【症例】 40歳女性。発熱、下痢、紅斑

2日前に発熱(39.6℃)し、皮疹が現れたため、近医を受診した。同日の夜に嘔吐、下痢症状も出現。受診前日には悪寒、戦慄はあり、体温が40℃を超え、下痢の回数も増え(血便はなし)全身倦怠感が強くなったことから救急搬送された。血圧85/40mmHg、心拍数138回/分、呼吸数30回/分、SpO299%で意識清明、全身倦怠感著明。

ショックバイタルで全身状態も不良なので、ショックの原因を調べます。胸痛、呼吸困難、腹痛の自覚はありません。下痢については、食事で心当たりのものはありませんし、海外渡航歴もありません。周りに同じような症状の人もいません。咳、鼻水、喉の痛みなど風邪症状もありません。胸部、腹部、四肢に盛り上がりはない紅斑があります。痒みや痛みはありません。発熱と皮疹が出現する1週間前が最終月経で、4日間タンポンを使用が確認されました。1週間後に、腹部の皮疹落屑が始まり、指先の皮膚剥離も認めました。

アナフィラキシーショックは、ショックになるまでに数日たっているところが当てはまりません。心電図や胸部Xp、心エコーでは、心原性ショックや閉塞性ショックなども否定的です。血培、膣分泌物の培養と尿培養で、黄色ブドウ球菌が陽性(血培では黄色ブドウ球菌の陽性率は高くない)原因菌はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)と判明、最終診断は、黄色ブドウ球菌による毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)としました。

 

黄色ブドウ球菌によるTSSは、生理用タンポン使用歴やまたはその他の器具(例,避妊用スポンジ,ペッサリー)を留置がリスクとなる。膣内で増殖した黄色ブドウ球菌が産生する外毒素が血流中に侵入して発症する。月経中の女性約10万人当たり3例で発生していると推察されている。その他、黄色ブドウ球菌による術後感染や外傷、熱傷後に続発するのもある。ブドウ球菌によるTSSの死亡率は3%未満である。レンサ球菌によるTSSは、黄色ブドウ球菌によるものと類似するが,死亡率はより高くなっている(20~60%)。軟部組織感染症に続発するものが多く、約50%の患者が化膿レンサ球菌(S. pyogenes)菌血症を,50%が壊死性筋膜炎を起こしている(どちらもブドウ球菌によるTSSではあまりみられない)。

毒素性ショック症候群は(TSS),黄色ブドウ球菌(S. aureusまたは化膿レンサ球菌(S. pyogenes)の外毒素によって引き起こされる。臨床像としては,発症は突然であり,高熱,低血圧,びまん性の紅斑,多臓器不全などがみられ,重度かつ治療抵抗性のショックへと急速に進行することがある。もともと全身状態が良好な人が1~2日の速い経過で皮疹を伴う敗血症様症状を伴ったときには積極的に疑って治療する。

トキシックショック症候群の臨床基準としては、発熱(39~40.5℃で推移する)低血圧、びまん性斑状紅皮症と少なくとも他の2つの器官系統の障害を認める。

ブドウ球菌によるTSSでは,高熱、びまん性の紅斑に加え、嘔吐、下痢、筋肉痛、CK値上昇、粘膜炎、肝障害、血小板減少などを伴い、錯乱が生じることが多く、急速にショックに進行する。ブドウ球菌によるTSSのびまん性の紅斑性発疹には,発症後3~7日で落屑が生じることが多く,特に手掌および足底で顕著である。

レンサ球菌によるTSSでは,急性呼吸窮迫症候群(約55%),凝固障害,および肝障害の合併頻度が高く,発熱,倦怠感,および軟部組織感染部位の重度の疼痛がみられやすい。