褥瘡

褥瘡と褥創

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在宅をやっていると、否応なしで褥瘡は避けては通れない病態になります。日本褥瘡学会ホームページにおいて、ヤマイダレの「」の字の意味するところとして、褥瘡の原因は複雑であり,圧力,剪断応力,危険因子,低栄養,病的骨突出とADLの低下などがあげられ、決してお尻の一部分だけの問題ではなく、全身の病気であり、周りの環境をも含めた疾患であるという概念が重要です。また、刀キズ,外傷による単なる創と異なり、壊死組織が、その治癒経過に大きな影響を与え、褥瘡を持って死亡する症例では、局所の病状よりも、むしろ呼吸不全,心・腎不全の症状を呈することが多く、褥瘡患者のターミナルにおいては全身病としてのケアが必要であることより、「褥瘡」が適切である判断したと書いてあります。

アンケート調査(在宅診療2)

褥瘡は、全身の病気が皮膚に出てきているわけなので、全身を見て、なんで、褥瘡が出来たのかを考えることが大切です。基礎疾患は?栄養状態は?介護の状況は?その上で、褥瘡のステージを評価して治療戦略を考えましょう。褥瘡の局所ケアのおおまかなルールです。

原因

(1)圧迫
麻痺や老衰、ADLの低下によって自分自身で体位の変換が不可能な患者さんによく見られます。身体の骨突出部で皮膚や皮下の組織が自分の体の重さで圧迫されることによって局所の血流が遮断されて、その部位の組織が壊死に陥ります。

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(2)摩擦・ずれ

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褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれます。ずれとは垂直方向の圧迫ではなく、接触面に沿った圧迫です。30度以上のギャッチアップなどで、患者が足元方向にずり下がったときに見られ、組織内では筋肉から皮膚に向かって血管が引き伸ばされて血管が細くなって、皮膚への血行が悪くなり、わずかな圧迫で虚血となるために褥瘡が発生しやすくなります。また、摩擦とは自力あるいは他力で身体を移動させる時に、皮膚の表面が擦れる現象です。摩擦の刺激は、繰り返されることによって表皮が損傷しやすくなり、わずかな圧迫によっても褥瘡が発生しやすくなります。

(3)浮腫、湿潤環境
栄養状態の悪化は皮膚を浮腫(むく)ませ、血行を悪くなり、褥瘡発症の危険性が増すばかりでなく、褥瘡の治癒も遅くなります。また、失禁(濡れたおむつ)などによる皮膚の状態や年齢(皮膚と皮下組織と結合がもろいくなっている)脱水などいろいろな背景が、発症の原因となります。

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褥瘡になりやすい危険な人を早く見つけるためのスケールなどもありますが、臨床的に、脳血管障害や認知症で、自力で体位変換出来ない、低栄養、浮腫や拘縮などがある人は注意が必要です。褥瘡ができやすいところは、腰(仙骨部)、かかと、ひじなど骨ばった部分です。身体を拭くときなどに注意して見るようにしましょう。

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高齢者に褥瘡ができやすいのは?

◎皮膚自体が弱くなっている。(弾性、水分減少、皮脂欠乏など)
◎支持組織の痩せ(異常骨突出)
◎栄養状態、免疫能の低下
◎体動の減少(拘縮、麻痺など)
◎痛覚低下による逃避行動の低下
◎尿便失禁による皮膚の湿潤

 

評価

褥瘡は、皮膚の損傷の程度(大きさ、深さ、感染の有無、壊死組織、肉芽組織)などを観察します。その中で、最も重要なのは、深さと感染の有無です。

◎深さの分類(NPUAP分類)

I度:表皮にとどまっている状態。局所の発赤(紅斑)、表皮剥離(びらん)である。
II度:真皮までの皮膚欠損が生じている状態。水疱が形成、壊死組織の付着や細菌感染が生じやすい。
III度:皮下組織に達する欠損が生じている状態。
IV度:筋肉や骨まで損傷された状態。
U:深さ判定が不能な場合。
DTI疑い:圧力、せん断力によって生じる皮下軟部組織の損傷。限局性の紫または栗色の皮膚変色、または血疱。

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この発赤はどうでしょうか? 発赤を押さえて、赤みが消えれば、持続性発赤であり、褥瘡ではありません。周囲の淡い所は、押さえると発赤は消えそうですよね。しかし、少し褐色調になった紅色の部分は、押さえてもそのままでしょうね。StageⅠ度の褥瘡と判定しました。

 

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表面に壊死組織が付着している場合は、深さは不明です。まあ、Stage1ということはないでしょうけれど、壊死組織をデブリードマンしてみないと、Stage2〜4は判定出来ません。判定は、”U”です。内科医にとって、デブリードマンはちょっと気が重いですね。感染を疑った場合(腫脹(しわがない)発赤、熱感)は、最小限でやっています。黒色壊死は、1週間ぐらいで柔らかくなってから、赤いポツポツがないところを鈎ピンでつまんで持ち上げて、眼科バサミで小さく切って、指をつっこんで鈍的に剥離、ドレナージだけするようにしています。数週間経過を見て、経過が悪ければ、深追いせず、外科病院におまかせしています。(特別養護老人ホームの協力病院でいつもお世話になっております)

 

Ⅱ度かⅢ度かの判定は、大変重要です。浅い褥瘡は、潰瘍底に残っている真皮(毛根、毛囊、汗腺など付属器)が残っている場合は、そこから表皮が延びて潰瘍を覆い治癒するので、2〜3週間で治癒しますが、深い褥瘡は、真皮部分がなくなってしまっているので、潰瘍底からは表皮形成ができないので、肉芽(支持組織)ができてから、周辺から表皮形成が起こるため、最低でも2〜3ヶ月かかってしまうわけです。毛穴があるかどうかで判定します。

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Ⅱ度               Ⅲ度

 

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DESIGN分類

日本褥瘡学会が作成した褥瘡状態判定スケールです。Depth(深さ) Exudate(浸出液) Size(大きさ) Inflammation/Infection(炎症/感染) Granulation(肉芽組織) Necrotic tissue(壊死組織)それぞれの項目が重症度に従い点数が付けられ、合計点数が減っていく=治癒に向かっていると判定します。深さの項目が最も重要で、D3以上が真皮を越える難治性の褥瘡です。しかし、こんな使い勝手の悪い、まさに「学会」の評価法です。大学病院ならいざ知らず、マンパワーもないし、褥瘡とも上手に付き合わないといけない在宅の現場を知らない人が考えそうな分類ですね。もっと在宅の褥瘡では、訪問看護をいかに上手に使えるかが勝負です。介護保険の枠では、十分な治療ができないので、医療保険で訪問看護特別指示書を書けば、2週間は、週4回以上可能で、(1)気管カニューレの使用(2)真皮を越える褥瘡については、月に2回算定可能(2週間+2週間で計28日)です。PLUGIN_SIZE_USAGE


褥瘡のアセスメントツールには、米国で開発された「ブレーデンスケール」日本でも「在宅危険因子評価表」「OHスケール」「在宅版K式スケール」などがあります。こういったものを使うのはちょっと大変ですが、興味のある方は勉強してみてください。

褥瘡の病期

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黒色期:褥瘡発生直後の時期は、黒い皮膚の壊死を伴うこと多く、深さはデブリートマンしないとわかりません。感染の温床になるので、なるべく早期にデブリートマンすることが望ましいが、ドレッシング剤を貼付し、自己融解を促進させる薬剤で様子をみる方法もあるが、感染が認められた場合は、抗生剤の全身投与して、速やかに除去が必要です。

黄色期:壊死した黒いかひが除かれると、炎症期で、浸出液が多く、感染も起こしやすいので注意が必要です。

赤色期:肉芽が覆ってきた時期で、浸出液の減少し、表皮形成されて、傷も小さくなってきます。ドレッシング剤も長く持つようになってきます。

白色期:新しい表皮形成されて、白色調を呈し、さらに傷が縮小し、治癒する。傷が乾きにくくするために、湿潤療法にあったドレッシング剤を使用する。

 

 

感染徴候の有無
褥瘡の診断、治療経過を見る上で、最も大事なことは、感染の有無です。感染徴候(疼痛、発赤、腫脹、熱感)を見逃さず、早期発見、早期治療です。見た目で感染しているかどうかのポイントは、褥瘡の周囲が赤みがあって、腫れることでシワがなくなっているかどうかです。黒色の痂皮が硬く、感染兆候が軽い場合は、ドレッシング剤で被覆して、自己融解を促す方法もありますが、明らかに局所の内圧が上がっている感じで、テカテカして黄色くて透明な場所がある場合は、感染が確実と判断し抗生物質の全身投与して、局所を鈎鑷子でつまんで眼科ハサミで切開排膿し指などで鈍的に剥離し、ドレナージをおこないます。また、感染の温床である壊死組織を外科的デブリートマンすることで、感染を未然に防ぐことになります。デブリートマンを施行して、痛みがあったり、出血するようなら中止します。

感染しているかどうかと菌がいるかどうかは全く別物です。感染を起こすと感染徴候(疼痛、発赤、腫脹、熱感)が現れ、介入が必要ですが、菌がいても感染していない状態をColonizationと言います。例えば、口の中はたくさんのバイ菌がいますが、口の中を切ってもほぼ感染はしません。また、切れ痔もうんこまみれでも感染しませんよね。傷に細菌がついても化膿しないわけです。では、どういう場合に感染が成立するのか?バイ菌+αが必要で、αは、血腫や溜まったリンパ液、壊死組織、異物などがあって、菌が異常に増える感染源があるということです。よって傷の感染を防ぐには、傷から感染源を除去すること(菌はいても大丈夫)つまり、ドレナージとデブリートマンが重要ということです。傷に消毒は必要ないと言われていますが、消毒でバイ菌も壊死組織も除去できないわけです。褥瘡の菌の培養はしません。褥瘡ができて、浸出液(pH 7.4)で傷面は中性になり、好気性で、皮脂が剥がれてとなると、黄色ブドウ球菌に最適な環境になり、抗生剤を投与するとMRSAに変わっていくのは当然の流れです。MRSAがいるから傷が治らないわけではなくて、傷が治らないからMRSAがいる。傷面のMRSAを消すためには、傷を治すことが先決です。傷が治って、正常な皮膚(pH 5.5)に戻ったら、皮膚常在菌が増殖してMRSAはいられなくなるわけです。

 

治療

肉芽増殖、上皮形成には湿潤治療が基本で、水っぽさをジトジト〜シトシトぐらいの環境に保つことが重要です。(ジャブジャブやサラサラではなく)この水分コントロールが、治療のキモであり、ドレッシング剤(被覆材)と軟膏を上手に使うことが治療のポイントであります。

感染コントロールに、消毒の必要はありません。水道水(微温湯)で、十分に洗浄しましょう。感染の巣となる壊死物質の除去し、感染徴候(発赤、腫れ、熱感)を見逃さないように経過をみます。

卒煙証書 22

まず、ドレッシング剤とに使い方です。

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マルチフィックス

ただ赤いだけで、浸出液もほとんどなければ、このポリウレタンフィルムで十分です。しかし、褥瘡はズレで起こっているので、ポリウレタンフィルムを貼っても、剥がれてしまって、うまくいかないこともしばしばです。そういう場合は、発赤部を中心に広い範囲にワセリンを塗って、反対側のパットにもワセリンを塗って摩擦をなくすのが効果的です。さらには穴あきポリなどを広範囲で貼っておくのもお薦めです。

 

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デュオアクティブ

ハイドロコロイドドレッシング剤 浸出液が少量なら薄い方(デュオアクティブET)を使用します。(使用して次の日にびちゃびちゃになっていることもよくあります。浸出液がどれくらい出るかを見極めるには、経験が必要なようです。)

 

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カルトスタット

アルギン酸塩(昆布から抽出)の強力な止血作用を利用します。デュオアクティブやカルトスタットなどの被覆材はとても高価です。かならず、皮膚欠損創、褥瘡の保険病名が必要で、連続2週間という縛りがあります。

 

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モイスキンパット

中等度〜多量の浸出液に対して、水のコントロールをしながら治療できます。

 

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ゲーベンクリーム(スルファジアジン酸含有)

みずっぽい乳剤(クリーム)性基剤で、浸透力に優れている。黒色期〜黄色期の壊死組織を軟化させたり、抗菌作用もあり、炎症期に適している。浸出液を減少させるが、多量な場合や乾いた褥瘡に用いるとふやける。

 

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オルセノン軟膏(トレチノイントコフェリル含有)

みずっぽい乳剤(クリーム)性基剤で、浸透力に優れている。肉芽増殖作用は強力で赤色期にに適している。(フィブラストスプレーも)水分量が多すぎて、ジュクジュクになる場合は、砂糖を(2〜5倍量)混ぜて、オルセノンシュガーを作成する方法(福井基成先生)が、塗布しやすくもなり、安価にもなり重宝します。

 

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アズノール軟膏(グアイアズレン含有)

脂溶性基剤で、浸透力は弱く、浸潤を保って浅い潰瘍を保護する作用で、白色期(上皮形成期)に用いる。

 

いろいろなお薬を駆使しても、褥瘡が全くよくならないこともしばしばです。他の原因が対応されていないこともあるのですが、そもそも薬剤の器材が悪さをしている場合も多いようです。ゲーベンやオルセノンをやめたらよくなったということもよく経験するので、一旦、立ち止まってリセットして、基本的なことから始めるのも大事かなと思います。

 

床ずれ防止用具の活用

マットレス
電動ベット(背上げ、脚上げ、高さ調整)

同じ体位(姿勢)が、長時間続かないように、仰向け、左右横向きが交互になるように、体位変換スケジュールを考えます。体位変換は、2時間毎が望ましいと言われていますが「言うは易し、行うは難し」です。ヨーロッパから粘弾性フォームマットレスを使用すれば、4時間ごとでもOKという報告もあるようですが、骨突出が強い日本人に合うかどうかは疑問のようです。最近、自動で体位変換してくれるマットレスも出てきているようです。

特に夜間の体位変換は、介護者の就寝前、起床時などに合わせて行うと負担を軽減できます。

車椅子(ティルト、リクライニング)
ポジショニングクッション(円座)

 

ラップ療法

もっと安く、簡単に行う褥瘡治療としてラップ療法があります。当院のラップ療法の褥瘡セットです。台所用品であるサランラップ、水切り袋、ペットシーツなどを使って褥瘡治療を行います。1996年、鳥谷部俊一氏は褥瘡に食品用ラップを直接貼付する処置法(ラップ療法)を創案しました。その後、穴あきプラスチックフィルムを用いる処置法や医療用衛生材料を提案し、開放性湿潤療法 open wet-dressing therapy; OpWT) と呼称しました。最近の創傷治療では、閉鎖性湿潤療法 が提唱されていますが、褥瘡では湿潤療法は一緒ですが、開放性なんですね。つまり、傷は圧迫しませんが、褥瘡は、圧迫された環境で起こっているので、閉鎖性にすると内圧が上がってうまく行かないようです。2005年に鳥谷部先生が、褥瘡学会で発表されたようですが、全く無視されたようです。なかなか難しいですね。臨床現場では、患者さんが治れば、それでいいんですけどね。

 

褥瘡の基本は予防です。リハビリは、端座位がとれて、座って食べれるということが重要です。褥瘡のできそうな人のできそうな部位には、あらかじめワセリンやサランラップ、水切り袋を使って予防します。予防ならヘルパーさんでもできます。軽症は、静止型マットレス(ウレタン、ハイブリッド等)でOKです。重症は、圧切り替え型体圧分散寝具(アドバンやビッグセルなど)を使用します。ポジショニングも大事です。栄養管理は、微量元素も大事で、亜鉛、銅、ビタミンCなどまで思いが馳せられれば上出来です。

外科的治療
ラップ療法で、経過の芳しくない褥瘡、つまりは、感染して膿瘍を作っているようなもの、大きくて深い褥瘡で壊死組織がたくさんあって僕のレベルではデブリードマンが難しそうなもの、下肢の褥瘡で血行動態が悪そうなものは、外科治療を念頭において、家族の意向も踏まえつつ入院治療の適応を考慮します。外科治療とは、ずばり上手で安全なデブリードマン(壊死、感染組織を除去)です。その後、全身状態、欠損の大きさ、深さ、家族の希望で、縫縮、植皮、皮弁による再建をします。

褥瘡(創傷)などは、臨床現場では困っていても陽の当たる分野ではありませんでした。こういった一見アウトローのお医者さんたちは、ひと昔前の日本では、誰にも相手にされなかったと思いますが、インターネットが広がり、個人が発信力を持つ時代に、同じ様な輩が集まってくると、お偉い先生方やお堅い立場の人たちも無視できなくなってきたようです。おかげさまで、我々凡々とした者にとっては、いいとこ取りが出来て、患者さんにとっても幸せ、win win winの関係でみんながhappyです。