呼吸器

人工呼吸器

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多系統萎縮症の患者さんが肺炎になり、病院で人工呼吸器管理から離脱することができず、人工呼吸器をつけたまま、在宅に返ってくることになりました。患者さんは、自発呼吸はありますが、1回換気量が少ないのと、夜間に呼吸停止があるようです。10年以上、人工呼吸器というものから遠ざかっているので少々不安ではありますが、嫌ともいえません。退院時カンファレンス(在宅サービス担当者会議も)で、人工呼吸器の説明会もあるということで、出席しました。今回、在宅で使用される人工呼吸器は、フィリップスのトリロジー、大型カラーディスプレイと一本のメイン回路だけのコンパクトなデザイン。(人工呼吸器の組み立てで、一番気をつかう回部の部分の呼気弁や加湿器がない)軽量(5.6kg)で、内部バッテリと着脱式のバッテリにより最大6時間移動可能、そのまま持って救急車にも乗れる優れものです。


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この機会にちょっと人工呼吸器の復習です。

人工呼吸の目的は、酸素化の改善適切な換気量の維持呼吸仕事量の軽減です。酸素化の改善は重症の肺炎などで酸素が足りない時など、換気の改善はCOPDなどでCO2ナルコーシス時など、呼吸仕事量の軽減は気管支喘息などでゼイゼイ呼吸困難感が強い時などです。

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酸素化とは、空気中の酸素を呼吸により血液中に取り込む能力のことです。患者さんの酸素化の状況を調べるのに、正確には、PaO2(動脈血酸素分圧)を調べなければなりませんが、毎回動脈血採血をするわけにはいかないので、普段はSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を見て評価しています。

SpO2とPaO2は、ある程度(ある範囲内では)相関するので、SpO2で代用できるわけですが、PaO2が100を超えると200でも300、500、1000でもSpO2は100()以上は上がりません。たとえば、呼吸状態が悪く、高濃度酸素を吸っていると、PaO2が200、SpO2が100%でも酸素化がうまくできているかどうかは、PF比FiO2(吸入酸素濃度)に対するPaO2の上がり具合を見ないと評価できません。

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PF比=PaO2/FiO2(正常値は400以上)PF比が300以下が人工呼吸器の適応です。

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人工呼吸器の設定

換気モードは、自発呼吸があれば、PSV(Pressure support ventilation)自発呼吸モードにします。自発呼吸がないか、少ない場合は、強制換気モードSIMV (Synchronized intermittent mandatory ventilation) 同期的間欠的強制呼吸に設定します。SIMVは、自発呼吸をトリガーに設定回数の強制換気 自発呼吸がないもしくは、設定回数以下の呼吸の場合も、設定回数の強制換気、つまり間引き運転します。

A/C(Assist/Control)も強制換気モードです。SIMVとの違いは、自発呼吸が30回あれば、たとえ頻呼吸であっても30回しっかり設定換気量のアシストを行います。ちょっとやり過ぎ感ありますが、患者さんにとっては、アシストしたりしなかったりされるよりは、安心感もあるようです。どちらが優れているかはわかっていません。

最近は、PCV:従圧式(圧と時間を設定)がブームのようですが、1回換気量が低下してもわかりにくく、人工呼吸器を使い慣れた人が使うのはOKですが、われわれ素人は、1回換気量を設定し、しっかり換気ができるVCV:従量式が安心です。(気道内圧が上昇についてはアラームを設定)

換気は、呼吸によって血液中の二酸化炭素を排出することです。PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)は、分時換気量で調節(1回換気量と呼吸回数)します。1回換気量は、体格(身長からの予想体重)から計算します(8〜10cc/kg)呼吸回数は10〜12回/分で設定。


とりあえずは、FiO2=100%で開始しますが、ずっと高濃度酸素で行くのは有益ではありません。SpO2と血ガス、気道内圧波形を見ながら調整します。FiO2を必要以上に高くしないよう、SpO2を95%ぐらいにしておくと、酸素化の状況も把握しやすく、吸収性無気肺を予防できます。

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酸素化を改善するもうひとつの方法は、PEEP(Positive end expiratory pressure)です。PEEPは、よく肺を風船に例えますよね。呼気終末に少しだけ圧をかけて肺胞を虚脱させないように膨らませておくことで、酸素化を補助します。また、一回ぺちゃんこになってしまった風船(虚脱した風船)を膨らますには、大きな圧力がいります。でも、少しだけ膨らました状態で風船を保っておくと、あとから膨らますときに小さな力で膨らますことができます。呼吸仕事量を減らすこともできます。

FiO2に併せて、適切なPEEPを設定します。

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気道内圧波形

最高気道内圧 気道抵抗が大きくなる(気管支喘息、COPDなど)閉塞性肺疾患は、Auto PEEPに注意が必要です。

プラトー圧 肺胞にかかっている圧(肺の固さ 無気肺、肺線維症、ARDS、胸水など)30cmH2Oを超えないように、1回換気量を6cc/kgに落とすこと。


気管吸引で気管分泌物の吸引できる部位は、気管分岐部(主気管支)です。それより末梢部は、体位ドレナージ、加湿にて主気管支まで痰を誘導します。最近は、閉鎖式の吸引システムが登場してきました。吸引圧は−150〜−200mmHg(−20〜−25kPa)に設定して、吸引時間は、10〜15秒で行います。

人工鼻は、簡便ですが、痰が粘稠ですぐに汚れてしまうような場合は、気道内圧の上昇の原因になったり、適切な加湿効果が得られない場合もあります。

カフアシスト(Cough Assist)

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非侵襲的に気道に陽圧をかけて肺に空気をたくさん入れた後に、陰圧で吸引するように息を吐き出させることで、咳の介助をして排痰の補助を行うことで、気道内分泌物を除去するのを助けます。マスクでも(コミュニケーションがとれて、協力の得られる方でないと困難)気管切開からでも、院内での気管内挿管の方でも使用できます。カフアシストは、通常の吸引のみより苦痛が少なく一度に多量の痰を吸引でき、短時間で効率よく排痰でき、吸引の頻度が減り、咳の努力による疲労を軽減する、介助負担が軽減する、肺炎になりにくい、緊急入院が減るなどの効果が報告されています。

適応となる疾患は、主にALSや筋ジストロフィー、高位頚髄損傷、SMA(脊髄性筋萎縮症)などの神経筋疾患の患者さんです。基本的には、咳をする力が弱くなったことで排痰が困難になっているCOPDなどにも使用可能です。(前回の改訂から適応が広がった)また、風邪をひいて、痰の量が多くなったり、咳をする体力が低下してしまった時に、一時的に必要となる場合もあります。使用するのが難しい方は、肺に高い圧力をかけると気胸の危険があるような肺の障害を持っておられたり、循環動態が不安定な患者様です。

カフアシストは、咳を補助して肺や気道をきれいにする以外にも、深呼吸の代わりにもなり、肺や胸郭を柔らかく保つ運動にもなる(リハビリ)鼻水を吸い出したり、誤嚥による気管内異物(喉詰め)の除去する掃除機がわりのように、さまざまな呼吸のトラブルに効果を発揮します。