ダニ媒介感染症とは、病原体を保有するダニに咬まれることによって起こる感染症のことです。人が野外作業や農作業、レジャー等で、これらのダニの生息場所に立ち入ると、ダニに咬まれることがあります。ダニがウイルスや細菌などを保有している場合、咬まれた人が病気を発症することがあります。

ダニに刺されることで起こる感染症はリケッチアやウイルスという病原体を保有するダニなどに刺されることにより起こる感染症です。2011年に初めて特定された、新しいウイルス(SFTSウイルス)を保有する「マダニ」に刺されることによって引き起こされる、「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」やリケッチアや細菌など病原体を保有する「マダニ」に刺されることで感染する「日本紅斑熱」「ライム病」「回帰熱」また、「つつが虫」に刺されることによって感染する「つつが虫病」などが主な病気です。
いずれも、すべてのマダニ、つつが虫が病原体を持っているわけではありませんが、ダニ等に刺されないための注意が必要です。

主な症状は、

  • 重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)
    ダニに刺されてから6日~2週間程度で、原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が中心です。時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳など)、出血症状(紫斑、下血)など様々な症状を引き起こします。重症化し、死亡することもあります。
  • 日本紅斑熱・つつが虫病
    ダニに刺されてから、日本紅斑熱は2~8日後に、つつが虫病は10~14日後に、高熱、発疹、刺し口(ダニに刺された部分は赤く腫れ、中心部がかさぶたになる)が特徴的な症状です。紅斑は高熱とともに四肢や体幹部に拡がっていきます。紅斑は痒くなったり、痛くなったりすることはありません。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もあります。
  • ライム病
    ダニに刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあります。症状が進むと病原体が全身性に拡がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られます。
  • マダニ媒介性の回帰熱
    ダニに刺されてから、12~16 日程度(平均15 日)に 発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの風邪のような症状が主で、時に、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が現れます。

いずれの疾患も、症状には個人差があり、ダニに刺されたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合も多くあります。見た目だけでの診断が困難です。治療が遅れれば重症化や死亡する場合もありますので、早めに医療機関に相談しましょう。

受診時には、
○月○日、野山に行った
○月○日、草むらで作業した
あの時、ダニに刺されたかもしれない
など日付け、場所、発症前の行動(2週間程度)を伝えましょう。

 

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

ちょっとディープなマニアックな疾患ですね。今まで診たこともないし、今後も一生診ないかも知れませんが、兵庫県でもちょくちょくあるみたいです。疾患では、見逃したら大変なcriticalな疾患を頭におきながらもシマウマさがしにならないように気をつけながら、よくある疾患common diseaseを上位において診断するわけですが、重症熱性血小板減少症候群???のような診断しても治療法もないような疾患は、想起できたとしても対症的に治療した結果はあまり関係ないのかもしれません。

重症熱性血小板減少症候群はマダニが媒介するウイルス感染症で、2009年に中国で発見されました。日本では2013年に初めて確認されましたが、2014年以降、毎年60~100例が報告されています。マダニの活動が活発になる4~10月に発症することが多く、フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニなどがこの疾患を媒介するとされていますが、マダニの病原体ウイルス保有率はきわめて低く、実際の感染リスクは非常に低いと考えられます。また、マダニ以外にネコなどの動物を介して感染することもあります。患者発生地はおもに近畿~北陸地方より西の地域で、野生動物が出没するような山間部であることが多いようですが、今後は西日本だけでなく東日本でも発生する可能性があります。潜伏期は6~14日間で、38℃以上の高熱、腹痛、嘔吐、下痢などの胃腸症状、頭痛、筋肉痛などが出現します。血液検査では血小板や白血球が減少し、肝機能障害なども生じます。通常、特別な皮膚症状は出現しません。皮膚にマダニの吸着が確認された例もありますが、確認できない例もあり、刺し口の皮疹も明確ではありません。現在のところ、有効な治療法はないため、輸液などの対症療法を行うしかありません。症例によっては意識障害、出血症状などが急速に進み、特に高齢者では重症化して多臓器不全で亡くなる場合もあります。

マダニ

SFTSは2011年に中国で報告された発表されたに新しいウイルス(ブニヤウイルス科フレボウイルス属)によるダニ媒介性感染症で、2013年1月に国内で海外渡航歴のない方がSFTSに罹患していたことが初めて報告され、死亡者も出た事で大騒ぎになったわけです。SFTSウイルス(SFTSV)に感染すると6日〜2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が多くの症例で認められ、血小板減少し、皮下出血や下血などの出血症状などを起こす。血液等の患者体液との接触により人から人への感染も報告されており、致死率は20%と報告されている。治療は対症的な方法しかなく、有効な薬剤やワクチンはない。

ダニ

ダニと言うとどうでしょう。寝ている時に刺されたとかアレルギー性鼻炎のアレルゲンとして検査したりしますよね。家の中にいるダニの種類ですが、一般的に多いのは、この4種類です。しかし、ダニが人を刺すことは稀と言われています。一番多いヒョウヒダニは、

日本紅斑熱

日本紅斑熱はマダニが保有している、リケッチア・ジャポニカという病原体によって起こるリケッチア感染症です。関東地方より西の地域で多く発生しており、年間で約300例が報告されています。症状としては、病原体リケッチアを保有しているマダニに刺されて2日から8日くらいの間に高熱が出て、全身にかゆみのない赤い発疹が現れます。この発疹は体幹から四肢に分布しており、手掌や足底にも認められます。そして、マダニに吸血された皮膚には、黒い小さなカサブタが付いた赤みが認められ、「刺し口」と呼ばれています。この時点でマダニはすでに脱落しているので、刺し口には虫体は認められません。刺し口は脇の周囲、下腹部や太ももの内側など、おもに衣類に被われた柔らかい部位に見つかることが多く、日本紅斑熱を疑う重要な症状です。このように、高熱・発疹・刺し口が日本紅斑熱のおもな特徴です。ただし、日本紅斑熱の患者さんのほとんどは、マダニに刺されたという自覚がありませんので、病歴や臨床像から、まずはこの病気を疑うことが重要です。また、高熱と発疹を認める疾患はほかにもたくさんありますので、慎重に鑑別する必要があります。治療としてはテトラサイクリン系の抗菌薬が効きますので、適切に診断し、治療すれば治ります。しかし時には血小板が低下したり臓器障害が進行したりして重症化する例もあるので注意が必要です。
日本紅斑熱は微生物「リケッチア」を持つマダニに刺されて発症する。人から人へは感染しない。 潜伏期間は2~8日。発熱や全身の発疹、マダニの刺し口周辺に出る赤みが特徴だ。ほかに、だるさや嘔吐、むくみなど様々な症状が起こる。 テトラサイクリン系の抗菌薬が有効だ。点滴薬と飲み薬がある。農作業や山菜採りの際には、長袖の服を着る。 帰宅後は、衣服にマダニが付着していないかを確かめる。入浴時は、全身を鏡に映し、刺されていないかをよく見る。 日本紅斑熱は、マダニが媒介する感染症の中で、患者数が多く、増加傾向にある。国立感染症研究所には 20年以降、毎年400人以上の報告がある。西日本に多いが、近年、新たな報告地域が出ている。 日本紅斑熱の原因となるリケッチアへの感染が報告されているイノシシやシカ、アライグマなどが生息する地域のマダニは、 保有率が高い傾向がある。 こうした野生動物のそばで暮らす人たちは特に、日頃から十分な対策をとってほしい。

つつが虫病

この疾患は感染症法では「つつが虫病」と表現されますが、一般に「ツツガムシ病」とも表現されます。これは、山裾や田畑、河川敷などに生息するツツガムシというダニ類の幼虫の体内にオリエンチア・ツツガムシというリケッチアを保有している場合に、それに吸着されることで感染するリケッチア感染症です。つつが虫病を媒介するツツガムシ(資料6)は数種類が知られていますが、成虫は土中で生活し、皮膚には吸着しません。また、幼虫は体長約0.3mmという小さいダニですので、吸着されてもほとんど気付きません。戦前は北陸~東北の限られた地域で夏に発生する風土病(古典的つつが虫病)として恐れられていましたが、戦後はそのタイプは激減しています。近年では北海道を除く全国各地で晩秋から早春に見られる新型つつが虫病が多く、年間400~500例が発生しています。つつが虫病は病原体リケッチアを保有したツツガムシに吸着された後、5~14日間の潜伏期間を経て、まず39~40℃の高熱が出ます。全身倦怠感や頭痛、筋肉痛、関節痛なども伴います。その2~3日後には全身にかゆみのない赤い発疹が現れます。また、全身のリンパ節腫脹も認められます。そして、脇の周囲や下腹部、太ももの内側など、主に衣類に被われた部位に1か所の黒いかさぶたを付けた赤みが認められ、「刺し口」と呼ばれます(資料7)。この時点でツツガムシの幼虫はすでに脱落しているので、この刺し口の皮疹部には虫体は認められません。これらの症状(高熱、発疹、刺し口)は日本紅斑熱とよく似ていますので、区別が難しい場合があります。治療としてはテトラサイクリン系の抗菌薬が有効ですが、治療が遅れると重症化することがあります。

 

ライム病

ライム病は、ライム病ボレリアという病原体を保有するマダニにより媒介される感染症です。もともと、米国コネチカット州ライム地方では関節炎を主体とする疾患が多発し、ライム関節炎として知られていましたが、これがボレリア感染症であることが分かりました。日本ではシュルツェマダニだけがこのボレリアを保有しており、おもに北海道や本州中部山岳部でのシュルツェマダニ刺症によって、ライム病を発症することが知られています。年間、10~20例が報告されていますが、実際の患者数はもっと多いと考えられます。症状としては、ボレリアを保有するマダニに刺されて数日~14日後に、刺された部位に赤い皮疹が出現し、次第に周辺に拡大して5~20cmほどの大きな赤みになります。これは「遊走性紅斑」と呼ばれます(資料8)。倦怠感や発熱、筋肉痛、関節痛などを伴うこともありますが、症状が軽いと気付かない場合もあります。時には顔面神経麻痺などの神経症状が現れることがあります。治療としては、テトラサイクリン系やペニシリン系の抗菌薬が有効ですが、適切な治療が行われないと、皮膚症状、神経症状、循環器症状、眼症状や関節炎など、多彩な症状が出現します。

回帰熱

回帰熱の病原体は、スピロヘータ科ボレリア(Borrelia)属の微好気性らせん菌です。マダニ媒介性回帰熱の病原体ボレリアとしては、世界的にはB. duttoniなど十数種類が知られています。北海道の2症例では、B. miyamotoiが検出されています。 ボレリア属菌は、酸や熱に弱く、一般的な消毒剤(消毒用アルコールなど)や台所用洗剤、紫外線照射等で死滅します。潜伏期間は、マダニに刺された後、12~16日程度(平均15日)です。発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの症状が主で、時に、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸不全、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が出現します。回帰熱と同様の症状を呈しうる疾患には様々なものが考えられますが、ダニ媒介性の疾患としては、つつが虫病、日本紅斑熱を含むリケッチア感染症、ライム病、アナプラズマ症、エーリキア症などが挙げられます。そのほか、レプトスピラ症、ブルセラ症(波状熱)、鼠咬症、野兎病や、海外渡航歴がある場合は、さらに、マラリア、デング熱などと鑑別が必要です。マダニによる咬傷後、症状が認められた場合は、回帰熱を疑います。また、患者がマダニに刺されたことに気がついていなかったり、刺し口が見つからなかったりする場合もあります。そのため確定診断には、発熱期の血液検体(全血、血清、血液培養ボトル等)を用いて、以下のような方法により、病原体診断を行います。ボレリア菌の分離・同定、暗視野顕微鏡下鏡検による病原体の検出、蛍光抗体法等による末梢血スメアの観察による病原体の抗原の検出、PCR法による病原体の遺伝子の検出なお、同じくボレリア属菌によるライム病については、これまで実施されてきた検査では、回帰熱との鑑別ができないことから、過去にライム病と診断された症例についても、実際には回帰熱であったか、もしくは、回帰熱との共感染であった可能性があります。よって、回帰熱もしくはライム病を疑い、病原体診断を行う場合は、回帰熱・ライム病両方の検査を依頼する必要があります。これら確定診断のための検査は、国立感染症研究所で実施することが可能ですので、まずは最寄りの保健所にご相談ください。治療は、ミノサイクリンやドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の投与が有効です。ペニシリン系の抗菌薬も有効ですが、殺菌的な抗菌薬を使用した場合、希にJarisch-Herxheimer反応(ヤーリッシュ-ヘルクスハイマー反応)*を起こす場合があり、注意が必要です。回帰熱は感染症法において四類感染症に位置付けられていますので、患者を回帰熱と診断した場合には、直ちに最寄りの保健所長を通じて届け出てください。