心音の聴診

昔、昔の研修医の頃に、入院時の身体所見を、なんとなく肺音 異常なし、心音 異常なし なんて書いてましたが、後でオーベンの先生に、本当に心雑音なし?って聞かれて、ドキッとしたのを思い出します。心音が聴ける聴けないという技術以前に、聴診器がなんとなく胸の上を通り過ぎて、確かにhear」はしているのですが、「listen」できていない、つまりは、Ⅰ音は?Ⅱ音は?心雑音は?って確認して聴いていないので、記憶に残っていないのですね。その後、何十年と経って、開業してみると、ほとんど進歩していない自分にびっくりします。(エコー世代ってこんな感じですかね)学校医の健診の長〜い時間を少しでも楽しく過ごすために、ちょっとは勉強してみました。

ちなみに、心音の音源は、心音シミュレーターで作製したものです。

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心音の聴診部位は4ヵ所です。

心尖部 (僧帽弁領域)
心基部 第2肋間胸骨右縁
(大動脈領域)
第2胸間胸骨左縁
(肺動脈領域)
第4肋間胸骨左縁
(三尖弁領域)

最近は、僧帽弁は第4肋間胸骨左縁に投影されると言われています。


人の耳は、500〜3000Hzの音に対して敏感で、特に300Hz以下の音に対しては急激に聞こえにくくなります。Ⅳ音(心房音)などは50〜60Hzぐらいの低調の音で、注意していないと聞き取れない音になります。聴診器には、ベル型と膜型があります。ベル型は、低音成分の聴診に使い、膜型は、高音成分の聴診に使います。膜型は、胸部に圧痕がつくぐらい密着させて聴きます。ベル型は隙間ができない程度にソフトに押し当てます。ベル型も強く押しつけると皮膚が緊張して低音成分が飛んでしまって、膜型と同じようになってしまうので気をつけましょう。

Ⅰ音Ⅱ音は、誰にでも聴き取れます。Ⅲ音や低音の心雑音をいかに聴き取れるかが心臓の聴診の上達の第一歩です。まずは、ベル型をソフトに胸壁に押し当てることから始めましょう。


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聴診のやり方ですが、できれば、患者さんを左側臥位にして、心尖拍動(正常では左乳頭かやや内側)を触れるところにベル型の聴診器を当てます。「息を吸って止めて」10秒ほど聴きます。そして「息を吐いて止めて」10秒ほど聴きます。それぞれ集中して聴きます。これで終わりです。(10秒以上の息止めは患者さんもつらい)10秒でわからないものは、それ以上、(わからない耳で)聴いてもわかりません。

僕らが研修医の頃は、循環器を専門でやっている施設には、音が遮断された専用の部屋で心機図、心音図をルーチンでとっていましたが、今は、心音図などの器械を製造している会社すらない、壊れても部品もないという時代になっているようです。

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正常心音とは?

心音には、Ⅰ音、Ⅱ音と過剰心音(Ⅲ音、Ⅳ音と僧帽弁開放音、収縮中期クリック音など)があります。正常では、Ⅰ音Ⅱ音しか聞こえません。(過剰心音は聞こえません。但し、若年者では生理的Ⅲ音あり)文字で説明するのはちょっと難しいかも。音源の付いた参考書などもありますが、英語の勉強と同じで、実際にたくさんの正常を聴くことが最も早道かもしれません。正常心音は、聴診器の置く場所によっても異なります。Ⅰ音は僧帽弁が閉まる音(左室全体が大動脈弁に向かって駆動する音)でⅡ音は大動脈弁が閉まる音と言われています。心尖部では、Ⅰ音(振動に近い、ベル型で強調される)が大きく聴こえ、心基部ではⅡ音が大きく聴こえるのが正常です。強弱はⅠ音とⅡ音の比較で決まります。

心尖部 「ダッ   ダッ 
心基部 「ダッ タ  ダッ タ」

 

また、どちらがⅠ音か?これも簡単なようで迷うこともあります。心拍数がゆっくりの時は、収縮期と拡張期の比は、1:2で、拡張期の方が長いので、だいたいわかりますが、正確には、Ⅰ音とⅡ音の間に脈を触れるので、普段の聴診でしっかり確認しておくことも必要でしょう。

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Ⅰ音

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Ⅰ音は、房室弁(僧帽弁と三尖弁)が閉じるタイミングに出る音とされています。Ⅰ音の大きさは、まさに心室収縮が始まろうとする時に房室弁の開き具合によって決まります。また、心機能の善し悪しを反映するので、非常に重要です。心機能が低下すると、Ⅰ音の減弱(Ⅰ音の高音成分がなくなり、ベル型で聞こえるが、膜型では聞こえくい)し、心尖部で、心音が聞こえにくくなります。その他でⅠ音が聞こえにくいのは、PR時間が長い場合と肺気腫などです。肺気腫などで心臓が立っている場合などは、心尖部では心音は聴きにくいので心窩部に聴診器を置くと、心音を聴くことができる場合もあります。Ⅰ音が亢進する場合は、PR時間の短縮と甲状腺機能亢進症です。(最近は、僧帽弁狭窄症はほどんどいません)

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PR時間とⅠ音との関係について、PR時間が短い場合、左房は収縮している途中で、左室の収縮が始まって、左室圧が急峻に上がってきて、まだ左房圧が高いところで、パシィって感じで僧帽弁がしまるので大きなⅠ音になりますが、PR時間が長いと左房の収縮も終わって、左房圧が下がったところで左室圧も徐々に上がってきて、ゆっくり僧帽弁が閉まるのでⅠ音は小さくなるわけです。

 

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Ⅰ音の分裂

Ⅰ音は、二つの成分(僧帽弁と三尖弁)から成り立ちます。心尖部では、三尖弁成分は聞こえにくく、一般に単一に聴かれます。心基部では、ほとんど同じ大きさですが、僧帽弁の方が三尖弁よりやや早めに閉じるとされていて(呼気の方がわかりやすい)その間隔は0.03〜0.04秒を越えることはなく、ぼくの実力ではなかなか二つの音として認識するのが難しいというのが実際です。Ⅰ音が二つに聞こえた時は、右脚ブロックの場合や収縮前期雑音(心房音)駆出音(先天性の大動脈二尖弁)などの鑑別があります。

正常なⅠ音の分裂

収縮前期雑音(心房音) 低調成分でベル型で

駆出音 肺動脈狭窄、先天性の大動脈二尖弁でクリック様

 

Ⅱ音

高血圧では、Ⅱ音が亢進しています。心音を聞いて、「高血圧がありそうですね」と言えれば、かっこいいでしょう? 白衣高血圧では、Ⅱ音は亢進しないんですね。Ⅱ音が亢進している(=心電図でも左室肥大あり。高血圧の2割ぐらい?)ということは、高血圧歴が長いということなんです。心尖部でもⅠ音よりⅡ音の方が大きく聞こえます。

Ⅱ音には、ⅡA:大動脈成分とⅡP:肺動脈成分があります。ⅡAとⅡPの鑑別は、ⅡAは、大動脈に沿って心尖部と右頚部方向に広い範囲で聞こえますが、ⅡPは、第4肋間胸骨左縁に限局して聞こえます。よって、Ⅱ音を語るとき、両方の成分が聞こえる第4肋間胸骨左縁に聴診器を当てることが大事です。Ⅱ音の分裂を2つの音として認識できるか?は訓練が必要です。僕の場合、0.04秒が調子がよければなんとか聞き分けられますが、0.02秒となるとちょっと難しいかなってレベルですね。

Ⅱ音の亢進を診断するときに、高血圧症ⅡAの亢進なのか肺高血圧ⅡPの亢進なのかの鑑別もあります。ⅡAの亢進の場合は、ⅡPは覆い隠されてしまって、単音の亢進として、心尖部でも心基部でもⅡ音の亢進として聞こえますが、ⅡPの亢進の場合は「ダッ タラ ダッ タラ」ⅡP成分が亢進して聞こえ、心基部に限局している場合がほとんどです。(呼吸での判別は困難)こうは偉そうに書いていますが、ⅡAⅡPなどと言い出すと僕の実力では、到底わかりません。

 

Ⅱ音は、Ⅰ音ほど簡単ではありません。それは、Ⅱ音の周りには、たくさんの音が聞こえてくるからです。心基部、第2肋間胸骨右縁(大動脈領域)では、Ⅱ音が大きく聴こえます。正常では、生理的Ⅱ音の分裂(なかなか難しい)が見られ、吸気時にⅡ音が分裂し(ⅡP ⅡAの順)呼気時は、よくわらなくなります。

右脚ブロックでは、吸気時にⅡ音が分裂の度合いがさらに広くなり(呼気時にも分裂あり)Ⅱ音の分裂がわかりやすくなります。初学者は、右脚ブロックのある患者さんを見つけて、Ⅱ音の分裂があるはずだと聴診に望むとわかりやすいかもしれません。

左脚ブロックでは、奇異性分裂(吸気時には、はっきりしなくて、呼気時にⅡ音の分裂 ⅡP ⅡAの順)を認めます。これは、かなりの上級編です。

最後に、有名なⅡ音の固定性分裂(吸気、呼気に関係なく)は、心房中隔欠損症の特徴ですが、普通は、ⅡAの方が大きいのでⅡP成分は聞こえにくいのですが、肺動脈が拡張して前に張ってきて、ⅡPの音もはっきりと聴こえるわけです。当然、心基部での聴診です。

Ⅱ音の分裂(第二肋間胸骨左縁)

生理的分裂
呼気時は「ダッ タ ダッ タ」
吸気に分裂が広がり「ダッ タラ ダッ タラ」

完全右脚ブロック
呼気時は「ダッ タラ ダッ タラ」
吸気にはさらに分裂が広がり「ダッ タ ラ」「ダッ タ ラ」

完全左脚ブロック(奇異性分裂)
呼気時は「ダッ タラ ダッ タラ」
吸気時は、「ダッ タ ダッ タ」

心房中隔欠損(固定性分裂)
吸気時も吸気時も「ダッ タラ ダッ タラ」

 

Ⅱ音の聴診が難しいのは、Ⅱ音の分裂だけでなく、さらにⅢ音やクリック音(僧帽弁逸脱症)僧帽弁開放音(僧帽弁狭窄症は今はほとんどいませんが)などの紛らわしい過剰心音が混ざってくるからです。これらとの鑑別は、ピッチ、最強点の場所、呼吸変動の有無などです。

Ⅲ音

Ⅲ音(心室充満音)は、心尖部で聞こえ、生理的Ⅲ音と病的Ⅲ音があります。小児(中学〜高校生)では、胸壁が薄くて心筋の伸展性が良いために発生します。心尖拍動は、短く(収縮期前半のみ)触れ、Ⅰ音、Ⅱ音も大きくて、低音〜高音成分を含む正常な生理的Ⅲ音を聴くことができます。大人でⅢ音がきこえる場合は、病的Ⅲ音で、うっ血性心不全、拡張型心筋症などで、左室拡張期圧が上昇し、左室内腔の拡大していると発生します。心尖拍動は、500円玉よりも大きく触れる、ゆっくり長く押すように触れ、頻脈に伴い、心尖部で左側臥位にして、Ⅰ音の減弱に加え、Ⅲ音も低音なのでベル型で聴かないと聞こえません。

生理的Ⅲ音


僧帽弁逆流とⅢ音

 

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僧帽弁逸脱症

僧帽弁逸脱は、心エコー検査を行えば数%の確率で見つかります。症状がなければ病気とはいえない単なる心エコー検査上の所見ですが、肋間神経痛様のピリッとした胸痛や動悸、めまいなどの症状があると僧帽弁逸脱症という疾患に格上げされて、治療の対象になります。収縮中期クリックは、Ⅱ音の分裂と間違いやすいのですが、ピッチが高くクリック音(引き金を引く前のカチッという音)と呼ばれる特徴的な音であり、最強点も第4肋間胸骨左縁であり(Ⅱ音の分裂は、第2肋間胸骨左縁かつ呼吸性変動がある)鑑別点となります。やせ型の女性に多く、心臓が小さいので腱索が余っていて、急に伸展することで痛みが起こるとされています。症状は、心拍が増えると出やすいので、β遮断薬で徐脈にすると楽になり、クリックも消えてしまう症例もたくさんあります。

一方、僧帽弁が心臓の収縮期に左心房側に落ち込みがひどくなると僧帽弁閉鎖不全症や不整脈が起こり、手術の適応になることもあります。僧帽弁閉鎖不全を合併した時の心雑音は、収縮後期逆流性雑音で、平坦な雑音で「ダハ ダハ」と聞こえます。


Ⅱ音の分裂とⅢ音が鑑別に挙がっていますが、実際の診療では、Ⅱ音の分裂は胸骨左縁、Ⅲ音は心尖部で聞こえるので、臨床的に迷うことはありません。

卒煙証書 2

 

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僧帽弁開放音(OS:opening snap)

僧帽弁開放音(OS)は、僧帽弁狭窄症の聴診所見として、国家試験的には超有名です。心臓の聴診を勉強するにはうってつけのサンプルなので、最近はほとんど見かけませんが、ちょっと取り上げてみました。

弁や腱索の肥厚、線維化によるⅠ音の亢進と左房圧上昇でリウマチ性変化を伴う僧帽弁の開放が急激に中断することによる僧帽弁開放音が、Ⅱ音から0.6〜1.0秒くらい離れて聴かれます。(第4肋間胸骨左縁が最強点で、重症になるほど短くなります)左室の急速流入期に血液が狭い僧帽弁口を通過する時に生ずる拡張期雑音(拡張中期ランブルは、心尖部に最強点があり、前収縮期雑音とも、ベル型の聴診器を軽く当てることで聴くことができます。(強く押し当てると消えてしまいます)

 

Ⅳ音

Ⅳ音は、心房音です。正常では聞こえません。Ⅳ音が聞こえる時は、病的Ⅳ音というわけです。肥大型心筋症高血圧性心疾患で心筋肥厚(左室肥大)があり、左室の伸展性が悪い状態で(拡張障害)左房収縮で代償しようとすると左室拡張末期が急に上昇して聴かれる頻度が高くなります。Ⅲ音は心不全にならないと聞こえませんが、Ⅳ音は、心不全がなくても(前段階)心肥大の段階で見つけるとことができます。心尖拍動で、二峰性に拍動を触れれば、Ⅳ音のサインです。こういった状態で、心房細動(最近、高齢者に多くなっています)が合併すると一気に急性心不全になってしまいます。しっかり聴いて、心不全になる前に対応策を考えましょう。未病を治すのが上医ですよ。

 

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奔馬調律(ギャロップリズム:gallop rhythm)

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心不全などになって、Ⅰ音Ⅱ音のほかにⅢ音Ⅳ音が加わると馬が駆けている時の足音のような特有の三拍子、ないしは四拍子のリズムに聞こえます。これを奔馬調律と言います。Ⅲ音やⅣ音が単独で加わったⅢ音ギャロップ、Ⅳ音ギャロップ、Ⅲ音とⅣ音が加わると四拍子の奔馬調律になりますが、心拍数が100以上になるとⅢ音とⅣ音が重なって区別がつかなくなって大きな心音となり重合性奔馬調律などと呼ばれています。

 

ベル型に変えて、Ⅲ音、Ⅳ音、Ⅰ音の減弱などを聴いてみましょう。

ベル型とⅢ音等低音成分

Ⅲ音(心尖部で聴取)
「ダッ タハ  ダッ タハ」(オッカサンと聞こえます)

僧帽弁狭窄症(僧帽弁開放音)第4肋骨胸骨左縁
「ダッ タパ  ダッ タパ」

クリック音(僧帽弁逸脱症)第4肋骨胸骨左縁 収縮中期に聞こえます。
「ダパタ ダパタ」(アカチャンと聞こえます)

Ⅳ音(心尖部で聴取)
ダッ   ダッ 」(オトッツアンと聞こえます)

Ⅲ音とⅣ音(心尖部で聴取)四部調律 急性心不全
ダッ タハ  ダッ タハ

さらに、頻脈になると
Ⅲ音とⅣ音が重合(三拍子)重合奔馬調律
「ダッ タ ハン  ダッ タ ハン


心雑音

心雑音は、心音と心音の間、もしくはまたがって聴かれる雑音のことです。純音ではなく、多くの周波数帯域の合成波で、持続する長い振動音です。心雑音は、弁の狭窄や閉鎖不全、血管の狭窄や拡大、欠損孔や動静脈シャントなどによって、血液の乱流、渦流が起こって、雑音を生じます。

心雑音を評価する時に大事なポイントは、時相(収縮期か拡張期)、最強点、音の性質、音調、周波数などです。

心雑音は、起こるタイミングによって、分類されています。

収縮期雑音 Ⅰ音とⅡ音の間に聴かれる。
拡張期雑音 Ⅱ音と次のⅠ音の間に聴かれる。
往復雑音  収縮期と拡張期の両方で非連続的に聴かれる。
連続性雑音 収縮期から拡張期に渡って、連続的に聴かれる。


心雑音の時相と音調

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雑音の最強点を決めるためには、基本的な四つの聴診領域だけにこだわらず、鎖骨(鎖骨に直接聴診器を当てます)を含めた心臓前面部を広く聴診して最強点を探します。

 

心雑音の大きさは、音量の程度によって、Levine分類によって表現されています。

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収縮期雑音

大動脈狭窄症は、高齢化社会において、最近、すごく増加している疾患の代表です。

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心雑音の中で最も典型的なものが収縮期駆出性雑音(systolic ejection murmur)というタイプです。この雑音が聴こえる代表的疾患が大動脈弁狭窄です。大動脈弁が狭くなることで左室から大動脈に送られる血液の流れが急となり、それによって起こる大動脈内での血液の乱流によって、この雑音が生まれます。雑音の特徴は、Ⅰ音からやや遅れて始まりⅡ音まで続く荒々しい漸増漸減型雑音です。左室圧と大動脈圧の差によって、ダイヤモンド型と呼ばれる形になっていますが、重症になるほど、収縮期後半が強くなって、Ⅱ音がわかりにくなります。(軽症は低音 → 重症になると高音)最強点は、心尖部から大動脈弁領域にかけてで(第2肋間胸骨右縁)右の頚部に放散します。頸動脈の触診では、脈が触れにくく、シャダー(振動)を感じます。これを遅脈と言います。

尚、肺動脈駆出音との鑑別は、最強点が第4肋間胸左縁です(音だけでは鑑別困難です)

大動脈弁狭窄 心尖部から第2肋間胸骨右縁
「ダッハータ ダッハータ」

 

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機能性雑音(無害性)

学校の健診などで聴診していると児童生徒に心疾患がなくても収縮早期駆出性雑音を聴取することがあり、要精検として外来にくることもあります。最強点は(心尖部から)第2肋間胸骨左縁を中心に前胸部全体に聞こえたり、第2肋間胸骨右縁で、Ⅰ音、Ⅱ音は明瞭に聞こえ(特にⅡ音)過剰心音もなし、雑音としては「ダッハッ タ」(Ⅱ音の前にちょっと隙間あり)と聞こえ、収縮期の前半にレバインⅢ度以下の低い音です。(膜型にすると聞こえなくなる

特に自覚症状なく、心電図、胸部Xp異常ければ、機能性雑音(無害性)で心配なしと判定しております。大人でも高血圧、大動脈の硬化などで聴かれます。臨床的に問題となるような大きく荒々しい雑音は、最強点で触診できます(スリルを触れる)機能性雑音(無害性)でスリルを触れることはありません。

また、小児でよく聴かれる無害性雑音として、収縮期楽音様雑音(musical murmur)があります。心臓の中の腱索や肺動脈弁などが振動することによって、収縮期に「ウ〜」というハミングするような楽音(単一な周波数の基音と種々の倍音からなる)様の音が発生します。心雑音としては「ウ〜 ウ〜」と聞こえます。

 

僧帽弁閉鎖不全は、臨床現場では、最も多く遭遇する弁膜症です。

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収縮期逆流性雑音の代表が僧帽弁閉鎖不全です。この雑音は、僧帽弁がきちんと閉まらないことで、収縮期に左室から左房に血液が逆流することでおこります。雑音の特徴は、Ⅰ音Ⅱ音を覆い隠す(Ⅰ音Ⅱ音がわかりにくい)平坦な柔らかな吹鳴様雑音(全収縮期雑音)です。音は大きく、長く、高音なので、膜型(高音成分)でよく聴こえます。左室圧と左房圧の差によって逆流を生じるので、いつの時期でも一定の圧##なので平坦な形になっています。最強点は、心尖部で左の腋窩に放散します。重症化すると、逆流量は増えて音は大きくなりますが、左房圧が上がって圧較差は少なくなりゆっくりした流れになり低音化します。(軽症は高音 → 重症になると低音となり、右頚部での動悸を感じる患者さんが多く、触診所見を速脈と言います。

僧帽弁閉鎖不全 心尖部
「ハー ハー」

大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全の鑑別は、雑音の音調や最強点や伝搬方向が違いなど、机上の上では簡単に説明されていますが、実際は、かなり難しい症例もあります。確かに、心尖部が最強点で、大きな吹鳴様雑音の全収縮期雑音ならほぼ診断はつきますが、全収縮期(汎収縮期)とは限らず、雑音が小さい場合は、漸減性でⅡ音の手前で終わったり、大動脈狭窄様に漸増性であることもあります。

三尖弁閉鎖不全も「ハー ハー」と聞こえますが、最強点は第4肋間胸骨左縁で、雑音は吸気時に増大します。これは、吸気により胸郭拡大させ、胸腔内圧が院圧になることで心臓に返ってくる血液が増加し、雑音が増大します。これをRivero-Carvallo徴候と言います。

拡張期雑音

拡張期に聞こえる雑音は、すべて病的です。大動脈弁閉鎖不全(逆流)が代表的な疾患です。最強点は、第4肋間胸骨左縁です。軽症では、高音で膜型(高音成分)で聴きますが、重症になると音は大きくなりますが、低音化し持続時間が長くなります。(Ⅱ音減弱 相対的大動脈狭窄の雑音)原因としては、動脈硬化性のものが多いようです。

大動脈弁閉鎖不全の逆流性雑音は、軽症の場合は聞き取りにくく、病態の変化によって聞こえたり、消えたりすることもあります。ちょっとおかしいなと思ったら、この小さい雑音を見逃さないためには、少し前屈姿勢(大動脈を胸壁に近づける)呼吸を止める(呼吸音と似ているので間違わないように、呼気で呼吸を止めてもらう)蹲踞(スクワット)すると大動脈圧が上がって、逆流量が増えるなど工夫しながら聴くと(僧帽弁閉鎖不全でも雑音が大きくなる)キャッチできるかもしれません。

大動脈弁閉鎖不全(逆流)第2肋間胸骨左縁
「ダッパー ダッパー」


往復雑音

動脈硬化性の大動脈弁狭窄に閉鎖不全も併存することもよくあります。「ダハータハー ダハータハー」と聞こえます。

連続性雑音(continuous murmur)

連続性雑音は、血管雑音で、動脈管開存症(大動脈と肺動脈の短絡)が典型ですが、最強点は第2肋間胸骨左縁で、この連続性雑音は、コーヒーミル様の雑音と言われ「ア〜ア〜 ア〜ア〜」や「ウ〜ウ〜 ウ〜ウ〜」などの音色で表現されます。頸動脈狭窄でもその部位で同じような雑音が聴取できます。

その他の雑音として、心膜摩擦音などがあります。風邪が長引いてなかなか治らないという患者さんで、肺炎の聴診をするとアレって感じです。呼吸に伴う胸痛を訴えることが多く、心膜摩擦音は、SL機関車が走る時の音(新聞紙でボールを作って擦り合わせる)と表現され、心外膜と心膜が炎症により擦れ合う音で、心拍とは無関係に発生します。

〜沢山俊民先生(元 川崎医科大学教授)の講義より〜