ビタミン外来

ビタミン外来にお越しいただきありがとうございます。まず、始めに、当外来は決してサプリメントを勧める外来ではありません。私自身は、サプリメント否定派なので、どちらかと言うとサプリメントは止めさせるための外来です。そのサプリメントは本当に必要ですか、飲んでいるお薬との飲み合わせは大丈夫ですか、たくさん飲んでいるサプリメントをいっしょに整理しましょうという試みを始めたわけです。サプリメントを飲むなといっても患者さんは無口になって地下に潜るだけです。リアワールドでは、セックスはダメ、携帯はダメと叫ぶだけでは何の解決にもなりません。サプリメントも同じです。彼を知り己を知れば百戦殆うからずです。正しい知識を学んで、ルールを決めて対処するのが現実的です。私は、サプリメントアドバイザーとしては、異端児です。日本のサプリメント市場の現状を知ってもらって、サプリメントの選び方を説明した上で、5000円/月ぐらいにしておきましょうというあたりで折り合いをつけています。また、どうせサプリメントを飲むなら質の悪いEPAを飲むより「エパデール」お勧めしますって感じでやっています。

伊藤浩先生の「エパデールはサプリメントです」という迷言は、僕の琴線に触れたというか、目からうろこが落ちたというか、本当に衝撃の一言でした。「愛の反対は憎しみではなく無関心です」マザー・テレサの深い名言にもありますが、サプリメントの情報がこれだけ世の中に悪意に満ちて溢れていて、自分の目に入っていたはずなのに、患者さんが沢山使っているのも知っていたはずだったにもかかわらず、不思議なものですね。本当に興味がないというか無関心ほど恐ろしいものはありませんね。私が「サプリメント」について勉強しようと思ったきっかけは、怪しげなまゆつばものの医薬品として見ていたエパデールと言う薬を、最高級のサプリメントとして認識したからです。

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エパデールという持田製薬が売っているお薬があります。青身魚に多く含まれているEPA(イコサペント酸)を製剤化したものです。高脂血症に効く「薬」として宣伝されていましたが、”まゆつば”ものと相手にしておりませんでしたが、2007年にLANCET(医学界では、結構有名な雑誌)にJELIS(高脂血症に対する長期的な治療効果を検討した大規模臨床試験)が発表され、2次予防症例では、主要な冠動脈イベントの発症リスクは19%有意に減少すると報告されました。

 

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文献を詳細に吟味すると結構きわどいので、まだまだ半信半疑でしたが、MRさんの顔も建てて、宿泊付きの大阪で講演会に、お買い物がてら出席しました。伊藤浩先生(岡山大学循環器内科教授)の講演で2gも3gも飲む薬はありません。「エパデールは、サプリメントです」きっぱり言われた瞬間からもやもやが晴れました。患者さんが、サプリメント、健康食品等々いろいろ飲んでいることは、知っておりましたが、外来診療では、お互いに臭いものに蓋という感じで、話の弾みで出てきたとしてもそれとなくやり過ごすことが暗黙の了解でした。僕自信、サプリメント?たるものに全く興味がないし、たとえ目くじら建ててやめろと言っても、地下に潜るだけです。こんな安い(保険が使える)根拠がはっきりと示されたサプリメント(99%高純度EPA)を使わない手はありません。ちょっと、サプリメントを勉強してみようかと思ったわけです。伊藤先生曰く「栄養学では常識でも、医者は何も知らないエパデールの勉強をするために、脂質代謝の基礎を栄養学の専門家に教えを請いに行って、自分のあまりにも無知さに驚かされたとおっしゃっていました。やはり医学会という狭い狭い世界にいると回りがなにも見えていない井の中の蛙なんですよね。健康に一番大事な栄養についても知っているつもり・・・が。やっぱり餅は餅屋なんですよね。ちょっと、畑違いではありましたが、日本臨床栄養協会の門を叩き、サプリメントアドバイザーの資格をとりました。


サプリメント=健康食品?

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なぜ、今サプリメントなんでしょう。みんなが使っているからということもありますが、そもそも国の施策のひとつなんですよね。「アベノミクス」の成長戦略の目玉として、安倍首相自身が「健康食品の機能性表示を解禁します」と述べています。その根底には、皆保険制度における医療費が毎年1兆円を越えており、なんとかしなければならないという大きな流れの中で、セルフメディケーションの充実を図る「自分の健康は自分で守る」とは上手く言ったもので、国民にも受け入れやすい体裁にはなっていますが、本当のところは、生活習慣の改善であり、規則正しい生活、食事、睡眠、運動をと言わなければならないところを、なぜかそれがサプリメントにすり替えられています。市場規模は2兆円と言われているからでしょうか。

まず、サプリメントは食品なんです。薬ではありません。という前提を理解しておくことがたいへん重要です。日本においては、サプリメントという用語には、そもそも定義がありません。一般的には「広く健康の保持増進に資する食品」として販売、利用されているもの全般を指しています。ちなみに、アメリカ合衆国ではサプリメントとは食品の区分の一つであるダイエタリー・サプリメント (dietary supplement) の訳語で(略称はサプリ:本来は補充する補完するという意味)ビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養補給を補助することやハーブなどの成分による薬効の発揮が目的である栄養補助食品で、カプセルや錠剤、液体、粉末などの形態をしているもの(一般の食品形態でない)と定義されています。これに準じて解釈すれば、広い意味でサプリメントも健康食品のひとつと考えられます。また、我が国では健康食品やサプリメントという用語以外にも栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品、栄養強化食品、栄養調整食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品など様々な名称の食品があります。これらは、その時代の行政が使った法律上の用語であったり、各団体が勝手に提唱した名称であったりして混乱を招く原因となっています。

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とりあえずは、これらを整理してみましょう。まず、特別用途食品は、消費者庁の審査で医学・栄養学的な配慮が必要な人の発育や健康の保持・回復に適すると認められて、特別な用途の表示が許可された食品です。次に、一定の条件を満たしている食品については保健機能食品として特定保健用食品と栄養機能食品があります。特定保健用食品(いわゆるトクホ)は、食品の持つ「特定の保健の用途」を表示して販売される食品で、製品ごとに食品の有効性や安全性について消費者庁の審査を受けて認可される必要があります。また、一定の有効性が確認されたものは条件付き特定保健用食品(許可マークに「条件付き」と書かれています)として認可されます。栄養機能食品は、身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分の補給、補完を目的に利用される食品で、12種類のビタミン(A、B1、B2、B6、B12、C、E、D、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)5種類のミネラル(鉄、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅)の含有量が国の基準を満たしている(1日当たりの摂取目安量の上限値と下限値の範囲内)製品に定められた栄養機能表示を付け、消費者庁の審査なしで販売することができます。

そして、2015年4月から安倍首相肝いりの規制緩和の第3の制度として「機能性表示食品」が導入されました。農林水産省や企業(事業者)の責任において自らが人で立証した実験データや集めた論文など科学的根拠を消費者庁に届け出ることで(届けられた情報は消費者庁のウェブサイトに公開されます)これまで薬事法に基づいた医薬品にしか認められていなかった体の部位への効能を具体的に「目の調子を整える」「免疫強化」など表示することが可能になることで(病気の治療に有効との表現は認めらません)あいまいな表現で体の部位に効くような印象を与える科学的根拠がない広告の取り締まりとセットで行えるようにしました。また「特定保健用食品」や「栄養機能食品」とは異なり、野菜や加工食品など食品全般について健康の維持・増進の機能性が表示できる意味は大きいかもしれません。

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特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)以外のサプリメント(健康食品)は、有効成分やその効果は実証されていません。

 

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医薬部外品

薬用歯磨き剤、制汗スプレー、薬用クリーム、ベビーパウダー、育毛剤、染毛剤、入浴剤、薬用化粧品、薬用石けん、容器をひっくり返して見てみて下さい。「医薬部外品」と四角い囲い付きで表示されているでしょう。医薬部外品とは、医薬品ではないが、医薬品に準ずるもので、効果・効能が認められた成分は配合されているが、それは積極的に病気やケガなどを治すものではなく、予防に重点を置かれたものといえる。このように、ふだん私たちが口にするクスリや、肌に直接つける化粧品などは「薬事法」という厳しい法律によって、原料から製造方法、ラベルに表示しなければならない内容や、広告の表現までキメ細かく規制されています。「薬事法」という法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療用具の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。 つまり、主に「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療器具」の4種について、安全性と体への有効性を確保するための法律ということです。「医薬品」とは、文字通り、病院で医師が処方してくれるクスリや、薬局・薬店で市販されている風邪薬や頭痛薬などのこと。 配合されている有効成分の効果が認められており、病気の治療や予防に使われるクスリを指します。「化粧品」はわかりますよね。「医療用具」とは、メガネ、コンタクトレンズ、体温計、補聴器、磁気治療器、電気マッサージ器などが含まれます。薬事法には、いわゆるサプリメントや健康食品の規定はありません。いや、正確に言えば、食品として、主に食品衛生法により規制されています。



当たり前ですが、まずは食事です

三大栄養素って知ってますか。炭水化物、蛋白質、脂質の三つです。それに、ビタミン、ミネラルを足しての5種類を五大栄養素ともいいます。これらをバランス良く摂取できていると元気に暮らせるわけです。栄養が足りなくて具合が悪い方は、ちゃんと栄養をとると元気になります。だからいきなりサプリメントではないんですよね。まずは、規則正しい食生活ができているかが大事なんです。やはり基本は食事なんです。炭水化物、蛋白質、脂質の3大栄養素には「生命活動を維持するためのエネルギーを生産する」という共通の働きがあります。私たちの細胞の中に存在するミトコンドリアは、これらの栄養素を使って、生命活動に必要なATP(アデノシン三リン酸)という高いエネルギーを持つ物質を生み出しています。

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では、ビタミンやミネラルは、どういったところで働いているのでしょうか。体の中でいろいろな酵素のお手伝いとして働いています。たとえば、ブドウ糖が体の中でエネルギーに変わるのにどうやって反応していくのでしょうか。ブドウ糖は、解糖系でアセチルCoAになりますが、その間の化学反応に、マグネシウムやビタミンB群がなくてはならない存在です。

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その後、TCA回路に入っていきますが、ここでも沢山のビタミン類が酸化されたり、還元されたり大活躍、ATP産生に貢献しています。

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旬な野菜を食べましょう

でも、どうして食事で十分な栄養が摂れないのでしょうか?たとえば、野菜に含まれる鉄分やビタミンCの含有量を1950年代、1960年代、2000年代で比較してみると実はその野菜自身が「ミネラル、ビタミン不足」に陥っているのです。理由はいろいろあると思いますが、排泄物を肥料として使わなくなってしまって、現在の肥料は、窒素・リン・カリウムのみが入っているものが多く、土壌が変わってきてしまっていると言われています。例えば、ほうれん草は50年前と比べて鉄分が3分の2、ビタミンCは3分の1に減っているのです。

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ほうれんそうは、緑黄色野菜の中でも特に栄養価が高く、鉄分が多いほか、鉄分の吸収を高めるビタミンC、βカロテン、葉酸も豊富に含まれて造血作用があるので「貧血に悩んでいる人」や「どうも元気のでない」という時には最適の野菜です。ほうれん草は、現在は年間を通して手に入りますが、昔は冬しか売っていなかったのです。そうなんです。ほうれん草の栄養価が高まり、おいしさも増す旬の季節は冬なんです。夏のほうれん草は1ヶ月で成長するのに対して、真冬の最も寒い時期を過ごす2月のほうれん草は成長に3ヶ月もの時間がかかります。その分ゆっくりと土から栄養分を吸収し、たくさん栄養を得ることができ、耐寒のため養分濃度が高くなり、糖分やビタミンCの含有量が増加してより甘みも増して美味しくなるので、霜がおりるくらいの寒い季節が特におすすめです。上記のビタミンC含有量のデータは、1年中の平均値としているので、ちゃんと旬のものを摂れば、1950年代と遜色ないビタミンCを摂ることができるんです。

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私たちはミネラルを食事の中から摂るしかありません。しかし現代人は食べやすくするために、例えば玄米から白米、黒砂糖から白砂糖へとわざわざミネラル分を取り除いた食品にしてしまっています。また、欧米化した食事の増加によって脂肪、砂糖、動物性たんぱく質の摂りすぎと慢性的なビタミンとミネラルの不足に陥っているのです。いろいろなコンビニ弁当(加工食品)ほっかほっか弁当、冷凍食品、レトルト食品などは、便利ではありますが、実際に、ミネラルやビタミンの含有量を測定してみると、ほぼすべて全滅です。調理や加工の際に純水(逆浸透膜で濾過した水)で茹でているので、料理の途中でビタミンやミネラルが溶け出してしまうわけです。また、外食店やコンビニ弁当の調理では業務用サラダ油(ミネラル分が入っていると変色し長持ちしないため、ミネラル分を徹底的に削った油)を使っています。カット野菜もカルシウムの含有量はあまり変わりませんが、水にさらすことで、マグネシウムや鉄、亜鉛は激減してしまいます。



サプリメントにも優先順位を

健康については、きちんとした食事と運動がすべてなんですが、それでも難しいという場合に初めてサプリメントなんですよね。サプリメントにも優先順位があります。どんなサプリメントが必要なんでしょうか?体に絶対必要な物は、空気と水と三大栄養素とビタミン、ミネラルです。これは、大事なことです。目新しい素材ではなくて、誰もが知っているビタミンとミネラルです。車で言うと車体と燃料、タイヤ、ハンドル、アクセル、ブレーキってところでしょうか。パワーウインドやカーナビ、カーステレオは、魅力的なオプションですが、車が走るのには必要ありませんよね。やはりパンクやブレーキ不良、ガス欠を直すのが最優先なんです。ビタミンB1なかったらあっという間に脚気、ビタミンCがなかったら壊血病、鉄がなかったら貧血になってしまいますよね。だから重要度が全く違います。しじみ、スッポン、黒酢、にんにく、ハチミツ等々、たしかに体にいいのかもしれません。しかし、スッポンやにんにく苦手で食べない人もたくさんいますよね、セサミンなんて、一生食べなくてもなんともないんです。キノコの抽出物ってなにが入ってるんですか?牡蠣のエキスっはどうですか?こう書いてあったら、まず摂らなくてもいいかなと思います。いろんな新素材は魅力的かもしれませんが、仮説としては有用かも?いいんじゃないかなあって思っているというレベルです。本当に有用かどうかはわかりません。少なくとも生きていく上でそれでなければならないということはありません。

それにしても、本当にこれでもかと言うぐらいいろいろ目新しい商品が出てきます。商売なんですから当たり前と言えばそうなんですが、そんなうまい話はないことは重々承知で、本当かなと思いつつも手っ取り早い安易な手段に飛びついてしまって、好き勝手言っている業者さんにだまされてしまうんですね。オレオレ詐欺と同じ?と言ってら、法治国家として許される範囲で商売している業者さんには怒られてしまいますが、粗悪商品が横行しているのは、業界としてはどうなのかなと思いますよね。我が国の健康食品の85%は粗悪品です。時々、行政や消費生活センターなどが健康食品の実態調査などをやっていますが、健康の保持増進効果等の虚偽や誇大広告、不当表示による商品が後を絶ちません。規制がないからしかたないのですが、重篤な健康被害が出ない限り、山のようにあるサプリメントをこひとつひとつをしらみつぶしにうそだと証明していくことは、とても手間のかかる作業であり、現実的には不可能なんです。

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有効成分が入っていると宣伝されていても、実際は、その商品に含まれている量が効果がでる量よりずっと少ない場合もあります。まずは、品質が保証されているGMPマークがついているサプリメントを選びましょう。医薬品レベルで、品質管理しているサプリメントを業者は2%もないのが現状です。サプリメントはそもそも食品なので、そんなレベルでの管理は必要ないと言えばそうなんです。サプリメントを一般の人が食品と思って買っているなら問題ないのですが、薬?に近いものとして買っているならどうでしょうか。一般の人が自由に購入できて気楽に利用できるものとして「気休め」と自覚して、毒にも薬にもならないタイプの「健康食品」を飲むこと自体はあまり問題ないのかもしれませんが、サプリメントを飲んでいれば大丈夫だと思ってしまい、本当は診療が必要なのに病院に行きそびれてしまうとなると問題なんです。