RPR/TPHA

梅毒は、梅毒トレポネーマ(TP)の感染により発症する性感染症です。患部からの病原体を検出することは極めて難しく(TPは、初期硬結や硬性下疳、湿潤性第II期疹から検出可能ですが、感染後組織深部に入り込んでおり、手技も煩雑で検出率は悪いため、日常的には行われません)よって、TP感染により生体に産生される抗体を検出することで梅毒感染の有無を判定する血清反応によって診断します。

カルジオリピン(CL)抗原に対する抗体を検出する方法(STS:serologic test for syphilis)とトレポネーマ(TP:Treponema pallidum)抗原の菌体成分に対する抗体を検出する2つの方法があります。

トレポネーマ(TP)の菌体成分とカルジオリピンには、共通部分が認められ、TP感染時にはカルジオリピンに対する抗体も産生されるとされています。STSには、補体結合反応(緒方法,Wassermann反応)ガラス板法(沈降反応)とRPR(凝集反応)の3つの検査があります。古くはワッセルマンが報告した「ワッ氏法」は補体結合反応で手技が煩雑なため、現在では用いられていません(保険収載なし)ガラス板法は、ガラス板の上で抗原と血清を反応させて沈降を顕微鏡でみて判定します。RPR法は試験管内やカード等の上で抗原と血清を反応させて、凝集を機械や目視で判定します。現在では、類脂質抗原を感作させたラテックス凝集自動化法(RPR-LA法)が感度も高いため、RPR(RPRカードテスト、梅毒血清反応の迅速検査法)用いられています。STS法は、TPにより破壊された組織に存在するカルジオリピン様物質に対する自己抗体を検出するもので、直接的にTPと関係しているわけではないため、必ずしも梅毒に特異的ではなく、他の炎症性疾患や自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデス、特発性血小板減少性紫斑病、伝染性単核球症、肝炎、γグロブリン異常症、マラリア、妊娠など)梅毒以外の疾患でも陽性を示す生物学的偽陽性(BFP:Biological False Positive)が5~20%あります。BFPは20〜30歳の女性に多く、頻度は約1.6%とされ、BFPの抗体価は一般的に低値で,疾患の経過とともに陽性となったり,陰性となったりすることが多いのが特徴です。BFPと関連して近年注目されているのが抗リン脂質抗体症候群です。抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン-β-グリコプロテインI複合体抗体、ループスアンチコアグラント)は、動静脈血栓症や習慣流産などの原因となる自己抗体です。

一方、TP法は、TPそのものに対する抗体を検出するため,TP感染に特異的です。従来、TP抗体は主に凝集反応による測定試薬が使用され、動物の赤血球を用いたHA法やゼラチン粒子を用いたPA法、ラテックスを用いたLA法などがあり、それぞれTPHA、TPPA、TPLAと呼ばれ、または総称してTPHA(梅毒トレポネーマ血球凝集試験)と呼ばれています。しかし、現在では、TP抽出物を感作させたラテックス凝集自動化法(TPLA法)が主流となっており、TP粒子凝集法(TPPA法)FTA-ABS(蛍光トレポネーマ抗体吸収試験)など名前がややこしい。TPHA法やTPPA法、FTA-ABSは特異性が高く、偽陽性率は0.1~0.5%といわれています。(ハンセン病,伝染性単核球症,異好抗体など)

診断

梅毒の初感染では、約1週間でトレポネーマ(TP)に対するIgM抗体が産生され、その後IgG抗体が産生されます。梅毒が疑われる時には、2種類の抗体法を併用します。STSでは主にIgM、TPHAでは主にIgGが反応しているため、梅毒感染後2~5週でSTSが陽性となり、次いでFTA-ABS、2週間ほど遅れてTPHAが陽性となります。STSの反応の強さは病態や治療の経過を反映して変動し、治癒後に陰性化しやすいのするため、RPR法定性でスクリーニングし、陽性の場合は定量検査を行います。療後の効果判定にはRPR法定量を定期的に追跡して8倍以下に低下することを確認します。STSには生物学的偽陽性反応(BFP)がかなりの頻度でみられるので、確定診断にはTP抗原を用いる検査を組み合わせて診断することが重要です。

梅毒の経時的な臨床症状と検査の陽性率
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最新の測定試薬(CLIA法)はIgG抗体とIgM抗体を同時に検出し、高感度かつ高特異性です。TPLA法などは、TPHA法より感度が高いため,治療により完治しても陰性とならない症例もあります。

STS法とTPHA法の解釈
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STS法だけが陽性となる場合は,BFPが考えられます。STS法は,感染初期から陽性となり、しかも治療により陰性化するため,治療効果判定の指標としても使用されています。TP法とSTS法が陽性であれば梅毒感染と診断可能ですが、治療を特に行わなくても長時間経過した場合にもSTS法は陰性となります。TPHAやFTA-ABSは梅毒検査としては特異性は高いが、陽転後の抗体価の変動が少なく、治癒した後も陽性が持続するため、治療効果の判定に用いることは難しい。

未治療の感染後2年までの早期梅毒は最も感染力が強く、血液や体液を介して感染する恐れがあるので注意が必要です。治癒後は、微量の抗体が一生残存し血清反応陽性が続く例の多いこと、生物学的偽陽性のあることを十分に理解し、患者へ対応することを心がけましょう。