上室性頻拍そのものは予後良好ですが、もともと心疾患があれば、心不全や狭心症を誘発することがあります。日常生活に支障がある場合や、めまいや失神などの症状がある場合は、専門医療機関へ紹介しましょう。

上室性頻拍には、4つのパターンがあります。
(1)房室結節リエントリー性頻拍
(2)房室リエントリー性頻拍
(3)洞結節リエントリー性頻拍
(4)心房内リエントリー性頻拍

(1)の房室結節が最も多く、2番目に多いのが(2)の房室で、この2つで上室性頻拍の約90%を占める。

(1)房室結節リエントリー性頻拍

房室結節でのリエントリーによるものを房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT:atrioventricular nodal reentrant tachycardia)

Narrow QRS tachycardiaの不整脈の代表です。

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心疾患の既往がなくて非発作時の心電図が正常、胸部Xpも異常なければ、かかりつけ医でも十分に管理可能です。頻拍発作の真っ只中で来院した場合は、治療はどうするか? 

教科書的には、まず迷走神経刺激(valsalva手技)を行うとしています。迷走神経刺激とは、副交感神経である迷走神経を刺激して心拍数を落とすもので、洞調律への復帰率は20~25%と低い。迷走神経刺激には、頸動脈洞マッサージバルサルバテスト(息こらえ試験)の2つの方法があります。頸動脈洞マッサージは直接頚動脈洞を刺激して副交感神経である迷走神経を刺激する方法であり、バルサルバテストは息こらえにより胸腔内圧を上げることにより迷走神経を刺激する方法である。頸動脈洞マッサージは、右側頸動脈分岐部(甲状軟骨の頂点の高さで胸鎖乳突筋のくぼみ)を2本の指で1回に5~10秒間、5~10秒間あけて2~3回までマッサージします。(両方の総頸動脈を同時にマッサージしてはいけない)頸動脈洞マッサージに右側を選択する第一の理由は、もし脳梗塞(マッサージによる脳塞栓)を起こした場合、日本人の優位半球はほとんどが左側のため、左脳梗塞より右脳梗塞の方が失語等の優位半球症状の出る確率が低いからである。二番目の理由が、右側の方が洞調律への復帰率が高いためである。禁忌は、年齢(中年後期以上:50代以上)、頸動脈雑音、動脈硬化の危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症など)これらの危険因子の1つでもあれば頸動脈洞マッサージはするべきではない。失神、洞停止、房室ブロック、心静止などが起こる可能性があるため、心電図モニターを装着し静脈ラインをとり、アトロピン(と経皮的ペーシングがいつでも使えることを確認)を用意しておきます。バルサルバテスト(息こらえ試験)は、大きく息を吸った後、実際に息を吐き出さずに、息を吐き出すような努力をして胸腔内圧を上げてもらうまたは、空気を胸いっぱいに吸い込んだ後、がんばれるところまで息を止めてもらういます。いずれにしろ、効果は乏しく、特に眼球圧迫は時代遅れで、危険であり、苦しがっている患者さんに時間の無駄です。

もし、余裕があれば、心電図を記録しながら、ワソランを側注し、PSVTが停止する瞬間を捉えることができれば、ワソランの効果に客観性を持たせることができます。P波とQRS波が見えやすいAVRTにおいて、正常洞調律に戻った前に、P波を認めることでワソランが房室結節でブロックしたことを証明できるわけです。

なぜ、ワソランか?
(1)β遮断薬に比べると陰性変力作用が少ない。
(2)AVNRTであった時に、I群薬よりもきれがいい。
(3)ATPでは、一旦停止してもその後の再発予防効果が期待出来ない。
(4)作用が概ね用量依存的で効果を予測しやすい。
(5)ほとんどのPSVTが、回路に房室結節を含んでいるため、打率が高い。
などが挙げられる。

ワソランにも陰性変力作用、血管拡張作用があり、血圧低下を生じるが、健常心であれば、緩徐に投与すれば10mgまでは耐えられる。また、心拍数が落ちてくることから血行動態が改善され、相殺されます。ワソラン10ml(5mg)を5分かけて静注しても頻拍のレートが全く変化しなければ、診断が怪しいかも?。しかし、この量では、頻拍発作が止まらないこともしばしばあり。止まらなければ、再度同じ量を5分かけて側注、止まった時点で投与中止します。これでも止まらなかったら、心房頻拍、心房粗動(2:1伝導ですが、心房伝導比が低下して粗動波を確認できることが多い)心房細動のRR間隔が一定に見えた? 次の一手は、ATPかⅠ群薬、β遮断薬ですが・・・。僕はもう送りバントします。ややこしいことはしないのが、自分のため、患者さんのためです。

I群薬の追加は、陰性変力作用のダブルパンチになりますし、もしPSVTの原因がAVRT(QRSの後に逆行性P波が見えれば:WPW症候群)だった場合、房室伝導(ワソランで抑制)と副伝導路(I群薬で抑制)の両者の不応期が伸びて、ゆっくりしたPSVTが続く可能性もある。もし心房粗動(2:1伝導)だと、粗動周期を延長させ、1:1伝導になったら大変です。

β遮断薬もまた、陰性変力作用のダブルパンチになり危険です。 不整脈の治療をしていて、もし、危険な不整脈???(頭の中も真っ白)が出てしまったら、心電図を診断しようとするとどつぼにはまります。深呼吸〜。基本に返って、バイタルのチェック、慌てず「大丈夫ですか?」「はい。大丈夫です」と返事があればひと安心です。白目をむいていたら、慌てずに「除細動」って叫びましょう。

WPW症候群(顕性=Δ波がある)と診断されている患者さんが、PSVTを起こした場合は、I群薬を優先します。僕の場合は、使い慣れたリスモンダン。リスモダンP(50mg/5ml)を生食10mlに溶解し、5分かけて側注します。効果なければ、同じ物ともう1回、止まった時点で投与中止します。もし、ワソランを投与していて、PSVTの治療の最中に心房細動が生じてしまうと、ワソランが房室結節の伝導を押さえるため、副伝導路を経由した伝導が主体(Δ波があるということは、順伝導がある)となり、興奮頻度が増え、血行動態を危険にさらす。(pseud VT; 偽心室頻拍)

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心室頻拍もどきアーチファクト 病棟のナースステーションでのモニター心電図です。ちょっと慌てますよね。一見、心室頻拍ですが、病室へ駆けつけると本人は「何事ですか?」って平気な顔です。それはそれでよかったんですが・・・。なんでこんな心電図になったんでしょうか。実は、患者さんは、歯みがきをしていたんです。筋肉の動きでアーチファクトが出てしまったんです。モニター心電図を貼る場所が悪かったわけです。ちゃんと筋肉の運動を拾わないところに付け替えなければなりません。こんな心電図が、詰め所でしょっちゅう出ていると本当に心室頻拍が出たときにまたアーチファクトかと思ってしまうオオカミ少年になりかねませんよね。      

心房粗動(atrial flutter:AFL)と発作性心房性頻拍症(paroxysmal atrial tachycardia:PAT)はどのように判別できるか。両者の違いは心房興奮頻度により示される。AFLとPATは,両者ともに心房内での頻拍,すなわち房室接合部性や房室回帰性頻拍を含まないものとされ,基本的に心房興奮頻度が250/min以内がPATで,250~350/min程度がAFLと判別される。 AFLの場合,心房興奮波は鋸歯様を示し,興奮頻度は300/min程度となることが多い。一方のPATではP波の形状を保ち,150~250/min付近までの頻拍になりやすい。 

AFLは,心電図上での分類として,通常型(common type)と非通常型(uncommon type)および不純型(impure type)の3種類にわけられる。 
まず通常型の場合,興奮旋回部位が三尖弁輪と下大静脈の間峡付近で反時計方向回転を示す,およそ300/minの興奮が生まれる。また心電図上では特にⅡ,Ⅲ,aVFで陰性の鋸歯様波形が特徴である。これに対して,非通常型では旋回する方向が通常型とは逆の関係(時計方向回転)となるためにⅡ,Ⅲ,aVFで陽性の鋸歯様波形が登場する。 さらに不純型は,心房興奮頻度が300~350/min,あるいはそれを超えるもので,心房細動への移行期とも言えるものである。 
これらの中で,遭遇する頻度の高いタイプが通常型で,ついで非通常型,不純型となる。通常型の場合,三尖弁輪と下大静脈の間峡を興奮が0.2秒程度で旋回し,そのため心房興奮頻度が300/minほどを呈することも特徴である。房室接合部を通過し,心室側に伝導される頻度が,心房興奮頻度に対して2:1,3:1,4:1……といった関係を示す。そのため,心室興奮頻度が150bpm、100bpm、75bpmというような回数になる。 一方のPATは心房内でのリエントリー性頻拍である。心房興奮頻度は一般的には150~250/minで,発作の種類から反復型(repetitive type),慢性持続型(continuous type),発作性持続型(paroxysmal sustained type)にわけられる。 心房興奮頻度が250/minくらいまでで,房室伝導能が低下していない場合,心室には全興奮が伝導されることから心室レートも同じ数を示し高頻拍になる。ただし、心房興奮頻度が200/minを超えるような場合には2:1伝導、あるいはそれ以上を示すこともあり,いわゆるPAT with blockを示す。心電図上は,PATは心房内で興奮が発生することからP波を認めることとなるが,実際には判別が困難となることもしばしばである。 PATとAFLは、一言で言うと心房興奮頻度によって区別している。たとえば、12誘導心電図上Ⅱ,Ⅲ,aVFで鋸歯様波形を認め、しかも心室興奮頻度が150/min程度を示す場合(AFLの2:1)はAFLと考えられる。もしⅡ,Ⅲ,aVFでの心房興奮波(P波,F波)の判別が困難な場合,胸部誘導V1,V2が有用となることがある。 また,PATが心房での早期興奮が連続・持続するものであるのに対して,AFLは心房興奮が常に頻繁であるものの2:1伝導以下の3:1あるいは4:1伝導を示すため,当然,心室側は頻拍ではなく心電図上での判別は容易である。 そのため,迷走神経の過緊張(頸動脈圧迫,深吸気による息止め,あるいは咳払いなどによるValsalva効果など)を促すことが可能であれば,それによって房室伝導能が低下することで心室側は頻脈とはならず,P波やF波の観察が容易となり,判別しやすくなる。 


心房粗動:atrial flutter (AFL)の心電図の特徴として、Ⅱ、Ⅲ、aVf誘導でのギザギザした鋸歯状波があります。三尖弁を反時計回転する回路で、ここでは心室に2:1伝導してます。

(7)心房頻拍

今お話ししましたPSVTに関 しては、通常、基礎的な疾患がない方 に起こることがほとんどです。PSVT の代表的なものが2つあり、一つは房 室結節回帰性頻拍、もう一つは房室回 帰性頻拍と呼ばれます。前者の房室結 節回帰性頻拍というのは、房室結節が 二重伝導路、または三重伝導路になっ ていて、そこで電気興奮がぐるぐる回 ってしまうものです。一般的に人間は 約半分の方で房室結節が二重伝導路に なっているといわれているものですか ら(皆さんがなるわけではありません が)発症する方は比較的多く、1,000人 いると3人ぐらいといわれています。 もう一つの房室回帰性頻拍というのは WPW症候群の方に生じる頻拍であり

心房と心室の間で電気が旋回するよう なタイプです。 この2つは通常は健常な方に起こる のですが、一方で心房頻拍、心房粗動 は、心臓に何らかの原因を有している 方に生じるタイプです。その原因とは 年齢とともに起こってくる線維化や、 過去に心臓の外科的手術を受けたこと があるというようなケースが比較的多 いイメージです。 池脇 今先生の話で、びっくりした のですが、50%の方がどこかに二重伝 導路を持っているのですね。 山根 PSVTのような方ですね。た だ、原因を有しているからといって皆 さんが起こすわけではなくて、その中 でも発症する人は少ないのですが。 池脇 確認ですけれども、こういう 速い伝導路と遅い伝導路というのは、 結局何かの拍子にぐるぐるそこを、リ エントリーというのでしょうか、そう いうものが頻拍の原因になるというこ とですか。

山根 PSVTに 関 し て は そ う で す。 ただ、リエントリーは心房頻拍とか心 房粗動もそうですので、必ずどこかに 回路となる伝導路を持っていて、その 中で伝導速度が違ったり、不応期の差 があったりなどの要因でリエントリー が成立することになります。 池脇 質問の心房頻拍の場合は、先 生の先ほどの説明ですと、何らかの基 礎疾患、あるいは心臓の外科手術など

で、簡単に言うと、心房の一部が傷つ くことが何か異常興奮の因子になって しまうということでしょうか。 山根 これもまた細かく言い出すと いろいろなケースがあるので、一概に 言えないのですが、典型的なケースで は、何かしら心臓の中に回路を形成す る傷を持っていて、その周りを電気が 回るようなタイプになります。 池脇 いずれにしても、すべてでは ないにしても、何かのきっかけで刺激 がリエントリーでぐるぐる回ることに よって頻脈になる。パッと起こって、 パッと止まる。基本的にはそういうも のが、自覚症状になるかもしれません が、それが特徴なのでしょうか。 山根 症状は人によって違うのです が、先ほどから話が出るPSVTなどは 突然起こって突然止まるというパター ンが多いのですけれども、心房頻拍、 心房粗動は、1回出たものが長く続く というパターンのほうが多いですね。 人によりますが、出たものが何日間も 続くことが比較的多いと思います。

72歳,男性主訴:動悸,ふらつき現病歴:生来健康で,病院への通院歴なし。70歳ごろ,10分ほど持続する突然の動悸とふらつきを自覚した。72歳時,同様の動悸とふらつきを自覚した。症状が改善しないため,近医より当科外来を紹介され受診した。近医受診時の12誘導心電図を図1に示す。既往歴:特記事項なし家族歴:特記事項なし検査所見:身長165cm,体重58kg,血圧110/80mmHg,脈拍100/分・整,心音正常,呼吸音正常,腹部所見なし,下腿浮腫なし心エコー図:左室壁運動正常,EF 60%

発作時の心電図は,心拍数155/分の頻脈を呈している。頻脈性不整脈の診断は,①QRS幅(narrow QRS,wide QRS),②リズムの規則性(regular,irregular)を見ることが,最初のステップとなる。本症例は,wide QRSでリズムはregularである。Wide QRS regular tachycardiaの鑑別疾患として,心室頻拍,脚ブロックまたは変行伝導を伴う上室性頻拍が挙がる。また,同じ患者の非発作時の心電図と比較することも重要である。非発作時のQRS波と一緒か,特にQRS幅がnarrowかwideかを比較する。
 本症例は,当院受診時には図2のように洞調律の完全右脚ブロック波形で,発作時のQRS波と同様であった。この時点で,脚ブロックを伴う上室性頻拍の診断となる。引き続き,上室性頻拍の鑑別が必要となる。洞頻脈,発作性上室頻拍(PSVT),伝導比が一定の心房粗動(AFL)が鑑別疾患として挙がる。その鑑別のため,QRSに先行するP波の有無,鋸歯状波につき確認する。本症例は,下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)で下向きの鋸歯状波があるようにも見える一方で,QRSに先行する陰性P波があるようにも見える。その場合,確定診断と治療目的にCa拮抗薬(ベラパミル)を静注するとよい。心房粗動の場合,房室伝導比が低下することで粗動波を観察でき,確定診断に至ることができる。本症例は,当科受診時は洞調律に復していたためベラパミル静注は使用していないが,図3のようにホルター心電図で,伝導比が低下した箇所で下向きの粗動波を確認し,心房粗動の確定診断に至った。
 通常型心房粗動は,興奮が三尖弁輪を反時計方向に回転することにより発生する。三尖弁輪を1回転する周期は300/分前後になることが多い。本症例のように2:1で心室に伝導した場合,心拍数はその半分の約150/分になる。よって,上室性頻拍で心拍数が150前後の場合,2:1伝導の心房粗動も鑑別に挙げ鋸歯状波がないか確認することで,診断に近づく。

 

 

左室起源特発性心室頻拍(ベラパミル感受性心室頻拍)

右脚ブロック様の幅広いQRS波形+左軸偏位である。上室頻拍の変行伝導も考えられるが、右軸偏位が多い。V5、V6のQRS波形のR/S比が1以下で、心室頻拍に特徴的な所見である。Ⅱ、Ⅲ、aVFは下向きの上方軸であり、流出路起源は考えにくい。したがって、診断は左脚後枝領域起源の特発性心室頻拍である。一般的に、ベラパミルは上室頻拍の停止に有効だが、左脚後枝領域の心室頻拍にはベラパミル感受性のものがある。若年男性に多く、再発を繰り返すものの一般的に予後良好な心室頻拍で、カテーテルアブレーションによって根治可能である。