状腺全摘後、一部を自家移植
がん 甲状腺の一部、リンパ節も含めて切除
日常生活
血液中のカルシウム濃度が極端に高く、症状が強い人は早急な入院が必要です。また、骨がもろくなっているような場合は安静が必要です。
血液中のカルシウム濃度がわずかに高いだけで、はっきりした症状がない人は、それほど治療を急ぐ必要はありません。仕事もいままで通りに続けられてかまいません。 食事は普通の食事で結構です。とくに指示がない限りは、牛乳や小魚などカルシウムを多く含む食べ物を制限する必要もありません。
副甲状腺機能亢進症とは、血液中のカルシウムが正常またはそれ以上あるのに、副甲状腺ホルモンが必要以上につくられる病気です。そのために、骨の中のカルシウムが減少して骨そしょう症(骨がやせてもろくなり骨折しやすくなる病気)になったり、腎結石(腎臓や尿管に結石が生じる病気)、消化性かいよう(胃・十二指腸などにできる)、膵炎などを引き起こすことがあります。
この病気が閉経後の女性に多いことより、50歳以上の女性に限ると1000人に1人くらいの頻度と推定します。尿路結石患者での頻度は5%前後と報告されています。当院での経験より、副甲状腺機能亢進症は決して稀な疾患ではなく、今後高齢化と共にますます増加すると考えています。
副甲状腺機能亢進症の症状
以前は、腎結石、骨そしょう症、消化性かいよう、膵炎などから診断されることが大半でした。最近では、血清カルシウムのスクリーニング検査が普及し、はっきりとした症状のない方もたくさん見つかってきています。食欲がない、いらいらする、身体がだるい、集中力がない、頭痛がするなどの症状が治療後に改善することがあります。このような場合は、病気のためにこれらの症状があったと判断されます。
副甲状腺機能亢進症と骨そしょう症
骨そしょう症の診断と治療において注意しなければならないことがあります。骨密度の測定器械が普及、一般の方の骨そしょう症という病気に対する関心が高くなったことより、骨そしょう症の診断で治療を受ける患者さんが増えています。骨そしょう症の診断と治療において、原発性骨そしょう症(原因が特定できない骨そしょう症)と2次性骨そしょう症(何らかの原因があって骨そしょう症をきたしている)とを鑑別しなければなりません。
副甲状腺機能亢進症で2次性骨そしょう症を生じますが、これを見逃すと“ビタミンDやカルシウム”の内服治療を受け、ますます血液中のカルシウムが高くなり、場合によっては命の危険まで生じることがあります。当院に“首のはれ”を訴えてきた患者の中には、甲状腺の病気だけでなく副甲状腺機能亢進症がありながら、近くの先生から“骨が弱っているから薬を飲みなさい”と間違った治療を受けていた方は少なくありません。骨そしょう症学会では、“このようなことがないように原発性骨そしょう症の診断には血清のカルシウムを測定しなければなりませんよ”と啓蒙しています
診断
血液中のカルシウムの濃度と副甲状腺ホルモンが両方高く、尿中カルシウム排泄量の高い場合、副甲状腺機能亢進症と診断されます。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(遺伝性の病気で尿にカルシウムを排出しにくいので、血液中のカルシウムが高くなる病気で、手術は必要なく経過観察だけでよい病気)の方も同じような検査結果のことがありますが、尿中のカルシウム排泄量を測定しますので識別できます。
副甲状腺機能亢進症の原因
副甲状腺の1つだけ(まれに2つ)が腫れて、どんどんホルモンをつくる腺腫が大半(約80-90%)で、4つの副甲状腺が必要以上にホルモンをつくる過形成は約10-15%です。癌は100人に1人か2人と稀です。
治療について 現在のところ外科的切除が唯一の治療法です。はっきりとした症状のある方はもちろんですが、理由は、この病気は悪性腫瘍(癌など)や心臓・脳血管の障害で寿命が約10年くらい短くなること、手術後に身体の調子が良くなるのに気づく方が多いことなどからです。
病的の副甲状腺はどこにあるのか?
超音波とシンチ検査で、9割程度病的な副甲状腺の位置がわかります。 超音波を見ながら内頚静脈(頸の深い部分にある太い静脈)の左右から採血し、副甲状腺ホルモンを測定することにより、ある程度の部位と腺腫か過形成の判断の材料としています。腺腫と過形成とでは手術の方法が違うので非常に大事なことです(手術方法を参照)。 過形成をきたす遺伝性疾患として多発性内分泌腫症(Multiple endocrine neoplasia,以後 MENと略)があります。
手術方法
腺腫では、1つあるいは2つの腫れた副甲状腺だけを摘出(取り除くこと)します。過形成ではすべての副甲状腺を探し出し(先にも述べたが、副甲状腺は5つ以上あることもある)、一番正常に近いと考えられる副甲状腺の一部を残して他の副甲状腺をすべて摘出します。症例によってはすべての副甲状腺を摘出して、一部を前腕などに移植します。癌では周囲組織を含めて広範囲に取り除く必要があります。術前に癌の確定診断がつくことはほとんどありませんし、迅速病理検査(手術中に行う組織の顕微鏡検査)で悪性かどうかの判断は非常に困難ですので、手術中の医師の判断が非常に重要です。
術前の検査で病的な副甲状腺はどこにあるのかわからない場合は
術前の部位診断がついていなくても手術をすすめています。理由は、はやい時期に手術で病気を治すことが大事と考えること(前述)、ほとんどの症例で手術時に探し出すことが可能なこと、手術の合併症もほとんどなく手術による患者の身体的負担は少ないことなどの理由によります。
手術後の再発はあるのか?
結論から述べますと、この病気のすべての患者さんを初回の手術で完全に治すことは不可能です。初回手術による治ゆ率は、欧米(この病気は欧米が日本にくらべ多い)の内分泌外科を専門にしている施設で最も成績の良いところで95%前後です。なぜ、100%ではないのかについて次の二通りについて詳しく説明します。
1. 手術後でもカルシウムが十分下がらず、持続性に高カルシウム血症をきたす場合
2. 術後数年あるいは数十年経過し、再度血液中のカルシウムが高くなる場合
1.は手術がうまくいっていなかったと考えて良いでしょう。
カルシウムが十分下がらない理由は、
a. 病的な副甲状腺を探し出すことができなかった
b. 病的な副甲状腺が複数個あり(2個の腺腫や過形成など)、その一部を取り残した
などが考えられます。
前に説明しましたが、副甲状腺は4個とは限らず、それ以上ある可能性も10%以上あることや通常副甲状腺は甲状腺周囲にありますが、甲状腺内、甲状腺から離れたところ、さらには胸のなかにあったりすることが、手術がうまくいかない理由になります。
2に関して
a. 病気が過形成であったが、十分な量が切除されていなかった
b. 移植した副甲状腺が必要以上にホルモンをつくるようになった
c. 病理検査で良性(腺腫、過形成)の診断であったが、実際は癌であり(癌と良性の鑑別が困難な場合もある)再発した
d. 腫大腺を切除する際に被膜をやぶり細胞をばらまいてしまった
e. 1つの副甲状腺の病気でそれを取り除いてうまくいっていたが、他の腺に新たに病気が発生した.
などが考えられます。
上記に対する当院の対策
“手術後も持続性に病気が続く”ことに関しては、手術前の検査で、病的な副甲状腺の位置あるいは腺腫(基本的には1腺の病気)あるいは、過形成を鑑別する。精度の高い超音波検査やシンチだけでなく、当院独自の方法として、
術中に副甲状腺ホルモンを迅速測定する方法は欧米では一般的ですが、日本ではほとんど行われていませんでした。主な理由は、厚生省がその試薬の使用を認めていなかったからです。副甲状腺は過剰腺(先にも記しましたが、副甲状腺は通常4つであるが、3つあるいは5つ以上のこともある)や異所性腺(甲状腺の周囲になく胸のなかにあったりする)の存在、腺腫、過形成、癌など解剖・病理学的多様性を持っています。このため、手術は難易度の高い場合もあるので、十分に病態を理解した内分泌外科医が行うのが望ましいと考えています。今後、内視鏡で手術を行なう施設も増えると思いますが、これらの縮小手術には他の病的な副甲状腺を見逃さないためには術中迅速副甲状腺ホルモン測定を是非行っていただきたいと考えています。
慢性腎不全のため透析を受けている患者さんで、食事療法・内科的治療のコントロールがあまり良くないため、血液中リン濃度が高くなると、副甲状腺が刺激されて腫大し、副甲状腺ホルモンを過剰に分泌します。するとカルシウムが骨から必要以上に溶かし出され、血液中カルシウム濃度が高くなります。この状態を腎性副甲状腺機能亢進症といいます。放置すると、腎不全による骨の病気(腎性骨異栄養症=線維性骨炎・骨軟化症・骨粗鬆症・骨硬化症など)になり、骨折を起こしやすくなります。それだけでなく、血液中のカルシウムやリンが高くなることにより、血管にそれらが沈着し、心血管系の重篤な合併症をひきおこします。
治療
腎性副甲状腺機能亢進症に対する治療薬として、経口ビタミンD製剤、ビタミンD製剤、リン吸着剤などが開発され、内科的治療も進歩してきています。しかし、内科的治療で効果がえられない場合は手術療法が確実です。手術療法については後に詳しく述べます。手術以外には、超音波下にPEIT(経皮的エタノール局所注入療法)という方法もありますが、重篤な心血管系などの症状がある場合や手術後に再発した場合など手術の困難な患者さんが対象です。
副甲状腺機能亢進症とは、何らかの原因によりPTHが過剰に分泌される病態を言います。血液中を流れるPTHの量が増えるので、採血でPTHの値を測定することで診断できます。副甲状腺に腫瘍ができ、その腫瘍がたくさんホルモンを作ることによりPTHが高くなった病態を、原発性副甲状腺機能亢進症と言います。副甲状腺そのものに病気の根源があることから”原発性”という語が頭につきます。必要以上にホルモンの作用が出てしまいますので、血液中のカルシウムは増加します。採血ではCaの値が高くなり、高Ca血症(こうカルシウムけっしょう)を呈します。一方、副甲状腺以外に腎不全などカルシウムバランスをマイナスにする病気があり、そのバランスを戻そうとPTHが過剰に分泌される場合もあります。このように副甲状腺以外に病気の根源があり、二次的にPTHの量が増えた病態は、二次性副甲状腺機能亢進症と言います。以下は、原発性副甲状腺機能亢進症について述べていきます。
原発性副甲状腺機能亢進症の症状は、高Ca血症によるものが中心になります。初期症状としては、イライラ感、だるさ、食欲低下など一般に体調不良で出る症状が出ることが多く、吐き気や腹痛など胃腸症状が強く出ることもあります。治療がなされないままに高Ca血症が進むと、尿量が増え、脱水になり、腎臓の機能も低下し、昏睡状態になることもあり、生命の危機に及びます。高Ca血症があっても、症状が出ない場合もあります。
PTHは、骨からCaを奪い骨の破壊が進むため、骨のマーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)の値が上昇します。そのため無症状であっても、採血検査で、高ALP血症として発見されることがあります。この病気が長く続くと、骨粗鬆症の状態になり骨折を起こしやすくなります。また、骨から放出されたカルシウムは腎臓や角膜など様々な場所に沈着します。腎臓に沈着したカルシウムは腎結石(じんけっせき)となり、腎結石としてこの病気が発見されることもあります。
診断
原発性副甲状腺機能亢進症が疑われたらどんな検査をするの?
まず、採血でCa値、PTH値を測定します。高Ca血症かつ高PTH血症があれば、この病気と診断されます。続いて、副甲状腺に腫瘍があるかどうかの検査を行います。一般的には、頚部の超音波検査を行い、甲状腺の裏側にある腫瘍を探します。CT検査でも腫瘍を探すことができます。また、シンチグラムというアイソトープを使った検査も行います。シンチグラムでは、ホルモンを過剰に作っている場所にアイソトープの強い集積がみられます。腫瘍が小さすぎて超音波検査などで見つからない場合や腫瘍は見られているがそれが副甲状腺ホルモン(PTH)作っている腫瘍かどうか知りたい場合に役に立つ検査です。90%近くのケースでは、副甲状腺に単一の腫瘍が見つかりますが、副甲状腺4つがすべて腫れていることがあります。後者は、過形成(かけいせい)と呼び、副甲状腺腫瘍と区別されます。またごくまれに、副甲状腺以外の場所に副甲状腺ホルモンを過剰に分泌する腫瘍ができることがあります。異所性副甲状腺腫瘍と呼びます。副甲状腺以外の場所にある腫瘍の同定には、シンチグラムが有効です。
病気の原因は分かっているの?
一部の症例では遺伝子異常との関連が証明されています。多発性内分泌腫瘍症という、複数の内分泌腺すなわちホルモンを作る臓器に腫瘍ができてくる病気があり、1型と2型2つのタイプがありますが、いずれも副甲状腺腫瘍ないし過形成を伴うことがあります。多発性内分泌腫瘍症は、英語名multiple endocrine neoplasiaを略して、MEN(メン)と呼ばれます。とくにMEN 1型では、90%近くの症例で副甲状腺機能亢進症が見られます。MENは、原因となる遺伝子異常が分かっています。ただし、この遺伝子異常だけで発症するのではなく、後から別の遺伝子異常が加わることにより腫瘍ができてくるので、発症年齢や腫瘍ができる場所には個人差があります。副甲状腺以外に、内分泌腺の腫瘍が見られた場合には、MENの遺伝子検査をすることが勧められます。
治療
まず2つに大別して考えます。副甲状腺の腫瘍そのものに対する治療と副甲状腺機能亢進症によって起きてくる高Ca血症などの症状に対する治療です。高Ca血症は、程度が強いと生命の危機に及ぶ場合もあるので、治療を急ぐ必要があります。点滴などで水分を負荷して血液中のCa濃度を下げると同時に、カルシトニンというCaを骨に戻すホルモンを注射する治療もあります。高Ca血症があっても、無症状であれば、そのまま経過をみることもできます。ただし、無症状でも骨粗鬆症や腎結石が進んで行くことがありますので、注意深く見ていく必要があり、場合によってはそれぞれに対する治療を行います。一方、副甲状腺腫瘍そのものに対する治療は、外科的切除が第一選択です。当院一般外科(内分泌外科)または耳鼻咽喉科で手術を行います。単一の腫瘍に対しては、腫瘍切除を行いますが、過形成の症例においては、4腺すべてが腫れているので、3腺+1腺の一部または4腺切除+1腺の前腕筋肉内への自家移植(じかいしょく)という治療を行います。
手術をしないとどうなるの?
手術を行わないと、病気の症状を引き起こしているPTHの値は下がりませんので、治癒はしません。Caの値、骨の状態などの経過を注意深く追いながら、それぞれの症状に対する治療を行っていくという形になります。副甲状腺腫瘍は、ほとんどが良性腫瘍で、悪性腫瘍はごくまれなため、症状のコントロールさえできていれば、外科的切除を急ぐ必要性は比較的低いと考えられています。内視鏡を用いて小さな傷口で行う手術も可能であり、外科的治療の時期、方法については、主治医とじっくり相談するとよいでしょう。
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症とは
副甲状腺そのものではなく、くる病やビタミンD欠乏症、慢性腎不全などの副甲状腺以外の病気が原因で副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、血液中のカルシウム濃度が必要以上に高くなる病気を二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症といいます。
■代表的な原因:腎性副甲状腺機能亢進症について
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症の代表的な原因に、腎性副甲状腺機能亢進症があります。慢性腎不全になると、腎臓でのリンの排泄およびビタミンD3の活性化ができなくなり、腸管からのカルシウムの吸収が低下します。
つまり、慢性腎不全の人は血液中のカルシウムが低下し、リンが上昇するわけですが、これらの状態は副甲状腺を刺激し、副甲状腺ホルモンの分泌を促します。そして長期間刺激され続けた副甲状腺は腫大し、やがて血液中のカルシウムの値に関係なく副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、血液中のカルシウム濃度が必要以上に高くなる状態となります。
このような病気を、腎性副甲状腺機能亢進症といいます。
症状
副甲状腺ホルモンの過剰な分泌は、骨から血液中へのカルシウム吸収を引き起こし、骨がもろくなる「繊維性骨炎」となり、骨痛や骨変形・病的骨折などの原因となります。
また、副甲状腺ホルモンの過剰な分泌により血液中のカルシウム濃度が高くなると、さまざまな場所へカルシウムが沈着(異所性石灰化)し、動脈硬化や心臓弁膜症・関節炎などを引き起こします。
検査と治療方法
検査では、定期的に血液中のカルシウムやリン・副甲状腺ホルモン濃度を測定します。
腎性副甲状腺機能亢進症にならないようにするためには、食事療法やリン吸着剤の内服、活性型ビタミンD3の内服または静脈内投与などで予防することが大切です。しかし、ある程度病気が進行してしまったら、超音波検査(エコー)やCT・MRI・MIBIシンチグラフィなどで腫大した副甲状腺を検査し、経皮的エタノール注入療法(PEIT)やビタミンD3注入療法、手術療法などの治療を行うことが必要となります。
手術療法では、副甲状腺をすべて摘出し、摘出した副甲状腺の一部を前腕などに移植する方法が一般的です。