睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)という病名が世間で認知されるきっかけになったの新聞記事です。JR山陽新幹線の運転士が、運転中に約8分間居眠りをしてしまい、岡山駅の所定の停止ラインの約100m手前で止まり、3両ほどがホームからはみ出したままになってしまいました。居眠り中に列車が走行した距離は実に26kmといわれています)車掌が運転席に駆けつけると、運転士は腰かけたまま眠っておりました。当初、この運転士が前日、知人たちとかなり酒を飲んでいたことが分かり、「気のゆるみ」のせいにされていました。しかし、その後、病院で診察を受け「5、6年前から寝ている最中に何回も目が覚める」「いびきをかいている時に息が止まっているようだと指摘されたことがある」などの症状あり、体重が100Kgを超える肥満タイプであり、重症の睡眠時無呼吸症候群であることが分かりました。

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1956年、Burwellらによって、肥満、傾眠、痙攣、チアノーゼ、周期性呼吸、多血症、右室肥大、右心不全の8徴候を有する疾患をPickwick症候群と提唱されていました。米国では1980年代には睡眠不足や睡眠の病気が日中の眠気や集中力の低下を招き、個人だけでなく社会全体に大きな損失を与えているという認識が生まれていました。スペースシャトルの打ち上げ失敗事故や大型タンカーの座礁事故などの重大事故が、SASが原因だったとされています。SASの頻度は欧米では男性で4%(重症例は働き盛りの40〜50代の男性に多い)女性で2%と言われており、わが国においても欧米に匹敵するSASがみられている。最近、その頻度は4〜6%(さらに20%)という報告されるたびに増えており、決して珍しい疾患ではなく、肥満,高血圧,糖尿病,高脂血症などいわゆる生活習慣病との合併例が多いようです。


睡眠時無呼吸症候群は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS, Obstructive SAS)中枢性睡眠時無呼吸症候群 (CSAS, Central SAS) とその混合型に分けられるが、ほとんどは閉塞型で中枢型は少ない。閉塞性SASは、上気道の閉塞によるもので呼吸運動は認められる。肥満者は非肥満者の3倍以上のリスクがあるとされ、欧米人のSAS患者さんは肥満の人がほとんどですが、日本人の中には顎が小さい骨格(小顎症)ため、気道がふさがれやすくなっている方もおられます。(太っているとは限らない。やせていても起こりえます)

(1)臨床症状

閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時の上気道閉塞による10秒以上持続する閉塞性あるいは混合性の無呼吸が頻回に起こり,夜間の睡眠分断と動脈血酸素飽和度の低下を来す疾患です。睡眠時無呼吸は、上気道(空気の通り道)が閉塞することにより起こります。主症状として、日中の眠気、大きなイビキ、睡眠時の窒息感やあえぎ呼吸、夜間の頻尿、覚醒時の倦怠感などが認めらます。睡眠中のことで、本人は分かりませんが、家族が異常ないびきに気づいて受診を進められることが多いようです。身体的な特徴としては、肥満が多く、首周りの脂肪の沈着、短い首、小下顎あるいは下顎後退が認められます。(小児で口蓋扁桃の肥大が原因になることがあります)

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日中の眠気は夜間の睡眠障害に起因し、交通事故、労働災害、学業・作業能率の低下、家庭・社会生活上の問題、記憶・集中力の減退、抑うつ状態、生活の質(QOL)の低下を来します。また,夜間の低酸素血症を長期間繰り返すことによる心循環器系の合併症として高血圧症、肺高血圧、肺性心、不整脈、虚血性心疾患を生じ、時には突然死に至ることもあります。中枢神経系の合併症としては、低酸素脳症、認知障害、乳頭浮腫、脳血管障害が認められることもあります。SASは、生活習慣病などいろいろな疾患と密接に関係しており、また、その眠気が交通事故などの事故につながる危険性もあり、早期に適切な治療をすることが大切です。

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2)診断
単なるいびきか、果たして睡眠時無呼吸症候群か? 疑わしきは・・・まずは、自宅で簡易式SAS検査(簡易モニター、携帯型装置)を行います。この検査で異常が認められた場合は、専門機関で終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG検査)が必要となります。ただし、無呼吸/低呼吸指数(AHI)が40回以上あれば、精査するまでなく睡眠時無呼吸症候群と診断され、治療が必要となります。

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簡易式検査は、当院でもやっています。取引業者である神戸酸素さんが、患者さんの自宅まで出向いて、簡易装置(鼻口呼吸センサー、気道音センサー、パルスオキシメーター)を付けてくれるので安心です。

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①エアフローセンサー:センサーを鼻の下に取り付けることにより、口と鼻からの空気の流れ、つまり呼吸を感知します。これにより無呼吸の有無や回数を調べることができます。

②パルスオキシメーター:センサーを指先に固定します。このセンサーは、血中の酸素濃度を測定することができ、これにより、睡眠中にどの程度酸素不足の状態が起こっているかが分かります。

③本体:それぞれのセンサーが感知したデータを記録します。液晶には、血中酸素濃度と脈拍などが表示されています。


夜間睡眠中の呼吸状態を調べて、翌朝に患者宅にまた来てくれて、簡易装置の回収して、当院に届けてくれます。(至れり尽くせりですが、これでも検査がめんどくさければ、睡眠中ののイビキの状態を30分から1時間程度、家庭で録音してきてもらうだけでもほぼ臨床的には診断可能です)


簡易式検査のレポートです。結果として、RDI 20.4回/hr オレンジ色のところで中等度のSAS疑いです。(特に仰臥位で顕著です)下のグラフは、脈拍、体動、体位(右側、立位、腹臥位、左側、仰臥位)閉塞性無呼吸 中枢性無呼吸 混合型無呼吸、低呼吸、呼吸 努力性呼吸、いびき 低酸素飽和度 SpO2を表しています。

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① 無呼吸指数(apnea index:AI)
 通常、PSGにおいて、無呼吸の総回数を記録時間(睡眠時間)で割って、1時間当たりに換算したもの。

② 無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index: AHI
 通常、PSGにおいて、無呼吸低呼吸の総回数を記録時間(睡眠時間)で割って、1時間当たりに換算したもの。

③ 呼吸障害指数(respiratory disturbance index :RDI
 定義に異同が多いが、AHIとほぼ同義。通常、簡易モニターにおいて、無呼吸低呼吸の総回数を記録時間(推定睡眠時間)で割って、1時間あたりに換算したもの

④ 酸素飽和度低下指数(oxygen desaturation index:ODI
 簡易モニターにおいては、ベースライン(酸素飽和度の変動曲線において、一時的な直前値)から3%以上低下した後、 2分以内に元の値まで回復した場合をdipと定義し、1時間当たりのdipの回数(3%ODIと表記する)を記録時間(推定の睡眠時間)で割って、1時間当たりに換算したもの。

15≦ODI3%<30  中等症の睡眠障害の疑い 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)によるAHI(無呼吸・低呼吸指数)20~39に相当
30≦ODI3% 重症の睡眠障害の疑い AHI40以上に相当

呼吸センサーの感度の問題もあり、診断指標として、AHIだけでなくパルスオキシメーターや脈拍変動の方が呼吸イベントを正しくとらえている場合もあります。

無呼吸:10秒以上の気流停止。
低呼吸:10秒以上の気流の30%以上の振幅の減少にSpO2の4%以上の低下を伴うもの。

睡眠時無呼吸症候群の最も確実な診断方法は,監視下における終夜睡眠ポリグラフィー検査(PSG)です。 しかし、PSGの実施可能な施設が限られており、簡易検査(脳波,眼電図,頤筋筋電図を省く)は、在宅での検査を可能にした方法です。しかし、検査記録時間や睡眠時間は自己申告によるもので、監視下や脳波にて睡眠を確認していないため本当に寝ているかが保証されないため、AHIはあくまでも推定値であることに注意が必要である。なお、簡易モニターで算出したAHIは,PSGで求めた真のAHIと区別するため、用語的には、RDIとされることがあり、就寝時刻を睡眠開始時間としていることが多いため、AHIと比して過小評価することが多くなる。


簡易検査によって、RDI40以上は、SASと一発診断できます。しかし、中等度程度なら睡眠時無呼吸症候群が疑われるとして、より詳しい睡眠の状態を調べるためにPSG検査にまわします。


終夜睡眠ポリグラフィー検査(polysomnography:PSG)

専門施設で一拍入院して行う終夜睡眠脳波を同時に測定する検査です。脳波、眼電図、頤筋筋電図、心電図か脈拍、記入、呼吸努力、SpO2の7項目以上の記録がとれるもの。監視下で施行されるものと非監視下で施行されるものがあります。患者さんの睡眠状態(眠りの深さや睡眠の質)と呼吸状態を同時に測る検査です。脳波や心電図、胸部・腹部のうごき、鼻からの気流、動脈血中の酸素の量を連続して計測し、その結果をトータルに医師が判断します。

終夜睡眠ポリグラフ検査により,無呼吸/低呼吸指数(AHI)(睡眠1時間あたりの回数)が
 AHI  5~15の場合   軽症
 AHI 15~30の場合   中等症
 AHI 30以上の場合  重症

無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)など客観的な指標に加え、閉塞型呼吸イベントに伴う自覚症状の存在が重要視されています。臨床的には、日中の眠気の評価も大変重要です。重症度評価にはエップワース(ESS)眠気尺度が有用です。ESSチェックで11点以上は眠気あり、16点以上は重症と判断されます。

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治療
(1) 生活指導
肥満に伴って発症・増悪している場合には,減量させると上気道周囲の組織の肥厚が軽減するため,症状が改善します。上気道の閉塞は仰臥位で誘発されやすくなるので,軽症例では抱きまくらなどを利用して側臥位で眠る習慣をつけると無呼吸の回数を減らすことができます。睡眠薬・アルコールは無呼吸を悪化させるため、基本的に禁止です。

(2)持続陽圧呼吸療法(Continuous PositiveAirway Pressure : CPAP)
特殊なマスクをつけ上気道内を常に陽圧に保つことで,上気道の閉塞を防止します。持続陽圧呼吸療法(保険適応)は、機器も小型化し、在宅で行えます。

(3)歯科装具による下顎前方固定法
マウスピース様の歯科装具を用いて睡眠中の下顎の後退を防止することにより舌の沈下による気道の閉塞を防ぎ無呼吸を改善します。

(4)外科的治療
軟口蓋の肥厚が著明な場合には口蓋垂軟口蓋咽頭形成術,口蓋垂軟口蓋形成術が行われます。

(5)薬物療法
呼吸促進作用のあるアセタゾラミド(ダイアモックス)プロゲステロンや睡眠中の筋緊張を強める三環系抗うつ薬などの薬物療法も行われます。


我が国では、簡易検査は睡眠時無呼吸症候群の診断のために用いられていますが、米国では、簡易検査は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)やうっ血性心不全(congestive heart failure;CHF)などの合併症を持つ患者では、換気の感度が低く、一般的なスクリーニング検査として使用すべきでないとされています。 確定診断は、原則としてPSGを推奨しております。

OSA(閉塞型SAS)は治療抵抗性高血圧の原因にもなっています。通常、治療抵抗性高血圧は,利尿薬を含む3剤以上の降圧療法を投与中にもかかわらず,診察室血圧が140/90mmHg未満にコントロールできない場合に定義されています。治療抵抗性高血圧の80%以上にAHI≧10のOSAがみられたとの報告やSASが50歳未満の高血圧患者の血圧コントロール不良の独立した規定因子となることが報告されています。特に降圧薬の就寝前投与などの夜間・早朝高血圧に対する特異的治療を行っても家庭血圧で測定した早朝血圧レベルが持続して高値(135/85mmHg以上)を示す治療抵抗性早朝高血圧ではOSAを疑われます。

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