アナフィラキシー 

アナフィラキシーの主な原因は、食物や薬剤、ハチなどですが、中でも件数が圧倒的に多いのは食物アレルギーで35%を占めています。食物アレルギーは、卵や小麦などの特定の食物が原因で起こるアレルギー反応で、児童生徒に限らずすべての年齢層に見られます。

 

アレルギーの原因

大きな割合を占めている卵、牛乳、小麦は食物アレルギーの三大主要原因食品といわれており、全体の約60%以上を占めます。次いで甲殻類、果物類の割合が多いです。

食物アレルギー

食物アレルギーの頻度は、乳児で 5〜10% であり、年齢とともに減少して、小中学生では 1.3% 位と推測されています。即時型食物アレルギーで食後 60 分以内に症状があらわれ病院を受診した患者さんの厚生労働科学研究班の全国調査(右図)では、調査期間中に医療機関を救急受診した 2501 例中、 乳児が 803 例(32.2 %)と最も多く、1 歳児が 522 例(20.8%)で乳児と 1 歳児で救急受診例の半数以上を占め、5歳以下では 80.1%でした。年齢とともに救急受診例は減少していきますが、一方では 20 歳以上の成人も 6.0 %みられました。このデータが病院受診者の調査であることを加味すれば、成人の食物アレルギー患者も相当多数存在すると考えられます。

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アナフィラキシーによる年間死亡者数

一方、件数は食物アレルギーほど多くはないものの、重症化しやすいのは薬剤と蜂毒です。日本のアナフィラキシー・ショックによる死亡者は年間60人前後ですが、その2大原因は医薬品とハチ刺傷であり、ほとんど小児ではなく成人です。最も多いのは、医薬品であり、次が蜂であると厚生労働省の統計で発表されています。その二つが全体の76%以上であり、その次が食物で5%、その他が17%となっています。

アナフィラキシー

アナフィラキシー症例の経験がある医師へのアンケート調査では、医薬品の種類で、「造影剤」が53.1%で最多、「抗菌薬」36.9%、「解熱鎮痛薬(NSAIDsなど)」11.9%、「抗癌剤」11.2%の4種が2桁を上回った。他には、「麻酔薬」8.7%、「血液製剤」7.1%、「筋弛緩薬」6.7%、「生物由来製品」3.5%と続いた。(m3.com医師会員 1106人 2019年調査)

 

造影剤

英国のアナフィラキシーによる死亡事例の検討において、心停止もしくは呼吸停 止に至るまでの時間(中央値)は薬剤で 5 分、ハチ毒で 15 分、食物で 30 分であり、 薬剤性アナフィラキシーはまさしく短時間に急変する可能性が高いといえる。さら に薬剤性アナフィラキシーで死亡した 55 人の中で、心停止もしくは呼吸停止前にア ドレナリンを投与されていたのはわずか 16 %であったことも報告されている。

アナフィラキシー

 

アナフィラキシーABC

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かかりつけ医で最も多いのは、やはり蜂ですね。アレルギーのある人は、1回目より、2回目、3回目と重症になることが多いようです。山へ行くときは、化粧は薄め、白い服にしましょう。(黒い服、花柄は控えましょう)外来に、蜂に刺されてから30分以上して来院され、局部の腫れと痛みだけだと、冷やして、ステロイド軟膏ぐらいでOKでしょうか。じんま疹ぐらいなら抗ヒスタミンで様子もみれます。しかし、アナフィラキシーを起こしているようなら注意が必要です。アナフィラキシーショックで、死ぬのはなぜでしょうか。ひとつは、喉頭浮腫です。喉の奥が腫れて、ゼロゼロ言っているようなら危険です。挿管の用意をしておきましょう。次に、喘息発作です。呼吸がしにくい、咳などの症状があれば、危険です。聴診するとヒューヒュー言ってませんか?。最後に、末梢血管が広がって、ショック状態です。顔や末梢が真っ赤になって、血圧が55/触診 脈120なんて言えば、緊急事態ですね。

 

 
まずは、ボスミン(エピネフリン)0.3mg 筋注(なるべく大きな筋肉 臀部か大腿外側)です。
10分様子をみて、良くならないようなら、再度 0.3mg 筋注(皮下注は血管が収縮していて効かない)します。

次に、ルート確保です。輸液(細胞外液 生食 or リンゲル液 500〜1500ml 最初の10分間で10〜20ml/kg どんどん入れましょう)

◎酸素投与     必要に応じて
◎ステロイド    ソル・コーテフ 500mg点注
◎抗ヒスタミン薬  アタP 筋注

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たまに、高血圧でβ遮断薬、α遮断薬、ACE阻害薬 Ca拮抗薬などを服用しており、ボスミン筋注が効きにくい人がいます。そういう場合は、グルカゴンの筋注(交感神経を介さずにcAMPを増やす→心収縮力を上げる)が効果あります。ステロイドや抗ヒスタミン薬(エビデンスなし)は、効果発現まで4時間以上かかります。一旦よくなったとしても、二峰性で症状がぶり返す場合(5〜33%)もあり、 最低でも4時間は経過を見て、原則は入院して経過観察です。(特に子供は、24時間)

 

アナフィラキシーとは?

アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与えうる過敏反応」であり,アナフィラキシーショックとは「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義される。アナフィラキシーの既往を有する頻度は,海外では0.3~1.6%と報告されており,わが国の児童では0.3~0.6%とされる。多くはIgEが関与する免疫学的機序により発生する場合をアナフィラキシーといい、IgEを介さないで(造影剤などが代表的)直接、肥満細胞などを刺激する時は、類アナフィラキシー反応と区別されることもあったが、治療法は同じです。

アナフィラキシー

 

診断

日本アレルギー学会の診断基準です。3つあります。 
診断

 

 
 

(1)アレルギーの原因になるものが体に入ったかどうか分からなくても、まず1)皮ふの症状があって、それ以外の、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のどれかが、急速に(数分~数時間以内)に現れる。

 

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

 

(2)アレルゲンになる可能性のある(新型コロナワクチンの接種)ものに暴露したあとに、1)皮ふ症状、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のうち、どれかふたつの症状が急速に(数分~数時間以内)に現れる。薬剤だけでなく一般的なアナフィラキシーの症状として皮疹は有名ですが、必ずしも皮疹を伴うわけではありません。アナフィラキシーの診断に皮膚症状は必須ではないことにも留意する必要があります。

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

 

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症状の頻度では皮膚症状(じんま疹や発赤、かゆみ)が約9割と最も多く見られます。しかし、反対に、1割はアレルギー反応として皮膚症状を認めないということなので、じんま疹などがなくても、アレルゲンになる可能性のあるものに暴露したあとに、ゼイゼイ言って呼吸困難があり、嘔吐、腹痛などがあれば、アナフィラキシーと診断して、すぐにアドレナリンの筋注をしなくてはなりません。アドレナリンの筋注に絶対的な禁忌はありません

 
 

(3)既にピーナッツでアレルギーが起こることがわかっている患者さんが、ピーナッツを食べて、急速に血圧低下が見られた場合。アナフィラキシー

アナフィラキシーでどうして死ぬのでしょうか?

 
アナフィラキシーで死ぬのは、喉頭浮腫による窒息、喘息発作による呼吸不全、血管が広がって循環動態が悪くなってショック死の3つです。このような徴候が見られたら、即、アドレナリン筋注です。
 
緊急性が高い具体的な症状は以下のとおりです。
 
緊急度が高い
 
 
 
 

治療

 

アナフィラキシーと診断(今後のアナフィラキシーの進展で、生命が危機に瀕する可能性が高い病態)した時点で、初期対応として兎に角、アドレナリンの筋肉内注射を最優先します。アナフィラキシーの症状を抑える薬として、速効性があり効果も高いアドレナリンが第一に選択です。血管を締めますよ、心収縮力をあげますよ、気道粘膜の浮腫を抑制しますよ、気管支拡張作用がありますよというのは、みなさんご存知のことと思いますが、肥満細胞の脱顆粒を抑制し、アナフィラキシーの元から治しているというのはみなさん知ってましたか?

アナフィラキシーの初期対応は、なるべく早くアドレナリン注射するのに並行して、バイタルサインの測定や救急車を要請、静脈路の確保、酸素投与などを順次手際良くやっていく間にも、注射後に患者の変化を注意深く観察し、5〜10分後にアナフィラキシーの症状が改善しないようなら、躊躇せず、アドレナリン0.3mgの筋肉注射を繰り返します。

エピネフリン

治療

 

全身の血管が広がって血管透過性が亢進することで、血管内が虚脱し血圧が低下することがあります。仰臥位にして足を挙上させて、心臓や脳に血液が回るような体位を保持させます。

血圧低下に対し輸液を行います。ルート確保し、輸液(細胞外液である生食orリンゲル液 500〜1500ml 最初の10分間で10〜20ml/kg どんどん入れましょう。浸透圧が血漿と同じであり、水の移動が起こらないことから、細胞外液を補充するのに使用する。

細胞外液

じんましんや痒み、発赤、鼻水を抑えるための抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)を使いますが、そもそも皮膚、粘膜症状だけでは、アナフィラキシーとは診断されません。アレルギー反応として抗ヒスタミン薬を投与して様子をみる段階です。抗ヒスタミン薬だけでじんま疹や痒みが改善すれば、そのまま自宅で経過をみてもらってかまいません。

アナフィラキシーに対して、H1ブロッカーとH2ブロッカーが静脈内投与するように書かれています。H1ブロッカーは、かゆみや蕁麻疹など軽い症状を軽減するのには有効で、H2ブロッカーは、H1ブロッカーとの併用において蕁麻疹をより軽減する可能性がありますが、アナフィラキシーの諸症状を改善しないとされています。

H1 血管透過性の亢進、平滑筋収縮、PG増加
H2 血管透過性の亢進、胃酸分泌増加、ヒスタミン分泌増加、サプレッサーリンパ球刺激
H3 中枢神経、抹消神経伝達物質抑制、ヒスタミン遊離抑制

 

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ステロイド薬などを一緒に使用する場合もあります。またアナフィラキシーの症状は一旦治まったように見えてから再び後から症状がでてくる可能性(二相性反応)もあり、遅れてでてくる症状を予防するためにステロイドが有効とされていますが、予後を改善するかはエビデンスはありません。

ハイドロコルチゾン 100〜500mg
メチルプレドニゾロン 125〜250mg
プレドニン 1mg/kg

呼吸困難が強い場合は、吸入短時間作用性β2刺激薬(pMDI )ネブライザーもしくはスペーサーを使って、吸入します

エピペン®(アドレナリン自己注射器) の使い方

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嘔吐を繰り返す、息苦しい、だるさ、眠気、顔面蒼白、冷や汗、意識レベルの低下が見られるときは、エピペンを注射し、直ちに救急車で病院に搬送しましょう。

 

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エピペン®は、1本15000円程度、使用期限は1年ちょっとしかなく、費用負担の大きなお薬でしたが、2011年9月22日、保険適応が認められました。

注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析

2015年10月以降、注射剤によるアナフィラキシーによる死亡事例が12例報告されています。(医療事故調査・支援センターである日本医療安全調査機構)予期しなかった「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産」のすべてをセンターに報告することを医療機関管理者に義務付けた「医療事故調査制度」が2015年10月にスタートしました。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としたもので、事故事例を集積していく中で「具体的な再発防止策などを練る」ことがセンターの重要な役割の1つとなっています。

各事例における症状と出現時間、実施した処置

アナフィラキシー

アナフィラキシーはあらゆる薬剤で発症の可能性があり、特に造影剤、抗菌薬、筋弛緩薬等による発症例が多い。対象事例の12例においても、使用された薬剤は造影剤が 4 例、抗菌薬が 4 例(うち蛋白分解酵素阻害薬との併用 1 例を含む)、筋弛緩薬が 2 例、蛋白分解酵素阻害薬が 1 例、歯科用局所麻酔薬が 1 例であった。 過去に複数回安全に使用した薬剤でも、致死的なアナフィラキシーショックが見られた。造影剤を使用した 4 例は、いずれもがんの治療評価のため、過去に 2〜5 回同じ造影剤の使用経験があった。蛋白分解酵素阻害薬を使用した事例は、使用前 に同薬剤の特異 IgE 抗体が陰性であることを確認し、4 回安全に使用できたが、5 回 目の投与でアナフィラキシーの発症に至った。 いずれにおいてもアナフィラキシーの発症を予測することは困難であり、これまで複数回、安全に使用でき、薬剤の特異抗体が陰性であった薬剤でも発症し得ると認識することが重要である。

対象事例の 10 例において、薬剤投与中もしくは薬 剤投与開始から 5 分以内に症状が確認された。その症状は、ふらつき、 喉の痒み、しびれ、嘔気、息苦しさ、くしゃみや体熱感の自覚症状があった。また、 静脈内注射後に血管の走行に沿った発赤、両手背から前腕や顔から頚部にかけての 紅潮、眼球上転、痙攣等が観察された。麻酔事例では急速な換気困難や薬剤投与後 に皮膚が赤黒く変化、心電図上 ST の上昇等、様々な症状が出現していた。その後、 20 分以内で不可逆的な状態に陥っていた。

5分

 

対象事例でもアドレナリン 0.3 mg を筋肉内注射していたのは 1 例であった。他の事例では筋肉内注射の時期を逸して、心肺停止後や心肺停止に近い状況で、蘇生目的によるアドレナリン 1 mg の静脈内注射が実施されていました。注射剤を使用後、アナフィラキシーを疑う症状を認め、ショック症状あるいは収縮期血圧の低下(目安として 90 mmHg 未満あるいは通常血圧よりも明らかな低下)がみられる場合には、成人の場合、直ちにアドレナリン 0.3 mg を大腿前外側部に筋肉内注射します。小児の場合はアドレナリン 0.15 mg を筋肉内注射します。なお、抗ヒスタミン薬と副腎皮質ホルモン薬はあくまで第 2 選択薬であり、それらの投与が救命に寄与するとのエビデンスは存在しないことを認識しておく必要があります。