画像の説明

「多発性骨髄腫は、血液のがんの一種です」と言われても、まずは、名前が?ですよね。骨髄というのは、骨の内部にあるドロ〜としたところ(鶏ガラスープを煮る時に、骨を割ると真ん中あたりにゼリー状の組織があります)つまり場所の名前です。そこでは、血液細胞(白血球・赤血球・血小板)が作られていますが、ここで形質細胞ががん化してどんどん増殖して骨髄を破壊するのが骨髄腫です。通常は、全身の複数の骨で異常に増殖するので多発性骨髄腫と言います。

 

 

画像の説明

形質細胞(プラズマ細胞)とは?。白血球は顆粒球(骨髄球)とリンパ球からなり、リンパ球はB細胞、T細胞等に分類されます。B細胞の一部は成熟して形質細胞に分化し、免疫グロブリンという抗体を作り、細菌などの外敵の増殖を防ぐなどの免疫能に関与しています。

 
 

 

画像の説明

多発性骨髄腫とは、血液の三大悪性腫瘍(白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫)の1つで、骨髄の中にある形質細胞ががん化する病気です。わが国の骨髄腫の発症率は人口10万人あたり2人程度と言われており(悪性腫瘍の1%、造血器腫瘍の10%)年間約4500人の方が新たに多発性骨髄腫であると診断され、患者数は約1万です。発症年齢は、40歳未満の発症は極めて稀で、50歳を過ぎると加速的に増えていき、60歳代がピーク、高齢者になるにつれて多くなります。

 



臨床症状

多発性骨髄腫は、初期ではほとんど症状がでないことが一般的で、健康診断(血液検査で貧血や蛋白を調べる)などで、偶然見つかるケースもしばしばありますが、病状がある程度進行すると、様々な症状が現れてきます。多発性骨髄腫の患者さんにいちばん多くみられる症状は骨の痛みで、約6割の患者さんが腰痛を訴えて整形外科や内科を受診されます。

多発性骨髄腫では多彩な症状が現れますが、代表的な症状(三大症状)としては、
①造血抑制により血球(赤血球、血小板、白血球)が減少し、貧血や出血などの症状が起こる。
②M蛋白が大量に作られることで、免疫機能の低下、腎臓機能の低下、血液循環の障害などが起こる。
③骨に障害が起こり、腰痛が起きたり、骨折しやすくなる。

画像の説明

骨髄腫細胞は骨髄(血液の工場)の中でどんどん増え続け、しだいに正常な造血細胞(血液をつくる細胞)を押しのけてしまいます。その結果、正常な血液が造る場所がなくなり、血球が減少します。赤血球が減ると貧血(めまい、息切れや動悸、易疲労感など)の症状が表れます。血小板が減ると血が止まらなくなって出血(青あざ、鼻血、歯茎からの出血など)が起こります。また、白血球が減ると、抵抗力が落ちて、肺炎や尿路感染などの感染症にかかりやすくなります。

多発性骨髄腫では、役に立たない異常な抗体(M蛋白)が大量に生産されることで、正常な免疫グロブリンの量が減少してしまいますので、免疫力が低下して感染症(特に肺炎、尿路感染症)などにかかりやすくなります。また、M蛋白が大量に増えると血液は粘性が高くなり、循環が悪くなります。これは過粘稠度症候群と呼ばれ、頭痛や眼が見えにくい等の症状を起こします。さらにM蛋白の一部が変性し、消化管や腎臓、心臓、神経等の組織に沈着することがあります。この病態はアミロイドーシスと呼ばれ、沈着した臓器の機能を低下させることになります。例えば、このM蛋白が腎臓に沈着し(アミロイドと言う物質になる)腎臓の機能が低下し浮腫が起こります。また、患者さんによっては特殊なM蛋白(ベンスジョーンズ蛋白:BJP )をもっている場合がありますが、これは通常のM蛋白より小さいため、糸球体から尿として出て尿細管につまってしまい、腎臓の機能が悪くなることがあります。

造血抑制による血球減少は白血病などでもみられますが、骨に障害が起こるのは多発性骨髄腫に特徴的な症状です。多発性骨髄腫では、破骨細胞を刺激し、どんどん骨が溶けていきます。また、骨の中の骨髄にある形質細胞ががん化し増殖しますので、骨の内側をもろくなって、腰・背中・胸・手足などの骨の痛み(運動をすると増悪)や軽くぶつけたり、くしゃみしただけでも骨折(病的骨折)を引き起こします。椎骨圧迫骨折、腫瘤による脊髄圧迫症状として、手足のしびれや麻痺、排尿や排便障害等の症状が起こります。また、骨の破壊が進むと、骨からカルシウムが溶け出すことによって血液中のカルシウムが増え(高カルシウム血症)、多飲、多尿、口の渇き、便秘、悪心、嘔吐、精神障害、意識障害などが現れることがあります。

検査と診断

画像の説明

血液検査では、CBC(貧血や血小板)や免疫グロブリン、M蛋白、LDH、BUN、Cr、Ca、アルブミン、β2グロブリンなどを調べます。尿検査では、M蛋白の一つであるベンスジョーンズ蛋白(BJP )の有無を調べます。骨髄穿刺をして、顕微鏡で骨髄腫細胞の種類、マーカー、悪性度などを判定します。画像検査では、X線写真で頭蓋骨や四肢骨、肋骨、脊椎骨などにある円形の孔病的骨折などの有無を調べます。(打ち抜き像や骨折は、77%に認める)CTやMRIでは、全身への広がりをチェックします。

多発性骨髄腫は病型や症状や進行度より、いくつかに分類されています。(IMWG分類(International Myeloma Working Group:国際骨髄腫ワーキングループ))無症候性(くすぶり型)や類縁疾患である単クローン性γグロブリン血症(MGUS)は、臓器障害を伴いません。最も患者数が多いのが症候性骨髄腫で、高カルシウム血症・貧血・腎障害・骨病変などを認めるもので、化学療法を中心とした治療が行われます。

画像の説明

病期(ステージ)とは、がんの進行の程度を示す言葉で、多発性骨髄腫は、骨髄腫細胞(がん化した形質細胞)数、貧血、高カルシウム血症、骨の異常、M蛋白の量、その後の経過を左右する血清β2ミクログロブリンと血清アルブミンなどによって総合的に判断されて、Ⅰ〜Ⅲの3段階に分けられます。Ⅰ期は、症状のなく、経過観察のみで治療の必要はありません。

 
 

 

多発性骨髄腫を根治させる治療法はいまだ確立されておらず、約60%の患者で症状の緩和や進行を遅らせることができています。放射線療法は、骨の痛みなどの症状を緩和させるために行われることがあります。

画像の説明

初期治療は、患者さんの年齢、全身状態(Performance Status:PS)合併症の有無、患者さんとその家族の意志等を考慮して、化学療法か自己移植かを選択します。造血幹細胞移植は、4~5年延命できるとされていますが、体力的な負担も大きいので、比較的若い患者(65歳以下)のみ適用になります。

化学療法の標準治療は、メルファラン/プレドニゾロン(MP)療法が推奨されますが、腎障害や骨病変、全身状態が悪い場合は、奏功率が高く効果発現が早いVAD療法(ビンクリスチン/アドリアマイシン/デキサメタゾン)が推奨されます。また、無効、再発例には、より治療効果が高い新薬(ベルケイド/デキサメサゾン)を用いたBD療法が行われます。多発性骨髄腫の治療後の平均生存期間は3~4年で、5年生存率はステージⅢで約50%、主な死因は、免疫力が低下することによる感染症や腎不全の合併となっています。