乳がん

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1980年代のアメリカの小さな町で一人の女性が女の子を残し、乳がんで亡くなりました。 乳がんで若くして亡くなった女性の母親が、乳がんによって大切な人を失う悲しさを繰り返さないよう願いを込めて、残された家族と一緒にピンクリボンを作ったのが最初と言われています。
ピンクリボンは乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝えるシンボルマークです。

 
 

 

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日本人女性が今、もっとと罹りやすいかがんが、乳がんです。米国では8人に1人が患うという乳がんですが、最近、日本でも急増し、日本人女性の12人に1人乳がんになるといわれています。 乳がんが増加している原因には、食生活の変化で脂肪分の多い食事が増えていることや、社会生活の変化で未婚や高齢出産の女性が増えていること、肥満、アルコール、喫煙などが関係していると言われています。

 
 



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乳がんは他のがんに比べて、若い年齢で発症するのが特徴です。30歳代から増えはじめ、40歳以上になると急カーブで増加しています。

 
 

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乳がんは、乳房のなかにある乳腺(母乳をつくるところ)にできる悪性腫瘍です。
乳腺は、母乳を生産する「小葉」と、母乳を乳頭まで運ぶ「乳管」に分けられます。
乳がんの約90%は乳管から発生し、乳管がんと呼ばれます。小葉から発生する乳がんが約5%あり、小葉がんと呼ばれます。

乳腺
 

最初、乳がんは主に乳管を作っている細胞から発生します。そして、がん細胞は乳管の中に向かって増殖しますが、やがて乳管内をはうように広がって行きます。乳がんの種類は非浸潤がんと浸潤がんの二つに大きく分けられ、がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを非浸潤がんといい、リンパ節やほかの臓器へ転移することはありません。がんが大きくなっても乳管内にあるかぎりは早期のがんに分類されます。この段階だと局所の手術で100%完治しますが、乳管の中をどんどん這っていくので、これを取り残さないようにしっかり切除することが大切です。乳管や小葉を包む基底膜を破ってまわりに広がると、しこりをつくったがんを浸潤がんといいます。しこりで見つかるがんは通常浸潤がんなのです。浸潤がんはまわりの血管やリンパ管の壁を破る力があるので、がん細胞がリンパ管や血管の中に侵入し、血液やリンパ液にのって全身に広がり、骨や他の臓器に転移・再発を起こすと命に関わります。 

乳管

ただし、乳がんの特徴は、一般的には進行が遅いことです。浸潤癌になってもすぐに転移するわけではありません。わずかな浸潤の段階で見つければ、完治の可能性も十分にあります。一方で、5㎜しかない乳がんでも再発して亡くなってしまう方がおられます。4㎝を超えて見つかっても、治癒して生存されている方がおられます。一言に乳がんといっても様々な種類があるのです。これは進行度とは別で、実はそうした振る舞いをするがんの種類だったと考えるほうが正しいことがわかっています。
 

乳がんは,骨,肺,肝臓,脳などに転移することがあります。乳がんがしこりとしてみつかるだいぶ以前から,すでにからだのどこかに微小転移の形で存在すると考えられています。このような微小転移が分裂・増殖し,1cm前後の大きさになるとCT,MRIやPET─CT,骨シンチグラフィなどの画像診断で遠隔転移としてみつかるようになります。

微小転移はしばしばタンポポの種に例えられます。タンポポの種は,風に吹かれて遠くの土地まで飛んでいき,発芽に適した場所で芽を出しますが,芽を出して花を咲かせるまではみつけることはできません。それと同じように乳がんと診断された時点ですでに,微小転移が存在する場合があります。微小転移があるかどうかは,乳がんの性質(☞Q27参照)や発見された時期により異なります。微小転移を伴う確率は腫瘍の大きさや腋窩リンパ節転移の有無や程度,悪性度(グレード)などさまざまな検査結果から推定します。 

乳ガンの進行度

ガンは、まず腫瘍(T)ができ、リンパ節に転移をし(N)、そして全身に散っていく(M)経過をとることが多いとされます。直接、血流に乗って転移を起こすこともありますが、腫瘍近くのリンパ節に転移があれば、その先の全身に転移がある確率も高まります。
乳ガンに限らず、ほぼ全てのガンが、このT N Mによって、病期が決まります。  
一般の方は、病期を早期、末期と分けますが、我々は (0) I II III IVと分けます。  
一般に言われる分類だと、Iが早期、IVが末期、II、IIIが進行ガンとなります。

T N Mについて

Tは主に腫瘍の大きさです。乳ガンの大きさは触診、マンモグラフィ、超音波検査、MRI検査などで調べます。

乳ガンでは、1cm、2cm、3cm、5cmが重要な分岐点です。
1cm以下で見つかると、抗ガン剤で治療される可能性はほとんどありません。2cm以下だと、一応、早期ガンとして扱われますが、1cmを超えると化学治療を行う場合があります。2cmを超えると早期ガンではありません。したがって抗ガン剤を使われる可能性はさらに高まります。3~4cmは温存切除で対応できるかどうかの基準になります。3~4cm以下が温存切除の適応になります。乳腺の大きい人ほど腫瘍が大きくても残せる可能性があります。5cmを超える、皮膚に浸潤する、胸の筋肉に浸潤するとさらに進んだ進行ガンとなります。まず抗ガン剤が必要となると思って間違いありません。ガンの大きさは自分で触ってもある程度分かります。少し大きめに感じることが多いので、参考にはなりますが、正確な数字は主治医に聞きましょう。

ここで0cm、いわゆるしこりを触らない、浸潤ガンの部分がない、特殊な早期乳ガンとして、非浸潤性乳管ガン(DCIS)と呼ばれる乳ガンに触れます。このガンは完全に切除されれば、転移や再発することはなく、99%以上治癒することが知られており、その意味からは超早期ガンです。触ることはできないので、主に検診で発見されます。しかし逆にそのガンの進展範囲の確認が難しく、進展範囲が広くなることが多いため、たとえ早期であっても逆に温存切除が難しい場合があります。繰り返しになるかもしれませんが、病期とは、そのガンが治るかどうかの基準です。抗がん剤が必要かどうか、温存ができるかどうか、は別の基準です。

 

乳がんは遺伝するの?

遺伝性乳がん

遺伝的な要因で起こる遺伝性乳がんは、乳がん全体の7~10%程度を占めると考えられています。遺伝性乳がんとは、BRCA1、BRCA2という遺伝子に変異がある状態を受け継いでしまうことをいいます。これまでの研究で、BRCA1もしくはBRCA2と呼ばれる遺伝子のどちらかに変異が見られると、遺伝的に乳がんを発症しやすい体質であることがわかっています。遺伝性乳がんの原因の変異遺伝子は、親から子へ、性別は関係なく2分の1の確率で伝わるので、必ずしも祖母や母親が遺伝性乳がんだからといって子ども全員が乳がんや卵巣がんを発症するわけではありません。

BRCA

その結果生涯の発がんリスクが一般の女性に比べ、10〜19倍、6〜7割の人が乳がんにかかることがわかりました。75歳までに発症する確率は80%と言われています。また、BRCA1もしくはBRCA2遺伝子に変異があると、乳がんだけではなく卵巣がんも発症しやすく、こうした遺伝子変異から発症するある乳がんや卵巣がんは「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれています。

BRCA

 

遺伝子検査は日本では保険適応になっていませんので、費用は約20〜40万円かかります。血液中の白血球からDNAを取り出し、BRCA1か同2に変化があるかどうかわかるようになりました。しかし、遺伝子情報を知ると言うことは、社会的にもデリケートな問題です。一度知った遺伝情報は生涯変わることはありません。受けた本人だけでなく血縁者にも影響が及ぶこともあります。検査時にたとえ独身者でも将来子どもを持てば、50%の確率で引き継がれる。米国には遺伝子差別を禁じた法律があるが、日本にはありません。「陰性」を期待して安易に検査を受けるのはよくありません。検査を受ける際には病気への正しい理解が欠かせません。最近、専門の医師に相談できる遺伝性乳がんのカウンセリング外来が増えてきています。

カウンセリング

アンジェリーナ・ジョリー 2013年5月14日付のニューヨーク・タイムズ紙に乳がん予防のため、両乳房切除・再建手術を受けていたことを公表し、女優としてだけでなく、生き方、ライフスタイルにおいても日本でも大きな話題となりました。記事によれば、アンジェリーナさんの母親が、2007年に56歳の若さで乳がんにより命を落としていることを受けて、アンジェリーナさんが遺伝子の検査を行った結果、乳がんの発症率が非常に高いBRCA1という遺伝子の変異が見られ、アンジェリーナさんの乳がんの発症リスクは87%、卵巣がんが50%と診断されたという。彼女は、両乳房切除手術、約3カ月後には再建手術まで終えました。

記事の中で彼女は、がんに怯えることなく子どもたち(養子を含む6人の子どもを育てている)と長く生きるために手術を決断したと言っている。胸の傷はほんの小さなもので、女性としてのアイデンティティも保つことができ、そういう選択肢があることを他の同じ境遇の女性たちにも知ってもらいたい、そしてこの情報を役立てて欲しいと、公表することを決めたと言っています。この記事に対しての反応は、ほとんどが「勇気ある選択だった」というものだったが、医療関係者の間では「乳がんの遺伝子を持っているからといって、必ずしも乳房切除手術が適切とは言えない」という慎重な意見も多かった。

また、遺伝子検査の費用は約20万円で、手術費用は切除手術とインプラントを合わせて約200万円~500万円。日本では2013年7月から乳房切除による人工乳房の再建の保険適用が開始されるが、予防のための乳房切除には適用されない。また、働いている女性であれば仕事を休まねばならず、病気の予防のための手術に3カ月の時間をとるのは時間的、金銭的な負担がかなり大きいと言えるだろう。

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乳がんは、早期に発見すれば治癒率が高いがんです。 早期の病期0や病期1(大きさが2cm以下で転移していない)で発見すれば治療成績は非常に良いという結果が得られています。乳がんは、早期発見すれば決して怖い病気ではありません。

 
 

 

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しかし、乳房以外の部位に転移している場合は、放射線療法や抗がん剤(ホルモン剤や分子標的薬など)も併用して治療を行います。

 
 

 

女性にとっては年齢に関わらず、乳房を失ってしまうことによる精神的苦痛は察して余りあるものがあります。 早期であれば乳房温存治療が可能で、治療後もQOL(生活の質)を下げることなく生活できることがわかっています。

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乳がん検診を受けましょう

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マンモグラフィによる乳がん検診は、乳がん死亡率を減らすことが科学的に確認されています。アメリカやイギリスでは40~50歳代の女性の70%以上が2~3年に1回はマンモグラフィを受診することで、乳がん発生率は増加しているにもかかわらず、乳がん死亡率が減少しています。

 
 

 

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たつの市の乳がん検診受診率は14.8%と低く(平成20年度)受診率の向上が急がれています。いつまでも健康でイキイキと暮らしていくために、 40歳からは少なくとも2年に1度マンモグラフィ検診は必須です。

 
 



マンモグラフィを受けられる方へ

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「乳がんは、産婦人科じゃないの?」乳がんの検診は何科に行ったらいいのかわかりにくい。一般の病院では外科で診療しているが、まだまだ、乳腺を専門に診てくれる医療機関は少なく、片手間に診療しているところも多い。厚生労働省は、医療の専門化が進むなかで、「患者や住民が自分の病状にあった適切な医療機関の選択を支援するため」2008年4月から標榜診療科の表記方法が緩和され、「乳腺外科」と標榜することができるようになりました。

 
 

 

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マンモグラフィや超音波検査では、触診ではわからない小さながんを発見できます。

 
 

 

マンモグラフィ検査の方法

プラスチックの板で乳房をはさみ、平らに乳房を伸ばして圧迫します。撮影の方向は片方の乳房に対して上下と斜め横から挟みます。圧迫することで、乳房の厚さを均一にして乳腺を広げて伸ばし重なりを少なくします。また、薄く伸ばしたほうが放射線量を少なくできます。

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「乳がんは自分で見つけてね」

内科の診察で、胸部の聴診などで下着を外すことに抵抗のある人が増えているようです。小学校の内科検診でも「ブラジャーは外さなくていいですよ」と指導されている時代です。当院の場合も、肺や心臓の聴診を真剣にしなくてはいけないような患者さん以外は、あえて強要はしていません。聴診器を当てるのさえ、気をつかう昨今に、ましてや下着を外させて、胸をジロジロ見たり、触ったりすることは、乳がんを心配して受診された患者さんでないと、やりずらい診療行為ですね。ちなみに、アメリカでは、見落とした大変なことになるので(訴訟社会)すべて、しっかり診察するようです。患者側も高い診察料を払う対価として、ちゃんと全部、診てもらうことを要求します。お国柄ですね。

自己検診

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乳がんは「唯一自分で発見できるがん」といわれています。 乳がんの発見には、乳房を目で観察(視診)したり、触ったり(触診)する「自己検診」が重要です。 乳房のしこりは、1cmぐらいの大きさになると、注意深く触るとわかるようになります。

 
 

 

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日本乳癌学会『全国乳癌統計』によると、乳がんの診断を受けた人の中で、自分でしこりなどの異常に気づいた「自己発見」は73.8%。じつに4分の3の人が、自分で乳がんを見つけています。
毎月自己検診を続けていれば、1cmの大きさの乳がんを自分で発見できるとされています。乳がんは、早期発見が大切です。早期発見した場合、5年後の生存率は98%です。

 
 



自己検診の実際

入浴時に 乳房に石けんをつけ(すべりがよくなり、調べやすくなります)4本指をそろえて、指の腹で静かに軽く押さえながら、乳頭を中心にうずまき状に小さな円を描くように、何回もていねいに動かして乳房全体をくまなく触ります。乳がんのしこりは一般に硬く、境目がはっきりしないことが多く、痛みはほとんどありません。

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風呂上がりに、鏡の前に自然な状態で立ち、両手を上げたり下げたりして、両方の乳房を観察します。形、大きさ、乳房の高さにちがいがあるか。乳房の皮膚の一部や乳頭にへこみ、ひきつれはないか。乳頭に異常な分泌液がでていないか。

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湯上り後に 仰向けに寝て(片方の肩の下に薄い枕や座布団 あるいはタオルを折って敷くと調べやすい)入浴時と同じように指をそろえた指腹で移動しながら両方の乳房のすべての範囲をまんべんなく触って調べます。最初は腕を体につけて行い、次は腕を挙げて触ってみます。

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ワキの下に手を入れてしこりがあるかどうか指先で確かめます。

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両方の乳輪部分を摘みながら乳首から異常な分泌物がないか、乳頭に湿疹やただれがないか調べます。

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自己検診の方法をマスターして、月に1度忘れずに行うようにしましょう。生理が始まって1週間後に行います。この時期は女性ホルモンによる乳房の張りが治まり、乳房が柔らかく安定しています。閉経した人は、月に1度、日を決めて行いましょう。もし、しこりを見つけてもパニックにならないで下さい。しこりの80%はがんではありません。落ち着いて、すぐ医師に相談しましょう。当院では、にしはら乳腺クリニックを紹介しております。

 治療
 
乳癌は、遺伝子発現解析に基づいて、Luminal A、Luminal B、HER2-enriched、
Luminalとは、乳管を形成する管上皮細胞(Luminal cell)に発現する遺伝子が発現している乳がんで、乳がん全体の60%を占め、エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんの大部分がこれに該当する。これらは、ER関連遺伝子、HER2関連遺伝子、増殖関連遺伝子の発現の程度によって二つに分類されています。Luminal Aは、ER関連遺伝子の発現が高度であり、HER2遺伝子と増殖関連遺伝子の発現が低いタイプで、すべての病型の中でももっとも予後がよく、乳がん全体の40%を占めます。それに対し、Luminal Bは、ER関連遺伝子は発現はしているが弱く、HER2遺伝子は発現していないものから強く発現しているものまでが含まれ、増殖関連遺伝子が強く発現しているタイプで、Luminal Aと比較して予後が悪く、乳がん全体の20%を占める。HER2-enrichedは、HER2遺伝子と増殖関連遺伝子が高度に発現しており、ER関連遺伝子とプロゲステロン受容体ともに陰性である。HER2関連遺伝子陽性乳がんのうち、約半分はこの病型に分類され、乳がん全体の10〜15%を占める。triple negativeは、ER関連遺伝子とプロゲステロン受容体、HER2関連遺伝子すべてが陰性で、増殖関連遺伝子の発現が高度であり、もっとも予後の悪い病型であるが、必ずしも薬物療法が無効というわけではない。
 
ルミナル型:女性ホルモンに対する受容体(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)をもつ「女性ホルモン受容体陽性乳がん」の大部分と一致する乳がんのこと
HER2陽性:がんの増殖に重要な役割を果たしているHER2受容体が過剰に発現しているタイプの乳がんのこと
トリプルネガティブ:2つの女性ホルモン受容体(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)とHER2受容体をもっていない乳がんのこと
 
 

乳がんは、進行の程度によって、「非浸潤がん」と「浸潤がん」に分類することができる。

 

「風で遠くまで運ばれていくタンポポの種のようなものです。地面に落ちた種は、小さくて見えませんが、春になれば芽を出して成長してきます。それと同じように、血液やリンパ液で運ばれたがん細胞は、タンポポの種のように全身のどこかにたどりつき、そこで大きくなることがあるのです」非浸潤がんか、あるいは浸潤がんかは、画像検査の結果を評価したり、腫瘍の大きさを参考にするが、診断を確定するには、病理診断が不可欠である。非浸潤がんと診断された場合には、微小転移が起きている可能性はほとんどないので、局所治療である手術だけでよく、薬物療法は必要ない。一方、浸潤がんと診断された場合には、微小転移があることを前提に治療を行わなければならない。

微小癌

 

浸潤がんの場合には、局所治療としての手術や放射線治療に加え、全身治療としての薬物療法が行われる。命を落とさないためには、乳房温存手術か乳房切除術かという議論は昔のことで、命を救うために本当に必要なのは、タンポポの種のように全身に散った微小転移に対して、適切な薬物療法を行うことなのです。そのためには、微小転移が起きている可能性がどの程度なのかを正確に推測し、それに対してきちんと薬物療法を行う必要があります。

乳がんの薬物療法で使われる薬には、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬があります。抗がん剤は、殺細胞作用を持つ薬で、アンスラサイクリン系、タキサン系などのタイプがあります。ホルモン剤や分子標的薬に比べると、一般的に副作用は強いのが特徴です。これらを組み合わせて使用する多剤併用療法が行われています。併用する薬の略称を組み合わせて、「AC」はアドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)とエンドキサン(一般名シクロホスファミド)の併用「CEF」はエンドキサン、ファルモルビシン(一般名塩酸エピルビシン)と5-FU(一般名フルオロウラシル)の併用です。

乳がんの約7割は、エストロゲンなどの女性ホルモンの影響を受けて増殖する。針生検や手術で採取した乳がん組織を、病理検査でホルモン受容体を染色する方法で検査する。ホルモン受容体を持つこうした乳がんを対象に、エストロゲンが卵巣から分泌されないようにする「LH-RHアゴニスト」、卵巣以外の部分でエストロゲンが合成されるのを防ぐ「アロマターゼ阻害剤」、エストロゲンががん細胞に働きかけるのを阻止する「抗エストロゲン剤」などがある。

分子標的薬は、乳がんの治療にはハーセプチン(一般名トラスツズマブ)がある。がん細胞にHER2タンパクが過剰発現しているか、あるいはHER2遺伝子が増幅しているかどうかを調べ、陽性の場合に使われる。

 
 
 
 
 
 
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日本ユニセフ協会大使としても知られる歌手、アグネス・チャンが、平成19年10月1日に聖路加国際病院で、乳ガン切除(乳房温存)の手術を行ない、 無事に成功。 (9月19日に右胸にしこりを発見、精密検査を受けたところ25日に初期の乳がんとの診断を受けた)アグネスは乳がんと診断されたときは大泣きしたというが、手術を受ける上で一番の力になったのは、「3人の子供がもう少し大きくなるまで見ていたい」との思いだったという。「胸は小さくなったかもしれないけど、ハートはビッグになりました」と笑顔で復活をアピール。

 
 

 

奇しくも10月1日は「乳がん早期発見啓発キャンペーン」の一環として、各地でピンクのライトアップが始まります。

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乳がん Q&A

Q:おっぱいが大きいと乳がんになりやすいの?

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A:乳房が大きいと乳がんになりやすいと思っている方がいるようですが、乳房の大きさは、脂肪の量でほとんど決まります。一方、乳がんは乳腺組織にできるのですが、 乳房が小さいから乳腺が少ないというわけでもありませんので、 乳房の大きさと乳がんはほとんど関係ないと考えられいます。 ただ、乳房の大きい人は脂肪が多く、その分しこりが発見しにくいということはあるかもしれません。

 
 

 

Q: 男は乳がんにならないの?

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A: 乳腺は女性のほうが発達していますが、男性にもありますので、「賢示君」も乳がんにかかります。ただし、発生率は女性の1/300程度です。

 
 

 

Q: 乳がん検診はいつから受けたらいいの?

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A: 乳がんのため24歳で亡くなった女性を取材した番組「余命1カ月の花嫁」をきっかけに、TBSは20〜30代女性を対象にした乳がん検診のキャンペーンをを展開している。しかし、20〜30代への乳がん検診の有効性に科学的根拠はなく、放射線被曝(ひばく)やストレスを増やし、不必要な検査につながるなど不利益が大きいとして、医師や患者らが中止するように要望している。国は指針で、乳がん検診は40歳以上を対象に、マンモグラフィー(乳房X線撮影)検査と視触診の併用を推奨している。ただ、40歳未満の乳がん罹患(りかん)者は年々増えており、できれば30歳台から乳がん検診に対する認識をもち、自己検診は始めたい。

 
 

 

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がん検診は、乳がんに限らず、いろいろながん検診で科学的な根拠の問題や費用対効果の問題が議論となります。近藤氏の本を読んでもあたりまえのように行われている「がん検診」にエビデンスがなく、一人のがんを見つけるのにかかる費用があまりに高くなると、どこまで公費で賄うか、何でもかんでもOKというわけにはいかななくなっています。1998年に厚生省が「がん検診の有効性等に関する情報提供のための手引」を発表しています。この報告書によると胃癌、子宮頚癌、大腸癌については、「有効性を証明する十分な根拠がある」または「奨励する証拠が十分にある」としています。また子宮体癌、肺癌、乳癌については、「有効性を示す根拠は必ずしも十分でない」としながらも、癌のようにその転帰が死亡など重篤な事態に至る可能性があるものについては、なかなか否定もできないものなのです。 個人的には、今の時代に、胃がんや大腸がんで命を落とすのはもったいないと思っております。患者さんひとりひとりにとっては、がんになるかならないかは100%かゼロ%です。日常診療では、患者さんとの対話の中で、検診(本来は自己責任)を上手に組み込んでいくことが大事と感じています。