昔々、傷口が乾燥して傷口を覆うようにかさぶたができて治るって言われていましたが、最近は、浸出液を乾燥させずに傷口に潤った状態で治す「湿潤療法」の方が、傷は早くきれいに治るとされています。皮膚に傷ができると、傷口から浸出液と呼ばれる体液がしみ出てきます。この浸出液の中には、傷が治るのに必要な細胞を増やしたり、活発に働くようにしたりするサイトカインとやらがたくさん入っているので、乾かすのはダメというわけです。手術の時に剃毛はしないとか、インスリン注射は服の上からでもOKとか、採血も消毒はいらないとか(そもそも患者さんが納得できるように説明するのが大変ですね)消毒するのが当たり前と思っていたことが実は何の根拠もないただの儀式だったという事実に、ちょっと新しい創傷治療の知識を勉強してみました。(夏井先生の講義はまさに喧嘩を売っている感じで、ちょっと引きましたが)

 

創傷治癒のメカニズム

擦過傷など浅い傷は毛孔や汗腺などの構造物がまだ残っています。毛孔や汗腺には表皮細胞がありますから、その中から表皮細胞が遊離、再生して、数日の間に毛孔、汗腺の周囲から上皮化して治ってきます。真皮の下まで及び深い傷で、毛孔や汗腺の構造物も根こそぎやられている場合は、表皮細胞がありませんからそこが肉芽組織に置き換わってから上皮から表皮細胞が遊離、再生してきて治るので月単位でかなりの時間がかかります。

擦過傷で皮膚が傷つくと、ジュクジュクした浸出液が出ています。これはさまざまな細胞の分裂を促進したり、活性化するサイトカインという細胞成長因子と考えられています。これをガーゼで乾燥させて取り除いていては、もったいないし、逆効果です。また、傷を乾かしてしまうと毛孔や汗腺の中から表皮細胞が遊離、再生できないだけでなく、毛孔、汗腺の表皮細胞自体が死んでしまいます。そうなると真皮の下までの深い傷と同じようになって、表皮細胞がありませんから傷が治るので時間がかかってしまいます。保護パッドでカバーして傷を治すのが湿潤療法」と呼ばれ、毛孔や汗腺の中から表皮細胞をうまく利用して早く傷を治すことができます。

創傷被覆剤

創傷被覆剤としてはハイドロコロイド ドレッシングとしてディオアクティブを使用します。創面を覆う部分が溶けてゲル状になって固着しないし、防水性に優れ、水仕事もできます。(肌色なので目立たない)また、出血している場合は、強力な止血作用のあるアルギニン酸塩ドレッシング、カルトスタット(昆布から抽出されたアルギニン酸塩を不織布にしたもの)を使用します。保険の縛りとして病名として皮膚欠損創もしくは褥瘡が必要です。(挫創、擦過傷、熱傷では保険請求が通らないので注意が必要です。)
しかし、これらの創傷被覆剤は、連続2週間しか保険適応がないので、それ以後は代替品を使うしか仕方ありません。当院ではプラスモイストTOP(A4サイズで250円)を使用しています。(湿潤療法で使うハイドロコロイド素材の保護パッドは市販されており、楽天やAmazonで誰でも買えます)

 

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実際の処置では「傷口に消毒は不要」です。傷口を消毒すると健康な皮膚や傷を治そうとする細胞にもダメージを与えてしまいます。また、合成界面活性剤が使われているタイプのせっけんや液体ソープで傷口を洗うと、皮膚の細胞膜が壊されて傷を深くし痛みも増します。まず、傷口についた血液や砂などの異物を、流水できれいに洗い流し、清潔なタオルなどで水気を拭き取る。出血している場合は、カルトスタットを使います。出血していない場合は、顔面や指尖部ならハイドロコロイドを使い、それ以外はプラスモイストTOP(保険請求はできない)を使用します。湿潤療法で使うハイドロコロイド素材の保護パッドは、浸出液を吸収するとゼリーのようにゲル化して傷口を覆います。浸出液をゲル状にすることによって傷口が乾燥せず治癒効果を保ちます。保護パッドがなければ、傷口をきれいにしてから、ワセリンを塗った食品用ラップで覆っておく方法もある。保護パッドを数日間交換しないとかぶれや汗もの原因になるため、最低でも1日に1回、暑い時期には2~3回は傷の周辺の皮膚を水できれいに洗ってから貼り直したい。

 

まとめ

◎出血があれば、アルギン酸塩
◎顔面、指尖の擦過創、挫創はディオアクティブ
◎それ以外の擦過創、挫創、熱傷、難治性の湿疹(乳児湿疹)、帯状疱疹とびひには、プラスモイストTOP(片面がシールになっており、ガーゼやパットを貼って使う。傷には反対側を直接つける)
◎切創は、ステリストリップで止めて、丸めたガーゼでテーピングで圧迫止血する。

毎日観察して、治癒傾向になければ、早めに紹介します。

創傷被覆剤を使用する時は、本当の病名がなんであれ、必ず、皮膚欠損創か褥瘡の病名をつけること。この病名をつけておけば、医療材料として保険請求できるし、処置料を取れるので、マイナスにはならない。ただし、連続2週間(最大3週間)しか使えないので注意が必要です。

創傷、熱傷の治療に使ってはいけない軟膏です。薬自体には効果はあるようですが、基材が問題です。ゲーベンやオルセノン、エキザルべはクリーム基材が使われています。クリームは界面活性剤が使われており、皮膚に必要な皮脂を融解、除去し、細胞障害性があるので、正常な皮膚にしか使えません。高吸収性基材が使われているユーパスタやアクトシンは、傷を乾かして無茶苦茶に痛いです。消毒薬が入っているユーパスタやイソジンゲルは組織破壊があります。
尿素含有のクリームもバリバリの乾燥剤です。尿素は角質ケラチンと結合し、ケラチンを変性させて、角質損傷し、皮膚のバリア機能が障害され、皮膚乾燥になります。また、尿素は水分子と水素結合し、皮膚の水分を奪うことで皮膚が乾燥します。クリーム自体も前述したように界面活性剤であり、皮脂を分解することで皮膚が乾燥します。
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ワセリン

手荒れや踵のささくれには、小さじ半分のワセリンを患部に30秒以上かけてゆっくり塗り込みます。ベタベタになるので、ペーパータオルやキッチンペーパーでベタつきがなくなるまで、丁寧に拭き取ります(ワックスがけの要領)1日数回、特に水仕事の前に行いましょう。ワセリンで油の皮膜ができて水を弾きます。ワセリンは、無味無臭で完全に無害なので、このままお米を研いでも、料理を作っても大丈夫です。ワセリンは鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2の一種です。n = 1 ならメタン,n = 2 ならエタンです。鎖状飽和炭化水素は炭素数が少ない場合(=分子量が少ない)は常温でも他の物質と反応しますが,炭素数が増える(=分子量が大きくなる)に従って反応性が低くなり,ワセリンくらいの炭素数になると常温では他の物質と反応しなくなり,反応させるためには外部からエネルギーを投入する必要があります。だから,皮膚に塗っただけでは皮膚と反応できず,皮膚炎を起こすこともできません。CとCの飽和結合は安定していて、切り離すのには大きなエネルギーが必要で、常温では反応しない、人体とは反応しないので、極めて安全な物質です。(ちなみにプロペトは白色ワセリンをさらに純度を高くしたものです)


ちなみに、アズノール軟膏は、アズレン 0.1g と(白色ワセリン+ラノリン)299.9g からなるのがアズノール軟膏です。つまり、ほとんどが白色ワセリンとラノリンです。ちなみにラノリンは,羊毛からウールを作るときにできる副産物の「ウールグリース」を精製した蝋状物質で,高級アルコール及び高級脂肪酸の混合物です。アズノールというのはハーブティーで有名なカモミールの青い色素(アズレン)の成分です。このアズレンを油(ワセリン+ラノリン)に溶かし込んだ軟膏がアズノール軟膏で、そのなかにカムアズレンと呼ばれる青色油状のセスキテルペンがあり,これに抗炎症作用が認められ,古くから外用剤として使われてきたようです。ただ、まれにアズノールに対してアレルギー反応を起こす人がいます。だから,安全性を考えればワセリンより値段の高いアズノール軟膏を選ぶ必要はないと思います。