アスピリン

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「痛み止め」って大事ですよね。みんな痛いのは嫌でしょう。医学の基本は、痛みからの解放です。
♪ 頭痛にバッファリン〜。頭にこびりついているフレーズですよね。さて、バッファリンってなにが入っているんでしょうか?

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一番最初にアセチルサリチル酸 330mgと書いてあります。これは、化学名です。一般的には「アスピリン」と呼ばれています。紀元前400年ごろ、ヒポクラテスはヤナギの樹皮を熱や痛みを軽減するために用い(サリチル酸)葉を分娩時の痛みを和らげるために使用していたという記録があります。しかし、胃腸障害が強く、飲めた物ではありません。1897年、ドイツのにバイエル社のフェリックス・ホフマンが、世界で初めて人工合成された医薬品で、1899年によって「アスピリン」の商標が登録され発売されました。代表的な消炎鎮痛剤の一つで非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)の代名詞とも言うべき医薬品です。1971年には、イギリスのジョン・ペインが抗血小板作用を見つけ、ノーベル賞を受賞しています。1985年、アメリカのFDAが脳梗塞、心筋梗塞の予防にアスピリンを承認しております。ちなみに、混同しがちですが、アスピリンは「ピリン系」のお薬ではありません。ピリン系の薬剤に対してアレルギーを持っている人がいるので注意が必要とされていて、アスピリンはピリン系薬剤と間違われやすく、アスピリンの箱には「ピリン系ではありません」とか書かれているものもあります。

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 バッファリンと小児用バッファリン
 アスピリンは、痛み止めの王様で、日本では、アスピリンと言えば、バッファリンのことだったんですが、現在は、もっと鎮痛作用の強いNSAIDsが出てきたり、大人の量330〜600mgとなると、粒は大きいは、副作用も増えるとかで、一番たくさん処方されているというわけでもありません。どちらかというと抗血小板薬として心筋梗塞などに小児用バッファリン81mgが使われていました。しかし、この小児用バッファリンは、小児科領域では、インフルエンザでの脳症の問題、ライ症候群(肝障害)という重大な副作用のため、川崎病など一部の疾患を除いては原則として使用されなくなりました。しかし、薬屋さんとしては、バッファリンという商標は捨てがたく、そのままバッファリンという名前のまま、小児用とかジュニア、キッズなどが付いているお薬は、アスピリン(アセチルサリチル酸)の代わりにアセトアミノフェンが入っています。大人用のアスピリンは、バイアスピリン錠として100mg錠があります。



アスピリンはどうして効くのでしょうか?

ちょっと難しい話で申し訳ありません。アラキドン酸カスケードと言われる経路があります。細胞膜リン脂質からできたアラキドン酸が代謝されて、PG:プロスタグランジン(痛みや発熱)やLT:ロイコトリエン(アレルギーや喘息)ができる2つの経路があるんですが、アスピリンやNSAIDsは、COX(シクロオキシゲナーゼ)をブロックしてプロスタグランジンの産生を抑制します。(もうひとつの経路で、ロイコトリエンがたくさん出来て、アスピリン喘息が起こることがあります)ちなみに、ステロイドはもうひとつ上流のホスホリパーゼA2をブロックします。だから、ステロイドも鎮痛解熱作用があり、LT(ロイコトリエン)の産生も抑制するので喘息にも効くのです。

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 アスピリンとNSAIDsの違い
 アスピリンもNSAIDsも、COX(シクロオキシゲナーゼ)をブロックしますが、ブロックの仕方が異なります。アスピリンはCOXを不可逆的(1回投与するとずっと効いている)にブロックしますが、NSAIDsは可逆的にブロックします。プロスタグランジンの仲間にTXA2:トロンボキサン(血小板凝集を促進)という物質があります。心筋梗塞などにアスピリンを投与する場合は、抗血小板作用(血栓抑制)の効果を期待しています。アスピリンを飲んでいる人が手術する時は、7〜10日前に休薬します。これは、血小板の寿命が1週間だからです。NSAIDsの場合は、可逆的なのでその日に中止でOKです。


アラキドン酸カスケードのCOXという酵素によって誘導されるプロスタグランジンという物質は、痛みや熱の原因となると共に、胃や腎臓を守るという、重要な働きを持っています。アスピリンと始めとするNSAIDs は、COXという酵素の働きを妨害することで、鎮痛解熱効果を現わしますが、プロスタグランジンの良い作用もブロックしてしまうことにより、胃潰瘍や腎機能低下の副作用が現われます。つまり、胃の粘膜には多量のプロスタグランジンが含まれていて、それが胃の粘膜を防御する重要な働きをしているのに、痛み止めがCOX を阻害して、胃の粘膜のプロスタグランジンを減らしてしまうのが、その主な原因だと考えられています。

心筋梗塞アスピリン

心筋梗塞を予防するために、欧米ではアスピリンとACE阻害薬、およびスタチン、これがいわば3種の神器と言われています。ここでは、アスピリンについてお話しします。

急性期治療および二次予防(ATTのメタアナリシス)として、抗血小板療法は(アスピリンと他の抗血小板薬)心筋梗塞および脳梗塞の急性期治療やその後の再発予防、血行再建術後の狭心症や脳・心血管イベント予防に有効であり、そのリスクを約20~30%低減できること証明されています。

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抗血小板薬による脳・心血管イベントの再発予防効果(二次予防)


アスピリンと他の抗血小板薬の比較検討(ATTのメタアナリシス)では、チクロピジンやクロピドグレルといったチエノピリジン系を含む他の抗血小板薬でも、アスピリンを明らかに上回る効果は認めらませんでした。

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アスピリンと他の抗血小板薬の脳・心血管イベント抑制効果の比較


アスピリンの1日投与量では、75~150mg/日以上で有意な効果が認められ(75mg/日未満の用量では効果が認められない)低用量であるほど消化管障害のリスクも軽減できることから、75~150mg/日が推奨されています。(脳梗塞や心筋梗塞の急性期など200~300mg程度の用量が必要)

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  アスピリンの用量別 脳・心血管イベント抑制効果 BMJ 2002

一次予防

アスピリンの脳・心血管イベント一次予防を検討した大規模臨床試験としては、British Male Doctor's Trial (BDT)、Physicians' Health Study (PHS)、Thrombosis Prevention Trial (TPT)、Hypertension Optimal Treatment (HOT)、Primary Prevention Project (PPP)、Women's Health Study (WHS)などがあります。

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イタリアの心血管イベントの危険因子を有する患者(高齢、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、心筋梗塞の家族歴のいずれか1つ以上)約4500人を対象とした(PPP)では、平均3.6年、アスピリン投与群では脳・心血管イベントが23%、心血管死が44%それぞれ有意に減少したため、倫理面から途中で中止されました。

メタアナリシスでも(合計約5.5万症例、平均4.5年追跡)が発表され、アスピリンにより心筋梗塞と血管死が28%抑制されることが確認されています。しかし、アスピリンの心筋梗塞の一次予防は、ちょっと微妙です。たしかに、心筋梗塞を予防できるとした報告が多いのですが、消化管出血の有意な増加に対する検討が不十分な気がします。疑う余地のなかった二次予防でさえ、対象患者の高齢化や抗凝固療法(NOAC)との併用などの臨床現場の複雑な状況変化の中で、消化器内科専門医、神経内科専門医の逆襲にあって、患者背景によっては、アスピリンが中止、変更されるようになってきています。

日本でも、動脈硬化症のリスクのある60歳以上のJPPP研究が行われました。14464人、アスピリン100mg 5.02年です。エンドポイントは、脳心血管イベントによる死亡です。結果は、全く差がありませんでした。非致死的な心筋梗塞や非致死的な脳卒中はやや減らしましたが、脳以外の出血を増やしていました。結局は、いいことをしているのかどうなのか?ってことです。アメリカのFDAもアスピリンによる一次予防はやめようと言っていますが、AHAなどは、OMIや年齢など特定のグループでは有用としています。

ワルファリンを中止すると約1%の頻度で重篤な血栓塞栓症を発症する。RE-LY Trial によると,ダビガトラン150 mg ×2 回/day 群,110 mg ×2 回/day 群およびワルファリン群における周術期の休薬時にヘパリンの橋渡し療法(ヘパリンブリッジ)がそれぞれ17.0 %,15.3 %,および28.5 %で行われている状況下で,虚血性脳卒中の発症率はそれぞれ0.39 %,0.40 %,0.39 %,虚血性脳卒中や全身性塞栓症,肺塞栓症,心血管死の複合エンドポイントの発症率はそれぞれ1.5 %,1.2 %,1.2 %であった
224).
抗血栓薬継続下での抜歯の安全性はランダム化比較試験や観察研究として報告されている。
2010 年には,わが国の歯科三学会合同の『科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン』が作成され,抜歯前72 時間以内にPT-INR を測定しPTINRが3.0 以下であることを確認し,ワルファリン療法継続下で抜歯を行うことが推奨された。新規経口抗凝固薬については十分なエビデンスは確立されていないが,ワルファリンに準じて継続下での抜歯が勧められる.ガイドラインや指針が作成されてきたが,今後も抗血栓療法継続下での安全な抜歯の基盤を構築するために,啓発活動,各学会間の調節,観察研究および医療連携が求められる

体表の小手術で,術後出血への対応が容易な場合は抜歯と同様の対策が望まれる。白内障手術時は,角膜や水晶体には血管がなく出血を伴いにくいことから,多くの眼科医が抗血栓療法継続下での手術を実践している。大手術の場合は,入院のうえ,ワルファリンを中止しヘパリンを開始する.ヘパリンはAPTT を対照の1.5~2.5 倍に延長するように投与量を調整する.手術の4~6 時間前にヘパリンを中止するかプロタミンでヘパリンの効果を中和し,術前にAPTT を確認する.術後は可及的すみやかにヘパリンとワルファリンを再開し,PT-INR が治療域に入ったらヘパリンを中止する.ダビガトランについては
30循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012 年度合同研究班報告)Ccr が50 mL/min 以上であれば1~2 日,30~49 mL/minであれば2~4 日間投与を中止し,中止12 時間後から必要に応じてヘパリン置換を行う.リバーロキサバンについては腎機能にかかわらず24 時間前の中止と必要に応じたヘパリン置換を行う.アピキサバンは出血のリスクに応じて24~48 時間の中止とへパリン置換を考慮する.抗血小板薬の投与を中止せざるをえない場合は,アスピリン,チクロピジンおよびクロピドグレルは術前7~14 日から中止,シロスタゾールは3日前から中止する143,236-239).その間,血栓や塞栓症のリスクの高い症例では脱水の回避,輸液,ヘパリンの投与を考慮する.長期の休薬を避けたい場合は,手術前にシロスタゾールなど中止期間の短いものに切り替えることが望ましい.抗血栓療法をできるだけ継続する立場から,抗血栓薬を中断する場合に半減期の短いヘパリンでのブリッジがしばしば行われる.ヘパリンはAPTT を対照の1.5~2.5 倍
に延長するよう投与量を調整することが多いが,非弁膜症性心房細動では1万U/dayが投与されることもある.最近,ペースメーカや除細動機器の植込み時に抗凝固薬を中止
しヘパリンでブリッジしたところ,ペースメーカポケット内の血腫などの出血性合併例が増加したことが報告された240,241).ヘパリンブリッジの有用性は確立していないが,
ヘパリンでブリッジする場合はヘパリンの用量管理を厳重に行うべきであろう.


アスピリンの再開

我々、かかりつけ医の場合は、生活習慣病を管理し、脳塞栓症、心筋梗塞を予防するために、抗血小板療法を行っているわけで、その副作用(実は正当な作用)で消化管出血を起こすと、大変申し訳ないのですが、我関せぬことも多いわけですが、知らない間に、消化器内科の先生に丸投げしているわけです。そこで、内視鏡で止血処置などお世話になっております。消化管出血の後に、なるべく早くアスピリンを再開するほうがいいかな?っとなんとなくはわかっていますが、せっかく苦労して止血したのに、治療を再開してまた再出血させると消化器内科の先生に合わせる顔もありません。さて、再開した方がいいのかそのまま様子を見た方がいいのでしょうか?

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2012年、日本消化器内視鏡学会の『抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン』が改訂され、内視鏡的粘膜生検や出血低危険度の消化器内視鏡(バルーン内視鏡,マーキング,消化管・膵管・胆管ステント留置術,内視鏡的乳頭バルーン拡張術)の場合には,抗血小板薬,抗凝固薬のいずれか1 剤を服用している場合には休薬なく施行してもよい。ワルファリンの場合は,PT-INR が通常の治療域であることを確認して生検する.2 剤以上を併用している場合には症例に応じて慎重な対応が求められ,抗凝固薬はヘパリン置換が原則である.出血高危険度の消化器内視鏡検査(ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術など)では,大手術に準じた一時的中止と必要に応じてヘパリン置換を行う。