急性心筋梗塞

心筋梗塞の診断において、問診が最も重要であることは言うまでもありませんが・・・一番大事な症状は、冷や汗両肩への放散痛です。典型的な症状があれば、心電図が正常でも、専門病院に紹介するのが、専門医として見逃しを減らす、最も大切なことです。自分のプライドよりも患者さんの幸せを!

まず、ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction)からいきましょうか。1mm以上のST上昇が、解剖学的に隣り合った2つ以上の誘導で認められる場合というルールです。ちなみに解剖学的に隣り合ったとは、右冠動脈ではⅡⅢaVF 、左前下行枝では、V1〜V3、左回旋枝ではⅠaVLなどです。


症例1 54歳 女性 胸痛

さて、この心電図はどうでしょうか? V2〜V4のあたりのST上昇がありそうな、V5V6も上昇?、ⅠⅡaVFも上昇??

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隣り合った2つ以上の誘導でとういのはクリアしますが、右も左も?「これは大変です。背筋も凍る・・・」と言う割には元気そう、解剖学的にというとちょっと違うような感じですよね。すべての誘導でSTが上昇しているとなると急性心筋炎ですよね。ST上昇の形態が、心筋梗塞は上に凸、急性心筋炎は下に凸になります。    急性心筋炎      心筋梗塞 

心電図では、心臓丸ごとみんなやられるので心房にも変化がおこります。aVRでPR部分の上昇(80%)他の誘導ではPR部分が低下します。心膜液貯留が多い場合は、低電位を示します。

急性心筋炎は、頭にあれば結構見つけることができる疾患です。心筋梗塞を除外した胸痛のうち5%)問診では、ここが痛いと言って胸を指さす患者さんで、呼吸で痛みが増強(気胸?肋骨骨折?肋軟骨炎?)心摩擦音聞こえることもある?(ガサガサ?教科書には書いてありますが、聞いたことはありません)場合は、怪しいです。しかし、この心電図のST上昇は微妙ですよね。一般的に心膜炎のST上昇は0.4mV未満とおとなしく、心筋炎を合併すると顕著になります。

しかし、ST上昇も早期再分極のような、わかったようなわからないような、なんとなくちょっとごまかされたような微妙な感じですよね。ST上昇で一番心配なのは心筋梗塞との鑑別です。

この心電図はどうでしょうか?

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ⅡⅢaVFでSTが上昇しています。急性下壁梗塞の心電図ということでいいですね。心筋梗塞の場合は、Reciprocal change(ミラーイメージ)といって反対側の誘導のST低下を伴うのが特徴です。(ST上昇とST下降の両方が混在)しかし、Reciprocal changeは、冠動脈の大きさ(前下行枝下壁まで回り込んでいる)や閉塞する場所によるバランスで、下壁梗塞には70%に見られますが、前壁梗塞では30%にしか見られません。もしあれば、心筋梗塞を強く示唆する所見になります。

急性心筋梗塞と診断すれば、ACLS的には、直ちにMONA(モルヒネ、酸素、ニトロ、アスピリン)が推奨されていますが、下壁梗塞の場合、いくつかの注意点があります。

(1)下壁梗塞の場合、右冠動脈、左回旋枝のどちらの閉塞でも起こりえますが、ST上昇がⅢ>ⅡaVFの場合は、右冠動脈の閉塞と考えられます。右冠動脈からは右室枝が分枝しているため、右冠動脈の根元に近い閉塞の場合は、右室梗塞を合併している可能性があります。
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V4RV5RのSTが上昇しています。右室梗塞(下壁梗塞の25〜40%に合併)に、安易にモルヒネ、ニトロを使うと血圧が低下してしまいます。治療には、輸液負荷が必要です。

(2)V1V2でST低下は、ミラーイメージとしては、ちょっと低下の度合いが大きいような?。後壁梗塞も疑います。右室梗塞や側壁梗塞には、後壁梗塞も合併しやすいわけです。背中の誘導も大事です。しかし、経過を見て、右側胸部誘導がpoor r progressionのままで、R波増高や陽性T波が出てこないようであれば、陳旧性前壁梗塞の合併が考えられます。

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付)後壁梗塞(回旋枝の完全閉塞)

V1〜V3のT波増高。側壁(ⅠaVL V5V6)下壁(ⅡⅢaVF)にq波やST異常を伴う。

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(3)完全房室ブロックを合併しています。一部の症例で、一時ペーシングが必要かもしれません。注意して経過観察しなければなりません。

(4)下壁梗塞の原因が大動脈解離であることは稀ですが、反対に大動脈解離には5%に右冠動脈を絡めて、下壁梗塞を認めます。tPA を流す前には、痛みが移動するか?胸部レントゲンで上縦隔の拡大は?血圧の左右差あるか?などの確認は必要です。(ちょっと頭の隅に置いておきましょう)

症例1は、多くのの誘導で下に凸なST上昇が見られ、PRの変化も見られ、Reciprocal change(ミラーイメージ)も見られません。 答:急性心膜炎



症例2 40歳 男性 健康診断で要精査

さて、この心電図はどうでしょうか? V1〜V6のST上昇、ⅡⅠⅡaVFも上昇しているようです。ⅡⅢV5V6のQRSの終わりごろにノッチのようなものもあります。

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よくみかける心電図ですよね。異常なし(正常範囲内)、早期再分極症候群と言います。症例1の心電図と比べてどうでしょうか?解剖学的な分布と異なった誘導、下に凸のST上昇を認め、急性心筋炎と同じような心電図ですよね。鑑別のポイントは、J波を伴うことが多く(心筋梗塞にも、J波らしきものが見られることがあるので注意)T波が高いと言うことです。急性心筋炎では、普通のT波ですが、早期再分極では、T波は高く非対称にツンツンと尖ります。(対称性に尖るのは、高カリウム血症)また、副交感神経が有意な時に起こりやすいので、運動負荷により頻脈になり、副交感神経が抑制されるとJ波やSTの上昇は消失します。通常の臨床では、胸が痛くないので迷うはずはありません。早期再分極の特徴は、若い男性に多い、前胸部誘導に多い(四肢誘導だけに出ることはない)昔の心電図があれば、比べてみれば一目瞭然です。

昔は、これでちゃんちゃんと終わりのはずでしたが・・・。

早期再分極は、病的な意義はない良性の所見と長らく考えられてきましたが、近年、Brugada症候群と同様に、心室細動や突然死との関与が指摘されています。日本循環器学会のガイドラインでは、早期再分極は健常者(特に若年男性)にも比較的高頻度(3~ 13%)で認められ、特異度が低すぎるため(1)下壁誘導にJ波(ノッチ)を伴う早期再分極(特に 0.2mV 以上)(2)ST 上昇が下壁と側壁誘導の双方に認められ、かつ失神・めまい・動悸等重症な不整脈を疑わせる症状、または若年~中年者の突然死の家族歴がある場合に電気生理検査によるリスク評価の意義はあるとしています。

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 J波
12誘導心電図のIIIIIaVFV5V6のQRS波の終末部に注目してみると、小さなノッチが認められます。この小さく鈍なノッチは,J波と呼ばれています。(J波が記録される誘導は、下壁誘導(II,III,aVF)または側壁誘導(I,aVL,V4, V5,V6)です。低体温時に記録される場合はOsborn波とも呼ばれる)J波やST上昇は、V4あたりで最大の事が多く(ノッチやスラー、分裂などの成因として、電気的ベクトルを直角方向から見ている移行帯付近で見られやすい)健常者にもJ波が約2%認められますが、J波が認められる特発性心室細動の患者は,若い男性に多いことと報告されています。J波はQRS波の終末部であるため、脱分極異常ではなく,再分極異常なのかもしれません。

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ちなみに、症例自体はフィクションですので、あしからず。




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頭蓋内圧亢進
Cerebral T

「胸が痛い」の鑑別診断

胸郭出口症候群

縦隔気腫

前胸部痛、頸部/上肢への放散痛、皮下気腫

たこつぼ心筋症

心尖部の収縮低下と代償性の心基部過収縮を特徴とする心筋障害。高齢の女性に多く、精神的ストレスや身体的侵襲を契機に、心筋梗塞に類似した胸痛、呼吸困難を呈する。心電図変化は、発症直後にはST上昇や異常Q波がみられることがあり、その後、典型例では、広範な誘導でT波が陰転し、次第に陰性部分が深くなり、QT延長を伴う。予後良好で死亡率は0〜8%、1〜4週間以内に正常の心機能に回復する。