便潜血(免疫学的)
がん検診の中で、一番に抵抗があるのが、この検査かも知れません。「昔はマッチ箱」だったという話は、知る人ぞ知るところですが、最近は、採便セット?なるものになっています。中には、容器が二つと「トレールペーパー」とやらが2枚、説明書が1枚入っています。
説明書には、いろいろと突っ込みを入れないと気が済まないような文言がならんでいますが、さら〜と読み飛ばして、いよいよ採便となるわけですが(血液が糞便中に均等に混じっているわけではないので、便のいろいろな箇所を万遍なくかつ過不足ない量を採取します。)実際に、悪戦苦闘する人も多いようです。便座に逆向きに座るのが難しい場合には、浅く座って行うなど難易度Aの高等なスキルが要求されます。ちなみに、冷所とは、直射日光があたらない、高温に達しない場所(要冷蔵(2〜10℃)と書いてあるものもありますが、さすがに冷蔵庫は・・・)トイレの隅のほうにでも置いて、出来るだけ早く提出すればいいでしょう。
(腸内細菌によりヘモグロビンが分解されるためで,室温で保存すると1日放置しただけでも偽陰性となることも少なくありません)
便潜血反応は、消化管からの出血の有無を検出する検査で「化学的方法」と「免疫学的方法」の2つの方法があります。化学的方法は、赤血球中のヘムの持つペルオキシダーゼ様作用を検出します。指示薬が異なるオルトトリジン法とグアヤック法の2つあり、オルトトリジン法は感度に優れ(ごく微量な潜血でも検出可能ですが、ヘムと同様なペルオキシダーゼ様作用を持つ肉や魚料理などに含まれる血液や鉄剤,ミオグロビン,緑黄色野菜でも陽性となり,偽陽性反応が問題)グアヤック法は特異度に優れています。(感度は劣り、オルトトリジン法の50〜100分の1程度で、極微量の血液は検出できない)そのため,グアヤック法が陽性であれば潜血陽性、オルトトリジンが陰性であれば潜血陰性とすることができる。従来は、上部消化管の病変が疑われるときは、化学的便潜血反応を行っていましたが、現在では直ちに上部消化管内視鏡検査を行うのが一般的となってきています。
大腸がん検診において、化学法を用いたRTCで死亡率減少が証明されている。しかし、我が国では、感度、特異度の面から免疫法の優位性が報告されており、検診ガイドラインでは免疫学的便潜血2回法が推奨されています。免疫学的便潜血の偽陰性の原因として、採便量の不足、採便部や検体管理の不適切などがある。また、右側結腸がんでは、長時間大腸に停滞することでヒトヘモグロビンが変性し抗原性を失ったり、便が水様〜泥状のため擦れて出血しにくいことが原因と考えられている。偽陽性の原因として、アスピリンなどのNSAIDsの服用が懸念されたが、RTC、コホート研究で有意差が認められず、検診前に中止することはないと結論づけられた。
大腸がん検診で陽性になって、不安になっている方に
免疫学的便潜血検査は、ヒトヘモグロビンに特異的に検出でき、下部消化管での出血の有無(癌のスクリーニング検査)を検出し、受けた人の約5%前後も陽性になります。しかも陽性でも、大腸がんは、そのうちの2〜3%で、95%以上は、痔やポリープか、まったく異常なしなのです。したがって,集団検診による大腸癌の発見率は0.1〜3%程度です。便潜血検査は、便の中に血が混じっているかどうかを、免疫学的方法で調べます。血が出ているかどうかは、目で見てもわかりません。 便に潜む血を測る検査なので、便潜血反応なのです。ヒトヘモグロビンに対する抗体を用いているので、豚や牛あるいは魚類の血液とは反応しません。しかし、肛門からの出血や痔などでも陽性になります。胃酸や胃・膵液由来の消化液によりヘモグロビンが変性する上部消化管出血は検出できず、大腸がん(下部消化管)のスクリーニング検査として使われます。 大腸がんはがんの中では、比較的治しやすい病気です。早期に発見すれば、手術によってほぼ完治します。しかし、初期には症状が乏しいため、発見が遅れて肝臓や肺に転移して治療が困難になることもあります。そこで大腸がんの予防のためには、地域や職場で行われる定期検診を受けることが重要なのです。毎年便潜血反応検査を受けると大腸癌死亡リスクは60〜70%減少すると推定されています。なお,免疫学的潜血反応による大腸癌検出率は,進行癌で60〜75%,早期癌で30〜40%と言われています。ちなみに、便潜血反応が、1回だけ陽性で、もう一つは陰性だから、再検査をして陰性だったからというような理由で、精密検査を受けない人もおられるようですが、便潜血検査が2回法(3回採っても感度はそう変わらない)になっているのは、1回だけでは見逃す可能性が高いため、2日間連続検査法を行うことで10〜15%程度検出率が改善するとされています。2回の内で1回陽性になっていると言うことは、なんとかうまく拾い上げたという可能性が高いわけです。せっかく、勇気を出してがん検診を受けて、早期で見つかった大腸がんを自ら、放棄してしまうのもいかかがなものでしょうか(気持ちは分かります)