診療報酬は、基本診療料+特掲診療料で成り立っているというお話をいたしました。
基本診療料は「初診料」「再診料」「入院料」等の基本的な報酬であるというお話でしたね。
また、診療報酬は、実際に行った医療行為の手技料と薬剤料や材料費を積み上げていったものであるということをご説明しましたね。
ところが、診療報酬の中には、いくつか、具体的な治療をせずに、患者さんと話をしたり、説明をしたり、して医療管理を行うことにより算定ができるものがあります。
そのひとつが「外来管理加算」というものになります。
特定疾患療養管理料 225点
結核/悪性新生物/甲状腺障害/処置後甲状腺機能低下症/スフィンゴリピド代謝障害及びその他の脂質蓄積障害/ムコ脂質症/リポジストロフィー/ローノア・ベンソード腺脂肪腫症/虚血性心疾患/不整脈/心不全/脳血管疾患/一過性脳虚血発作及び関連症候群/単純性慢性気管支炎及び粘液膿性慢性気管支炎/詳細不明の慢性気管支炎/その他の慢性閉塞性肺疾患/肺気腫/喘息/喘息発作重積状態/気管支拡張症/胃潰瘍/十二指腸潰瘍/胃炎及び十二指腸炎/肝疾患(経過が慢性なものに限る)/慢性ウイルス肝炎/アルコール性慢性膵炎/その他の慢性膵炎/思春期早発症/性染色体異常
上記の病名分類と完全に一致していなければ算定できないということではありません。「悪性新生物」としか書かれていませんが、「△△癌」「●●悪性腫瘍」「□□癌術後」といった病名でも算定できます。その他、白血病、悪性リンパ腫、骨髄性白血病、骨肉腫、脳腫瘍、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全、動脈硬化性冠不全、冠静脈硬化症、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血、脳卒中、脳動脈硬化症、バセドウ病、橋本病、喘息性気管支炎、慢性気管支炎、アレルギー性気管支炎、気管支喘息、アレルギー性胃炎、慢性胃炎、急性胃炎、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変、肝硬変症、肝障害、慢性C型肝炎なども加算対象となります。
但し、てんかん、骨粗鬆症、痛風、高尿酸血症、アルツハイマー型認知症は対象外です。
「特定疾患療養管理料」は、特定疾患の患者さんに対して、「治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に、月2回に限り算定」でき、同管理料の算定要件として「管理内容の要点」を診療録に記載することを求めています。
地方厚生局が行う医療機関に対する「個別指導」では、同点数の算定に当たり「画一的ではなく、具体的に記載すること」という指摘事項がありますので、指導内容の記載については以下の点を注意するとよいでしょう。
(1)画一的ではない・・・それぞれの患者さんの状況に合った指導の記載を行う。
(2)具体的である・・・「20分」「1500kcal」など具体的な数字で指導の記載を行う。
計画的に治療管理を行っているかかりつけ医が治療に当たり、日常生活での食事や運動、睡眠または嗜好品など生活習慣に対して気をつけることを、患者さんごとに分かりやすく指導及び管理したときに算定できる点数です。患者さんが実践できるように、患者さんの個別性に合わせた現実的な分かりやすい指導が求められます。たとえば「1日の塩分量は6g以下で」という場合は、「調味料はなるべく減塩のものを使用して、麺類の汁は残すように」などと、具体的にそして実践しやすいように伝えることが大切です。
個別指導の内容を見ると,算定の上で重要なポイントは主病を明確にすること,患者の個々に応じた内容を記載することとなっています。毎回同じ指導内容の印を押したり(紙カルテの場合)いくつかの選択肢の中から選ぶだけでは個別性があるとは言えません。
【症例】
69歳,女性(再診)。糖尿病(主),高血圧,脂質異常症。2016年10月に健診にて糖尿病を指摘され(HbA1c 9.0%),当院に教育入院。退院後,筆者の外来に通院している。合併症なし,喫煙あり(1日15本×40年間),アルコール飲用なし。
【処方内容】
①メトホルミン(250mg)1日4錠を2回に分けて,②エナラプリル(5mg)1回1錠・1日1回,③プラバスタチン(10mg)1回1錠・1日1回
【カルテの記載】
(1)S:subject 患者の会話の中から,行動変容の達成度や準備状態がわかる内容を記載します。
体調は変わりなし。ウォーキングを続けている。1日4000~6000歩。
運動するとお腹が減ってしまい,つい間食をしてしまう。低血糖は起きていない。
2018年の春,娘に孫が産まれるのでそれまでにタバコをやめたいと思っているが,夫との関係でイライラしてしまい,やめられる自信はない。
(2)O:object
自宅血圧:120/80mmHg前後,心音:不整なし,肺音:清,体重:60.5kg(BMI 26.8),本日の採血結果:HbA1c 7.3%,血糖235mg/dL
(3)A:assessment プロブレムリストと治療の目標を記載しています。SMARTな目標設定を参考に患者と相談して目標を立てていきます。
#1糖尿病(主)[2016.10.10初診]
・合併症:なし(最終眼科受診:2017年4月)
・目標HbA1c:7.0%
・目標体重:来年の1月までに58kg
#2高血圧症
#3脂質異常症
#4 smoker:関心期
(4)P:plan 特定疾患療養管理料の根拠となる内容は主にE-Planに記載します。
T-Plan(治療プラン):処方継続
D-Plan(診断・検査のプラン):毎回診察前にHbA1c,血糖採血あり
E-Plan(患者教育プラン):行動変容の課題
・運動の習慣をつける(1日4000歩以上):達成できている→賞賛し,継続を促す
・間食を適量にする(1日100kcal以内):間食の内容について記録してもらう。体重測定を励行
・禁煙:関心期→タバコをやめるメリットについて考えてもらう。禁煙外来について情報提供
なかなか、こんな完璧なカルテを作ることは現実には難しいですね。
初診料を算定した日から1ヶ月のあいだは、指導管理を行っても初診料に含まれるので特定疾患療養管理料は算定できません。この1ヶ月とは、1ヶ月後の1日前までと解釈します。例えば高血圧症が主病で12月10日が初診だった場合は、翌月の1月9日までが1ヶ月となりますので、この間は特定疾患療養管理料は算定できません。1月10日から算定できます。(基本的には、1ヶ月後の同じ日から算定できると解釈しますが、月の末日の場合は例外もあります。31日が初診の場合は、翌月の末日に算定可能です)この1ヶ月で、もう1つ気を付ける大切なことがあります。それは、対象の傷病名が付いた日から1ヶ月経過後ではなく、初診料を算定した日から1ヶ月経過後から算定可能ということです。以前には、「対象病名が付いた日から1ヶ月は算定不可」という時代もありましたので、いまだに間違えていらっしゃる方を見かけることもありますが、現在は、「初診料を算定した日から1ヶ月経過後から算定可能」となっていますので損をされている可能性があります。いま一度ご確認ください。また、入院中も算定はできませんし、退院日から1ヶ月間も算定はできない決まりになっています。退院後については、「自院を退院後」と記載されていますので、他院での入院歴は気にされなくても大丈夫です。
もうひとつのポイントは対象疾患が「主病であること」です。その疾患をメインに治療管理を行っていることが大切であり、対象疾患でかかっていたとしても主病でなければ減点されてしまうことがあります。そのためレセプトにも主病であることが分かるようにしておかなければなりません。主病は複数あっても構いませんので、必ず分かるようにしておいてください。
慢性胃炎が特定疾患療養管理料の対象疾病になっていることがラッキーと思っている方も多いかもしれませんが、主病名を「胃炎」として算定している場合には注意が必要です。毎月、胃炎についての治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った記録があるかどうかです。「胃炎」「急性胃炎」「慢性胃炎」、これらはどれも点数表等の「特定疾患療養管理料の対象疾病表」に対象疾患として載っていますが、急性胃炎で特定疾患療養管理料を算定すると審査上は減点されることが多いようです。特定疾患療養管理料の趣旨は、「主病となる特定の疾病の治療管理を長期にわたって計画的に行った場合に算定する」というものですから、一部の疾病を除いては急性疾患では算定できないという解釈になります。慢性胃炎でも減点される場合があります。これは、薬を処方するためのレセプト病名ではないのかと疑われることがあり、内視鏡等できちんと胃の確認ができる医療機関であるか否かが分かれ目になります。また、急性も慢性も付けずに、ただ「胃炎」とした場合も同様で、胃の保護剤として処方薬のための傷病名であると判断された場合には特定疾患療養管理料は認められませんのでご留意ください。
外来管理加算 52点
外来管理加算は、主に同じ病気で 2 回目以降に受診された時、つまり再診料をいただく際に、 加えてかかる料金です。
【算定要件】
入院中の患者以外の患者に対して(これは外来患者のことですね)
① 慢性疼痛疾患管理
② 別に厚生労働大臣が定める検査(告示3台3.4(1))
⇒超音波検査等、脳波検査等、神経・筋検査、耳鼻咽喉科学的検査、眼科的検査、負荷試験等、ラジオアイソトープを用いた諸検査、内視鏡検査
③ 第7部リハビリテーション
④ 第8部精神科専門療法
⑤ 第9部処置
⑥ 第10部手術
⑦ 第11部麻酔
⑧ 第12部放射線治療
を行わないものとして、
よくわかりませんが、つまり、「外来管理加算」は、処置やリハビリテーション等を行わずに、計画的な医学管理を行った場合に外来管理加算として52点を算定できるとされています。計画的な医学管理を行った場合とは、医師の丁寧な問診と詳細な身体観察(視診、聴診、打診及び触診等)診察を行い、それらの結果を踏まえて患者に対して症状の再確認を行いつつ、病状や療養上の注意点等を懇切丁寧に説明するとともに、患者の療養上の疑問や不安を解消するための取り組みを評価するものとされています。
【提供される診療内容の事例】
具体的な事例が示されています。
1.問診し、患者の訴えを総括する。
2.身体診察により得られた所見及びその所見に基づく医学的判断等の説明を行う。
3.これまでの治療経過を踏まえた療養上の注意等の説明・指導を行う。
4.患者の潜在的な疑問や不安等をくみ取る取り組みを行う。
【カルテの記載】
上記診察内容の要点を記載するものとされています。
つまり、記録でよく言われているところのSOAPを意識して記録することになります。
S.主観的情報・・・患者の訴えを聴きとる
O.客観的情報・・・先生の診察所見
A.アセスメント・・・所見に基づく医学的判断、思考過程のまとめ
P.計画・・・具体的な指示や注意事項、指導など
つまり、「患者の主訴」「医師の診察所見」「医学的判断」や「指導等」を行い、その実施した内容はカルテに記録しておく必要があります。
【よくある質問】
■電話再診のときには算定できますか?
⇒「医師による直接の診察」に該当しないため、外来管理加算の算定はできません。
■往診の場合にも算定は可能でしょうか?
⇒算定の要件を満たせば算定することができます。
■家族からの聴きとりで算定することは可能でしょうか?
⇒認知症や小児の場合など、本人が回答できない状況がある場合など、付き添いの家族から、患者本人の状態等をお聴きして、本人に対して診療を行い、家族等に対して懇切丁寧な指導をした場合は算定できます。
■同日再診の場合に、2回目の診療時にも外来管理加算は算定できますか?
⇒算定の要件を満たしていれば、算定することは可能です。
⇒「薬だけ欲しい」という患者さんの対応に困っている医療機関も多いとおもいます。これに関しては、医療法第20条(無診察治療等の禁止)にあるように医師自ら診察せずに処方箋をこうすることは原則禁止されています。一方で令和2年の診療報酬点数表の通知に、投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与するべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない。また、多忙を理由に、簡単な症状の確認を行ったのみで継続処方を行なった場合にあっては、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない。
この他にもカルテの記載を求める点数が年々増えており、カルテの記載の充実はますます大切になっていくと考えます。電子カルテの運用において、SOAP形式でのカルテ記載ができるクラークの活用を進めている必要がありそうです。