目次
認知症
「認知症は年のせいだから仕方ない」「痴呆はどうせ治らない」と思っていませんか?
ものごとを記憶したり、考えたり、判断したり、人とコミュニケーションしたりといった日常生活に欠くことのできない能力を認知機能といいます。認知症は何らかの原因によってこの能力が著しく障害されてしまった状態を指します。
85歳以上になると4人に1人が認知症になると言われています。これも、世界一の長寿国となった副産物でしょうか。がんにしろ、虚血性血管障害にしろ人生50年の時代には悩まなくてもよかった病気です。
脳の解剖
人間の脳を大きく分けますと、大脳皮質、大脳辺縁系、脳幹に分けられます。地球上に生命が生まれて30数億年の間に、生物の脳も ゆっくり と進化してきました。脳幹は、 脳の一番奥にあって、 爬虫類の脳とも言われ、呼吸・体温・ホルモン調節といった生きる為の基本的な働きをしております。大脳辺縁系は、脳の真ん中にあって、馬の脳と言われ、喜怒哀楽などの感情を司る部分です。そして人の脳と言われるのが大脳皮質です。感覚や運動・言葉の記憶・思考などの高度な機能を果 たしています。
大脳皮質をさらに細かな機能毎に分けますと、前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉と分けられます。前頭葉は最も高度な精神機能を司っている脳の司令塔で、運動機能・意欲・感情・創造力を担っています。又、老化に伴って最も早く機能低下が起こるのもこの前頭葉 です。頭頂葉は外界の認識に関わる部位で、手足をはじめとする身体の様々な部位からの感覚情報が集まる部分です。 後頭葉は視覚に関わる部位です。側頭葉は言語、記憶、聴覚に関わっている部位で、内側には記憶に関わる部分があります。 勿論これらも、決して独立して働いている訳では無く、互いに密接に連携して働くことで、我々のスムーズな精神活動を築き上げているのです。
記憶にも種類があり、大きく二種類に分けられます。それは、頭で覚える陳述的記憶と、体で覚える手続き記憶です。勉強して、難しい漢字や数学の公式、歴史の年号を覚えたりするのが陳述的記憶です。手続き記憶は、自転車の乗り方や泳ぎ方などを覚える、作業を通して得た記憶です。一度しっかり覚えれば、中々忘れることはありません。例えば、自転車に10年間乗っていなかったとしても、体が覚えているのでちゃんと乗ることが出来ますよね。これは手続き記憶のお蔭なのです。
認知症で問題になるのは、陳述的記憶です。 海馬は、陳述的記憶をする時に大切な役割を果たします。 海馬はタツノオトシゴのような形をしています。日常的な出来事や勉強などで覚えた情報は、海馬で一度ファイルされて生理整頓されます。その後、必要なものや印象的なものだけが残 り、大脳皮質に溜められていきます。 記憶の持続する期間において分けますと、「短期記憶」 と「長期記憶」に分けられます。 短期記憶は、一夜漬けの試験勉強をしてもすぐに忘れてしまうような記憶で、「長期記憶」が、一度覚えたら1年も2年も残っているような記憶です。 つまり、私達の脳の中で新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質にファイルされているということです。 だから、海馬が正しく働かなくなると、私達は新しいことをうまく覚えられなくなってしまいます。つまり、昔のことは覚えていても、新しいことは直ぐに忘 れてしまうのです。アルツハイマー型認知症の方がついさっきのことを忘れてしまうのはこの為です。
手続き記憶で中心的な役割を果たしているのは、海馬ではなくて脳のずっと奥にある大脳基底核と、後側の下の方についている小脳です。大脳基底核は脳が体の筋肉を動かしたり止 めたりするような割とおおざっぱな動きを、小脳は筋肉の動きを細かく調整し、スムーズに動く為に働きま す。私達が一生懸命に体を動かし、何度も失敗を繰り返しながら練習する内に「大脳 基底核」と「小脳」のニューロンネットワークが正しい動きを学んで記憶し ていくのです。
スポーツ万能な人のことを「運動神経がいい人だ」何ていいますが、医学的に言うと、運 動音痴の人もスポーツ万能の人も、みんな運動神経は同じです。スポーツ選手が特別な運動神経を持っている訳ではないのです。運動神経は鍛えて太くなったり、早くなるものでもありませんし(運動神経伝達速度は、100m/s)生まれつき特別に発達しているものでもありません。では、スポーツ選手とそうでない一般人に運動能力に差があるのは、実は小脳の中の記憶なのです。小脳の中に筋肉を最も効率よく働かせる回路が作り出されたからなのです。
もの忘れ外来
国は、現在100万人とされ、今後も増加し続ける認知症患者を早期発見、早期治療につなげるために、診療を通じて多くの高齢者を接する機会を有する「かかりつけ医」における、もの忘れ外来の設置を勧めています。そのためには、認知症患者さんに対しての適切な認知症診断の知識、技術のスキルアップが必須であり、医療と介護が一体となった認知症患者さんへの支援体制の充実が不可欠です。
さて、歳を取ったら、もの忘れが? それって当たり前ではないでしょうか。患者さんが、テレビを見ていて、俳優の名前が出てこない、ものを取りに二階に上がって何を取りに来たのかわからなくなるなどと嘆かれますが、僕なんか若いときからそうですし、今でもそうです。誰でも20歳の頃と比べると60歳や70歳を超した人が「以前に比べて忘れっぽくなった」と感じるのは当たり前のことです。(ただし、認知機能の中でも理解力や判断力は20歳よりは発達し続けて80歳ぐらいになるまであまり退化しないとされています)

脳細胞は、シナップス(つなぎ手)といろいろな神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど)によって網の目の複雑なネットワークを形成して機能しているんです。

頭がいいというのは、勉強ができる(主に記憶力がいい)というのもそうですが、凡人とは違ったネットワークを形成している芸術家タイプや判断力や決断力に優れた脳、いわゆる回転が速いなどいろいろあるんでしょうね。脳細胞自体は、新生時期に増加して、その後、いろいろなネットワークが形成され、認知症になるとまた、途切れていくと考えるとわかりやすいですよね。
それでは、認知症のもの忘れと歳をとったので少しもの忘れをするというのとはどう違うのでしょうか?
認知症のもの忘れは進行性です。だんだん確実に進むのです。よくなりません。健常老人のもの忘れは、確かに多少抜けが多くなりますが、進行することはありませんし、日常生活に支障をきたすほどではなく、歳のせいという範囲をこえません。たとえば、アルツハイマー型認知症のもの忘れの程度もどんどんひどくなり、数分前のことも憶えられなくなり、最後は会話もできなくなり、寝たきりになってしまいます。
認知症の原因として最も多いものは、アルツハイマー型認知症が全体の約50%を占め、次いで脳梗塞や脳出血などによる脳血管性認知症が約30%、レビー小体型認知症が10%と頻度は少ないですが、前頭側頭型認知症(ピック病)などがあります。ちなみに、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)は 神経細胞が変性、脱落して起こる変性性認知症になります。二次性の認知症の中には、慢性硬膜下血腫や水頭症、甲状腺機能低下症など治療によって、正常に戻る認知症もあるので、必ず診察を受けて下さい。
では、認知症かも???と心配されて、病院を受診された患者さんが、本物の認知症か、ただの年齢的に少し忘れっぽくなっただけなのかを区別するのは、どうしているのでしょうか。 ずっと通院されている患者さんでは、きちんとされていた人が薬の飲み忘れが増えてきたり、化粧しなくなったりして認知症が疑われたりします。 もの忘れ外来で、よく行われている方法として長谷川式簡易知能評価スケールという口頭による質問により、短期記憶や見当識(時・場所・時間など)、記名力などを点数化し評価できるようになっています。合計点数30点満点中20点以下が「認知症疑い」と判定されます。

記憶のメカニズム
記憶のメカニズムには、次の3段階があります。
1.新しいことを覚えこむ(記銘)
= 最初に覚える段階のことで、情報を脳に取り込む作業
2.覚えたことを保ち続ける(保持)
= 取り込まれた情報を忘れないように記録する作業
3.覚えたことを思い出す(想起)
= 再生と再認:覚えた情報を必要なときに取り出す作業
加齢によるもの忘れは、3.の想起がうまくいかないために生じるのに対し、認知症では、最初の段階の記銘から傷害されているため、当然、記銘されていないものは、保持、想起されるわけもなく、新しい情報そのものが記憶できないのが、認知症の記憶障害です。
もの忘れは歳をとると誰にでも起こるものですが、認知症のもの忘れは加齢によるそれとはまったく異なります。例えば、食事をした後、しばらくすると自分が何を食べたのかの記憶があやふやになることがありますが、認知症の場合には直前に食事をしたにもかかわらず、食事をしたこと自体を忘れてしまうのです。また、大きな病気をして入院したとしましょう。主治医の先生の名前や病院の名前はでてこないかもしれませんが、入院したという体験自体を忘れることはありません。このように、加齢によるもの忘れではものごとの一部を忘れるだけですが、認知症ではものごとが起こったこと自体を忘れてしまいます。これが、認知症の記憶障害です。
アルツハイマー型認知症
「最近もの忘れがひどくなりました」-花子さん、73歳、女性-
「わたしの財布を何処へ隠した?」
「・・・(唖然)」
70歳頃からもの忘れが目立ち始め、 同じことを何度も尋ねるようになった。一緒に出かける約束をしたのに忘れていたので「昨日言うたやん」というと「そんなん聞いてへん」と、話した事をすっかり忘れていることがここ1年とみに増えた。以前からよく 眼鏡や財布を置いた場所を忘れて探していたが、最近は財布が見当たらないと「お前が盗ったんとちがうか」と嫁を疑うようになり、ささいなことでも機嫌が悪くなることが増えた。
アルツハイマー型認知症の場合は、取り繕いがうまく、流暢にしゃべり、外面がいいのが特徴です。初期の段階で、「お歳は?」と尋ねると「84だっけ」と自信なさげにに答えながら介護者のほうを振り返り確認を求める。(振り向き現象)自分の記憶や見当識があやふやになっているのに気づいているので同意を求めるのです。もう少し進むと「64歳です」と20も30もさばを読んで平然としている。また「いい歳になりました」など具体性のない答えを上手に返すこともよくある。実行機能障害により、食事の準備などが出来ないにもかかわらず、よどみなく「自分で作っている」と答えたりする。本人は故意に嘘をついているわけではなく、無意識に生じる防御策で取り繕い、作話をする。また、患者さんと家族の話に「食い違い」が見られることも診断の助けになります。患者さんは「もの忘れはない」「病院を楽しみにしている」「毎日、畑仕事で忙しい」と言い、ご家族は「もの忘れがある」「病院へ行くのを嫌がる」「デイサービスへ行っている」と言います。

アルツハイマー型認知症は、脳の記憶に関係の深い海馬というところから病変が始まり、新しく物を覚えることが非常に苦手になります。数年たちますと記憶障害はひどくなり、数分前のことも忘れてしまうようになります。そうなりますと、だんだん理解力とか判断力、あるいは思考力といったものが落ちてきて、日常生活の障害(買い物、掃除、料理、着替えなどの障害)が出現し、時間や場所の見当が不確かになるなどがみられ、不安や焦燥感から、暴言、暴行、介護への抵抗、抑うつ、幻覚、物盗られ妄想などが出現し、自立した生活がだんだん出来なくなります。これが「中期」と呼ばれている段階です。さらに数年たちますと、 徘徊、失禁などがみられるようになり、全面的に介助してもらわなければ生活できなくなります。これ以後を「後期」と呼びます。人によって進行の仕方は色々ですが、平均しますと、初めてもの忘れに気がつかれてから約10年で後期に達します。 アルツハイマー型認知症はゆっくりと確実に進行していき、最終的には、認知機能の高度な低下と人格崩壊がみられ、身体機能も衰えて寝たきり状態になります。
初期には脳CTでは異常が目立ちませんが、進行すると大脳皮質、海馬が萎縮し、脳室の拡大が認められます。
認知症がある程度進んでくると、記憶障害の他にも、失語・失行・失認、見当識障害、 実行機能障害などの知的機能の低下が現れてきます。これらの症状を中核症状といいます。
失認:見えている対象物を認識できなくなる状態で、例えばリンゴを見ただけではそれが何であるかがわからず、触ったり匂いをかぐことで認識できます。
失行:目的に応じた動作を思いめぐらすことができなくなるために、服が着られなくなるなど、それまで難なくできていた簡単な動作ができなくなります。
失語:言語を操る能力が低下するために、うまくしゃべれなくなったり、相手の言っていることを理解できなくなったりします。
実行機能障害:実行機能とは、ものごとを論理的に考えたり、順序立てて考え、状況を把握して行動に移す思考・判断力のことです。例えば、電話をかける、買い物をする、料理をつくる、掃除をする、洗濯をするなどの行為は単純な作業のようにみえますが、いくつかの単純行動を順序立てて実行する高度な知的機能を必要とします。
見当識障害:見当識とは、時間、場所、自分自身や周囲の人など自分が置かれている状況を正しく認識することですが、見当識が障害されると「いまがいつなのか」「ここはどこなのか」「自分は誰なのか」といったことがわからなくなってきます。認知症では、まず時間に関する見当識(今日は何月何日か)が障害され、次いで場所に関する見当識(いまいる場所はどこか)、進行してくると人物に関する見当識(目の前にいる人は誰か)が障害されます。
その他のことで、認知症の人が不得意なこと
「最近、気になったニュースはどんなものがありまたか?」という質問も軽症の患者さんの拾い上げに有効です。健常者は、その時節にあった回答をするが、アルツハイマー型認知症の患者さんは、回答できなかったり、古い話や取り繕いが見られる。
あるいは、抽象的な言葉が、解らなくなるので、「サルが木から落ちる」などの意味を聞いてみるのも良い質問になります。
また、空間認知機能が障害され絵や図をを描くのが苦手になります。左図の立方体(サイコロの形)を真似して書いてもらうとうまく模写することができません。
「時計を書いて下さい」と質問するとどうでしょうか?アルツハイマー型認知症の患者さんは、時計という概念が理解できませんし、うまく書くこともできません。
かかりつけ医では、長谷川式簡易知能評価スケールや記憶障害、失語・失行・失認、見当識障害、 実行機能障害などの知的機能の低下、空間認知機能の障害などが認められれば、だたの良性のもの忘れではなくて、認知症(どんどん進行して寝たきりになる悪性のもの忘れ)と診断して、専門医療機関に紹介しています。
レーガン元大統領からの手紙
レーガン元大統領は、歴代アメリカ大統領の人気ランキングでも常に上位に入っています。親愛なるアメリカ国民の皆さんへ。 「私は、人生の黄昏に向けての旅路への一歩を今踏み出そうとしています」と綴るこの手紙は、アメリカ元大統領が、当時はまだあまり知られていない原因不明の進行性の認知症であることを、あえて公表した衝撃的なニュースでした。レーガン元大統領のこの公表をきっかけに、アルツハイマー型認知症の研究が進み、誰でもなり得る病気であり、隠さなくてもいい、認知症への認識(偏見や差別)が変わってくるようになりました。
アルツハイマー病は、病理的(患者さんが亡くなってから、脳細胞を顕微鏡で見てみると)には神経細胞の内外にタウ蛋白が糸くず状に蓄積(神経原線維変化)、およびβアミロイド蛋白が沈着したシミ(老人斑)がみられ、神経細胞の脱落によって脳が広範囲に萎縮することを特徴とした変性性認知症です。これらを標的としたワクチン治療など発症前治療の研究も進んでいます。
βアミロイド蛋白(老人斑) タウ蛋白(神経原線維変化)
脳血管性認知症
「最近歩き方がおぼつかなくなって、もの忘れもするし…」 -太郎さん、70歳、男性-
以前から高血圧で薬を飲んでいた。1年前から徐々にもの忘れが目立つようになった。半年前から日付の感覚があいまいになってきた。「ハイハイ」と返事はよいのに実際はすっかり忘れており、そのことを叱られてもあまり悪びれた様子がない。同じ頃から、チョコチョコとすり足で歩く傾向がでてきた。また、尿をもらしてズボンを濡らすことが増えてきた。 通常、手足の麻痺、言語の障害などがみられ、発症時期が比較的はっきりしていることが多いとされていますが、ときにそれらの症状がなく、記憶障害、見当識障害など認知症を思わせる症状だけが現れることがあります。
多くの場合、高血圧があり、脳卒中発作(脳梗塞や脳出血など)を起こしたことによって、片麻痺や舌のもつれ(言語障害)などの身体症状とともに、物忘れなどの認知症の症状が出てきます。病識がある程度保たれ、ボソボソとした語り口で、理解や会話のスピードが遅いのが特徴です。脳卒中発作が起こるたびに、階段状にストン、ストンと落ちるように認知症の程度が進行します。
かつて脳卒中で死亡する人の大部分は、脳出血でした。しかし、食生活の欧米化(脂肪摂取の増加、塩分の減少)、高血圧治療の普及などによって、脳梗塞がしだいに増え、1970年代半ばから脳梗塞による死亡者数が、脳出血によるそれを上回るようになっています。
寝たきりの原因 第1位
脳卒中は、男女とも、寝たきりの原因の第1位となっています。身体的に、麻痺などにより、寝たきり状態になる場合はもちろんですが、身体的な障害は軽くても、脳血管性認知症によりより重度になりやすいのです。
健康寿命(けんこうじゅみょう)とは日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のことで、WHOが2000年に公表した。平均寿命から介護(自立した生活ができない)を引いた数が健康寿命になる。日本は世界有数の長寿国ですが、最後の5〜7年は寝たきりの人生になっています。脳卒中は、脳血管性認知症も含め、健康寿命を延ばすためにはその予防は重要です。
レビー小体型認知症
「誰もいないはずの部屋で、子供が遊んでいるのが見えるんです」良子さん、69歳、女性

65歳頃から時々もの忘れをするようになった。1年後から、現実にはありえないのに「子供が部屋に入ってきて遊んでいる」とか、「お坊さんが来られてるのに、なんでお茶出さへんの」とか言うことがあった。「そんな人いてないやん」と言っても、「何言うてんの、そこにいてはるやん」と、 いかにも目の前にみえているような反応が返ってくる。そうかと思うと、しっかりした話をして正常に思えるときもある。1年前から 歩くのが遅くなり、時々転ぶことがある。
レビー小体型認知症は、アルツハイマー病に次いで多い病気です。第一の特徴は、とても生々しい幻視がみえることです。第2に、日によって症状に変動があり、正常に思えるときと様子がおかしいときが繰返しみられます。第3に、歩きにくい、動きが遅い、手が不器用になる、など、パーキンソン症状がみられることがあります。 また、自律神経の障害を伴う事も多く、便秘や尿失禁が目立ちます。強い立ちくらみ(起立性低血圧)や頻尿を呈している場合もあります。
(1)幻視
周りの人には見えないけれど、本人には、子どもや坊さんや電気工事の人が見えているのです。これってどうなっているのでしょうか。頭がおかしい。確かにそうですが、本人は至って真面目です。普通、目から入った情報が、後頭葉で処理されて、画像として認識されている訳です。しかし、幻視は、実際にないものが見えているわけで、後頭葉で何らかの異常が起きて、子どもが遊んでいる画像が認識されているのです。本人にはちゃんと見えている一方で「そんなことはあり得ない」という違和感も維持されているのです。ちょっと違うかも知れませんが、夢なども実際にないものが見えています。

(2)日内変動
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症に比べて、初期には物忘れなどの認知障害はあまりり目立ちません。したがって、頭の回転がよく、物事をよく理解したり判断したりできます。しかし、「認知の変動」が見られ、1日の間で、あるいは1週間や1か月の間で症状が良かったり、悪かったりします。つまり、頭がはっきりしている状態とボートしている状態が入れ替わり起こります。これは、脳幹網様体(のうかんもうようたい)の障害が関係しているとされています。
(3)パーキンソン症状
歩きにくい、動きが遅い、手が不器用になる など、パーキンソン症状がみられるのも特徴です。レビー小体型認知症が診断しにくい理由は、認知症とパーキンソニズムが一時期にそろっておきないからです。認知症だけの時期はアルツハイマーとの区別が難しいし、パーキンソニズムだけの時期はパーキンソン病と誤診されやすい。経過を見ながら柔軟に診断を変えることも必要です。アルツハイマー型認知症の患者さんと比べて10倍も転倒の危険が高く、転倒対策が重要です。段差をなくし、バリアフリーにし、夜間に足元の照明をつけるたり、転倒しても衝撃が少なく済むように畳をしいたり、パットを装着したりする。
レビー小体型認知症は、実は日本で見つかった病気なのです。
レビーというのは人名です。このレビーが、パーキンソン病の人の脳を見ていて、何か変な物質があるということを発見しました。この物質が、後に、レビー小体と呼ばれるようになり、パーキンソン病では、黒質など脳幹部にレビー小体が認められます。これに対して、小坂憲司先生が、大脳皮質にもたくさんレビー小体があることを見つけ、認知症の原因としてレビー小体型認知症と呼ばれるようになったわけです。
上の画像は、パーキンソン病に出てくるレビー小体です。
下の図は、大脳皮質に出てくるレビー小体です。
前頭側頭葉変性症(ピック病)
「以前の主人とは、人が変わったようです」 -寅さん、63歳、男性-
もともと社交的な性格だったのに、1年程前から 町内の旅行や会合に参加しなくなり、他人との 約束を平然と破るようになった。昨年妻が手術で入院したとき、あまり心配している風がなかった。また、やたらと甘いものを食べるようになった。半年前からは 入浴や着替えをしなくなり、毎日同じ洋服を着ようとする。 とても落ち着きがなく、何でも今すぐにしようとする。 毎日デパートで無駄な買い物をしてきたり、天気が悪くても 繰り返し散歩にでたりする。不機嫌なことが増え、よく怒鳴るようになった。
前頭側頭葉型認知症は、発症初期はもの忘れはあまり目立たず、人格変化が中心になります。人が変わったように軽薄になったり、派手になってやたら買い物をしたり、不潔な行為を平気でしたり、人を無視したり、馬鹿にした態度を取ったり、お店に置いてあるものをその場でとって食べたりといった非社会的な行動をとって周りの人を困らせる様になります。アルツハイマー型認知症が、対人関係が保持されており、取り繕い、場合わせ反応が見られるのと対照的です。自己中心的、短絡的な行動や、意欲低下、だらしない行動などがみられ、精神科疾患と間違われることもしばしばあります。食事の好みの変化(甘いものや大量飲酒など)、食事や入浴などを時刻表のように決まった時間に行い、いつも同じコースを道に迷わず時間通りに散歩する(周徊)など繰り返し行動もみられます。今まで真面目に仕事をしていた公務員が万引きして社会的地位を失うケースなどは、是非専門の医療機関を受診させてあげることが大事です。新幹線の居眠り事故で有名になったピックウィック症候群(後に睡眠時無呼吸症候群)もただの居眠りと病気ではその人にとっては大きな問題です。
認知症の診断
認知症の初期の頃は、 脳の萎縮がない段階では、形態的な病変を調べるCTやMRIでは、 診断が難しい症例もあります。その原因疾患を突き止めるために、脳の血流量を調べるSPECT検査、脳の代謝機能を調べるPET検査などがあります。
SPECT(スペクト):
単光子放射線コンピュータ断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography)といい、特殊な物質を静脈内へ注射し、薬剤の濃度分布をコンピュータ処理により画像化します。SPECTは主に脳の血流評価のために行われます。
PET(ペット):
ポジトロン断層撮影(Positron Emission Tomography)といい、脳の神経細胞の代謝が盛んなところに取り込まれる性質がある特殊の薬剤を静脈内に注射し、薬剤の濃度分布を画像化して、代謝の機能を調べます。
これらの検査で、頭部CTやMRIなどは、脳の萎縮など形の変化が起こらないと診断できないが、血流が少なくなったり、代謝が低下するなどもっと早期からその異常を捉えたり、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)などそれぞれ、障害される部位が異なりますのでその鑑別診断にも役立ちます。アルツハイマー型認知症では、頭頂葉・側頭葉の血流が低下します。レビー小体型認知症では、脳血流検査ではアルツハイマー病に似た特徴(頭頂葉・側頭葉の血流低下)に加え、視覚に関連の深い後頭葉にも血流低下がみられます。 前頭側頭型認知症(ピック病)では、前頭葉や側頭葉で血流低下がみられます。現在、有効は治療法はなく、アルツハイマー型認知症より進行が早く予後不良な疾患です。
認知症の治療薬
(1)アリセプト(ドネペジル)
アルツハイマー型認知症では、脳内コリン作動性神経系の顕著な障害が認められています。アリセプトは、アセチルコリン(ACh)の分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を可逆的に阻害することにより、AChの分解を抑制し、作用部位(脳内)でのACh濃度を高め、コリン作動性神経の神経伝達を促進します。
副作用)徐脈、心ブロック、興奮
意欲が低下しているアルツハイマー型認知症がよい適応です。
(2)レミニール(ガランタミン)
レミニールは、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用だけでなく、APL作用という特性も保有しています。アセチルコリン受容体にはムスカリン性アセチルコリン受容体とニコチン性アセチルコリン受容体があり、APL作用として、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)がより敏感に反応するように調整します。
(3)リバスタッチ(リバスチグミン)
リバスチグミンは、アセチルコリン(ACh)を分解する酵素であるコリンエステラーゼを阻害することにより脳内ACh量を増加させ、脳内コリン作動性神経を賦活します。コリンエステラーゼにはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)とブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)が存在ますが、、リバスチグミンはAChEとBuChEの両方を阻害することで(デュアル阻害)、シナプス間隙のACh量を増加させます。
副作用)めまい 腎機能障害あれば、10mgで
焦燥性興奮を伴うアルツハイマー型認知症によい適応。
(4)メマリー(メマンチン)
メマンチンはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用とは全く異なる作用機序を持っているため、併用が可能で、その適応は、中等度から高度のAD患者となっています。脳内の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸に対して拮抗作用を有し、過剰なグルタミン酸刺激により活性化したグルタミン酸の受容体(NMDA受容体)にメマンチンが結合して、細胞内への過剰なCaイオンの流入を阻害し神経細胞の障害や細胞死を防ぎます。
治る認知症
どうあがいても結局、認知症は、なおらへんしと思っていませんか?そんなことはありません。治る認知症もあるんです。あきらめずに調べてみましょう。
(1)正常圧水頭症
私たちの頭の中には「髄液」と呼ばれる液体がいつも流れています。髄液は、脳の中心にある脳室からしみ出し、脳と脊髄の周りをひと巡りすると、静脈に吸収されていきます。ところが、加齢に関わる何らかの原因により髄液の流れや吸収が妨げられ、脳室に髄液がたまると脳室が拡大し、水頭症といわれる病気を引き起こします。原因不明のものを特発性正常圧水頭症(くも膜下出血、頭部外傷、髄膜炎など 原因が明らかなものを続発性水頭症)と呼びます。正常圧水頭症(NPH)は、痴呆症と診断された患者さんの5%という報告もあります。NPHでは、歩行障害、 精神活動の低下(痴呆) 尿失禁の三つが主症状(三徴候)とされています。 歩行障害では、足が上げづらく、すり足になり、歩幅も小刻みになり、よく転倒します。そして足を広げて歩くようになることが特徴です(ほぼ100%出現)。認知症は、記憶障害が主なアルツハイ マー病の症状と違い、集中力や意欲、自発性が低下し、一日中ボッーとしている、呼びかけに対して反応が悪くなるといっ たことがみられます。また、 トイレが非常に近くなる頻尿の症状や、尿意が我慢できなくなり失禁するようなことも起こってきます。数ヶ月の間に、この順番で症状が出現することが多く、放置すると次第に寝たきりになります。治療として、髄液シャント術を施行すると、多くの症例で、劇的に回復します。
(2)慢性硬膜下血腫
最近、数ヶ月以内に夜中にトイレに行く途中で転倒したとかお酒に酔って転倒して、頭を打ったことがあり、認知症(意識障害)、歩行障害(三徴)が見られる場合は、頭の頭蓋骨のすぐ下で血管(静脈)が切れて出血し、徐々に溜まって脳を圧迫していることで起こっている症状かもしれません。放っておくと症状が固まってしまって寝たきりになってしまいます。脳のCT検査をして、診断できれば、血腫を除去する手術をして、また以前のように元気になることができます。
(3)うつ病性仮性認知症
うつ病では、意欲が著しく低下するために注意力や記憶力が弱まり、このことが一見、認知症のようにみえることがあります。一般的には、最も多い認知症であるアルツハイマー型認知症の場合は、診察室や介護認定調査でも上手に繕って受け答えし、家族が普段の様子と違うことに戸惑うことも多いのに対して、うつ病性仮性認知症の人は「もの忘れがひどい」と過大に訴え、認知機能テストでも考えようとせず、すぐに「わかりません」を繰り返す傾向があります。うつ病と診断できれば、抗うつ薬にて、半年ほどでだんだん元気になっていくこともできます。
(4)甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症の症状は、疲れやすい、寒がり、体重の増加(むくみ)便秘、しわがれ声、月経過多、筋力の低下、こむら返りなどいろいろありますが、病気自体の進行がとても緩やかなため、気がつかない人が多いようです。精神症状として、記憶力や集中力の低下など、一見、認知症と間違われる様な症状も見られます。女性に多い病気です。血液検査で診断でき、お薬で治ります。当院では甲状腺機能に加え、VB1、VB12、葉酸などの血液検査をしています。
(5)その他
意外と多いのは、薬剤性?です。特にベンゾジアゼピン系のお薬をたくさん飲んでいる人がいます。出す方も患者さんが言われるがままに、マイスリー、デパス、レンドルミンとか一遍に飲んでいる人もいます。それとアルコールです。飲酒量が多い人が、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群と呼ばれるものがありますが、そこまで行かなくても、認知症と診断する前に、禁酒の試みも大切です。
Q 今後どうしていったらよいのかを知りたい
すぐには受け止められなくて当然
親や配偶者などが認知症になったという事を受け止められるようになるまでには、いろいろな葛藤が生じます。現実をあきらめて受け入れるまでには、とまどいや否定、怒り、拒絶などを拒否、怒りなどの感情をたどります。 認めたくないという気持ちが受診をためらう背景になっていることもあります。 しかし、認知症でもそうですが、早期発見、早期治療が重要なのです。事実、完全に治る認知症もありますし、早期に治療を始めれば、いずれば進行する認知症としても、その診断を受け入れて、医療や福祉、介護、行政などとの連携で、いろいろな対応を試みる間に、お互いがコミュニケ−ションをとれる環境があれば、最後には、患者本人と家族が納得できるところにソフトランディングできると信じています。認知症の介護は、何年にもわたりますし、きれい事や精神論だけではうまくいきません。頑張りすぎて、疲労困憊の状態にならないようにしなければなりません。なんとか出来る間は在宅で、重症になったら施設でというのではなく、早めにいろいろな社会資源を上手に活用して、みんなが疲れないようにしていく必要があります。軽い段階でも、なにか用事があるときは、気軽にショートステイなど施設を利用すればいいし、重症になっても施設に預けっ放しではなく、チャンスをつくって顔を見に行ったり、家に連れて帰ってみるようにしましょう。
認知症を理解する上で最も大事なことは、
「認知症は脳の病気であるという認識を家族全員で共有すること」
「その人らしさを維持してあげること」(パーソンセンタードケア)
認知症は「病気」です。がんや心筋梗塞、脳梗塞と同じです。動かなくなった手をもとどおりにしたくても、現在の医学でのどうしようもないこともあるのです。記憶装置が壊れているんですから、以前と同じようなはできないのです。出来ることはなるべく自分でさせてあげることで、認知症の進行を遅れさすことも出来ますし、出来なくなってしまったことは介助が必要です。すぐに「何も出来ない人」と判断して出来ることをさせなかったり、反対に「自分で出来るはず」と放っておくのは、困惑させるだけです。 「まだできること」と「もうできなくなったこと」を見極めて対応することが大事です。 叱る、怒る、ばかにする、元に戻そうとするといった対応は、認知症をいう病気の理解不足からきているのです。
まずは、安心できる環境を作りから始めましょう
部屋の広さも広すぎず、自然を取り入れた心地よい空間に、見慣れたもの、使い慣れたもの、暦や時計、季節の花など見やすいこところに置いて、場所や時間をすぐにわかるようにしておきましょう。 音の刺激はなるべく少ない静かな環境が大事です。
「わからない」から不安になる。ここはどこ?今はいつ?この人だれ?これはどうすればいいの?この人、なに言ってるの?なんで私がここにいるの?うちはどこだっけ?こんな精神状態になったら、あなたも不安いっぱいではないですか?まずは、認知症の人の世界に共感しましょう。当たり前の生活ができれば、不安やストレスも軽減されます。当たり前の生活とは、環境が整って、清潔が保たれ、食事が食べれて、排泄に配慮されている私たちが快適な毎日が送れるのは、衣食住が保証され、衛生や排泄、睡眠などに支障がないからです。介護者の見守り、観察が大切です。「いつもと違う」様子を感知するアンテナを張っておくことが必要です。いつもおとなしい人がそわそわしていたらおかしいと感じることが重要です。
認知症ケアの実際
中核症状
「ごはん、まだですか?」 
「さっき、食べたでしょ」と言って、事実関係を争っても、本人は食べたことをすっかり忘れているわけですから「私は食べていません」と反感を持たれたり、「自分たちだけ食べて、私には食べさせてくれない」など被害妄想的な感情を抱きかねません。「もうすぐできるから待っててね」とか軽いお菓子などを用意して「もうすぐできるから、それまでこれでがまんしてて」と言って、待ってもらっているうちに忘れてしまいます。
「家に帰る」「お邪魔しました」「仕事に行く」
夕方になると、自分の家なのに「家に帰る」と言って外へ出て行こうとします。認知症特有の時間や場所、人などがわからなくなっているためです。特に女の人は、夕方になるといろいろ家事など忙しくなる時間だったのでなおさら落ち着きがなくなるようです。仕事に行くと言って出て行こうとするような場合もあります。「今日はもう遅い(暗い)ので、泊まっていって、明日送っていきますよ」と言ったり、「送っていきますよ」と言って、いっしょに車に乗って、自宅の周辺をドライブして「着きましたよ」とまた自宅に戻ってくるという方法もあります。「今日は日曜なので、会社は休みですよ。明日、行きましょう」と言って、納得させたりします。
「あなたはどなたですか?」
記憶障害は、時間、場所、人の順に進行することが多いようです。何年も一緒に暮らしている家族さえ、わからなくなったり、他の人と間違えるようになります。ひどいときは、息子さんでも泥棒を間違えられることもあります。間違えられることはショックなことですが、興奮しているときは、言い争わずに、一旦、姿を消してから、しばらくして「ただいま帰りました。息子のひろしです」 と冷静に自己紹介しましょう。普段から、家族の乗っている写真などを目立つところに置いて、会話の合間などに、いっしょに確認するようにしましょう。
トイレの失敗

トイレではない場所で放尿したり、トイレに行けずにおもらしをしてしまう(失禁)場合は、まずは、神経因性膀胱や前立腺肥大症などの病気があるかもしれません。トイレの場所がわからなくなっている、トイレの使い方(洋式など)が、わからない(失行)などが原因かも知れません。排尿のペースをつかみ(定期的に3〜4時間ごとに)頃合いを見計らって、トイレに誘導します。トイレのドアに「便所」などと書いた紙を貼って、トイレの場所をわかりやすくします。また、よく放尿してしまう場所には「小便禁止」などの張り紙をすることも効果的です。
実行機能障害
料理をするためには、必要な物を買ってきたり、切ったり、鍋をかけて火をつけたり、いろいろな物を順番に加えていったりと段取りをつけて実行することが必要です。計画を立てたりすることができなくなります。しかし、大根を切って下さい、鍋に入れて下さいというようなことは、指示すればできますので、料理すべてを任せるのではなくて、出来ることを手伝ってもらうことが大事です。つまり、出来ることはやってもらう。出来ないことは介助する。いっしょに料理を作る。認知症に対する対応がこうしたことを言っているのです。
BPSD(behagical and psychological symptoms of dementia)
認知症に伴う行動障害と精神症状)
認知症の患者さんには、妄想や徘徊、介護への抵抗などの症状が見られることが多いが、これらは、問題行動などと呼ばれていました。しかし、認知症で起こるのは、記憶障害、失語・失行・失認、実行機能障害と呼ばれ中核症状で、その中核症状によって生活がほころび始め、不安になり、それを何とかしようとして、追い詰められて周辺とのトラブルが生じているのです。よって、これらの随伴する立ち振る舞いには、必ず、その人なりの理由が存在するわけで、その理由に対応出来れば、よくなる可能性が十分にあるのです。これらの周辺症状を治療するには、その人の健康状態( 認知症の進行、前立腺肥大・膀胱炎・風邪による発熱など、不適切な利尿剤の使用)個性、人生歴、環境(トイレの場所がわかりづらい)心理状態( 孤独感、不安 )を理解する必要があります。
「財布をとられた」 
お金の事ばかり、意地汚いとお思いですか?1000万円、自分の講座に振り込まれても、気がついていないような人以外、ほとんどの人は、心の底では、お金は大事だよって思っています。おおっぴらに言わないのは、理性で抑えているのです。認知症になってもお金は大事なのです。「それは、大変ですね、困りましたね」と言っていっしょに探しましょう。探し物の場所がわかっているときは、なるべく患者さん自身がみつけるようにうまく誘導しましょう。「丁度、おやつの時間ですから、おやつを食べてからいっしょに探しましょうか」と言って気をそらすのも方法です。「ごめん、ごめん。さっき、新聞の集金が来たから、ちょっと借りたんですよ」と演技ができるようになったら、俳優さんも顔負けですね。
せん妄 (夜に眠らず、騒いだり動き回る)
せん妄とは、身体疾患などが原因で引き起こされる軽い意識障害で、意識がぼんやりとした状態で動き回ったり、注意力の低下、最近の出来事についての記憶障害、時間と場所の見当識障害などのほか、会話はとりとめもなく、行動もまとまらないといった症状がみられるため、錯覚、幻覚、妄想、興奮などが加わった状態をいいます。僕が勤務医時代に経験したせん妄は、急性心筋梗塞の重症な場合に、CCU(集中治療室)のベットにたくさんの点滴や治療器械に囲まれていると、屈強な40代の男性でも2日目3日目になってくるとおかしな事を言ったり、変なものが見えたりする人はたくさんいます。CCUから一般病棟にでるとケロッと治るものです。高齢者では、感染症や循環器障害、あるいは薬剤によってせん妄が引き起こされることが多いので、その原因を除外することが大事です。 風邪気味だったり、水分摂取が少なかったり(脱水)体調が悪い場合もあります。服用している薬の副作用かも知れません。 また認知症の人に、せん妄が起こることも少なくありません。認知症なら月単位、年単位で徐々に症状が進むのに対して、せん妄は時間単位、日単位で症状が起こります。夜間せん妄は、昼間はおとなしく平穏に過ごされていますが、夜になると興奮したり、徘徊したりします。
「泥棒がいる」
本人は、本気で怖がっていますから、「なにもいませんよ」と言って説得しても無駄です。「私がいるから大丈夫」「いっしょにやっつけましょう」と言って、安心してもらうことが大事です。幻視には子どもが出てきて、ベットで本を読んでいるとか、部屋で遊んでいるなどと言ってくることが多いようですが、「驚きましたね」「そうなことがあったんですか」と否定も肯定もせず、受け流すのがいいでしょう。
「デイサービスに行きたくない」
最初は、家族がいっしょに行ったり、数時間の利用から始めて、徐々に時間をのばしたりしましょう。利用を予定している施設から、介護者(ヘルパーさん)を派遣してもらい、顔なじみになってから、誘ってもらいましょう。患者さんと施設の雰囲気が合わないのかも知れません。認知症もひとりひとり違います。その人が歩んできた人生があります。その人らしさを尊重する必要があるのです。ボール遊びなどレクリエーションもみんなが楽しく感じるとは限りません。どんなことに興味関心を持っているか考えて、無理強いしないようにしましょう。
怒りっぽい、暴力をふるう 
記憶力が衰えることから来るいろいろな不安や、様々な思いを上手に表現できないもどかしさで、感情のコントロールが出来なくなることが原因です。攻撃のエネルギーを体操や趣味など、他のことに向けるよう工夫します。
徘徊

行動開始時にあった目的をわすれてしまい、徘徊がおこります。また、自分居場所がわからず、不安が強まって、あちこち歩き回ります。どうしたらいいか対応がわからず(地図をみる交番で聞くなど)ただ、歩き回っています。外に出て行くときにわかるようにしたり、名札を付けたり、ポケットに名刺をいれたりしておくと良いでしょう。
「昭子」と「茂造」 嫁舅の日常から介護と老いを通して、日本の高齢化問題に警鐘を鳴らした小説です。 寝たきり、認知症の老人がとにもかくにも家庭の中で家族の手によって介護されていた古きよき時代の最後の一幕であり、親孝行と家庭崩壊のバランスが危うさ、やるせなさと哀しさがうまく描写されています。 本書が出てから30年が経って「昭子」自身が恍惚の人となっているのではないでしょうか。「ぼけ」「痴呆」「認知症」と先送りにされ、改善するどころかますます深刻さを増すのもそのはずです。 平均寿命は10歳も伸びているのです。 高齢者4人を1人の若者で支えなければならない時代もそこまで来ています。人生最後の時をいつものように穏やかに迎えるためには、どうしたらいいのでしょうか。神岡町でも一部の家庭を除き、家族だけの介護力では限界があり、ヘルパーや訪問看護師、老人介護施設などの社会資源を上手に利用しなければなりません。惚けるということは、悲惨なことでしょうか、さりとて幸せなことでしょうか? いずれにしろ他人事ではありません。
たつの市での取り組み
認知症になっても安心して自分らしく暮らせる「たつの市」の取り組みを紹介します。認知症が気になった時には「地域包括支援課」やい「医療の相談先」にご相談いただきます。問い合わせ先は、地域包括支援課(0791-64-3125)です。
予防、備えには、赤とんぼ連携ノート〜認知症に備える私のノート〜があります。いきいき100歳体操、かみかみ100歳体操は、身近な会場で4人以上、週に1〜2回集まって実施できます。市役所出前講座は10人以上のグループに対して無料の出前講座を実施しています。認知症ライブラリーは認知症に関する書籍、研修の資料を閲覧したり、認知症に関する情報を収集したりすることのできる書斎です。問い合わせ先はNPO法人播磨オレンジパートナー(電話090-7285-3867)です。自主トレーニング、転倒、骨折予防、介護予防のための体力アップのために、はつらつセンター等の機器をつかって自主的に運動ができます。アクティブフィットネス教室やドラゴンウォークなども開催しています。問い合わせ先は、健康課(電話0791-63-2112)です。
見守り、支えあう活動としては、認知症を正しく理解し、認知症の方やその家族を応援するのが「認知症サポーター」で認知症サポーターになるための「認知症サポーター養成講座」を実施しています。地域の方と集まって楽しい時間を過ごし、見守り支え合う地域を作っていく小地域福祉活動はふれあいサロンと言います。問い合わせ先は、社会福祉協議会(電話0791-63-5106)です。介護中であることを周囲にわかりやすくするための名札型介護マークを配布しています。はいかいの可能性のある方の事前登録により、所在不明になった場合の早期発見、保護を図ります・「ピカッとシューズステッカー」を配布し靴等に貼っていただきます。また、はいかい高齢者家族支援サービス事業としてGPS専用端末の貸し出しも行っています。安心見守りコール事業(緊急通報システム)は、一人暮らしの方等を対象に急病や緊急時にボタンを押すと緊急時の対応をする専用機器を貸し出します。定期的な安否確認や看護師の健康相談も受けられます。問い合わせ先は、高齢福祉課(電話0791-64-3152)です。
たつのカフェ(認知症カフェ)
認知症の人やその家族、医療や介護の専門職、地域のみなさんなど、誰もが気軽に参加できる「集いの場」であり、認知症の人やその家族が安心して過ごせる「地域の居場所」です。専門職に認知症の相談ができます。どなたでも参加できます。
(令和2年度)
成年後見制度
認知症や知的障害、精神障害などにより、判断能力が不十分な方に代わって、成年後見人等が財産の管理や様々な契約やサービスの手配を行い、本人の生活を支援する制度です。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。問い合わせ先は、西播磨成年後見支援センター(電話0791-72-7294)です。
診断書(成年後見用)の作成を依頼された医師の方へ
平成12年より成年後見制度が施行され、ご本人の判断能力の程度に応じて、成年後見、保佐、及び補助の3類型が設けられました。ご本人の判断能力を補うための援助者(成年後見人等)が選ばれ、判断能力の残存の程度に応じて、ご本人の財産を維持管理したり、身上監護の支援を行うなど、ご本人の保護に努めることになります。これら3類型のうち、成年後見及び保佐を開始する審判を進める上では、原則として、ご本人の判断能力の状況について、医師による鑑定を行うことになっています。なお、主治医の方は、ご本人の症状の経過について最もよく把握しておられますので、鑑定と言いましても、精神科の医師に限るわけでなく、内科その他の医師にもお願いしております。診断書作成に当たっての留意事項としては、診断名については必ず精神上の障害が必要です。判断能力判定の意見の記載については、頭部CT等の検査は必須ではありません。