脂質代謝異常症

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「卵に含まれているコレステロールは善玉?悪玉?」
これって、意表を突いたいい質問ですね。
さすがNHK(ためしガッテン)って感じです。
さて、みなさんはわかりますか?

 

 

コレステロールと言えば、血管にたまって動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞など命に関わる病気の原因となる悪いやつ・・・というのはもはや常識。誰もが一度は聞いたことがある善玉・悪玉。答えは、コレステロールは善玉でも悪玉でもありません。

コレステロールは脂肪の一種で、細胞膜の構成成分で(人間の体の約60兆個の細胞の膜はコレステロールなしではできません)ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモン、なかったら困りますよね)や胆汁酸(脂肪の吸収には絶対必要です)の材料に欠かせない栄養素です。実は、善玉・悪玉と呼ばれるのは、身体の中に吸収された後に、タンパク質などとくっついて血液の中を流れている時の呼び名で、悪玉コレステロールに含まれるコレステロールも善玉コレステロールに含まれるコレステロールも同じコレステロールであって、違いはないのです。 卵などの食品に含まれているコレステロールにも善玉、悪玉という区別はありません。だたのコレステロールなのです。

たとえば、包丁は善玉?悪玉?。包丁自身に善玉も悪玉もありませんよね。使い方によって、料理(善玉)強盗(悪玉)に変わってしまうわけです。ちょっと違うけど、こういうニュアンスです。

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後でも出てきますが、中性脂肪やコレステロールは、脂肪なので、血液(水)には溶けません。そのため、血液中を流れるときは、中性脂肪やコレステロールを中心に押し込んで、周りをタンパク質やリン脂質で覆ったリポ蛋白(ミセル構造)といった塊りになっています。コレステロールをたくさん含んだリポ蛋白は、LDLコレステロール(細胞や組織にコレステロールを運ぶ)が悪玉コレステロールと言われていて、コレステロールがあまり含まれていないリポ蛋白は、HDLコレステロール(細胞や組織の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ)が善玉コレステロールと言われています。つまり、このリポ蛋白の種類を悪玉、善玉と呼んでいるわけです。他にもだから、コレステロール自体は、カイロミクロンやVLDLといったリポ蛋白があります。



健康診断結果報告書

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血液検査の結果をみると、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪などの項目があります。高脂血症(最近では、脂質異常症と言われている)ですね。「運動しましょう」「食事に気をつけましょう」などと言われますが、高脂血症ってどういうこと?血液ドロドロ? ちょっと勉強してみましょう。

 
 

 

脂肪とは?

人が動いたり、呼吸をしたりするには「エネルギー」が必要です。エネルギーを作り出す三大栄養素が「糖質」「脂質」「タンパク質」です。その中でも特に高いエネルギーを作り出せるのが「脂質」(脂肪)です。

人間の体内には、4種類の脂肪が存在します。

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脂肪酸 
活動するために必要なエネルギーとして利用される。

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中性脂肪トリグリセライド
脂肪細胞の中に蓄えられる。必要に応じて脂肪酸となり、エネルギーとして使われる。

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コレステロール 
細胞膜の構成成分。ステロイドホルモンの材料、胆汁酸の材料 ビタミンDの材料になります。

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リン脂質 
細胞膜の構成成分。疎水性物質の親和性を保たせる役割をしています。

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血管の動脈硬化の原因としてコレステロールがやり玉に挙がるのは、現行犯として仕方のないことですが(血管の壁に溜まっているのは、コレステロールであって、中性脂肪や脂肪酸、リン脂質ではない)脂質本来の仕事であるエネルギー源(30〜50g)として働いているのは、脂肪酸であり、その塊である中性脂肪が、脂肪細胞の蓄えられており、脂肪全体の9割以上を占めているのです。それに対して、コレステロールは、体の構成成分としての必要量は1日1〜1.5gぐらいで、実は、脂質全体から見ればマイナーな存在なのです。

 
 

 

The lower, the better

このいろいろな大規模臨床試験で心筋梗塞を予防するためには、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げれば下げるほどいいといことは証明されています。しかし、すべての日本人がスタチン(LDLコレステロールを下げるお薬)を使用すべきかが問題で、性別や年齢層や疾患背景などで、どういったグループの人にスタチンを処方するかが、医師の腕の見せ所である。

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例えば
54歳 女性。
健診で、総コレステロール250mg/dl(LDLコレステロール180mg/dl)
症状なし。喫煙歴、家族歴なし。

薬を飲むと、どれくらい心筋梗塞を減らすのでしょうか?
日本のエビデンスとして、大規模臨床試験(MEGA study)があります。

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心筋梗塞のリスクが33%減少します」と言われたら1/3になるんだと思ってしまいます。
もう少し具体的に「心筋梗塞を起こす確率が5%から3.4%に下がります」と言われたら???ですよね。

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5年間、100人の患者さんを追跡すると、食事療法だけだと3人が心筋梗塞を発症します。薬を飲むと2人に減りますので、そのうち黄色い1人の患者さんが救われます。でも薬を飲んでも飲まなくても97人は心筋梗塞を起こしません。確実に減るといっても、あなたが緑になるか赤になるか黄色になるかはわかりません。あなたならどうしますか?

結論を言うと、コレステロールが高くて薬を飲む場合は、その患者さんがどれくらい心筋梗塞になるリスクを持っているかが重要です。この患者さんのようになんのリスクもない女性の場合は、10年間の心筋梗塞で死ぬ確率は0.5%未満で、ほとんど利益はありません。これが60歳ぐらいの男性で高血圧を合併していると2〜5%、心筋梗塞の既往、糖尿病などがあれば、10%と高くなって来るので、薬の恩恵に預かることができます。あまり、リスクの少ない人は、コレステロールの治療よりも、これをきっかけにして禁煙など他の健康問題へのアプローチへの足がかりにしております。蛇足ですが、この試験では5年間追跡していますが、心筋梗塞の発症よりもがんの発生の方が多くなっているので、心臓ばかり診ていないで、がん検診を勧める?方がいいかも。

今日はなにを食べようかな?

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私たちが、食事を食べるときに、これは中性脂肪やこれはコレステロールと意識して、別々に食べているわけではありませんよね。てんぷら、とんかつ、ポテトチップス、お菓子などの脂肪をたくさん含む食品として「あ〜、カロリー高そうやなあ、ダメダメ」と思いながら食べているだけです。そういった食品が主にどういった種類の脂肪で構成されているのかを考えてみましょう。

まずは、脂肪の9割を占める中性脂肪(脂肪酸)のお話しから始めましょう。

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脂肪酸とは?

 脂肪酸は脂肪を構成する重要な成分で、食品中の脂肪の9割が脂肪酸でできています。肉の脂肪、牛乳の脂肪、魚の油、植物油など一見違った脂肪に見えますが、その成分はほとんど脂肪酸です。脂肪酸は炭素(C)が鎖状に長くつながったもので、鎖の端にメチル基(CH3—)もう一方の端にはカルボキシル末端(—COOH)を持っています。炭素の数が12個以上の高級脂肪酸が、水には溶けない油脂となります。
 
 

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「脂」と「油」

脂肪酸には多くの種類がありますが、大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸は、炭素がすべて単結合(飽和結合)しており、肉類や乳製品に多く含まれ、バターやラードのように常温で固体(脂)となり、主として動物性の脂肪です。一方、不飽和脂肪酸は、炭素の結合に、二重結合(不飽和結合)を含み、 天ぷら油やサラダ油のように常温で液体(油)となり、種子油や青魚に多く含まれ、 主として植物性の脂肪です。

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不飽和脂肪酸は、 さらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。 一価不飽和脂肪酸の代表であるオレイン酸はオリーブ油やアボガドに多く含まれています。多価不飽和脂肪酸の代表であるリノール酸やリノレン酸は、紅花油、コーン油などの植物油に多く含まれています。また、青魚に多く含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)らは、中性脂肪を減らす働きや血栓を予防する働きもあります。

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脂肪酸の摂取については、特定の脂肪酸に偏ることなく、バランス良く摂取するということが大事で、飽和脂肪酸、一価脂肪酸、多価脂肪酸を3:4:3に近づくように採るように推奨 されています。

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中性脂肪とは?

 中性脂肪とは、トリグリセリド (triglyceride)、別名、トリアシルグリセロール (triacylglycerol) と呼ばれ、1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子のいろいろな脂肪酸が結合したものです。生体内においては、エネルギー貯蔵物質として、脂肪細胞(みんなから目の敵にされているお腹の脂肪の塊)に蓄えられています。
 
 

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脂肪の吸収

中性脂肪やコレステロールは、脂肪なので、血液(水)には溶けません。そのため、消化管で吸収されたり、血液中を流れるときは、水に溶けるような形に変わる必要があります。 胆汁(酸)は、消化された脂質に作用し、ミセルという油の粒を形成し、小腸から吸収されます。小腸細胞内でトリグリセリドに再構成され、カイロミクロン(リポ蛋白)を形成し,リンパ管,胸管を経て静脈内に入ります。

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ミセル形成

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たとえば、石鹸の分子は、水と仲良しの部分(親水基)と油と仲良しの部分(疎水基)がくっついた形をしています。たとえば、衣服についた汚れ(油性の物質)には、石鹸の分子の油と仲良しの部分がくっつき、水と仲良しの部分が水の中に油よごれをひきはがすので「衣服の油汚れが取れる」ということになります。水と仲良しの部分を外側にし、油と仲良しの部分を内側にして「おしくらまんじゅう」のような形をミセルと言います。


 

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リポ蛋白とは?

中性脂肪やコレステロールは、脂肪なので、血液(水)には溶けません。そのため、血液中を流れるときは、中性脂肪やコレステロールを中心に押し込んで、周りをタンパク質やリン脂質で覆ったリポ蛋白(ミセル構造)といった塊りになり、血液(水)に溶けやすい形に変身するのです。




人の場合は、主に4種類のリポ蛋白がありますが、脂質の9割以上を占める中性脂肪を運ぶリポ蛋白(カイロミクロン)が、バカでかいことは比べてみると明白ですね。

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お待ちかね! コレステロールのお話しです。

 
 
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ちょっと脂肪酸とは違う化学式ですね。脂質のひとつですが、ステロイドでもあるアルコール体です。人のあらゆる組織の細胞膜に見出される脂質です。主な働きは、胆汁の産生、ビタミンの代謝、色々なステロイドホルモン「副腎皮質ホルモンや性ホルモン)の合成の主要な前駆体でもあります。




肝臓で作られるコレステロールの律速段階であるHMGCoA還元酵素のお働きを阻害するお薬がコレステロールを下げるのに最も効果的です。

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悪玉コレステロールと善玉コレステロール
 
血液中でコレステロールを運ぶのはリポ蛋白には、大きく2種類あり、肝臓から細胞へと新しいコレステロールを配達するものと、細胞から古いコレステロールを回収して肝臓へ捨てに行くものがあります。いわば配達トラックと回収トラックです。この、配達トラックと積み荷のコレステロールをあわせて悪玉コレステロール(LDLコレステロール)と呼び、回収トラックと積み荷のコレステロールをあわせて善玉コレステロール(HDLコレステロール)と呼んでいます。積み荷のコレステロールそのものは同じ。運んでいるトラックと、運ばれていく方向が違うだけなのです。なぜ、配達は悪玉、回収は善玉と呼ばれているのでしょうか?食生活のバランスが崩れたりして、配達トラックが血液中に増え過ぎると、血管の壁の中にコレステロールが入り込んでしまいます。すると、白血球の一種であるマクロファージがやってきてコレステロールを食べ、掃除しようとします。しかし、マクロファージにはコレステロールを分解する力がありません。食べ過ぎたマクロファージは死んでしまい、どんどん血管の壁の中にたまっていきます。こうしてできるのがプラークなのです。配達トラックは増えすぎると動脈硬化を起こしてしまうので、悪玉”と呼ばれているのです。配達と回収はどちらも人体にとって大切な働きです。正常な量のコレステロールが血液中を運ばれる時は、決して、善玉でも悪玉でもないのです。ただのコレステロールの配達と回収です。血液中のコレステロールが増えてしまった時に、悪玉(配達しきれずに不法投棄する)になったり善玉(ゴミ拾いのボランティア活動)になったりするのです。

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non HDL-Cって何?

最近の新しいガイドラインにnon HDL-Cってのが出てきます。特定健診が始まって、LDLコレステロールを測定しています。LDLコレステロールが一番悪いと言うことは、世界的にもコンセンサスが得られているわけですが、LDLコレステロールの直接測定法というのが検査メーカーによってバラバラで、基準値が統一されていないという問題があり、今でもフリードワイドの式からLDLコレステロールを計算している施設も多いようです。しかし、TG(トリグリセライド)が400mg/dlを越えた場合はこの計算式は使えないと言うことで、non HDL-Cという指標が出てきたわけです。LDLコレステロールが一番悪いと言うことはさておき、その他にも、糖尿病メタボリックシンドロームで問題となるTGが400mg/dlもある患者さん、TGが悪いかどうかは議論のあるところですが、TGが高いとレムナントやsmall dense LDLコレステロールが高値になるといわれており、これらは動脈硬化を促進すると因子とされています。つまり、non HDL-Cのなかには、LDLコレステロールはもちろんのこと、TGやカイロミクロン、レムナント、small dense LDLコレステロール等々が含まれており、食事の影響も受けないというメリットもあります。



悪玉中の悪玉(超悪玉コレステロール)、small dense LDLってなに?

悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールの中にも大きな粒子のLDLもあれば、小さな粒子のLDLもあります。コレステロールを多く含むと大きくなるし、少ないと小さくなります。コレステロールを多く含んでいる方が悪いLDLのように考えがちですが、前述したようにコレステロール自身に悪玉、善玉という意味はありません。小型のLDLコレステロールのほうが、動脈硬化の危険因子と言われる所以は、そのサイズが小さいので血管壁に入りやすいということと、酸化変性を受けやすい(抗酸化作用のビタミンEなどの脂溶性ビタミンの含有が少ない)ということで、マクロファージの標的になりやすいのがsmall dense LDLなのです。さらに、small dense LDLは、LDL受容体への結合能力が普通のLDLよりもかなり悪く、血管の壁にあるプロテオグリカンというムコ多糖に結合しやすいこともあり、血中の滞在時間が非常に長くなります。

さて、LDLコレステロールのサイズと最も関係しているのが中性脂肪です。中性脂肪が高ければ、LDLコレステロールは小型化しやすく、中性脂肪が低くなれば、大型化しやすいとなります。中性脂肪が高いということは、トリグリセライドリッチなリポ蛋白(TRL)が血中にたくさんあるということですが、このトリグリセライドリッチなリポ蛋白とLDLコレステロールが血中で接触するとトリグリセライドリッチなリポ蛋白からLDLコレストロール側に濃度依存的にトリグリセライドが入り込みます。LDLコレステロールは、トリグリセライドを取り込んだ分だけ、トリグリセライドリッチなLDLコレステロールとなりますが、このLDLコレステロールは非常に代謝的には不安定なLDLであり、肝臓にある肝性リパーゼで分解され、コレステロールの少ないLDL(small dense LDL)が誕生します。

しかし、現在はsmall dense LDLそのものの測定には保険適応がないので、予測するしかありません。small dense LDLが高くなりやすい人は、糖尿病、肥満、メタボといった人で、LDLコレステロールがあまり高くないけど、中性脂肪の高い人、HDLコレステロールの低い人などはLDLのサイズが小さくて、値が見かけ上低く出ている可能性があります。LDLコレステロールが正常でもアポB(LDLコレステロールの粒子の大きさに関係なく、1個だけ入っている蛋白質なので、LDLコレステロールの数を表している)が若干高い人も怪しいですね。また、non HDL-Cで代用するのもの(相関0.8)勧められています。(non HDL-C>170はリスクが高い)

動脈硬化の危険性が高い(small dense LDL)患者さんは、LDLコレステロールも中性脂肪も高い複合型の高脂血症、Ⅱb型の患者さん、次にLDLコレステロールが高いⅡa型、さらに中性脂肪が高いⅣ型の患者さんです。これについては、まだ議論が分かれるところですが、中性脂肪の上昇をもたらしている原因のリポ蛋白によるのではないかと思います。しかし、同時にカイロミクロンレムナントは動脈硬化を促進しますから、慢性的な中性脂肪の高い状態は解消が必要かも知れません。中性脂肪とコレステロールの比が7以上の場合は(通常は5以下)カイロミクロンが原因です。LPL(リポ蛋白リパーゼ)の活性が低下、アポⅡの欠損(LPLを活性化)などが原因です。





高HDLコレステロール血症の人って長生き?

高HDLコレステロールは、善玉コレステロールと言って、動脈硬化巣に溜まったコレステロールを掃除する動脈硬化を防御する働きがあります。HDLコレステロール値が100mg/dl以上ある人の7割は、HDLの中にあるCETPというコレステロールエステルを転送する蛋白の欠損が原因です。その他の原因としてはアルコールを大量に飲んでいる人、原発性胆汁性肝硬変(PBC)などがありようです。CETP欠損の遺伝子異常(イントロン14の変異、D442Gの変異)を調べる検査は保険が通っていないので、それを見つけるコツとしては、アポ蛋白A1に比べてHDLコレステロールが非常に多いこと、TG(トリグリセライド)が高くないのに、アポ蛋白C3、アポ蛋白Eが高値になっていることが特徴です。そして、CETP欠損の遺伝異常で高HDLコレステロール血症になっている人たちは、必ずしも動脈硬化が予防できていないこともわかってきました。

 

低HDLコレステロール血症は動脈硬化の危険因子

HDLコレステロールが低いのは動脈硬化の危険因子とひとつと言われておりましたが、HDLコレステロールを上げても動脈硬化は改善しないことが報告されるようになってからは雲行きが怪しくなっております。最近は、むしろ中性脂肪と動脈硬化の関係が注目されるようになって、中性脂肪が高い方がHDLコレステロールは下がりますが、中性脂肪が原因であって、HDLコレステロールが下がっているのは原因ではなく、結果であるという考え方がだんだん有力になってきています。(何が正しいかはまだまだわかりませんが、今の所そういうわけです)




中性脂肪は動脈硬化と関係ないの?

中性脂肪が動脈硬化に関係ないというお話は、中性脂肪だけが高いⅠ型の高脂血症です。中性脂肪を分解するLPL(リポ蛋白リパーゼ)が完全に欠損したホモ接合体では、生まれつき中性脂肪が、1000、2000と高くなります。しかし、動脈硬化は全くありません。(中性脂肪が4桁(1000以上)あるような症例は、暴飲暴食でさらに上昇し、急性膵炎で重症化することがあります)つまり、中性脂肪が高ければ高いほど動脈硬化を起こすというような単純な関係ではありません。これは、中性脂肪を運ぶリポ蛋白であるカイロミクロンやVLDLの粒子は大きすぎて、血管の壁を通ることはできません。カイロミクロンだけ、VLDLだけが高くてその結果として中性脂肪だけが高くなっている人の場合は、動脈硬化は起こりにくいわけです。お酒が大好きで中性脂肪が高い人もいますね。お菓子ばかり食べている糖尿病の患者さんにもよくありますよね。中性脂肪が高い中で特に動脈硬化を関係があるのは、カイロミクロンが分解されたレムナント(カイロミクロンレムナントは動脈硬化を促進)やVLDLが分解されたIDLやLDLなどが高くなってくるとこれらの小さな粒子は血管の壁を通ることができ、動脈硬化の原因になりうるわけです。

コペンハーゲンで行われた大規模な前向きコホート研究で、非空腹時高トリグリセリド血症が心筋梗塞、虚血性心疾患、脳梗塞、死亡と相関することが報告されています。また、Women’s Health Studyの前向きデータの解析でも、空腹時 vs 非空腹時トリグリセリド値と将来の心血管イベントのリスクの相関を評価した結果、非空腹時トリグリセリド値は、独立した心血管リスク因子であることが判明しております。(空腹時トリグリセリド値はそうではなかった

通常、中性脂肪の検査は、空腹時(12時間以上の絶食の後)に行います。しかし、最近は食後の中性脂肪の上昇が問題視されています。中性脂肪は、カイロミクロンや、VLDLコレステロールの中に多く含まれますが、メタボリック症候群や糖尿病の方では、これらを加水分解するリポ蛋白リパーゼの酵素活性が低下しているため、食後長時間にわたり中性脂肪が高値となることが分かってきました。写真左から、ファーストフード食事前、食後2時間、食後4時間、食後6時間の血清です。(平光信也先生)この病態は食後高脂血症と呼ばれ、動脈硬化を生じやすい病態と考えられています。

 

 




食事でコレステロールを下げるには?

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食品から取り入れられるコレステロールの比率は20~30%で、 健康であれば、たくさん食べても、体内のコレステロール量を調整する機能が働きます。しかし、既に コレステロール値が高い人は、体内で合成されるコレステロール量を調整する機能が破綻しており、 必要以上のコレステロールを食事からとれば、血中コレステロール値は増えてしまいます。 コレステロール値を下げるには、1日の食事量を適正にしたうえで、食事からのコレステロール摂取量を減らすようにしなくてはいけません。コレステロールが多い食品(鶏卵、イクラやたらこなどの魚卵、レバー、マヨネーズなど)やコレステロールを上げる食品(飽和脂肪酸を多く含む肉の脂、チーズやバターなど)を控えるようにしましょう。また、コレステロールを含まない食事でも食べ過ぎによって体内のアセチルCoAが増え、コレステロールの合成が活発になるたります。食べ過ぎは、中性脂肪を増やし肥満にもつながりますので、腹8分目を心がけるようにしましょう。

 

コレステロールの大部分は食事に由来するのではなく、 糖質や脂質が分解されたアセチルCoAを材料にして肝臓で作られています。だから、食事療法は意味がないなどというお話しも出てくるのですが、やはり、高い人は控えた方がいいというのが、常識的な指導ではないかと思っています。(明らかなエビデンスはないものをありますが、暴飲暴食をしない、夜更かしをしない、禁煙する、食事、運動などの基本的な自己管理を心がけることが、健康を維持する近道であるように、かぜが流行ったときに、手洗いやマスクを奨励することが、回り回って風邪をひきにくい環境を作っているのと同じではないでしょうか)



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最後の晩餐

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一昔前、久米さんがニュースステーションをしていた時に、もし、「これが人生最後の食事」と言われたら、何を食べますか?という企画をやっていました。僕の場合は、「 秋刀魚の塩焼き」です。熱いごはんに
辛めの大根おろしと醤油で・・・。思い残すことはありません。そういうお話しではありません。ω3多価不飽和脂肪酸、EPAについてちょっと。

 
 




イヌイット人は心筋梗塞にならない?

1970年代の疫学調査で、デンマークのグリーンランドの先住民族イヌイット(エスキモー)は、心血管系疾患による死亡率非常に低いことが注目されました。イヌイットの人々の血液中の脂肪分には、魚類に豊富に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多いことがわかりました。

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デンマーク本土の白人もイヌイット人も脂質の摂取量は欧米並みの40%と高い数値でしたが、脂肪の「質」の検討では、白人は牛、豚などの動物性脂肪を主に取っており、イヌイットでは魚やアザラシを主食としておりました。アザラシって魚じゃないでしょって話ですが、アザラシも魚を食べているので同じことなどです。つまり、同じ脂肪でも、魚の脂肪(EPA)を多く摂取することにより、心血管系疾患を予防できることが示唆されました。

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日本でも同じような疫学調査があります。健商業地域、農業地域に比べて漁業地域では、心筋虚血が有意に低く、心筋梗塞発症率も少ないという結果が得られています。

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長寿のレシピ
近年、食生活の欧米化などにより、日本人の脂質の摂取量が増えていますが、1日の総カロリー摂取量は、ほぼ2,000kcalで、むしろ減っているのです。 また、総カロリーに占める脂肪の割合も20〜25%、脂肪の質を脂肪酸比率でみたときも、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の比率もおよそ1:1:1とほぼ理想どおりの数値なのです。つまり、戦後動物性食品を多く摂るようになったものの、日本ではそれだけを食べるようにはなりませんでした。米離れと言われつつも米飯は相変わらず中心にあり、肉や魚を植物油を使って調理した主菜、野菜を使った副菜、植物性のたん白質や脂肪の源である大豆製品(味噌、豆腐、納豆など)、海藻などを組み合わせて食べ、牛乳もよく飲むといった、和洋折衷のおふくろの味「日本型食事」は、期せずして、欧米が目標とする理想の栄養バランスそのものでした。

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しかし、魚の摂取量が減少しているために、相対的にEPAの摂取量も低下し、対称的に脳梗塞や虚血性心疾患が増加していることが明らかになっています。

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魚、大好きな人は、是非どんどん食べましょう。どんなお魚にEPAが沢山含まれているのでしょうか?。しかし、塩焼きはあまり勧められないようです。刺身か煮るのがいいようです。

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それでも、魚はちょっと苦手、やっぱり肉もないと食べた気がしない(どちらも食べるとカロリーオーバー)という人には裏技があります。サプリメントです。サプリメントと言っても保険が効いて格安です。しかし、条件があります。高脂血症や動脈硬化症があることです。お肌にもいいらしいですよ。あくまでも、LDLコレステロールを下げることが一番大事であることは忘れないで下さい。

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四つ目の脂肪、リン脂質

 細胞を覆っている細胞膜は、リン脂質が2列に並び(脂質二重膜)細胞膜の内側と外側を形成しています。脂質が疎水性でリン酸が親水性で、コレステロールもあり、タンパク質は、その膜に突き刺さっています。リン脂質は、コリンとリン酸が「頭」,グリセリンが「胴体」,そして2本の脂肪酸が「足」になっています。足の部分でちょっと折れ曲ってますよね。これが重要で、岡大の伊藤先生曰く、「膜が変われば、人生が変わる」細胞膜がアラキドン酸リッチからEPAリッチに変わることにより、生理活性の違いや膜の流動性により、いろいろないいことがあるよってお話しです。

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トランス型脂肪酸とは?

最後に最近話題となっているトランス型脂肪酸についてコメントしておきましょう。
不飽和脂肪酸には、二重結合のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。 シス(cis)とは、“同じ側”という意味で、二重結合をはさんで同じ側に水素原子がついいます。トランス(trans)とは、“横切って”という意味で、二重結合をはさんでそれぞれ反対側についています。

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トランス脂肪酸には、天然に食品中に含まれているものと、油脂を加工・精製する工程でできるものがあります。天然の不飽和脂肪酸はふつうシス型で存在します。しかし、牛や羊などの反芻(はんすう)動物で牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中に天然に微量のトランス脂肪酸が含まれています。半固体又は固体の油脂(つまり、多価脂肪酸でありながら、飽和脂肪酸のように、直線化した構造になり、安定化する)を製造する加工(水素添加)によって製造されるマーガリンやショートニング、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれています。また、サラダ油など高温で処理で精製した植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれています。

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トランス脂肪酸をとる量が多いと、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増えて、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が減ることが報告されています。日常的にトランス脂肪酸を多くとりすぎている場合には、少ない場合と比較して心臓病のリスクを高めることが示されています。WHO/FAOの会合では、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%未満とするよう勧告をしています( 日本人が、一人一日当たり食べているトランス脂肪酸の平均的な量は0.92~0.96グラムと推定されます。これは平均総エネルギー摂取量の0.44~0.47%に相当します。(2008年)