画像の説明

診療所にも救急の患者さんは来ます。救急車からの要請も自院にかかりつけの患者さんなら受けています。幸運な事?に、昔はずいぶん寛容な時代でした。救急車が一晩で何台入る野戦病院で、ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜と鳴るたびに、研修医ひとりで冷や汗をかきながら、ずいぶんと鍛えられたものです。「重症度」と「緊急度」は必ずしも一致しません。がんは重症の病気ですけど緊急性はありませんし、肩関節の脱臼などは緊急性はありますが、死ぬわけでもありません。

救急は、なんと言っても初期治療が最も重要です。

診断がついたら、ある意味簡単かもしれません。究極は、心肺蘇生とAEDです。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)講習会で、突然「人が倒れています。意識がありません。呼吸もありません。はい、どうしますか?なにが一番大事ですか?「え〜 え〜」ABCだから、人工呼吸、心臓マッサージ・・・・さて、正解はというと?「人を呼ぶこと」です。みんなで心肺蘇生を始めて、なるべく早くAEDをかけることが必要なのです。救急車は同時に呼んでおきましょう。

「意識がありません。呼吸もありません」というシチュエーションはそうそう出会いません。はあはあ言いながら、胸が苦しい、お腹が痛いってケース、いかにもヤバいぞって感じが、一般救急のお決まりです。初期段階で最も必要な情報はバイタルです。

目次

バイタルサイン(Vital signs)

日本語では生命徴候=生きている証という意味です。
最も基本的な情報です。血圧、脈拍、呼吸、体温(意識レベル)の4(5)項目をいいます。

バイタルサインの異常は、急性期に激しい症状とともに出てくる。生命が危機にさらされるとその身体的ストレスから交感神経の興奮(カテコラミンリリース)が起こり、収縮期血圧の上昇や心拍数が増加する。また、末梢の血管平滑筋が収縮して末梢冷感、汗腺の平滑筋も収縮し冷や汗が出ます。さらに、興奮系の意識障害が起こります。

 

カテコラミンリリースの5病態

(1)呼吸不全(低酸素血症、高CO2血症) SPO2<90%になっている
(2)心不全、循環不全(ショック
(3)低血糖
(4)発熱(敗血症
(5)疼痛、不安、運動後

 

血圧

血圧の正常値は120/60mmHg前後ですね。血圧の異常となると高い場合と低い場合があります。よくあるパターンは、血圧が高くて、意識障害で、脳出血というパターン。血圧が70mmHgを切ってショックってパターンですね。

症例1

体温 37.2度
血圧 170/80mmHg
心拍数 120 bpm
呼吸回数 24回/分
SpO2 94%
意識レベル JCS 30点

大脈圧を伴う高血圧があれば、カテコラミンリリースの病態で起こりやすいとされています。脈圧の正常値は、40〜50mmHgです。大脈圧の定義は、大脈圧>収縮期血圧/2なので、この症例の脈圧は、170–80=90mmHgと収縮期血圧/2(170/2=85)よりも大きいので大脈圧となります。

在宅見取りで、血圧が70mmHgを切ってくると早いですよね。もういつ呼吸が止まってもおかしくないって感じですかね。遠い人は、間に合いません。

 

脈拍(心拍数) 

画像の説明

脈拍数の正常値は、60回前後で(50〜100回/分)で50以下を徐脈、100以上を頻脈といいます。ちなみに漢方の診察では、脈診と言って、脈の元気さ?で患者さんの「証」を診ます。

安静にしていて、脈が非常に速い(140回/分以上)、脈が非常に遅い(40回/分以下)などの場合は、明らかに異常です。体温が1℃上がったら、 心拍数は分時20回上昇します。患者さんを診るときは、不整脈があるかどうかや脈の数が正常範囲でも、体温が高い割には脈が少ないとかいう感覚が大事です。脈拍数が増える病態は、心不全か呼吸不全ですが、呼吸不全だけで脈拍数が130を越えることは稀です。脈拍数が130以上であれば、心不全の可能性が高いと考えましょう。

画像の説明

 

 

呼吸

画像の説明IMG_0005 のコピー

呼吸回数は必ず測りましょう

呼吸数の正常値は、12〜18回/分です。(年齢差あり、小児は多い)呼吸数が、20回以上はなにか異常があります。30回/分以上は、なんらかの処置が必要です。(熱などがあれば、敗血症も疑う)呼吸数が、8回/分以下になるともう危ないですよね。

原因としては、換気不全(喘息、COPD、肺線維症など)呼吸不全(SpO2 90%以下)敗血症などです。

 

呼吸パターン

呼吸しているかどうかは、一見、見えないのが正常です。呼吸しているのが見えたら異常と考えましょう。

  • チェーンストーク呼吸

画像の説明

弱い呼吸が次第に強く大きな呼吸となり、また次第に弱くなり、無呼吸(数秒〜数分間)となるサイクルを繰り返すもので、大脳が広範囲に障害された時や脳幹機能障害、心不全、睡眠時無呼吸症候群でみられるものです。

  • クスマウル呼吸

画像の説明

深く大きな呼吸です。アシドーシスの時に見られます(代謝性アシドーシス、尿毒症性アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、乳酸アシドースなど)呼吸が見えれば異常です。(見える呼吸=クスマウル呼吸)

もっと状態が悪くなって、死期が近づくと、失調性呼吸(不規則な呼吸)下顎呼吸(下顎だけを動かして努力性呼吸)などが見られるようになります。

パルスオキシメーター

画像の説明

最近は、便利なものが出来ました。SpO2(saturation of pulse oximetory oxygen)は、パルスオキシメーターによって、非侵襲的に得られる呼吸のバイタルサインです。SpO2ってなんでしょうか?SpO2とは、動脈血中の酸素の割合(酸素飽和度)を表したものです。

呼吸によって取り込まれた空気は(酸素は約20%)鼻から喉を通って、気管、気管支、細気管支と約23回分岐して、最終的には肺胞という約0.1mmの小さな袋状の空洞になっています。

画像の説明

肺胞はの周りには、無数の静脈と動脈が取り巻いています。

 

画像の説明

この血管と肺胞の間で、静脈(酸素が使われてしまった青い血液)から二酸化炭素が肺胞に掃き出され、肺胞から酸素が赤血球(ヘモグロビン)に取り込まれて、動脈血(酸素をたくさん含んだ赤い血液)となって、心臓から全身に回っていきます。この酸素と二酸化炭素の交換を呼吸と言います。

 

画像の説明

ヘモグロビンは、血液中の成分のひとつで、呼吸で取り入れた酸素を体中に運ぶ役割を担っています。1つのヘモグロビンは酸素を運ぶために4つの席を持っています。ここに酸素を積んで各組織に運ばれていきます。しかし、呼吸状態が悪くなり、酸素が少ししかなければ、席は空いたまま出発することになります。このヘモグロビンが持つ席がどれくらい埋まっているかを表す指標が酸素飽和度です。

しかし、患者さんも診ずに、数値だけに囚われてはいけません。測定したSpO2の値が、臨床症状とかけ離れている場合は、その数値が妥当がどうか評価する必要があります。呼吸の問題以外にも、末梢循環不全(心不全や出血性ショックなど)でも低下します。その他のSpO2に影響を与える因子としては、マネキュアをしていたり、体動や外光の影響、圧迫などがあります。

健康な人のSpO2の値は、通常96〜99%と言われています。93%以下は黄色信号で、90%以下になると呼吸不全に陥っている場合があり、適切な対応が必要です。
画像の説明

 

SpO2が90%以下の場合は、呼吸不全と言います。呼吸不全の分類には換気障害とガス交換障害があります。

 

呼吸不全と診断した時には、その呼吸不全がⅠ型なのかⅡ型なのかを鑑別しなくてはいけません。Ⅰ型は酸素が低いだけですが、Ⅱ型は二酸化炭素も溜まっています。Ⅰ型なら酸素投与だけでいいですが、Ⅱ型は酸素投与と換気補助が必要です。Ⅰ型かⅡ型かを見分けるためには、動脈血ガス分析が必要ですが、簡易的には意識をみます。興奮、不穏になります。二酸化炭素が溜まると手が温かくなって、傾眠になります。

低酸素血症の症状

低酸素血症

高CO2血症の症状

心外膜炎(かぜの後の胸痛)は前屈みになる。

 

体温

体温の基準値は、一般的には腋窩温で36.0〜37.0℃ですが、生理的な個人差があるので、個人の平熱について測っておく必要があります。体温は寝ているときが最低で、午後3時〜10時頃は高くなります。乳幼児は、外界の温度に左右されやすく、高齢者は皮膚の熱の伝導度が低いため、低くなりがちです。閉経前の女性の体温は、一般的に排卵日を境に前2週間は低値、後2週間は高値の二相性を示します。

悪寒戦慄(毛布を何枚かけても、歯がガチガチして体の震えが止まらない)を伴えば、本物です。なんらかの感染源があります。

では、、血圧、心拍数、SpO2、呼吸数、意識レベル、体温、いわゆるバイタルサインからなにがわかるでしょうか?

重要なのは、生命が危機にさらされるとカテコールアミンがリリースされて、血圧上昇、心拍数増加、尿量減少、末梢冷感と冷や汗がでます。(入江先生)

ショック

quick SOFA

 

頭痛

絶対に放置してはいけない危険な頭痛の特徴は、

 

(1)突然発症の頭痛 発症した時刻が何時何分、テレビでCMになってトイレに行こうとした時など具体的に言える場合

(2)人生最悪の頭痛 「痛みの程度を0〜10として10が想像できないほど痛いとしてどのくらいですか」と聞きて、8以上を答えた場合

(3)どんどん痛みが悪化 髄膜炎とかクモ膜下出血、脳出血を考える

その他、全くの初めての頭痛(今までの頭痛とは違う)5歳未満、50歳以上の頭痛、手足の麻痺など神経症状を伴う頭痛、発熱や痙攣、意識障害を伴う頭痛、項部硬直を伴う頭痛、外傷歴のある頭痛、担がん患者の頭痛などは注意が必要です。

 

くも膜下出血

(1)(2)(3)の一つでも当てはまれば、すぐに専門医療機関に紹介しましょう。人生最大の突然発症の頭痛と言われたこと場合、実際にCT検査をして「くも膜下出血」と診断されるのはどれくらいか知ってますか?実は1割だけなんですね。実臨床では9割がオーバートリアージでOKなんですね。アンダートリアージにならないようにしましょう

可逆性脳血管収縮症候群 RCVS:Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome

クモ膜下出血の除外が最も大事なので、バットで殴られたような激しい頭痛となると紹介でいいんですが、頭部CTを撮ったけれど、異常ありませんでしたというお返事、さて、ではこの頭痛は何?いわゆる雷鳴頭痛として発症し、クモ膜下出血との鑑別が難しい疾患です。単純CTでは診断がつかず、MRIやCTアンギオで確定診断しますが、血管が収縮している時に撮らないと診断できないため、初診時に診断がつくのは半数ぐらいになってしまいます。誘因薬剤としてトリプタン製剤(片頭痛)や抗うつ薬があります。

 

一次性穿刺様頭痛

針で突き刺されたような鋭い痛み(程度はさまざま)で、前頭部、側頭部に多いがさまざまで、70%の症例で三叉神経領域以外に生じ、1つの領域からほかに移動し、同側あるいは反対側(両側)の頭部に移動することもある。有病率は2〜35%と稀な疾患ではない。片頭痛や緊張型頭痛と併存することも多い。女性に多く(男性の2倍)平均年齢は20〜50歳。ストレスや体調不良、天候、睡眠不足、疲労などが増悪因子になることが多い。痛みは不規則な頻度で、1日に1回(68%)複数回(4%)数秒以内の穿刺様頭痛が繰り返し起こる。通常は3秒以内(80%)であるが、120秒まで持続することもある。悪心、嘔吐、光、音過敏、アロディニア、めまいなど伴うことがあるが、結膜充血、流涙、鼻汁などの自律神経症状は認めない。治療は、インドメタシンが良く効く。手を温めるのも有効です。予後は良好で多くの症例で自然寛解します。

 

一次性咳嗽性頭痛

咳嗽性頭痛の大半はアルノルド・キアリ奇形I型で、他には脳脊髄液圧低下、動脈解離、中咽頭・喉頭蓋窩の腫瘍が原因のことがあります。一度は画像で精査をして症候性が否定できれば一次性咳嗽性頭痛となります。一次性咳嗽性頭痛は咳やいきみ、息ごらえで胸腔内圧の上昇により誘発される突発的に起こる頭痛で、持続時間は1秒〜2時間となっておりますが,多くは頭痛出現直後にピークに達し,数秒〜数分の間で良くなります。主に40歳以上で見られることが多く,咳が多いとそれに比例して頭痛の強さが強くなります。通常は両側性で後頭部に痛みがあり、60〜70%の方にめまい,悪心,睡眠異常といった随伴症状を認めます。高血圧症、COPDの合併例が多い。治療は、インドメタシンが有効で、予後は良好で自然経過で軽快します。

 

頭部打撲 24時間の経過観察が必要です。

胸痛

胸痛といえば、鑑別診断に挙げなければならない疾患に、急性冠症候群、急性大動脈解離、肺血管塞栓症、緊張性気胸、食道破裂が5Killersと呼ばれています。緊張性気胸や食道破裂は頻度も少なく、前者3つを押さえておけばいいでしょう。肺血管塞栓症は、昔は解剖して初めてわかる稀な疾患でしたが、最近では、どこでも造影CTができるようになって簡単に見つかるようになってきました。頻度的には、急性冠症候群と急性大動脈解離の2つですが、急性冠症候群が、急性大動脈解離より100倍は多いわけです。

急性心筋梗塞 メタボリックシンドロームのMさんが「胸が痛い」

肺塞栓 昔は、診断できないと言われていましたが、今見逃すと・・・

precordial catch syndrome 小児の胸痛の8割を占める。

ボルンホルム病 夏から秋、発熱と胸痛(体動で悪化)

モンドール病 圧痛を伴う洗浄の索状物と胸痛

 

腹痛

僕が、救急外来で最も苦手な主訴は「腹痛」です。問診票に「腹痛」と書いてあったらちょっと嫌ですね。少し構えて、気合を入れ直す感じですかね。なにせ鑑別診断をする疾患が多すぎです。心筋梗塞など腹部以外の疾患も混じってきます。まあ、実際の臨床では、軽い急性の胃腸炎から便秘なんてものも多いわけですが、安易に胃腸炎、便秘って診断しているときは、ゴミ箱診断になっていないか自問自答しなければなりません。胃腸炎は、必ず「嘔気」「嘔吐」「水様性下痢」の三徴が揃わないと診断したらダメですね。ノロウイルスやロタウイルスは、口から入って上部空腸に感染します。胃の動きが止まってゲ〜ゲ〜吐きます。小腸から水分がたくさん出て、おしっこのような水様便が何回も出ます。下痢が伴わない時は、安易に胃腸炎とは診断しないようにしましょう。便秘も浣腸して「少しよくなった」とよしよしと思っていても、帰る間際にやっぱり痛くなった?これって便秘じゃないわけですね。これらの中から急がなくてはならない腹痛を拾い上げる作業がまずは必要です。高齢者や乳幼児、精神疾患の患者さんは、症状が乏しい場合もあります。特に血管系疾患は腹膜炎を伴いません。腹膜炎症状があるだけが重症ではないわけです。

 

急性腹症 最もやっかいな、最も苦手な・・・訴えです。

尿路結石 七転八倒してたらちょっと安心 

前皮神経絞扼症候群(ACNES) 腹直筋外縁付近の腹痛でカーネット徴候陽性 

Fits-Hugh-Curtis症候群 若年女性の深呼吸で増悪する右季肋部痛

 

意識障害

低血糖 意識がない! 見逃し厳禁、まず否定すること。

糖尿病昏睡(高血糖) ケトアシドーシスと高浸透圧性があります。

失神 恐るるに足らず。原因により、予後が全然違います。

 

 

アナフィラキシー 蜂、クスリ、食物アレルギー

高カリウム血症 透析しているKさんが「しんどい」 

不整脈 手を出すのは血行動態の落ち着いてるnarrow QRSまで。

喘息発作 苦しい〜「ヒューヒュー ゼイゼイ」

急性喉頭蓋炎 「喉が痛くて、唾も飲み込めません」

鼻出血 マイナーエマージェンシーの代表です。

 

小児救急

緊急の時に救急車を呼ぶことは遠慮する必要はありませんが、こんな時どうすればよいの?と迷ったら救急車を呼ぶ前に、受診する前にチェックしてみましょう。

心配なら電話相談してみましょう。(インターネット相談もあります)

画像の説明

画像の説明

画像の説明

画像の説明

 

虫垂炎

大人の虫垂炎の様に典型的な症状、経過をとらないので、安易に否定しないように診察しなければなりません。好発年齢は、学童期>思春期>乳幼児です。3〜4歳では、解剖学的に盲腸の開口部が広い漏斗状になっているので閉塞しにくいと言われています。年少時で虫垂炎になった時は、虫垂壁が薄く、大網が未発達なために高率に穿孔して腹膜炎になる危険性が高いとされています。

急性虫垂炎のスコアリングには、小児を対象とした「Pediatric Appendicitis Score(PAS)」があります.PASでは,右下腹部に移動する痛み:1点,右下腹部痛:2点,咳・跳躍・打診による叩打痛:2点,嘔気・嘔吐:1点,食欲不振:1点,発熱(38℃以上):1点,白血球数増加(10000/mm3以上):1点,左方移動(好中球7500/mm3以上):1点というスコアになっています.合計スコアが,3点以下では帰宅が可能で翌日再評価,4-6点では2次入院施設での絶食下における4-8時間毎の診察と検査あるいは画像検査による評価,7点以上では急性虫垂炎と診断し手術対応可能な施設へ紹介となっています。

虫垂炎

 

腸重積

腸重積

腸の一部が、他の腸の中にもぐりこんで、二重になってしまい、腸閉塞(イレウス)症状をおこす病気です。はっきりした原因は分かっていませんが、風邪などで腸の壁のリンパ節が腫れ、腸の動きが制限されるとおこりやすくなるようです。最も多いのは、小腸の末端(回腸)が大腸のはじまりの部分に入り込む形です。2歳未満が80%(4〜9ヶ月に多い)の乳幼児におこりやすく、5〜10%で再発することもあります。4歳以上ではほとんど起こりません。男の子は女の子の約2倍多いです。元気に遊んでいた子供が突然、腹痛で泣き出し、嘔吐し始めます。腹痛を訴えられない赤ちゃんの場合は不機嫌になったり、急に激しく泣き(啼泣)出します。2~3分で痛みはおさまり、また遊び始めたりします。このようなことを20~30分おきに繰り返します。痛みの激しい時と平気な時が、繰り返し起こるのが特徴です。この時おなかを触ると、おなかの右上の部分にしこりが触れることもあります。そのうちだんだんぐったりしてきて食欲もなくなり、入り込んだ腸管粘膜が傷つき、いちごジャムのような血便が出始めます。(浣腸で確認しましょう)発症早期では、嘔吐、血便、腹部腫瘤の三主徴がすべて揃うのは20%と言われています。ほとんどの場合は、高圧浣腸でなおります。再発した時も、まず高圧浣腸を行います。高圧浣腸をしてもなおらない場合や、発症から長時間(72時間程度が目安)たち、高圧浣腸が危険な場合は手術になりますので、早期発見が大切な病気です。

 

 

鼠径ヘルニア

お腹の中にある臓器(小腸、大腸、大網という膜、女児であれば卵巣、卵管)が飛び出してきて、鼠径部が腫れてくる病気を鼠径ヘルニア(脱腸)といいます。原因は胎生期後半に精巣が腎臓の下あたりから鼠径部に下降して来て、陰嚢内に下降した後は多くの場合は自然に閉鎖してしまいます。る時に腹膜が鼠径部に伸びてできた腹膜鞘状突起という腹膜の出っ張りが鼠径部に残っていることにあります.腹膜鞘状突起は,女児に精巣下降はありませんが,同じ現象が発生します.精巣が右にも左にも出ることがあり,両側に認めることもあります.片側の鼠径ヘルニアの手術後,反対側に鼠径ヘルニアが出てくる確率は 10%程度といわれています.性別では男児だけでなく女児にも同様にみとめます.1歳以下の男児に多く(男女5:1)こどもの外科手術では一番多い病気です.発生率はこどもの1~5%とされています。

鼠径ヘルニア

飛び出した腸管が、ヘルニア盲を通ってすぐにもどれば問題ないわけですが、戻らなくなってしまった状態をヘルニア嵌頓 といいます。嵌頓した状態が長く続くと

全体の7%が嵌頓 早ければ3〜4時間で腸管壊死に至るためいつから不機嫌かを確認する

ヘルニア門に向かってすぼめるように押して行く ヘルニア門を揉んで緊張をほぐしておく

ぐじゅぐじゅという消化管の蠕動が感じられれば、ほとんど100%還納できる整復できます。といいますこの狭い場所で締め付けられ,飛び出した組織の血流が悪くなることがあり,これを.一度,ヘルニア嵌頓を起こすと脱出した臓器はむくみ,硬くなりお腹の中に戻りにくくなります.こどもは痛みのため,不機嫌になります.このよ うな時は両親が,慌てずに抱っこなどして泣かさないようにしてから,時刻に関係なく直ぐに主治医に連絡してください.

年少児の鼠径ヘルニアは自然に治ることもあるといわれていますが,自然に治ることを過度に期待して手術時期を遅らすことは良くありません。原則として嵌頓傾向のないこどもさんの場合、施設により異なりますが生後4~6ヶ月以降に予定手術としますが、少しでも戻りにくい場合は早期に手術しても問題はあり ません。入院期間は1〜5日程度で、日帰り手術の施設もあります。手術はヘルニアの原因になっている腹膜の出っ張りをなくし腹圧がかかってもお腹の臓器が 脱出しないようにします。鼠径ヘルニア手術は、簡単な手術のように考えられがちですが、専門的には難しい側面が多く,小児専門施設での治療が不可欠です。

 

精巣(精索)捻転症

精巣捻転

陰嚢内が痛む病気には、精巣捻転、精巣上体炎(副睾丸炎)精巣垂や精巣上体垂などの捻転、および精巣炎などがあります。精巣捻転は、精巣がそれにつながる精索を軸としてねじれて血管が締め付けられるため血流が途絶し、精巣が壊死する病気です。急激に精巣が発達する(大きくなる)思春期前後の青少年に多く寝ているときに発症することが多いのが特徴です。突然(何時何分の発症を言える)「玉が痛い」激しい陰嚢部痛で始まり、次第に陰嚢内容が腫れてきます。吐き気や嘔吐を伴うこともあり、症状が正確に伝えられない年少児では「おなかが痛い」という訴えのために見落とされることがあります。6~12時間以内に血液の流れを回復しないと精巣は壊死しますので、精巣機能を温存するためには、発症早期の診断治療が重要で発症6〜8時間以内の緊急整復が必要です。診断はドップラー超音波検査という方法で精巣への血液の流れが低下していることを確認することです。下にのべる精巣上体炎や精巣垂あるいは精巣上体垂捻転などとの鑑別が必要ですが、診断が確実でない場合は緊急手術が勧められます。(転送までの間は氷で冷やします)治療は、ねじれた精索を戻して血液の流れを回復させて精巣を陰嚢内に固定することで、緊急手術として行われます。時間が経過して精巣がすでに壊死に陥っている場合は、精巣を摘出します。残った健康な側の精巣も今後ねじれないように同時に固定する場合も多いです。

 

泣き止まない

赤ちゃんの泣きへの対処法は、まず、赤ちゃんが欲しがっていると思うものを確かめてみましょう。

次に例えば赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいた時の状態を思い出させてあげましょう。

赤ちゃんの夜泣き???。なかなか難しいですよね。鑑別診断上がりますか?「泣き止まない」を主訴に来院された乳幼児の年齢別疾患ベスト5があります。

上位に「乳児疝痛:Colic(コリック)」があります。乳児疝痛とはなんぞや?「Wesselのコリックの3の法則」(1)持続時間は、1日に3時間を越える。(2)頻度は、1週間に3回より多い(3)継続期間は、3週間より長く続く場合は、いわゆる、夜泣き疳の虫でしょう。原因は未だ不明で食物アレルギー、腸管の未熟性、腸管内細菌叢のみだれ、ご両親のストレスなども原因ではないかと言われています。妊娠中に母親が喫煙していると発症頻度が上がります。哺乳は良好で体重減少がない健康な乳児であることが条件ですが、赤ちゃんの泣き方の特徴として、泣き止んでもすぐまた泣き出す、理由がわからない、何をしても泣き止まない、お腹が痛いかのように膝をお腹のほうにもっていき痛そうな顔で泣く、心配になるくらい泣き続ける、夕方に多い(夕暮れ泣き)などが挙げられる。

また、コリック抱きと言うのがあり、泣き止むことがあるので試してみて下さい。

赤ちゃんは泣くのが仕事です。でも、どのくらいが正常なのでしょうか?ブラゼルトン博士の1962年の研究によると、赤ちゃんは関わり方によらず(誰が悪いわけではありません)生後1〜2ヶ月に泣きのピークがあることがわかりました。その時の泣きは誰が何をやっても泣き止まないことが多いこともわかっています。しかし、ピークをすぎれば、泣きはその後だんだん減っていきます。生後4ヶ月くらい、遅くとも6か月までには自然に消失します。赤ちゃんの3〜28%に認められると言われています。

何をしても泣き止まずご両親を苦しめ、欲求不満に陥らせます。赤ちゃん泣かれてイライラしても当然のことです。オランダの研究で、5.6%の母親が泣き止まない自分の赤ちゃんに対し、口を覆ったり、引っ張ったり、揺すったりしたことがあると回答しています。イライラから無理に泣き止ませようと激しく揺さぶってしまうことがありますが、それで泣き止んだとしても脳にダメージをきたして泣き止んでいるだけなのです。「乳幼児揺さぶられ症候群」赤ちゃんの頭の中はとても脆いので激しく揺さぶると言語障害や学習障害、歩行困難、失明などの重大な後遺症が残る可能性があります。そして最悪の場合は死に至ることもありますので、決して赤ちゃんを激しく揺さぶらないで下さい。泣き止まない赤ちゃんの診察する時には、お母さんのフォローも大切です。第一子、母乳栄養など、目にクマができ見るからに疲れてそうなら、悩んでいることないですか?とちょっと話を聞いたげるだけでも楽になるかもしれません。

一通りの診察をして原因がよくわからない場合はすっぽんぽんにして、全身くまなく見ましょう。間欠的な帝泣は腸重積が有名です。未熟児は、鼠径ヘルニアにも注意が必要です。尿路感染が意外に多いようです。見落とし注意は、虐待による骨折等です。胃食道逆流症は哺乳直後に起こりやすいのが特徴です。ミルク不耐症では下痢や血便などを伴うことが多いです。珍しいところでHair tourniquet syndrome。crying infantで、本当に病気である確率は5%程度です。

画像の説明

ヘアターニケット

ヘアターニケットHair tourniquet)は、直訳すると髪の止血帯(かみのしけつたい)となり、髪や糸が、最も一般的には爪先、場合によっては指や生殖器、他の身体部分にきつく巻き付く状態を指す。これにより爪先は、適切な血液供給を受けることができず、患部に痛みと腫れが生じ、最悪、壊死する恐れがある。ヘアターニケットは、主に症状を訴えることができない乳幼児に発生し、不快感から泣き止まない状況に陥りやすい。当該現象は、靴下の内側で起こることが多く、周囲が幼児が泣く原因を突き止めづらい。発生頻度は男女ともに同じとされている。ヘアターニケットは、偶発的に発生することが多く、危険因子として自閉症や分娩後脱毛症が挙げられる。発生の過程の一つとして、濡れた髪が体の一部に巻き付き、乾くと引き締まることが挙げられる。予防は、母親は自身の髪をよくブラッシングし後ろで結ぶこと、赤ちゃんの服は個別に洗濯することなど、母親の髪と赤ちゃんの接点を減らすことが有効とされる。治療は、髪を切り取るか、髪を分解する化学製品を使用することがあげられる。治療は、糸を迅速に切断(または溶解)する。糸の一部を持ち上げて糸を切断すればいいでしょと思われた方もいらっしゃると思いますが、うっ血した状態で患部も腫れており、髪の毛や糸が肉の奥底に食い込んで、埋もれてしまっている状態であることが多いために、髪の毛だけを切ろうと思っても難しいこともあり、患部の一部を一緒に切る処置が行われることもあります。

 

 

異物誤嚥

何かを飲み込んで噎せて、咳をしている」

CTが有用、気管支に落ちていれば窒息はない(咳で気管まで上がってきて窒息した症例がある)気管にある場合は、場合によって挿管して片方の気管支に押し込む

 

異物誤飲

生後半年ほどの乳幼児は、何でも手にとって口に入れようとします。気道異物(誤嚥)の場合、何かを飲み込んだあとに突然咳が始まったり、声のかすれや喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューした呼吸の音)が出たり、呼吸を苦しがったりする場合もあります。食道異物の場合、通過障害があると流涎よだれ嚥下痛(飲み込む際の痛み)、嚥下障害吐き気・嘔吐、胸部の不快感や痛みなどの症状が出てきます。言葉で訴えることのできない子どもさんでは、不機嫌に泣く、母乳やミルクを飲まなくなるなどが症状の可能性があります。胃の中に異物が進むと、症状はほとんどありません。ただし、消化管穿孔(腹膜炎)や腸閉塞などで腹痛などの症状が出ることもあるため、異物の特定が重要になります。体内で吸収できる異物誤飲では、タバコ、医薬品、洗剤、防虫剤、乾燥剤などがあります。成分が体に吸収されることにより、それぞれの中毒症状が出てくる可能性があります。胸痛を呈し、72時間以上経過、もしくは偶発的に発見された異物であれば、食道粘膜潰瘍の可能性が高く、内視鏡(もしくは外科)的な介入が必要となってきます。

子どもさんが口に入れてしまいそうな大きさのものは、立って手を伸ばしても届かない場所(1m以上高い場所)に置きましょう。ピーナッツなどの豆類は、窒息の危険があります。豆類は大人がいる前で食べさせるようにしましょう。また、ピーナッツは豆類の中でも窒息の一番の原因です。3歳になるまで食べさせないようにしましょう。誤飲チェッカーで窒息・誤飲予防につとめましょう。誤飲チェッカーの中に入るものは飲み込んだり窒息する可能性があります。(試飲チェッカーがなければ、トイレットペーパーの芯などを活用するのもひとつの方法です)

誤飲ランキング
1位 くすり
2位 タバコ(灰皿にたまっている液も含む)
3位 プラスチック製品
平成25年度 厚生労働省「家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」より

ここ数年で「家族の薬」割合が増え、2014年に初めて長年1位だったタバコを抜いてトップになりました。高血圧のお薬、糖尿病のお薬、赤ちゃんが1錠でも飲んだたら危険なこともあります。相談を受けたら、必ず、小児科医につなぎましょう。自己判断は危険です。最も多い年齢層は生後6ヶ月〜2歳です。誤飲は家族が子どもに注意を払っていても発生します。子どものいる家庭では彼らの目につくところや手の届く範囲には、口に入る大きさのものは置かないようにしましょう。3歳以下では奥歯が生えそろっておらず、うまくかみ砕けないことがあります。窒息や誤嚥を招きやすいため、3歳以下は食べさせない、もしくは小さく砕いて与えるようにしましょう。
画像の説明

ボタン電池/磁石

ボタン電池はデジタルカメラや電卓、ゲーム機などの玩具、LEDライトなどに広く使われ、約1〜2センチというサイズから食道に引っかかるなどすると極めて危険です。コイン型のボタン電池はきらきらと金属光を放ち乳幼児の興味の対象となりやすい。電池が体内に入ると胃酸などの消化液で外装が壊れ、中からタンパク質を溶かす性質のあるアルカリ性の物質が出るなどして、潰瘍になったり消化器の壁に穴を開けるなど、生命に関わるような重症化に至るケースも少なくない。乳幼児の電池誤飲事故は世界的に増えつつあり、米国では毎年、3500件のボタン電池誤飲事故が報告されている。

画像

日本でも同様の事故は増えており、特にリチウム電池は電圧が高く長時間一定した電圧を保持するため、外装の周囲にアルカリ性の液体を30分から1時間ほどという短時間で作る。国民生活センターによる、電池がアルカリ性の液体を作りタンパク質を溶かす作用があるという実験。生理食塩水に24時間漬けた鶏肉の上に、マイナス極を下にしてボタン電池を置き、25℃の常温で20分経過した後、肉の損傷を調べた。アルカリ電池に比べてリチウム電池のほうが損傷の度合いが大きいことがわかります。2011〜2015年の乳幼児のボタン電池誤飲で小児外科や小児救急を受診した事例は939件と報告されています。(全国調査202カ所の医療機関)米国小児科学会は、リチウム電池を誤飲した場合、2時間以内に取り出さなければならないとされる。

ネオジム磁石とは、ネオジムや鉄、ホウ素を主な原料としてとしてつくられた磁石です。数ある磁石の中でも、特に磁力の強い磁石と呼ばれています。その強さは、鉄の酸化物を主成分としたフェライト磁石の10倍とされています。小さくても超強力な磁力を発揮するネオジム磁石は、もともとハイブリットカーのモーターなど工業分野で広く使われてきました。近年では市場に広く普及し100円均一でも買えるようになり、壁掛けフックやマグネットボールといった一般家庭用品でも多く見かけるようになりました。ネオジム磁石は小型の製品が多いため、子供が誤飲してしまう事故が報告されています。もしも飲みこんでしまうとその強力な磁力により、磁石が腸内に留まり、腸壁を間に挟んだ状態でくっついてそのまま貫通してしまったというケースがあります。ネオジム磁石は小型でありながら手のひらや指を間に入れてもくっつくほど強い磁石です。そのため勢いよく磁石が吸着する際に皮膚や指を挟んでけがをすることは珍しくありません。また吸着の衝撃で磁石自体が欠け、破片が飛び散って目に入る危険性もあります。また、ペースメーカー等の誤作動が起こる危険性があったり、携帯電話や磁気カード、フロッピーディスクといった電子機器に近づけた場合、データが消えてしまうリスクがあります。

 

高吸収性ポリマー

紙おむつ・生理用品などの衛生用品・着色した観賞用のインテリア用品・芳香剤・消臭剤水などとして使われたりしている水で膨らむボールです。カラフルで綺麗な樹脂製のビーズで、赤ちゃんや幼児が口に入れそうな物体です。吸水性樹脂を誤飲した場合、胃や腸などで膨張してとどまり、腸閉塞を引き起こし、持続する嘔吐・腹部膨満・腹痛などの症状が出ます。吸水性樹脂の製品はレントゲン検査ではほぼ写りません。このボールは元は直径1センチほどの大きさですが、水に入れることで4〜5センチほどまで膨らむ高吸水性のボールです。(左側のボールが水につけると1時間ほどで右側の大きさになってしまいます)

子供はいろいろなものを口に入れます。何を誤飲したかでその後の対応も異なります。必ず飲み込んだ物、あるいは飲み込んだ物と同じものを病院へ持参しましょう。
困ったときは『中毒110番』情報提供料:無料

■大阪中毒110番(365日 24時間対応)
072-727-2499 (情報提供料:無料)

■つくば中毒110番(365日 9時~21時対応)
029-852-9999 (情報提供料:無料)